ガルヴォルスZERO 第11話「From Dusk Till Dawn

 

 

 タケシの攻撃に窮地に追い込まれたアオイ。そんな2人の前に、ダイゴが駆けつけてきた。

「ダイゴ、くん・・あなた・・・!?

「お前か・・このままガルヴォルスの本能に従うのではなかったのか・・?」

 声を荒げるアオイと、彼女への攻撃を中断するタケシ。ダイゴが真剣な面持ちで、タケシを見据えていた。

「オレがどうあるべきなのか、オレがどうするのか、決めるのはオレだ・・アンタでも、他の誰でもねぇ・・・」

「私はお前の行く末を定めたつもりはない。それを選ぶのはお前の本能。理性を超越したお前の本能だ・・」

 決意を告げるダイゴに、タケシが淡々と言葉を返す。

「そんなふざけた答えを出すのはオレじゃねぇ!オレがどうするかはオレが決める!誰だろうと、ふざけたヤツの好き勝手にはオレは従わねぇ!」

「そこまで言い切ってまで愚かな道に走るのか、お前は・・・!?

「愚かだなんて勝手なことをぬかすな!」

 タケシが低く告げた言葉に憤るダイゴ。頬に紋様が浮かび上がった彼の姿が、デーモンガルヴォルスに変化する。

「ダイゴくん・・・!?

 変貌を遂げたダイゴに、アオイが緊迫を覚える。ガルヴォルスの衝動に駆り立てられて、ダイゴが人の心を失って暴走してしまうと思ったのである。

 だがダイゴは落ち着いていた。ガルヴォルスの衝動に振り回されることなく、彼は冷静さを保っていた。

「オレはずっとビビッてた・・見境を失くす自分に・・・ガルヴォルスの力に振り回されて、自分を抑え切れなくなる自分に・・」

 ダイゴが自分の心境を、タケシに向けて語りかける。

「アンタの言うとおり、これはどうしようもねぇことだって諦めかけてた・・・けど、そんな情けねぇオレとはもうおさらばだ・・・!」

 言い放つダイゴが両手を強く握り締める。

「どうしようもねぇ・・決まってることだ・・そんなふざけたことなんてありえねぇんだよ!それを認めちまってるのは、ムリだって諦めてるって証拠だ!」

「何が言いたい・・?」

「オレは諦めねぇ・・心から許せねぇヤツには、とことん向かっていってやる!」

 眉をひそめるタケシに向かって、ダイゴが飛びかかる。彼が繰り出してきた拳を、タケシが左手で受け止める。

「私が許せないか?私に向かって、戦うことを望むというのか・・?」

 タケシが言いかけて、ダイゴを突き飛ばす。距離を取ったダイゴが着地して、タケシを見据える。

「私に敵対しようというのか・・・私の敵として立ちはだかるなら、お前もこの手で葬る!」

 いきり立ったタケシがダイゴに飛びかかる。彼が繰り出してきた両腕を、ダイゴも両手で受け止める。

「邪魔なヤツは始末するか・・上等だ!やれるもんならやってみろ!」

 叫ぶダイゴがタケシに頭突きを叩き込む。頭を打ちつけられて怯むタケシを、ダイゴは鋭い視線を向けてきていた。

 

 ガルヴォルスへの恐怖にさいなまれ、眠り続けていたマリ。だが心身ともに落ち着いてきた彼女は、病室のベットにて目を覚ました。

「マリちゃん・・気が付いたんだね・・よかった・・・」

 目を開けたマリを見て、付き添っていたミライが喜びを見せてきた。

「ミライさん・・私は、いったい・・・?」

「気絶しちゃって、病院に運ばれたんだよ・・・」

 まだ意識がもうろうとしているマリに、ミライが事情を説明する。

「気絶・・私が・・・あっ・・!」

 自分に起きたことを思い返して、マリが再び恐怖を覚える。彼女の脳裏に、自分の前に現れた異形の怪物の姿が蘇ってきた。

「あの怪物・・あんな怪物がいたなんて・・・!?

「マリちゃん、落ち着いて・・もう怖いことなんて、何もないから・・」

 震え出すマリにミライが呼びかける。しかしマリから恐怖が消えない。

「あんなのが、どこかに・・どこかに・・・!」

「大丈夫だから、マリちゃん!もう大丈夫だから!」

 声を荒げるマリに、ミライが必死に呼びかける。2人の大声を聞いて、看護師たちが駆け込んできた。

「どうしました、清水さん!?

