ガルヴォルスZERO 第9話「暴走」
ガルヴォルスの破壊衝動に駆り立てられて、ダイゴがアオイに飛びかかる。アオイはとっさに横に飛んで、ダイゴの突進をかわす。
「ガルヴォルスの力に振り回されている・・それで凶暴化して、暴走している・・・!」
ダイゴの状態にアオイは緊迫を膨らませる。
「止めないと・・早く止めないと、ダイゴくんは自分を見失う・・・!」
危機感を抱えたまま、アオイがダイゴを見据える。ダイゴがアオイに向かって再び飛びかかってくる。
「やめなさい、ダイゴくん!このままではあなたは!」
呼びかけるアオイだが、ダイゴは彼女を力のままに突き飛ばす。激しく横転したアオイが頭から血を流す。
「ダ・・ダイゴくん・・・やめて・・・!」
声と力を振り絞るアオイに、ダイゴがさらに迫る。彼は彼女に拳を叩き込もうとした。
だがそのとき、ダイゴが振り下ろした拳が突然止まる。彼はアオイに攻撃を加えるのを拒絶しようとしていた。
ガルヴォルスの狂気にさいなまれていたダイゴ。だが彼の人の心はまだ消えていなかった。
「ダイゴくん・・・落ち着いて・・自分を取り戻して・・・!」
狂気と自我に苦悩するダイゴに、アオイが呼びかける。だがダイゴからあふれ出る紅いオーラは止まらない。
「くそっ!」
平穏を取り戻すことができず、ダイゴはたまらずアオイの前から走り出してしまう。
「ダイゴくん・・・!」
ダイゴを呼び止めようとするアオイだが、体に力が入らず動くことができない。彼女は遅れて駆けつけた隊員たちに運ばれて、頭の傷の手当を受けることになった。
ダイゴの暴走の一部始終を、男は遠くから見ていた。
(これが、お前の本能が出した答えか・・・)
暴走を続けるダイゴの姿を見て、男はひとつ吐息をつく。
(やはり獣となった者の辿る道は、暴走と凶暴の一途しかないということか・・・)
ガルヴォルスの宿命を改めて実感して、男は歩き出す。彼もまた、自身の本能に従って行動を続けていた。
部隊の救護班に助けられたアオイが、医務室のベットの上で目を覚ました。頭の傷は浅く、しばらくすれば治るものだった。
「気が付かれましたか、警視・・」
「私は・・・ダイゴくん!・・ダイゴくんはどうした!?」
安堵を見せる医師に対して大声を上げるアオイ。その途端、彼女は頭の痛みを覚えて顔を歪める。
「まだ動いてはいけません・・傷は浅いとはいえ、頭部の負傷です・・」
「す、すまない・・・だが、こうしている間にも、ダイゴくんは無関係な人を襲っているかもしれない・・」
医師に呼びかけられるアオイが深刻な面持ちを浮かべる。彼女は自分のことよりも、ダイゴのことが気がかりになっていた。
「現在、隊員たちが行方を追っています・・せめて連絡があるまでは、休んでいてください・・・」
「あぁ・・・それと、深追いと交戦は避けるようにも通達してあるか・・・?」
「みなさんなら、あなたの考えをご存知のはずですよね・・・?」
呼びかけるアオイに逆に医師が言いかける。その言葉を受けて、アオイが苦笑を浮かべる。
「警視は本当に優しいですね・・自分のことより、みなさんのことを心配しておられる・・」
「これは私個人の戦いであるはずだった・・それなのに私についてきてくれた・・私はみんなに迷惑をかけてばかりだ・・・」
「いえ、警視は私たちに無理強いはしませんでした。拒否してもとがめることはないと、言ってくれました・・ですが私たちは、世界の平和のため、警視の恩に報いるため、この危険な戦いに身を投じる決意をしたのです・・」
謝罪の言葉をかけるアオイに、医師が切実に語りかける。その言葉を受けて、アオイが戸惑いを覚える。
「本当にすまない・・私のために・・本当に・・・」
「本当に優しい方です、あなたは・・その優しさは、ダイゴくんにも向けられている・・・」
「彼も被害者だ・・ガルヴォルスの衝動に振り回されて、人と怪物の狭間で揺れ動いている・・・救える命と心があるなら、救わないわけにはいかない・・・」
会話を弾ませて、アオイが微笑みかける。
