仮面ライダーオメガ Legend of Riders
第1章
仮面ライダー。
裏社会や宇宙、別世界からやってくる破壊者や侵略者から、自由と平和を守るために戦い続けてきた戦士。
その活躍は世界にまで知れ渡り、子供たちのヒーローともなっている。
世界を脅かす怪人や脅威に、決意と勇気をもって立ち向かう仮面ライダー。
そのライダーへの憧れを抱いたまま、戦いに身を投じた男がいた。
町中に点在する1件の家。その家には1人の青年が居候をしていた。
吉川光輝。1年前に上京し、両親の友人の家であるこの場所で生活をしている。
その家の主は1人の少女だった。 水神くるみ。1年前に両親を失っているが、持ち前の活発さと自信で精一杯生きていた。
そしてもう1人、この家に住んでいる少女がいた。名前はヒカル。
記憶喪失に陥っていたヒカルは、光輝に助けられてくるみに保護される。「ヒカル」という名前も2人が考えたものである。まだ記憶が戻っていないものの、ヒカルは平穏な生活を送っていた。
この日、光輝はTVに釘付けになっていた。彼はヒーローに憧れていて、今でもその類の番組を見て喜んでいる。
だがそのTVに夢中になっていたのは光輝だけでなかった。彼らの大学のゼミ仲間、青木隆介と赤木草太が水神家を訪れていた。
彼らが見ていたのは「仮面ライダーBLACK」。昭和と平成をまたにかけた黒いボディの仮面ライダーである。
原点回帰とともに様々な要素を盛り込んだこの作品は、初期のライダーたちとともに高い人気を獲得している。
「うわあっ!やっぱり仮面ライダーはすごいよー!」
「オレ、子供の頃にこのライダー見てたんだよー!」
「僕もよく変身ポーズとかやってたよ、子供の頃・・」
光輝と隆介が興奮を見せ、草太が何度も頷いてみせた。
「まったく、アンタたちは・・いつまでたっても子供なんだから・・・」
そこへくるみが呆れてため息をついてきた。彼女とともに、ゼミ仲間、春日井みどりが夕食の支度をしていた。
「何を言うんだ、くるみちゃん!?仮面ライダーをバカにするんじゃないって!」
「今回ばっかりは光輝の味方をさせてもらうぜ。仮面ライダーBLACKの人気は絶大なんだから。」
光輝に続いて、隆介がくるみへの抗議を言い放つ。
「仮面ライダーと同格の宿敵、シャドームーンの存在も大きいよ。シャドームーンの登場は、後年のライダー対ライダーの構図に一役買ってるんだから・・」
「それまでの人気の高さもあって、続編“仮面ライダーBLACK RX”が誕生することになったんだ!初代やV3だけじゃなく、この2作を見ずに、仮面ライダーは語れないって!」
草太と光輝が感想を口にするが、くるみは呆れるばかりだった。
「はいはい、分かりました。分かったからみんなも手伝ってちょうだいね。」
くるみは淡々と聞き流すと、昼食の支度に気持ちを戻した。
「そんな〜・・ひどいよ、くるみちゃ〜ん・・・」
彼女に邪険にされて、光輝は落ち込むばかりだった。そんなリビングにヒカルがやってきた。
「こんにちは、みなさん。くるみさん、私も手伝います。」
「いやぁ・・ヒカルちゃんは今日もかわいいなぁ・・」
挨拶をするヒカルに、隆介が喜びを浮かべる。
「アンタたち、いい加減にして手伝いなさいよ!」
そこへくるみの怒鳴り声が飛び込み、光輝、隆介、草太が慌てて支度に加わる。その様子を見て笑みを浮かべるヒカルだが、テーブルに置かれていた新聞を眼にして、表情を曇らせた。
その新聞には先日の皆既日食と、その後に発生している異常現象に関するニュースが記載されていた。日食の直後に太陽の黒点がものすごいスピードで膨らみ始め、現在は異常と呼べる大きさとなっていた。そのため、世界中で地震や気象異変が多発し、人々に不安を植え付けていた。
「まだ、あの太陽の黒い点は消えていないんですよね・・・?」
ヒカルが口にした言葉に、光輝も困惑を覚える。2人は窓から外の太陽に眼を向ける。
太陽には、人の眼にもはっきりと見える黒点が点在していた。
昼食の後、光輝とヒカルは散歩に出ていた。くるみは不機嫌そうに1人で買い物に出てしまった。
「くるみちゃん、どうしちゃったんだろう・・?」
「光輝さん、何か機嫌を損ねるようなことをしたのでしょうか・・・?」
