ガルヴォルスZERO 第14話「荒んだ世界」
「ア・・・アニキ・・・!」
「ここで会えるとは、正直驚きだったよ、ダイゴ・・・」
声を上げるダイゴに、彼の兄、ショウが微笑みかけてきた。
「ショウさん・・ショウさんなんですか・・・!?」
ミライもショウの登場に驚いていた。彼女もミソラもショウと顔見知りだった。
「ミライちゃんも元気そうだね。かわいいだけでなくきれいにもなって・・もうこれではちゃん付けはできないか・・・」
「もうショウさんったら・・・」
ショウが投げかけた言葉に、ミライが赤面する。
「アニキ、どうしたっていうんだ・・あの事件の後いなくなって、全然連絡もしてこなかったじゃねぇかよ・・・!」
ダイゴがショウに深刻な面持ちを見せてきた。
「すまなかった・・私にも事情があったんだ・・許してほしい・・・」
「ったく。勝手なことを言ってくれる・・・」
謝意を示すショウに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「ダイゴのことは耳にしていたよ・・・警察や立場の高い人に突っかかっているそうじゃないか・・」
「だってアイツらが悪いんだ・・自分たちさえよければ他のヤツがどうなろうと知ったことじゃねぇ。そんなふざけた考えが許せねぇだけだ・・・!」
ショウが投げかけた言葉を受けて、ダイゴが苛立ちを浮かべる。彼の反応を見て、ショウが肩を落とす。
「そういうお前も相変わらずのようだ・・説得力のない理屈をこねるよりはいいが・・」
「けど今は、オレ自身のことで悩んでるんだ・・アニキ、信じられねぇことなんだけど・・・」
ダイゴがショウに現状と自分の身に起きていることを打ち明けようとした。
「それより、少し休ませてほしいんだ・・移動を繰り返していたもので、小休止したい・・」
ショウが切り出した言葉に、ダイゴとミライが考えを巡らせる。
「だったらマーロンに行きましょう♪休めるし、食べ物もあるし♪」
「客寄せをしようとしてんのが見え見えだぞ・・・」
笑顔を浮かべて呼びかけるミライに、ダイゴが呆れていた。
「マーロンか。懐かしいな・・店長やミソラさんにも顔を見せておかないと・・」
「あ、店長は産休中でして、今はお姉ちゃんが店長代理です。」
呟きかけるショウに、ミライが説明する。しかしダイゴはマーロンに戻ることに乗り気ではなかった。
「待てって・・オレにはやることがあるんだ・・マリに会わねぇと・・・」
「どうやら、タイミングの悪いところで再会してしまったようだ・・」
ダイゴの呟きを聞いて、ショウが深刻な面持ちを浮かべる。するとミライがダイゴに言葉を投げかける。
「でもやっぱり1度、マーロンに戻ってみようよ・・情報を整理してから出直したほうが・・・」
「・・・ホントはすぐにでも飛び出してぇ気分なんだけど・・・」
腑に落ちないながらも他に当てもなく、ダイゴは渋々ミライの言葉に従うことにした。
突然のショウの来訪に、ミソラも驚きをあらわにしていた。紳士的に見える彼に、マーロンのウェイトレスたちは目を輝かせていた。
「昔も今も人気者だね、ショウさんは・・」
「アニキは昔から頭がよかった・・何でもこなせてた・・・」
ミライとダイゴがショウに目を向けて言葉を交わす。
「珍しいね。ダイゴが完璧人間に文句を言わないなんて・・」
「その完璧をひけらかしたり偉そうにしてるヤツよりはマシだ・・現にアニキは努力を欠かさず、オレやみんなにも優しくしてくれた・・・」
からかってくるミライに、ダイゴが微笑みかける。だが彼の笑顔が徐々に曇る。
