仮面ライダーオメガ Legend of Riders

第2章

 

 

 山奥にある洞窟。そこは人が訪れることのない場所のはずだった。

 その洞窟の中に3人の人がいた。1人は男、1人は女性、1人は青年だった。

「この世界でも異変が起きているようね・・」

「アイツはここに来てるのか?ウズウズしてしょうがねぇ・・」

 女性、緑川(みどりかわ)靖子(やすこ)と男、飛田(とびた)(ただし)が悠然と言いかける。

「そう慌てることはない・・時期にアイツもやってくる・・・」

 すると青年、土田(つちだ)大介(だいすけ)が口を挟む。

「まだ始まったばかりだ。様子見をしても損はない・・」

「だったらオレに行かせてくれよ。そろそろこの力を試してみてぇと思ってたんだ・・」

 大介の言葉を受けて、正が立ち上がる。

「好きにするといいさ。だが油断はするな。この世界のクリスタルユニットの装着者も手強いし、違う世界からライダーが何人かやってきてる・・」

「分かってるって。この力を手に入れたオレ様に、敗北の2文字はない。」

 注意を促す大介に、正が自信ありげに答える。正は戦いに赴くべく、洞窟から外に出て行った。

「さぁて、試合はこれからだ・・・プレイボール。」

 声色を低くして、大介が冷徹に戦いの幕開けを告げた。

 

 今でもヒーローに憧れ続けている光輝に、くるみは不機嫌になっていた。彼女は不満を浮かべながら、街に向かって歩いていた。

「もう、光輝ったら!いつまでたっても子供なんだから!」

 光輝の子供染みた振る舞いを思い返して、くるみが苛立ちを募らせる。その鬱憤を晴らすため、彼女は衝動買いをすることも年頭に置いていた。

 だがしばらく歩いていったところで、くるみの前に1人の男が現れた。

「かわいらしい娘だ・・オレの心を引き寄せる・・」

「何ですか、いきなり・・・ナンパでしたらお断りですよ。」

 笑みをこぼす男の言葉に耳を貸さず、くるみが歩き出そうとする。

「この手でズタズタに切り裂いてやるぞ・・・!」

 だが男の姿が突如、鮫の姿をした異形の怪物へと変貌を遂げる。

「えっ!?ガルヴォルス!?

 怪物、シャークガルヴォルスとの遭遇に、くるみが驚愕を覚える。たまらず光輝への連絡を試みるが、いつも持ち歩いているはずの携帯電話がない。

(そんな!?どうしてこんなときに忘れちゃうの!?

 内心驚愕するくるみが、迫るシャークガルヴォルスを前にして後ずさりする。

「逃げてもムダだ。お前はオレに弄ばれるしかない・・」

 息を呑むくるみを見つめて、シャークガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべる。彼女を切り裂こうと、爪を高らかに振り上げる。

 そのとき、その爪に向けて1枚のカードが飛んできた。そのカードに弾かれて、シャークガルヴォルスが手を押さえる。

 跳ね返ったカードを、1人の青年が受け取る。彼はシャークガルヴォルスとくるみを見据えていた。

「怪人が女1人に襲い掛かってるとは・・またおかしな世界に来ちまったってことか・・」

 青年は憮然とした態度で呟きかける。

「オレは今この娘と遊んでいるんだ・・命がほしかったら邪魔しないでさっさと消え失せろ。」

「オレは指図されるのが嫌いだ。オレの好きなようにやらせてもらう。」

 言い放つシャークガルヴォルスだが、青年は聞き入れようとしない。

「いきなり横槍入れてきて・・何なんだ、お前は?」

「オレか?通りすがりの仮面ライダーだ・・変身。」

 問いかけてくるシャークガルヴォルスに名乗ると、青年は手にしたカードを腰に着けたベルトにセットする。

Kamen ride Decade.”

