ガルヴォルスZERO 第25話「世界の反逆者」
マリアの髪の体を貫かれて傷だらけとなったダイゴとマリ。だがダイゴは力を振り絞って、マリアを殴り飛ばした。
マリアの髪がダイゴとマリの体から引き抜かれる。血みどろになる2人だが、倒れずに踏みとどまった。
「オレはもう、おめぇの思い通りにはならねぇ・・オレの選択は、オレが決めるんだ!」
決意を言い放つダイゴ。彼の言動にマリアが憤りを見せる。
「そんなこと、私は許さないと何度も言わせるな!」
「だからおめぇの許可なんて求めてねぇって・・・」
マリアの怒号にダイゴが憮然とした態度で返事する。
「いちいち許可なんて求めちゃいねぇ・・オレの道はオレが決めていくんだ・・・!」
「私も、自分のことは自分で決める・・もうあなたに従うつもりはないから・・」
ダイゴに続いてマリも言葉を投げかける。2人の言葉を聞いて、マリアが嘲笑を見せる。
「どこまでもそんなふざけたことを・・・どんなに刃向ってもムダよ・・私は絶対に揺らぐことはないのだから・・・」
「マリア・・・!」
あくまで自分が絶対であることを変えないマリアに、ダイゴが歯がゆさを見せる。
「世界を正しく導けるのは私だけ・・それだけの力も信念もある・・・その私を止めることは、誰にもできない・・・」
「それがどうした?止められねぇっていう理由で諦めることはしねぇ・・」
「止められないと言っているのに、本当に理解力のないこと・・」
「それに、世界なんて、今の私たちには関係ない・・・私たちに安息が戻るなら・・・」
ダイゴとともに、マリもマリアに言葉を返していく。
「オレはオレの時間を過ごしたい・・それだけなんだよ!」
「それを許さないと言っている!何度も何度もしつこく!」
ダイゴたちの言葉に、マリアは憤慨するだけだった。
「もう言葉は無意味・・お前たちはただ、私によって葬られるだけ・・・!」
マリアは冷徹に告げると、両手の中に光の弾を作り出す。彼女が投げつけた光弾を受けて、ダイゴとマリが吹き飛ばされる。
壁をも突き破って激しく横転する2人。苦痛にあえぐ2人の体から鮮血があふれる。
「私の力は日に日に増していき、今では神の領域に達している・・その私に不可能はない・・私を止められるものなど、存在するわけがない・・・」
マリアが妖しい笑みを浮かべて、ダイゴとマリに近づいていく。満身創痍に陥った2人が、互いに向けて手を伸ばす。
「オレは死なねぇ・・死んでたまるかよ・・・!」
「私も・・このまま終わりたくない・・・もう1度、マーロンでの楽しい時間を・・・!」
声を振り絞るダイゴとマリが、伸ばした手をつかみ合う。
「オレはオレの時間を過ごしたい・・・それだけなんだ・・それだけなんだよ!」
ダイゴがマリの手を強く握りしめる。その2人の手に淡い光が発せられる。
「もういいわ・・これで終わらせる・・お前たちの始末ばかりに時間を使っているわけにいかないから・・・」
マリアがとどめを刺そうと、右手を突き出して力を込める。
「それから世界の愚かさを正していく・・その後は私が世界を正しく導いていく・・・!」
言い放つマリアが、ダイゴとマリに向けて衝撃波を放つ。だが衝撃波は2人にぶつかる前にかき消えた。
この瞬間にマリアが目を疑う。光は大きく強くなり、ダイゴとマリを包み込んでいく。
「どういうこと!?・・私の力が・・・!?」
声を荒げるマリアの前で、ダイゴとマリが光の中で抱擁を交わしていく。
(あのときと同じ感じだ・・・)
(私とダイゴが、ひとつになっていく・・・)
奇妙な高揚感を覚えるダイゴとマリ。これが自分たちの融合であると、2人は実感した。
