ガルヴォルスZERO 第18話「紡がれる記憶」

 

 

 ダイゴとマリが駆けつけたときには、ミライはマリアの手にかかり、一糸まとわぬ石像にされていた。

「そんな・・・ミライさんが・・こんなことに・・・!?

「アイツの石化だ・・・ホントにアイツが、マリアが来たんだ・・・!」

 変わり果てたミライを目の当たりにして、ミライとダイゴが愕然となる。ダイゴがすぐに周囲に注意を向けるが、近くにマリアのいる気配は感じられなかった。

「アニキも言ってたし・・このままじゃアイツはマリを・・・」

 ダイゴが口にした言葉に、マリが恐怖を膨らませる。そして彼女は、自分のためにミライが石化されたことに絶望感を覚えていた。

「とにかく、ミライをこのままにはしておけねぇ・・どっかに連れていかねぇと・・・!」

「でも、どこに・・・マーロンはダメですね・・人がたくさんいますし・・・」

 ダイゴが口にした言葉に、マリが当惑する。

「やっぱ、家に行くしかねぇのか・・・」

「もうそこしかないね・・何とか誰にも見つからないようにして行かないと・・・」

 仕方なく家に連れて行くことにしたダイゴとマリは、デーモンガルヴォルスとエンジェルガルヴォルスに変身する。

「ガルヴォルスになったほうが少しは問題が減るだろ・・・」

 ダイゴは呟きかけると、マリとともに石化されたミライを抱えて移動する。彼らは人に見られることなく、家にたどり着くことができた。

「ふぅ・・見られずに済んだ・・・」

 安堵の吐息をついて、ダイゴがマリとともに人間の姿に戻る。2人はミライを家の中に入れ、リビングの隅に立たせた。

「ミライさん・・・私のために、こんなことに・・・」

 物言わぬ石像にされてしまったミライに、マリが悲痛さを募らせる。何も身につけていないミライに、ダイゴがシーツをかけた。

「裸を見せられるより、こうしたほうが少しはマシだろ・・」

 ダイゴが口にした言葉に、マリが小さく頷く。しばしの沈黙を置いて、ダイゴが深刻な面持ちを浮かべて口を開いた。

「オレ、とっても大事なことを忘れてた・・マリ、オレはおめぇの敵だったんだ・・・」

「ダイゴ・・・」

 ダイゴが打ち明けてきたことに、マリが戸惑いを覚える。

「オレはアニキと一緒に、アイツの、マリアの手下に成り下がってたんだ・・アイツが石にした女に魅入られて、それでアイツの言いなりになっちまって・・・それで、おめぇも・・・!」

「もういいんです、ダイゴ・・・」

 自分を責めるダイゴに向けて、マリが呼びかけてくる。彼女の声を聞いて、ダイゴが動揺を見せる。

「もう分かっています・・私はあのマリアに捕まって、ダイゴが彼女と一緒にいたことも・・・」

「・・・おめぇ、知ってたのか・・・!?

「いえ・・私も、そのことを忘れていた・・多分、記憶喪失になってたんじゃないかって・・・」

 緊張を膨らませるダイゴに、マリも自分の心境を打ち明ける。

「私はマリアに連れて行かれ、他の人たちと一緒に奴隷にされていました・・逆らったり逃げ出そうとしたり、彼女を怒らせたりしたら、石化されて裸の石にされてしまうと脅されて・・・でもいつか石にされてしまうと思えてならなかった・・・」

「だから逃げ出して、そのお前をオレが追ってきたわけか・・・」

「捕まったら殺されるか石にされるかのどっちかしかない・・だから、全力で逃げたの・・・」

 マリが語る事実にダイゴが小さく頷く。

「多分、そのときにガルヴォルスになったと思う・・それより前になった覚えがなかったから・・・」

「そのとき、オレとおめぇは川に落ちて記憶を失った・・・」

「・・・そんな私たちがまた会うなんて・・・偶然とは言い切れないかも・・・」

「運命とでも言いてぇのか?・・それもそれでお笑い種だけどな・・・」

 互いに苦笑いを浮かべるマリとダイゴ。だがダイゴの笑みが徐々に曇っていく。

「だから、敵であるオレを、おめぇが受け入れてくれるわけねぇんだよな・・・」

「いえ、そんなことはない・・・」

 自分を責めるダイゴに、マリが弁解を入れる。

「確かにダイゴは私を捕まえようと追いかけ、私もダイゴから逃げた・・あなたを怖がる気持ちは、私の中に確かにありました・・・でもそれ以上に、私はダイゴのことが・・・」