疑問符を浮かべる光輝とヒカル。2人は再び太陽に眼を向ける。
「太陽のあの黒い点、小さくならないですね・・・」
「あの黒点が出てから、世界中でおかしなことが起こってばかりだ・・何かが起こる前触れでなければいいんだけど・・・」
不安を口にするヒカルと、深刻な面持ちを浮かべる光輝。2人は嵐の前の静けさを予感していた。
「キャアッ!」
そのとき、どこからか女性の悲鳴が響き渡ってきた。その声を聞いて、光輝とヒカルが振り返る。
「この声・・もしかして、ガルヴォルスがまた・・・!?」
「あっ!光輝さん!」
光輝が駆け出し、ヒカルも彼の後を追いかけていく。
ガルヴォルスは人類の進化系である。異形の怪物の姿と本能を得て、その衝動の赴くままに破壊や殺戮を行っていく。
そのガルヴォルスの暴走を予感して、光輝は現場に向かっていった。
街の広場に駆けつけた光輝とヒカル。そこでは蜘蛛の姿に似たスパイダーガルヴォルスが、糸で人々を絡め取っていた。
「光輝さん、あのガルヴォルス・・・!?」
「うん・・だけどどうして・・あのガルヴォルス、僕が初めて戦ったヤツだよ・・・!」
ヒカルの呼びかけに光輝が頷く。2人の目の前にいるスパイダーガルヴォルスは、光輝が初めて戦ったガルヴォルスだった。
「どうしてあのガルヴォルスが・・・!?」
「分からない・・・でも今は、みんなを助けることのほうが先決だ・・・!」
困惑するヒカルに呼びかけると、光輝がスパイダーガルヴォルスに眼を向けて、戦いに身を投じる。
「変身!」
光輝が腰に着けているベルトの中心部に水晶をはめ込む。すると彼の体を赤い装甲が包み込む。
これがクリスタルユニットの1機「オメガユニット」である。水晶に込められたエネルギーを戦闘力に変換するクリスタルシステムを盛り込んだクリスタルユニットは、装着者の精神と連動して機能する。装着、各必殺技の使用の際は、水晶「ソウルクリスタル」を介する。
使用には使用者の強靭な精神力が必要で、精神力が弱いとシステムにエラーを来たしてしまい、最悪死に至ることもある。
オメガに変身した光輝が、暴れまわるスパイダーガルヴォルスの前に立ちはだかる。
「なっ!?お前は!?」
「仮面ライダーオメガ!」
声を荒げるスパイダーガルヴォルスに対し、名乗りとポーズを見せる光輝。
「ガルヴォルス!これ以上はお前の勝手にはさせないぞ!」
「おのれ、オメガ!こうなったら八つ裂きにしてくれる!」
言い放つ光輝に、スパイダーガルヴォルスが飛びかかる。繰り出される爪の攻撃を、光輝は両手でさばいていく。
スパイダーガルヴォルスが口から糸を吐き、光輝の右腕を縛り付ける。引き寄せられた光輝が、スパイダーガルヴォルスの爪に切り裂かれ、装甲から火花が散る。
「くっ!」
うめく光輝に向けて、スパイダーガルヴォルスがさらに迫る。だが光輝は相手の爪を利用して、右手を縛る糸を断ち切った。
反撃に転じた光輝の猛攻が、スパイダーガルヴォルスを追い詰めていく。
光輝はベルトの水晶を、脚部のくぼみにはめ込む。ソウルクリスタルは各部位のくぼみにはめ込むことで、攻撃の威力を高める効果をもたらす。
「ライダーキック!」
光輝は大きく飛び上がり、スパイダーガルヴォルスに向けて、エネルギーを足に集束させた飛び蹴りを繰り出す。キック技「オメガスマッシャー」である。
オメガスマッシャーがスパイダーガルヴォルスの体に叩き込まれる。突き飛ばされたスパイダーガルヴォルスが力尽き、倒れて爆発を起こした。
人々を脅かす敵を撃退した光輝。ヒカルも戦いの終わりを感じて、安堵を浮かべていた。
そのとき、光輝が突如何者かの攻撃を受けた。鋭いものでの攻撃で装甲から火花が飛び散り、光輝が横転する。
「光輝さん!?」
たまらず声を上げるヒカル。立ち上がった光輝の前に、3体のガルヴォルスが現れた。
「またガルヴォルスたちが・・しかもこのガルヴォルスたちも、前に戦ったヤツばかり・・・!」
ガルヴォルスたちの姿に、光輝の困惑は広がる。虎の姿に似たタイガーガルヴォルス、カマキリの姿に似たマンティスガルヴォルス、野獣の姿に似たビーストガルヴォルスが立ちはだかっていた。
「考える前にやるしかない!この世界はオレが守る!」
迷いを振り切って、光輝がガルヴォルスたちに立ち向かう。だがオメガの力を振るう彼でも、3体のガルヴォルスを同時に相手にするのは無謀だった。
