仮面ライダーオメガ Legend of Riders
第3章
巧の疑問に答えつつ、太一と弥生も自分たちの知る限りのことを話した。やや納得していない部分が残っていたが、巧はあえて言葉を留めた。
「今起きていることが僕たちにも影響を与えるなら、僕も戦わないといけない・・巧さんはどうするの・・?」
「面倒に関わるのは気が乗らないが、乗りかかっちまった船だ。こうなったら付き合うしかないだろう・・」
太一が問いかけると、巧が憮然さを浮かべながら答える。
「ありがとうございます・・あなたのような人がいるなんて、とても心強いです・・・」
「そんな立派なもんじゃねぇよ・・オレも、自分に自信がないヤツだから・・・」
感謝の言葉をかける弥生に、巧が憮然とした態度で言いかける。
巧ははじめ、自分の夢を持っておらず、また自分自身の自信のなさから自分が人を裏切ったり誰かを襲ってしまうのではないかという不安を抱えていた。彼の無愛想や悪態はその裏返しである。
「でも行動する前に、私たちの友人と合流しましょう。太一くんと同じく戦っている人たちなんですけど・・」
「それはゴメンだね。オレは騒がしいのが苦手だ。行くならお前らだけで行ってくれ・・」
弥生の言葉に巧が憮然さを見せて断る。その返答に弥生は困り顔を浮かべる。
「ここでも中途半端でいるようだな・・」
そこへ声がかかり、太一たちが振り返る。彼らの前に1人の青年が現れた。
その青年に対して、巧が眼つきを鋭くする。彼は青年のことを知っていた。
草加雅人。戦闘用外部装置「カイザ」の装着者である。普段は冷静と温厚を装っているが、本質は自己中心的で感情的。自分の目的のためなら狡猾な手段も厭わず、自分に好意を示さない人に対しては冷徹な態度を見せる。
ファイズである巧と共同戦線を張ることもあるが、好意を示さない相手として敵意を向けることも多い。
「お前もここに来てたのか・・草加・・・?」
巧が憮然さを保ったまま、雅人に声をかける。
「まさかここで貴様と会うとはな・・丁度いい。ここで貴様を叩き潰してやる・・」
「こんなところまで来てお前と勝負する気にならねぇんだが・・聞き入れるお前じゃねぇな・・」
敵意を向けてくる雅人に、巧がため息をつく。
「オレに好意を寄せないヤツは、邪魔者以外の何者でもない・・お前がいると、オレには迷惑にしかならないんだよ・・・」
雅人は冷徹に告げると、携帯電話「カイザフォン」を取り出し、「913」と入力する。
“Standing by.”
「ENTER」を押すと、携帯電話から音声が発せられる。ただしその音声はファイズのものとは異なっている。
「変身!」
“Complete.”
カイザフォンをベルトにセットすると、雅人の体を装甲が包み込む。形状はファイズに似ていたが、その基調は黄色となっていた。
「やるしかねぇってことか・・・」
腑に落ちないながらも、巧は雅人の挑戦を受けることにした。ファイズに変身するべく、彼はファイズフォンを取り出す。
そのとき、突如ファイズフォンが弾かれて、巧の手元から離れる。振り返った先にはサソリに似た姿のスコーピオンガルヴォルスがいた。
「変身させなければ、そんなに厄介になることはないからな・・・」
「ガルヴォルス・・こんなときに・・・!」
不気味な笑みを浮かべるスコーピオンガルヴォルスに、太一が毒づく。素早く飛び込んできたスコーピオンガルヴォルスに組み付かれ、巧が押さえ込まれる。
「巧さん!」
悲痛の声を上げる弥生だが、迂闊に助けることができず、その場に立ち尽くすしかなかった。
「とんだ邪魔が入ったな・・だが手間が省ける・・」
雅人は巧を助けようとせず、攻撃の機会を伺っていた。
「このままでは巧さんが・・!」
焦りを覚える太一がクリスに変身しようとした。
その瞬間、巧の頬に異様な紋様が浮かび上がってきた。その変化に眼を疑う太一の前で、巧はスコーピオンガルヴォルスを蹴り飛ばす。
