ガルヴォルスZERO 第8話「紅い戦慄」

 

 

 突如変貌を遂げたダイゴ。彼の体から紅いエネルギーの奔流があふれ、狂気が満ちあふれてきていた。

「何だ、この力は・・・まさか・・・!?

 この変貌にドラゴンガルヴォルスが緊迫を覚える。ダイゴが彼に鋭い視線を向けてくる。

「この目つき・・・間違いない・・暴走している・・・」

 警戒心を抱えたまま、ドラゴンガルヴォルスが言いかける。目を見開いたダイゴが、ドラゴンガルヴォルスに向かって飛びかかる。

 紙一重で回避したと思ったドラゴンガルヴォルスだが、ダイゴの攻撃は格段に速くなっており、回避することができずに打撃を受けてしまう。

「何っ!?

 驚愕と同時に激痛を覚えるドラゴンガルヴォルス。怯んだ彼に向けて、ダイゴが蹴りを繰り出してきた。

 ドラゴンガルヴォルスはとっさに飛び退いて、ダイゴの蹴りをかわす。後退するドラゴンガルヴォルスに、ダイゴが追い討ちを仕掛けてくる。

「見境をなくしている・・・血迷ったか・・・!」

 いきり立ったドラゴンガルヴォルスがダイゴを迎え撃つ。飛んできた打撃を紙一重でかわすと、ドラゴンガルヴォルスがダイゴに体に打撃を叩き込む。

「ぐっ!」

 痛烈な攻撃に耐えられず、ダイゴがその場にうずくまる。力を発揮することができなくなり、彼の姿が人間に戻る。

「・・・この男も、ガルヴォルスの力に飲み込まれようとしている・・・」

 気絶して動かなくなっているダイゴを見下ろして、ドラゴンガルヴォルスが呟きかける。

「とにかく連れて行こう・・この男の真意と行く末を確かめなければ・・・」

「そこまでよ!」

 ドラゴンガルヴォルスがダイゴを連れて行こうとしたとき、屋上にアオイが駆けつけてきた。アオイはドラゴンガルヴォルスに対して銃を構える。

「今度は逃がさないわ・・ダイゴくんからすぐに離れなさい!」

「またお前か・・そんなものが通用しないことがまだ分からないようだな・・」

 呼びかけるアオイに、ドラゴンガルヴォルスが冷徹に告げる。しかしアオイはドラゴンガルヴォルスから銃口を外さない。

「これ以上、お前の好き勝手にさせるわけにはいかない!必ずお前の息の根を止めてやる、ガルヴォルス!」

「愚かな・・どちらが愚かな道を進んでいるのか、まだ分かっていないようだな・・・」

 鋭く言い放つアオイに言い返すと、ドラゴンガルヴォルスがダイゴを蹴り上げて受け止める。

「この男は人とガルヴォルスの間に立たされている。いずれ理性を失くし、暴徒と化すだろう。そうなれば、お前はこの男も手にかける決意を固めるだろう・・」

「ダイゴくんが・・・まさか・・・!?

 ドラゴンガルヴォルスの言葉に困惑を覚え、アオイがダイゴに目を向ける。

「その真意を私は確かめる・・お前もガルヴォルスの情報を得ている者だ。どうすべきか、よく考えることだな・・」

「ふざけたことを!ダイゴくんを放しなさい!」

 言いかけるドラゴンガルヴォルスに向けて、アオイが発砲する。だがその弾丸はドラゴンガルヴォルスに傷を付けることもできない。

「お前の良識だけは敬意を示しておく。考え直すことだな。」

 ドラゴンガルヴォルスはダイゴを連れて、屋上から飛び降りる。彼は地上に着地すると、そのまま加速して去っていった。

「ダイゴくん!」

 アオイが銃を構えるが、ドラゴンガルヴォルスの姿は見えなくなってしまった。彼女は即座に無線機を取り出して、隊員たちに呼びかける。

「すぐにあのガルヴォルスを追って!でもあくまで追跡だけ!攻撃は絶対にしないように!」

 隊員への指示を出すと、アオイもダイゴを追って駆け出していった。

 

