ガルヴォルスZERO 第24話「Tomorrow Waltz」
ひとつとなり、堕天使のような姿で現れたダイゴとマリ。2人の合わさった力を受けて、ダイゴは力を使い果たし、ガルヴォルスから人間の姿に戻ってしまった。
「バカな!?・・・私の力が、こんなことで尽きるなど・・・!?」
自分の両手を見つめて愕然となるショウ。困惑に満たされた彼の姿に、ダイゴも困惑していた。
ショウの力が消失したことにより、2人の周囲の空間が歪み出した。彼らが来たのは屋敷の中の廊下。マリアの屋敷の廊下だった。
「認めない・・こんなこと、絶対にあり得ない・・・!」
自分の両手を強く握りしめて、ショウが現状を否定する。彼はダイゴに向けて憎悪をむき出しにする。
「私は強い!マリア様には遠く及ばないが、あの方以外の存在を上回る力と知識を持っている!その私が、お前などに敵わないなど!」
「そんな考えが、アニキの限界になっちまったんだよ・・・」
怒号をあげるショウに、ダイゴが歯がゆさを見せる。
「そんなくだらねぇ、つまんねぇのが最高だっていうなら、簡単に乗り越えられそうだ・・・」
「ダイゴ・・・!」
「けどオレはそんなことじゃ納得しねぇ・・納得できるとこまで、オレは行ってやる・・・!」
うめくショウに向けて、ダイゴが決意を言い放つ。
ダイゴは挑発や自信過剰な言葉を口にすることはまずない。そのような言葉を口にするときは、相手の自信過剰や自己満足を否定し、奮い立たせるときだけ。
彼のその一面を思い出し、ショウが苦笑を浮かべた。
「本当にお前は、どこまで行っても生意気なことだ・・その意思をマリア様への敵意にしていることが、非常に悔やまれる・・・」
苦言を呈したショウが、ダイゴに鋭い視線を向ける。
「お前たちは過ちを犯した・・過ちを犯した者は、愚か者として消えなくてはならない・・・!」
ショウが残った力を全て出して、ダイゴに飛びかかる。
「いい加減に・・どけよ!」
激昂したダイゴが、ショウに向けて右手を繰り出した。彼の拳はショウの体に叩き込まれ、衝撃をもたらしてその先の壁と窓を破損させた。
声にならないうめき声をあげて後ずさりするショウ。彼がせき込んで吐血し、吐き出された血が床にこぼれる。
「力も知性も備わっていた私が、マリア様以外に手も足も出せないとは・・しかもダイゴ、私の弟に・・・」
「アニキはすごかったよ・・けど、いつの間にか自分が上だと満足しちまってたんだ・・・」
声を振り絞るショウに、ダイゴが言葉を返す。その言葉をショウが嘲笑する。
「もはやこんな不様な私など、マリア様は必要としていない・・私の末路は、もはや朽ち果てる以外にない・・・」
「アニキ・・・!?」
「ダイゴ・・この私を倒したことは褒めておこう・・だがこれだけは忘れるな・・・!」
目を見開くダイゴの見つめる先で、ショウが後ろへと下がっていく。
「反逆の末路は破滅以外にない・・何者も絶対の存在には敵わない・・どんなに力をつけようとも、マリア様に逆らうことはできないのだ・・・!」
ショウは不敵な笑みを見せると、壊れた壁と窓から外に出た。
「アニキ!」
ダイゴが手を伸ばすが、ショウは外の崖下へと落下していった。
(マリア様・・・お手を煩わせて、申し訳ありません・・・)
マリアへの謝意を胸の秘めて、ショウは崖下へと姿を消していった。
「アニキ・・・!」
憤りを募らせるダイゴ。彼はマリと分離し、人の姿へと戻った。
「ダイゴ・・・」
「ホントにバカだ、アニキは・・あんなヤツのために体を張って、魂まで売り渡して・・・!」
困惑するマリと、怒りのあまりに壁に左手を叩きつけるダイゴ。彼の目からは涙があふれていた。それは兄を失った悲しみではなく、絶対という愚かさに執着し続けたショウへの怒りだった。