1体を相手にすれば、残りからの背後への攻撃が迫る。劣勢を強いられて、光輝が突き飛ばされて激しく横転する。
体力と精神力の消耗により、光輝からオメガの装甲が消失する。
「光輝さん!」
追い込まれた光輝に駆けつけようとするヒカル。だが彼女の前にビーストガルヴォルスが立ちはだかる。
「ヒカルちゃん!・・やめろ!ヒカルちゃんに手を出すな!」
力を振り絞って立ち上がる光輝。だがマンティスガルヴォルスとタイガーガルヴォルスに行く手を阻まれる。
迫り来るビーストガルヴォルスに、ヒカルが恐怖を浮かべながら後ずさりする。怯える彼女の向けて野獣の巨大な腕が振り下ろされる。
そのとき、突如ビーストガルヴォルスが横から蹴り飛ばされる。不意を突かれたビーストガルヴォルスが横転する。
立ち上がったビーストガルヴォルス、振り返ったタイガーガルヴォルス、マンティスガルヴォルスの前に1人の男が立ちはだかった。白を基調としたジャケット、ズボン、手袋を身につけたその男は、ガルヴォルスたちを鋭く見据えていた。
「罪のない人々を襲い、破壊の限りを尽くす怪人たち・・このオレが許さん!」
ガルヴォルスたちに高らかに言い放つ男が、独特の構えを取る。
「変身!」
一連の動作を行った男の腰にベルトが出現する。ベルトからまばゆい光が放たれると、男の姿が変化する。
黒と深緑を基調とした装甲のような体と赤い眼が特徴の姿だった。
「あ、あの姿・・・まさか!?」
光輝はその姿に見覚えがあった。それは彼の憧れる戦士の1人。
「な、何なんだ、コイツは・・・!?」
「クリスタルユニットの使い手じゃない・・形状が全然違う・・・」
「お、お前はいったい何者だ!?」
突如現れた乱入者に、ガルヴォルスたちが声を荒げる。
「オレは太陽の子!仮面ライダー、BLACK!RX!」
その男、仮面ライダーBLACK RXが高らかと名乗る。その瞬間、光輝が満面の笑みを浮かべる。
「すごい・・本物だ・・・本物の、仮面ライダーBLACK RXだぁ♪」
今まで憧れを抱き続けてきた仮面ライダーが目の前にいることに、光輝は疲弊を忘れて喜びをあらわにしていた。
「何だろうと、邪魔者は八つ裂きにしてやるぞ!」
いきり立ったタイガーガルヴォルスがRXに飛びかかる。RXも跳躍して迎撃のパンチを繰り出す。
その一打を受けて落下するタイガーガルヴォルス。すぐに起き上がって反撃しようとするタイガーガルヴォルスに、RXが猛攻を仕掛ける。
RXの強さは本物かつ高いものだった。体内に埋め込まれた太陽の石「キングストーン」と太陽エネルギーがかけ合わさった「ハイブリットエネルギー」が、彼の力を増強させていた。
突進して爪を振りかざすタイガーガルヴォルスを、RXはジャンプと宙返りでかわしつつ、両足を背中に向けて叩き込む。
完全に追い込まれたタイガーガルヴォルスに対し、RXが高く飛び上がる。
「RXキック!」
両足にエネルギーを込めた必殺キック「RXキック」がタイガーガルヴォルスに叩き込まれる。この両足の蹴りが、タイガーガルヴォルスに大きなダメージを与えていた。
「リボルケイン!」
RXがベルト「サンライザー」から出現した柄を手にし、引き抜く。その柄から光の刀身が発せられていた。
RXの主力となる剣状スティック「リボルケイン」である。
さらに反撃を仕掛けるタイガーガルヴォルスだが、RXが突き出したリボルケインに体を貫かれる。これが決定打となり、光の刃を引き抜かれたタイガーガルヴォルスが絶命し、倒れた瞬間に崩壊を引き起こした。
そこへビーストガルヴォルスが飛び込んできた。野獣の力がRXを追い込んでいく。
「RX!」
声を荒げる光輝。ビーストガルヴォルスの豪腕を受けて、RXが突き倒される。
「これ以上は好きにはさせない!ここからはオレがお前をいたぶってやる!」
高らかに言い放つビーストガルヴォルス。立ち上がったRXが力と意識を集中させる。
次の瞬間、RXの姿が変化する。黒と黄色を基調とした重量感のある姿で、ロボットを思わせる体質である。
「す、姿が変わった・・・!?」
「何だ、その姿は!?」
マンティスガルヴォルスが困惑を見せ、ビーストガルヴォルスが声を荒げる。
