仮面ライダーオメガ 第27話

 

 

 人々が待ちに待った皆既日食の日が訪れた。光輝もこの日食を楽しみにしていた。

「いやぁ、皆既日食・・楽しみだなぁ・・」

「もう、光輝ったら、はしゃいじゃって・・」

 有頂天になっている光輝に、くるみが呆れる。

「あの、光輝さん・・日食って何ですか・・・?」

 そこでヒカルが光輝たちに質問を投げかけてきた。彼女にとって初めて聞く言葉だった。

 その質問に答えたのはくるみだった。

「あたしたちのいるこの地球は、自転しながら太陽の周りを回ってるの。地球と太陽の間には月があって・・地球と月と太陽が一直線に並ぶと、地球から見たら太陽が月に隠れて見えなくなっちゃうの。月は昼間は見えないけど、並ぶと太陽の光がさえぎられてしまう。その光が入らなくなって、少しの間夜みたいに暗くなる。それが皆既日食よ・・」

「すごいです・・そんなことが起こるんですね・・・」

 くるみの説明を聞いて、ヒカルが感心の笑みを浮かべる。

「滅多に起きるものじゃないんだけどね・・だからこそ楽しみになるんじゃないかな・・」

 くるみの言葉にヒカルが頷く。期待を胸に秘めるヒカルに、光輝も微笑んで頷いていた。

「さーて、そろそろ日食の予定の時間になるね・・・」

 光輝が喜びを浮かべ、その姿にくるみが呆れる。

「キャアッ!」

 そのとき、どこからか悲鳴が飛び込んできた。振り返った光輝たちが、逃げ惑う人々の姿を目撃する。

「もしかしてガルヴォルス・・こんな大事なときに!」

 光輝が不満を口にしながら、現場に向かっていく。近くの河川敷では、ネコに似た怪物が暴れまわっていた。

「やっぱりガルヴォルス・・・変身!」

 光輝が水晶をベルトにセットしてオメガに変身し、キャットガルヴォルスの前に立ちはだかる。

「仮面ライダーオメガ!」

 高らかに名乗る光輝がキャットガルヴォルスに向かって飛びかかる。だが、キャットガルヴォルスは素早い動きでかく乱してくる。

「速い・・太一くんならうまく切り抜けられそうだけど・・・!」

 キャットガルヴォルスの速さに毒づく光輝。爪の攻撃に斬りつけられて、オメガの装甲から火花が散る。

 そのとき、青空で輝いていた太陽が欠け始めた。皆既日食の開始によって、太陽が月にさえぎられてきたのである。

「もう始まってしまった・・・」

 日食が始まったことに気まずさを覚える光輝。空は太陽の光が失われて、徐々に暗闇が広がってきていた。

「・・そうだ・・この暗闇を利用すれば・・・」

 思い立った光輝がキャットガルヴォルスとの距離を取る。やがて日食によって太陽が完全に隠れてしまい、周囲は暗闇に包まれた。

 その闇で光輝を見失うキャットガルヴォルス。周囲を見回してみるが、日食の闇で光輝の姿を見つけることができなくなってしまっていた。

 相手の位置が分からず、落ち着きがなくなってくるキャットガルヴォルス。警戒心を強めながら、ガルヴォルスは徐々に後ずさりしていく。

 だがそのとき、キャットガルヴォルスが後ろから捕まえられる。暗闇に紛れて、光輝がキャットガルヴォルスを捕まえた。

「捕まえたぞ・・メガフラッシャー!」

 光輝が叫ぶと、ベルトの水晶から閃光が放出される。至近距離からエネルギーを浴びて、キャットガルヴォルスが痛烈なダメージを受ける。

 消耗したキャットガルヴォルス。光輝は間髪置かずに、ベルトの水晶を右足の脚部にセットして飛び上がる。

「ライダーキック!」

 光輝が繰り出したメガスマッシャーが、キャットガルヴォルスの体に叩き込まれる。吹き飛ばされたキャットガルヴォルスが絶命し、肉体を崩壊させて消滅した。

 戦いを終えて着地する光輝。その直後、隠れていた太陽が再びその光を照らし出してきた。

「日食・・見逃してしまった・・・」

 日食を見られなかったことを後悔しながら、光輝はオメガへの変身を解除する。彼は気落ちしたまま、ヒカルとくるみの前に戻ってくる。