「今はお休みください、警視・・連絡が来たらすぐに伝えます・・」
「そうさせてもらうわ・・・」
医師に促されて、アオイは再びベットに横になった。
「ダイゴはどこにいるんですか、ジョージさん!?」
ミライに問い詰められて、ジョージが慌しさを浮かべる。ダイゴが帰ってこないことを危惧して、ミライはマリとともにジョージから話を聞きに来ていた。
「それが上司から送るように言われたんだが、途中でアイツいきなりどっかに飛び出して行っちまって・・」
「追いかけてよ!追いかけて連れ戻せばいいじゃないの!」
「追いかけたって!けど見失って、あれから全くの音沙汰がねぇんだからよ!」
抗議の声を上げるミライに、ジョージもたまらず言い返す。そこへ沈黙していたマリが、ジョージに声をかけた。
「ジョージさんの上官に会わせてもらえませんか?・・その人なら、ダイゴのことを知っているはずです・・・」
「オレも連絡をしてきたんだが・・情報は外部に漏らせない、の一点張りでなぁ・・」
マリの呼びかけに対し、ジョージが肩を落とす。しかしマリは納得しない。
「それで簡単に諦めるんですか?ジョージさんも、ダイゴのことが心配ではないのですか?」
「それは、まぁ・・・」
マリに言い寄られて、ジョージが唖然となる。
「だったら見つけるまで探して、思い当たる人がいるならきちんと話を聞く。そこまできちんとやってください・・」
「分かった!分かったから!マリちゃんもミライちゃんも落ち着いてくれ!」
マリに言い寄られて、ジョージが気まずさを浮かべる。ミライも彼をじっと睨みつけている。
「くれぐれもこのことは内緒にしてくれよ・・最悪、首が飛ぶくらいじゃすまねぇからよ・・」
「ありがとうね、ジョージさん♪恩に着るよ♪」
憮然とした態度で言いかけるジョージに、ミライが笑顔を見せる。ダイゴに会うための一歩が踏み出せたことに、マリも笑顔を見せた。
ダイゴ捜索を部隊に任せていたアオイ。彼女が再び目を覚ましたときも、ダイゴの行方は分からないままだった。
「思っていたより眠っていたのか、眠れなかったのか、分からない気分ね・・・」
自分の状態に対して苦笑を浮かべるアオイ。彼女は隊員たちに向けて連絡を取ろうとした。
“本部!本部!佐々木ダイゴを発見しました!しかし・・!”
隊員からの連絡が飛び込んできた。だが彼らは切羽詰った様子だった。
「大野だ!どうした!?」
“ダイゴくんが暴走して、我々に襲撃を・・!”
「ダイゴくん・・・!」
隊員からの報告に、アオイが緊迫を覚える。
「すぐに退避して!決して彼を刺激しないで!私もすぐに行くから、それまで頑張って!」
アオイは隊員たちに呼びかけると、医務室を飛び出して車を走らせた。
(ダイゴくん、自分を見失わないで・・人の心を失わないで・・・!)
ダイゴの無事を願って、アオイは車のスピードを上げていった。
マリとミライに押し切られたジョージは、渋々車でアオイのところに向かうことになった。
「さっきも言ったが、マジで内緒にしてくれよな・・単純に考えても、一般人をあんまり危険なとこに連れて行きたくないんだよ・・」
「覚悟の上です。それでもダイゴが心配なんです・・」
愚痴をこぼすジョージに、マリが真剣な面持ちで言いかける。
「分かったって・・その代わり、オレの言うことはちゃんと聞いてくれよな・・」
「分かっています・・」
ジョージの言葉にマリが答え、ミライが頷く。彼らを乗せた車は、アオイの所属する部署にもうすぐたどり着こうとしていた。
そのとき、突如轟音と衝撃が飛び込み、ジョージがたまらずブレーキをかける。
「イタッ!・・もう、急にブレーキかけないでよ・・・」
その反動で顔をぶつけて、ミライがうめく。
「あの近くに、ダイゴが・・・!?」
マリがいきなり車から飛び出していく。彼女は近くにダイゴがいるのではないかと思ったのである。
「あっ!待て、マリちゃん!」
「マリちゃん!」
声を荒げるジョージとミライ。ミライもマリを追って、続いて車から飛び出した。
(ダイゴ、どこにいるの!?・・ダイゴ・・・!)
