ガルヴォルスZERO 第23話「世界を狩る死神」
石化と抱擁を経た夜が明けた。抱き合ったまま横たわっていたダイゴとマリは、同時に目を覚ました。
「朝になっちまったか・・・いつの間に眠っちまったんだ・・・」
「仕方ないよ・・昨日まで、いろいろあったんだから・・・」
ため息をつくダイゴに、マリが当惑を見せながら答える。
「・・・確かにいろいろだ・・いろいろありすぎた・・・」
「私たちは元々は追う側と追われる側・・記憶を取り戻して和解した途端、マリアに石化されて、心も揺さぶられて・・・でもミライさんが支えてくれたから・・・」
言葉を交わすと、ダイゴとマリがミライに目を向ける。マリアに石化され、全裸の石像にされたミライは、微動だにせずにその場に立ち尽くしていた。
「ミライ・・・オレたちを励ましてくれただけじゃなく、オレたちのことを受け入れてくれた・・・」
「本当はダイゴに想いを寄せていたのに・・私たちのために・・・」
ミライの優しさを痛感するダイゴとマリ。立ち上がった2人が、改めてミライを見つめる。
「待ってろ・・ゼッテーにみんなを元に戻してやるからな・・・」
「それで私たちは・・本当の平穏を取り戻します・・・」
一途の思いと決心を胸に秘めて、ダイゴとマリが玄関に向かう。マリアに奪われたものを取り戻すため、2人は戦いの場に向かおうとしていた。
にぎわいを見せる街に足を踏み入れていたダイゴとマリ。2人は荒んでいる世界の実態を隠しているように見える街中の雑踏を、じっと眺めていた。
「平和に見えますね・・私たちがこんなことになっているのがウソみたいに・・・」
「どいつもこいつも好き勝手にしてるのに、みんなのん気にしやがって・・・」
深刻さを覚えるマリと、憮然とした態度を取る。
「みんな不満になっていると思う・・その声を本人が聞いていないだけ・・・結局自分が大事だってことかもしれない・・・」
「そういうもんか?・・それもそれでいい気がしねぇ・・・」
「誰だって強いばかりじゃない・・弱さも持っている・・私も、ダイゴも・・・」
「問題なのはそれを認めねぇ・・わざを見ようとしねぇことだ・・自分が悪くねぇって思って、身の程を知らねぇ態度を見せつけやがって・・・」
「でも、マリアも被害者のはずなのに・・・」
「アイツは加害者だ、もう・・自分のために、全然関係のねぇヤツまで傷つけてる・・オレもマリも、そこまで落ちぶれちゃいねぇ・・・」
歯がゆさを覚えるマリと、マリアへの怒りを募らせるダイゴ。
「もう同情しねぇ・・アイツをブッ倒して、オレたちはオレたちの時間を過ごすんだ・・・」
「ダイゴ・・・私も、ダイゴと一緒に・・・」
本当の平穏を取り戻そうと、ダイゴとマリは改めて決意を固めるのだった。
「まさか本当に元に戻っていたとはな・・・」
そこへ声がかかり、ダイゴとマリが緊迫を覚える。2人が振り返った先にはショウがいた。
「アニキ・・・!」
「場所を変えようか・・ここで虐殺が起ころうが、私に不都合はないのだが・・」
目つきを鋭くするダイゴに、ショウが淡々と呼びかける。彼に促される形で、ダイゴとマリは街から離れていった。
人気のない道に差し掛かったところで、ショウがダイゴたちに声をかけてきた。
「なぜ元に戻れた?・・マリア様の永遠の不自由は、自力では誰も破ることはできないのに・・」
「そんなこと知るか・・元に戻ろうと強く思いこんだら戻れたんだ・・・」
「ふざけるな!その程度のことで、マリア様の力が破られるはずがない!何をしたというのだ!?」
「だからそんなの知るかってんだ!」
互いに声を張り上げるショウとダイゴ。ショウが苛立ちを膨らませる前で、ダイゴが真剣な面持ちに戻る。
「オレたちは帰るんだ・・オレたちが求める平穏な日常に・・・」
