ガルヴォルスZERO 第20話「魔女の目覚め」
「ダイゴ・・・ダイゴ・・・!」
呼び声を耳にして、ダイゴが意識を取り戻す。
「ん・・・オレ・・・」
「ダイゴ・・・気がついたのね・・・」
呟きかけるダイゴの前にはマリがいた。マリはダイゴを見つめて、安堵の笑みを浮かべていた。
「マリ・・おめぇ・・・なっ!?」
マリを目にした途端、ダイゴが驚きの声を上げる。マリが全裸であることを、彼はここで気づいたのである。
「お、おい!何で裸になってんだよ!?・・・えっ!?オレも!?」
「落ち着いて、ダイゴ・・ここは現実の世界ではないの・・・!」
自分も裸になっていることにも気づき動揺するダイゴに、マリが呼びかける。ダイゴが我に返り、落ち着きを取り戻していく。
「そうか・・・オレたち、マリアに石にされて・・・」
自分たちの身に起きたことを思い返すダイゴ。
「もう私たちにはどうすることもできない・・体が石になっていて、指一本動かせなくなってる・・ガルヴォルスにもなれない・・・」
「というよりここはどこなんだ?・・ここじゃ、体が石になってねぇみてぇだけど・・・」
沈痛の面持ちを浮かべるマリと、周囲を見回すダイゴ。2人がいるのは暗闇に満たされた場所だった。
「分からない・・私も気がついたらここにいた・・ただ、これだけは分かる・・私たちはまだ、マリアに石にされたままだって・・」
「どういうことなんだ?まだオレたちが石になってるなら、今ここにいるオレたちは何だっていうんだ・・!?」
マリが口にした言葉に、ダイゴが疑問を膨らませていく。
「ただ、感じ取れるの・・私とダイゴが、抱き合ったまま石になっているのが・・・」
マリに促されて、ダイゴが意識を集中する。彼も未だに石化している自分たちの姿を実感した。
「まだ石になっているのに、これがどういうことなのか、私には分からない・・もしかしたら、ここは心の中で、ここにいる私たちは、心・・・」
弱々しく告げるマリが、ダイゴに寄り添ってきた。戸惑いながら、ダイゴはマリを優しく抱きしめる。
「もう何もできない・・それなのに、どうしてこんなに諦められないの・・・?」
「マリ・・・」
「こうしてダイゴと一緒にいられる・・誰にも邪魔されず、ずっと2人きりでいられる・・それなのに、納得ができない・・・!」
「それはオレも同じだ!・・・このまま丸裸の石にされて、マリアのいいようにされっぱなしだなんて、我慢がならねぇよ・・絶対に元に戻って、アイツを叩きのめしてやる・・・!」
互いに不満を浮かべるマリとダイゴ。
「自分が1番と言い張って、関係ねぇヤツを従わせて喜ぶ・・そんなサイテーなヤツを野放しにはしねぇ!」
「ダイゴ・・・」
声を振り絞るダイゴに、マリが戸惑いを見せる。ダイゴがまだ諦めていないことを感じて、マリは安堵を覚えていた。
「フフフフ、勇ましいことね・・」
そこへ声がかかり、ダイゴとマリが緊迫を覚える。2人が振り向いた先には、妖しい笑みを浮かべているマリアがいた。
「マリア・・・!?」
「おめぇが、何でここに・・・!?」
驚きを見せるマリとダイゴ。2人と同じく一糸まとわぬ姿のマリアが、さらに笑みをこぼしていた。
「何で?今のお前たちは私によってオブジェにされている・・つまりお前たちは私の支配下にある・・そのお前たちの心の中に、私が入れないわけがないでしょう?」
あざ笑ってくるマリアに、ダイゴが歯がゆさを見せる。
「それにしても無様ね。あれだけ反抗的になっていたお前たちが、オブジェになって指一本動かせなくなった・・ただただ私に弄ばれるだけ・・・」
「ふざけんな!このままおめぇの思い通りにはならねぇ!」
あざ笑ってくるマリアに、ダイゴが怒りをあらわにする。
「必ず元に戻って、おめぇをブッ飛ばして・・!」
ダイゴがいきり立って、マリアに殴りかかろうとした。だが彼が突き出そうとした右手が突然止まる。
「何っ・・・!?」
この異変にダイゴが驚愕する。彼自身の意思に反して、彼の手はこれより前に出すことができず、震えるばかりだった。
「どういうことなんだ!?・・・手が、前に出ねぇ・・・!」
「ムダよ。もうお前たちは私に逆らうことはできない・・」
声を荒げるダイゴに、マリアが微笑みかける。どんなに力を込めても、ダイゴの右手は前に出ない。
