ガルヴォルスZERO 第15話「闇夜の追憶」

 

 

 突如ガルヴォルスに変貌を遂げたマリ。異形の天使、エンジェルガルヴォルスとなった彼女からは、神々しさの宿る光が発せられていた。

「どういうことだよ・・・マリが、ガルヴォルス・・・!?

 ガルヴォルスとなったマリに、ダイゴが目を疑う。驚異的な力を見せたマリに、リノガルヴォルスも驚きを感じていた。

「まさかコイツもガルヴォルスだったとは驚きだ・・けど、オレが突き飛ばすことに変わりない!」

 リノガルヴォルスがマリに向かって再び突進を仕掛ける。するとマリの背中から生えている翼が羽ばたき、羽根を飛ばしてきた。

「ぐあっ!」

 矢のように飛んできた羽根に体を刺されて、リノガルヴォルスが絶叫を上げる。鬼気迫るマリの姿に、ダイゴは動揺を膨らませる。

「やめろ・・・やめろよ、おいっ!」

 ダイゴがたまらず呼び止めると、マリが我に返る。同時に彼女から出ていた光が消失する。

 ダイゴに目を向けて当惑を見せるマリ。次の瞬間、彼女は自分の両手を目にして、驚愕を覚える。

「どういう、こと!?・・・私が・・怪物に・・・!?

 変わり果てた自分の姿に愕然となるマリ。動揺のあまり、彼女は人間の姿に戻っていた。

「ダイゴ・・私・・私・・・!?

「マリ・・・おめぇ、マジで・・・!?

 互いに困惑をあらわにするマリとダイゴ。

「ダイゴ、違う・・・私・・私は!」

 恐怖に耐えられなくなったマリが、ダイゴの前から飛び出していった。

「マリ!」

 とっさに呼び止めるダイゴだが、マリを追いかけることができなかった。彼女にどう接したらいいのか、彼は分からなくなっていた。

 この2人のいきさつを、ショウは見守っていた。

 

 ガルヴォルスに変貌した自分自身に、マリはかつてない恐怖にさいなまれていた。

「どういうことなの・・・私が、怪物に・・・!?

 恐る恐る自分の両手を見つめるマリ。このときの彼女は人間の姿だった。

 だが彼女は自分の手が怪物のものとなっていると錯覚していた。異形への変貌に、彼女はさらなる恐怖を覚える。

「ウソ・・こんなの、絶対にありえない・・・!」

 拒絶をすればするほど現実だと痛感し、マリは平穏さを保てなくなっていた。

 そのとき、マリの脳裏にある光景がよぎってきた。それはエンジェルガルヴォルスとなった自分の姿だった。

「もしかして、私は昔から怪物だったの・・・!?

 浮かび上がってくる映像が記憶の中に自分であると感じ取っていくマリ。エンジェルガルヴォルスとなったマリは、流れが速くなっている川に落ちていった。

 そこから先の記憶がない。浮かび上がってこない。

「そこでその映像が終わってる・・・それが、私の記憶なんじゃ・・・!?

 自分のことが分からなくなり、混乱するマリ。彼女はその映像の糸口を探ろうと、必死に記憶を巡らせていく。

 しかし思い出そうとすると頭の痛みが強くなり、マリはその場にひざを付く。

「何がどうなってるの!?・・・私に何があったっていうの・・・!?

 膨らむ疑問を払拭することができず、さらに誰にも頼ることもできず、マリは苦悩を深めていた。

 

 三度逃亡したリノガルヴォルス。ガルヴォルスとなったマリに、ダイゴも苦悩していた。

 彼が遭遇した悲劇を、ショウも目の当たりにしていた。

「まさかお前が心のよりどころにしていた人が、ガルヴォルスだったとは・・・」

「マジで信じらんねぇ・・マリが、ガルヴォルスだったなんて・・・!」

 深刻さを募らせるショウと、歯がゆさをあらわにするダイゴ。

「いったい何があったっていうんだ・・オレの知らねぇことが、アイツに起こって・・・」

 ダイゴが1人言葉を発していたときだった。突如彼は激しい頭痛に襲われて、顔を歪める。

 同時にダイゴの脳裏に、ある光景が浮かび上がってくる。それは森の中で何かを追い求める自分だった。

(何だ・・アレは・・・!?

 その自分の姿にダイゴが困惑する。その自分が追いかけている人物の姿が明確になっていく。

(なっ・・・!?

