仮面ライダーオメガ Legend of Riders

第4章

 

 

 事件の調査のため、水神家を出ていた光太郎。彼に同行していたヒカルは、当惑を抱えたままだった。

 光輝の様子も気になっていたが、ヒカルは別のことを気にしていた。それは彼女が見た夢のことだった。

「どうしたの、ヒカルちゃん?元気がないみたいだけど・・」

 光太郎が唐突にヒカルに声をかけてきた。

「光輝くんのことを考えているのかい?・・オレも心配ではあるけど・・」

「光輝さんのことも心配ですが・・今気にしていたのは違うんです・・」

 ヒカルが光太郎に、自分が抱えている不安を口にする。

「実は光太郎さん、あなたのことを夢で見ているんです・・RXの他に、別の黒い仮面ライダーになっているあなたを・・・」

「別の黒い・・・オレがBLACKだった頃か・・・」

 ヒカルが切り出した話を聞いて、光太郎はかつての自分を思い返す。

 RXの前身であるBLACK。このときの光太郎は、彼自身の心を大きく揺るがす運命に直面していた。

 秋月(あきづき)信彦(のぶひこ)。兄弟同然というべき光太郎の無二の親友で、彼と同じ日食の日に生まれている。

 だが光太郎とともにゴルゴムに捕まり、世紀王、シャドームーンに改造された。光太郎とともに脱出することができなかった信彦は、脳改造も施され、世紀王として光太郎に戦いを挑んだ。

 親友と戦うことに光太郎は苦悩した。正義と平和のために戦う決意をし、シャドームーンとの決着を付けた彼だが、信彦を救うことができず、深い悲しみと孤独への恐れを抱くこととなった。

 その苦しみと悲しみを胸に刻み、光太郎は仮面ライダーの一員として戦い続けてきた。

「ヒカルちゃん、君にも光輝くんにも、かけがえのない家族や仲間がいる・・その絆を、決して失ってはいけない・・」

「光太郎さん・・何を・・・?」

 光太郎の唐突な言葉に、ヒカルが戸惑いを浮かべる。

「オレには親友がいた。兄弟同様に過ごしてきた親友が・・だがオレたちは、親友同士で戦わなければならなくなってしまった・・・」

「光太郎さん・・・」

「オレが戦うことに迷ったために、人々は希望をなくしかけた・・だからオレは、地球を守るために戦った・・・できることなら、他のみんなにこの辛さを味わってほしくない・・君たちにも・・・」

 切実な願いを告げる光太郎に、ヒカルは小さく頷いた。記憶喪失に陥っていた彼女を、光輝やくるみは保護して支えてくれた。そのかけがえのない絆を大切にしたい気持ちは、彼女の中にもあった。

「そういえば、私が見た夢の中に、光太郎さんとは別の人がいたんです・・」

「オレとは別の人?」

 ヒカルが切り出した話に、光太郎が眉をひそめる。

「あの人も仮面ライダーなのでしょうか?・・緑の目と銀色の鎧のような体をしていて・・・」

「緑の目と銀色の体・・・まさか・・・!?

 ヒカルが告げた言葉に、光太郎が緊迫を覚える。

 そのとき、ひとつの影がヒカルと光太郎の前に飛び込んできた。2人の前に傷ついた一矢が落下してきた。

「か、一矢さん!?

「ぐっ!・・このオレが、あんなヤツに・・・!」

 驚愕の声を上げるヒカルに支えられながら、一矢がうめく。ただならぬものを感じて、光太郎が周囲を警戒する。

 そのとき、重厚な足音が、光太郎たちのいる荒野に響き渡った。その独特の足音に聞き覚えのあった光太郎は緊迫を覚える。

「どうしたのですか、光太郎さん・・・!?

 ヒカルが声をかけるが、光太郎は息を呑むだけだった。足音は徐々に彼らに近づいてくる。

 そして、その足音を立てて、ひとつの影が姿を現した。銀の装甲と緑色の目、仮面ライダーを思わせる風貌。重圧的なこの足音は、両足かかとに備わっている「レッグトリガー」によるものだった。

「信彦・・・!?