「マリ・・おめぇ・・・」

 マリの打ち明けた心境に、ダイゴが戸惑いを募らせる。

「ホントにそれでいいのかよ・・・オレは、おめぇのことを受け入れてもいいんだろうか・・・?」

「・・もう、大丈夫です・・・今ここにいるあなたが、本当のダイゴだよ・・・」

 動揺するダイゴに、マリは笑顔を見せた。彼女は過去の恐怖を乗り越えて、ダイゴと向かい合っていた。

「そこまでオレのことを・・・こんなオレを、そこまで・・・」

「だって、私はあなたの性格や気持ちを知っているから・・・」

 ダイゴのことを受け入れようとしているマリ。彼女の優しさに、ダイゴはいつしかすがり付こうとしていた。

「オレ・・オレ・・・こんなに気分がよくなったの、生まれて初めてかもしれねぇ・・・」

「私も・・ダイゴと出会えたことが、すごく嬉しい・・・あなたと会わなかったら、ずっと臆病のままだった・・・」

 安らぎを募らせるダイゴにマリが喜びを見せる。2人とも、互いと分かち合えたことを嬉しく思っていた。

「ここに戻ってきていたのか、2人とも・・」

 そのとき、突如入ってきた声にダイゴとマリが驚愕を覚える。2人が玄関のほうに振り返ると、そこにはショウの姿があった。

「あなた・・・!?

「バカな!?・・・アニキは、ここのことは知らないはずなのに・・・!?

 声を荒げるマリとダイゴ。彼が口外していないにもかかわらず、ショウはマリの家に行き着き、部屋の中にまで入り込んでいた。

「確かに私はダイゴからここのことは聞かされていない。清水マリを捕まえたのも、ここから離れた場所だった・・だがミライさんは、マリア様によってオブジェになっている・・・」

 淡々と語りかけるショウが、石になっているミライに目を向ける。

「オブジェになった者は、たとえそばにいなくてもマリア様はその居場所が手に取るように分かる・・君たちが彼女を連れてきてしまったために、君たちは居場所を私たちに知られることとなった・・」

「そ、そんなのってありかよ・・・そんなことで、ここがバレちまうなんて・・・!?

 毒づくダイゴを見て、マリが困惑し、ショウが笑みを強める。

「もう逃げることはできない・・マリア様に全てを預けることが、最高の喜びとなる・・」

「勝手に決めんな!オレがどうするかはオレが決める!アニキでもそれはできねぇよ!」

 ショウの言葉にダイゴが言い放つ。しかしショウは悠然とした態度を崩さない。

「改めて聞こう・・私とともに来るのだ、ダイゴ。そうすればマリア様はお前をお許しになり、おそばに置いてくださる・・・」

「何度聞かれても同じだ!オレはアイツの言いなりになるのはもうゴメンだ!」

 手を差し伸べてくるショウの誘いを、ダイゴは頑なに拒絶する。彼の意思を垣間見て、マリが戸惑いを浮かべる。

「これはお前のためでもあるというのに・・なぜそこまでマリア様に刃向かうのか、私には理解できない・・」

「オレからすりゃ、アニキが何であんなヤツに従ってんのかが理解できねぇ・・・!」

「・・お前だけは理解できると思っていた・・世界に納得していない、愚かな人間や考えに反抗的なお前なら・・・結局お前も、両親と同じということか・・・」

「何だって・・・!?

 ショウが口にした言葉に、ダイゴが耳を疑う。

「お前も知っているな・・父と母が何者かに襲われて殺されたことを・・そのとき2人を手にかけたのは、私なのだ・・」

「ウソだろ!?・・・アニキが、親父とお袋を・・・!?

