ガルヴォルスZERO 第21話「永遠の不自由」
私は有数の資産家として、世界を渡り歩いた。地獄のような日々から抜け出した私は、世界で見られるような豊かな時間を過ごせると思った。
でも私が見た世界は、私が考えていた理想の場所とは大きくかけ離れていた。
現実の世界は腐りきっていた。不良や犯罪者だけでなく、国や世界を動かす立場にいる人間までも自分勝手であろうとしていた。
国民のために尽力する政治家や芸能人たちが、その国民のために尽力しようとせず、自分たちだけが幸せであろうとする。他人がどうなろうと知ったことではないと言わんばかりに。
こんなのが正しい世界であるはずがない。こんな愚かな世界など、私は絶対に認めない。
私は決意した。この世界を正しい形に変えることを。そのために愚か者たちに、私の力を見せつける必要があると。
力のある者が世界を動かし、身の程知らずの弱者は屈服と服従を強要される。そのためのやり方を私は分かっていて、なおかつそのための力を持っている。
意を決した私は、その行動を実行した。
私は周囲にいた女を次々に屋敷に連れ込んだ。その1人をオブジェにするのを見せつけて、私の力と恐怖を女たちに植え付けた。
それから私は女たちを従わせた。逆らったり失敗を犯したりしたヤツは、すぐにオブジェに変えた。そのやり方と力が、女たちに自分の弱さと愚かさを痛感させていた。
中にはガルヴォルスもいた。でも私には及ばなかった。私のほうが強い。私のほうが優れている。愚か者に身の程を思い知らせる。その憎悪が私をさらに強くしていった。
もはや愚か者が私を従わせることはできない。私が世界を動かしていく。
時期に私の存在を公にしていくことになる。それを機に、世界から愚かさが消えることになる。
「・・・あなたに、そんなことが・・・!?」
マリアの話を聞いて、マリが困惑していた。
「・・・おめぇがオレみてぇに、ふざけたヤツが許せねぇのは分かった・・・けどだからって、関係のねぇヤツにまで怒りをぶつけていいことになんねぇだろ!?」
しかしダイゴは納得できず、声を荒げる。彼の言葉にマリアが憤る。
「だったら他のヤツらはどうなの!?私を散々踏みつけてきたヤツらのほうが、全然いいわけないじゃないのよ!」
「だからってそんなの、おめぇが嫌ってきたヤツと、やり方が変わらねぇじゃねぇかよ!」
「黙れ、愚か者が!」
怒号を上げるダイゴの顔をつかみ、マリアがそのまま締め付ける。彼女の手を振り払おうとするダイゴだが、その行為が拒絶されていく。
「他のやり方で愚か者が利口になるのか!?どんなに呼びかけても、ヤツらは何も聞こうとしない!思い上がっているから、聞く耳を持たない!」
マリアは言い放つと、ダイゴを突き飛ばす。一切の抵抗が許されず、ダイゴが歯がゆさを覚える。
「自分の愚かさをその絶対的な差とともに思い知らせる・・それこそが私のやり方・・・」
「何だとっ!?」
「世界を正しく導けるのは、力と揺るがない激情・・自分勝手な考えでは愚かな道しか開けない・・もう世界は、私にしか安寧をもたらせない!」
「そういうおめぇも思い上がってるヤツの1人じゃねぇかよ!」
互いに考えを貫こうとするマリアとダイゴ。するとマリアが怒りを治めて、不敵な笑みを浮かべてきた。
「どっちにしても、もうお前たちは私に逆らうことはできない・・・お前たちはオブジェ。私に屈服していることに変わりはない・・」
「冗談じゃねぇ・・このままおめぇの言いなりになってたまるか・・・!」
「だってお前たち、指一本動かせないじゃない・・本当なら私に見られても触られても、声を出すこともできないのよ・・・」
あざ笑ってくるマリアに対して何もできず、ダイゴが言葉を詰まらせる。
「それに、お前たちの心の中でも、私の思い通りにできる・・たとえば・・・」
マリアが言いかけたとき、ダイゴとマリが突然下に落下していった。重力に引きこまれるように、2人は闇の中へと落ちていった。
しばらく落下して、ダイゴとマリが水の中に落ちた。ダイゴは即座にマリを連れて水の上へと飛び出した。
