ガルヴォルスZERO 第26話「安息の場所へ」
マリと融合してルシファーガルヴォルスとなったダイゴに、光の剣を貫かれ、マリアは力なく消滅していった。
「マリア・・・最後まで、自分が正しいと言い張って・・・!」
「そればかりじゃなかったよ・・・」
歯がゆさを見せるダイゴに、マリの声が伝わる。その直後、ルシファーガルヴォルスへの融合が解かれ、ダイゴとマリが姿を現す。
「マリ・・・おめぇ・・マリアと・・・」
「心を通わせた・・マリア、最後まで自分を貫いていた・・・」
当惑を見せるダイゴに、マリが困惑を見せながら答える。
「ダイゴも、自分を貫いてきたんだよね・・・そしてこれからも、その気持ちを変えない・・・」
「そういうことになるな・・オレはふざけたヤツのいいなりにはならねぇ・・・」
マリの言葉を受けて、ダイゴが言いかける。
「これでマリアとの戦いは終わった・・トラウマになってる過去もな・・だけど、これで全部が終わったわけじゃねぇ・・」
真剣な面持ちを見せて、ダイゴがマリに言葉を投げかける。
「オレは単に落ち着ける場所がほしかった・・けどそれさえ認めようとしねぇヤツらがまだいる・・マリアだけじゃねぇ・・・」
「ダイゴ・・・」
「オレの落ち着ける場所を壊そうとするヤツを、オレは許さねぇ・・そいつらは全部オレの敵だ・・人間もガルヴォルスも関係ねぇ・・・」
戸惑いを見せるマリのそばで、ダイゴが決心を口にしていく。
「オレはこれからも戦い続ける・・・オレの平穏のために・・・」
「ダイゴ・・・私も、ダイゴと同じ気持ちだよ・・・」
ダイゴが強く握りしめる手を、マリが優しく触れてきた。
「ダイゴみたいに自分を貫けるか分からない・・それでも自分の気持ちに正直でいたい・・・」
「マリ・・・」
「これからも一緒にいさせて、ダイゴ・・・もう、あなたなしじゃ生きていけない・・・」
マリがダイゴに寄り添ってきた。2人とも疲れていたため、少しだけふらついた。
「とりあえず戻るぞ・・ここにいつまでもいていいことにはならねぇし、帰る場所があるからな・・・」
「そうね・・・戻ろう、ダイゴ・・・」
過去との決着を果たしたダイゴとマリは、マリアの屋敷から立ち去った。
(・・さようなら・・私の過去・・・)
悲しみと苦しみに彩られた過去と決別し、マリは日常へと戻っていった。
マリアが命を終えて消滅したことで、彼女に石化されていた女性たちが元に戻った。だがマリアから解放された喜びよりも、彼女に対する恐怖のほうが強かった。
マリアの力と憎悪は、女性たちに拭いきれない恐怖を植え付けた。自分たちの傲慢が、マリアのような世界の不条理を憎む者を生み出すことになると、彼女たちは本能的に思い知らされていた。
石化が解かれてからしばらくして、女性たちは保護された。だが女性たちが日常生活に戻るには、相応の時間を要することとなった。
マリの家でも、マリアに石化されていたミライとミソラも元に戻っていた。
「わ、私・・・」
「元に戻れた・・よかったよ〜・・・」
戸惑いを見せるミソラと、安堵を浮かべてその場に座り込むミライ。
「体は元に戻れたけど、服は破れたまま・・これじゃどうやって帰ったらいいのか・・・」
自分たちが裸になっているという現状に、ミソラは困り果てていた。
「でもあたしたちが元に戻れたってことは、ダイゴとマリちゃんが何とかしてくれたってことだよ・・だから、2人とも無事に帰ってくるよ・・」
そこへミライが笑顔で声をかけてきた。彼女の言葉を受けて、ミソラも笑みをこぼした。
「そうね・・今まで散々心配させたんだから、帰ってきたらたっぷり叱ってやるんだから・・」
「ダイゴを怒らせないくらいにね、お姉ちゃん・・」
不満を見せるミソラに、ミライが笑顔を絶やさずに言いかけた。
(ありがとう、ダイゴ、マリちゃん・・信じてよかったよ・・・)
ダイゴとマリへの信頼を、ミライは心の中で喜んでいた。
そのとき、家の玄関のドアが開く音がした。ミライとミソラのいるリビングに、帰ってきたマリが入ってきた。
