ガルヴォルスZERO 第7話「地獄の業火」 

 

 

 ドラゴンガルヴォルスの攻撃を受けて、ダイゴは重傷を負ってしまった。だがアオイの部隊の救護班からの治療により、彼は一命をとりとめた。

「目が覚めたのね・・よかったわ・・・」

「ここは・・・?」

 安堵を見せてくるアオイに、ダイゴが当惑を見せる。

「オレはアイツと戦って・・・アイツはどうなった!?

「逃げられたわ・・止めることもできなかった・・・絶対に許しておけない相手だったのに・・・」

 声を荒げるダイゴに、アオイが沈痛の面持ちで答える。彼女の語気には、ドラゴンガルヴォルスに対する憎悪も若干込められていた。

「どういうことなんだ?そんなにアイツが許せねぇのか・・?」

 ダイゴが眉をひそめてアオイに問いかける。しばし沈黙するが、アオイはその問いに対して語りだした。

「あのガルヴォルスなのよ・・私の家族を殺したのは・・・」

「何だと・・・!?

 アオイのこの言葉にダイゴが息を呑む。

「私も平凡に過ごしていた女だった・・でも突然あのガルヴォルスが現れて、両親は殺されて、お兄さんは行方不明になった・・・どこかで生きているかもしれないけど、殺されている可能性のほうが高いわ・・」

「おめぇに、そんなことがあったのか・・だからあんなにガルヴォルスを憎んでたってわけか・・」

 アオイの心境を理解して、ダイゴが深刻な面持ちを浮かべる。

「ガルヴォルス全てが悪いわけではない・・あなたのような人もいるし・・・でもガルヴォルスの多くは、私利私欲に人の命を奪っている。それは決して許されないこと・・・」

「それは人間も同じじゃねぇのか?・・人間も好き勝手にしてるヤツなんか五万といるぞ・・」

 語りかけるアオイに対して、ダイゴが憮然とした態度を見せる。

「それは分かるわ・・この世の中には、確実に間違っているはずなのに正しいことにされていることがたくさんあるのよ・・あなたはそれにとことんつかみかかってきた・・」

「そうだ・・何であんなムチャクチャなことをしてるヤツが何の反発も受けねぇのか、とても理解できなかった・・それが現実なら、オレはそんな現実ですら認めたくねぇ・・・!」

「それは分かってる・・私はあなたのことも理解しているわ・・」

 憤りを見せるダイゴに、アオイが切実に呼びかける。

「あなたの心に一切の偽りがない・・それがあなたの真実なのよ・・・」

「何言ってやがる・・真実なんてひとつじゃないのか・・・?」

「今ではもはや真実はひとつではなくなっている・・あなたの中にも、私の中にもある・・・」

 アオイの言葉にダイゴが困惑を覚える。

「人の真実は人それぞれなの・・勝負事は、どうすれば勝てるようになるかは覚えられるけど、どっちが正しいなんて全然覚えられない・・結局は自分がよければそれでよくなってくる・・」

「そんな真実真っ平だ!自分のために他人を平気で蹴落とすやり方なんて、許されるわけがねぇ!」

 アオイの見解に反発するダイゴ。

 彼は心から許せないものに対して反発し続けてきた。その考えは昔も今も変わらない。それがダイゴの全てとなっていた。

「あなたがそれでいいなら、その気持ちを曲げないで・・でもこれは忘れないで。自分も反発されることを。そして、自分を見失わないように・・ガルヴォルスの破壊衝動に囚われないように・・」

「分かってる!・・そんなこと、分かってる・・・!」

 アオイの忠告に歯がゆさを見せるダイゴ。彼が自分の暴走を痛感していることを、アオイも薄々気付き始めていた。

「今は休みなさい、ダイゴくん・・先ほどの戦い、あなたは死に掛けていたのだから・・」

 気持ちを落ち着けたアオイに呼びかけられて、ダイゴは渋々ベットに横たわることにした。緊張感を消せないまま、彼は眠りについた。

(このまま何も変わらず、人の心を保ってくれればいいんだけど・・・)

 ダイゴが気がかりになり、アオイは深刻さを隠せなくなっていた。彼が人の心を失った獣にならないでほしいと、彼女は切実に祈っていた。

 

 ダイゴがなかなか家に戻らず、マリは不安を感じていた。彼女は心配を何とか心の中に抑え込もうとしていた。

 そんな中、家のインターホンが突然鳴り出した。気持ちを切り替えたマリは、玄関に向かってドアを開けた。

 その先にはミライの姿があった。彼女は涙目でマリを見つめていた。

「ミ、ミライさん・・・!?