「今のお前たちは物言わぬ石のオブジェ。私に逆らうどころか、わずかも動くことはない・・しかも石化をかけたのは私。私に逆らうことができないのは、これらの理由で決められていること・・」
「そんなこと、おめぇが勝手に決めてんじゃ・・・!」
「もうそういう決まりになっているのよ・・今のこの状況、お前たちは私には逆らえない。私に敵意を見せた瞬間、それを感知して攻撃を封じられる仕組みなの。つまり私に殴りかかろうとしても、強制的に止められる・・」
怒りを膨らませるダイゴを、マリアがあざ笑ってくる。身動きの取れないままのダイゴに、マリアが手を伸ばしてきた。
「そう・・そうやって私に触れられても、私の手を払うこともできない・・・」
マリアに体を触れられるも、ダイゴは金縛りになったように抵抗できなくなっていた。
それはマリも同じだった。ダイゴを助けようと思っていた彼女だが、体が動かず、マリアに抵抗することもできなかった。
「どう?絶対的な力に追い詰められていく気分は・・」
「ふざけんな・・自分が1番だと思い込んでいる・・自分さえよければ、他のヤツを切り捨てる外道のくせに・・・!」
「自分さえよければ?・・そんなの、私より思い上がっているヤツなんて腐るほどいるわよ・・・」
声を振り絞るダイゴに、マリアが低い声音で言いかける。
「お前たちには特別に教えてあげる・・私の過去をね・・・」
マリアが切り出してきた話に、ダイゴとマリが固唾を呑んだ。
私が子供の頃に両親は亡くなった。親以外の身寄りがなかった私は、とある資産家の家に預けられることになった。
ところがその家の母、エリカ、2人の姉妹のミカとリカは意地悪な性格だった。全てを私のせいにした。
「ほら!まだここにほこりが残っているわよ!」
エリカがどなり声をあげて、私を叩いてきた。強く叩かれた私は、痛みを感じて震えていた。
「何をぼさっとしてるの!?早く掃除を終わらせなさい!」
「そうよ。お母様のご機嫌を損ねてはいけないわ。」
エリカに続いてミカがあざ笑ってきた。そばにはリカもいた。
「ホントに使えないわね、この使用人は・・掃除も満足にできないなんて・・」
「せっかく優雅な一家だというのに、コイツのせいで汚らしく思われるなんて・・・」
ミカもリカも私をバカにしてくる。腹立たしくなっている私に、エリカが苛立ちを見せてくる。
「何よ、その目は!?・・私たちに逆らえると思ってるの!?」
エリカが怒鳴りながら私を立て続けに叩いてきた。アイツは逆らわれるのが許せない性格だった。
「お前のようなクズは、ただ私たちの言うとおりにしてればいいのよ!金も名誉も力もないゴミなんて、私たちが助けてやらないと何もできないんだから!」
罵声を上げながら私に暴力を振るってくるエリカ。ミカとリカもそれを見て楽しそうに笑ってくる。
私は我慢がならなかった。身勝手でふざけた理由で弄ばれるのが。
こんな無茶苦茶をぶち壊したかった。目の前にいる愚か者たちの息の根を止めたかった。でも私には力がなかった。息の根を止めるどころか、手足を振り払うことも。
度重なる暴力と命令に、私は苦しみ続けた。何度も血反吐を吐いた。体の痛みも絶えなかった。
こんな無茶苦茶が許されていいのか。これだけ無茶苦茶が来たなら、大逆転があってもいいはず。それがないならひと思いに死なせてほしかった。こんな苦しみをいつまでも感じていたくなかった。
神様ならそんな願いを叶えてくれる。こんな苦しみを続けている私を助けてくれるはず。そう思った。
でもその願いは叶わなかった。どんなに願っても私は救われなかった。
だから私は、神様はいないと思った。神がいないから、私の叶えられるべき願いが叶わない。
絶望を感じながら、私は力を求めた。あんなふざけたヤツらなど簡単につぶせるほどの力を。
怒るほどに、憎むほどに、力への欲求は強くなっていった。
日に日に増していく憎悪を押し殺して、私は家での雑用を続けていた。でもある日、エリカがすごく不満を見せて帰ってきた。
業務での失敗の責任を取らされたためだった。その責任に納得がいかず、エリカは屋敷の中で苛立ちをあらわにしていた。
「アイツら!散々私たちに頼っておきながら、失敗が出た途端に手の平を返して!」
ひたすら怒鳴るエリカ。見せつけてくる怒りの矛先を、アイツは震えている私に向けてきた。
「お前のせいよ・・私がこんな思いをさせられるのは!」