 その姿を目の当たりにした光太郎が声を振り絞る。彼の前に現れたこの人物こそが、秋月信彦、シャドームーンである。

「光太郎さん、この人です!私が夢で見たのは・・!」

 ヒカルがシャドームーンの姿を見て声を上げる。

「どういうことなんだ!?・・・信彦は・・シャドームーンは死んだはずだぞ・・・!」

 光太郎もシャドームーンの登場に目を疑っていた。

 シャドームーンはRXとの戦いで力尽き、その亡骸は信彦の姿に戻っている。シャドームーンが現れることは本来ならばありえないことである。

 だが夢か幻か、現にシャドームーンは慄然と立ちはだかっていた。

「ここにいたか、ブラックサンよ・・」

 シャドームーンが光太郎に声をかける。

(ブラックサン!?・・ゴルゴムが滅びてからのシャドームーンは、全ての記憶を失っているはず・・・!?

 その言葉に光太郎が疑念を抱く。かつてRXの前に現れたシャドームーンは、復活の際に全ての記憶を失っていた。

(オレがBLACKだった頃の、世紀王だったシャドームーンか・・・!)

「次期創世王の座を賭けて、私とお前は戦う宿命にあるのだ・・・来い、ブラックサン。正々堂々と私と戦え・・・!」

 思考を巡らせる光太郎に、シャドームーンが鋭く呼びかける。

「信彦・・お前は信彦ではないのか・・・!?

「信彦?そんな名前は忘れたな・・私はシャドームーン。次期創世王となるべく、ブラックサン、お前を葬り去る・・」

 呼びかける光太郎だが、シャドームーンは冷淡に告げるだけだった。脳改造も施されているシャドームーンは、信彦の記憶はあるもののその意識はない。

 今ここにいるのは、ゴルゴムに属していたときのシャドームーンに他ならなかった。

「勝負だ、ブラックサン・・今こそ決着を付けてやる・・・!」

「・・・分かった・・望むところだ、シャドームーン・・・!」

 シャドームーンの呼びかけに光太郎が答える。

「変身!」

 変身ポーズを取って、光太郎はRXに変身する。その姿にシャドームーンが驚きを覚える。

「その姿・・ブラックサン、仮面ライダーBLACKではない・・・!?

「仮面ライダーBLACKは、生まれ変わった!・・・仮面ライダー、BLACK!RX!」

 名乗りをするRXが、シャドームーンを見据える。

「この世界にも、正義と平和、仲間のために戦う者がいる・・だからオレも、この世界を守る!」

 決意を言い放つRX。だがそこへヒカルが駆け込み、沈痛な面持ちを見せる。

「ダメです、RX!あの人は、あなたの親友なんですよね!?・・友達同士で戦うことは、耐えられないことではないのですか・・・!?

 悲痛の声を上げるヒカル。友と戦う光太郎の心境を、彼女も痛烈に感じていた。

「君の気持ちは分かる、ヒカルちゃん・・しかし、やらなければならないんだ・・・」

 しかしRXの決意は変わらなかった。親友同士の戦いに対する苦悩と揺らぎを抑え込もうとしている彼は、これは自分が立ち向かわなければならないことだと分かっていた。

 同時にRXは悟っていた。今、自分の目に前にいるのは、信彦でも、自分がこれまで対面してきたシャドームーンでもない。自分の心と過去を映し出したかのように現れた、強大な敵なのだと。

 対峙するRXとシャドームーンが、それぞれ構えを取る。2人は距離を保ちながら移動し、相手の出方を伺う。

 2人は同時に飛び出し、突き出した右腕をぶつけ合う。さらに距離を詰めて、一進一退の格闘戦を演じる。

(どうして・・どうして友達同士で戦わないといけないの・・・!?

