ガルヴォルス 第13話「パラサイト」

 

 

 街に侵入し、人々を同族へと進化させているパラサイト・ガルヴォルス。人間全てがガルヴォルスになることをあずみは恐れていた。彼女の話を聞いたたくみと飛鳥も。

 たくみたちはパラサイト・ガルヴォルスの行方を追うことにした。しかし、そんな中でたくみは、秀樹との付き合いに歓喜をわかせている和海を気がかりにしていた。

 この日も、たくみはレストラン前で待ち合わせをしていた秀樹と和海の前に現れていた。彼の出現に、和海は苛立ちを隠せなかった。

「いい加減にして!私たちの周りをウロウロされると、とっても迷惑なの!」

「けどなぁ、オレはお前のことが心配で・・」

「アンタは私の保護者じゃない!そんな過保護にされてもかえって困るのよ!」

 声を荒げる和海と呆れたように頭をかくたくみ。2人の様子を見ていた秀樹が口を挟む。

「たくみくん、ちょっといいかい?」

「え?」

「ちょっと2人だけで話をさせてもらえるかな?」

「ちょっと秀樹さん・・!」

 突然の秀樹の言葉に和海が慌てる。すると秀樹は和海に振り向いて、

「きみもあんまり彼に来られるのは辛いだろ?オレだけでたくみくんと話をしようと思うんだ。」

 秀樹が再びたくみに視線を向ける。たくみが不敵な笑みを見せて答える。

「いいぜ。あそこの駐車場の前で話そうぜ。」

 たくみがレストランの隣の駐車場を示す。秀樹が彼の言葉を聴いて頷く。

「和海、レストランで時間をつぶしててくれ。話が終わったらすぐに戻るから。」

「う、うん・・・」

 戸惑う和海に笑みを見せて、秀樹はたくみとともに移動していった。

 

「気兼ねすることはない。お互い、言いたいことははっきり言っておこうぜ。」

 駐車場前についたたくみが、秀樹に向けて不敵な笑みを浮かべる。すると秀樹も不敵な笑みを見せる。

「じゃ、まず聞いておこうか。なぜ、オレと和海が一緒にいるのが気に入らないんだ?オレのことがそんなに嫌いか?」

「気に入らない・・・確かにそうだな。アンタは人を騙す気がしてならねぇんだ。」

「騙す?オレがか?」

「それにツラが気に入らねぇ。小学生のとき、オレを勝手に班長にしたヤツに似てる。」

「おいおい、ガキの理屈だぞ、そりゃ。」

 たくみの言ったことに呆れる秀樹。自分でもそう思ったらしく、苦笑するたくみ。

「何にしてもだ。オレが単刀直入に言いたいのはひとつだ。」

 たくみが真剣な眼差しを向けて秀樹に物申す。

「これ以上、和海を危険な眼にあわしたくないんだ。」

「なるほど、きみは和海のことが好きなんだ。」

「なっ・・!」

 秀樹の悠然とした指摘に、たくみが言葉を出なくなってしまう。

「だから、オレと一緒にいる彼女に嫉妬している、と。」

「そ、そんなんじゃない!ただ、オレはアイツを守ってやりたいだけなんだ!」

「そうかい・・・でも、彼女を守ってやりたい気持ちは、オレにもある。何かあっても、必ずオレが守ってやるよ。」

 秀樹の言葉にふてくされるように振り返るたくみ。

「けど、もし和海を傷つけたなら、オレはアンタを許さない!これだけは覚えておいてくれよ。」

「フッ・・肝に銘じておくよ。でも、たくみくん・・」

 秀樹が言いかけて、立ち去ろうとしていたたくみが足を止める。

「きみこそ危ないことはしないほうがいい。きみも彼女を脅かす化け物だ。彼女を危険に追いやるのはきものほうかも・・」

 その言葉にたくみが顔をこわばらせる。言い返そうと振り返るが、そこにはもう秀樹の姿がなかった。

 1人取り残された駐車場前で、たくみが沈痛な面持ちになる。

(知っている・・オレのことを・・・けど、なんでアイツが、オレがガルヴォルスだってことを知ってるんだ・・・!?)