「けど、アニキが完璧すぎたせいで、オレはおかしな目で見られた・・何で弟なのに出来が悪いってな・・親父もお袋も・・・」
「あたしもお姉ちゃんもそんな噂を耳にしてたよ・・みんな勝手なんだから・・・」
ダイゴが口にした苛立ちを聞いて、ミライも肩を落とす。完璧なショウの弟という理由からの比較や偏見を向けられて、ダイゴは不満を募らせていた。
「そんなオレをアニキは励ましてくれた・・周りのそんな言葉に耳を貸すな。自分のペースでやればいいって・・・」
再び笑みを見せるダイゴ。彼はショウの優しさに支えられ、安らぎを感じていた。
(けど親父とお袋が殺されたあの日から、アニキは姿を消した・・全然連絡をよこさず、オレも連絡が付けられなかった・・・アニキも殺されたんじゃないかとも思ってた・・・)
ダイゴはショウの行方について思い返していたが、それを口には出さなかった。打ち明けたくない、口にしたくないと思っていたからである。ミソラ、ミライ、そしてマリがそのことを知っていることを知らずに。
「って、ホントは感動の再会に没頭してる場合じゃねぇってのに・・」
ダイゴは気持ちを切り替えて、マリを探しに出直そうとした。
「そういえばダイゴ、立て込んでいたようだったが・・」
そこへショウがダイゴに声をかけてきた。
「あぁ・・人のいねぇところで話してぇんだけど・・・」
ダイゴの申し出にショウは頷く。2人はマーロンから出て、人気の少ない裏道に赴いた。
そこでダイゴは改めて、ショウに事情を説明した。自分がガルヴォルスであること。そのことを知ったマリとすれ違いになっていること。自分の知りうる限りのことを全て。
「そんなことが・・お前も大変な思いをしてきたんだな・・」
ダイゴの話を聞いて、ショウが深刻さを浮かべる。
「すまなかった・・こんなときにそばにいなくて・・・」
「気にすんな・・これはオレの問題だ。アニキに助けを求めるのは甘えってことだ・・」
謝意を見せるショウに、ダイゴが憮然とした態度で弁解する。
「ダイゴがそのマリさんと仲直りしたいというなら、それが1番いいだろう。ただそれが叶わないというなら、完全に割り切るべきだろう・・」
「アニキ・・そんなこと・・・!」
ショウが告げた冷徹な言葉に、ダイゴが声を荒げる。
「声をかければ必ず分かち合える保障はない。それどころか、今は分かち合えない、分かち合おうとすらしないことのほうが多い・・・」
「アニキ・・・?」
ショウが語りかけていく言葉に、ダイゴが眉をひそめる。
「お前もよく分かっているはずだ。この世界が今どういうことになっているか・・他人の考えを受け入れようとせず、自分の考えを押し付けて、愚作を並べるばかりだ・・・」
「・・・確かに、どいつもこいつも勝手なことをするヤツばかりだ・・・けど、少なくてもオレの周りにいるヤツらは、あんなバカじゃねぇ・・・」
「それは分かる・・だが現に、そんな愚か者が全てを牛耳っているのは確かだ・・・」
冷淡に語るショウと、歯がゆさを浮かべるダイゴ。
「お前はいつも身勝手な相手、許せない相手に対してはいつも挑みかかっていた・・それだけ相手の愚かさに我慢がならなかったということだ・・だがいくら1人ずつ相手にしても、元を正さなければ徒労に終わることになる・・」
ショウが続けざまに投げかけてくる言葉に、ダイゴは心を揺さぶられていた。
森の中を逃げる自分と、怪物の姿で追ってくるダイゴ。この光景が頭から離れず、マリは困惑と恐怖に打ちひしがれていた。
(あの光景・・本当に気のせいなの・・・!?)
思考を巡らせるも、マリは落ち着きを取り戻せずにいた。
(もしもあの光景が、昔の私とダイゴだったら・・ダイゴは、私の敵ってことなの・・・!?)