立ち上がった瞬間、巧の姿が異形の怪物へと変化する。その容姿は狼に酷似していた。
「えっ・・・!?」
「巧、さん・・・!?」
弥生と太一が巧の変貌に驚愕する。巧が一瞬2人に目を向けてから、スコーピオンガルヴォルスを鋭く見据える。
ガルヴォルスとは別種の人類の進化である「オルフェノク」。幼い頃に事故で死に掛けたとき、巧はウルフオルフェノクとなって蘇っていた。人間として生きていこうとしている彼は、滅多にオルフェノクの姿を見せることはない。
「ガルヴォルス・・・ううん、少し違う・・・!」
声を振り絞って呟きかける太一。再び飛びかかってきたスコーピオンガルヴォルスを、巧は素早い動きでかいくぐっていく。
「あれが乾巧というヤツの正体だ・・人間のフリをした怪物だったということだ・・」
雅人が冷淡な口調で太一に言いかける。その言葉に太一は動揺を覚える。
「君たちが関わっていたのは、人間を騙すけがれたヤツに他ならない。君たちも、できることならあまり関わらないほうがいいな・・」
雅人の言葉を受けて、太一は巧を見つめる。異形の姿になっているものの、巧はスコーピオンガルヴォルスに懸命に立ち向かっていた。
「確かにあの姿は怪物だよ・・でもその中身は、巧さんのままだ・・・」
太一が巧への信頼を込めた言葉を口にする。
「ガルヴォルスや怪物全部が悪いわけじゃない・・悪いのは姿が怪物であることじゃなく、心が怪物になっていること・・・人間もガルヴォルスも、関係ない・・・!」
「分からないヤツだな、君は・・あの姿を見ても、アイツは敵じゃないとでも言うのか・・・!?」
「僕からしたら、あなたのほうが僕たちの敵って感じだよ・・僕たちも、みんなを陥れようとしている・・・」
語気を荒くする雅人に、太一が困惑を含めながら言いかける。その言葉を聞いて、雅人が落胆を見せる。
「貴様もオレの敵・・そういうことでいいのかな・・・!?」
ついに太一を敵として認識してきた雅人。その敵意に畏怖しながらも、太一は勇気を振り絞る。
「変身・・・!」
ベルトに水晶をセットして、太一がクリスに変身する。
「僕たちを陥れる敵として、君は倒さなくちゃいけない・・・」
「貴様のようなヤツが、オレに勝てるのかな・・・!?」
自分自身を威圧するような言葉を口にする太一に、雅人が鋭く言いかける。クリスとカイザ。2人の戦士が対峙しようとしていた。
ヒカルと光太郎とは別行動を取ることにした一矢。彼は先ほど戦った男、正の行方を追っていた。
(アイツなら何かつかんでいるはずだ。きちんと教えてもらうとしよう・・)
胸中で呟きかける一矢が、悠然と捜索を続ける。
「おや?そこにいるのはギガスちゃんじゃあーりませんかー。」
そこへ声がかかり、一矢が足を止めて振り返る。彼の前に正が姿を現した。
「わざわざ君のほうからやってきてくれるとは・・丁度聞きたいことがあったんだ・・」
「悪いけど黙秘権を行使します。それと、オレはディケイドを倒さないといけないんだよねぇ・・」
悠然と声をかける一矢だが、正はひょうきんな態度を見せるばかりだった。
「君の知りうる全てのことを話してもらおう。それともオレに倒されるのを望むかい?」
「もうひとつ選択肢があるぞ・・お前がオレに倒される。それで終わりだ・・・」
悠然さを保つ一矢に対し、正がひょうきんさを消して冷徹に告げる。
「変身・・・!」
水晶をベルトにセットして、正が装甲をまとう。「ガンマ」の力を得た彼が、一矢を見据える。
「面倒なのはゴメンだ・・手っ取り早く片付けさせてもらうぜ・・」
「その意見だけには賛同させてもらう・・・変身。」
低く告げる正に答えて、一矢もベルトに水晶をセットする。ギガスに変身した彼が、正を指差す。
「オレに勝てるヤツなどいない。後悔せずに引き上げるなら今のうちだぞ・・」
「ふざけろ!」
強気に射掛ける一矢に、正が怒号を上げる。真正面から向かってくる彼を、一矢が迎え撃つ。
ガムシャラに攻撃を仕掛けてくる正を、一矢は難なく対応していく。いきり立った正が、棒「ガンマロッド」を手にする。