 その姿にダイゴは目を疑った。それは紛れもなくマリだった。

(マリ!?・・何で、こんなところに・・・!?

「ダイゴ、どうした・・ダイゴ!」

 そのとき、ショウに呼びかけられてダイゴが我に返る。目を見開いたまま、ダイゴはショウに視線を移す。

「どうした、ダイゴ?・・何があった・・・?」

「アニキ・・・今、マリが・・・」

 疑問を投げかけるショウを前にして、ダイゴが息を荒げる。気持ちを落ち着けてから、ダイゴは今自分が見た映像を、ショウに打ち明けた。

「お前とマリさんが・・・?」

「あぁ・・あぁいうのを見せられると、マリと、ずっと昔に会っているような気がしてくる・・・」

 ダイゴが頭を押さえて、記憶を巡らせる。彼には今の光景が幻や夢とは思えなかった。

「そうか・・失われていた記憶を取り戻しつつあるのか・・・」

「アニキ・・・?」

 ショウの口にした呟きに、ダイゴが眉をひそめる。

「こういうのも宿命と呼べるものかもしれない・・・お前と彼女が、こういう形で巡り会うことになるとは・・・」

「何を言ってんだ、アニキ・・・何が知ってんのか・・・!?

 悠然と語りかけてくるショウに、ダイゴがたまらず問いかける。

「ダイゴ、お前とオレは兄弟というだけではない・・ともに世界を塗り替えるために行動していた仲なのだ・・」

「オレが、世界を塗り替える・・・!?

 ショウが告げてきた言葉に、ダイゴが息を呑む。

「だがお前はその最中に記憶を失った・・マリさん共々・・だから2人は平穏に過ごせてきた・・・」

「オレとマリが、記憶を失った・・・!?

「そう。彼女は私たちが狙っていた相手。お前は彼女を追って、ともに流れが速くなっていた川に落ちた・・それから2人の行方が分からなくなっていたのだが・・・」

「何でアニキが、そこまで分かってるんだよ・・いくら一緒だったからって・・・!?

「正確には私ではない。“あの方”が気付かれたのだ・・」

「あの方・・・?」

「あの方の素性に私は惹かれた・・この世界の愚か者たちとは天地の差だ・・」

 悠然と語るショウに、ダイゴが眉をひそめる。

「周りがかつて私を優等生として見ていたことは、お前も気付いていただろう?私もいつしかそれを自負できるようになった・・確かに私は普通の人間と違った。勉強はただのパズルだったし、運動もままごとと変わらなかった。ガルヴォルスとしての賜物なのか、人の聞けない声も聞こえた・・」

「アニキ・・・」

「それだけ高い能力を持っていれば、誰もが有望視することだと確信していた。自惚れなどではなく、力の優劣すら手に取るように理解できた・・だが、それだけのものが揃っていても、無力な存在としてあしらわれる以外になかった・・」

 ショウの顔から徐々に笑みが消えていく。

「世界の中で力のある者は、家柄や権力が有力な者ばかり。その多くはそれだけでしかなく、私利私欲を行使するばかり・・なぜ自分より無知で愚かな人間が、全てを決定し、私には何もできないのか。そんな不条理な運命を受け入れなければならないのか・・・」

 憤りを膨らませていくショウ。世界に十分通用するはずの自分が、権力に物を言わせている人間に簡単に迫害されていることを受け入れられず、彼はそんな世界を塗り替えようと決意していたのである。

「本来の世界は、そのような愚か者が失墜され、純粋に世界を導く力を持つ者が統治しなければならない。愚か者の身勝手に振り回されることなく、生き延びる者が生き延びるべくして長らえる、そんな世界を・・・」

