ガルヴォルスZERO 第12話「非情の螺旋」

 

 

 ガルヴォルスの力の克服と、アオイの死の経験を得たダイゴは、マリの家に先に帰ってきた。夜明け前の家の中は、明かりがついていないために暗かった。

「帰ってきたんだな・・・オレがいなくなって・・アイツも病院にいたから・・・」

 暗い部屋を見つけて、ダイゴが歯がゆさを覚える。

「けど、これでそれも終わりだ・・もう落ち着いて過ごせるんだから・・・」

 安堵と安らぎを確信するダイゴ。彼はベットに歩き、その上に横たわった。

「疲れた・・もう寝ちまおう・・・」

 疲れ切っていたダイゴは、そのまま眠りについていった。

 

 ダイゴが再び目を覚ましたときには、時刻は既に正午を過ぎていた。

「くっ・・ここまで寝ちまったのか・・・そんなに疲れてたのか・・・」

「仕方ないよ・・詳しくはないけど、ダイゴもいろいろあったみたいだから・・」

 体を起こしてうめいたところで声をかけられ、ダイゴが一気に意識を覚醒させる。彼が振り向いた先にマリが立っていた。

「マリ・・退院してきたのか・・・!?

「おかげさまで・・迷惑をかけてすみません・・・」

 ダイゴが声を上げると、マリは頭を下げて謝る。するとダイゴも思いつめた表情を浮かべる。

「謝らなきゃなんねぇのはオレのほうだ・・オレがしっかりしてりゃ、おかしなことになんなかったってのに・・」

「・・誰でも、思いつめたり悩んだりするもの・・だから、ダイゴのせいではないよ・・・」

 自分を責めるダイゴに、マリが弁解する。

「私ももう大丈夫・・だから、お互い元気を出そう・・・」

「マリ・・・そうだな・・オレもいい加減に、しっかりしねぇといけねぇな・・・」

 マリに励まされると、ダイゴは自分の頬を叩いて喝を入れる。

「行くなら早く行かねぇとな。でないとミソラがうるせぇからな・・」

「ミソラさんは、ダイゴのことをとても心配してくれているから・・・」

 愚痴をこぼすダイゴに、マリが微笑みかける。2人は気分を落ち着かせてから、マーロンに向かうのだった。

 

 数日ぶりに姿を見せたダイゴに、ミソラが目つきを鋭くして詰め寄ってきた。

「もうっ!本当に心配したんだからね、ダイゴくん!」

「悪かったよ・・今回はオレが完璧に悪い・・・」

 怒鳴ってくるミソラに、ダイゴが肩を落として答える。

「みんなを心配させた罰よ。今日からしばらくは念入りに仕事に励んでもらうからね。」

「分かった。仕事はちゃんとやる。だからもう勘弁してくれ・・」

 厳しさを見せるミソラに、ダイゴが憮然とした態度で答える。マリとミライが安堵の笑みを浮かべ、ミソラが呆れてため息をつく。

「相変わらず突っ張った態度ね、ダイゴくんは・・・」

「でもダイゴらしさが戻りましたよ・・落ち着いていること、ミソラさんも分かっているんですよね?」

 呟くミソラにマリが笑顔を見せる。

「それは分かってるけど、直してほしい部分でもあるのも間違いない・・」

 不満を口にするミソラ。元気を取り戻したダイゴを見て、マリたちも仕事に身を投じるのだった。

 

