ガルヴォルスZERO 第17話「白き魔女」
マーロンに向かっていたマリとミライの前に、1人の白髪の女性が姿を現した。彼女の姿を見た途端、マリが恐怖を覚える。
「あなた・・まさか・・・!?」
声を荒げるマリに目を向けると、女性が眉をひそめ、直後に笑みをこぼす。
「まさかこんなところで会うとはね・・・久しぶりね、マリ・・・」
「マリちゃん・・・この人と、知り合いなの・・・!?」
ミライが訊ねるが、マリは震えるばかりで答えることができない。
「お前に逃げられたことは実に不愉快だったわ・・でもこうして見つけられたことを、すごく嬉しいわ・・」
「アンタ、マリちゃんに何の用なの!?・・マリちゃん、怖がってるじゃない!」
ミライがたまらず女性に怒鳴る。すると女性が妖しい笑みを消して、目つきを鋭くする。
「私に大きな口を叩くな・・私より力の劣る女が・・・!」
「もう、態度まで偉そうに・・きちんと話してくれないと、警察呼ぶよ!」
「警察?そんなものに私を止めることなどできない・・」
ミライの言葉に女性は余裕を消さない。
「諦めて私と一緒に来ることね・・誰も私に逆らうことは許されない・・・」
女性が低い声音で告げると、マリとミライに近づいていく。
(ダメ・・もう逃げられない・・あのときだって、逃げられたのが奇跡だったくらいだから・・・)
マリが胸中で女性に対する恐怖を膨らませていく。
(でも、このままミライさんが連れて行かれるのはダメ・・たとえ私がどうかなっても、ミライさんを守らないと・・・!)
「ミライさん、逃げてください!すぐにマーロンに行って!」
何とか決意を固めたマリが、ミライに呼びかける。エンジェルガルヴォルスに変身しようとするマリの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
だがそのマリを、ミライが手で制してきた。
「マーロンに行くのはマリちゃんのほうだよ・・マリちゃんが会うことが、1番大切なことだよ・・・!」
「でも、それではミライさんが・・・!」
呼びかけてくるミライに、マリが声を荒げる。しかしミライの気持ちは変わらない。
「あたしは自分の恋心に決着を付けている・・だから、どんなことになったって、あたしは後悔しない・・・」
「ミライさん・・・」
「まずはマーロンに行って・・力を合わせれば、何とかなる・・あたしは、そう思うから・・・」
戸惑いを見せるマリに、ミライが笑顔を見せる。
「早く行って、マリちゃん!」
「ミライさん・・・ゴメンなさい!」
ミライの呼びかけに後押しされて、マリが走り出す。
「2度も逃がすと思うか・・・!」
女性がマリを追おうとするが、ミライが立ちはだかる。
「ここから先へは行かせない!」
「私にここまで刃向かうとは・・覚悟はできているのよね・・・!?」
言い放つミライに苛立ちを浮かべる女性。彼女が伸ばした右手が、ミライの首をつかんだ。
「ぐっ!」
「粋がっていたのに大したことないじゃない・・」
うめくミライを女性があざ笑う。
「さて、マリにすぐに捕まえないとね・・でないと今度こそ目覚めが悪くなるから・・」
「だから・・マリちゃんのところには行かせないって!」
マリを追おうとする女性に対し、ミライが手を振りかざす。その右手が女性の頬を叩いた。
「放して!そんなことをして、ただじゃおかないんだから!」
「・・・私より弱いくせに、態度が悪いだけでなく、私に手を上げるとは・・・!」
叫ぶミライに苛立ちを募らせる女性。
「せっかくわざわざ私の手元に置いてあげようと思っていたのに・・そんなマネをするヤツなど、私のそばに置くものか!」
怒りを爆発させて叫ぶ女性。彼女に睨みつけられて、ミライが緊迫を募らせる。
カッ
女性の目から突如、まばゆいばかりの光が放たれた。
ドクンッ
その光を浴びたミライが強い胸の高鳴りを覚える。
「な・・何・・今の光!?・・・すごいおかしな気分・・・」
「フフフフ・・これでお前はもう逃げられない・・・」
ピキッ ピキッ ピキッ