「オレは炎の王子!RX!ロボライダー!」
RXが変身した新たなライダー、ロボライダーが高らかに名乗る。
RXの2段変身形態のひとつ、ロボライダーである。耐熱・耐衝撃性に優れたボディ「ロボフォーム」を有するロボライダーは、RX以上のパワーと防御力を発揮する。
「そんなこけおどしでオレに勝てるものか!」
いきり立つビーストガルヴォルスが豪腕を振り下ろす。だがロボライダーはその攻撃をものともせず、重みのあるパンチで反撃に転ずる。
その威力に押されて、ビーストガルヴォルスが突き倒される。ロボライダーのパワーに完全に参っていた。
「ボルティックシューター!」
ロボライダーが光を結晶化させて、光線銃「ボルティックシューター」を出現させる。その銃口から放たれた光弾「ハードショット」が、ビーストガルヴォルスを撃ち抜いた。
「こ、こんなことが・・・!」
絶叫を上げたビーストガルヴォルスが倒れ、崩壊を引き起こした。3体のガルヴォルスが2体も倒されることとなった。
そのとき、ロボライダーが背後からの奇襲を受ける。マンティスガルヴォルスの鎌が、ロボライダーの体を押さえ込んでいた。
「いくら力のあるお前でも、こうして押さえ込んだら動けないだろう!」
両腕を後ろから押さえ込まれ、ロボライダーは身動きが取れなくなってしまう。ロボライダーは力に長けている反面、機敏性に欠け、素早い攻撃や変則的な戦法の対処に弱い。
「このままズタズタに切り裂いてやるぞ!」
マンティスガルヴォルスが勝ち誇り、鎌に力を込める。
そのとき、ロボライダーの体が突如液化した。青い水となったライダーは鎌から逃れ、マンティスガルヴォルスに突進して翻弄する。
しりもちをついたマンティスガルヴォルスの前で、青い水が人の形を取る。その姿はRXやロボライダーとも違い、青、赤、銀を基調とした俊敏性に富んだものだった。
「コロコロと姿を変えて・・今度は何だ!?」
「オレは怒りの王子!RX!バイオ、ライダー!」
声を荒げるマンティスガルヴォルスに、バイオライダーが高らかと名乗りを上げる。
ロボライダーと並ぶRXの2段変身形態、バイオライダー。パワー重視のロボライダーとは対照的に、俊敏かつ特異な戦法と能力を持つ。最大の特徴は液体分子構造を持つ体の液化で、これにより狭い場所や相手の物理攻撃をかいくぐることができるのである。
いきり立ったマンティスガルヴォルスが飛びかかり、鎌を振り下ろす。バイオライダーは機敏な動きで、その攻撃を回避し、反撃を当てる。
翻弄されるマンティスガルヴォルスが、手も足も出ずに横転する。
「バイオブレード!」
バイオライダーが細身の剣「バイオブレード」を手にする。突きに特化しているリボルケインと違い、バイオブレードは切断に長けている。
マンティスガルヴォルスが振り下ろしてきた鎌を、バイオブレードで受け止めるバイオライダー。鎌を払いのけ、刀身に光を宿したバイオブレードの一閃「スパークカッター」を放つ。
体を切り裂かれたマンティスガルヴォルスが倒れ、崩壊を引き起こした。
戦いを終えたバイオライダーがRXの姿に戻る。彼は3体のガルヴォルスたちを見事撃破したのだった。
「すごい・・RX・・そして、ロボライダー、バイオライダーまで出てくるなんて・・・」
今まで憧れてきたヒーローの登場に、光輝は喜びをあらわにする。RXは変身を解除し、男の姿に戻る。
彼の名は南光太郎。日食の日に生まれた彼は、暗黒結社「ゴルゴム」によって世紀王「ブラックサン」として改造された。だが脳改造を施される前にゴルゴム本拠地を脱出。「仮面ライダーBLACK」として自由と平和を守るために、ゴルゴムと戦い続けた。
その熾烈な戦いを終えた光太郎だったが、新たなる敵「クライシス帝国」に敗れ、BLACKへの変身機能を破壊されてしまう。だが体内に埋め込まれた世紀王の石「キングストーン」が太陽エネルギーを吸収したことで、光太郎は「仮面ライダーBLACK RX」として生まれ変わったのである。
その光太郎が光輝たちの前に現れ、ガルヴォルスたちを撃破したのだった。
「あ、ありがとうございます!僕たちを助けていただいて・・・!」
光輝が光太郎に駆け寄り、深々と頭を下げる。
「怪人に襲われている人々を守るのが僕の使命だ。君たちも無事で何よりだった・・」