 たくみに不安が募る。秀樹は彼がガルヴォルスであることに気付いていた。

 しかし、和海から聞いてもいないはずなのに、秀樹はなぜそのことを知りえたのか。たくみは、今までにない不安と危機を感じていた。

 

 結局、たくみは秀樹と別れた後、和海に会わずに隆の店に戻ってきた。気落ちした様子のたくみに、隆が不安そうに視線を向ける。

 隆は彼の気持ちを尊重して黙ることにしたが、飛鳥が見かねて彼に駆け寄った。

「たくみ・・」

「あぁ、飛鳥・・」

 飛鳥の声に力なく返すたくみ。2人はリビングに入り、椅子に座る。

「どうしたんだ、たくみ?何だか元気がないみたいだけど・・」

「い、いや、そんなことないよ・・」

 何とか弁解しようとするたくみだが、飛鳥には空元気にしか思えなかった。

「和海さんのことが、気になるんだね?」

 飛鳥の言葉に沈黙するたくみ。

「気持ちは分かるけど、今はとりあえず様子見するしかないよ。別に危険なところにいってるわけじゃないんだから。」

「ああ・・すまない。」

 飛鳥の励ましに小さく笑うたくみ。飛鳥が安堵の吐息をついた後、真剣な面持ちになる。

「人が金の像になる事件、また被害者が出たみたいだ。」

「何だって!?」

 飛鳥はたくみに、昨晩起こった事件の詳細を話した。

 バイトを終えた女学生が、自宅に帰る途中の道で金の像になって発見された。彼女は金が体に付着して皮膚呼吸できなくなり、窒息死していた。

「オレたちがこの前駆けつけたのを含めて、この事件は4件目になる。もしかしたら、これもあのパラサイト・ガルヴォルスが引き起こしたものかもしれない。」

「ああ。早くヤツを見つけないと、街はガルヴォルスだらけになってしまう。」

 パラサイト・ガルヴォルス打倒を考えるたくみと飛鳥。しかしたくみには覇気が弱まっていた。

 そんな心境のまま、たくみは立ち上がり飛鳥に向き直った。

「飛鳥、アンタは美奈のそばにいてくれ。パラサイト・ガルヴォルスはオレとあずみが見つけるから。」

「たくみ・・でもいいのか、きみ1人で・・?」

「ああ。アンタまで出て行って、もしも美奈や隆さんに何かあったらいけないから。」

 そう言ってたくみはリビングを、店を飛び出した。和海に危機が迫るのではないかという不安を拭えていないまま。

「分かったよ、たくみ。先輩たちのことはオレが何とかするよ。」

 飛鳥は立ち去ったたくみに向けて決意する。同時に不安を密かに感じていた。

(でも、こんなことで、ガルヴォルスと人間との共存ができるのだろうか・・・)

 

 たくみは人々が金の像になる事件の現場を、起きた順に辿っていった。そうすることで、手がかりがつかめると思っていたからだ。

 3人のガルヴォルスの襲撃を受けた場所から、昨晩少女が金にされた場所へと駆け回り、たくみは何とか情報を得ようとしていた。

 事件現場はすでに警察が調査を行っていたが、周囲からうかがうことはできた。現場にはいずれも金の粉が地面に散りばめられていた。被害者がこの金粉に包まれて死亡したことを表していた。

(ここが4件目の現場か・・事件現場は4件一直線になっている。となると、次に事件が起こりそうなのは・・)

 たくみは次に犯人が出現すると思われる場所を予測した。

(この先は、ヨットハーバーのほうか!)

 たくみは急いでヨットハーバーに向けて駆け出していく。

「イヤァ!」

 そのとき、向かおうとしていた先から悲鳴が響いた。たくみは駆ける足をさらに速めた。

 人が見えなくなったところを見計らって、たくみは全身に力を込める。悪魔へと変身を遂げ、背中から翼を生やして飛び上がった。

 ガルヴォルスとなって強化された視覚、聴覚を駆使して、たくみは上空からヨットハーバーを見下ろした。その視線の先で、女学生2人が虫を思わせる姿の怪物に追い詰められていた。