女性が妖しく微笑む前で困惑していたミライに、突如異変が起こった。彼女の着ていた衣服が引き裂かれ、さらけ出された左腕、左胸、下腹部、尻が固くなり、ところどころにヒビが入っていた。
「ち、ちょっと!どうなってるの、コレ!?・・体が、動かない・・・!?」
「フフフフ・・いい格好ね・・これでもうお前は大きな口も叩けなくなる・・」
驚愕するミライに向けて、女性が哄笑を上げる。
「あたしに何をしたの!?」
「私が今お前にかけたのは石化よ。体だけを石にして、服や飾りを全て引き剥がし、全裸のオブジェに変える・・開始部分や進行速度は全部私の思いのまま。つまりお前はもう私の手の中・・・」
パキッ パキッ
声を張り上げるミライに女性が語りかける。ミライの体を石化が蝕み、衣服を引き裂いて素肌をさらけ出していた。
「こんなことして何が面白いの!?・・・女の子を裸の石にして、何がいいっていうの!?」
「十分面白いわよ。自分が1番偉いって思い込んでいる他の女が、怖がって泣き叫んで助けを請う姿を見ると、笑いをこらえることができなくなるわ・・」
声を振り絞るミライに、女性が嘲笑しながら答える。だが女性の顔から笑みが消える。
「でもお前は別・・お前は私に刃向かった。そんなヤツを、私のコレクションに加えるつもりはない。そこで自分の全てをさらけ出しているといいわ・・」
「冗談じゃないって!この道の真ん中で、裸のままでいるなんて耐えられない!」
「お前が悪いのよ。私に刃向かわなければ、私のそばで人としての時間を過ごせたのに・・そこで自分の過ちを後悔するといいわ・・」
声を張り上げるミライに向けて、女性が交渉を上げる。
パキッ ピキッ
石化がさらに進行し、ミライの手足の先まで及ぶ。身動きが取れなくなり、彼女は力が出なくなる。
「こんなことしてただで終わると思わないほうがいいよ・・あたしには強い味方が・・ダイゴがいるんだから・・・!」
「ダイゴ?もしかして佐々木ダイゴのこと?」
ミライが口にした言葉に、女性が眉をひそめる。だがすぐに女性が哄笑を上げる。
「まさかダイゴまでこの近くにいたなんてね!傑作だわ!・・でもムダよ。ダイゴだろうと誰だろうと、私には敵わない・・なぜなら、私が1番の女であることを証明することになるのだから・・・」
ピキッ パキッ
妖しい笑みを見せる女性の前で、ミライにかけられた石化が彼女の唇をも固める。声を発することができず、彼女は目に涙を浮かべていた。
(ダイゴ・・マリちゃん・・・負けないで・・こんな人に、負けたりしないんだから・・・!)
フッ
涙があふれた瞬間に瞳が石に変わり、ミライは完全に石化に包まれた。彼女は一糸まとわぬ石像にされ、微動だにせずに立ち尽くしていた。
女性はそのときにはきびすを返して、哄笑を上げながら歩き出していた。
ミライに助けられて逃げ出していたマリ。彼女はミライを助けるため、まずダイゴに向けて電話をかけていた。
“マリ・・もう、大丈夫なのか・・・?”
「ダイゴ!大変なの!ミライさんが・・ミライさんが!」
気の抜けた態度で電話に出たダイゴに、マリが悲痛の声を上げる。
“電話でそんな大声出すなって!鼓膜破れたらどうすんだよ!”
「す、すみません・・でも、あの人が・・花山マリアが出てきたの!」
“花山マリア・・・どっかで・・・ぐっ!”
マリが口にした女性の名前を耳にした途端、ダイゴが突如苦悶の声を出してきた。
マリからの連絡の中、ダイゴが突然頭痛に襲われた。そばにいたミソラがすぐに彼に駆け寄る。
「どうしたの、ダイゴくん!?ダイゴくん、しっかりして!」
ミソラに呼びかけられて、ダイゴが我に返る。
「ハァ・・ハァ・・・どういうことなんだ・・・何で、あの名前が・・・!?」
ダイゴは押し寄せるビジョンに苦悩していた。彼はマリアに対して混乱していた。
そんな彼の脳裏に過去の記憶が呼び起こされていた。それは自分がマリアと一緒にいる光景だった。
(もしかしてオレ、アイツと一緒にいたのか・・・そんなことを忘れていたのか、オレは・・・!?)