 ベルトから音声が発せられると、青年の体を桃色を基調とした装甲が包み込んだ。

「・・覚えておけ・・・!」

 青年がシャークガルヴォルスを指差し、高らかに言い放つ。

「仮面、ライダー・・・!?

 青年の変身した姿に、シャークガルヴォルスだけでなく、くるみも驚きを感じていた。

 彼の名は門矢(かどや)(つかさ)。様々な世界を渡る仮面ライダー「ディケイド」であり、「世界の破壊者」と忌み嫌われている存在でもある。

 士は世界を巡る旅の最中、この世界に足を踏み入れてきていた。

「その姿・・クリスタルユニットと違う・・・だが邪魔をしてくるなら誰だろうと切り刻むだけ!」

 いきり立ったシャークガルヴォルスが士に飛びかかる。専用武器「ライドブッカー」を剣型の「ソードモード」にして、士が迎え撃つ。

 サメの爪と士の剣が激しくぶつかり合う。だが士は難なく爪の攻撃をかいくぐり、シャークガルヴォルスを斬りつけていく。

「クリスタルユニット・・その持ち主が、この世界のライダーということか・・」

 シャークガルヴォルスを追い詰めながら、士が淡々と言いかける。

「じゃ、そろそろ聞かせてもらおうか。そのユニットの装着者を。」

「何だ?オレが出てきた途端にやってきたってか?」

 士の声に答えたのはシャークガルヴォルスではなかった。そこを通りがかった正だった。

「まさか思ってたより早く会えるとはな。通りすがりのディケイドちゃん。」

「何だ、お前は?お前がこの世界のライダーか?」

 飄々と言いかける正に士が訊ねてくる。

「この世界ってわけじゃねぇんだけどな・・・そうです。通りがかった仮面ライダーです。」

 正は答えると、ベルトを見せつけながら水晶を取り出す。

「変身。」

 正は水晶をベルトにはめ込み、装甲を身にまとう。その姿は黄色を基調としたものだった。

「お前、世界の破壊者なんて言われてるみてぇだけど、そんなことはどうでもいい。オレは楽しめればそれでいいんだ。」

「だったらオレが楽しませてやるよ。あの世までぶっ飛ぶぐらいにな。」

 互いに悠然と言いかけると、正と士が同時に飛び出す。蚊帳の外に追いやられたことに不満を覚えたが、シャークガルヴォルスはこれを好機と見た。

「何だかよく分からないが、これで邪魔がなくなった・・・」

 振り向いてきたシャークガルヴォルスに、くるみが再び戦慄を覚える。だが突如飛び込んできた1台のバイクに、シャークガルヴォルスが突き飛ばされる。

「ぐっ!」

 横転してうめくシャークガルヴォルス。バイクから降りた青年が、メットを外してくるみに目を向ける。

「大丈夫だったかい、くるみさん?オレがいる限り、君には手は出させないさ。」

「一矢さん・・・」

 不敵な笑みを見せる青年に、くるみが当惑を見せる。

 富士野(ふじの)一矢(かずや)。光輝やくるみと同じ大学に通う青年。「無敵」、「完全無欠」を絵に描いたような人物で、本人もそれを自負している。自分にできないことは何もないと本気で思っている。

