ガルヴォルスZERO 第19話「絶対の絶望」
ダイゴとマリの前に現れたマリア。ダイゴを追い詰めるマリアに、エンジェルガルヴォルスとなったマリが攻撃を仕掛けてきた。
「ダイゴが傷ついていくのを、黙って見ていることはできない・・たとえ敵わない相手でも、私はダイゴのために・・・」
「くだらないわね・・そんなことで私に刃向かうなんて、バカみたい・・・」
決心を固めるマリに、マリアが呆れて肩を落とす。
「私に刃向かうことは許されない・・刃向かったり逆らったりする者は、結局は私の力に屈服することになる・・無理矢理そうさせられるか、自分の意思で決めるか、その違いだけ・・」
「そうかもしれない・・結局、あなたに従うしかないのかもしれない・・・」
悠然と言いかけるマリアに、マリも自分の気持ちを告げる。
「でも、逃げるばかりじゃ何も終わらない・・・そう・・ここは、勇気を出して立ち向かうとき・・・!」
「お前も大きな口を叩いて・・実に不愉快だわ!」
マリの言葉に憤慨して、マリアが衝撃波を放出する。緊迫を膨らませるも、マリは退かずに踏みとどまる。
「分かっていないようだから、改めて教えておいてあげる・・私の力を・・人間もガルヴォルスも超えた、絶対の力を!」
いきり立ったマリアが右手をかざして衝撃波を放つ。マリは回避もままならずに激しく突き飛ばされる。
激しく横転してうつ伏せになるマリ。痛みを感じて顔を歪める彼女を見下ろして、マリアが哄笑をもらす。
「まだほんの序の口よ。その程度で参るようじゃ、お前たちと私の差は火を見るより明らか・・」
マリに言いかけたところで、マリアが目つきを鋭くする。ダイゴが飛びかかってきたのを、彼女は気付いていた。
ダイゴが繰り出してきた拳をかわして、マリアが左手を突き出して衝撃波を放つ。体を衝撃波が貫いて、ダイゴが激痛を覚えて目を見開く。
「往生際が悪いのがお前の癖ね・・でも体は正直ね・・お前たちは、絶対に私には勝てない・・・」
「ぐっ!・・そんなことは・・そんなことはねぇ・・・!」
冷たく告げてくるマリアに対し、ダイゴが声と力を振り絞る。
「言葉では全然理解しない・・本当に嫌なヤツになったわね・・・」
呟くマリアの髪が揺らめきながら伸びていく。髪は鞭のようにしなり、ダイゴを叩いた。
「ぐあっ!」
ダイゴがうめいてその場に倒れ込む。痛烈な攻撃に、彼は反撃に転ずることができないでいた。
「ダイゴ・・何とか助けないと・・・!」
「ムダだ。もうお前たちは助からない・・」
ダイゴを助けようとするマリに声をかけてきたのはショウだった。
「マリア様が相手をされている時点で、もうお前たちには万にひとつの勝ち目もない。このまま屈服する以外の末路はない。」
「まだそうとは決まっていません・・少なくともそうは思っていない・・ダイゴも、私も・・・」
嘲笑してくるショウに、マリが真剣な面持ちで答える。
「運命、決められている、そう言われて受け入れるダイゴではない・・それは、お兄さんであるあなたも分かっていることでしょう・・・?」
「・・・確かに・・しかしそれゆえに、アイツは愚かな道を進んでいるのも間違いない・・マリア様に逆らおうなど、愚の骨頂だ・・」
ダイゴを想うマリを、ショウがさらにあざ笑う。
「たとえ愚かでしかないとしても、私はダイゴを助ける・・私たちは、みんなのところに帰る・・・!」
マリの気持ちは揺るがなかった。ダイゴを助けるため、彼女はマリアに向けてかまいたちを放つ。
ダイゴを追い詰めていたマリアが、かまいたちに気付いて力を放出する。放たれた力がかまいたちをかき消した。
「天と地の差があるのよ。不意打ちも何の意味もない・・」
「それでも、私は諦めない・・ダイゴが諦めないのに、私が諦めるわけにはいかない・・・!」
嘲笑してくるマリアに、マリが真剣な面持ちで答える。