微笑んで弁解を入れる光太郎だが、すぐに真剣な面持ちを見せる。
「しかしあの怪人は何なんだ?・・ゴルゴムでも、クライシスの怪魔戦士でもない・・・」
「ガルヴォルス・・人間の進化した姿なんです・・・」
光太郎の疑問に光輝が答える。
「突然変異を起こした人間が、ガルヴォルスとして本能の赴くままに暴走し、人々を襲っているんです・・そのガルヴォルスから人々を守るために、僕はこのクリスタルユニットのひとつ、オメガユニットを使って戦っているんです・・」
「そうだったのか・・・おそらくオレは、僕がいた世界とは別の世界に来てしまったようだ・・」
「・・どういうことですか・・・?」
納得した光太郎が口にした言葉に、光輝が疑問を投げかける。
「オレはクライシス帝国との戦いを終えて旅に出ていた・・だが空間の歪みを感じたオレは現場に向かったが、オーロラのような空間の歪みを突き抜けてしまった・・」
「それで、この世界に来たのですか・・・」
光輝が言いかけると、光太郎は頷いた。
「君たちが戦っているガルヴォルス以外にも、世界を脅かす何者かの動きがあるかもしれない・・」
「世界を脅かす何者か・・・」
光太郎の告げた言葉に、光輝が困惑する。ふと見上げた光太郎が、太陽の大黒点を眼にして緊張を覚える。
「どうしたのですか、光太郎さん・・・?」
「・・いや、何でもない・・・」
光輝が訊ねると、我に返った光太郎が微笑みかける。太陽、日食、黒点。光太郎にとって宿命、苦い記憶と深く関係していることだった。
その間にも、ヒカルは不安の面持ちを浮かべていた。その様子に光輝が気付き、声をかける。
「ヒカルちゃん、大丈夫・・・?」
「えっ?・・・は、はい。大丈夫です・・」
とっさに作り笑顔を見せるヒカル。だが光太郎の登場は、彼女の抱えていた不安を強めていた。
大黒点が発生した太陽の異変に不安を感じている2人の男女がいた。谷山太一と岬弥生である。
太一は非常に内向的な性格で、何事においても勇気が持てず逃げ場を求めてばかりだった。だが光輝との出会いを機に弥生を守りたいという気持ちが強まり、クリスタルユニット「クリスユニット」を手にして戦う道を選んだのだった。
「不安になってきたよ・・あの太陽の黒点、何なんだ・・・」
「そうだね・・世界じゃ地震や台風が起きてるそうだし・・・それだけで終わればいいけど・・」
不安を口にする太一に、弥生も困惑の面持ちを浮かべる。気持ちを切り替えようとしながらも、2人は不安を拭い去ることができないでいた。
そこへ1人の青年が姿を現した。青年は太一と弥生を見つめて、不気味な笑みを浮かべてきた。
「クリスユニット・・オレがいただかせてもらうぞ・・・」
いきり立った青年の姿が狼の姿に似たウルフガルヴォルスに変貌する。
「ガルヴォルス!?」
「クリスユニットを狙ってきたの・・・!?」
声を荒げる太一と弥生。迫り来るウルフガルヴォルスに恐怖を覚える太一だが、弥生を守りたいという意思が強まり踏みとどまる。
「弥生ちゃん・・危ないから離れていて・・・」
「太一くん・・・」
呼びかける太一に戸惑いを浮かべながら、弥生が離れていく。ウルフガルヴォルスを見据えて、太一が水晶を手にする。
「変身・・・!」
ベルトに水晶をはめ込む太一。彼の体を装甲が包み込む。オメガの赤い装甲と違い、彼が変身したクリスは緑の装甲だった。
「もう僕しか、未来を切り開けないんだ・・・」
太一は向かってきたウルフガルヴォルスを迎え撃つ。だがウルフガルヴォルスの素早い攻撃に、太一は翻弄されていた。
「くっ!・・なんて速いんだ・・・!」
迎撃がままならない太一。クリスの装甲が、ウルフガルヴォルスの爪に切り裂かれて火花を散らす。
狼の突進力に追い詰められて、太一が横転する。優位に立ったことに、ウルフガルヴォルスが笑みをこぼす。
「太一くん!」
太一の危機に悲鳴を上げる弥生。太一に追い討ちを仕掛けようとしたウルフガルヴォルスが、ふと背後の振り返る。
そこには1人の青年がいた。青年はウルフガルヴォルスに鋭い視線を向けていた。
「人間の夢を壊させるわけにはいかないな・・オレが相手になってやる・・」
青年は淡々と言いかけると、携帯電話を取り出し、番号「555」を入力する。
“Standing by.”