反撃に転じた正が繰り出したガンマロッドが、一矢のまとうギガスの装甲を叩き、火花を散らす。
「ほら!そんなもんなのかよ、ギガスの力は!?」
一矢に向けて挑発的な言葉を浴びせる正。しかし一矢は冷静だった。
正が振り下ろしてきたガンマロッドを、一矢は右手で受け止める。
「ぬっ!?」
武器をつかまれたことに驚愕する正。一矢の手を振り払おうとするが、ガンマロッドはビクともしない。
「身の程知らず、かつ緩慢な気構えだな・・それでオレに挑もうなど、笑止千万・・」
「こんなヤツに・・オレが負けるってか・・・笑えねぇ・・笑えねぇ冗談だぜ!」
嘲笑する一矢に、激昂した正が力任せに押し切ろうとする。だがそれも叶わず、一矢はガンマロッドを振り上げて、正もろとも投げつける。
地面に叩きつけられてうめく正。一矢がギガシューターを手にして、その銃口を正の顔面に突きつける。
「では話を聞かせてもらおうか。君たちは何を企んでいる?あの太陽の黒点と何か関係のあるのかい?」
「さぁな・・オレは楽しいバトルがしたいだけだって・・そのためにわざわざガンマユニットを手に入れたわけよ・・・」
尋問する一矢に、正が不敵に笑って言いかける。すると一矢がギガシューターを下げた。
「そうか・・ならば仲間のところに案内しろ。お前だけで騒ぎを引き起こしているとは考えられない。お前の代わりに仲間から聞き出す。」
「そんなこと・・オレの知ったことじゃない!」
呼びかける一矢に対し、正が突然起き上がる。だが彼が振りかざしたガンマロッドは、身をかがめた一矢にかわされる。
「理解力がないというのは、実に滑稽なことだな・・・」
正の言動に呆れ果てる一矢。彼は水晶を甲にはめ込んでいた右手を、正が装着しているベルトに叩き込む。
すると正が装備しているベルトと水晶から閃光が放出する。これは水晶に集束されていた正の精神エネルギーだった。
「くそっ!・・こんなふざけたこと・・あるわけが・・・!」
精神エネルギーの奔流に巻き込まれて、正は消滅してしまった。その末路を、一矢は真っ直ぐに見据えていた。
「往生際が悪いというのは実に滑稽だな・・手がかりを見失ってしまったが、近いうちにヤツの仲間がやってくることだろう・・」
一矢は嘆息をつくと、振り返って移動を始める。だがそのとき、彼は疲弊を覚えてその場にひざを付く。
「・・少し力を使いすぎたか・・オレをここまでさせるとは、ヤツもそれなりにできるということか・・」
毒づく一矢が休息を取ろうと、ギガスへの変身を解除しようとした。
そのとき、一条の閃光が飛び込み、一矢に直撃した。その衝撃で彼のまとうギガスの装甲から火花が散る。
「ぐっ!・・何だ、今のは・・・!?」
突然のことに毒づく一矢。彼は閃光の飛んできたほうに振り返る。
その瞬間、再び閃光が飛び込み、一矢の体を絡め取った。拘束された一矢が宙に上げられ、遠くに放り投げられた。
「ぐあっ!」
絶叫を上げて横転していく一矢。彼が見た先には、不気味な緑の眼光が煌いていた。
スコーピオンガルヴォルスとの交戦の最中、ファイズギアを落としてしまい、やむなくウルフオルフェノクとなった巧。巧はその俊敏さでスコーピオンガルヴォルスの攻撃をかいくぐり、ファイズギアを拾い上げる。
スコーピオンガルヴォルスを見据えたまま、巧が人間の姿に戻る。
「どういうつもりだ?なぜ人間の姿に戻る?」
その変化にスコーピオンガルヴォルスが疑問を投げかける。
「オレは人間だ・・本当なら、こんな姿になる必要なんてねぇんだ・・・」
「何っ?」
巧の告げる言葉に、スコーピオンガルヴォルスが疑問符を浮かべる。巧はファイズのベルトを身に付け、ファイズフォンに変身コードを入力する。
「オレは戦う・・人間として、ファイズとして・・・!」
“Standing by.”
決意を口にする巧が、ファイズフォンを高く掲げる。
「変身!」
“Complete.”