 看護師たちに呼びかけられるマリ。悲痛さを抱えたまま、ミライは病室から出されることになった。

(あたしにはこれ以上はムリ・・ダイゴなら、何とかできるかもしれない・・・)

 ミライがダイゴへの信頼を抱く。だが同時に彼女は、彼への想いをも膨らませて、胸を締め付けられるような感覚に襲われる。

(でも、そう思うのはダイゴが好きなあたしには辛いこと・・あたしも、どうしたらいいんだろうね・・・?)

 マリへの心配とダイゴへの想いにさいなまれて、ミライもまた苦悩していた。

 

 傷ついたアオイの前で、激しい攻防を繰り広げるダイゴとタケシ。だが力の差で、ダイゴが徐々に押され始めていた。

「その程度では私を打ち負かすのは不可能だ。ガルヴォルスの本能に従っていたほうが力があったぞ。」

「冗談じゃねぇ・・そんなの、オレの力じゃねぇ・・オレの力でアンタを倒さねぇと、意味がねぇんだ・・・!」

 淡々と言いかけるタケシに、ダイゴが声を振り絞って反発する。

「その意固地な姿には敬服しておこう。だが同時に、その意固地が命取りになる・・」

「アンタに言われたくねぇな・・その間違いを変えようとしねぇで・・・!」

「私が間違っている?間違いをしている者は、自分が正しく周りが間違っていると思い込んでいる。それが過ちであることを気付こうともせずに・・」

「それはアンタだって同じじゃねぇかよ!」

 タケシが告げた言葉に反発して、ダイゴが飛びかかる。だが彼が繰り出した拳は、タケシが出した右手に受け止められる。

「ではお前はどうだ?感情のままにつかみかかり、許せないものにすぐに反旗を翻す。その姿が私とどう違うというのだ?」

「自分のことしか考えてねぇアンタと、オレを一緒にすんな!」

 タケシの言葉に反発して、ダイゴが力を振り絞る。その力がタケシを押していく。

「オレは自分のために、無関係なヤツ、悪気のねぇヤツを苦しめるようなことはしねぇ・・自分勝手なヤツにしか、オレは喧嘩を売るようなことはしねぇ・・むしろ、いいヤツは守ってやりてぇとも思ってる・・・だから!」

 ダイゴが左手に力を込めて、タケシに殴りかかる。その一打を受けて、タケシがふらついて後ずさりをする。

「オレは戦ってやる・・誰だろうと何だろうと、オレたちを脅かすヤツを叩きのめす!」

 ダイゴがタケシに向かって飛びかかる。自身の強い意思と知り合ってきた人たちの支えが、彼の中にあるガルヴォルスの破壊本能を抑え込んで力に変えていた。

「それほどまでに自分を貫こうというならば、私を見事止めてみせろ!」

 言い放つタケシがダイゴに向けて拳を振りかざす。その一撃を体に受けて、ダイゴが怯んで吐血する。

 タケシが蹴りを叩き込んで追い討ちをかける。ダイゴが横転して壁に叩きつけられる。

「どうした!?その程度では私を止めることはできないぞ!」

「くそっ・・マジで、すげぇ力だ・・けど、オレは負けるわけにはいかねぇ・・・!」

 怒鳴りかけるタケシに対し、ダイゴが声と力を振り絞って立ち上がる。

「だがもはやお前に打つ手はない。非常な現実にさいなまれて、朽ち果てるがいい・・・!」

 タケシは低く告げると、具現化した剣を構える。ダイゴも剣を手にするが、体はふらついていて、切っ先も安定していない。

「お前のその強い意思は賞賛しておく・・だがこれまでだ・・・!」

 タケシがダイゴに向けて剣を突き出してきた。

「ダイゴくん!」

 そこへアオイが飛び込み、横からダイゴを突き飛ばした。彼を庇った彼女が、タケシが突き出した剣に体を貫かれた。

 体から鮮血があふれ出し、アオイが力なくひざを付く。

「おい・・・!?