「ENTER」を押すと、携帯電話から音声が発せられる。
「変身!」
“Complete.”
その携帯電話をベルトにセットする。するとベルトから紅いラインが発せられ、次の瞬間、青年の体を装甲が包み込んだ。クリスタルユニットとは違う形状の装甲である。
戦闘用外部装置「ファイズギア」の装着者、「ファイズ」である。
「何だ、お前は?オレの邪魔をするのか?」
「そう思ってくれていいぜ・・人間を襲うっていうなら、オレはお前を叩きのめすぜ・・」
眉をひそめるウルフガルヴォルスに、ファイズが飛びかかる。彼の猛攻がウルフガルヴォルスを追い詰めていく。
「なかなかやるが、速さはオレのほうが上だ!」
いきり立ったウルフガルヴォルスが加速し、ファイズに迫る。速さを伴った爪の攻撃が、ファイズの装甲を切りつけて火花を散らす。
ファイズの危機を察した太一が、ウルフガルヴォルスに向かって駆け出す。戦いの中に割り込み、ウルフガルヴォルスへの反撃を行う。
2人の戦士に追い込まれるウルフガルヴォルス。太一とファイズが向き合い、頷き合う。
太一が腰に装備している剣「クリスセイバー」を手にして、その柄にクリスクリスタルをはめ込む。ファイズもデバイス「ファイズポインター」を右足にセットする。
“Exseed charge.”
携帯電話「ファイズフォン」の「ENTER」が押されることで、右足に流体エネルギー「フォトンブラッド」が注入される。太一が精神エネルギーを込めたクリスセイバーを振りかざし、一閃「クリスブレイド」を放つ。
上に飛び上がってその一閃を回避するウルフガルヴォルス。だがウルフガルヴォルスに向けて、紅い円錐状の光が出現する。
ファイズの飛び蹴り「クリムゾンスマッシュ」が繰り出され、ウルフガルヴォルスの体を貫いた。絶叫を上げるウルフガルヴォルスの体が灰化し、崩壊を引き起こした。
「やった・・・」
敵を倒したことに安堵する太一。彼は水晶を外して、クリスの装甲を解除する。
ファイズも変身を解除して、青年の姿に戻る。振り返る青年に、太一と弥生が駆け寄ってきた。
「ありがとうございました、助けてくれて・・おかげでやられずに済みました・・・」
「別に助けたつもりはない。オレが勝手にやったことだ・・」
感謝の言葉をかける太一に、青年が憮然とした態度を取る。
「それよりもここはどこなんだ?オレの知ってる世界と何か違うんだよ・・」
青年がぶっきらぼうに疑問を投げかけてきた。
「世界が違うって・・どういうこと・・・?」
その疑問の意味が分からず、太一が困惑する。すると弥生が青年に訊ねてきた。
「その前に名前を聞いておいたほうがいいかもしれません・・私は岬弥生。彼は谷山太一。あなたは?」
「オレは乾巧だ・・」
自己紹介をする弥生に、青年、巧が憮然さを込めて答える。
「それよりここはどこだ?早く元の世界に戻らないと・・」
「もしかして、こことは違う世界から来たってこと?・・この経緯を話してくれませんか?何か手がかりが見つかるかもしれません・・」
弥生の申し出に、巧は渋々話すことにした。これを受けて太一と弥生も、自分たちのことを打ち明けるのだった。