「くるみさんを手にかけようとは笑止千万。万死に値することを、身をもって理解するといい。」

 一矢はシャークガルヴォルスに言いかけると、水晶を取り出す。

「変身。」

 その水晶をベルトにセットすると、一矢の体が装甲に包まれる。青を基調としたボディ。クリスタルユニットの戦士の1人「ギガス」に。

「オレに敵などいない。なぜなら、オレは無敵だから・・」

 一矢がシャークガルヴォルスに向けて言い放つ。いきり立ったシャークガルヴォルスが、一矢に向かって飛びかかる。

 振りかざしてきた鮫の爪を、一矢がかいくぐっていく。銃器「ギガシューター」を発射し、シャークガルヴォルスに撃ち込んでいく。

 的確で隙のないギガスの攻防に、シャークガルヴォルスは劣勢を強いられる。

「いたぶられるのはいい気分がしないだろう?すぐに終わらせてやろう。」

 悠然と言い放つと、一矢はベルトの水晶を脚部にセットする。飛び上がった一矢が、エネルギーを集束させた両足をシャークガルヴォルスに叩き込む。

 痛烈な蹴りを受けたシャークガルヴォルスが力尽き、肉体が崩壊していった。

 一方、士は正を徐々に追い詰めつつあった。

「ああぁぁ・・ムカムカするなぁ・・やっぱガンマじゃ力不足ってか・・」

「ガンマ?」

 苛立ちを見せる正が口にした言葉に、士が疑問を覚える。

「今回はここまでにしといてやる。けど次はこの手でやっつけてやるからな・・・」

 正は士に捨て台詞を言い放つと、逃げるようにその場から走り去っていった。半ば呆れながら、士はディケイドへの変身を解除した。

「君が彼女を助けてくれたことには感謝する。何者かは知らないが実力は高いようだ。オレには及ばないが。」

 同じくギガスへの変身を解除した一矢が、士に声をかけてきた。

「別に助けようとしたわけじゃない。ただ、相手が友好的に見えなかっただけだ・・」

「そうか・・いずれにしても、君は彼女を救ってくれた・・感謝をさせてもらおう。」

 憮然とした態度を見せる士に、一矢が悠然と言いかける。

「ここで会ったのも何かの縁だ・・オレは富士野一矢。君は?」

「オレは門矢士。通りすがりの仮面ライダーだ。」

 互いに名乗る一矢と士。すると一矢がおもむろに笑みをこぼしてきた。

「仮面ライダー?君もあんな子供染みたものにはまっているのか?」

「子供染みた?そうか。この世界じゃ、ライダーは“子供のヒーロー”ということになってるのか・・」

 あざ笑ってくる一矢だが、士は彼の言葉を聞いて納得していた。

「悪いがオレは子供じゃない。オレにできないことは、写真撮影だけだ。」

「ずい分と大きな口を叩くじゃないか。だがその大口も、オレの前ではこけおどしでしかないがな。」

 互いに強気な態度を見せる士と一矢。尊大に振舞う2人が対峙を果たしていた。

「写真家なら、試しにオレを撮ってみてくれ。どれだけできないのか、オレが見てやる。」

「指図されるのは嫌いだが、写真を撮るのは嫌いじゃない・・」

 一矢の呼びかけに士が渋々従う。やる気のなさを見せながら、士は一矢を撮る。

 本来なら知り合いに現像してもらう士だが、やむなく近くの写真屋で現像してもらった。だがその写真は歪んで写されていた。

「本当に、苦手なのね・・カメラマンとして致命的なくらい・・・」

 その歪みにくるみも呆れていた。

「アンタやこの世界がオレに撮られたがっていない。だから歪んでんだ・・」

「やれやれ。自分の腕の悪さを他のせいにするとは。これだから凡人は・・」

 士の言い分を聞いて、一矢が肩をすくめる。

「無自覚な欠点は改善のしようがないな。もっとも、欠点のないオレには無縁のことだが。」

「同じセリフを返してやる。無自覚なのはお前のほうだ。あんまり自分に酔ってると痛い目を見るぞ。」

「自分に酔っているのは君のほうだ。自分の無自覚を棚に上げて、オレに向けてそんな世迷言を口にするとは・・」

「分からないヤツだ。どうやら、言葉をかけるより、力ずくで分からせるしかないってことか・・」

「野蛮・・だが、それ以外に、君が理解できる術はないようだ・・」

 いがみ合いからついに、本格的な衝突へと発展していく士と一矢の対立。2人はそれぞれディケイドとギガスに変身しようとした。

 そのとき、くるみが割り込み、士と一矢にツボ押しを見舞った。それを受けた2人が突然笑い出し、その笑いを止められずそのまましりもちをつく。

「ア、アハハハ・・・く、くるみさん、何を・・!?