「2人もまた愚かな存在でしかなかった。あるのは金と権力だけ。力も知性も全て私やダイゴのほうが上だった。自分の無能さを棚に上げて、私たちを自分たちのオモチャとしか見ていなかった・・だから私が分からせてやった。己の身の程を・・」

 ショウが打ち明けた真実に、ダイゴだけでなくマリも愕然となっていた。

 ショウは自分のためならどんなことにも手を染める両親の力量に不満を抱き、ガルヴォルスの力で2人を手にかけた。その後彼は佐々木家から姿を消し、マリアの元に赴いていたのである。

「この世界は腐っている・・自分より明らかに劣る者が、のうのうと国や世界を動かしているのだから・・・だがマリア様は違う・・あの方は力もあり、知性もある・・さらに今のこの愚かな世界を正しく導こうとしている・・」

「女を奴隷にしていい気になってるヤツのどこがいいんだよ!?

「世界は崇高な者が導くべきものだ。あの方は自身の存在を他者に見せ付けている・・」

「そんなに自分が正しいって言いたいのかよ・・自分が満足すりゃ、他のヤツがどうなろうと構わねぇのかよ!?

 あくまでマリアを賛美するショウに、ダイゴが怒りを募らせていく。

「当然でしょう?なぜなら、私が1番の女なのだから・・」

 彼の怒りに答えてきたのはショウではなかった。突然飛び込んできた声に、ダイゴとマリは緊迫を覚える。

 次の瞬間、ダイゴたちのいるリビングの空間が歪み出した。周囲がオーロラのような歪みのある場所へと変化していった。

「この空間・・・まさか、アイツが・・・!?

「こうしておけば、もうお前たちは逃げられない・・・」

 目を見開くダイゴの前に現れたのはマリアだった。石化したミライの居場所をつかんでいた彼女も、ダイゴとマリの前に現れた。

「こんなところにいたとはね・・・正直、お前たちが生きていたとは思っていなかったわ・・・」

「マリア・・・おめぇまで、オレたちの前に・・・!?

 妖しい笑みを浮かべるマリアに、ダイゴが声を荒げる。マリもマリアの姿を再び目にして、恐怖して震える。

「でもこうして生きていた・・ダイゴだけじゃなく、私の前から逃げ出したそこの女、清水マリも・・・」

 淡々と語りかけるマリアが、ダイゴに向けて手を差し伸べてきた。

「私のところに戻ってきなさい、ダイゴ。また一緒に、満たされる時間を過ごすといいわ・・」

「自分の力を見せ付けて、他の女を奴隷にすることが、満たされることなのかよ・・・!?

 ダイゴが返してきた言葉に、マリアが笑みを消して目つきを鋭くする。

「あのときのオレはバカだった・・あんなことで満足してたんだからな・・けど、そんなオレとはもうおさらばだ!自分が1番だと思い上がってるヤツに、オレは従うつもりはねぇ!」

「ダイゴ・・・」

 ダイゴが言い放つ決意に、マリが戸惑いを覚える。彼はマリアと対立することを心に決めていた。

「思い上がってる?・・それは私以外の女なのよ・・・!」

 ダイゴたちに向けて鋭く言いかけるマリア。

「大した能力もないくせに図に乗って、自分の身の程もわきまえずに調子に乗って・・だから私が力を見せ付けて、自分の無力さと無能さを分からせてやっているのよ・・」

「マリア、おめぇ・・・!」

「でも私は力も理解力もある!世界を正しく導けるだけの能力は十分!だから自惚れでも思い上がりでもないのよ!」

 高らかに言い放つマリアが目を見開いて哄笑を上げる。彼女の態度が、ダイゴの怒りを逆撫でする。

「そんな態度が、思い上がりだって言ってんだよ!・・・こんなヤツと一緒にいたなんて、オレはホントにどうかしてた・・・」

 自分の間違いを悔やむダイゴ。その後悔の念を怒りに変えて、彼はマリアに鋭い視線を向ける。

「このけじめは、おめぇを倒すことでつける・・・!」

 ダイゴの頬に紋様が走る。彼はデーモンガルヴォルスに変身し、構えを取る。

「私を倒す?私に刃向かうことさえ愚かなことなのに、そんなことまで口にするなんて・・・あまりに滑稽に思えて笑えるわ!」

 嘲笑するマリアの髪が揺らめいてくる。

「そういえば2人とも、記憶喪失になっていたそうね・・だから忘れているみたいだけど・・・この際だから思い出させてあげる・・私の力は、ガルヴォルスの力さえも大きく上回っていることを・・・!」