「オレはもうアニキにすがったりしない・・あんなのはアニキじゃない・・オレが取り戻そうとしていたものじゃない・・・!」
「ダイゴ・・・行こう、ダイゴ・・マリアのところに・・私たちが落ち着ける場所を取り戻すために・・・」
割り切ろうとするダイゴに、マリが気持ちを落ち着けて呼びかける。流れてくる涙を拭ってから、ダイゴは真剣な面持ちに戻って頷いた。
ショウの敗北にマリアはすぐに気付いた。だが彼女はショウへの哀れみは感じていない一方。ダイゴとマリへの憎悪を感じていた。
「ダイゴ・・マリ・・どうあっても私に逆らいたいのね・・でもたとえ永遠の不自由から抜け出せても、私を止めることは絶対にできない・・・」
マリアはすぐに不敵な笑みを見せた。自分が敵わない相手など存在しないと、彼女は信じて疑わなかった。
「もはや私が手を下すしかないということか・・そのほうが明確になって好都合だ・・・」
笑みを強めるマリアが、ダイゴとマリが来るのを待ちわびた。
「私に従わず、永遠の不自由をも拒絶する・・そんなヤツは、もう存在していることも許さない・・私が完全に消してやる・・2度と私に逆らえないように・・・!」
憎悪の言葉を口にして、マリアは歩き出す。彼女に脅威を感じて恐怖し、部屋にいる女性たちはただただ言いなりになっていた。
膨らんでいく激情を胸に秘めて、ダイゴはマリとともに廊下を進んでいた。進んでいくにつれてダイゴは緊張を膨らませ、マリは恐怖を感じていった。
2人の脳裏に過去の記憶がよみがえる。絶対であると言い張る人間に従っていた自分。虐げてくる人間にただただ従うしかなくなっていた自分。
もしも記憶を失い、つかの間の日常に戻ることがなければ、弱いままの自分だった。ダイゴもマリもそう思っていた。
「私、今でも怖くなってくる・・今でもマリアに敵わないのではないかって、思ってしまう・・・」
「マリ・・・」
「でもこの怖さを乗り越えないと、私たちが求めているものは取り戻せない・・だから私も、一歩でも前に足を出していく・・・」
自分の心境を打ち明けるマリに、ダイゴが戸惑いを覚える。彼女の気持ちを受け止めて、彼も真剣な面持ちを見せる。
「やるしかねぇ・・マリアを叩きのめさねぇと、オレたちの心は休まらねぇんだ・・・」
「ダイゴ・・・」
「行くぞ、マリ・・オレたちの過去を、何もかも終わらせてやるんだ・・・!」
改めて意を決して、ダイゴとマリがさらに廊下を進んでいく。そして2人はついに、マリアのいる大広間に通じる扉の前に来た。
「ここだ・・ここにマリアがいる・・・」
「私も感じている・・あの人の気配、忘れようとしても忘れられないかもしれない・・・」
緊張を膨らませていくダイゴとマリ。警戒心を強めながら、ダイゴはゆっくりと扉に手を当てる。
「行くぞ・・・!」
声を振り絞ってから、ダイゴがそのドアを押し開ける。暗闇に満たされた大広間の中央に、マリアは立っていた。
「待っていたわよ、ダイゴ、マリ・・・」
「マリア・・・!」
妖しく微笑むマリアに、ダイゴが憤りを見せる。だがマリアの笑みが徐々に消えていく。
「永遠の不自由から抜け出して、最後まで私に逆らって・・まさに愚の骨頂・・・!」
苛立ちを見せたマリアが、全身から衝撃波を放つ。一瞬揺さぶられるダイゴとマリだが、すぐに踏みとどまった。
「消してやる・・生きることも死ぬことも許さない・・私が存在そのものを消してやる・・・!」
「こっちだって我慢がならねぇんだ!おめぇのようなヤツがいるから、オレたちは無茶苦茶になるんだよ!」
苛立ちを見せるマリアに、ダイゴも怒りをあらわにしてきた。
「私こそが本当に絶対の存在・・世界は私が正しく導く・・・私にしかもう導けない・・・」