「アハハハ・・こ、これは笑いのツボ・・何でお前が・・・!?

 声を荒げる一矢と士だが、2人とも笑いを止められないでいた。

「あなたたち、いい加減にしてよね!自分が1番って言い張られても、迷惑にしかならないのよ!」

 2人の大きな態度に怒りを覚えて、くるみが怒鳴りかける。

「それにアンタ、どこの誰だか知らないけど、ライダーのことだったら専門家がいるわよ!アンタよりもずっと子供染みてるけどね!」

「専門家?子供染みてるって、ワケが分からなくなる専門家みたいだが・・」

 言い放ってくるくるみの言葉の意味が分からず、士は疑問を抱いた。だが笑いを止めるには至っていなかった。

 

 光太郎は光輝たちから、この世界について聞かされた。ガルヴォルスが人類の進化であり、本能のままに人々を襲っていることも。

「この世界では、このようなことが起こっているのか・・・」

「はい・・ですが大丈夫です。僕がこのオメガの力で戦いますし、一矢さんや太一くん、戦う仲間がいますから・・・」

 納得の面持ちを見せる光太郎に、光輝は微笑んで答える。すると光太郎が沈痛の面持ちを浮かべる。

「仲間か・・その仲間や友達、大切にしてほしい・・・」

「光太郎さん・・・?」

 光太郎が口にした言葉に、ヒカルが当惑する。だがすぐに光太郎は落ち着きを取り戻す。

「ここで君たちに会えたのは、僕も嬉しい・・オレも君たちとともに戦わせてくれ・・」

「もちろんです!光太郎さん・・仮面ライダーBLACK RX・・こんな心強い協力者はいません・・・!」

 呼びかける光太郎に、光輝が喜びを見せる。

「ただ、今起きていることは、ガルヴォルスの仕業だけではない気がするんだ・・まさかとも思うが・・」

 だがすぐに、光太郎は深刻な面持ちを浮かべた。大きくなった太陽の黒点から、彼は一抹の不安を感じていた。

 そのとき、家の玄関のドアが開かれる音が聞こえてきた。

「くるみちゃんが帰ってきたのかな・・」

 光輝がソファーから立ち上がり、玄関に向かう。そこで彼はとんでもない光景を目の当たりにして唖然となる。

 そこにはくるみと一矢、士が倒れ込んでいたのである。

「く、くるみちゃん!?それに一矢さんも!?

 光輝が声を荒げるとヒカルと光太郎も顔を出してきた。

「こ、光輝・・ちょっと、いろいろあって・・・」

「何があったっていうんだ、くるみちゃん?・・それに、この人・・・?」

 声を荒げるくるみに言いかけてから、光輝は視線を士に移した。

「ったく!人使いの荒い女だぜ・・・!」

 くるみに振り回されて、士が不満を口にする。気持ちを落ち着けたところで、士は光太郎の姿を目にして眉をひそめる。

「アンタ・・・いや、オレが会ったのは違うか・・・」

 意味深な言葉を口にする士。様々な世界を渡っている彼は、別の世界で光太郎と邂逅しているが、目の前にいる彼とは別人であることを悟っていた。

「ホントにどうしたの、くるみちゃん?・・何があったの・・・?」

「うん・・この高飛車男に、仮面ライダーについて話してあげてほしいのよ、専門家さん・・」

 光輝が改めて訊ねると、くるみが不満げに言いかける。

「専門家・・コイツが?」

 光輝に目を向けて、士が眉をひそめた。

 

