ガルヴォルスZERO 第16話「揺れ動く2人」
ダイゴへの攻撃を狙うマリの前に、死神の鎌を構えるショウが立ちはだかる。マリはショウを目にして、さらなる緊迫を感じていた。
「あなたも私を狙っている人・・あなたも私の敵・・・」
「ようやく会えたね、清水マリ・・私と一緒に来てもらおうか・・・」
震えるマリに向けて、ショウが言いかける。警戒心を強めながら、マリが後ずさりする。
そこへダイゴが踏み込み、ショウとマリの間に割って入る。
「待ってくれ、アニキ・・これはオレとマリの問題だ・・・」
「ダイゴ・・これはもはやお前に危険が及んでいる。お前の頼みでも、それは聞けない・・」
呼びかけるダイゴだが、ショウは聞き入れようとしない。
「たとえ危なくたって、こうでもしねぇとスッキリしねぇんだよ・・・!」
「どんな理由であっても、彼女は私たちの敵であることに変わりはない。どくんだ、ダイゴ。彼女は私が・・!」
ショウがダイゴを退けて、マリに攻撃を仕掛けようとする。だがダイゴに鎌をつかまれて邪魔される。
「待てってんだよ!いくらアニキでも、邪魔は許さねぇよ!」
「邪魔をしているのはお前だ、ダイゴ!清水マリは動きを止めなければならないのだ!」
ダイゴの妨害を振り払おうとするショウ。だがダイゴも引き下がらない。
「ダイゴ!」
そこへミライが駆けつけ、ダイゴに呼びかける。
「ミライ・・・!」
目を見開くダイゴ。その瞬間、彼はその隙にショウに突き飛ばされてしまう。
鎌を構えて鋭い視線を向けるショウ。敵意を見せる彼に恐怖して、マリがたまらず逃げ出す。
「逃がすか!」
「やめろ!」
マリを追撃しようとしたショウを、ダイゴが横から突き飛ばす。すぐにでもマリを追いかけようと思ったダイゴだが、ショウを押さえていて手が放せない。
「くそっ!・・マリ!」
「マリちゃんはあたしが!」
ミライがマリを追いかけていく。ダイゴはミライにマリを任せるしかなかった。
「ダイゴ!」
そのとき、ダイゴがショウに殴り飛ばされる。倒れた彼に向けて、ショウが鋭い視線を向けてくる。
「どうして邪魔をしたんだ、ダイゴ!?彼女は絶対に押さえなくてはならなかったのに!」
「せめて話をするぐれぇ、いいじゃねぇかよ!・・・マジでどうしちまったんだよ、アニキ!?・・何でマリにあんな・・・!?」
怒鳴るショウに言い返し、ダイゴが歯がゆさを浮かべる。ショウがマリを執拗に狙うことに、彼は疑念と歯がゆさを覚えていた。
「彼女はあの方から逃亡した。死んだと思われたが、今もああして生きていた・・だから、今度こそ捕らえなくてはならないのだ・・」
「オレにはホントさっぱりだ!やっぱオレ、アイツのとこに行ってやらねぇと・・!」
「やめろ!私はお前に傷ついてほしくない!」
ショウに言いとがめられて、ダイゴが当惑する。2人は人間の姿に戻って、互いを見据える。
「私はこの世界のあり方に疑念がある・・塗り替えなければ、世界は同じ過ちを繰り返すだけだ・・」
ショウが告げた言葉に、ダイゴが当惑する。
「もはや世界は腐りきってしまっている。政治家たちは諸外国や同胞と対等に口も聞けず、自分たちが正しいと思い込んでいる。若者も倫理と摂理を失い、自分たちだけが幸せであろうとする。いずれも自分たちのためなら、他者を虐げることに一切のためらいもない。こんな国に未来があると思うか?」
「確かに世の中バカばっかだ・・オレもどんだけイラついたことか・・・けどだからって、ガルヴォルスが正しいとも思っちゃいねぇ!」
「違う。私たちが築こうとする世界は、人間のものでもガルヴォルスのものでもない・・愚か者や過ちのない理想郷こそが、私やあの方が目指す世界なのだ・・・」
自分の気持ちを交えて反論するダイゴに、ショウが自分の考えを語る。
「アニキ、その世界に、マリやみんなもいるのか・・・?」
ダイゴがショウに向けて、抱えていた不安の疑問を投げかけた。彼はその疑問を否定してほしいと願っていた。
「その世界にふさわしいと呼べるなら、誰でも住まうことが許される・・・」
ショウが口にしたこの言葉に、ダイゴは愕然となった。疑問への返答。裏を返せば、世界のためならばどんな犠牲もいとわず、今ある世界の法もタブーも無意味になり、罪も許される。それはダイゴの望む世界とはかけ離れていた。