「ダイゴが・・ダイゴが帰ってきてないって聞いて・・いてもたってもいられなくなって・・・」

 驚きを覚えるマリに、ミライが涙ながらに言いかけてくる。

「もしかして、また警察に捕まってるんじゃないかって思って・・・」

「まさかダイゴさんが・・・十分ありえますね・・・」

 ミライに弁解しようとして、逆に気まずさを覚えるマリ。彼女はおもむろに警察に電話を入れようとした。

「残念だがこっちに厄介にはなっちゃいないぞ・・」

 そこへ声がかかり、マリとミライが振り返る。家の外にはジョージが立っており、タバコをふかしていた。

「ジョージおじさん・・ジョージおじさんじゃないですかー!」

「おいおい、おじさんっていうのはやめてくれって言ってるだろうが・・」

 すがり付いてくるミライに、ジョージが困り顔を見せる。

「ダイゴさん、そちらにも行っていないんですか・・・?」

「あぁ・・アイツは気に入らないものにはなりふり構わずに突っかかるからなぁ・・政治家にもヤクザにも・・」

 マリが訊ねると、ジョージはため息混じりに答える。それを聞いて、マリは不安を膨らませる。

「探さないと・・ダイゴを探さないと・・・!」

「やめとけって・・お前さん1人じゃ探しきれるわけねぇだろ・・ここは腐れ縁のあるオレが探してきてやる・・」

 たまらず飛び出そうとするマリを呼び止めるジョージ。

「ミライちゃん、マリさんとここにいろ。見つけたら真っ先に連絡入れるから・・」

「分かりました・・ここで待っていますね、ジョージおじさん・・」

「だからおじさんはやめろっての・・」

 答えるミライに呆れながらも、ジョージはダイゴを探しに飛び出していった。

「ダイゴ・・・」

 ミライに連れられて家に入るマリは、ダイゴへの心配を払拭することができないでいた。

 

 ガルヴォルスの治癒力は常人ではなかった。本来ならば数週間は安静にしなければならない傷だったが、一晩でほとんど回復していた。

「すげぇ・・自分でもビックリの回復力だ・・・」

「これが人の進化であるガルヴォルスの力よ・・治癒力だけじゃなく、五感も純粋な筋力も、全てが人間を上回っているの・・」

 驚きの声を口にするダイゴに、アオイが淡々と語りかける。

「でも強い力は、体も心も蝕んでしまう・・力に振り回されて自我を失い、本能と衝動の赴くままに力を使っていく・・」

 アオイは深刻さを込めて言いかけると、ダイゴの肩に手を添える。

「何度も言うようだけど、くれぐれも自分を見失わないで・・できることなら、私はあなたを手にかけたくない・・・」

「分かってるって・・同じこと何度も言ってくんなよ・・・」

 アオイの言葉に苛立って嘆息をつくダイゴ。しかしアオイの不安は消えていなかった。

「もういいだろ?・・オレは帰るぜ・・仕事もあるからな・・」

「その前に1度身体チェックをさせて・・治っているように見えて悪化しているケースもあるから・・・」

 家に帰ろうとしたダイゴを、アオイが呼び止める。彼女の意向に渋々賛同して、ダイゴは身体チェックを受けた。

 このチェックの上でも体に異常は見られなかった。ダイゴは改めて、自分の回復力に驚きを感じるのだった。

「もういいだろ・・いい加減に帰らせてもらうぞ・・・」

「もういいわ・・ただ、あなたを迎えに来た人がいるわ・・・」

 肩を落とすダイゴに、アオイが言いかける。その言葉にダイゴが眉をひそめる。

 部隊本部を出てしばらく進んだところに、ジョージが立っていた。足元には数本のタバコの吸殻が落ちており、彼が長く待たされていることを示していた。

「あなたが私を訪ねてくるとは、今でも驚きですよ、小林警部・・」

「敬語はなしですよ。先輩は私でも階級はそちらが上なんですから・・大野警視殿・・」

 声をかけてくるアオイに、ジョージが憮然とした態度を見せる。

「年下でも後輩でも部下でも、誠意と敬意を怠らない。それが私の警察としての心構えですよ・・」

「相変わらずですな、警視は・・入り立ての頃もしっかりしてた・・・」

 淡々とした態度を見せるアオイに、ジョージが昔を思い返す。

「何だ?おめぇら、知り合いなのか?」

 そこへダイゴが疑問を投げかけてきた。

「よくお世話になったわ・・もしも小林警部に出会わなければ、私は生きながら死んでいたわ・・」

「あなたからおかしな怪物のことは聞いていますよ。けど自分には信じられないです・・」

 ダイゴに語りかけるアオイに、ジョージも淡々と声をかけてくる。ジョージはアオイからガルヴォルスの話は聞いていたが、信じていなかった。

「それでは彼をお願いします・・」

「任せてください!この坊主は責任を持って連れて帰ります!」

 アオイの呼びかけにジョージが敬礼を送って答える。

「おいおい、誰が坊主だ、誰が!?