 光輝は士にこの世界について話した。クリスタルユニット、ガルヴォルス。自分の戦う理由。自分の知りうることを士に打ち明けた。

「だいたい分かった。要するにこの世界じゃ、お前たちクリスタルユニットの使い手が、ガルヴォルスと戦ってるわけだな?」

 光輝の話を聞いて、士が納得の反応を見せる。

「だが、今この世界、いや、たくさんの世界で起こってる現象は、そのガルヴォルスってヤツらの仕業だけとは思えないな・・」

「どういうこと・・・?」

 士の言葉に光輝が眉をひそめる。

「それはオレにも分からん。だがすぐにオレがその正体を見つけてやる。何せオレは写真撮影以外は何でもやれるからな・・」

「その大きな態度・・一矢さんとそっくりね・・・!」

 高い態度を見せる士に、くるみがツボ押しを繰り出してきた。

「お、おいっ!またお前!・・って!何だか気が立ってきたな!」

 すると士が憤慨を抑えきれなくなる。そこへすかさず、くるみが再びツボ押しを繰り出す。

「だから・・やめろっての・・・」

 すると今度は悲しみを全開にする士。

「お〜い・・いい加減に〜・・・」

 三度くるみにツボを押され、士はヘラヘラする。

「喜怒哀楽・・見事に表現されている・・・」

 士の変化ぶりに、光輝は唖然となっていた。立ち直ったところで、士が再び話を切り出す。

「とにかく、オレはこの世界のことを詳しく調べてくる。何かあるような気がしてならない・・」

「だったら僕も一緒に・・みんなで探したほうが効率いいし・・」

「オレ1人で十分だ。お前たちは足手まといだ。ついてくるな。」

 光輝が同行しようとするが、士は拒否する。彼の態度に光輝が不満を覚える。

「足手まといって・・そんな言い方・・・!」

「ホントのことだろ。オレは大真面目なんだ。お前と一緒にいると、やる気が半減しちまう・・」

 反論する光輝を、士はさらに邪険にする。

「それじゃオレは行くぞ。何かあったら片付けてしまうかもしれないが・・」

「ちょっとアンタ、いい加減に・・・!」

 高飛車な態度で家を出ようとする士に、くるみが憤慨する。

 だが士が突然肩をつかまれる。振り返ろうとした彼が、顔を殴られてふらつく。

 士を殴ってきたのは光輝だった。光輝は振るった右手を強く握り締めながら、士に鋭い視線を向けていた。

「い・・いきなり何するんだ・・・!?

「何でそんな勝手なんだ・・自分以外はどうなろうと知ったことじゃないみたいに・・・!」

 声を荒げる士に、光輝が鋭く言い放つ。

「それでホントにライダーなのか・・仮面ライダーは、世界の平和と人々の自由を守るために戦うヒーロー・・夢と憧れの存在でもあるんだ・・それなのに・・・!」

「生憎だが、オレはそんな甘っちょろい英雄気取りになるつもりはない。お前や他のヤツがどうなろうと、オレには関係ない・・」

 光輝に怒りをぶつけられても、士は態度を改めない。

「人の心を傷つけてもいいのか・・自分のためなら、目的のためなら何をやってもいいなんて、そんなの正義じゃない!・・僕はお前を、仮面ライダーとは認めない!」

 眼を見開いた光輝が士に怒号をぶつける。士に対して向けていたものに、憧れや喜びは全くなく、敵意しかなかった。

 苛立ちの治まらない光輝は、体を震わせたまま家を飛び出してしまった。

「光輝さん!」

「光輝!」

 ヒカルとくるみが声を荒げる。光輝の怒りを見かねたくるみは、彼を追って家を飛び出していく。

「アイツには悪いが、こうしたほうがアイツのためだ・・いい刺激になる・・・」

 士はあまり悪ぶれた様子を見せずに、外に出て行った。

「光輝さん・・・」

 荒んだ空気の中、ヒカルは不安と心配の色を隠せなくなっていた。

 

 光輝は士の態度がどうしても許せなかった。彼の尊大な態度が、仮面ライダーにふさわしくないと感じたからだ。

 人々に自由と希望を、子供たちに夢を与えるのがヒーロー。その代表格である仮面ライダーが、そのような立ち振る舞いであってはならない。

 その人物像とかけ離れていた士を、光輝はどうしても許せなかったのだ。

「何であんなのが・・何であんなのが、仮面ライダーなんだ・・・!?