「そんなことが許されると思っているのか!?・・ここまでの暴挙、もはや万死に値する・・・!」
決意を口にするダイゴに、ショウが鋭く言いかける。だがショウはすぐに冷静さを取り戻す。
「なぜそこまでマリア様に逆らう?・・このまま永遠の不自由を体感していることが、最高の至福だというのに・・・」
「こんなののどこが至福だってんだ・・指一本動かせず、アイツのされるがままの状態のどこが・・・」
「本当に愚かだ・・本当に理解に苦しむ・・お前たちの考えには・・・」
ダイゴの考えにショウがため息をつく。彼は目つきを鋭くして、ダイゴとマリに言いかける。
「お前たちは、決して犯してはならない禁忌を犯した・・絶対の至福と守りを拒むという罪を・・・この至福を拒絶するというなら、破滅以外に道はない・・」
言い放つショウがデッドガルヴォルスに変身する。敵意を見せてきた彼に、ダイゴとマリが緊迫を膨らませる。
「お前のような愚か者が弟だとは、私の最大の汚点だ・・・」
「もうおめぇは、オレのアニキじゃねぇ・・・こんな思い上がってるヤツなんか、オレはアニキとは認めねぇ!」
侮蔑の言葉を口にするショウに怒号を放つダイゴの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「おめぇを叩きのめすことを、もう迷わねぇ!」
デーモンガルヴォルスに変身するダイゴ。兄弟の絆を断ち切り、2人は自身の信念を賭けて対峙しようとしていた。
「お前程度の力など、マリア様が直接手を下すまでもない・・私が引導を渡し、私自身のけじめとしてくれる・・・!」
鋭く言いかけるショウが、右手を突き出して衝撃波を放つ。とっさに両腕でガードするダイゴだが、衝撃波を受けて突き飛ばされる。
「くっ・・・!」
踏みとどまるダイゴだが、ショウの力を痛烈に感じていた。
「お前たちは逃がさない・・その存在そのものも消し去ってくれる・・・」
ショウがダイゴに向けて告げたとき、彼らのいる場所の周辺の空間が歪み出した。
「これは・・まさか、マリアが・・・!?」
「私にも空間を歪ませて移動することができる・・死神としての破壊の力に、再構築を兼ね備えてね・・」
驚愕を見せるマリに、ショウが淡々と答える。彼らは先ほどまでいた通りとは別の異空間に移動してきた。
「わざわざそんなことしなくても、オレたちは逃げねぇよ・・いつまでも逃げてることに、意味なんてねぇからな・・・」
「そこまで覚悟を決めていることは称賛しておこう・・だが、それも私の前では勇気ではなく、無謀でしかないがな・・」
声を振り絞るダイゴに言葉を返すと、ショウが死神の鎌を手にする。
「簡単には死なさない・・その大罪の罰を体に刻みつけてやる・・・!」
ショウがダイゴに飛びかかり、鎌を振りかざす。ダイゴも剣を手にして、ショウの一閃を受け止める。
だがショウが突き出した右足を受けて、ダイゴが怯む。さらにショウが再び振りかざした鎌に、左腕をかすかに切り裂かれる。
「ぐっ!」
痛みに顔を歪めるダイゴ。だが怯まずに、彼はショウへの反撃に転ずる。
そこへショウが左手を突き出し、衝撃波を放つ。再び突き飛ばされ、ダイゴが激しく横転する。
「ダイゴ!」
見かねたマリがエンジェルガルヴォルスに変身する。飛び出した彼女が光を放射するが、気付いていたショウが鎌を振りかざし、光を切断する。
「天使は本来は治癒と希望をもたらす存在・・生を狩り死をもたらす死神の前では、天使も無力でしかない・・」
ショウが低く告げると、マリに向かって飛びかかる。とっさに光の壁を展開するマリだが、ショウが振りかざした鎌はその壁ごと彼女の左腕を斬りつけた。
「キャッ!」
「マリ!」
声を荒げるマリに、ダイゴが力を振り絞る。彼は剣を構えて、ショウに向けて突進を仕掛ける。