「マリ・・・」
立ち上がったダイゴが、マリアと対峙するマリを見つめる。自分のために体を張っている彼女に、彼は戸惑いを感じていた。
「お前も往生際が悪いわね・・そこまで私に逆らおうとしてもムダ・・」
ため息をついたマリアが素早く動き、マリの背後に回り込む。マリは気付いたものの、直後にマリアに両腕で捕まえられる。
「どんなに強くなろうとしても、越えられない壁というものがあるのよ・・私のような絶対的な存在という壁がね・・・」
笑みを強めるマリアが全身からエネルギーを放出する。電気ショックのような衝撃に襲われて激痛にさいなまれ、マリが人間の姿に戻ってしまう。
「マリ!」
声を上げるダイゴだが、押し寄せてくる激痛で思うように動けず、顔を歪めていた。体力を消耗したマリを締め付けて、マリアが微笑をもらす。
「もうお前はおしまい・・葬られるか従うか、どっちにしても屈服の末路よ・・・」
マリアは囁きかけると、マリの体の感触を確かめる。
「フフフフ。いい感じの体ね。このまま私のコレクションに加われば、最高峰のオブジェとして重宝したのに・・・」
「イヤ・・私はあなたの奴隷になりたくない・・石にもなりたくない・・・!」
歓喜を覚えるマリアに、マリが必死に抵抗する。しかし彼女はマリアの腕を振り払うことができない。
「やめろ・・マリを、放せ・・・!」
ダイゴがマリアに向けて声を振り絞る。だが彼はかなりの体力を消耗していた。
「しつこいわね・・いい加減我慢がならなくなったわ・・・!」
苛立ちを見せるマリアが、ダイゴに向けて衝撃波を放つ。押されるダイゴだが、力を振り絞って踏みとどまる。
「オレはおめぇには従わねぇ・・オレの道は、オレが決めるんだ・・・!」
「そんなものは叶わない・・私がそれを許さない・・・!」
自分の考えを曲げないダイゴに、マリアが鋭い視線を向ける。
「オレは帰る・・マーロンでの日常が、オレには落ち着けるもんなんだよ・・・!」
「いつまでも調子に乗るな、弱者が!」
声を振り絞るダイゴに激昂して、マリアがマリを投げつける。ダイゴは飛び込んできたマリを受け止める。
「くっ!・・マリ、しっかりしろ!」
「う・・・ダイゴ・・・」
うめきながら呼びかけるダイゴに、マリが弱々しく答える。
そのとき、ダイゴとマリが体に激痛を覚える。2人の腕や足を、細い線が貫いていた。
「がはっ・・・!」
痛みにさいなまれてダイゴがあえぐ。線はマリアが伸ばした髪で、ワイヤーのような強度となってダイゴとマリに突き刺さったのである。
貫かれている2人の体から鮮血があふれる。マリアの髪は2人の体を貫いたまま巻きついていく。
「苦しいでしょう?痛いでしょう?動けないでしょう?お前たちの力なんて、私の前では虫と変わらないのよ・・」
身動きが取れず痛みにうめくダイゴとマリを、マリアがあざ笑う。近づいてきた彼女を、満身創痍に陥ったダイゴが鋭い視線を向けてくる。
「こんな状態になってもまだ反抗的になっているとは・・呆れてものもいえないわね・・」
「何とでも言え・・オレはおめぇには絶対に屈しねぇ・・死んでも逆らってやる・・・!」
「なぜそこまで逆らう?・・なぜ私に従わないの?・・これだけの力の差を見せ付けられたら、普通は逆らう気持ちが持てなくなるものよ・・他の女は、私の力を恐れて言うことを聞くようになったわよ・・」
あくまで反抗しようとするダイゴに、マリアが眉をひそめる。
「私に従えば、何の不幸も苦しみもなくなる・・世界を牛耳っている愚か者に悩まされることもなく、心を休ませることができるのに・・・」
「ふざけんな・・おめぇのように自分が1番だと思い込んでるヤツが、オレは気に入らねぇ・・だからおめぇには絶対に従わねぇ・・おめぇに従うくれぇなら、死んだほうがマシだ!」
手招きをしてくるマリアに対し、ダイゴは反抗的な態度を崩さない。