 込み上げてくる怒りを抑えることができず、そばの壁を殴りつける光輝。気持ちを落ち着けようと考えるも、憤りは彼の意に反して増すばかりだった。

「何をそんなに荒れている?」

 そこへ声をかけられて、光輝が顔を上げる。その先には彼の見知った青年がいた。

 海道(かいどう)竜也(たつや)。正義や世界の法に見放されて、正義に強い憎悪を抱いている。邂逅を果たした光輝と交流を持つが、正義を理由に分かり合うことができないでいた。

 彼は憎悪を持った際にドラゴンガルヴォルスとなったが、そのことを光輝は知らない。

「竜也くん・・・うん・・ちょっとあって・・・」

「バカみたいに信じてきた正義にでも裏切られたか・・・?」

 言いかける光輝を嘲る竜也。当たらずも遠からずの反応を見せる光輝に、竜也は眉をひそめる。

「お前は今までオレに、正義について言い聞かせてきた・・そのお前が、正義に対して疑念を抱くとはな・・見下げ果てたものだ・・」

「正義に疑念なんて持ってない・・でもその正義に反する態度が許せないだけなんだ・・・」

 嘲る竜也に、光輝が自分の気持ちを告げる。その言葉を、竜也はさらに鼻で笑う。

「いかにも正義の敵は悪だと言わんばかりの考えだな・・呆れてものもいえない・・」

「みんなを守ることが悪いことであるわけがない・・みんなを傷つけることが、いいことであるわけがない・・」

「だったら本当にいいこと、悪いことは何なのか、よく理解しておくんだな・・」

 冷徹に告げる竜也に、光輝は返す言葉がなくなってしまう。立ち尽くす彼に目を向けてから、竜也は歩き出す。

「本当のいいことと悪いことか・・」

 竜也の言葉を思い知らされて、光輝は物悲しい笑みを浮かべていた。

「光輝!」

 そこへ光輝を追いかけてきたくるみが駆け込んできた。

「くるみちゃん・・・」

 くるみの登場に光輝が戸惑いを浮かべる。

「・・らしくなかったね・・さっきの光輝・・あれだけ怒る光輝、初めて見るかな・・・」

「・・ゴメン、くるみちゃん・・ヒカルちゃんも光太郎さんも、心配してるよね・・・」

 くるみの言葉を聞いて、光輝が物悲しい笑みを浮かべる。

「ヒカルちゃんなら大丈夫よ・・光輝よりしっかりしてるから・・・」

「その言い方・・いい気分がしないよ・・・」

 くるみの言葉に光輝が気落ちして肩を落とす。

「もう少し気持ちを落ち着けてから帰るよ・・ホントにゴメン・・・」

 光輝はくるみに言いかけると、夢遊病者のように歩き出していった。

「光輝・・・」

 光輝の後ろ姿を見て、くるみは困惑を隠せなくなっていた。

 