 言い放つと同時に、マリアが目を見開く。衝撃波が放たれ、ダイゴが大きく突き飛ばされる。

「ぐおっ!」

 激しく横転してうめくダイゴ。彼はマリアの放った衝撃波を見切ることもできなかった。

「ダイゴ!」

 傷ついたダイゴにマリが悲鳴を上げる。歩を進めてきたマリアに気付き、マリはさらに恐怖を募らせる。

「ちょっと力を入れただけで簡単に吹き飛んだ・・それだけ力の差があるということよ・・」

「そんな・・・!?

「その気になれば、人間もガルヴォルスも簡単に殺すことができるのよ。でもそんなことしても、私の気分はよくならない・・」

 後ずさりするマリに、マリアが淡々と語りかける。

「思い上がっていた女が私の力に怯え、怖がるのを見るのは実に爽快よ。私に忠実になり、またオブジェになって絶望していく。こんな喜ばしいことはないわ・・」

「どこまでも勝手なことをぬかしやがって・・・!」

 そのとき、ダイゴが力を振り絞って立ち上がってきた。だが彼が受けたダメージは軽くはなかった。

「今のを耐えて立ち上がってきたか・・さすがはダイゴ、上級のガルヴォルスと言っておくわね・・」

 息を荒げるダイゴを見つめて、マリアが哄笑をもらす。だが彼女の表情がすぐに苛立ちに満ちたものへと変わる。

「でも、たとえ誰だろうと、私に刃向かうことはできないし、許されない・・私が1番の女だから・・・」

「だから、思い上がるなって言うのが分かんねぇのか!?

 高らかに言い放つマリアに憤慨し、ダイゴが飛びかかる。力を込めて剣を振りかざす彼だが、マリアはその眼前から姿を消した。

 立ち止まったダイゴが周囲を見回す。マリアは素早く動いて、ダイゴの攻撃をかわしたのである。

「分かっていないのはお前のほうよ・・」

 そのダイゴの背後に姿を見せたマリア。彼女はダイゴの首をつかんで持ち上げる。

「私の力、私との力の明らかな差を、お前は理解していない。理解しようとしない・・勝てない勝負を仕掛けて死に急ぐことにしかならないというのに・・」

「勝てねぇとかの問題じゃねぇ・・許せねぇから戦うんだ・・・!」

 呆れるマリアに、ダイゴが声を振り絞る。

「自分が満足するために、何も悪いことをしてねぇヤツまで傷つけるヤツは、オレはゼッテーに許せねぇんだよ!」

「私より劣る存在が大口を叩くな!」

 互いに怒号を放つダイゴとマリア。ダイゴはマリアの手を振り払うことができず、息苦しさを覚える。

「記憶を失くす前は素直でいい子だったのに・・1度記憶をなくしてから、お前はすっかり変わってしまった・・・このことは正直残念ね!」

「ダイゴは何ひとつ変わってはいない・・・!」

 そこへ声とともに旋風が飛び込んできた。醍醐の首をつかんでいたマリアの右腕に切り傷が刻まれた。

「ぐはっ!」

 彼女のその手から力が抜け、ダイゴが逃れる。目つきを鋭くするマリアが振り向くと、そこにはエンジェルガルヴォルスとなったマリがいた。彼女がかまいたちを放ち、マリアを攻撃したのである。

「今のダイゴが、本当のダイゴよ・・そして今の私が、本当の私・・・」

「お前も、私に刃向かうというのか・・・!?

 勇気を振り絞るマリに、マリアが苛立ちを見せる。ダイゴを守るため、マリもこの戦いに身を投じようとしていた。

 

 

次回

第19話「絶対の絶望」

 

「逃げるばかりじゃ何も終わらない・・・」

「ここは、勇気を出して立ち向かうとき・・・!」

「お前たちは、絶対に私には勝てない・・・」

「おめぇに従うくれぇなら、死んだほうがマシだ!」

「そこで自分の愚かさを後悔するといいわ・・・」

 

 

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