「けど、それは結局、そいつの思い通りの世界ってことじゃねぇのか・・・?」

 ショウの言葉にダイゴが反論する。

「そういうお前も私も、結局は思い通りの考えではないのか?問題は、その思い通りが世界にとって正しいかどうか、より正しくあるかどうかだ・・」

「・・・その世界も、いったい何なんだっていうんだ?・・・アニキみてぇに頭がいいわけじゃねぇから、全然分かんねぇ・・・」

 疑問を募らせるダイゴに、ショウが手を差し伸べてきた。

「いずれにしろ、世界は変わらなければならない・・そのための引き金を、私たちで引くことになる・・・」

「えっ・・・?」

「私と一緒に来い・・ともにこの世界を塗り替えるんだ・・・」

 呼びかけるショウに、ダイゴが心を揺さぶられる。彼は兄の手を取ることができずにいた。

「まだすぐに答えが出せそうにねぇ・・情けねぇこった・・・」

「急ぐことがいいこととはいえない・・ただ、真実は時間を追うごとに明らかになっていることは、お前も自覚できているのだろう・・・?」

 困惑するダイゴに、ショウは淡々と言いかける。ダイゴは困惑を抱えたまま、ショウの前から立ち去っていく。

(たとえ悩んでいても、道は必ずひとつの場所につながっている・・最後にはその場所に来ていると、私は確信しているよ、ダイゴ・・・)

 ダイゴに対する確信を胸に秘めて、ショウは微笑を浮かべていた。

 

 マーロンにて働いていたミライだが、ダイゴとマリのことが気になって、仕事に手が付かなくなっていた。それを見かねたミソラが、ため息混じりにミライに近寄った。

「2人のことが心配なのは分かるけど、仕事をするときは集中してちょうだい。」

「そうなんだけど・・やっぱり気になっちゃって・・・」

 注意してくるミソラに、ミライが困り顔を見せる。さらに呆れたミソラが肩を落とす。

「もう終わりにしていいわ。2人のところに行ってあげなさい・・」

「えっ!?いいの!?やったー

 ミソラがかけた言葉を聞いて、ミライが大喜びする。

「でもその分は給料から差っ引くからね。」

「そんな〜・・」

 続けてミソラがかけた言葉に、ミライはすぐに涙目になる。

「それじゃ行ってくる・・絶対に2人を元気にしてみせるから・・・」

「そんなんで元気にできるの?シャキッとしなさいって・・」

 落ち込んだままマーロンを出るミライに、ミソラは呆れ果てていた。

 

 ダイゴに追われる光景にさいなまれていくマリ。彼女の心は徐々に荒みつつあった。

「どうしたらいいの?・・・私、どうしていけばいいの・・・?」

 夢遊病者のように歩いていくマリ。どこに向かっているのか、彼女自身分かっていなかった。

 そんな気分に陥っていたところで、マリは目を見開く。彼女の目に、ゆっくりと歩いてくるダイゴの姿が入ってきた。

「ダイゴ・・・もしかして、私を狙って・・・!?

 マリはダイゴに恐怖を抱いていた。彼女の脳裏には、森の中で追いかけてくるダイゴの姿が焼きついていた。

「来ないで・・私に近づいてこないで・・・!」

 ダイゴを拒絶するようになってしまったマリ。そんな彼女の前に、ダイゴがやってきた。

「マリ・・・オレ・・オレは・・・!」

 ダイゴがマリに向けて声を振り絞る。彼も彼女とどう接していけばいいのか、未だに答えを出せずにいた。

「来ないで・・近寄らないで・・・!」

「マリ・・・!?

 震えながら後ずさりするマリに、ダイゴが困惑を覚える。

「あなたは私の敵・・私を狙ってくる怪物なんでしょう・・・!?

「怪物・・・確かに、オレはバケモンになっちまった・・おめぇやみんながオレを嫌うのも、ムリはねぇ・・・けど・・」

「ううん・・あなたが怪物というだけじゃない・・・」

 必死に弁解するダイゴに、マリが沈痛の面持ちを浮かべる。

「あなたは私を狙う敵・・私だから、あなただから・・・」

 言葉を発していくマリの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。その変貌にダイゴが緊迫を覚える。

「それに私も、怪物だから・・・」

 エンジェルガルヴォルスに変身するマリ。息を呑むダイゴに向けて、マリが右手をかざす。

「私は死にたくない・・捕まりたくない・・・だからダイゴ、あなたを倒す・・・!」

 マリは鋭く言い放ち、光を放出する。その光をぶつけられて、ダイゴが突き飛ばされる。

「マリ!」

 声を荒げるダイゴが、とっさにデーモンガルヴォルスに変身する。しかし彼はマリへの攻撃を行わない。

「マリ・・おめぇにとってオレは敵なのか・・敵でしかねぇのか・・・!?