やがて光は一気に強まり、マリアは一瞬目をくらまされる。その光の中から、ルシファーガルヴォルスが姿を現した。
「その姿・・ひとつになったというのか、お前たち・・・!?」
「そうだ・・それが分かったのは、ちょっと前のことだけどな・・」
マリアが息をのみ、ルシファーガルヴォルスの口からダイゴの声が発せられる。ダイゴも自分とマリの融合を実感していた。
「悪魔と天使が合わさって、堕天使となった・・とでもいいたいの?・・でもムダよ。たとえひとつになっても、私を止めることは・・」
嘲笑を見せてきたマリアが、突然衝撃を受けて吹き飛ばされた。ダイゴの放った衝撃波を、マリアは回避することができず直撃された。
「何っ!?」
壁に叩きつけられたマリアが声を荒げる。そんな彼女にダイゴは鋭い視線を向けていた。
「止めてやるさ・・オレたちが落ち着けるなら・・オレたちが生き残るためなら・・・」
「バカな!?・・私の力が打ち破られるなんて・・・!?」
低く呟きかけるダイゴの力に、マリアは愕然となっていた。彼女の驚愕はすぐに憤慨へと変わる。
「そんなことはない!私の力が、こうも簡単に破られることはない!」
激情に駆り立てられるまま、マリアが力を放出する。
「たとえどんなに強大な相手だろうと、私はその全てを超える!今までそうして強くなってきたし、これからも私は絶対であり続ける!」
「そうやって自分が1番だと言い張ることの、どこがいいっていうんだ・・・!?」
言い放つマリアの言葉を、ダイゴが低く一蹴する。
「自分が1番だって威張られても、たとえそれが事実でもしらけるだけなんだよ。嘘っぱちに聞こえてくる・・」
「ならこれが事実!お前は私によって滅ぼされる!それ以外の事実などない!」
吐き捨てるダイゴに叫び、マリアが髪を伸ばす。ワイヤーを超える強度の髪だが、ルシファーガルヴォルスとなっているダイゴの体を貫けず弾かれる。
「そんな・・これでも刺せないことなど!」
いきり立ったマリアが、再び髪を伸ばしていく。彼女は髪に力を込めて、さらに強度を上げる。
だがダイゴは伸びてきた髪を両手でつかみ上げる。
「なっ!?」
髪をつかまれてマリアが驚愕する。さらに髪に力を込めるが、ダイゴは全く動じていない。
「そんなことはあり得ない・・・私の力が、ここまで抑え込まれるなんて・・・!?」
マリアは目を疑った。自分の力がダイゴに全く通じていないことが、彼女には信じられなかった。
「みんなを元に戻せ・・そうすりゃ終わりにする・・・」
「誰に向かってそんな口を叩いている!?私が世界を導いていく!その私が動かされれば、世界は壊れたままになる!」
呼びかけるダイゴだが、マリアは聞き入れようとしない。
「私は世界を正しく導く!誰だろうと私を止めることはできない!愚か者が、これ以上私をどうこうすることはできないのよ!」
激昂するマリアがダイゴに向かって飛びかかっていく。強まっていく感情のあまり、自分が涙をあふれさせていることにも気付かないまま。
「いい加減、自分が正しいなんて言い張るのをやめろよ・・・!」
低く鋭く告げるダイゴ。彼が繰り出した右の拳が、マリアの体に叩き込まれた。
「がはっ!」
痛烈な一撃を受けて、マリアがうめく。ダイゴの攻撃を受けて、彼女が突き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「がっ!・・そんな・・私が1回の攻撃で、これだけのダメージを・・・!?」
その場に膝をついたマリアが吐血する。ダイゴが与えた攻撃は、彼女の体を一気に疲弊させた。