 戻ってきた平穏の日々。だがその日常の中でも、不満や苛立ちが湧き起こらないわけではなかった。

 ここ最近強まっていく政治不信。国民との乖離が強まっているにもかかわらず、独自の観点で進めようとする状勢に、ダイゴも苛立ちを感じていた。

「ったく。どいつもこいつも勝手ばかり・・気分が悪くなってくる・・」

「国のため、国民のためといって規制ばっかり・・民主国家から管理国家にしたいのかなぁ・・・?」

 不満を口にするダイゴに、ミライも言葉をかけてきた。

「何もしてねぇのに勝手に犯罪者扱いしてきたなら、もう容赦もクソもあるもんか・・・!」

「そうやって殴れば解決すると思ったら大間違いよ・・」

 愚痴をこぼすダイゴに、ミソラが声をかけてきた。

「少しは言葉で攻めることを学んだらどうなのよ・・いつもいつも突っかかってばかりじゃ、それこそ民主主義の崩壊よ・・」

「話し合えば分かってくれるのか?言葉をかければ聞き入れてくれるってのか?」

 注意するミソラにダイゴが鋭く言葉を返す。

「相手はこっちの言い分をまるで聞きゃしねぇ・・聞く耳すら持ち合わせてねぇんだ・・そんな連中に話し合いなんて、それこそ馬鹿げてるってもんだ・・」

「だからって、暴力に訴えることのほうが馬鹿げてるじゃない・・」

「アイツらが人の話を聞かねぇから、こういう形で分からせるしかなくなるんじゃねぇかよ・・・!」

 苦言を呈するミソラに、ダイゴが苛立ちを膨らませる。対立する2人に、マリが困惑し、ミライも動揺を隠せなくなる。

「明らかに間違ってることを正しいことのように言わないでほしい・・自己満足を押し付けられたくねぇ・・オレはそう考えてるんだ・・・」

 ダイゴは低く告げると、ミソラの横をすり抜けていった。腑に落ちない心境に陥りながらも、ミソラは気持ちを切り替えて仕事に戻った。

 

 昼の山場を乗り越えたところで、マーロンは安寧を取り戻した。仕事をひと区切りさせたダイゴが、休憩室にてため息をついていた。

「やっぱり昼と夜が大変だね。書き入れ時だから・・」

 そこへミライが声をかけてきた。マリも一緒に休憩室にやってきていた。

「やっぱりすごいね、ダイゴは・・どんなことがあっても、みんなのために体を張ってるんだから・・」

「・・結局、オレの考えもエゴなのかもしれねぇな・・・」

 微笑みかけるマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。

「たとえそうであったとしても、ダイゴが悪いとは思わないよ・・どんな形でも、勇気を出すことはいいことなんだよね・・・?」

「これが勇気だとは思えねぇんだけどな・・・」

 弁解するマリに、ダイゴが皮肉を込めた笑みを浮かべる。

「何にしても、オレはオレの安息を手に入れるんだ・・今までも、これからも・・・」

 低く告げるダイゴに、マリが戸惑いを浮かべる。2人のやり取りを見て、ミライは動揺を押し殺していた。

 

 人気のない小さな通り。その道を1人の女子が歩いていた。

 下校途中のその女子を、物陰から見つめる異形の存在があった。

「我慢が・・ならねぇ・・・」

 その影が不気味な声を発する。

「ならねぇ・・もう我慢がならねぇ・・・!」

 いきり立った異形の怪物が、女子に向かって糸を吐き出した。

「キャッ!」

 悲鳴を上げる女子が、その糸に絡め取られていく。糸はさらに女子にまとわりつき、ついには彼女を完全に包み込んだ。

 吐かれた糸によって像のように固まり、動かなくなってしまった。彼女の前に蜘蛛に似た怪物、スパイダーガルヴォルスが降り立つ。

「たまらねぇ・・女がこんな感じに固まるのは気分がいいぜぇ・・・」

 像となった女子を見つめて、スパイダーガルヴォルスが歓喜を膨らませる。

「だが、まだ足りねぇ・・・もっともっと女を固めないと、気が治まらねぇ・・・」

 スパイダーガルヴォルスは男の姿になると、きびすを返して立ち去っていく。この場には像となって動かなくなった女子が取り残されていた。

 こうした事件が多発しており、街中の怪奇性がさらに増していた。

 