「ガルヴォルスは・・?」

 くるみが光輝に声をかけてくる。

「倒したには倒したけど・・日食を見逃しちゃったよ・・・」

「タイミングが悪かったですね・・私とくるみさんは、何とか見ることができましたけど、光輝さんのことが心配で・・・」

 答える光輝に、ヒカルが沈痛の面持ちを浮かべる。すると光輝が苦笑いを見せてきた。

「ヒカルちゃんが気にすることじゃないよ・・それに、みんなを守れたことが何よりだからね・・・」

「光輝さん・・そうですね・・みんなが無事であることを、心から喜ばないといけないですよね・・・」

 光輝の言葉を受けて、ヒカルも笑顔を取り戻した。

「あ〜あ、皆既日食の雰囲気、台無し・・」

 2人のやり取りに呆れて、くるみは肩を落としていた。

「もういいわよ・・戻るわよ、光輝、ヒカルちゃん・・」

「うん・・」

「分かりました・・・」

 くるみの呼びかけに光輝とヒカルが頷く。解散する人々に続いて、3人も家路についていった。

 その途中、ヒカルはふと足を止めた。彼女は日食が過ぎて輝きを再び見せていた太陽を見上げていた。

 その太陽に点在する黒点。それが肉眼ではっきり見えるほどの大きさになっていた。

「あの点・・太陽にあんなもの・・・」

 その黒点に不安を覚えるヒカル。彼女はその黒点が何かの前兆ではないかと直感していた。

「ヒカルちゃん、どうしたの?」

 そこへ光輝に声をかけられ、我に返るヒカル。

「ううん、何でもないです・・・」

 微笑んで首を横に振るヒカルが、光輝とくるみを追いかけていく。しかしその黒点が、これから起きる恐るべき事件の序章であることを、光輝ですら知る由もなかった。

 

 その日の夜、ヒカルは夢を見ていた。とても異質な夢であった。

 ヒカルは今、異質な空間の中にいた、オーロラのように周囲が歪んでおり、どういう場所なのかも判別することもできなかった。

「ここはいったい・・私は・・・?」

 不安の色を隠せなくなるヒカル。その恐怖心を拭おうと、彼女はおもむろに歩き出していく。

「光輝さん・・くるみさん・・・誰かいませんか・・・?」

 声をかけるヒカルだが、光輝もくるみも現れない。不安が一気に押し寄せて、ヒカルは足を止めた。

「ここにいたみたいだねー♪」

「探すのにちょっと苦労しちゃったよー♪」

 そこへどこからか声がかかり、ヒカルが周囲を見回す。すると彼女に向かって3匹のコウモリが飛んできた。それぞれ青、赤、黄色の体色だが、機械的な様相は共通していた。

「コ、コウモリ!?・・でもコウモリにしては少し違うような・・・」

 驚きの声を上げるヒカルだが、3匹のコウモリに対して違和感を覚える。

「はじめましてー♪私はキバット3姉妹の長女、キバラン♪」

「私はキバリン♪」

「キバルンだよ♪よろしくね♪」

 コウモリの3姉妹、キバラン、キバリン、キバルンが明るく声をかけてくる。

「ここはどこなの?・・私はどうしてここに・・・?」

「ここは世界と世界をつなぐトンネル・・」

「私たちが空間を歪めてトンネルを作ったのよー♪」

 ヒカルが投げかけた疑問に、キバランとキバリンが答える。

「あなたにだけは特別に、これから起こる出来事を見せてあげる・・」

 キバルンが言いかけたとき、ヒカルの眼前の空間から光が放出される。その光のまぶしさに彼女が目をくらまされる。

 ヒカルたちの前に、新たなる光景が広がっていった。

 

 汽笛が鳴り響く埠頭の真ん中に、ヒカルとキバランたちはいた。周囲を見回すヒカルだが、人の姿は見られなかった。

「ここでまず最初のショーが始まるよ・・」

「こんなところで・・何が起こるのですか・・・?」

 声をかけてきたキバランに、ヒカルが不安を覚える。

 そのとき、ヒカルたちの近くの壁が突如弾け飛んだ。そこからサイに似た怪物が飛び出してきた。

「怪物!?・・・ガルヴォルスとは違う・・・!?