「マリちゃん・・・」
無事に帰ってきたマリを目の当たりにして、ミソラが戸惑いを見せる。
「心配かけてごめんなさい・・・何もかも終わりましたから・・・」
「マリちゃーん♪」
謝意を見せるマリに、ミライが喜んで飛びついてきた。
「マリちゃん、よかった・・よかったよ〜・・・」
「ミライさん、落ち着いてください・・落ち着いて・・」
涙ながらにすり寄ってくるミライに、マリが苦笑いを見せる。
「もう・・本当に心配させて・・・」
ミソラもマリの無事に涙を見せていた。
「ミライさん、ミソラさん、ここに帰る前にマーロンに立ち寄って、2人の代わりの服を持ってきました・・」
マリがミライとミソラの服を差し出してきた。裸のままの2人を気遣って、マリは1度マーロンに立ち寄っていたのである。
「ホントにありがとうね、マリちゃん・・おかげで助かったよ〜・・・」
安心したミライが、脱力してその場に座り込む。
「ところでダイゴは?一緒じゃなかったの?」
「ダイゴなら玄関にいますよ・・」
ミソラが投げかけた問いかけに、マリが微笑んで答える。玄関ではダイゴが憮然とした態度で待っていた。
「裸の女がいる場所には行きたくない。早く服を着ろって・・」
「もう、素直じゃないんだから、ダイゴ・・・」
マリが口にした言葉に。ミライはからかい半分に言いかけた。
それからミライとミソラは服を着て、落ち着きを取り戻した。マリに声をかけられて、ダイゴは憮然さを見せながら入ってきた。
ミライに抱きつかれ、ミソラに怒られて、ダイゴは不満を表すこととなった。彼の反応を見て、マリは喜びを感じていた。
このやり取りを見て、マリは自分が求めていた日常に帰ってきたと、改めて実感したのだった。
マリアが消滅し、悲劇に彩られた過去に決着をつけることができたダイゴとマリ。
だが世界は依然として混迷に満ちている。平然と不条理や身勝手を押しつけてくる人間もいて、今ある平和が幻想に思えるほどだった。
不条理、身勝手に不満を抱くダイゴは、この現状に納得していなかった。それでも自分たちの平穏を過ごすことはできると、彼は心の中で割り切ろうとしていた。
(これが、平穏というもんなのか・・・)
マーロンでの仕事をしながら、ダイゴは心の中で呟いていた。その彼の様子をマリとミライが見守っていた。
「ダイゴ、落ち着いてきたみたいだね・・」
「マリアとの決着がついたのもありますが、それを含めても大分落ち着いているというか・・そんなに不満を見せることがなくなりましたね・・・」
小声で会話をしていくミライとマリ。
「これが本来のダイゴなのかも・・・」
「でもこれもこれでダイゴらしくていいと思いますよ・・・」
「こうして落ち着きながらも、また感情的になったりして・・」
「それがダイゴのいいところなんですよね・・」
ダイゴに対して会話を続けていく2人。
「ちょっとあなたたち、おしゃべりしてないで仕事しなさい!」
そこへミソラからの注意が飛び込み、マリとミライが慌てて仕事に戻った。
「もう・・・」
肩を落としてため息をつくミソラ。そして彼女はダイゴに目を向ける。
(落ち着いているように見えるけど、いつまた爆発するか分からないわね・・マリちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど、目を放さないようにしないと・・)
心の中で懸念を抱きながら、ミソラも仕事に戻っていった。
(こういう時間を過ごすことが、ものすごく大事だって思えるようになった・・マリのおかげってことなのか・・・)
仕事を続けていく中、ダイゴは考え事をしていた。
(まだ世界が正しくなったとは思えねぇ・・まだふざけたヤツはいる・・それでも、オレは平穏でいることはできる・・・ふざけたヤツらがその平穏を壊さねぇ限りは・・・)
思考を巡らせていく中、ダイゴが意思を膨らませていく。
(そんなヤツらが出てきたら、オレは戦ってやる・・ガルヴォルスになってでも、世界を敵に回すことになっても・・・!)