「私も、もうあなたに従いたくはない・・・」
ダイゴに続いてマリが声を振り絞ってきた。
「このままあなたに従っても、結局はいいように利用されて石にされるだけ・・・そんな未来のない選択なんてしたくない・・・私も、奴隷にされるくらいなら、死んだほうがいい!」
「マリ・・・」
決意を言い放つマリに、ダイゴが戸惑いを覚える。彼は彼女が示した反抗と勇気に驚かされていた。
「お前たちは・・つくづく私に逆らって・・・!」
ダイゴとマリの態度に苛立つマリア。だが彼女はすぐに笑みを見せてきた。
「死んだほうがいい・・言ってくれるじゃないの・・でも残念。お前たちは死ぬことはできない・・なぜなら・・・」
笑みを強めていくマリアに、ダイゴとマリが緊迫を膨らませる。
カッ
次の瞬間、マリアの目からまばゆい光が放たれた。
ドクンッ
その眼光を受けたダイゴとマリが、強い胸の高鳴りに襲われた。
「そ、そんな・・・!?」
「おめぇ・・このままオレたちを・・・!?」
愕然となるマリと、歯がゆさを見せるダイゴ。マリアが2人を見つめて哄笑を上げる。
「もうこれで、お前たちは私に屈した!」
ピキッ ピキッ ピキッ
マリアが高らかに言い放ったとき、ダイゴとマリの体を石化が蝕んだ。締め付けているマリアの髪や2人の衣服が引き剥がされ、石になった上半身がさらけ出される。
「体が石に・・おめぇ、オレたちをここで・・・!」
「私に従わないヤツに、私のそばにいる資格はない・・邪魔をされるのも迷惑・・だからお前たちもあの女のように、今ここでオブジェにしておく・・」
声を振り絞るダイゴに、マリアが冷徹に告げる。
「私に刃向かうのがいけないのよ・・そこで自分の愚かさを後悔するといいわ・・・」
「ふざけんな!・・こんなところで、丸裸のままじっとなんてしてられるか・・・!」
あざ笑ってくるマリアに、ダイゴが言い返す。彼は石化を打ち破ろうとガルヴォルスへの変身を試みる。
ピキッ ピキキッ
ダイゴとマリにかけられた石化が進行し、下半身を脅かしていく。自分たちが石になっていることを痛感し、ダイゴとマリが愕然となる。
「ムダよ。たとえガルヴォルスでも私の力は破れないし、もうガルヴォルスにもなれない・・」
「何だとっ!?」
マリアが投げかけた言葉に、ダイゴが声を荒げる。
「今のお前たちは体が石になっている。体の質が変わっているのに、ガルヴォルスになれるわけがないでしょう?」
「マジかよ・・もう、どうにもなんねぇってのかよ!?」
「お前たちは私のコレクションに加わることなく、ここでオブジェになるだけ。全てをさらけ出したまま、永遠の不自由を堪能することね・・」
歯がゆさを募らせるダイゴに向けて、マリアが哄笑を上げる。
ピキキッ パキッ
石化がさらに進行し、ダイゴとマリの足の先まで石に変わっていく。
「どうしたらいいんだ・・このままじゃ・・・!」
打開の糸口を必死に探るダイゴ。そんな彼に向けて、マリが声をかけてきた。
「もういいよ・・もういい・・・」
「マリ・・・何言ってんだよ!?・・このままじゃオレたち・・・!」
「体が石になっている・・ガルヴォルスにもなれない・・これではどうしようもない・・・」
声を荒げるダイゴに、マリが沈痛さを込めて言いかける。彼女の言葉に困惑し、ダイゴが言葉を詰まらせる。
「でも、正直驚いているよ、自分に・・臆病だった私が、ここまで反抗的になれたなんて・・・」
「マリ・・・」
「・・・最後にひとつ、私のわがままを許してください・・・」
マリがダイゴに向けて微笑を見せてきた。すると彼女は自由の利かない体に力を入れて、彼に顔を近づけた。
ダイゴとマリの唇が重なった。突然の口付けに、ダイゴはかつてない動揺を覚えた。
(マジ、かよ!?・・・オレが、キスをするなんて・・・!?)