近づいてきたエリカは、力任せに私を蹴り飛ばしてきた。転がった私は体に痛みを覚えて震えていた。
「わ・・私は何も・・・」
「口答えするな!私がいなければ何もできないクズの分際で!」
言い訳をする私に怒鳴りかかるエリカ。私の声に耳を貸すはずもなく、私に八つ当たりするだけだった。
「私が偉いのよ!私がお前をどうしようと、お前が私に何をされようと、それは決まってることなのよ!」
「決まっていること?・・・決まって・・・?」
「そうよ!お前はのたれ死ぬまで、私たちにこき使われるのよ!それ以外は許さない!私たちが許さない!」
絶望感を膨らませる私に、エリカが高らかに言い放つ。その言葉が私には我慢がならなかった。
ここまで私の人生が他のヤツに左右されるなんてありえない。そんなの認められるはずもない。
「今日はとことんしつけてやるわよ!2度と私を不愉快にさせないように!」
「そんなの認めない!」
言い放つエリカに対し、私は我慢の限界を迎えていた。私は初めて、エリカに心から反抗的な態度を見せていた。
「お前、私にそんな態度を取るの!?何様のつもりよ!?」
「お前こそ何様だ!?いつから人の人生を左右できるほど偉くなったのよ!?」
苛立ちを見せるエリカに、私はひたすら怒りをぶつけていた。堪忍袋の緒が切れたというのは、こういうことをいうのかもしれない。
「お前は私たちが拾ってやらなければ、今まで生きてこられたのよ!その恩をあだで返すなんて、やっぱりクズはクズってことね!」
「黙れ!」
エリカの言葉に私は怒りをあらわにした。そのとき、私は一瞬、自分の体に何かが起こったような感覚を覚えた。
次の瞬間、私は自分に何か起こったか分からなかった。でも気がついたときには、私は目の前の光景を疑った。
私の前にいたエリカは血まみれになり、体をバラバラに切り裂かれて倒れていた。憎かったヤツの死体だったとはいえ、この悲惨な光景に私は目を背けそうになっていた。
でも私は、すぐに自分の力を実感した。私にはすごい力があり、その力でエリカを殺したことも。
「すごい・・力がすごいだけじゃない・・その力がどういうものなのか、まるで手に取るように分かる・・・」
私は喜びに打ち震えた。これだけの力があるなら、もう誰かに従うことはない。自分の思うようにできる。邪魔するものはこの力でねじ伏せればいい。
笑いをこらえることができなくなった私のいるこの部屋に、ミカとリカがやってきた。
「こ、これって・・・母さん!?」
「マリア・・・お前がやったの・・お前が母さんを殺したの!?」
ミカが悲鳴を上げ、リカが私につかみかかってきた。
「お前、ふざけたマネして!ゴミのくせにこんなこと、許されると思ってるの!?」
ミカが私を叩こうと右手を振りかざしてきた。でも私はその手を簡単につかんでいた。
「同じセリフを返すわ・・ゴミの分際で、いつまでも調子に乗って・・・!」
「い、痛い!腕が、腕が折れる!」
怒りを込めてミカの腕をつかんでいる手に力を込める。するとミカが痛がって悲鳴を上げる。
「お姉ちゃんを放せ!」
リカが私に飛びかかってくる。私はつかんでいるミカをリカに投げつける。
「キャッ!」
壁に叩きつけられて悲鳴を上げるミカとリカ。私の力を思い知って、ミカが怖がって震えていた。
「こんなに力があるなんて聞いてない!ゴミのくせにこんな強さあり得ないって!」
「お前たちが分かっていなかっただけよ・・もっとも、この力はたった今生まれたものだけどね・・」
大声を上げるミカに対して、私は優越感を感じていた。今まで散々私をいじめてきたヤツらが、蛇に睨まれた蛙のようにおびえていたのだから。
「あの女は怒りのままに殺してしまったみたいだけど、お前たちは殺しはしない・・その代わり、死よりも苦しい思いをさせてやる・・・!」
私は言いかけると、髪を伸ばしてミカとリカを縛りつける。2人とも必死になって髪から抜け出そうとするが、抜け出すことができない。
「放せ!放しなさいよ!こんなことして、ただで済むと思ってるの!?」
「そんなの、もう私には関係ない・・そもそも、私や周りのことなど、お前たちに関係ないことだけど・・・」
怒鳴るミカたちを私はののしり、意識を集中した。私は自分の力がどういうものなのか、きちんと理解していた。
カッ