込み上げてくる感情を噛みしめていくダイゴ。だがその感情が徐々に和らいでいっていると、彼は感じていた。
「オレも落ち着けるようになったのか・・・」
気分が楽になり、ダイゴは無意識に笑みを浮かべていた。
その日の仕事が終わり、ダイゴとマリは買い物を経て帰宅していた。落ち着きを取り戻していっている自分たちに、彼らは少なからず戸惑いを感じていた。
「不思議ね・・こんなに気持ちが楽になったのは初めてかもしれない・・・」
「マリもか・・実はオレも感じてたんだ・・何でこんなに落ち着いてられるのか、見当もつかねぇんだけどな・・・」
マリが声をかけると、ダイゴも自分の気持ちを正直に告げる。
「私も・・・マリアの件も、辛い過去も終わったからなのかな・・・心の奥に重くのしかかっていたものがなくなったから、気持ちが楽になったのかも・・・」
「イヤなものがなくなったから、楽になれたのか・・・そういうものか・・・」
「そして、ダイゴのおかげで、私は勇気を持つことができた・・・」
マリは微笑みかけると、ダイゴに寄り添ってきた。
「でももう、ダイゴがいないと生きていけない・・ダイゴのいない世界で生きていたくない・・そう思えてならない・・・」
「オレもだ・・・マリ、おめぇこそが、オレの心を支えられる大切なヤツだ・・・」
寄り添ってきたマリを、ダイゴが優しく抱きとめる。彼女のぬくもりを感じて、彼は安らぎを募らせていた。
「オレから離れるな、マリ・・・おめぇがいねぇと・・オレは・・オレは・・・」
「ダイゴが頼まなくても、私がそれを望んでいる・・私もダイゴから離れたくない・・・ダイゴがいなくなったら、私は落ち着くことができない・・・」
互いの顔を見つめ合うダイゴとマリ。想いに駆り立てられるまま、2人は顔を近づけ、そのまま唇を交わした。
2人はそのまま肌の触れ合いを始めた。ベットに横たわり、互いの体に触れていく。
(オレはもう迷わねぇ・・マリになら、こうして心を開くことができる・・マリが、オレを受け止めてくれたから・・・)
マリに触れていく感覚と自身の安堵を感じ取っていくダイゴ。
(オレはずっと身勝手なヤツが許せず、ときに突っかかってた・・けどホントは許せなかったというより、身勝手なヤツのせいで安らぎが消えるのが我慢ならなかったんだな・・・オレはやっと、ホントの安らぎを手にした気がする・・マリと出会えて、分かり合えたことで・・・)
ダイゴはマリの胸の谷間に顔をうずめていく。彼の吐息でマリが恍惚を覚える。
(私は弱かった・・辛いことから逃げてばかりだった・・・ダイゴが自分を狙うガルヴォルスだと知って、向き合うことができなかった・・・)
マリも心の中で自分の気持ちを呟いていく。
(でもダイゴは私と向き合おうとしてくれた・・自分の気持ちを伝えようとしてきた・・・だから私も向かってみようと思った・・その気持ちが勇気に変わった・・私は怖さを乗り越えることができた・・ダイゴのおかげで・・・)
ダイゴに体を触れられて、マリが高揚感を膨らませて、思わず声を上げる。
(たとえ怖い思いをすることになっても、逃げたり諦めたりしない・・真正面から向き合っていく・・・ダイゴの強さを裏切らないように・・・)
「ダイゴ・・もっと・・もっとやって・・・」