出てこない答えを自分で決め付けてしまうマリは、いつしかダイゴを敵として認識するようになってしまった。
(ダイゴ・・・私は、もうあなたのそばにはいられない・・・)
無意識に物悲しい笑みを浮かべていたマリ。彼女の目からは涙が流れてきていた。
ダイゴに向けて語りかけるショウ。敵意を見せる兄を目の当たりにするのは、ダイゴにとっては初めてのことだった。
「今までも言ってきたが、改めて言っておく・・受け入れられないことは受け入れるな。自分の信じる道を行け・・・」
「自分の信じる道を行け・・オレがずっと貫いてきたことだったのに・・・」
ショウが投げかけた言葉に自分への皮肉を感じて、ダイゴが物悲しい笑みを浮かべる。
「けど・・・」
ダイゴが切り出した言葉に、ショウが眉をひそめる。
「アニキが信じてる道って、いったい何なんだ・・・?」
おもむろにショウに疑問を投げかけるダイゴ。冷淡な態度や敵意を見せる兄に、彼は確信を持つことができなくなっていた。
「こんなところにいたのか、お前・・・」
そこへ声がかかり、ダイゴとショウが振り返る。2人の前にリノガルヴォルスが現れた。
「今度こそお前を突き飛ばして、バラバラにしてやるぞ!」
リノガルヴォルスが言い放つと、ダイゴに向かって飛びかかる。
「くそっ!しつこくやってきやがって!」
この突進をかわしながら、ダイゴが毒づく。ショウの前でガルヴォルスになることを一瞬躊躇するも、ダイゴはすぐに気持ちを切り替えた。
「アニキ、これがオレの、バケモンになっちまったオレの姿だ・・・!」
ショウに言いかけるダイゴがデーモンガルヴォルスへと変身する。込み上げてくる困惑を振り切るように、ダイゴがリノガルヴォルスに飛びかかる。
「突進でオレに勝つつもりか!?ふざけてろ!」
あざ笑うリノガルヴォルスもダイゴに突っ込んでいく。ダイゴが突進力で競り負けて、突き飛ばされる。
「ぐっ!」
激しく横転するダイゴがうめく。そこへリノガルヴォルスが再び突っ込み、追い討ちを仕掛ける。
「どうした!?この前の勢いはどこに行ったんだ!?」
昏倒するダイゴをあざ笑うリノガルヴォルス。立ち上がったダイゴが、目つきを鋭くする。
「オレは・・こんなところでぶっ倒れるわけにはいかねぇんだ・・・!」
声を振り絞るダイゴが具現化した剣を手にする。するとそこへショウがやってきて、手を差し出してダイゴを制止する。
「これ以上お前の手を煩わせることはない。ここからは私がやろう・・」
言葉をかけてきたショウに、ダイゴが目を見開く。
「何言ってんだよ、アニキ!?いくらなんでも、人間のアニキがガルヴォルスに太刀打ちできるわけねぇだろ!?」
たまらず抗議の声を上げるダイゴ。だがショウはリノガルヴォルスと戦うことをやめない。
「お前も邪魔しようっていうのか?だったら思い切り遠くに飛ばしてやるから!」
いきり立つリノガルヴォルス。その瞬間、ショウの頬に異様な紋様が浮かび上がった。
「アニキ、まさか・・・!?」
「私も覚醒を果たしていたんだ・・・ガルヴォルスという進化に・・・」
目を疑うダイゴの前で、ショウも異形の姿へ変貌を遂げる。ヒューマノイドタイプの容姿だが、体の一部に刺々しさをかもし出している。
「お前もガルヴォルスだったとは・・だがオレがお前を突き飛ばすことに代わりは・・・!」
リノガルヴォルスがショウに迫ろうとしたときだった。突如リノガルヴォルスが衝撃に襲われ、激しく横転する。
「なっ・・・!?」
「残念だが、お前は私を突き飛ばすどころか、私に触れることもできない・・」
驚愕するリノガルヴォルスに、ショウが低い声音で言いかける。彼は死神が持っているような鎌を具現化させる。
「ま、待ってくれ!同じガルヴォルスを始末しようっていうのか!?」
「同じガルヴォルス?愚問だな。私にとって人間もガルヴォルスも関係ない。ただ・・」
恐怖をあらわにするリノガルヴォルスに、ショウが呆れ気味に言いかける。
「お前のような愚かな存在に不快を感じている。それだけだ・・・!」