「小細工はなしだ!真正面から倒す!」
「猪突猛進か・・まさに猪、獣だな・・」
言い放つダイゴに対し、ショウが落胆を見せる。突進力のあるダイゴの攻撃だが、直線的な動きをショウに簡単に見切られてかわされてしまう。
ショウの振り上げた鎌の刃の先端が、ダイゴの体に突き刺さる。態勢を崩されたダイゴが、鮮血をまき散らしながら昏倒する。
「ダイゴ!」
悲鳴をあげてダイゴに駆け寄るマリ。消耗していたダイゴは、人間の姿に戻っていた。
「不様だ・・不様であり滑稽だ・・諦めが悪いのがお前の性分だったが、それが愚かさのために使われるとは・・・」
ショウがダイゴとマリを見下ろしてあざける。
「愚かなのはアニキのほうだ・・自分のためなら他人を平気で弄ぶヤツなんかに従いやがって・・・!」
「世界が愚かなだけだ。愚か者に愚かさを分からせ、粛清することが愚かであるはずがない。世界を正しく導けるのは、もはやマリア様しかいないのだ・・・!」
声を振り絞るダイゴに、ショウが鋭く言いかける。
「お前たちはこの世界の最大の汚点と化してしまった・・永遠の不自由からも脱し、マリア様に刃向かうことをやめようとしない・・命を狩るだけでは許されない・・存在そのものも抹消してくれる!」
「死ねねぇよ・・消えねぇよ・・・だって、オレたちには、帰る場所があるんだから・・・!」
ため息をつくショウに、ダイゴが必死に言いかける。
「帰るんだ・・オレたちの安らげる場所へ・・・こんなところでくたばるわけにはいかねぇんだよ・・・!」
「いや、お前たちはここで終わる・・私が終わらせる・・・!」
再びガルヴォルスになろうとするダイゴに向けて、ショウが鎌を振りかざす。その一閃がかまいたちとなって解き放たれ、ダイゴとマリを吹き飛ばした。
横転した2人が、突っ伏したまま動けなくなる。鎌を下げてから、ショウが声をかける。
「苦痛は長く続いていいものではないだろう・・とどめにしようか・・」
ショウは言いかけると、鎌を構えてダイゴとマリに向かって歩いていく。力を振り絞って立ち上がったダイゴに、マリが寄り添ってきた。
「オレは死ねねぇよ、マリ・・こんなふざけたことで、死んでたまるかよ・・・!」
「私も死にたくない・・まだまだやりたいことがたくさんあるのに・・ダイゴと一緒に、平穏な時間を過ごしたい・・・」
声を振り絞るダイゴとマリ。信念に突き動かされるまま、2人は互いを抱き寄せていた。
「だから負けるわけにいかねぇ!アイツから何もかも奪われたまま、何もできずに身勝手に振り回されてくたばるなんて、死んでもゴメンだ!」
感情をむき出しにして絶叫するダイゴ。
そのとき、ダイゴとマリの体から光が放出された。その閃光にショウが目を見開く。
ダイゴから紅いオーラが、マリから白いオーラがあふれ出す。2色のオーラがかけ合わさり、2人をさらに引き寄せる。
(あったけぇ・・この感じ・・・)
(すごくあたたかい・・ダイゴの気持ちが、今まで以上に伝わってくるみたい・・・)
奇妙な感覚を覚えて戸惑いを覚えるダイゴとマリ。
(・・・ううん・・この感じ・・ダイゴを抱きしめたときにも感じた・・・ダイゴと、ひとつになっていくみたい・・・)
マリは実感していた。ダイゴと触れ合っていたときの高揚感を、彼女はここで感じていた。
(不思議な気分だ・・マリが、オレに力を分けてくれてるみてぇだ・・・)
ダイゴもマリの気配を感じ取っていた。2人は解け込むようにひとつになっていった。
赤と白のオーラが合わさり、ダイゴとマリはひとつとなった。その光景を目の当たりにして、ショウが息をのむ。
「この光・・悪魔と天使の力がかけ合わさっていく・・・」
ダイゴとショウの変貌にショウが目を疑う。
「この相反する存在の融合は、まさに堕天使・・・!」