 怪物は怯える少女たちに向けて、口から金の粉を吹き出した。金粉が彼女たちの体に降りかかり付着する。

 少女たちは息苦しさということを聞かなくなっていく体に不快感を感じていた。助けを求めて声を張り上げようとするが、呼吸がままならなくなり声が出ない。

 2人は胸を押さえ苦悶の表情を浮かべたまま、金粉に包まれて動かなくなる。命が途切れ、硬直してその場に立ち尽くす。

 金の像になった少女たちを目の当たりにして、たくみが苛立ちで歯を食いしばる。

「あの昆虫の仕業だったのか・・!」

 振り返った昆虫に向けて、翼を広げたたくみが急降下する。昆虫は口からさらに金粉を噴射する。

(長引かせると金粉に包まれて終わりだ!勝負は一瞬・・!)

 たくみは剣を出現させて、金粉漂うヨットハーバーに飛び込んだ。死を呼ぶ金の粉がたくみの体に付着する。いくら人間よりも優れた能力を備えたガルヴォルスでも、皮膚呼吸を封じられれば危険は免れない。

 それでもたくみは止まろうとはしない。体が死に包まれる前に眼前の昆虫を倒す。彼はそのことだけを考えて、昆虫に向けて剣を振りぬいた。

 剣は昆虫の胴体を切り裂く。着地したたくみが息を荒げながら、仰向けに倒れた昆虫を見下ろす。昆虫は幼い少年の姿に戻り、白く固まる。そして海の風に吹かれて、砂になって流れて消えていく。

 たくみに張り付いていた金粉が剥がれ落ちる。少年の命が尽きたことで、金の効果が消えたのである。

(こんな子供まで、ガルヴォルスにしちまったっていうのかよ・・・パラサイト・ガルヴォルスめ!)

 人間に戻ったたくみが、込み上がる怒りをパラサイト・ガルヴォルスに向ける。幼い子供までその毒牙にかけた怪物を、たくみは許すことができなかった。

「たくみ。」

 そこにあずみが現れ、声をかけられたたくみが振り返る。

「あずみ、ガルヴォルスを1人倒した。けど、まだパラサイト・ガルヴォルスは・・」

「そのことなんだけど、居場所と正体が特定できたわ。」

「特定できたって・・パラサイト・ガルヴォルスのか!?」

 たくみが詰め寄ると、あずみが真剣な眼差しで頷く。

「やっぱりこの街にいたわ。それも、あなたのすぐ近くにね。」

 あずみは持っていた封筒から、1枚の写真を取り出し、それをたくみに渡して見せた。

「こ、こいつは!?」

 たくみはその写真の人物に見覚えがあった。

「荒木秀樹。彼が人々をガルヴォルスにしているパラサイト・ガルヴォルスよ。」

「あいつが・・・和海が、和海が危ない!」

 たくみは写真を放り投げ、再び駆け出した。彼女が秀樹の手にかかり、ガルヴォルスになってしまうかもしれない。たくみは今までにない不安を感じていた。

 