冷徹に告げるマリアが、ゆっくりとダイゴとマリに近づいていく。
「私が正しい世界へと作り変える・・これ以上、バカ者たちの好きなようにさせてたまるものか・・・!」
マリアが加速して、ダイゴたちを突き飛ばす。廊下に突き出される2人だが、足を床につけて踏みとどまる。
「それはこっちのセリフだ!これ以上、おめぇの好きにさせてたまるか!」
「私も、あなたに人生を踏みにじられるのは我慢できない!私は、私たちは、あなたの思い通りにはならない!」
ダイゴとマリがマリアに向けて言い放つ。2人の叫びにマリアが憤慨する。
「そうまでして私に逆らう・・そんな存在を、私は絶対に認めない!」
怒号を放つマリアが再び衝撃波を放つ。ダイゴとマリがデーモンガルヴォルス、エンジェルガルヴォルスに変身して、衝撃波を防ぎきる。
「誰が防いでいいといった!?」
飛び込んできたマリアがダイゴとマリに両手を突き出す。痛烈な打撃を受けて、2人が壁に叩きつけられる。
「愚か者は私に虐げられる!自分の愚かさを痛感しながら、私に屈服する以外に末路はない!」
高らかに言い放つマリア。痛みを感じながら、ダイゴとマリが体を起こす。
「オレがどうするかはオレが決める!勝手にオレの進む道を決めるな!」
ダイゴが怒りの叫びをあげる。マリも決心を胸に秘めて声を張り上げる。
「私ももう、あなたには従わない!あなたを退けて、私はマーロンに帰るんだから!」
「マリ・・・」
マリの意思にダイゴが戸惑いを覚える。2人の決意の叫びに、マリアが激怒する。
「認めない!お前たちはここで消える!それ以外は私が許さない!」
マリアが髪を伸ばして、ダイゴとマリを捕まえる。もがく2人の体を、髪がきつく締め付けていく。
「ぐっ・・・!」
ダイゴが激痛を覚えて顔を歪める。締めつけられた体から血があふれ出てくる。
「苦しい?でも私が受けた怒りはその程度では消えはしない!」
「ふざけんな・・もうおめぇの怒りなんざ知ったことじゃねぇ・・・!」
あざけりと怒りを見せつけるマリアに、ダイゴも怒りを見せる。
「確かにおめぇはクズに弄ばれてきた・・思い上がった連中の被害者だってのは分かる・・けどおめぇは、クズへの怒りのあまり、関係ねぇヤツまで弄んで、自分もそのクズになっちまった・・・!」
「黙れ!私がクズを粛清して悪いことがあるか!?愚か者は愚かさを自覚させてから地獄に突き落とす!当然の報いよ!」
「世界の全部が愚かだっていうのかよ!?」」
マリアの怒号をダイゴが怒りで一蹴する。
「確かにこの世界は思い上がったクズばかりがいい思いをするようになっちまってる・・けど世界の全部がそうだってわけじゃねぇ!ミソラやミライ、いいヤツだって中にはいるんだ!」
「だが誰も愚か者を止めようとしない!それ自体も愚かさだというのに!」
自分の心境を告げるダイゴだが、マリアは聞き入れようとしない。
「あなたは、どうして悪いほうしか見ようとしないのですか!?」
そこへマリがマリアに怒号を放ってきた。
「みんな悪いってわけじゃない!人の多くは優しさをちゃんと持ってる!悪さや愚かさのために、優しさまで壊していいことじゃない!」
「黙れ!その優しさのために、愚かさを放っておいていいことにはならない!私は絶対にそんなことを許さない!」
マリの言葉をも聞き入れようとしないマリア。怒りのままに飛びかかったマリアが、ダイゴとマリに詰め寄り、首をつかんで締め上げた。
「戯言ばかり口にする愚か者は、私が根絶やしにする!私が力を見せつければ、世界の自分の愚かさを痛感しながら朽ち果てる!」
「結局、自分さえよければ周りがどうなろうが構わねぇのかよ!?」
マリアに反発したダイゴが、力を振り絞って髪を強引に引きちぎった。続けてダイゴはマリアの体に拳を叩きつける。