「あれはゴルゴムの怪人だよ・・」

 声を荒げるヒカルに、キバルンが答える。さらに1人の男が飛び出してきた。黒い体と赤い複眼が特徴の仮面の戦士だった。

「あれは・・仮面ライダー・・・!?

「そう、仮面ライダー・・仮面ライダーBLACK・・・」

 緊迫を覚えるヒカルにキバリンが答える。

 (みなみ)光太郎(こうたろう)。仮面ライダーBLACK。日食の日に生まれた彼は、暗黒結社「ゴルゴム」によって世紀王「ブラックサン」として改造された。だが脳改造を施される前にゴルゴム本拠地を脱出。「仮面ライダーBLACK」として自由と平和を守るために、ゴルゴムと戦い続けた。

 BLACKは今、ゴルゴムのサイ怪人との激闘を繰り広げていた。

「そんなに心配しなくていいよ・・これはBLACKの世界の過去・・私たちは周りには見えていない・・幽霊みたいな感じだから・・・」

 キバランの言葉を耳に入れるも、不安を隠せずにいるヒカル。彼女たちの目の前で、BLACKのライダーチョップがサイ怪人の角を切断した。

 突進力を削がれたサイ怪人が、BLACKの猛攻に押されていく。追い詰められたサイ怪人に対し、BLACKが大きく飛び上がる。

「ライダーキック!」

 エネルギーを集束させたキックが、サイ怪人に叩き込まれる。決定打を受けた怪人が倒れ、爆発を引き起こした。

 戦いを終えたBLACK。その雄姿をヒカルは深刻な面持ちで見守っていた。

「今のはほんの序章・・BLACKの本当の戦いはこれからなの・・・」

 キバランが言いかけたとき、ヒカルたちのいる場所が空間の歪みに巻き込まれる。また別のビジョンへと導こうとしていた。

 それは人気のない荒野。そこにはBLACKともう1人、男が立っていた。銀の鎧のような体をしているが、BLACKに似た容姿をしていた。

「あの人は、いったい・・・あの人も、仮面ライダーなの・・・?」

「違う・・アイツはBLACKと同じ改造手術を受けているけど、仮面ライダーじゃない・・」

 ヒカルが疑問を投げかけると、キバリンが淡々と答える。

「世紀王、シャドームーン・・次期創世王になるために、BLACKを倒そうとしてるの・・」

 キバルンが語りかける前で、BLACKとシャドームーンが交戦する。BLACK以上の能力を備え、世紀王の剣「サタンサーベル」を手にしていたシャドームーンだが、戦闘経験の差からBLACKに徐々に追い詰められていく。

「ライダーが有利みたいだけど・・・」

「ライダーには、シャドームーンを倒せない理由があるんだ・・・」

 キバラン、キバリンが妖しく言いかけたときだった。BLACKに追い詰められたシャドームーンの姿が人間になる。

「信彦!?・・信彦!」

 BLACKがその青年、秋月(あきづき)信彦(のぶひこ)に駆け寄る。

 信彦は兄弟同然というべき光太郎の無二の親友で、彼と同じ日食の日に生まれている。だが光太郎とともにゴルゴムに捕まり、シャドームーンに改造された。

 その信彦が、光太郎の前にその姿を見せたのである。

「元の姿に戻ったのか、信彦!?

「光太郎・・・」

 BLACKの呼びかけに信彦が微笑む。だが次の瞬間、信彦がシャドームーンになり、右ひじに装備されているエルボートリガーを振りかざして、無防備のBLACKを斬りつける。

「シャドーパンチ!」

 すぐさまシャドームーンが、エネルギーを集束させたパンチを放つ。

「ライダーパンチ!」

 BLACKもとっさにパンチを繰り出し、攻撃を相殺する。

「シャドーキック!」

「ライダーキック!」

 シャドームーンとBLACKが飛び上がり、キックを放つ。2人のキックが衝突し、激しい衝動を巻き起こす。

 地面に落下しながらもすぐに起き上がり、身構える2人。ダメージが大きく再び地面に倒れたのは、心の揺らいだBLACKだった。

「信彦・・・」

 シャドームーンに向けて呼びかけるBLACK。もはや彼には、起き上がる力も残されていなかった。

 そんなBLACKの体に、シャドームーンがサタンサーベルを突き立てた。

「ライダー!」

 たまらず飛び出していくヒカル。しかし実際にこの場にいるわけではない彼女は、2人に触れることもできずすり抜けてしまう。

「だからダメだって・・私たちは幽霊みたいなものだって・・」

 キバランがからかうようにヒカルに言いかける。ヒカルの心の揺らぎを象徴するかのように、突如空間が歪み出した。

 ヒカルたちが次に来たのは、茶色の濃い山間地帯だった。

「こ、今度は何が・・・!?