 この瞬間にダイゴは目を疑った。自分を庇ったアオイが、血まみれになって倒れていった。

「よかった・・ダイゴくん・・あなたが、無事で・・・」

「邪魔をしたところで、何も変わらないというのに・・無駄なことを・・・!」

 微笑んで声を振り絞るアオイに、タケシが毒づく。

「テ・・・テメェ!」

 この言葉に激怒したダイゴが力を振り絞り、飛びかかる。彼が突き出した剣が、タケシの左肩を貫いた。

「ぐっ!」

 目を見開いたタケシが、ダイゴの突進に押されて壁に叩きつけられる。

「アオイ!」

 ダイゴがすぐにアオイに駆けつける。彼の姿は人間の姿に戻っていた。

「おい、しっかりしろよ!・・何で、オレなんかのために、こんな・・・!?

「ダイゴくん・・だって、あなたには、あなたの帰りを待っている人がいるじゃない・・・」

 呼びかけるダイゴに、アオイが微笑んで言いかける。彼女の目からはうっすらと涙が浮かび上がってきていた。

「ダイゴくん・・あなたなら、この悲しみを消すことができる・・あなたの真っ直ぐな気持ちが、凶暴となったガルヴォルスからみんなを守ることができる・・私は、そう信じてる・・・」

「勝手なことを言われたって、聞けるわけねぇだろうが・・・!」

「・・私がわざわざ言わなくても、もう十分に分かっているものね・・・」

 声を振り絞るダイゴに、アオイがゆっくりと手を伸ばす。その手をダイゴがおもむろにつかむ。

「あなたを支えてくれている人たちを、あなたも大切にしてあげて・・ダイゴ・・くん・・・」

 そのアオイの手がダイゴの手から滑り落ち、力なく床に落ちた。ダイゴを庇ったアオイが、彼に意思を託して命を落とした。

「アオイ・・・おめぇ・・・!」

 アオイの死に歯がゆさを膨らませるダイゴ。彼は彼女の亡骸をゆっくりと床に横たわらせる。

「これが、アンタのしたいことなのかよ・・・!?

 ダイゴがタケシに向けて鋭い視線を向ける。

「実の妹まで殺してまで、アンタは何をしたいって言うんだよ!?

「アオイを手にかけたことに罪悪感がないわけではない。だがこれが私のすべきことなら、アオイのことはすぐに切り捨てる・・・」

「テメェ!本気でそんなことを!」

 怒りを爆発させたダイゴがタケシに飛びかかる。

「感情的に真っ向から向かってきても、私には通じ・・」

 タケシが低く告げたときだった。強烈な衝撃が彼を襲った。

「何っ!?

 驚愕の声を上げるタケシが大きく突き飛ばされる。ダイゴが繰り出した拳が、タケシの体に叩き込まれた。その速さが一気に速まったため、タケシは捉えることができなかった。

「許さねぇ・・テメェだけは、ゼッテーに許さねぇ!」

 怒号を放つダイゴが畳み掛けて、怯むタケシに連打を叩き込む。反撃することもままならず、タケシが痛烈なダメージを負って吐血する。

(バカな!?ここまで力を飛躍させるとは!しかもこれでもガルヴォルスの本能に取り込まれずにいる!)

 ダイゴの力に脅威を痛感するタケシ。ダイゴが剣を手にして、タケシを鋭く見据える。

「おめぇはアオイに謝ることはできねぇ・・おめぇは死んだら地獄に落ちるからな・・・!」

「まだだ!・・まだ私は、ここで朽ち果てるわけにはいかない・・・!」

 言いかけるダイゴに対し、タケシが声を振り絞る。

「この廃れた世界を塗り替えることが、私に課せられたこと・・・!」

 いきり立った瞬間、タケシは目を見開いた。ダイゴが突き出した剣が、彼の体を貫いていた。

「これだけ思いやりを見せてきている妹を悪く扱ってまで、やらなきゃなんねぇことなんてねぇだろ・・・!」

「・・バカな・・私が・・ここで朽ち果てるなど・・・!」

 悲痛さを込めて鋭く言いかけるダイゴと、絶望を痛感するタケシ。五感が薄れていくことに、タケシは死んでいくのを信じられずにいた。

「もうやめろよ・・これ以上やったって、辛くなるだけだろうが・・いい加減、妹のことだけに気持ちを切り替えろよ・・・」

 声を振り絞るように言いかけるダイゴ。剣が引き抜かれ、タケシが血まみれになりながらその場に倒れ込む。

「このままでは世界は愚かなまま何も変わらない・・お前は、それでもいいのか・・・!?