「行こう、ダイゴ・・私たちの求める世界を、私たちの手で築いていくのだ・・」
「・・・アニキは、オレの嫌ってるヤツにはならねぇと思ってた・・・」
手を差し伸べるショウだが、ダイゴは彼の誘いを拒絶する。
「オレはマリを見捨てねぇ・・みんなを見捨てねぇ・・・!」
ダイゴはショウに向けて声を振り絞ると、力を振り絞って歩き出していった。
(ダイゴ・・・お前も拒否することはできない・・あの方の前からは・・・)
彼の後ろ姿を見つめて、ショウは笑みを浮かべていた。
ダイゴとショウへの恐怖で、たまらず逃げ出したマリ。悲しみさえも感じていた彼女を追いかけてきたのは、ミライだった。
「マリちゃん・・・やっと・・やっと追いついた・・・」
「来ないで!・・近づかないでください・・・!」
息を絶え絶えにするミライに、マリが悲痛の叫びを上げる。
「私は怪物なんです・・あれだけ怖がっていた怪物の1人だったんです、私・・・」
「・・そんなこと、あたしには小さな問題だよ・・・」
自分の正体を打ち明けるマリだが、ミライの心境は変わらない。
「あたし、ダイゴが怪物の姿になることを知ってるよ・・といっても、さっき知ったばかりなんだけどね・・・」
「ミライさんも・・・怖くはないのですか・・ダイゴのこと・・・?」
「最初あんな姿を見せられたら驚きはするけどね・・でもダイゴはダイゴだから・・・」
「ダイゴはダイゴ・・・でも、私は・・・」
ミライの言葉を聞いても、マリはダイゴを受け入れることができずにいた。過去のダイゴの恐怖が、マリの心を閉ざしていた。
「・・・とりあえず家に戻ろう・・・どうしてもダイゴと会うのが辛いなら、お姉ちゃんに頼んで協力してもらうから・・・」
ミライがマリに手を差し伸べてくる。拒絶することができず、マリはやむなく彼女の手を取ることにした。
マリとミライを追っていたダイゴだが、2人を発見することができなかった。途方に暮れたところで携帯電話が鳴り出し、彼は電話に出た。
「今忙しいんだ・・こんなときに何の用だよ・・・?」
“ミライから連絡があって、マリちゃんと家に行ったわよ。”
憮然とした態度のダイゴに連絡を入れたのはミソラだった。
「家に!?・・今度こそアイツに会って・・・!」
“待って・・今、マリちゃんはとても不安になってる・・ここはミライに任せて、あなたはマーロンに戻ってきて・・”
再びマリたちを追いかけようとしたダイゴを、ミソラが呼び止める。歯がゆさを感じながらも、ダイゴは渋々ミソラの言葉を聞き入れることにした。
「分かったよ・・けど、何かあったらすぐに知らせろって言っといてくれよ・・・」
ミライに連れられて、マリは家に戻ってきた。しかし未だにガルヴォルスが絡んだ恐怖を拭うことができず、マリは沈痛の面持ちを浮かべたままだった。
リビングのソファーで座り込んでいるマリに、ミライが紅茶を差し出してきた。
「あたし、料理はあんまりうまくないから、こういうのしか出せないんだよね・・アハハ・・・」
「・・・ありがとう・・ミライさん・・・」
苦笑いを浮かべるミライから紅茶を受け取って、マリが微笑みかける。
「・・・複雑になっちゃうよね・・自分が怪物で、自分が信じていた人も怪物だったことに・・・」
ミライがマリの気持ちを察して、物悲しい笑みを浮かべる。
「でもやっぱり、怪物になったって、大きく変わってなかったりするんだよね・・あたしはあたし、ダイゴはダイゴ、マリちゃんはマリちゃん・・」
「私は、私・・・」
ミライが投げかけた言葉に、マリが戸惑いを覚える。
「怪物だって、マリちゃんはマリちゃん・・怪物になったって、こうして君がいるじゃない・・・」
「私が、ここにいる・・・ダイゴも、そばに・・・」
ミライに勇気付けられて、マリは心を揺さぶられる。今の自分に、忌まわしき過去など意味はないのかもしれない。彼女はそう思い知らされたのだった。
「どうしたらいいのでしょうか・・・ダイゴにどう声をかけたら・・・」
込み上げてくる不安に耐えながら、マリがミライに言葉を投げかける。するとミライが考える素振りを見せる。
「あたしがどうこう言えることじゃないんだけど・・・いつものようにしたらいいんじゃないかな・・・」