 この戦いを見つめて、ヒカルが悲痛さを募らせていく。

(光太郎さんの、仲間に対する気持ちは強い・・親友であるあの人と戦うことが、光太郎さんには辛いはずなのに・・・)

 ヒカルの心は大きく揺れていた。RXとシャドームーンの宿命の戦い。これを止めたいと思いながらも、それを行うことができない自分に、歯がゆさを感じていた。

(光輝さんだったら、こういうとき、どうするのでしょうか・・・?)

 ヒカルの意識は、いつしか光輝に向けられていた。

 

 その頃、士に向けて怒りを爆発させた光輝。だが士の振るうディケイドの力の前に、光輝は攻めあぐねていた。

「どうした?もっと攻めて来い。こんなもんじゃ勝負にならないだろう・・」

 士が口にする挑発に、光輝がさらなる怒りをあらわにする。

「ウォーミングアップはここまでだ。そろそろ力を発揮するとしようか。」

Kamen ride Kuuga.”

 士がベルトにカードをセットする。彼の姿がディケイドから別の姿に変化する。赤を基調とした姿だが、ベルトはディケイドのときのままである。

 これがディケイドの能力だった。士はディケイドの他、9人の仮面ライダーに変身することが可能なのである。

「どういうことなんだ・・アイツが、別のライダーに変身した・・・!?

 士の変身に光輝が驚愕する。士が光輝に詰め寄り、連続で打撃を繰り出していく。

 その打撃の中で、士の両手を稲妻がほとばしる。その衝動が彼のパンチ力を上げていく。

 その猛攻に押されて、光輝が突き飛ばされて横転する。

「攻撃力が上がっている・・ホントにどうなっているんだ・・・!?

「オレは他の仮面ライダーになれるんだ。このクウガもその1人だ・・」

 声を荒げる光輝に、士が淡々と言いかける。

「次はこれで行くぜ・・」

Kamen ride Agito.”

 士はさらにカードをベルトにセットして、別の仮面ライダーに変身する。金と黒を基調としたライダーに。

「どこまで仮面ライダーを侮辱すれば気が済むんだ・・お前は!」

 いきり立った光輝が飛びかかり、士に攻め立てる。しかし士の巧みな動きと驚異の力に、光輝は翻弄されてしまう。

「さて、今度はこれで行くぜ・・」

Kamen ride Ryuuki.”

 士がまた別のライダーに変身する。左腕には龍を模した武具が備わっていた。

「今度はこれまでのヤツとは少し違うぜ・・」

Attack ride Strike vent.”

 士がさらにカードをベルトにセットすると、左腕の武具から炎の弾が放たれる。だが光輝は横に飛んでかわし、さらに飛び蹴りで炎の弾を跳ね返して士に命中させる。

「くっ!・・ちょっと驚かしてやるか・・」

Attack ride Advent.”

 士がカードをベルトにセットすると、機械的な体の赤い龍がどこからか姿を現した。

「な、何だ!?

 驚きの声を上げる光輝に、龍が突進してくる。その巨体に跳ね上げられると、光輝はそのまま地面に叩きつけられる。

「こ、こんなのありなのか・・・!?

 うめきながら立ち上がる光輝。

Kamen ride Faiz.”

 士がさらに別のライダーに変身する。メカニカルなイメージのある様相のライダーである。

 怯んでいる光輝に向かって、士が飛びかかる。彼はパンチの連続で、光輝をさらに追い込んでいく。

 だが踏みとどまった光輝が、士が繰り出したパンチを受け止める。振り払おうとする士だが、両手をつかまれて引き離すことができない。

 光輝が力を振り絞り、士を投げ飛ばす。横転しながらも、士はすぐに体勢を整えて立ち上がる。

「やってくれるじゃないか・・だったらこれならどうだ・・・!」

Kamen ride Blade.”

 士がまた別のライダーに変身する。スペードをモチーフにした青を基調としたライダーだった。

 士はソードモードのライトブッカーを手にして、光輝に振りかざす。その攻撃を受けて、オメガの装甲が火花を散り、光輝が怯む。

「コイツに耐えられるかな?」

Final attack ride Blade.”