ファイズフォンをベルトにセットして、巧がファイズに変身する。決意と夢を秘めた彼が、改めてスコーピオンガルヴォルスを見据える。
「さっきの姿になっていたほうが、楽だったのではないのか?」
スコーピオンガルヴォルスはあざ笑いながら、巧に飛び掛る。だが巧が繰り出した打撃を受けて突き飛ばされる。
「どういうことだ!?さっきより力が上がっている!?」
「オレはもう迷わない・・みんなの幸せを、オレが守ってやる・・・!」
驚愕するスコーピオンガルヴォルスに言い放ち、巧が猛攻を仕掛ける。その攻撃に押されて、スコーピオンガルヴォルスは反撃することもできずに突き飛ばされる。
スコーピオンガルヴォルスが激しく横転したところで、巧がパンチングユニット「ファイズショット」を右手に装備する。
“Exseed charge.”
ファイズショットにエネルギーを充填させて、巧が飛びかかる。彼が繰り出した打撃が、スコーピオンガルヴォルスの体に叩き込まれる。
その攻撃を受けて、スコーピオンガルヴォルスが崩壊する。ガルヴォルスとの激闘を終えて、巧が振り返る。
その先で、太一と雅人の戦いは続いていた。太一は雅人の攻撃に悪戦苦闘していた。
それを見かねた巧が飛びかかり、雅人の攻撃を受け止める。この奇襲に毒づき、雅人が巧、太一との距離を取る。
「乾・・貴様・・・!」
妨害してきた巧に、雅人が苛立ちを浮かべる。
「もうやめろ、草加・・こんなところで戦ってる場合じゃない・・・」
「そんなにオレに倒されたい・・そういうことか・・・」
呼びかける巧だが、雅人は聞き入れようとしない。彼はカイザフォンを手にして、番号を入力する。
「そんなにオレの手で始末されたいなら・・望みどおりにしてやる!」
“Jet sliger come closer.”
巧に対して強い憎悪をむき出しにする雅人。「3821」と入力されたカイザフォンが音声を発する。
そのとき、太一たちのいる場所に、巨大なバイクが駆けつけてきた。
「な、何だ!?」
「アイツ!」
声を荒げる太一と巧。雅人が飛び上がり、そのバイクに乗り込む。
「ジェットスライガー」。ジェットエンジンによる高速移動を可能とする高性能バイクで、その巨体とスピードによる突進とミサイルなどの装備を武器とする。
雅人はジェットスライガーを駆り、太一と巧に向かって突進を仕掛ける。その突進に突き飛ばされ、2人が弾き飛ばされる。
「あんなの、どうやって相手にしたらいいんだ!?」
たまらず声を荒げる太一。雅人は標的を巧に絞り、さらなる突進を仕掛ける。
「何とかしないと・・このままだと僕よりも巧さんが・・・!」
太一が力を振り絞って立ち上がり、雅人を見据える。
「クリスレイダー!」
太一の呼びかけを受けて、1台のバイクが走り込んできた。
クリスレイダー。クリスユニット装着者のためのマシンで、スピード重視の性能となっている。
「おお!これはかなりの巨体だぞ、太一どの!」
ジェットスライガーを目の当たりにして、クリスレイダーが驚きと興奮の声を上げる。
「あのマシンを止めるんだ、クリスレイダー!僕と巧さんだけじゃ止められない!」
「かなり難しいが、やるしかなかかろう!」
太一の呼びかけにクリスレイダーが高らかに答える。太一はクリスレイダーに乗り、ジェットスライガーを駆る雅人を見据える。
「正面からぶつかるのは危ない・・上から攻撃しよう!」
「おうっ!」
太一の声に答えるクリスレイダーが形状を変える。タイヤが横になって収納され、横に翼が伸びてくる。
クリスレイダーのもうひとつの形態、「フライヤーフォーム」。フライヤーフォームはエアバイクの形状であり、飛行運転が可能となっている。
飛翔したクリスレイダーが、向かってくるジェットスライガーの上に回り込む。
「ちっ!ふざけたマネを!」
“Burst mode.”
舌打ちする雅人が、剣・銃一体型の武器「カイザブレイガン」を手にして射撃する。太一の駆るクリスレイダーが素早く旋回し、その射撃をかわす。
「逃げ回ってばかりだな・・だがこれはさけられない!」
雅人が言い放つと、ジェットスライガーからミサイルが放たれる。縦横無尽に飛び交う何十発ものミサイルをも、クリスレイダーは素早く回避していく。
「私は速さに長けている!その程度の速さで私を捉えることはできん!」
クリスレイダーが高らかに言い放つ。雅人の駆るジェットスライガーの一瞬の動きの弱まりを、太一は見逃していなかった。
ベルトの水晶を右足の脚部にセットして、太一が飛び上がる。
「クリススマッシャー!」
太一が繰り出した回し蹴りが、ジェットスライガーの胴体に叩き込まれる。彼の精神エネルギーを集束させたキックを受けて、ジェットスライガーが爆発を引き起こす。
「ぐあっ!」
叩き落とされた雅人が激しく横転する。苛立った彼はすぐに立ち上がり、デジタル双眼鏡型ポインティングマーカーデバイス「カイザポインター」を右足にセットする。
“Exseed charge.”