 必死に声を張り上げるタケシ。だがそれが彼の断末魔となった。

 肉体が崩壊して砂のように崩れ去ったタケシ。風に吹かれていく彼の亡骸を見下ろしながら、ダイゴは人間の姿に戻る。

「オレだって真っ平ゴメンだ・・ふざけたヤツらが好き勝手にするのは・・・けど・・・」

 ダイゴは低く呟きながら、横たわるアオイに歩み寄る。

「けど・・・自分を大切に思ってくれてるヤツを悲しませてまで、そんな意地を貫きてぇとも思わねぇ・・・」

 アオイを抱きかかえると、ダイゴはゆっくりと廃屋を出た。歩いていく彼の目からは、うっすらと涙があふれてきていた。

 

 タケシによって命を落としたアオイの死に、部隊の隊員たちは驚愕を覚えた。歯がゆさを見せるダイゴだが、隊員たちは彼を責めようとはしなかった。

「大野警視から伝言を承っています・・自分が命を落としたときは、部隊を解散し、各々の本来の職務に復帰するように、と・・」

 隊員の1人が、ダイゴや他の隊員たちに告げる。

「しかし、現在もガルヴォルスの暗躍は人々を苦しめている。その悲劇を増やすことはあってはならないこと・・よって、私は今後もガルヴォルス討伐を続けていくつもりです。ただ、これは私個人の見解。みなさんを巻き込むようなものでは・・」

「いえ、自分もこの任務を続けていくつもりです。」

 もう1人、別の隊員が発言してきた。

「人々を脅かす敵がまだいるのに、指をくわえて見ていることなどできません。自分もガルヴォルスと戦います・・」

「自分もお供させてください!」

「自分も戦います!お願いします!」

 次々とガルヴォルスと戦う意思を示す隊員たち。彼らの決意を見て、ダイゴは吐息をひとつつく。

「オレはオレで、勝手にやらせてもらう・・誰かに無理矢理やられるのは嫌いなんでな・・・」

 ダイゴは憮然とした態度を見せると、隊員たちの前から去っていく。隊員たちは彼を止めようとせず、アオイに力を貸してくれたことを感謝して敬礼を送った。

 

 意識を失い、病院で眠っていたマリ。その病室をダイゴは訪れた。

 病室の中にも前にも、ミライもジョージもいなかった。見舞いを終えて帰ったようだった。

 ダイゴはノックしてから病室に入る。病室にはベットで眠るマリしかいなかった。

「マリ・・・」

 自分がマリを追い込んでしまったと思い、ダイゴが自分を責める。

「すまねぇ・・オレが迷ったから、おめぇを追い込んじまったんだな・・・オレがしっかりしてりゃ、おめぇがこんなことにならずに済んだのに・・・」

「自分を責めるのは、ダイゴらしくないよ・・・」

 そのとき、ダイゴは突然声をかけられる。マリが目を覚まし、ダイゴに声をかけてきた。

「マリ・・・!?

「心配かけてゴメンなさい・・まだ怖いところもあるけど、もう大丈夫です・・・」

 目を見開くダイゴに、マリが笑顔を見せる。優しさに満ち足りている普段の彼女が、彼の前にいた。

「帰ってきたのね、ダイゴ・・・よかった・・本当によかった・・・」

「マリ・・・オレは・・オレは・・・」

 喜びを見せてくるマリに、ダイゴは動揺をあらわにする。

「多分、明日には退院できると思いますから、待っていてもらえますか・・・?」

 マリが言葉を投げかけると、ダイゴは憮然とした態度を見せてきた。

「あんまり長く待つのは苦手だ・・早く帰ってこねぇとほっとくぞ・・・」

 悪ぶったことを口にするダイゴ。それが彼の照れ隠しであると察して、マリは笑顔を絶やさなかった。

 

 

次回

第12話「非情の螺旋」

 

「どいつもこいつも勝手ばかり・・気分が悪くなってくる・・」

「少しは言葉で攻めることを学んだらどうなのよ・・」

「どんな形でも、勇気を出すことはいいことなんだよね・・・?」

「ならねぇ・・もう我慢がならねぇ・・・!」

「ダ・・・ダイゴが・・・!?

 

 

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