Slash,Thunder,Lightning slash.”

 士がベルトにカードをセットすると、ライトブッカーの刀身に稲妻がほとばしる。彼は光輝に向かってライトブッカーを振りかざす。

「負けるか!ライダーチョップ!」

 光輝がすぐさまベルトの水晶を右手の甲にセットして、メガスラッシャーを放つ。2つの一閃がぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 攻撃の反動で弾き飛ばされる光輝と士。互いに決め手を欠かされて、2人は歯がゆさを募らせていく。

「叩き切るのはムリか・・だったら・・・!」

Kamen ride Hibiki.”

 士がまた別の仮面ライダーに変身する。紫を基調とした鬼を思わせる風貌である。

Attack ride Ongekibou rekka.”

 さらにカードをベルトにセットした士が、2本の棒を手にする。その先端に紅い炎が灯る。

 士が飛びかかり、炎の棒を振りかざす。回避を試みる光輝だが、太鼓のバチのように振り下ろされる炎の棒に叩きつけられ、突き飛ばされる。

 体に火が移るが、光輝は横転してその日をかき消す。士はまた新たなカードを取り出していた。

「ちょっと歯食いしばってろよ・・」

Kamen ride Kabuto.”

 士がまた別のライダーに変身する士。カブトムシをモチーフにしたライダーである。

「よそ見してると、死ぬぜ・・・!」

Attack ride Clock up.”

 士がさらにカードをベルトにセットする。次の瞬間、士の姿が光輝の視界から消える。

 さらに次の瞬間、光輝が後方に突き飛ばされる。

「な、何だ・・・!?

 何が起こったのか分からず、声を荒げる光輝。しかし彼の目は士の姿を捉えていなかった。

 これが士の変身したライダーの能力、「クロックアップ」だった。目にも留まらぬ超高速を行うもので、相手は視認することができない。使用者にとっては周囲がスローモーションのような動きに見えており、相手を突き飛ばした直後にすぐさま背後に回りこむようなことも可能なのである。

(攻撃しているのか・・なんて速い攻撃なんだ・・・!)

 士の速さに毒づく光輝。攻撃を仕掛けられていることは理解していたが、その高速についていけず手も足も出なかった。

(何とかしないと・・このままじゃやられる・・・!)

「メガフラッシャー!」

 光輝が叫ぶと、ベルトの水晶から精神エネルギーの閃光が放たれる。超高速で動いていた士だが、障壁のように展開された閃光に弾き飛ばされて、高速化を阻害される。

 エネルギーを消耗してひざを付く光輝と、不意を突かれて怯む士。

「まさかこんな手で跳ね返されるとはな・・・だったら次はこれだ・・・!」

Kamen ride Den-o.”

 またさらに別のライダーに変身する士。

「久しぶりにアレをやってみるか・・」

Attack ride Ore sanjou

「オレ、参上・・」

 士が独特のポーズを構える。しかしそれだけで、他に何も起こらない。

 戦いとは全く違う静寂が訪れる。気まずさを覚えた士が、また新しくカードをベルトにセットする。

Attack ride Kotae ha kiitenai.”

 士の変身しているライダーのフォームが紫を基調としたものに変化する。その後軽やかなステップをしてから、

「答えは聞いてない・・」

 だが再び重い空気が押し寄せてきた。まるで時間が止まったかのように、光輝も士もしばらく動けなかった。

 その静寂の中、光輝がゆっくりと士に近づく。2人の距離が間近となったところで、

「ふざけるな!」

 光輝が放ったパンチと怒号が、この重苦しい静寂を打ち破った。殴打された士が倒れて横転する。

「くっ・・さすがにオレもふざけたと思う・・・もうお遊びはなしだ!」

Kamen ride Kiva.”

 士がさらに別のライダーに変身する。コウモリ、バンパイアをモチーフにした容姿にライダーである。

「いろいろ見せてやりたいところだが、そろそろフィニッシュだ・・・!」

Final attack ride Kiva.”