雅人が飛び上がり、太一に向けて両足での蹴り「ゴルドスマッシュ」を放つ。彼の反撃に太一が緊迫を覚える。
そこへ一条の閃光がほとばしり、雅人に直撃する。その光を受けた雅人が体勢を崩し、火花を散らしながら地面に落下する。
「何っ・・・!?」
突然のことに太一と巧も驚く。彼らが振り返った先には靖子の姿があった。
「なかなかの余興だった。だが、本当の戦いはこれからよ・・」
「あなたは誰ですか!?今のはどうやって・・!?」
淡々と言いかける靖子に、太一が問いかける。
「これはベータの力なのよー!」
「エネルギーの放出に強いのよー♪」
そこへ声をかけてきたのは、飛び込んできた2匹のコウモリだった。やや機械的な体で、それぞれ色は赤と黄色だった。
「あたしはキバット3姉妹次女、キバリン!」
「あたしは三女のキバルン♪よろしくね♪」
コウモリ、キバリンとキバルンが上機嫌に声をかけてくる。
「あたしたち姉妹がカイザを送り込んできたのよー!」
「なかなか楽しい勝負を見せてもらったよー♪」
「それじゃ、今回の事件や、太陽の黒点は君たちが・・!?」
キバリン、キバルンの言葉に太一が声を荒げる。すると靖子が哄笑を上げてきた。
「黒点はただの自然現象よ。私はその異変にかこつけて、この世界にやってきたに過ぎないわ・・私としては、このベータユニットを使って高みに昇っていきたいだけ・・」
「自分の目的のために、オレを利用したのか・・・貴様!」
靖子の言葉と態度に苛立ち、雅人が飛びかかる。
「せっかちな坊やね・・変身。」
妖しく微笑む靖子が、手にしている水晶をベルトにセットする。彼女の体を紫を基調とした装甲が包み込む。
クリスタルユニットのひとつ「ベータ」である。
靖子が装備されている武器「ベータウィップ」を手にする。これは通常柄のみで、その柄から精神エネルギーの鞭を発するのである。
靖子がベータウィップを振りかざす。その光の鞭を受けて、雅人のまとうカイザの装甲から火花が散る。
さらに光の鞭は雅人の体を絡め取り、遠く投げつけた。
「ぐあっ!」
「草加!」
声を上げる雅人に、巧も声を荒げる。雅人はそのまま、突如現れた空間の歪みの中に入り込み、姿を消した。
「邪魔者には退場してもらったわ・・次はあなたたちの番よ・・」
靖子は妖しく微笑むと、太一と巧に向けてベータウィップを振りかざす。巧も、速さに長けたクリスとなっている太一でさえも、靖子の振りかざすベータの力に翻弄される。
「ファイズは力を消耗しているし、クリスも精神エネルギーを使いすぎている・・単純に考えても、あなたたちが私に勝てる可能性はないわ・・ホホホホホ・・」
勝ち誇って哄笑を上げる靖子。ベータウィップの光の鞭に叩かれて、太一と巧が昏倒する。
ついに2人の変身が解除されてしまう。疲弊した彼らには、立ち上がることもままらなくなっていた。
「本当のショーはこれからよ。だからその開始前は生かしておいてあげる・・」
靖子は言いかけると、ベータへの変身を解除してこの場を離れる。彼女を追うこともできずにいる太一と巧に、弥生がたまらず駆け寄るのだった。
くるみと別れてからも、光輝は1人、夢遊病者のように歩いていた。彼はまだ心の整理がついていなかった。
「ハァ・・あんまり思いつめてもダメだ・・・そろそろ戻らないと・・くるみちゃんやヒカルちゃん、光太郎さんを心配させてはいけない・・」
ため息混じりに言いかけて、光輝は家に戻ることを決めた。
だがきびすを返したところで、光輝はその視線の先、コンビナートのほうで爆発が起こったのを目撃する。
「あの爆発・・もしかしてまたガルヴォルスが・・!?」
危機感を覚えた光輝が即座に駆け出す。彼はガルヴォルスと、大黒点の原因を作っているものの存在を予感していた。
事件の真相を求める士と、彼を偽りの正義を振りかざす敵と見た竜也。ディケイドとドラゴンガルヴォルスの壮絶なる戦いは続いていた。
戦況は士の優勢だった。彼の手にするソードモードのライトブッカーによる斬撃が、次々と竜也を切りつけていく。
「どうした?最初の勢いはどこへ行った?」
「オレは負けるわけにはいかない・・お前のような愚か者を倒さずに死ねば、世界は朽ち果てたままになる・・・!」
挑発してくる士に、竜也はさらに憎悪をあらわにする。
「オレはあんまり時間を取らされるのが嫌いなんだよ・・何か知ってないのか?」
「ふざけるな・・お前の求めているものなどに興味はない・・知っていたところで、お前のようなヤツに協力することは、オレの全てを否定することになる・・・!」
「仕方がないな・・お前にはもう用はないが、降りかかる火の粉は払わないとな・・」
竜也の態度にため息をつく士が、ベルトにカードをセットする。
“Final attack ride Decade.”