心を大きく揺さぶられるダイゴ。口付けは彼にとって初めての経験であり、彼自身経験することはないと思っていた。
(まさか、こんなところでキスされるなんて・・けど、キスしたまま石になっちまうなんて・・・)
(ゴメンなさい、ダイゴ・・でも私、ダイゴにこの気持ちを預けたかった・・この気持ちまでマリアのものにされるのは我慢ができなかった・・・)
ダイゴとともに心の声を上げるマリ。
(私が我慢がならなくなるなんて・・ダイゴと出会わなかったら、こんな勇気は持てなかったと思う・・・)
ダイゴへの想いを募らせていくマリ。ダイゴが自分に強さを与えてくれたのだと、彼女は思っていた。
パキッ ピキッ
石化が2人の手の先まで及び、首元や頬、髪をも侵食していく。ダイゴもマリも力を入れることができず、ただじっと互いを見つめあうことしかできなくなっていた。
(ちくしょう・・このまま何もできずに石にされて、じっとするしかねぇのかよ・・・)
(ゴメン、ダイゴ・・私、ダイゴを守ることもできず、こんなわがままを押し付けて・・・)
悔しさと悲しみを痛感するダイゴとマリ。
ピキッ パキッ
口付けを交わす2人の唇も石になり、ダイゴとマリは唇を離すこともできなくなっていた。
(私も、ダイゴと一緒に、安らぎのある時間を過ごしたかった・・みんなと笑顔で笑える時間を・・・ダイゴ・・・)
フッ
心の囁きをするマリ。彼女とダイゴの瞳にヒビが入り、あふれていた涙が石の頬を伝って落ちていった。
ダイゴとマリは完全に石化に包まれた。全てをさらけ出した姿で、2人は抱擁を交わしたまま立ち尽くしていた。
「やったわ・・これでとうとう、この2人も私に屈服した・・私が何をしようと、2人はもう何もすることもできない・・」
全裸の石像となったダイゴとマリを見つめて、マリアが哄笑を上げる。
「今まで散々刃向かってきたけど、これでもうそれもできなくなった・・・」
さらに笑みを見せるマリア。だが彼女はショウに視線を向けると、眉をひそめてきた。
「どうしたの?弟をこんな姿にしたのが不満?」
「まさか。むしろ逆です。マリア様にここまで刃向うとは・・」
マリアが言葉を投げかけると、ショウが苦笑を浮かべて答える。
「私たちに従えば至福の時間を過ごせたのに、清水マリとともにオブジェになる道を選ぶとは・・その点では滑稽としか思えません・・」
「そうね・・でもこれで幸せかもしれないわよ・・」
マリアが返してきた言葉に、ショウが疑問符を浮かべる。
「互いに守ろうとしてきた2人が抱き合ったまま、終わりのない時間を過ごしていく・・愛らしさでいえば、こんなに喜ばしいことはないわね・・・」
「確かにそうですね。このまま互いがそばに付いている・・不幸中の幸いというところでしょう・・・」
マリアの言葉を受けて、ショウが笑みを浮かべる。
「本当に愚かなことです・・あれだけ愚かな世界に反抗的だったのに、その矛先をマリア様にまで向けてしまい、挙句の果てに屈服することになった・・攻撃の矛先を間違えなければ、すばらしい人材になれたものを・・」
「たとえ人材としてすばらしくても、私に従わない者は力をもって屈服させるだけ・・私に弄ばれるのを、黙って見ていることしかできない・・そんな状態に、ずっと苦しめられることになるのよ・・・ただ・・」
「ただ?」
「ダイゴとマリの場合、永遠の不自由を与えるだけじゃ効果的じゃない・・・」
ショウの疑問に答えて、マリアがダイゴとマリの体に触れていく。
「こうして全てを見られても、こうして全てを触れられても、ダイゴは絶対に私に屈しない・・この先ずっと私への敵対心を抱き続けることになる・・・」
彼女は言いかけると、2人に触れていた手を離す。
「だから、2度とそんなふざけた考えを持てないよう、手を打っておく・・・」
「もしや、心の中に入られるのですか・・・?」
「これだけ私に逆らったのよ・・徹底的に追い込んでおかないと・・・」
ダイゴとマリを見つめて、マリアが笑みを強める。彼女はさらに2人を追いこもうとしていた。
次回
「もうお前たちは私に逆らうことはできない・・」
「私より思い上がっているヤツなんて腐るほどいるわよ・・・」
「自分の思うようにできる。邪魔するものはこの力でねじ伏せればいい。」
「お前たちには念入りに絶望してもらう・・私が受けてきた苦しみ以上のね・・・」