あえぎ声をあげて、ダイゴを抱きしめるマリ。恍惚を抑えきれなくなり、彼女の秘所から愛液があふれ出してきた。
それでもダイゴとマリは離れようとしない。2人はひたすら抱擁を続けていく。
「マリ・・・このままおめぇと一緒にいてもいいんだよな?・・もう離れねぇよな・・・?」
「うん・・・ダイゴと離れたくないのが、私の願いでもあるから・・・」
ダイゴが問いかけると、マリが優しく答える。抱擁を続けたまま、2人はベットの上で夜を過ごした。
ダイゴとマリは深い眠りについていた。過去の因果に終止符が打たれたことによるのか、2人は疲れ果てていた。
朝になっても目を覚まさず、ダイゴとマリは眠り続けた。2人が目を覚ましたのは、正午を過ぎてからのことだった。
「こんなに寝ちまったのか・・オレは・・・」
「今までいろいろなことがあったからね・・疲れないほうがおかしいくらい・・・」
意識をハッキリさせようとするダイゴに、マリが優しく声をかける。
「オレにもいろいろあったってことか・・・確かにいろいろあった・・・けど、とりあえずは全て終わったんだな・・・」
「うん・・マリアもいなくなって・・・でも、何もかも終わったとは言えない・・・」
「マリアはいなくなったけど、世界にはまだ、自分勝手なヤツがたくさんいる・・マリアをあんな風にしたヤツだっているんだから・・・」
「何もしてこなければいいんだけど・・・」
「何もしてこなけりゃ、こっちも何もしねぇ・・けどもし何か仕掛けてきやがったら・・・」
マリと気持ちを確かめあって、ダイゴが右手を上に上げてから握りしめる。
「マリ、おめぇ以外の全部を敵に回しても、オレは迷わずにそいつを叩きのめしてやる・・・!」
自分がこれまで貫いてきた信念を口にするダイゴ。
これまで自分の許せない相手に徹底的につかみかかっていったダイゴ。今もその信念を貫く姿勢は変わっていないが、彼は自分を支えてくれる存在を感じていた。
「マリがついている・・マリがオレを支えてくれてる・・・だからオレもマリを支えていく・・そうすりゃ、オレは落ち着けるから・・・」
「うん・・私も、ダイゴを支えていく・・ダイゴが支えてくれていると分かっているから・・・」
ダイゴが上に伸ばしていた手を、マリが優しく握りしめる。
「私も戦うよ・・ダイゴや、この平穏を壊す敵を・・・たとえ、世界の全部を敵に回すことになっても・・・」
「マリ・・・すまねぇ・・・ホントに・・オレのために・・・」
決意を告げるマリに、ダイゴの心が揺れる。2人はそのまま向かい合い、抱擁を交わしていく。
「そろそろ出かけねぇとな・・今日も仕事だ・・・」
「そうだね・・・遅くなりすぎると、ミソラさんに叱られてしまうから・・・」
ダイゴが声をかけると、マリが小さく頷く。2人は同時にベットから飛び起き、支度をして家を飛び出した。
「ホントの意味で落ち着けるのは、もうちょっと先になるそうだな・・」
「でも、こういうのも悪い気分ではないね・・むしろ気持ちが晴れ渡るような・・」
「オレはドタバタしてるより、落ち着けるほうが全然いいが・・・」
会話を繰り返しながら、ダイゴとマリはマーロンへと向かっていった。
(オレは安らぎを守る・・それがオレの力につながるから・・・
自身の平穏を守るために戦うことを、力を使うことを心に誓うダイゴ。彼らは今、安息の場所へと走り出していった。