 ヒカルが不安の声を上げたとき、どこからか爆発が起こった。そこから飛び上がってくる2人の人物がいた。

 1人はシャドームーン。もう1人はBLACKに似た姿の仮面ライダーだった。

「あの姿・・・」

「仮面ライダーBLACK RX・・BLACKが生まれ変わった仮面ライダーだよ・・」

 当惑を見せるヒカルに、キバルンが語りかける。

「そして1度BLACKに倒されたシャドームーンも復活して、RXに挑んでいるんだ・・」

 キバリンが言いかける前で、RXとシャドームーンは激闘を繰り広げる。地球支配を企むクライシス帝国によって人質にされた子供たちを無視して戦いに固執するシャドームーンに、RXの怒りが爆発。剣状スティック「リボルケイン」でシャドームーンのベルトを突き刺し、勝利を収める。

 その後、RXの制止を振り切って、子供たちの救出に向かうシャドームーン。彼の意思を汲み取り、RXはクライシス帝国の作戦を打ち破るべく行動する。

 その作戦の尖兵、怪魔ロボット、シュバリオンを撃破したRX。だがシャドームーンは力尽きてしまった。

 だが光太郎は、最後の最後でシャドームーンが信彦に戻ったと感じていた。この宿命が生んだ悲しみを胸に刻み、光太郎は悪と戦い続けていくことを、改めて強く誓うのだった。

「そんなことが・・・でもどうして、私にこの出来事を・・・?」

 ヒカルがおもむろに疑問を投げかける。

「これからあなたたちの世界に、大事件が起こる・・・」

「あなたたちが今まで体験したことのない事件・・・」

「たくさんの仮面ライダーたちも、あなたたちの世界にやってくる・・・」

 キバラン、キバリン、キバルンが妖しく答えていく。その言葉を耳にして、ヒカルが不安を膨らませて体を震わせる。

 そしてその場に、新たにコウモリが現れる。白い体色をしたコウモリ。キバット族のキバーラである。

「そして、世界の破壊者、ディケイドも・・・」

「ディケイド・・・!?

 キバーラの言葉にヒカルが息を呑む。

「もう既に幕は上がっている・・アンタはもう気付いているはずよ・・」

 キバーラのこの言葉を受けて、ヒカルが空を見上げる。その空にある太陽。その輝きの中に点在する黒点が、彼女の目にもはっきりと見えるほどに大きくなっていた。

「アンタたちがこの事件を乗り越えられるかどうか・・見物ね・・・」

 キバーラは哄笑を上げながら、キバラン、キバリン、キバルンとともに飛翔して去っていった。

 これから起こる大事件の予告。ヒカルの中に恐怖が膨らみ、絶望が押し寄せてきていた。

 

 その悪夢から目を覚ましたヒカル。目を覚ました後も、彼女の中には恐怖が渦巻いていた。

(夢!?・・どうして、こんな夢を・・・!?

 混乱が消えないまま、ヒカルはベットから起き上がる。外は既に太陽が昇り、窓から彼女の部屋に光が差し込んできていた。

 ヒカルはその窓から外を眺め、太陽に目を向ける。その太陽にある黒点が、異常な大きさに膨らんでいた。

「あれは・・夢、じゃない・・・!?

 ヒカルは目を疑っていた。夢で見たとおりに黒点が大きくなっており、それが正夢になるのではないかという不安を呼び起こさせていた。

 

 それが、これから起きるかつてない事件の始まりだった。

 

 

世界に襲い掛かる事件とは何か?

光輝たちに待ち受けているものとは何か?

 

その物語は、「仮面ライダーオメガ Legend of Riders」に続く・・・

 

 

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