 士がカードをベルトにセットすると、彼と光輝のいる周囲が、昼間であるにもかかわらず暗くなった。

「な、何だ・・・!?

 この異変に緊迫を覚えながらも、光輝はとっさにベルトの水晶を右手の甲にセットする。同時に士が飛び上がり、光輝に向けて蹴りを繰り出す。

「ライダーパンチ!」

 光輝はこれをメガブレイカーで迎え撃つ。だがパンチがキックより劣っていたため、光輝が大きく突き飛ばされる。

 着地した士が、倒れた光輝を見下ろす。空が昼の明かりを取り戻す中、彼はディケイドに戻る。

「いい加減に懲りただろ?お前のような子供染みたヤツには、オレはどうにかできない・・」

「ま・・待て・・・!」

 士が立ち去ろうとしたとき、光輝が声をかけてきた。光輝は力を振り絞って、ゆっくりと立ち上がってきた。

「負けられない・・ここで負けてしまったら、みんなの夢がお前に壊されてしまう・・・」

「夢・・・」

「だから・・オレはどうしてもお前を倒さなければならないんだ!」

 声を張り上げる光輝。オメガのベルトにはめ込まれている水晶が、淡く輝いてきていた。

「その諦めの悪さは感心するな・・だが、今度こそ終わりだ・・・!」

Final attack ride Decade.”

 言い放つ士がベルトにカードをセットする。光輝もベルトの水晶を右足の脚部にセットする。

 士と光輝の間に、カード状の光が10枚出現する。2人が同時に飛び上がり、キックを繰り出す。

 カード状の光が士の突き出した右足に集約されていく。同時に光輝の右足にも彼の精神エネルギーが集束されていく。

 士のディメイションキックと光輝のメガスマッシャーが衝突し、荒々しい閃光と轟音を巻き起こす。2人は拮抗し、互いに退かない。

「負けられない・・僕は絶対に負けるわけにはいかない・・・!」

 光輝が声を振り絞ると、脚部の水晶の輝きがさらに強まっていく。

「たとえこの体がどうなろうと、自由と平和、子供たちの夢を守るために戦う・・それがヒーローなのだから!」

「何っ!?

 その輝きが閃光のように煌く。声を荒げる士が押され、その体にメガスマッシャーが叩き込まれた。

 痛烈な一撃を受けて激しく横転する士。倒れ込んだところで、彼のディケイドへの変身が解除される。

 持てる力の全てを出し尽くした光輝が着地する。あまりにもエネルギーを消耗してしまったため、彼もオメガへの変身が解除されていた。

 

 RXとシャドームーンの激闘は続いていた。しかし互いに攻めきれず、戦況は拮抗したままだった。

(RX、どうしてロボライダーやバイオライダーにならないのでしょうか?・・これでは消耗戦になるばかり・・・)

 ヒカルがおもむろにRXの心配をする。RXは未だに2段変身を行おうとしない。

 しないのではない。できないのである。RXは以前シャドームーンと戦ったとき、その能力をモニターされ、2段変身の弱点さえも見抜かれて危機に陥っている。下手にロボライダー、バイオライダーに変身すれば逆にピンチに陥ることになりかねない。

 激しい攻防の中、RXは打開の糸口を必死に探っていた。

「どうした、RX?生まれ変わったお前の強さはその程度か!?

 組み合ったところ、言い放つシャドームーンが右ひじの強化装具「エルボートリガー」を振りかざす。その刃がRXの体を斬りつける。

 怯んで後ずさりするRX。そこへシャドームーンが立て続けに攻撃を繰り出す。

「シャドーパンチ!」

 エルボートリガーの振動により威力が増したシャドームーンの一打が、RXの体に叩き込まれる。突き飛ばされたRXが、体から火花を散らして激しく横転する。

「RX!・・光太郎さん!」

 悲鳴を上げるヒカルが、たまらず飛び出す。歩を進めるシャドームーンの前に彼女が立ちはだかる。

「もうやめてください!あなた、光太郎さんの親友なんですよね!?