ひたすらダイゴに会えることをひたすら願うマリ。彼女は森の中の小さな広場で足を止めた。
そこにいたのは悪魔の怪物、デーモンガルヴォルスとなったダイゴだった。だがマリはその異形の姿に恐怖を覚え。それがダイゴであることなど知る由もなかった。
「かい・・ぶつ!?・・そんなのが・・・!?」
恐怖のあまりに体を震わせるマリ。
「イヤ・・イヤアッ!」
しりもちをついた瞬間、マリが悲鳴を上げる。彼女は膨らんでいく恐怖にさいなまれて、完全に自分を見失っていた。
ガルヴォルスの本能に駆り立てられていたダイゴは、怯えているマリに攻撃しようとした。そこへジョージが飛び込み、マリを抱えて逃げ出す。
「大丈夫か!?ケガはないか!?」
「ジョージさん・・・はい、大丈夫です・・・!」
ジョージの呼びかけにマリが頷く。だが2人の前で、ダイゴが咆哮を上げていた。
「この状況、とても大丈夫とは言えないな・・・!」
毒づくジョージがマリを連れて走り出す。暴走するダイゴが2人を追いかける。
そのとき、ダイゴが振り上げた右手から火花が散った。アオイが車を走らせて、彼に向けて発砲したのだ。
「逃げなさい!ここは私が食い止めるわ!」
「警視!」
アオイの声にジョージが驚きを見せる。アオイは車から降りて、ダイゴに銃口を向ける。
「小林警部は2人をお願いします!急いで!」
「分かりました!・・マリちゃん、ミライちゃん、逃げるぞ!」
アオイの呼びかけを受けて、ジョージがマリと、遅れてやってきたミライを連れて逃げ出す。3人の姿が見えなくなったところで、アオイがダイゴに声をかける。
「落ち着きなさい、ダイゴくん・・あなた、自分が何をしているのか分かっているの・・・?」
アオイの呼び声に対し、ダイゴは咆哮をあげるばかりだった。
「あなた、もう自分を見失ってしまったというの・・・!?」
不安を覚えるアオイに向かって、ダイゴが飛びかかる。アオイは横に飛んで、ダイゴの突進をかわす。
「マリさんや小林警部に襲い掛かって、あなたは満足なの!?」
アオイがひたすらダイゴに呼びかける。するとダイゴが攻め切れなくなり、顔を歪める。
(私、ダイゴを守ろうとしている・・ここまで守りたいと思うようになるなんて・・・)
アオイの中に、ダイゴへの一途な想いが芽生えてきていた。
(私の中に、憎しみよりも守りたい気持ちのほうが強くなっている・・・ダイゴの心を救おうとしている・・・だから・・・)
「あなたの心が完全に消える前に、私があなたを討つ!」
意を決したアオイが、ダイゴに銃を向ける。
「やめなさい、ダイゴくん!目を覚ましなさい!」
アオイが呼びかけるが、ダイゴが絶叫を上げながら拳を振り下ろす。その一打はアオイの目の前の地面に当たったが、その衝撃で彼女は突き飛ばされる。
「ぐっ!・・・やめなさい・・ダイゴくん・・・!」
声を振り絞るアオイ。彼女の声が耳に届き、ダイゴが苦悶の表情を浮かべる。
「あなたがしっかりしなければ、私があなたを仕留めなければならなくなる・・・!」
「これはヤツが選んだ選択だ。」
そこへ声がかかり、アオイが振り向く。ドラゴンガルヴォルスが姿を見せていた。
「ガルヴォルスとしての本能を、感情のままに受け入れた。ヤツが自ら招いた答えと業というものだ・・」
「お前・・ダイゴくんを暴走させたのはあなたね!」
淡々と言いかけるドラゴンガルヴォルスに、アオイが銃口を向ける。
「言っただろう。これはヤツの答えだと。私は選択を迫っただけだ。」