息苦しさを覚えて大きく息を吸うダイゴ。その瞬間、彼は口の中に奇妙な感覚を覚える。
「げはっ!あはっ!」
嗚咽にさいなまれるダイゴ。彼は手にすくった液体から、気色の悪い感触を感じた。
「血・・・!?」
紅い血を目にして、ダイゴが目を見開く。彼とマリが落ちたのは、一面に広がる血の海だった。
「このように、お前たちの心の中を血の海を出すこともできる・・・」
愕然となっているダイゴとマリの前に、マリアが姿を現し、血の海を進んできた。
「これが私に屈服するってことだ・・私の思うがままにお前たちは弄ばれていく・・・」
「ふざけんな!こんなことでオレが諦めるわけねぇだろうが!」
「フフフフ・・ムダよ。どんなに抵抗しようとしても、その気持ちは私を止められない・・お前たちはそこで大人しくしているしかないの・・」
苛立ちを膨らませるダイゴをマリアがあざ笑う。
「もう、諦めるしかない・・・でもどうしても、諦めきれない・・・!」
マリも負けん気を見せて、マリアに詰め寄ろうとする。だが彼女もマリアへの敵意を拒絶される。
「ダイゴだけじゃなく、お前まで私に刃向おうとするなんて・・このまま永遠の不自由を堪能していればいいものを・・」
「永遠の、不自由・・・!?」
妖しく微笑むマリアに、マリが目を見開く。
「お前たちは、永遠というものを信じている?」
「永遠?・・そんな夢物語、信じてるわけねぇだろうが!」
マリアが唐突に投げかけた疑問に、ダイゴが声を張り上げる。
「誰もが望みながらも、結局は夢物語のように叶えられないと思う・・それが永遠というもの・・・」
淡々と語るマリアが、ダイゴの体に手を当てる。刃向うことができず、ダイゴはただただマリアに触れられていくばかりだった。
「もしかしたら、私のもたらす石化が、永遠をもたらしているのかもしれないわね・・」
「えっ・・・!?」
マリアが口にした言葉に、マリが声を上げる。
「体が石になっているから、年を重ねて老いることがなくなる・・私の石化は絶対に壊れることがないから、いつまでも生きていられる・・つまりこれが永遠の命・・不老不死ということになる・・・でもそこに自由はない。指一本動かせないまま、終わりのない時間を過ごしていく・・・」
語り続けていくマリアの言葉に、ダイゴとマリは聞くしかなかった。
「単なる永遠なら喜ばしいことこの上ない・・でもそこに自由がなければ、これ以上の地獄はない・・オブジェになることは、自由のない時間をずっと過ごさなければならなくなる・・だから私はこの石化を“永遠の不自由”と呼んでいるのよ・・・」
「石になってるから自由がねぇ・・それがずっと続く・・だから永遠の不自由ってわけか・・・!」
マリアの話を聞いてダイゴが毒づく。永遠の不自由による不安に襲われ、マリも困惑する。
「もはやお前たちも微動だにしないオブジェ・・この終わりのない絶望を味わい続けていくことね・・・」
「冗談じゃねぇ!このままおめぇを叩きのめさねぇまま、じっとなんてしてられるか!」
「何度も言わせないで・・オブジェになった時点で、お前たちは私のもの・・私に逆らえないことは、もう決まっていることなのよ・・・」
マリアが投げかける言葉に反論できなくなり、ダイゴが愕然となる。
「ここでじっとしていること・・それだけがお前たちに許されていることなのよ・・・」
マリアのこの言葉を耳にして、ダイゴは絶望に襲われた。彼は完全に力を失くし、倒れそうになったところをマリに支えられる。
「ダイゴ!?ダイゴ、しっかりして!」
マリが呼びかけるが、ダイゴは反応しない。彼は目の焦点が合っておらず、目を開いたまま気絶しているようだった。
「どうしたっていうの?・・・ダイゴに何をしたの!?」
「何もしていないわ。単にダイゴが絶望しただけ・・」
声を荒げるマリに、マリアが笑みをこぼしながら答える。
「ダイゴはいつも許せないことに反抗していた・・許せないことを受け入れることは、ダイゴにとって死ぬことと同じなの・・」