 振り絞るように言いかけるダイゴだが、マリがその問いに答えることはない。

「それで気が済むってんならやれよ・・おめぇは根っからいいヤツだ・・そのおめぇがオレを許せねぇなら、オレがワリィってことになるんだろ・・」

 ダイゴが投げかけた言葉に、マリが心を揺さぶられる。だが追ってくるダイゴの姿に、彼女は突き動かされる。

「やらないと・・私がやられる・・・私が、ダイゴを・・・!」

 マリが背中から翼を広げて、羽根を放つ。その羽根の矢が体に刺さり、ダイゴが昏倒する。

「ぐっ・・・!」

 体に痛みを覚えてうめくダイゴ。羽根を刺された彼の体からは鮮血が流れ出ていた。

「もう終わらせる・・私はあなたを倒して、地獄を抜け出すのよ!」

 悲鳴のように叫ぶマリが両手を突き出し、光の弾を発射する。ダイゴも自分が終わりであると覚悟していた。

 だがその光が、突如横から飛び込んできた衝撃波でかき消された。目を見開いたダイゴとマリが振り返った先には、デッドガルヴォルスとなったショウの姿があった。

「こんなところで死んではならないぞ、ダイゴ・・・」

「アニキ・・・!?

 ショウの登場にダイゴが当惑する。ショウの姿を見て、マリは恐怖を覚える。

(あの人も・・私を狙っていた・・・!)

 マリの脳裏に別の映像がよぎってきた。ショウもまた自分を狙ってくる敵であると、彼女は直感していた。

「ようやく会えたね、清水マリ・・私と一緒に来てもらおうか・・・」

 ショウがマリを見据えて、鎌を構える。立ちはだかる彼に、マリは緊迫を募らせていた。

 

 街外れの奥地にある邸宅。そこには多くの少女たちがいた。

 いずれも薄汚れて元気がなく、着ていた服もボロボロだった。

 その少女たちの中に、1人の女性がいた。少女たちと違い、整った黒いドレス調の服を着ており、長い白髪と大人びた雰囲気をしていた。

 女性は少女の1人を見つめて、妖しい笑みを浮かべていた。その少女は裸にされており、体も白く冷たくなっており、ところどころにヒビが入っていた。

「お願いです・・助けてください・・お願いします・・・」

「助けて?お前が私に悪いことをするからいけないじゃない・・」

 助けを請う少女を、女性があざ笑ってくる。

「私に刃向かえばこうなる。事前に見せていたことじゃないの・・」

  ピキッ ピキッ

 言葉を投げかける女性の前で、少女の体の石化が進む。この変化に少女の恐怖が膨らむ。

「お願い!助けて!もう2度とこんなことはしない!何でも言うこと聞くから!」

 少女が必死に女性に呼びかける。固まりたくないのが、少女の一途な気持ちとなっていた。

「本当に何でもするのかしら?」

「は、はいっ!」

 女性が微笑みかけると、少女は喜びを見せる。しかし女性の笑顔が、一瞬にして冷徹な表情へと変わる。

「ならこのままオブジェになって、“永遠の不自由”を堪能してなさい・・」

「えっ・・・!?

  ピキキッ パキッ

 女性が告げた言葉に、少女の笑みが凍りつく。同時に少女の石化が進み、彼女の頬や髪を固めていく。

「これからのお前は、今まで以上に私のものとなるのよ。恨むなら、自分の愚かさを恨むことね・・」

「イヤ・・・助けて・・・たす・・け・・・て・・・」

 あざ笑ってくる女性に、涙ながらに助けを求める少女。

   フッ

 だがその願いは受け入れられることなく、少女は物言わぬ石像へと変わり果てた。その石の裸身を見つめて、女性は哄笑を上げる。

「バカなこと・・大人しく私に従っていれば、人として動くことが許されていたのに・・」

 嘲笑する女性が、周囲で恐怖を覚えている少女たちに目を向ける。

「覚えておきなさい。私の言うことを聞かないとこうなるから。全てをさらけ出されて、しかも指一本動かせない“永遠の不自由”。味わいたくなかったら、私に従うことね・・」

 女性は冷徹に告げると、少女たちの前から去っていった。女性の力に恐怖を刻み込まれて、少女たちは彼女に従う以外の選択肢を見出せずにいた。

 

 

次回

第16話「揺れ動く2人」

 

「私たちが築こうとする世界は、人間のものでもガルヴォルスのものでもない・・」

「怪物になったって、こうして君がいるじゃない・・・」

「アイツと向き合わねぇといけねぇ・・それが、今のオレの気持ちなんだよ!」

「見つけた・・次の獲物・・・」

 

 

作品集

 

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