「認めない・・ここまでの力の差など、私は絶対に認めない!」
さらに憤慨するマリアが力を放出して、ダイゴへの敵意をむき出しにする。
「私は何度も世界の理不尽に苦しめられてきた!だが私はその理不尽への怒りで何度も乗り越えてきた!ダイゴ、マリ、お前たちも私によって滅ぼされる!それはもう決められていることなのよ!」
「確かに怒りは自分を強くする・・だからおめぇはそれだけの力を引き出せたんだ・・・」
声を張り上げるマリアに、ダイゴが言葉を返す。
「オレも怒ってばかりだった・・それで強くなったことも否定しねぇ・・・」
“でも、あなたはたった1人・・・”
ダイゴに続いて、マリの声が発せられた。
“あなたは自分で全てを決めてしまっている・・他の誰かに、他の何かに頼ろうとしない・・でも1人でできることは限られている・・たとえあなたがどれほどの力を発揮しようとしても・・”
「黙れ!愚か者の力など、結局は愚かになるしかない!そんなヤツに頼ることは弱さでしかない!」
“そうやって誰も頼らないのは、強さとは言わない・・・”
マリの言葉さえも聞き入れないマリア。彼女の態度にマリが悲しみを込めた言葉を投げかける。
「もういいよ、マリ・・・」
そこへダイゴが声をかけ、マリの言葉をさえぎった。
“ダイゴ・・・”
「頑固なヤツは、痛い目を見ねぇと分かんねぇ・・オレもそうだからな・・・」
戸惑うマリに、ダイゴが心境を打ち明ける。
「だから痛い目にあわせて、マリアを止めてやる!」
「私は止まらない!お前たちは私に消されるしかないのよ!」
いきり立つダイゴに、マリアが力を振り絞って飛びかかる。
「私の力の全てを持って消してやる!ありがたく思え!」
目を見開いて両手を突き出すマリア。煌めく閃光がダイゴと衝突した。
だがダイゴはその光を突き破って、なおもマリアに向かっていく。
(ウソだ・・私が強く憎しみと怒りを注いでも、ダイゴを消せない・・・今までそんなことはなかったのに・・・!?)
今視界に入りこんでくる現実を拒絶しようとするマリア。ルシファーガルヴォルスが光の剣を手にして、彼女に向けて突き出してきた。
光の剣はマリアの体を貫いた。その衝撃でマリアの体から光があふれてきていた。
(バカな!?・・力が、抜けていく・・・!?)
思うように動くことも力を出すこともできなくなり、マリアがゆっくりと倒れていく。
(立て・・まだ倒れていいわけではない・・ここで倒れたら、私は何のためにこの力を手にして、強くなってきた・・・!?)
必死に自分に言い聞かせるマリア。だが彼女の意思に反して、体は踏みとどまることなく倒れていく。
(認めない・・こんなことで倒れてしまうことなど、受け入れてたまるものか・・・!)
さらに怒りと憎しみを込み上げるマリア。今まで彼女は怒りを膨らませることで力を強めていった。
だがどれほど無力を憎んでも、どれだけダイゴに怒っても、力は強まるどころか、弱まる一方だった。
(私は常に強くなければならない・・私だけしか世界を正しく導けない・・・だから、私はこんなところで・・・!)
世界の不条理への反逆に固執するマリア。だが彼女の意思は力に届かず、弱々しく倒れていった。
1度意識を失ったマリア。目を開けた彼女の視界に、果てしなく広がる白んだ空間が入ってきた。
(私は・・死んだというの?・・あのままダイゴに負けたというの・・・?)
マリアが胸中で呟きかける。自分の体に意識を傾ける彼女だが、全く動かせず、空間の流れに身を委ねるしかなかった。
(私は、ここまでだというの?・・ここで朽ち果てるのが、決まっていたことだというの・・・?)