 呼びかけてくるヒカルの眼前で、シャドームーンが足を止める。

「だったら、親友同士で戦うことないじゃないですか!あなたは光太郎さんと戦うことを、何とも思わないのですか!?

「私はシャドームーン。過去はない。ブラックサン、仮面ライダーを葬る存在だ。」

 ヒカルの呼びかけを、シャドームーンは冷淡に一蹴する。世紀王としての意識に駆り立てられている彼に、ヒカルの言葉は通じなかった。

「もういいんだ、ヒカルちゃん・・君の気持ち、オレには十分に伝わってきている・・」

 そこへ、立ち上がったRXが声をかけてくる。振り向くヒカルが戸惑いを浮かべる。

「光太郎さん・・・」

「ヒカルちゃん、君には優しい心がある・・その心を、決して失わせてはいけない・・・その美しい心を守るため、シャドームーン、オレは貴様を倒す!」

 ヒカルの優しさを受け止めたRXが、シャドームーンに向けて言い放つ。

「いいだろう、RX・・お前との戦いに終止符を打とう!」

 構えを取ったシャドームーンが、RXに向けて光線を放つ。ヒカルを抱えて、RXが跳躍して光線をかわす。

 ヒカルを下ろしたRXが、シャドームーンに向かっていく。2人の戦士の攻防はさらに続き、互いに距離を取る。

「シャドーフラッシュ!」

「キングストーンフラッシュ!」

 シャドームーンとRXが各々のベルトから閃光を放出する。2人の体に埋め込まれたキングストーンのエネルギーがぶつかり合い、稲妻のような衝撃を巻き起こす。

 そのエネルギーの反発を受けて、RXとシャドームーンが突き飛ばされる。だが2人はすぐに体勢を整えて、即座に飛び上がる。

「シャドーキック!」

「RXキック!」

 シャドームーンとRXがエネルギーを集束させた両足を突き出す。2人のキックがぶつかり合い、激しい衝撃が巻き起こり、ヒカルがたまらず眼を背ける。

 地上に落下するRXとシャドームーンだが、すぐに立ち上がり意識を集中する。

「シャドーセイバー!」

 シャドームーンがエルボートリガーから長短の剣を出現させる。

「リボルケイン!」

 RXもリボルケインを手にして、シャドームーンを迎え撃つ。2人が振りかざす刃が激しくぶつかり合う。

 だがシャドームーンは短剣でリボルケインを防ぎ、長剣でRXの体を斬りつける。怯んだところに畳み掛けられ、RXは劣勢を強いられる。

 シャドームーンがシャドーセイバーから稲妻のような光線を放つ。RXもとっさにリボルケインを振りかざすと、その光刃が鞭のような形状に変わり、光線を絡め取る。

 シャドームーンはその光線を集束させ、光の刃にして解き放つ。RXもリボルケインをかざして光弾を放ち、光の刃にぶつけて相殺する。

 2人の体力は大きく消耗されていた。しかし2人は力を振り絞り、互いに向かって走り出す。

「信彦!」

 RXとシャドームーンがリボルケインとシャドーセイバーを突き出す。リボルケインはシャドームーンの腹部のベルトに、シャドーセイバーがRXの左わき腹に突き刺さる。

「ぐっ!」

「ぐあっ!」

 うめくシャドームーンとRX。2つの刃が双方から引き離され、2人が後退する。

「光太郎さん!」

 ヒカルがRXに駆け寄る。RX以上に、シャドームーンのほうがダメージは深刻だった。

「もうやめるんだ、信彦・・オレはこれ以上、お前と戦いたくはない・・・」

 RXが戦意を抑えて、シャドームーンに呼びかける。しかしシャドームーンはRXへの敵意を消さない。

「オレこそが次期創世王だ・・お前を倒すことが、オレの全てだ・・・!」

 疲弊している体に鞭を入れて、シャドームーンが声を振り絞る。しかし今の彼に戦う力が残っていないことは明らかだった。

「やはり信彦ではない・・オレの心が映し出した、悪夢に等しい幻・・・」

 RXが改めて、目の前にいるのが自分の知る信彦やシャドームーンでないことを悟る。同時に彼は、自分たちの悲劇を増やさないために、自由と平和を守るために戦っていくことを心に決めた。