 一夜が過ぎてもダイゴが戻らず、マリもミライも不安を募らせていた。仕事の手が覚束なくなっている2人に、ミソラが声をかけてきた。

「ダイゴのことが心配なのは分かるけど、今は仕事中。こうして仕事の場に出ている以上は集中して。」

「それはどうなんだけど・・どうにも割り切れなくて・・・」

 ミソラの注意を受けて、ミライが苦笑いを見せる。それを見てミソラがため息をつく。

「ダイゴくんがいつもあの調子だってこと、ミライも分かってるでしょう?またいつもの調子で、ジョージさんに引っ張られて帰ってくるって・・」

「そうですね・・・ダイゴなら、大丈夫ですよね、きっと・・・」

 ミライを励ますミソラに答えたのはマリだった。

「さ、みんな仕事に集中して。お客様がお待ちかねよ・・」

 ミソラの呼びかけを受けて、ウェイトレスが仕事に専念する。マリもミライもダイゴのことを気にかけながらも、仕事に戻るのだった。

 

 薄暗い地下の部屋で、ダイゴは意識を取り戻した。起き上がろうとしたところで体が痛みを訴え、彼は顔を歪める。

「ぐっ!・・オ、オレは・・・!?

「気がついたか・・やはりガルヴォルス。回復が早いな・・」

 うめいたところで聞き覚えのある声を耳にして、ダイゴが緊迫を覚える。彼が振り向いた先には男が立っていた。

「おめぇ・・・!」

「今は戦うつもりはない。それに今のお前は、まだ戦えるほどに回復してはいない・・」

 目つきを鋭くするダイゴに、男が淡々と言いかける。しかしダイゴは警戒を絶やさない。

「お前はガルヴォルスの力に溺れ、暴走を犯した。そんなお前を、私が気絶させてここまで連れてきたのだ・・」

「オレを連れてきた!?・・何を企んでんだ!?オレをどうしようってんだ!?

 語りかける男に、ダイゴが憤りを膨らませながら言い放つ。

「私は特に、お前をどうしようというつもりはない・・どうするかと聞かれるならば、お前に選択を迫っている・・」

「選択・・・!?

 男の言葉にダイゴが眉をひそめる。

「もう1度言うが、お前はガルヴォルスの力に飲み込まれようとしている・・このまま感情のままに力を使えば、ガルヴォルスの本能に完全に飲み込まれ、お前は人の心を失うだろう・・」

「オレが心を失う!?・・・そんなバカな・・・!?

 男の言葉に対してダイゴが拒絶をあらわにする。

「もはやお前には選択肢も、迷う時間もない・・力を封じて自分を抑えるか、ガルヴォルスの本能に従うか・・」

 男が突きつける疑問に、ダイゴの心が揺れる。

「どちらを選ぶか、その本能で決めろ・・・」

「オレの、本能・・・!?

 男の言葉に完全に揺さぶられるダイゴ。自分の中にある狂気に恐怖して、彼は体を震わせる。

「オレ、マジでどうなっちまうんだ・・・体だけじゃなく、心までバケモンに・・・!?

「気持ちを偽ったところで、自分にとっては何の意味もない。己の本当の意思を見せつけろ・・」

 愕然となるダイゴに告げると、男は振り返って部屋を去っていった。自分への恐怖を払拭できず、ダイゴは困惑したままになっていた。

 

 ダイゴと男の行方を必死に追うアオイ。だが彼女も部隊もダイゴの居場所を見つけることができなかった。

(まずいわね・・もしかしたら、ダイゴくんがガルヴォルスの力に囚われているかもしれない・・慎重に判断しないと・・・)

 次第に危機感を募らせていくアオイ。同時に彼女は、男に対する憎悪を膨らませていた。

(絶対に許しておかない・・必ずこの手で・・・!)