 人気のない裏通り。その壁や建物の入り口付近には、生きる希望を見失った人たちが怠けたように横たわっていた。

 その通りを悠然と歩く1人の青年の姿があった。秀樹である。

 彼は堕落した人たちを見下ろしながら、1人道を進んでいく。そんな彼の前に、腕をだらりと下げた3人の男が立ちはだかった。

「おぃ、にいちゃん、有り金全部置いていきな。」

「金がありゃ、オレたちも少しはマシになれるはずだぜ。」

「出さないと、痛い目見ることになるよん。分かったら早くするんだよ〜ん。」

 からかうように秀樹を取り囲む男たち。すると秀樹が不敵に笑う。

「何がおかしいんだ!?」

 笑みが消えた男たちが秀樹の態度に憤慨する。

「全く・・こういった場所は、駒がたくさん集まるからいいよ。けど、やっぱり小汚いから好きにはならないな。」

「ふざけるんじゃねえ!」

 憤った1人の男が秀樹に飛びかかった。秀樹は男が繰り出した拳をかわし、男に向けて手を伸ばす。

 彼の人差し指が伸び、男の胸に突き刺さった。秀樹の異様な姿に、周囲の男たちの顔に恐怖が浮かび上がる。

「な、何なんだよ、こいつは!?」

「指が、指がのびたぁぁーーー!!」

 絶叫が上がる中、秀樹が指を突き刺した男に眼をやる。

「お前たちのように心の弱いヤツらは、すぐに凶暴な怪物になるだろうな。」

 秀樹が振り向くと、周りの男たちは絶叫を上げて逃げ出した。

「逃がさないよ。」

 秀樹は刺していた指を引き抜き、さらに10本の指を逃げ惑う男たちに向けて伸ばした。触手のように伸びていく指は、心臓を狙って次々と男たちの体に突き刺さっていく。

 これがパラサイト・ガルヴォルスによる、ガルヴォルスへの覚醒方法である。人間の中にあるガルヴォルスの因子を自らの因子と同調させて覚醒させることで、その人間をガルヴォルスに進化させてしまうのである。

「さぁ、お前たちの力を目覚めさせるときだ。その力を存分に使いたいだろ?」

 男たちに刺していた指を元に戻し、秀樹が不敵な笑みを浮かべながら男たちを見下ろす。内に秘めたガルヴォルスの因子を刺激され、うずくまったまま体を震わせる男たち。

 そして立ち上がると同時に、彼らの体が不気味に変形し始めた。胴体が盛り上がり、吐息が荒くなる。

 男たちは次々と怪物へと変身を遂げていく。様々な形相の怪物たちを見回して、秀樹が不敵に笑う。

「これでいい。こいつらが不動たくみを足止めしてくれるだろう。全てが、全てがオレの思い通りに進んでるぞ。後は和海をオレのものにするだけだ。」

 うめくガルヴォルスたちの集まる光景を見つめながら、計画通りに進む物事の歓喜に浸る秀樹。そんな彼に、凶暴化したガルヴォルスたちが敵意を見せる。

 秀樹は飛び上がり、ガルヴォルスたちの襲撃を回避する。

「オレはお前たちと遊んでいるほど暇じゃないんだよ。これから大事な用があるんだ。」

 うごめく怪物の群れを上空から見下ろす秀樹。

「和海は新しい、ガルヴォルスの世界で生きるんだ。こいつらみたいな化け物ではなく、心を持ったガルヴォルスとしてオレと一緒に生きていくんだ。」

 和海を思い浮かべ、自分の右手を見つめる秀樹。彼女をガルヴォルスにするため、パラサイト・ガルヴォルスは行動を開始しようとしていた。

「コガネムシがやられたか。けど、まぁいい。それもオレの思惑から外れていない。」

 

 たくみを見送った後、あずみは組織の本部に帰還していた。

 ガルヴォルス殲滅を目的としているこの組織の総指揮に当たっている彼女は、上位部隊の部隊長を全員、特別会議室に集合させていた。

「みんな、パラサイト・ガルヴォルスの居場所が分かった。今から部隊を集結させて、その討伐に向かってほしい。」

「しかし、ガルヴォルスは我々にとっても恐るべき脅威。それに、パラサイト・ガルヴォルスは次々と仲間を増やしているはずです。」

 隊長の1人が不安そうにあずみにたずねる。

「そのことなら心配いらないわ。対ガルヴォルス用に開発部が設計、製作した新兵器が出来上がっているわ。それを併用すれば、ガルヴォルスを倒すことができる。」

 あずみの案に隊長たちが歓喜にわく。

 彼女は拳銃を着用したジャケットの裏ポケットに入れて、出かける準備を整える。

「全員出撃よ。パラサイト・ガルヴォルスはもちろん、私たちを邪魔するガルヴォルスは全て排除しなさい!」

 鋭い視線を向けるあずみに、隊長たちはそろって敬礼を送った。

(ガルヴォルスは間違った人類の進化。人間の罪なのよ。その罪の償いは、私のこの手で!)

 会議室を出て廊下を歩くあずみの心は、ガルヴォルスに対する敵意で満ちていた。

 

 

次回予告

第14話「忍び寄る魔手」

 

和海を守るべく急ぐたくみ。

ガルヴォルスを葬ろうとするあずみ。

和海を狙う秀樹。

信じるものに迷いうつろう和海。

思いと絆を引き裂くガルヴォルスの群れ。

 

「邪魔をするな!オレは和海のところに行くんだ!」

 

 

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