その力を光に変えて、私はそれを目から放った。
ドクンッ
私には分かった。この光を受けたミカとリカの鼓動が一瞬大きくなったのを。
「何、今の・・・!?」
「ちょっと!あたしたちに何をしたのよ!?」
ミカとリカが声を張り上げる。その言葉を耳にして、私は喜びを全開にした。
ピキッ ピキッ ピキッ
私はまずミカの体を石に変えた。ヤツに来ていた服が破れ、あらわになった体が石になっていた。
「ど、どうなってるの!?・・これって、石・・・!?」
「そうよ!私が手にしたのは石化の力!かけた相手を思うように石にしていくことができる!どこから石にしていくか、どれくらいの速さか、全て私の思うがまま!」
石になっていく自分の体を見て驚愕するミカに、私は笑いながら言い放つ。
「お前たちはこのまま石になり、物言わぬオブジェとなるのよ!」
「冗談じゃない!このまま石になんてなりたくない!」
ピキキッ パキッ
悲鳴を上げるミカの体を、私はさらに石にした。石化の効果でミカの服が一気に破れて、丸裸になっていた。
「体が、いうことを・・・早く元に戻しなさいよ!そんなこと、許されるなんて・・!」
「戻してほしいというヤツがそんな態度を取っていいの!?そもそも私にそんな態度を取れるとまだ思っているとは!」
助けてもらおうとするミカの態度に、私は我慢がならなかった。
ピキッ パキッ パキッ
ミカの石化は首から上を残すだけとなった。力を入れられなくなっていたが、ミカは私への反抗的な態度を変えない。
「だったらもういいわ・・このままオブジェにしてしまえば、お前のいらつく声を聞くこともなくなる・・・」
「このまま・・このままで済むと思わないことね・・・!」
フッ
捨て台詞を残して、ミカは完全にオブジェになった。これでミカはこれから永遠の不自由を味わうことになる。
「お願い!私は助けて!」
ピキッ パキッ パキッ
逃げ出そうとしたリカ。でも私はリカの両足を石にして動けなくした。
「言ったでしょう?どこから石にしていくか、全て私の思い通りにできるって・・」
「お願いです!助けてください!元に戻してください!」
私があざ笑うと、リカが助けを求めてくる。
ピキッ ピキキッ
私が石化を進めると、リカはさらに怯える。石化は一気に駆け上がって、胸にまで及んでいた。
「やめて!助けて!何でもするから、石にするのはやめてください!」
「本当に何でもするの・・・?」
私が声をかけると、リカが満面の笑みを浮かべてきた。本当に嬉しそうだと、私も思わざるを得なかった。
「ならこのままオブジェになって、“永遠の不自由”を堪能してなさい・・」
「えっ・・・!?」
私が告げた言葉で、リカの笑みが凍りついた。つかみかけた希望を打ち砕かれて一気に絶望へと堕ちる。思い上がっていたヤツのそんな姿を見て、私は喜びに打ち震えた。
ピキッ パキッ
リカの首元にまで石化が及んでいた。絶望のあまり、リカが涙を流していた。
「やめて・・助けて・・・たす・・け・・・て・・・」
フッ
助けを求め続けていたリカもオブジェになった。その瞬間、私は喜びを抑えきれず笑いを浮かべた。
「どこまでも調子のいいこと言っちゃって!散々私を助けなかったくせに、自分のいいように事を進めて!」
あざ笑う私は、全く動かなくなったリカの顔を持つ。これだけ敵意を向けても、リカはもう何も反応しない。
「お前たちには念入りに絶望してもらう・・私が受けてきた苦しみ以上のね・・・」
それから私は、ミカとリカを屋敷のそばにある崖下に突き落とした。私の石化はどんな衝撃を与えても絶対に壊れることはない。崖に落としても生き埋めになっても。でももしそんな状態で石化が解けたら。そんな絶望感をアイツらに与えることができて、私はさらに喜んだ。
「これからは私がこの財産を養っていく。お前たちよりうまく扱っていくから・・」
私はミカとリカに最後の言葉をかけた。力を得た私は地獄のような日々と別れ、最高の生活を送っていくこととなった。
でもこれから私は、世界の愚かさを知ることとなった。
次回
「世界を正しく導けるのは、力と揺るがない激情・・」
「自分の愚かさをその絶対的な差とともに思い知らせる・・それこそが私のやり方・・・」
「もうお前たちは私に逆らうことはできない・・・」
「この終わりのない絶望を味わい続けていくことね・・・」