駆け巡る記憶に苦悩するダイゴ。混乱に襲われた彼は気分を落ち着けることができなくなっていた。
「しっかりして、ダイゴくん!」
そこへミソラの声が飛び込み、ダイゴは彼女に振り返る。
「本当に大丈夫なの?・・マリちゃんに何かあったの・・・?」
ミソラがさらに心配の声をかける。
“ダイゴ、何があったの?・・・ダイゴ!”
携帯電話からもマリの声が響いてくる。何とか冷静になろうとしながら、ダイゴがマリに声をかける。
「すまねぇ・・それよりミライは無事なのか・・・!?」
“分からない・・ミライさんに逃げるように言われて、必死に逃げてきたから・・・”
ダイゴが問いかけると、マリが沈痛さを込めて答える。
「そうか・・・とにかくそっちに行く!今どこだ!?」
“公園の近く・・マーロンに向かってる・・・”
「分かった・・オレもそっちに向かう・・・!」
マリと連絡を取り合うと、携帯電話を切った。
「マリのところに行ってくる・・・」
「ちょっと!何があったの!?マリちゃんとミライは!?」
マーロンから飛び出そうとするダイゴを、ミソラが呼び止める。
「今は時間がねぇ・・話はマリを連れてきてから話す・・・」
ダイゴは低く告げると、ミソラの制止を振り切って、改めて飛び出していった。
マリとミライの危機を知らされて、ダイゴは外を走り抜けていた。だがダイゴはマリを助けに行くことに苦悩していた。
(オレはホントに、アイツを助けに行っていいのか!?・・・もしもオレがマリアという女と一緒にいたのなら、オレがアイツを追っていたのは・・・!)
「どこに行くというのだ、ダイゴ?」
思考を巡らせていたところで声をかけられ、ダイゴが足を止める。彼が振り返った先に、ショウの姿があった。
「アニキ・・・」
「もしかして、清水マリのところに行くのか?・・彼女のところに行って、捕まえるつもりなのか?それとも・・・」
当惑を見せるダイゴに言いかけて、ショウが目つきを鋭くする。
「アニキ・・もしかして、オレとアニキは・・・!?」
ダイゴが投げかけた問いかけに、ショウが眉をひそめる。
「ダイゴ・・記憶が戻っているのか・・・?」
「これが記憶が戻ったことになるのか分かんねぇ・・けどこれがホントなら、オレとアニキは・・・!」
不安を感じて困惑するダイゴ。彼の言葉を聞いて、ショウが笑みを浮かべてきた。
「そうだ・・私たちはあの方の下で行動していた・・あの方なら、マリア様なら世界を塗り替えられると確信している・・・」
「マジなのか!?・・オレはマジで、マリを・・・!?」
脳裏によぎってきたビジョンが自分の過去であることを思い知らされ、ダイゴは愕然となる。
「だが気に病む必要はない・・お前はあのときも正しいことをしていた・・その後に記憶喪失に陥ったのは不幸としかいえないが・・・」
悠然と言葉をかけると、ショウはダイゴに手を差し伸べてきた。
「戻ろう、マリア様の下へ・・世界を作り変えるために・・・」
ショウに呼びかけられて、ダイゴが目を見開く。その瞬間、ダイゴの脳裏にマリの笑顔が蘇ってきた。
“たとえ人間じゃなくたって、怪物だって、ダイゴであることに変わりないじゃない・・だって、怪物の姿になっても、ダイゴの心はそこにあった・・・”
“許せないものに対して、体を張って飛びかかっていく・・いつものダイゴだよ・・・”
同時にミライの言葉もよぎってきた。マリの姿とミライの言葉が、ダイゴを奮い立たせる。
(そうだ・・大事なのはオレがどうしてぇかだ・・昔の嫌なことをいつまでも抱え込んでるなんて、ホントのオレじゃねぇ・・ホントのオレは今、ここにいるオレなんだ・・・!)