マリアの言葉を聞いて、マリが緊迫を覚える。マリアに従うしかなくなったことで、ダイゴは絶望していた。
「今のダイゴは心が壊れて、生きながら死んでいるのと同じ状態にある・・もう刃向かう気持ちも湧いてこないでしょうね・・」
「そんな・・ダイゴがそんなこと・・・!?」
「いつも感情的でなりふりかまわず突っかかるけど、本当はすごく弱い・・ちょっとしたことで、すぐに壊れてしまう心を持っていた・・・」
愕然となるマリに、マリアが妖しく語りかける。するとダイゴがマリに寄り添ってきた。
「ダ、ダイゴ・・・!?」
突然のダイゴの行為に、マリが困惑する。彼は彼女の体に触れてきていた。
「やめて・・落ち着いて、ダイゴ・・・!」
「あらあら。すっかり甘えて・・」
ダイゴに寄り付かれて困惑するばかりのマリ。2人の様子を見て、マリアが嘲笑してくる。
「心が壊れたダイゴは、母親に甘える赤ん坊と変わらなくなってる・・今の唯一の心のよりどころのお前にすがりつくことで、自分を保とうとしているみたいね・・」
「ダイゴが、そこまで・・・」
「ひとりぼっちじゃないのが不幸中の幸いというところね・・お互いの心の支えと終わりのない時間を過ごしていく・・これ以上の幸せはないかもしれないわね・・」
声を上げるマリに、マリアが哄笑を上げる。
「ではそろそろ私は行くわ・・まだまだ愚かな女はたくさんいるし、いつかは世界に私の力を見せつけるときが来るから・・」
マリアは言いかけると、ダイゴとマリの前から姿を消した。
「待って!私たちを元に戻して!」
マリが呼びかけるが、マリアが留まることはなかった。
「ダイゴ・・・ダイゴ・・・!」
取り残されたマリとダイゴ。一糸まとわぬ石像にされた2人の心は、無限に広がる闇の中に佇むだけとなってしまった。
ダイゴとマリの心の中から戻ってきたマリア。彼女は石となっている2人から離れた。
「戻られましたか、マリア様・・・」
「ダイゴの心は壊れたわ・・もう私たちに刃向おうとも思わない・・・そう考えることもできなくなっているから・・・」
ショウが声をかけると、マリアが振り向いて妖しく微笑みかける。
「あのダイゴは本当に無様ね・・すっかりマリに甘えて・・そうしないと自分を保てなくなっていて・・・」
落ちぶれたダイゴをあざ笑うマリア。だがショウに視線を戻すと、彼女は笑みを消した。
「何か不満があるの?やっぱり弟がこんな姿にされたのは、兄として我慢がならないとでも?」
「まさか・・むしろ逆です。ダイゴの体たらくに呆れているのです・・マリア様に刃向い、清水マリ共々永遠の不自由を味わうことになったのですから・・・」
マリアが投げかけた問いかけに、ショウが淡々と答える。
「私にもはや未練などありません。兄弟のつながりなど、今となっては何の意味もありませんから・・」
「割り切っているのね・・でも賢明な判断だから、私は認めるわ・・・」
「ありがとうございます・・・」
「ではそろそろ戻るわ・・私がいないからって、女たちが好き勝手にされるのも癪だし・・・」
「あなたへの恐怖が染み込んでいますのでそのようなことはあり得ませんが・・ここに長居する必要もないですから・・」
ショウと言葉を交わすと、マリアは自分の屋敷に戻ろうとした。
そのとき、家のインターホンが鳴り出した。唐突なことにマリアとショウが眉をひそめる。
「ダイゴ・・マリちゃん・・ミライ・・・?」
続けて声がかかってきた。やってきたのはミソラだった。ダイゴたちのことが心配になり、彼女は家を訪れたのである。
「佐藤ミソラか・・ここに来るとは・・・」
「そこの女の姉ね・・女は全員私に従わせる・・・」
言葉をかけるショウに、マリアがミライに目を向けて妖しく微笑む。不審に思ったミソラが、ドアのかぎがかかっていないことに気付いて家に入ってきた。
「マリちゃん・・ミライ・・・?」
マリたちを求めて部屋に入ってきたミソラ。そこでマリアを目の当たりにして、ミソラが警戒を覚える。
「お探しの人ならここにいるわよ・・もう指一本動かせないけど・・・」