 その日の仕事が終わり、ダイゴとマリは帰路についていた。さらにミライが付いてきて、ダイゴに抱きついてきていた。

「ったく、いつまでも引っ付いてきやがって・・」

「だって、ダイゴくんと一緒にいられて、とっても幸せなんだもん♪」

 不満を口にするダイゴだが、ミライは喜びを膨らませて、彼から離れようとしない。

「本当に楽しそうですね、ダイゴとミライさん・・」

「ゴメンね、マリちゃん。気分悪くしちゃったかな・・?」

「オレは楽しくねぇ・・」

 微笑みかけるマリに、ミライが喜びを見せて答え、ダイゴは憮然とした態度を見せる。するとマリが悩ましい面持ちを浮かべてきた。

「本当によかったです・・またこうして、ダイゴと一緒の時間を過ごせて・・・」

「そうだな・・こういうのも悪くねぇのかもしれねぇな・・・」

 マリが投げかけた言葉を聞いて、ダイゴが微笑みかける。

「そろそろ落ち着いた時間を過ごしてぇと思ってたからな・・ホントは、あんまイライラしたくねぇんだよ・・」

「そうですね・・最近事件や不祥事が増えてきているし・・そういうのは、やっぱりいい気分がしてこないよね・・」

「そうだよ、そうだよ♪やっぱりみんながスマイルでなくちゃね♪」

 ダイゴが告げた言葉にマリが微笑み、ミライが笑顔を振りまく。

 このような安らぎのある時間がいつまでも続いてほしい。それがダイゴの1番の願いだった。

 だが家を目前にしたときだった。ダイゴたちの前に、1人の男が現れた。

「コイツはいいぜぇ・・女が2人もいるぜぇ・・・」

 不気味な笑みを浮かべてくる男に、ダイゴが眉をひそめ、マリとミライが不安を覚える。

「けど男もいるな・・・まぁいい・・すぐに八つ裂きにして、その後に女を固めてやるぜぇ・・・!」

 いきり立った男がスパイダーガルヴォルスに変身する。

(ガルヴォルス!?こんなところに!)

 ガルヴォルスの出現にダイゴが緊迫を覚える。異形の怪物の出現に、マリが恐怖を膨らませる。

「怪物・・あの怪物が・・・!」

「おい、逃げるぞ!あんなバケモンにつきやってやることはねぇ!」

 体を震わせるマリ。ダイゴが呼びかけるが、彼女は動こうとしない。

「しっかりしろ!そんなんじゃ、命がいくつあっても足りねぇぞ!」

 ダイゴに強く言われて、マリはようやく我に返る。

「さっさと逃げるぞ!あんなのに構ってやることはねぇ!」

 ダイゴは呼びかけると、マリとミライを連れて逃げ出す。

「このまま逃がすわけねぇだろうが・・・!」

 スパイダーガルヴォルスが不気味な笑みをこぼすと、ダイゴたちを追って飛び出していく。スパイダーガルヴォルスの動きは速く、ダイゴたちとの距離を一気に詰めていく。

 だがそのとき、ダイゴが突然立ち止まり、振り返り様に蹴りを繰り出してきた。

「何っ!?

 不意を突かれたスパイダーガルヴォルスが、顔面に蹴りを叩き込まれて倒れ込む。

「今のうちだ!急げ!」

 ダイゴが再び駆け出し、スパイダーガルヴォルスとの距離を広げていった。

 通りの真ん中の路地に隠れて、ダイゴたちはスパイダーガルヴォルスの追跡を警戒する。

「大丈夫か、マリ、ミライ!?

「ダイゴさん・・・はい、大丈夫です・・」

「あたしも大丈夫!」

 ダイゴの呼びかけにマリとミライが答える。2人の無事を確認してから、ダイゴは通りのほうに視線を戻す。

「おめぇらはここにいろ!オレがアイツの注意を引き付ける!」

「ダイゴ!?ダメ!そんなことしたら、ダイゴが・・!」

 呼びかけるダイゴにマリが反発する。

「そうでもしなきゃアイツに皆殺しにされちまう!いいからここにいろってんだ!」

 ダイゴは怒鳴りかけると、通りに向かって飛び出していった。

「ダイゴ・・・!」

 駆け出していくダイゴに、マリの心は揺れる。

「やっぱり、ここはダイゴの言うとおりにしたほうがいいよ・・でないとダイゴを困らせることに・・・」

「でも、やっぱりダイゴを見捨てて、私たちだけ逃げるなんてできません・・・!」

 ミライが呼びかけるが、マリは聞き入れようとせず、ダイゴを追いかけて飛び出してしまう。

「マリちゃん!」

 ミライも慌ててマリを追いかけていくのだった。

 