 様々な思いを宿して、ガルヴォルス討伐の決意を強めるアオイ。駆け込んできた隊員に、彼女は呼びかける。

「私も捜索に出るわ。一刻も早くダイゴくんを探さないと・・」

「いけません。警視に何かあれば・・」

「今は猫の手も借りたい状況よ。最悪なのは、ガルヴォルスの暴走のために、無関係な人々が傷つくこと・・・」

 当惑を見せる隊員に言いかけると、アオイも行動を開始する。彼女は自分の車に乗り、走り去っていった。

 彼女が向かったのはマーロンだった。彼女はダイゴがマーロンで働いていることも知っていた。何事もなかったかのように戻っているのではないかと思ったが、店内にダイゴの姿は見当たらなかった。

「おかしな期待はするものではないわね・・・」

 車から降りたアオイが肩を落とす。彼女が再び車に乗ろうとしたときだった。

「あの・・・」

 そこへ声をかけてきたのはマリだった。彼女はマーロンを訪れたアオイを気にして声をかけたのである。

「ゴメンなさい・・立ち寄ろうかと思ったけど、また次にするわ・・」

「もしかして、ダイゴの知り合いでしょうか・・・?」

 言い訳をして去ろうとしたアオイに、マリが深刻な面持ちで訊ねる。その言葉にアオイが眉をひそめる。

「ダイゴ、なかなか帰ってこなくて・・何かあったのではないかと心配してしまって・・・」

「そうだったのですか・・・大丈夫ですよ・・彼は強いですから・・・」

 不安を見せるマリに、アオイが微笑んで答える。しかしマリの不安は簡単には消えなかった。

「もし見つけたらすぐにこちらに連れてきます・・そのときにでもお茶を・・」

「ありがとうございます・・ダイゴのこと、よろしくお願いしますね・・・」

「私は大野アオイ。あなたは・・?」

「清水マリです・・よろしくお願いします・・・」

 自己紹介をすると、アオイは改めて車に乗り込んだ。彼女はマリに小さく頷くと、ダイゴ捜索のために走り出した。

(なぜ見ず知らずの人に、あそこまで親しげに・・・ダイゴくんが働いている店の仕事仲間。それだけなのに・・・)

 マリと対話した自分の行為に、アオイは疑念を抱く。常に相手とは一歩距離を取って対話する。民間人でも顔見知りでも上官でも、その姿勢を崩さない。それが刑事としての気構えであり、彼女の心情でもある。

(何かが変わっている・・私の中にある何かが・・・)

 膨らんでくる疑念を胸に秘めて、アオイは道を進んでいく。その途中、車に内蔵されている無線から通信が入る。

“佐々木ダイゴを発見しました・・・ですが・・・!”

「発見した・・・どうした・・・!?

“ガルヴォルスとなって暴走しています!”

 隊員の言葉にアオイが緊迫を覚える。彼女が恐れていた事態が起こってしまったのである。

 

 それは少し前にさかのぼる。

 男の言葉に苦悩したまま、ダイゴは地下の部屋を脱出した。男が追跡する気配を感じないまま、ダイゴは地上に出た。

 彼が出たのは廃工場だった。先ほどの部屋は、この廃工場の地下の一室だった。

「アイツを叩き潰してぇのもあるが・・今はこんな面倒な状況から抜け出すのが先決だ・・・」

 もやもやした気分を払拭しようと、ダイゴは歩き出そうとした。

 そのとき、ダイゴは奇妙な気配を感じ取った。それは猛威を振るうガルヴォルスの気配だった。

(この近くにいるのか・・アイツのじゃねぇ・・他の誰かだ・・・)

 ダイゴは周囲を見回して、その気配の行方を探る。彼はいつでもガルヴォルスになれるように、意識を集中していた。

 そんな彼の前に、1人の青年が現れた。薄汚れた風貌の長身の青年だった。

「こんなところで獲物が見つかるとは・・・」

 不気味な哄笑をあげる青年の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。その変化にダイゴが緊迫を覚える。