 士との戦いを中断して撤退してきた正。荒くなっていた息を落ち着けてから、正は大介と靖子に声をかけた。

「やっとディケイドが現れたぞ・・」

「何?ディケイドが?」

 正の言葉を聞いて、大介が眉をひそめる。

「世界の破壊者、ディケイド・・ようやく姿を現したか・・・」

 ディケイドである士の登場に、大介が歓喜の笑みを浮かべる。

「もう1度オレに行かせてくれよ・・アイツとなら十分楽しいバトルができそうだからよ・・」

「好きにしろ。だがそろそろオレたちも本格的に動き出さないといけない頃合いだ・・」

 呼びかけてくる正に、大介が淡々と言いかける。

「ディケイドだけじゃなく、RX、ファイズもこの世界にやってきている・・他の仮面ライダーがこの世界に訪れる可能性は否定できない・・」

「そうね・・でもここにやってくるのは、世界を守ろうとするライダーばかりじゃない・・中にはライダーに敵対する、私利私欲に走る者もやってきている・・」

 大介に続いて靖子も語りかける。

「そろそろあの男がライダーと接触してくる頃でしょうね。私もそろそろ出て行くことにするわ・・」

「ベータの力を確かめるのか・・だがディケイドに会ったら、やることは分かっているな・・・?」

「分かっているわ・・私たちはベータ、ガンマがある。アルファはあなたに渡すわ・・」

 言いかける大介に、靖子が淡々と言いかける。

「これからは別行動ね・・2人とも、攻を焦ることがないように・・」

「分かってますよ、姉さん・・姉さんも気をつけて・・」

 言いかける靖子に、正が気さくに声をかける。

「まだ試合は始まったばかりだ・・本格的な動きはここから始まる・・」

 大介が口にした言葉に、正と靖子が頷く。各々の行動と目的のため、正と靖子は動き出した。

(そうだ・・この世界も、オレの居場所じゃない・・オレの居場所にならない世界など、オレが叩き潰してやる・・・!)

 大介の胸中に激しい憎悪が渦巻く。

 大介は高校まで野球を続けていた。だが部員や先輩、さらには学校ぐるみのいじめにあい、彼は野球をするには大きな支障となる後遺症を抱えてしまった。

 大きな迫害を受けた大介は、その憎悪に駆り立てられたことでガルヴォルスに転化した。その力と狂気を振るい、大介は自分のいた世界を破壊してしまった。

 その後、自分にふさわしい居場所を求めて、大介は別次元の世界を転々としてきた。だがいずれも自分に排他的な様相を呈していたため、彼はその全てを破壊していった。

 そんな中で、大介は「世界の破壊者」と呼ばれているディケイドの存在を知る。同時にクリスタルユニットの起源と呼べる3機、アルファ、ベータ、ガンマの存在も。

(クリスタルユニットは、アルファから始まり、オメガで開発が打ち切られている・・アルファは最初のクリスタルユニットでありながら、ユニットの中で最強の力を備えている・・その力を手に入れるのはオレだ・・・)

 野心を膨らませていく大介が眼を見開き、洞窟から外に出る。

(オレは全てを手に入れる・・オレを追い出した連中を後悔させてやる・・・!)

 その野心に駆り立てられて、大介が哄笑を上げる。彼らの企みが、本格的に動き出そうとしていた。

 

 光輝と別れた竜也は、太陽に点在する大黒点を見つめていた。彼もこれから起きる異変を予感していた。

(これから何かが起こる・・その何かがオレにとっていいことなのか、悪いことなのか・・見定める必要がある・・)

 胸中で呟きかける竜也が、事の成り行きを見守ろうとしていた。

「おかしなことが起こってるみたいだな・・お前もそう感じてるんだろ?」

 そこへ声がかかり、竜也が振り返る。彼の前に士が姿を現した。

「お前は誰だ?オレに何の用だ?」

「通りすがりの・・・そんなことより、お前、ただの人間じゃないな?」

 問いかける竜也に士が逆に問い返す。その言葉に竜也が眉をひそめる。

「そんなことは大した問題じゃない。この世界で起きている異変が何なのかを教えてくれ。だいたい分かれば、オレ1人で十分だ。」

「その態度・・お前も思い上がった人間の1人か・・・!」

 士の尊大な態度に激昂する竜也の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。自分が正しいと言い放つ士の態度が、竜也の逆鱗に触れた。

 竜也の姿が竜の姿に似たドラゴンガルヴォルスへと変貌していく。

「やっぱり、人間じゃなかったようだな・・・変身・・・!」

Kamen ride Decade.”

 呟きかける士がディケイドに変身する。強い憎悪をたぎらせる竜也を、士は迎え撃とうとしていた。

 

 

第3章へ

 

小説

 

TOP

inserted by FC2 system