鋭く言いかけて、ショウが鎌を振り下ろす。その一閃を、リノガルヴォルスが紙一重でかわした。
だがこの一瞬で、リノガルヴォルスはデッドガルヴォルスとなったショウの力を痛感していた。完全に恐怖したリノガルヴォルスが、慌しく逃げ出していった。
「そう・・世界は塗り替えられなければならない・・人間以上にためらいを捨てなければならない・・・」
あえてリノガルヴォルスを追わず、ショウは歯がゆさを浮かべていた。彼は人間の姿に戻り、困惑しているダイゴに振り返る。
「すまなかった・・お前が打ち明けたときに、私も話しておけばよかった・・」
「いや・・ただ、アニキもガルヴォルスだったことにビックリしてるだけだ・・・」
謝意を示すショウに、ダイゴが困惑したまま答える。
「それよりいいのか、逃がしちまって・・・?」
「あのような輩、感情的になって追うほどのものではない。次にもし会ったとしたら、そのときは逃がさずに始末しておくが・・」
ダイゴが投げかけた疑問に、ショウが淡々と答えていく。
「・・・アニキ、オレはアイツに、マリにもう1度会わなくちゃいけねぇと思ってる・・やっぱ、ちゃんと話ぐれぇはしとかねぇと・・」
「そうか・・ダイゴの思うようにするといい。ただ、後悔のないように注意は払っておくんだ・・」
自分の気持ちを切り出したダイゴに、ショウが後押しする。
「すまねぇ、アニキ・・行ってくる・・・」
ダイゴはショウに感謝の言葉をかけると、マリを探しに駆け出していった。
(そうだ・・決して後悔やためらいを持ってはいけない・・世界を塗り替えるためには・・・)
ダイゴを見送りながら、ショウは胸中で呟きかけていた。
デッドガルヴォルスとなったショウに圧倒され、たまらず逃げ出したリノガルヴォルス。恐怖を和らげてきた彼は、ショウとダイゴへの憎悪を膨らませていた。
「このまま済まされると思うな・・絶対に突き飛ばしてバラバラにしてやるんだから・・・!」
怒りのあまりに体を震わせるリノガルヴォルス。そのとき、彼は誰かが歩いてくることに気付く。
「丁度いいところ・・憂さ晴らしにアイツを派手に突き飛ばしてやるとしよう・・・」
歓喜の笑みを浮かべるリノガルヴォルスが、徐々に歩を進めていく。彼が狙っていたのは、通りがかったマリだった。
「か、怪物!?ここにまで・・・!?」
突然の怪物の出現に、マリが恐怖を覚える。そこへマリを探していたダイゴが、この現場を目の当たりにする。
「マリ!」
「ダイゴ・・・!?」
声をかけるダイゴに、マリが当惑する。怪物になる彼に対し、彼女は懸念を抱いていた。
「またお前か・・この女と知り合いなのか?だったら面白くなりそうだ・・」
「やめろ!マリに手を出すんじゃねぇ!」
「へへ。やなこった・・」
ダイゴの呼び声を聞かずに、リノガルヴォルスがマリに迫る。
「やめろっていうのが分かんねぇのかよ!」
怒りをあらわにしたダイゴがデーモンガルヴォルスに変身して飛びかかる。マリに突っ込もうとしたリノガルヴォルスを、ダイゴが横から突き飛ばす。
「突き飛ばされるのは我慢がならないな!」
苛立ちをあらわにしたリノガルヴォルスがダイゴを振り払う。
「ぐっ!」
壁に叩きつけられたダイゴがうめく。
「アイツが突き飛ばされるのを黙って見てろよ・・!」
不満を口にして、再びマリに向かっていくリノガルヴォルス。
「やべぇ・・逃げろ、マリ!」
「イヤ・・来ないで!」
呼びかけるダイゴと、悲鳴を上げるマリ。そのとき、彼女の背中から突如翼が出現した。
「何っ!?ぐあっ!」
驚愕するリノガルヴォルスが弾き飛ばされる。マリの背中には天使のような白い翼が広がっていた。
さらにマリの頬に異様な紋様が浮かび上がる。ガルヴォルスに変化する際に現れるものである。
「ま、まさか・・・!?」
ダイゴはこの変化に目を疑う。マリもガルヴォルスへと変化を遂げようとしていた。
次回
「私が・・怪物に・・・!?」
「マリと、ずっと昔に会っているような気がしてくる・・・」
「こういうのも宿命と呼べるものかもしれない・・・」
「私と一緒に来い・・ともにこの世界を塗り替えるんだ・・・」