「徹底的に味わってやるぞ!」

 叫ぶ青年の姿が狼に似た怪物へと変身する。

「やっぱガルヴォルスだったか・・・!」

 いきり立ったダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。

「ほう?お前もオレと同じだったか。だったら思う存分に楽しんじゃえばいいじゃん!」

 哄笑を上げるウルフガルヴォルスが、咆哮をあげて飛びかかる。ダイゴが拳を振りかざすが、ウルフガルヴォルスは素早い動きでかわす。

「どうした!?図体と同じでのろいな!」

 ウルフガルヴォルスが哄笑をあげて、ダイゴの周囲を素早く動いていく。

「ちょこまか動きやがって!真正面からかかってこいよ!」

「文句がいいたいなら、オレを捕まえてからにするんだな!」

 言い放つダイゴだが、ウルフガルヴォルスは挑発を返すばかりだった。彼が振りかざす爪が、ダイゴの体を切りつけていく。

「ぐあっ!」

 切られた痛みにダイゴがうめく。ウルフガルヴォルスの動きを見切ろうとするダイゴだが、その速さは目で捉えられるものではなかった。

「それじゃそろそろ楽しませてもらうぜ!」

 言い放つウルフガルヴォルスがダイゴに飛びかかる。回避がままならないダイゴはウルフガルヴォルスに飛びつかれ、鋭い牙で噛み付かれる。

「ぐっ!こ、このっ!」

 激痛を覚えるダイゴがウルフガルヴォルスに打撃を叩き込む。その一撃を受けて、ウルフガルヴォルスがうめいて後ずさりする。

「どんなに速くても、つかみかかったら速さもクソもねぇよな!」

「やってくれるじゃないか・・だったらこのままズタズタにしてやるよ!」

 言い放つダイゴに言葉を返すと、ウルフガルヴォルスが再び素早く動く。速さを伴っての爪の攻撃に、ダイゴは翻弄されていく。

(こんなことで、オレがやられるわけにはいかねぇ・・オレはこんなムチャクチャなことが許せなくて、いつも突っかかってきた・・そうでもしねぇと何も変わらないから・・・だから!)

 不条理への怒りを膨らませたダイゴが、全身に力を込める。激情に駆られた彼の体から紅いオーラがあふれてくる。

「な、何だ・・!?

 この変化にウルフガルヴォルスが緊張感を覚える。ダイゴが拳を強く握り締めて、ウルフガルヴォルスに鋭い視線を向けていた。

「何だか知らないけど、そんなこけおどしはオレには通用・・!」

 ウルフガルヴォルスが言い放ったときだった。押し寄せてきた衝撃波によって、ウルフガルヴォルスの左腕が吹き飛んだ。

「なっ・・!?

 突然のことに一瞬何が起こったのか分からなくなったウルフガルヴォルス。次の瞬間、彼は左腕に激痛を覚えて、倒れて悶絶する。

「バカな!?・・こんな簡単に、ここまで追い詰められるとは・・・!?

 吹き飛んだ腕を押さえて、ウルフガルヴォルスがうめく。ダイゴが目つきを鋭くしたまま、ウルフガルヴォルスに歩み寄る。

 殺気と狂気に満ちあふれたダイゴに、ウルフガルヴォルスは恐怖を感じていた。

「来るな・・近づくな・・・!」

 声も体も震わせるウルフガルヴォルスだが、ダイゴは敵意をむき出しにしたままだった。

「や、やめてくれ!」

 逃走を試みるウルフガルヴォルスに、ダイゴが素早く飛びかかる。彼が突き出した拳が、ウルフガルヴォルスの背中を突き破った。

「がはっ!」

 激痛を覚えるウルフガルヴォルスが、鮮血をまき散らしながら倒れる。致命傷を負った彼は、その場で動けなくなり事切れる。

 敵を消滅へと追いやったダイゴ。だが彼の殺気と狂気は治まらず、逆に力をあふれさせていた。

 そこへガルヴォルスの出現の知らせを受けたアオイが駆けつけてきた。

「ダイゴくん、あなた・・・!?

 異変を引き起こしているダイゴの姿を目の当たりにして、アオイは息を呑む。振り返ってきたダイゴが、アオイに鋭い視線を向けてきた。

「・・・やめなさい、ダイゴくん・・・落ち着きなさい・・・!」

 アオイが声を振り絞って呼びかけるが、ダイゴは殺気と狂気を拭おうとせず、敵意をむき出しにする。

「ダイゴくん!」

 声を上げるアオイに向けて、ダイゴが飛びかかる。ガルヴォルスの破壊衝動に駆り立てられて、彼は今自分を見失っていた。

 

 

次回

第9話「暴走」

 

「やめなさい、ダイゴくん!目を覚ましなさい!」

「かい・・ぶつ!?・・そんなのが・・・!?

「これが、お前の本能が出した答えか・・・」

「私の中に、憎しみよりも守りたい気持ちのほうが強くなっている・・・」

「あなたの心が完全に消える前に、私があなたを討つ!」

 

 

作品集

 

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