「ふざけないで!そうやって人の心を、人の命を弄んで!・・私の家族も・・・!」
「違う。お前の親の死は己の愚かさが招いた末路、自業自得だ・・」
ドラゴンガルヴォルスが口にした言葉に、アオイが耳を疑う。
「何を言っている!?・・そんなでまかせ・・・!?」
「でまかせではない。なぜなら・・」
声を荒げるアオイにドラゴンガルヴォルスが答えようとしたときだった。ダイゴが暴走に陥ったまま、ドラゴンガルヴォルスに飛びかかる。
「私に牙を向けるのか・・・」
ダイゴが振りかざしてきた拳を、ドラゴンガルヴォルスは跳躍してかわす。
「だが獣同然となったお前では、私を仕留めることは不可能だ・・・!」
目つきを鋭くして、ドラゴンガルヴォルスがダイゴに飛びかかる。飛び込んできた拳を再びかわして、ドラゴンガルヴォルスがダイゴの腹部に打撃を叩き込む。
「ぐはっ!」
痛恨の一撃を受けて、ダイゴがその場にうずくまる。意識を保てなくなった彼は、その場に倒れて動かなくなり、人間の姿に戻る。
「目が覚めるまでは、大人しくしていることだろう・・今のヤツは獣同然だ。暴れ出す前に拘束しておくことだな・・」
「話をはぐらかさないで!私の両親がどうしたっていうの!?」
力を抜いて言いかけるドラゴンガルヴォルスに、アオイが怒鳴りかける。
「そうだったな・・あの2人は愚か者でしかなかった。なぜなら・・」
語りかけるドラゴンガルヴォルスが、人間の姿に戻った。その姿にアオイは目を疑った。
ガルヴォルスの姿から元に戻ったその男は、両親が殺された事件の際に消息が不明になっていたアオイの兄、大野タケシだった。
「兄さん!?・・・タケシ兄さん・・・!?」
「なぜなら、私を息子として、家族として見ていなかったからだ・・・」
タケシの言葉にアオイが愕然となる。
「ヤツらは私を自分たちの収益のための駒としか見ていなかった。お前に関してはどう思っていたかは知らないが、おそらく醜悪な姿勢を悟られないようにしていたのだろう・・」
「そんな・・そんなバカなこと、あるはずないでしょう!?父さんと母さんが、他人をそんなふうに見るなんてありえない!まして兄さんにそんなこと・・!」
「そう見えないように振舞っていただけなのだろう・・お前が心から慕ってきたあの2人は、我々にとって忌むべき存在だったのだ・・」
淡々と語りかけるタケシに、アオイが愕然となる。彼女は彼の言葉を信じることができないでいた。
「でたらめを言わないで・・そうやって私の意思を揺るがそうとしても・・・!」
「信じようと信じまいと、それが事実だ・・その愚かさに憎悪を抱いたために、私はあの2人を葬った・・私のガルヴォルスの力で・・・」
必死に否定しようとするアオイに、タケシが顔色を変えずに語りかける。
「その男はひとまずお前に預ける。だがすぐに対処法を遂行しなければ、お前たちは皆殺しになる・・・」
「待って、兄さん!・・行かないで、兄さん!」
歩き出すタケシは、アオイの呼び止めも聞かずに歩き去ってしまった。
「兄さん・・・」
兄の変貌に絶望感を膨らませていくアオイ。ダイゴの暴走と相まって、彼女の心は大きく揺れ動いていた。
次回
「オレが・・こんなくだらねぇことに怖がるなんて・・・」
「自分の気持ち次第で、あなたは人にも悪魔にもなれる・・・」
「アイツらからこれ以上心配されるのは、いい気分じゃねぇからな・・・」
「あなただけに抱え込ませない・・・私も、迷いを捨てる・・・!」