 そのとき、突如周囲にエネルギーの奔流が湧き起こる。その衝動にRXとシャドームーンが警戒し、ヒカルが不安を覚える。

 そこへ一条の稲妻のような閃光が飛び込んできた。その光がRXの腹部にある「サンバスク」に直撃する。

「ぐあっ!・・しまった・・!」

 うめくRXがその場でひざを付く。太陽エネルギーを蓄えるシステムであるサンバスクが破壊されると、本来のパワーと能力が発揮できなくなってしまう。

「なかなか面白い勝負だった・・だがしかし、本当に面白い場面はここから始まる・・・!」

 RXたちに向けて高らかと声がかかる。彼らのいる荒野に、大介が姿を現した。

「お前は・・・!?

「オレの目的は別にあるが、余興の意味を込めてそこの女をいただかせてもらうぞ・・」

 声を荒げるRXに、大介が不敵な笑みを見せて言いかける。その言葉を聞いて、ヒカルが不安を覚える。

「ヒカルちゃん、逃げるんだ・・光輝たちのところに行くんだ・・!」

「でも、それでは光太郎さんが・・・!」

 呼びかけるRXに、ヒカルが悲痛の声を上げる。

「ヤツはオレが食い止める・・オレに構わずに行くんだ・・!」

「このままサヨナラなんてさせると思うか・・・!?

 さらに呼びかけるRXに言いかける大介の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がバッタに似た怪物、ホッパーガルヴォルスに変化する。

「これはオレとRXとの戦いだ・・誰にも邪魔はさせん・・・!」

 そこへシャドームーンが立ち上がり、大介の前に立ちはだかる。

「もう死にかけなのに・・邪魔をするなら、誰だろうと容赦なく叩き潰す!」

 大介が怒号とともに右手をかざし、球状の衝撃波を放つ。その直撃を受けてシャドームーンが突き飛ばされ、突如出現した空間の歪みに吸い込まれてしまった。

「信彦!」

 姿を消してしまったシャドームーンに、RXが声を上げる。

「はいはーい♪敗者にはご退場願いまーす♪」

 そこへ機械的な容姿のコウモリが飛び込んできた。青い体色のそのコウモリが、上機嫌に声をかけてきた。

「あのコウモリ・・まさか・・・!?

 ヒカルはそのコウモリに見覚えがあった。そしてコウモリも、ヒカルのことを知っていた。

「あなたとは夢で会ったね♪私はキバラン♪キバット3姉妹の長女♪よろしくね♪」

 コウモリ、キバランが声をかけ、ヒカルがさらなる不安を覚える。

「ご苦労だったな、キバラン。ここを済ませたらすぐに向こうに行くぞ・・」

 大介がキバランに言いかけると、跳躍してヒカルとRXの前に降り立つ。力を発揮できないままのRXが、ヒカルを守ろうとする。

「ヒカルちゃん、すぐに光輝くんのところへ!」

「邪魔だ!」

 呼びかけるRXに対し、大介が飛び上がって蹴りを繰り出す。ライダーキックに相当する威力を備えたその蹴りを受けて、RXが突き飛ばされる。

「光太郎さん!」

 RXに駆け寄ろうとするヒカルの腕を、大介がつかんでくる。

「放して!放してください!」

「お前には最高のショーを見せてやる・・このオレの理想の世界が誕生する瞬間を!」

 大介は言い放つと、ヒカルを連れてこの場から姿を消してしまった。

「ヒ・・ヒカルちゃん・・・!」

 ヒカルを追いかけようとするRXだが、立ち上がる力も今の彼にはなかった。サンバスクには太陽光線とキングストーンのエネルギーで再生される機能が備わっているが、再生されたのはヒカルと大介から大分離された後だった。

 

 

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