「ぐっ!」
思わぬ反撃を受けてマリアがうめく。彼女はダイゴとマリから手を放し、後ずさりする。
「だったらおめぇもその愚か者だ!オレはおめぇも絶対に受け入れねぇ!」
「そんなこと、私が許すと思っているのか!?」
言い放つダイゴに憤り、声を振り絞るマリア。彼女が両手を突き出して衝撃波を放つが、ダイゴが真正面から突き破ろうとする。
「認めない・・許さない・・私の力を思い知らない愚か者など!」
怒りとともにさらに力を強めるマリア。彼女の力に押し切られて、ダイゴは体から血をあふれさせてその場に膝をつく。
「私に間違いなどない!私の力を見せつけられて、愚か者たちは自分の愚かさを痛感することとなった!こうして愚か者は粛清され、世界は正しい方向へと向かっていく!」
息を荒げるダイゴの眼前まで迫り、マリアが言い放つ。
「お前たちは私なしに愚か者をどうにかできると思ってるの!?」
「そんなこと、もうオレの知ったことじゃねぇ・・・!」
怒号を浴びせるマリアに、ダイゴが声を振り絞って言い返す。
「オレがいちいち突っかからなくたって、どうせ地獄に落ちて自分の悪さにイヤでも思い知らされるさ・・そんなのにムキになるよりも、オレは落ち着ける場所と時間がほしいんだ・・心から落ち着けるものが・・・」
「そんなもの・・私が許すと思ってるの!?・・・私の許しなしに、そんな勝手なマネができると思ってるの!?」
自分の心境を告げるダイゴに、マリアが反発してくる。
「もうあなたの思い通りにならない・・・私たちがどうするかは、私たちが決める・・・!」
そこへマリもマリアに向けて言い放つ。
「ダイゴやみんなのいる場所が、私の安らげる場所・・・だからあなたを倒して、あなたに奪われたものを取り戻す!」
「どいつもこいつも、私との力の差も理解せず、愚かさを膨らませていく・・絶対に許してなるものか!」
マリにも怒りを見せるマリア。彼女の伸ばした髪がダイゴとマリの体に突き刺さった。
「ぐあっ!」
体を刺されてうめくダイゴ。マリも彼とともに体から血をあふれさせて、その場に膝をつく。
「これで分かったでしょう?どんなにムキになっても、私に勝てない・・越えられない壁が存在することを・・」
「越えられない壁だなんてのは、自分を弱く見せるための屁理屈でしかねぇ・・・!」
あざ笑ってくるマリアに対し、ダイゴが声を振り絞って反発する。
「自分が1番だと思い込んでる考えが、おめぇを弱くしちまってんだよ・・・!」
「私が弱い?これだけの力と、これだけの意思がある私が、弱いはずがないじゃない!」
「その力に溺れてるから、心が弱くなっちまってんだよ!」
「弱くないと言っている!理解力のない愚か者が、どこまでもふざけて!」
互いに声を張り上げるダイゴとマリア。傷ついた体に力を入れて、ダイゴがマリアの髪をつかむ。
「ふざけてんのはおめぇだ・・どんなに意地になっても、どんなに力でねじ伏せてきても、オレはおめぇの思い通りにはならねぇ・・・!」
ダイゴが髪を引っ張って、マリアを引き寄せる。ダイゴが力を振り絞って、マリアに拳を叩きつける。
「オレはおめぇのおもちゃじゃねぇ!オレをどうにかできるなんて死んでも思うな!」
怒りと決意を込めて、マリアを殴り飛ばす。その際に彼女の髪が体から引き抜かれ、ダイゴとマリから鮮血が飛び散る。
全身を駆け巡る激痛に耐えて踏みとどまるダイゴとマリ。2人の決意が、さらにマリアにぶつけられようとしていた。
次回
「どんなに刃向ってもムダよ・・」
「世界を正しく導けるのは私だけ・・」
「その私を止めることは、誰にもできない・・・」
「世界なんて、今の私たちには関係ない・・・」
「オレはオレの時間を過ごしたい・・それだけなんだよ!」