「いつものように・・・それで大丈夫なのでしょうか・・・?」
「いつものように明るく優しく・・ダイゴは、そういう人と仲良くしていきたいと思っているから・・ホントにストレートな人だから・・・」
「ダイゴ・・・そうですね・・ダイゴはいつだって、真っ直ぐでしたから・・・」
ダイゴの姿を思い返して、マリは次第に安らぎを感じていく。
「あたしも、そんなダイゴのことが好き・・・ずっと前から好き・・・」
ミライが唐突に、胸の中に秘めていた想いを口にする。
「せめてこの気持ち、ダイゴに伝えるだけでも・・・でないと一生後悔する・・そう思うから・・・」
「ミライさん・・・」
自分の気持ちを正直に口にするミライに、マリが困惑する。想いを寄せることに悩みを抱えているのは、ミライも同じだった。
ミソラに呼ばれてマーロンに戻ってきたダイゴ。マリとミライのことを気にしながら、彼は仕事で時間をつぶしていた。
その最中、ダイゴは自分の携帯電話が着信したことに気付き、電話を取り出す。相手はミライだった。
「ミライ・・マリは大丈夫なのか・・・!?」
“うん・・今は落ち着いている・・もう少し休んだら、会わせようと思うんだけど・・・”
「そうか・・オレもそれまでに気分を落ち着かせとかねぇとな・・」
ミライの意見を聞いて、ダイゴが笑みをこぼす。その後、ミライがダイゴに向けて、自分の気持ちを告げてきた。
“ダイゴ・・あたし、ダイゴのことが好き・・心の底から大好き・・・”
ミライの告白にダイゴの心が揺れる。このような体験は自分にはまず起きないと彼は思っていた。
“ダイゴ、どうかあたしのこの気持ち、受け取ってください!”
電話越しでの告白に、ダイゴの心は揺れる。だが、彼の気持ちは今ひとつとなっており、揺るぎないものともなっていた。
「ミライの気持ち、すげぇってことは分かった・・けどオレは、おめぇの気持ちを受け止めるわけにはいかねぇ・・・」
罪悪感を感じながらも、ダイゴはあえて自分の考えを正直に告げた。
「オレ、アイツをこのままほっとくわけにはいかねぇ・・アイツは、オレやバケモンや、いろんなもんに苦しんで、どうしたらいいのかハッキリと答えが出せなくなってる・・・」
“ダイゴ・・・”
「だからオレ、マリを助けてぇ・・・アイツと向き合わねぇといけねぇ・・それが、今のオレの気持ちなんだよ!」
ダイゴも電話越しで自分の気持ちを伝えた。彼の突然の大声に、ミソラや店内の人たちが驚いて手や足を止める。
「・・・ホントにすまねぇ、ミライ・・・オレ、自分のわがままだけで人に迷惑をかけちゃいけねぇって誓ってたのに・・・」
“ううん、気にしないで・・ダイゴ、ヘンにウソがつけない性格だし、こうしてきちんと答えてくれただけでも、あたしは割り切ることができるから・・・”
謝るダイゴにミライが弁解を入れる。
“謝らなくちゃいけないのは、むしろあたしのほうだよ・・ダイゴに勝手を押し付けちゃって・・・”
「おめぇこそ気にすんな・・ガキっぽいけど根はいいからな、おめぇは・・・」
“とにかくホントにありがとうね・・もう少し休んだら、マリと一緒にマーロンに行くね・・・”
「分かった・・ミソラに言っとく・・・じゃ、またな・・・」
ダイゴはミライとの連絡を終えて、携帯電話をポケットにしまう。だが彼は困惑を膨らませていた。
ダイゴは電話越しで、ミライが涙ぐんでいたことに気付いていた。割り切っていると口にしていた彼女だが、想いが伝わらなかったことへの悲しみをこらえることができなかった。
(すまねぇ・・・ホントに、すまねぇ・・・)
ミライへの謝意を抱えたまま、ダイゴは仕事を続けるのだった。
夜になり、マリは浴室でシャワーを浴びていた。シャワーを浴びて、彼女は悲しみやモヤモヤした気分を洗い流そうとしていた。
そこへミライも浴室に入ってきた。彼女が沈痛の面持ちを浮かべていることに気付き、マリが当惑する。
「どうか、したのですか・・ミライさん・・・?」
マリが訊ねると、ミライが作り笑顔を見せてきた。
「今、ダイゴに連絡してきた・・報告と一緒に、ダイゴに思い切って告白してきた・・・」
ミライが告げてきた言葉に、マリが困惑する。どういう反応を示せばいいのか、彼女は分からなくなっていた。