 逃亡したダイゴたちを追って暗躍するスパイダーガルヴォルス。彼の前に、戻ってきたダイゴが姿を現した。

「わざわざオレにやられに来たのか?」

「テメェ・・自分が満足するために、勝手なことばかり・・・!」

 あざ笑ってくるスパイダーガルヴォルスに、ダイゴが苛立ちを見せる。

「我慢がならねぇんだよ・・女が固まって動けなくなっていく姿を見ると、気分がよくなって、興奮が湧き上がってくるんだよ・・・!」

「ふざけんな!人間はテメェのおもちゃじゃねぇ!」

 哄笑を上げるスパイダーガルヴォルスに、ダイゴが怒号を上げる。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「テメェのようなヤツがいるから、世の中はよくならねぇんじゃねぇかよ!」

 デーモンガルヴォルスへと変身するダイゴ。鬼気迫る彼の姿に、スパイダーガルヴォルスが緊迫を覚える。

「テメェもガルヴォルスだったか・・だったらつまんねぇこと気にしてねぇで、好きなことやってりゃいいんだよ!」

「それが、自分が好きにしていいと言い張る言い訳か・・・!?

 再び笑みを見せるスパイダーガルヴォルスに、ダイゴが鋭く言いかける。

「そんなことはどうでもいい・・オレはオレの気分がよくなればそれでいいんだよ!」

 いきり立ったスパイダーガルヴォルスがダイゴに飛びかかる。爪を振り下ろすスパイダーガルヴォルスだが、ダイゴに拳を叩きつけられる。

「ぐおっ!」

 痛烈な一撃を受けて、スパイダーガルヴォルスが怯む。怒りを膨らませるダイゴが、スパイダーガルヴォルスを鋭く見据える。

 だがそのとき、スパイダーガルヴォルスが口から糸を吐き出す。その糸に絡め取られて、ダイゴが動きを封じられる。

「く、くそっ!」

 必死に糸を振り払おうとするダイゴだが、彼がもがくほどに糸は絡み付いていく。

「いいザマだなぁ・・男を固めてもいい気がしねぇから、このままズタズタにさせてもらうぜぇ・・・」

 哄笑を上げるスパイダーガルヴォルスが、ダイゴに迫っていく。

「こんなことで、オレはやられるわけにはいかねぇんだよ!」

 全身に力を込めるダイゴ。彼の体から紅いオーラが放出され、取り巻いていた糸を吹き飛ばした。

「何だとっ!?

 糸を打ち破られたことにスパイダーガルヴォルスが驚愕する。肩の力を抜いたダイゴが、具現化した剣を手にする。

「いい加減にしろよ・・こんなくだらねぇことして、恥ずかしいと思わねぇのかよ・・・!?

「ふざけんな!満足するためにやってるんだ!恥ずかしがるなんてことはねぇ!」

 低く告げるダイゴに反発して、スパイダーガルヴォルスが飛びかかる。

「バカヤローが・・・!」

 憤りを口にするダイゴが剣を突き出す。その刀身がスパイダーガルヴォルスの体を貫いた。

 体から鮮血をあふれさせたスパイダーガルヴォルスが絶命し、砂のように崩れ去っていった。霧散する亡骸を見下ろして、ダイゴが歯がゆさを浮かべる。

「そうまでして、身勝手になりてぇのかよ・・・」

 身勝手に振舞うガルヴォルスの言い分に、ダイゴは歯がゆさを募らせていた。憤りを拭えないまま、彼は人間の姿に戻った。

「ガルヴォルスは、どいつもこいつも勝手気ままに人を襲ってるってのか・・オレみてぇのは、ホントに珍しいってことなのか・・・!?

 ガルヴォルスでありながらガルヴォルスと戦っていることに、ダイゴは心を揺さぶられていた。

 何とか気持ちを落ち着けようとしながら、ダイゴは振り返る。

 そのとき、ダイゴは目を見開いた。彼の目の前にはマリの姿があった。

「ダ・・・ダイゴが・・・!?

 ダイゴに対して恐怖をあらわにするマリ。彼女はダイゴがガルヴォルスになる瞬間を目撃していた。

(見られた!?オレがガルヴォルスであるところを・・・!)

 ダイゴも驚愕を隠せなくなる。心を近づけつつあった2人に、大きな溝が生まれるのだった。

 

 

次回

第13話「逃避への拒絶」

 

「やめて!来ないで!」

「あの姿・・前に、見たような気が・・・」

「マリは、完全にオレを拒絶している・・・」

「オレは、いったいどうしたらいいってんだ・・・!?

「久しぶりだね・・ダイゴ・・・」

 

 

作品集

 

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