妖しい笑みを見せるマリア。ミソラは石化して変わり果てたダイゴ、マリ、ミライを目にして驚愕する。
「まさか・・・本当に、ダイゴたち・・・!?」
「私がオブジェにしたの・・みんな私に刃向かうからいけないのよ・・大人しく私に従っていれば・・・」
目を疑うミソラに、マリアが淡々と言いかける。そしてマリアはミソラの眼前に詰め寄ってきた。
「一緒に来てもらうわよ・・私のそばにいれば、世界の愚かさに脅かされることもなくなるから・・・」
「い・・・いや!」
連れ去ろうとするマリアを、ミソラがたまらず突き飛ばした。突然のことに後ずさりしたマリアだけでなく、ショウも驚きを覚える。
「何がどうなっているかは分からないけど、ミライやマリちゃん、ダイゴくんをこんなにする人のほうが、よっぽど愚かよ!」
憤慨したミソラが、マリアに向かって叫ぶ。
「早くみんなを元に戻して!ミライたちを返して!」
だがマリアに首をつかまれて、ミソラが顔を歪める。
「妹といい姉といい、私に逆らおうとする・・本当に馬鹿げてる・・・」
ミソラをあざ笑ってくるマリア。だが彼女はミソラの態度に苛立ちを感じていた。
「お前ももういらない・・妹と同じ思いをするといいわ・・」
カッ
マリアはため息をつくと、ミソラに向けて眼光を放つ。
ドクンッ
その光を受けたミソラが強い胸の高鳴りを覚える。
「何、今の・・・!?」
ピキッ ピキッ ピキッ
声を荒げたとき、ミソラの足が石に変わった。くつしたが引き裂かれ、ひび割れた素足がさらけ出された。
「もしかして今の、ミライたちにもやった・・・!?」
「その通り。お前もここで永遠の不自由を味わうといいわ・・」
ピキッ パキッ パキッ
石化が一気に駆け上がり、ミソラの衣服を引き裂いていく。素肌をさらけ出されて、彼女は困惑を見せる。
「妹と同じ姿になって、同じ場所で永遠を過ごす・・不幸中の幸いじゃない・・・」
「そんなことないって・・私たちにこんなことして・・何の罰がないと思わないことね・・・!」
「フフフ。そんな姿になってもまだそんな強気・・姉妹そろって不快になってくるわ・・・」
声を振り絞るミソラを、マリアがあざ笑ってくる。
「でもオブジェになったらそんな態度も見せられない・・せいぜいダイゴたちと一緒に絶望しているといいわ・・・」
ピキッ ピキッ
石化に浸食されていくミソラの前から、マリアがきびすを返して、ショウとともに姿を消していった。
「ミライ・・マリちゃん・・・ダイゴ・・く・・・ん・・・」
ピキキッ
声を振り絞っていたミソラの唇も石に変わり、ミソラは脱力していく。
フッ
マリアを止めることができないまま、ミソラは完全に石化に包まれた。マリアの力の前に、ダイゴたちは体も心も彼女に掌握されてしまった。
マリアに信念を打ち砕かれ、心を壊してしまったダイゴ。彼はマリにすがりつくことしか考えられなくなり、彼女のぬくもりを感じていた。
ダイゴからの接触を感じながら、マリは茫然となっていた。
「もういいよね・・もうどうすることもできない・・・」
絶望にさいなまれて、マリが呟きかける。
「体の自由がなくなり、マリアに逆らうこともできない・・石化を解く方法も分からない・・ガルヴォルスの力も使えない・・・それではもうどうすることもできない・・・」
マリは諦めていた。ダイゴの心も打ち砕かれ、彼女は希望を見失っていた。
「でも全くの不幸というわけではないよね・・こうしてダイゴと一緒にいられるから・・・」
マリはダイゴへと意識を傾けていく。
「もしかしたら・・これが私たちの幸せの形かもしれない・・・自由がないのは辛いけど・・ダイゴとなら・・・」
「それでマリちゃんは満足できるの・・・?」
そこへ声がかかり、マリが目を見開く。彼女が見たのは、マリアの石化されたはずのミライの姿だった。
次回
「マリちゃんは本当は何を求めているの・・・?」
「マリちゃんとダイゴなら、どんなことだって乗り越えられるはずだよ・・」
「私・・このままではいたくない・・・」
「ダイゴと一緒にいたい・・・一緒に平穏な時間を過ごしたい・・・!」