「すまねぇ、アニキ・・オレはもう、昔には戻れねぇ・・・」
意を決したダイゴが、ショウの差し出している手を拒む。
「どういうことなんだ、ダイゴ?・・なぜ戻らないんだ・・・?」
「どんなにすがったって、昔には戻れねぇ・・オレにはもう、あんな生活を過ごす気にはなれねぇ・・・!」
「お前が戻ろうと思えば、すぐに戻れる・・マリア様はお前のことを全て分かっている・・そしてそんなお前を許してくださる・・・」
「たとえアニキでも、オレのこの気持ちを変えることはできねぇ・・オレはやっと、落ち着ける場所を見つけたんだ・・・」
ショウの呼びかけでも、ダイゴの決心は揺るがなくなっていた。今のダイゴは、マリたちのいる場所が大切であると感じるようになっていた。
「・・・ダイゴ・・お前なら、理解してくれると思っていたのだが・・・」
冷淡に告げるショウの頬に異様な紋様が浮かび上がる。デッドガルヴォルスに変身した彼に、ダイゴが緊迫を覚える。
「お前も私たちの敵に回るとは・・正直思いたくなかった・・・」
「アニキ・・・!?」
死神の鎌を構えるショウに、ダイゴが目を見開く。
「どんなに拒絶の意思を示そうと、私たちやお前が進んでいく道はひとつしかない・・」
「何言ってんだよ・・オレが進む道はオレが決める・・そいつが決める道は、そいつしか決めらんねぇんだよ!」
「もはや選択などない。道は既に定められている・・」
ダイゴの呼びかけに耳を貸さず、ショウが冷徹に告げる。彼は弟であるダイゴに敵意を向けていた。
「オレも正直思いたくなかった・・アニキが、こんな風に変わっちまうなんて・・・!」
いきり立ったダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。
「私は何も変わっていない・・在るべき世界を望む、私の・・・」
ショウは不敵な笑みを見せると、ダイゴに向けて鎌を振りかざす。ダイゴも具現化した剣で、ショウの鎌を防ぐ。
「君は私に従うべきだ・・それで満ち足りた時間を過ごすことができる・・・」
「たとえアニキでも、オレのことを勝手に決める権利はねぇんだよ!」
笑みを強めるショウに、ダイゴが言い放つ。彼が剣を振りかざし、ショウを鎌ごとなぎ払う。
「さすがは私の弟・・相当の力だ・・だがマリア様はもちろん、私にも及ばない・・」
距離を取って着地したショウが、その場で鎌を振りかざす。鎌の刃からかまいたちが放たれ、剣を構えるダイゴを吹き飛ばした。
「ぐっ!」
かまいたちの衝撃にうめくも、ダイゴは踏みとどまる。
「考え直す時間を与える・・お前でも、マリア様に刃向かうことはできない・・・」
ショウは言いかけると、ダイゴの前から去っていった。困惑を抱えるダイゴが、ショウの姿が見えなくなったところで人間の姿に戻る。
「アニキ・・・」
ショウに対して歯がゆさを募らせるダイゴ。彼は兄の変貌を素直に受け止めることができないでいた。
「ダイゴ!」
そこへマリが走り込んできた。彼女の呼び声を耳にして、ダイゴが振り返る。
「マリ・・・ホントに無事だったか・・・」
「出てきていたのね、ダイゴ・・・急がないと・・ミライさんが・・・」
声を掛け合うダイゴとマリ。気持ちを切り替えたダイゴは、マリに案内されて移動していく。
「ホントに無事なんだろうな、ミライは・・・!?」
「分からない・・・私も、無事であってほしいと思ってる・・・!」
ダイゴの問いかけに対してマリが不安を口にする。2人はマリアが現れた場所へとたどり着いた。
その光景にダイゴとマリは目を疑った。そこにはミライがいた。だがマリアの石化にかかり、一糸まとわぬ石像と化していた。
「そんな・・・!?」
「これは・・・アイツしかいねぇ・・アイツが、ミライを・・・!」
マリが驚愕し、ダイゴが緊迫を膨らませる。マリアの魔手がミライを脅かし、ダイゴたちにも伸ばそうとしていた。
次回
「オレは、おめぇのことを受け入れてもいいんだろうか・・・?」
「あなたを怖がる気持ちは、私の中に確かにありました・・・」
「でもそれ以上に、私はダイゴのことが・・・」
「こんなところにいたとはね・・・」