「・・・アハハハ・・見事にふられちゃった・・そうなるかもしれないって、心のどこかで覚悟してたはずなのに・・・」
笑みをこぼしながら語っていくミライ。
「でも、ダイゴと結ばれたらいいなっていうのが、1番嬉しいことだった・・でもそんな夢みたいなことは滅多に起こったりしなくて・・・」
自分で何を言っているのか分からず、当惑するミライ。するとマリが唐突に彼女を優しく抱きしめてきた。
「もういいですよ、ミライさん・・・ミライさんの気持ち、私、十分に分かりましたから・・・」
マリに優しく声をかけられて、ミライは抑え込んでいた気持ちを止めることができなくなった。マリにすがりついたミライは泣きじゃくり、悲しさを外に吐き出していた。
「私たち、今、どうしたらいいのか分からなくなっている・・なぜか似たもの同士になってしまいましたね・・・」
「・・・しばらく一緒にいよう・・お互いが気持ちを落ち着けるまで・・・」
マリが投げかけた言葉に、ミライが小さく頷く。2人はしばし、浴室での時間を過ごすのだった。
入浴を終えると、マリとミライは互いの素肌に目を向け合っていた。
「う〜ん・・マリちゃんのお尻のほうがちょっとふくらみがあるよ・・」
「そういうミライさんも、胸が私よりちょっとだけ大きいですよ・・それにやわらかさもあるし・・」
互いのスタイルの感想を交わすミライとマリ。
「男の人って、やっぱり胸の大きい人に釘付けになるものでしょうか・・・?」
「普通の男はね・・でもダイゴはそうとは言えないね・・大きすぎず小さすぎず、適度な大きさのバストがいいんだって・・」
「そうですか・・かなりストライクゾーンが絞られていますね・・・」
「マリちゃんも分かってるけど、ダイゴはスタイルとか外見よりも、性格や態度を重視する人なの・・優しく真っ直ぐ思いやりのある人が好きなんだよ・・男女問わずね・・あ、男同士は好きじゃないって・・」
屈託のない会話を交わしていくうちに、マリとミライが安らぎを覚えていく。
「こういう優しい時間が、いつまでも変わらなければいいんですけど・・・」
「誰だって永遠っていうのを望むもんだよ・・でも今のところ叶わない・・だから強く願ったりするんだよね・・・」
「で、結局は限られた時間を精一杯頑張る・・だからチャンスや成功が嬉しく感じるんですよね・・・」
「そういうこと。だからマリちゃん、ダイゴのこと、よろしくお願いね・・・」
気持ちを落ち着けて笑顔を見せるミライに、マリは真剣な面持ちを見せて頷いた。
「それじゃ、そろそろマーロンに行こう♪あんまりダイゴやお姉ちゃんを心配させるのはよくないから・・」
「では私が連絡しますね・・」
ミライの言葉にマリが答える。自分の携帯電話を取り出して、マリは考えを巡らせる。
(もう私には、過去はあまり関係のないことかもしれない・・大事なのは、自分の気持ちにウソをついちゃいけないこと・・・私も正直に、真っ直ぐにならないとね・・・)
ひとつの決心を宿して、マリはダイゴと向き合おうとしていた。
マーロンに連絡を入れてから、マリとミライはマーロンに向かった。既に日が暮れて、通りには街灯が灯っていた。
「すっかり暗くなっちゃったね・・みんなまだいるかな・・・?」
「ミソラさんとダイゴは絶対にいますよ・・きっとみなさんも・・・」
不安を口にするミライと、微笑みかけて答えるマリ。彼女の返答にミライも笑顔を見せて頷いた。
「それにしても、霧がすごいね・・」
「はい・・注意報は何も出ていなかったのですが・・・」
不安を浮かべるミライとマリ。通りには霧があふれてきており、周囲を見えなくしていた。
そのとき、マリは自分たちに近づいてくる足音を耳にする。ガルヴォルスとしての聴覚が、足音を捉えていた。
「どうしたの・・・?」
「誰か、近づいてくる・・・」
ミライが声をかけると、マリが声を振り絞る。2人の前にひとつの影が現れる。
「見つけた・・次の獲物・・・」
発せられた声。それを耳にしたマリが目を見開いた。
影の正体が明確になっていく。マリとミライの前に、白髪の女性が姿を現した。
次回
「まさかこんなところで会うとはね・・・」
「もしかしてオレ、アイツと一緒にいたのか・・・」
「もはや選択などない。道は既に定められている・・」
「そこで自分の過ちを後悔するといいわ・・」