たまらず身構えるショウの前で、きらめいていた光が弱まっていく。その光の中から1人の人物が現れた。
顔立ちは中性的で、ダイゴともマリとも似ていた。背中には白と黒の翼がそれぞれ広がっていた。
「その姿・・まさに堕天使だな・・だが堕天使は結局は愚かしき堕ちた天使。葬られる以外の末路はない・・・!」
いきり立ったショウが堕天使に向かって飛びかかり、鎌を振り下ろす。だが堕天使は左手を軽く掲げて、鎌の刃を受け止めた。
「何っ!?」
軽々と攻撃を受け止められたことに、ショウが驚愕する。鎌を動かそうとする彼だが、堕天使がつかまれた鎌はビクともしない。
「この程度のことで!」
ショウが左手を突き出して、衝撃波を放つ。だが堕天使はその直撃を受けても全く押されない。
「バカな!?・・私の力が、全く通じないなど・・・!?」
「オレたちは帰るんだ・・オレたちの安らげる場所に・・・」
愕然となるショウに堕天使が呟くように言いかける。その声はダイゴのものだった。
「認めない・・こんなことで私の力が跳ね返されるなど!」
激昂したショウがダイゴに向かって飛びかかる。
「お前などに私は倒せない!誰もマリア様を超えられない!」
ダイゴに向けて再び鎌を振りかざすショウ。だがダイゴが振りかざした右手が、ショウを突き飛ばした。
「ぐっ!」
激しく横転するショウ。すぐに立ち上がった彼が鎌を振りかざし、かまいたちを放つ。
だがダイゴが目つきを鋭くすると、飛んでいったかまいたちがかき消された。彼の放った衝撃波が、かまいたちを吹き飛ばしたのである。
「どいてくれ、アニキ・・オレたちはアイツから、奪われたものを取り戻さなくちゃいけねぇんだよ・・・!」
「マリア様こそが世界を正しく導ける唯一無二の存在!あの方に牙を向けること自体が大罪なのだ!」
低く告げるダイゴに、ショウが叫び返す。彼はかつてないほどの激昂をあらわにしていた。
「マリア様が導く世界のために、私は力を尽くすのだ!マリア様は、この世界の愚かさを消し去ってくれる!」
「いつまでも自分たちが正しいと思ってるから・・・!」
怒号を放って飛びかかるショウに、ダイゴが歯がゆさを込めて言いかける。彼の目からかすかに涙があふれてきていた。
ダイゴとショウの距離が詰まった瞬間だった。ダイゴの繰り出した右の拳が、ショウの体に叩き込まれていた。
痛烈な衝撃によって、ショウの体から血しぶきが噴き出した。血まみれになった彼から力が抜けていく。
(私の力が・・失われていく・・・!?)
倒れそうになるショウが胸中で声を上げる。
(私はマリア様の導く世界を信じる・・だから、ここで倒れるわけにはいかないのだ!)
だがショウは踏みとどまり、必死に体を起こす。力を込めた彼の体からは、鮮血があふれ出ていた。
「もう体はボロボロだってのに・・アニキ、そこまであんなヤツに・・・!」
戦意を消さないショウに、ダイゴが緊迫を覚える。
「マリア様以外に、世界を正しく導くことはできない・・マリア様の邪魔をするお前たちは、今ここで消える以外に道はない・・・!」
ショウが声と力を振り絞り、鎌を振り上げる。
「私が消す・・お前たちがいると、世界には本当の平和は訪れないのだ!」
マリアへの敬意と世界の正しさへの渇望が、今のショウを突き動かしていた。望んでいた世界が生まれるのならば、自分の命がどうなろうと知ったことではない。彼はそう思っていた。
だがその信念とは裏腹に、ショウの体は限界を超えていた。
体が人間へと戻ったショウ。彼は力の全てを使い果たしてしまった。
次回
「世界は私が正しく導く・・・」
「これ以上、バカ者たちの好きなようにさせてたまるものか・・・!」
「反逆の末路は破滅以外にない・・」
「どんなに力をつけようとも、マリア様に逆らうことはできないのだ・・・!」