ひたすら自分に問いかけていくマリア。しかしその答えは全く出てこない。
(だったらなぜ、私はあのとき、力を手にしたというのだ?・・こんなところで倒れるくらいなら、私は最初から死んでいたほうがよかったというのに・・・)
世界の不条理への不満を膨らませていくマリア。だがそれでも、マリアに力が戻ることはなかった。
(イヤ・・何もかもイヤ・・地獄も天国も、何もかも・・・)
“そんなことないですよ・・・”
全てを拒絶しようとしたマリアに向けて声がかかった。彼女の前に現れたのはマリだった。
「マリ・・・?」
「もう楽になってください、マリア・・・これだけの怒りと憎しみ・・分からないはずがないです・・もしも分からないなら、その人は人間の姿をした悪魔・・・」
「そんなことが分かっているのに・・私はまだ倒れるわけにいかない・・・」
「そんなに気にしていてもきりがない・・あなたの気持ちは、私たちにしっかり伝わったから・・・」
「お前たちだけ理解したところで、何の意味もない・・私に刃向かってきたお前たちなど・・・」
「全てを終わらせたかった・・全てを取り戻したかった・・だからあなたに立ち向かった・・・」
自分の心境を打ち明けてくるマリに、マリアは怒れる気持ちを揺さぶられていく。
「あなたの気持ちは私たちに伝わりました・・・あなたのような、世界の不条理の被害者を増やしてはいけない・・・」
「そんな口先だけのこと、誰だってできる・・・」
「確かに言うだけなら誰でもできる・・実際にやり遂げるのは難しいことかもしれない・・私たちができることには限界がある・・でも、それでも私たちは・・・」
切実に言いかけるマリを、マリアが嘲笑する。
「力は上でも、世界の愚かさを憎む憎悪は私より劣る・・それなのに、世界がよくなるとは思えない・・・」
「そうかもしれない・・・でもダイゴは、あなたのいう世界の愚かさにも屈しない・・・」
マリアに向けてのマリの言葉。耳にしたマリアの脳裏に、ダイゴの顔が浮かび上がる。
「ダイゴはいつも立ち向かっていた・・自分の身近にある理不尽に不満を感じて、いつもつかみかかっていた・・多分、世界を相手にしてもその気持ちは変わらない・・・」
「私に、向かってきたように・・・」
「私たちを信じてほしいとは言わない・・でももう楽になって・・・何もかも、忘れて・・・」
「何もかも忘れる・・・そうすれば、私は救われるというの・・・?」
マリアが投げかけてきた問いかけに、マリが小さく頷いた。
「少なくとも、もう傷ついたり苦しんだりすることはなくなる・・・」
「それはそうだが・・・」
「今までだって自分が幸せになろうとしてきた・・私たちのことは気にしなくていいから・・・」
切実に呼びかけてくるマリに、マリアは思わず苦笑を浮かべた。
「おかしな気分だ・・楽になれるのに・・嬉しくならない・・・つくづく私にとって喜ばしいことが起きない・・・」
「何もかも思い通りということはないですよ・・私もダイゴも、そうでしたから・・・」
「そういうことは、愚か者にでも言ったらどうだ?その愚かさゆえに聞く耳すら持っていないが・・・」
「私は心から許せないことに対しては、断固たる考えを見せます・・私以上に、ダイゴがその気持ちを見せるでしょうが・・・」
「フン・・・せいぜい後悔しないことだな・・・」
「後悔しません・・・私たちは、落ち着ける場所を取り戻したのですから・・・」
マリアとの対話を終えた後、マリの体が徐々に薄らいできた。
「私は戻ります・・・ダイゴが・・みんなが待っていますから・・・」
「お前たちの絶望を、私は望んでいるぞ・・・」
微笑みかけたまま消えていくマリをあざ笑い、マリアも再び目を閉じた。
次回
「これで全部が終わったわけじゃねぇ・・」
「オレの落ち着ける場所を壊そうとするヤツを、オレは許さねぇ・・」
「人間もガルヴォルスも関係ねぇ・・・」
「オレはこれからも戦い続ける・・・オレの平穏のために・・・」