ベルトが音声を発し、士と竜也の間にカード状の光が10枚出現する。ライトブッカーを構えた士が、エネルギーを込めた一閃を放つ。
「お前のようなヤツに・・これは倒されるわけにはいかないんだ!」
怒りを爆発させた竜也が、剣を具現化して士を迎え撃つ。竜也が突き出した剣が光の刃とぶつかり、閃光と衝撃を轟かす。
竜也の剣は士のまとうディケイドの装甲の右肩に届いた。だが光の刃は竜也の体に叩き込まれて、彼を吹き飛ばす。
激しく横転した竜也が、苦痛のあまりに人間の姿に戻ってしまう。それを見た士もディケイドへの変身を解除する。
「大したヤツだ・・だがここまでだ。ホントに何も知らないのか?」
士が問いかけるが、竜也はうめき声を上げるばかりで答えようとしない。
「気が乗らない・・今回はここまでにしておく・・・」
「竜也くん!」
そこへ声が飛び込み、士が振り向く。その瞬間、彼は突如突き飛ばされ、さらに組み付かれる。
飛び込んできたのは光輝だった。駆けつけた彼は、傷つき倒れている竜也を助けるため、士に飛びかかったのである。
「逃げるんだ、竜也くん!今のうちに早く!」
「光輝・・お前・・・!?」
呼びかける光輝に、竜也が声を荒げる。
「いいから早く!僕が食い止めている間に!」
さらに呼びかける光輝に、竜也はやむなくこの場から離れる。光輝が安堵を覚えた瞬間、士に投げ飛ばされる。
「オレの邪魔をするとは、どういうつもりだ・・・!?」
「それはこっちのセリフだ・・人間である竜也くんに暴力を振るうなんて・・・!」
目つきを鋭くする士に、光輝も鋭く言い返す。
「お前、思いっきり勘違いしてるぞ・・アイツは・・」
「黙れ!・・・やっぱりお前は最低だ・・自分のことしか考えていない・・そんなのが、仮面ライダーを名乗っているなんて・・・!」
言いかける士の言葉をさえぎって、光輝が怒号を放つ。
「このまま見逃すわけにはいかない・・自由と平和を守るため、僕はお前を倒す!」
鋭く言い放つ光輝に、士はため息をつく。
「オレは全てを破壊する、世界の破壊者だ・・この世界も、お前の何かも、知らないうちに壊しちまってるかもしれないな・・」
士が自分への皮肉を口にする。周囲から破壊者と揶揄されることが多かったが、時折自分で口にすることもある。
「けど悪いな・・オレはわざわざやられてやるほどお人よしじゃないんでな・・向かってくるなら倒すだけだ・・・」
「僕は負けるわけにはいかない・・お前のようなヤツに、みんなの夢を壊されるわけにはいかないんだ・・・!」
低く告げる士と、鋭く言いかける光輝。士はカードを、光輝は水晶を手にする。
「変身・・・!」
“Kamen ride Decade.”
2人がそれぞれオメガとディケイドに変身する。彼らは互いを見据えながら構えを取っていく。
2人の仮面ライダーが今、体と魂の激突を開始しようとしていた。だがそれを見守る不気味な影の存在もあった。