「お前のことだよ。いつもいつもなりふり構わずに突っかかっていくお前は、坊主で十分なんだよ。」

 声を荒げるダイゴに、ジョージが不敵な笑みを見せてくる。

「あー、そうかい。あんなのが大人のやり口ってか?あんなふざけてんのが大人なら、オレはずっとガキのままでいい!」

 ふてくされる態度を見せるダイゴに、ジョージは呆れて肩を落とす。

「それではお願いします、小林警部・・」

「分かりました!それでは失礼します、大野警視殿!」

 ジョージはアオイに敬礼をお送ると、ダイゴを連れてこの場を立ち去った。

「ったく。お前といると退屈しないなぁ・・いつもいつも寿命が縮まってく・・」

「そう思うならオレなんかに構ってくれんなよ・・ほっとけば楽になれるってのに・・」

「そうはいかねぇよ。ほっとくと何を仕出かすか分かったもんじゃない・・お前さんがしっかりできるまで、オレが保護者だ・・」

 不満げに言いかけるダイゴに、ジョージも憮然とした態度で言い返す。言い争うのが馬鹿馬鹿しいと思い、ダイゴは黙ることにした。

 だが街に差し掛かったところで、ダイゴは奇妙な感覚を覚えて足を止める。

(この感じ・・間違いねぇ・・この強い感じはアイツだ・・・!)

「ん?どうした、ダイゴ?」

 その気配の正体に気付いたダイゴに、ジョージが声をかける。

「おっちゃん、ワリィ・・用事思い出した・・・!」

「お、おい、ダイゴ!?

 言いかけるダイゴが駆け出し、ジョージが声を荒げる。ダイゴは街中のビルに入り、その屋上にたどり着く。

「私がわずかに発していた気配を感じてここに来たか・・・」

「またおめぇか・・オレをわざわざ呼び出したってことかよ・・・!?

 そこで待っていたのは、ドラゴンガルヴォルスとなってダイゴを襲ってきた男だった。声をかけてきた男に、ダイゴが苛立ちをあらわにする。

「オレに何の用だ?・・またオレや誰かを襲うつもりか!?

「お前のように真っ直ぐな者には単刀直入にいったほうがいいだろう・・私と手を組む気はないか?」

 鋭く言いかけるダイゴに、男が誘いの言葉を投げかけてきた。

「お前は愚かな人間に憎悪を向けている。その人間の討伐のために、力を貸してほしいというのだ。」

「何だと!?・・オレに、人殺しの手伝いをしろっていうのか・・・!?

「そういうことになるな。だが気に病むことはない。愚かな人間はその愚かさを全く自覚せず、己が正義であると思い込み、思い上がっている。そんな連中に言葉を投げかけたことで無意味なのは、お前も理解しているはずだ・・」

「確かにバカなヤツは、この世の中には腐るほどいる・・けど殺すことは、そいつらと同じくらいバカなことなんだ・・人殺しに協力してやるほど、オレはバカじゃねぇ!」

 男からの誘いを拒否するダイゴ。世の中に対する不満を抱えながらも、命の尊さまでは捨ててはいない。この心のあり方は彼の中にあった。

「あくまで、私に協力するつもりはないということか・・?」

「もちろんだ!そんなことをオレはするつもりはねぇ!」

 強く拒絶するダイゴに、男が目つきを鋭くする。

「こうなっては、力ずく以外に術はないようだ・・・!」

 鋭く言いかける男の頬に紋様が走る。彼の姿がドラゴンガルヴォルスへと変貌を遂げる。

「この前のようにはいかねぇ・・今度こそ叩き潰してやる!」

 怒号を上げるダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。ダイゴは即座に飛び出して、ドラゴンガルヴォルスに殴りかかる。

 しかし両手とも簡単に受け止められ、ダイゴが目を見開く。

「相変わらず動きが直線的だ・・気持ちが真っ直ぐなのは感心するが、動きが真っ直ぐなのは命取りだぞ・・・!」

 ドラゴンガルヴォルスは言いかけると、ダイゴの体に拳を叩き込む。痛烈な一撃を受けて、ダイゴが吐血する。

 ドラゴンガルヴォルスがさらに重みのある打撃を繰り出していく。その猛攻に押されて、ダイゴが大きく突き飛ばされる。

「力のない意思や激情など無意味に等しい。もっと力を見せ付けなければ、お前の怒りなど負け犬の遠吠えだ。」

「ふざけたことをいうな・・オレは、おめぇみたいに思い上がったヤツが気に食わねぇんだよ・・・!」

 低く言いかけるドラゴンガルヴォルスに、ダイゴが鋭く言い返す。

「戦いに言葉は無意味だ。オレを脅かすつもりなら、力を見せ付けてこい・・・!」

 ドラゴンガルヴォルスの言葉に触発されるかのように、ダイゴが全身に力を込める。彼の右手に具現化された剣が握られる。

 持てる力の全てを振り絞って、ダイゴが突撃する。彼がドラゴンガルヴォルスに向けて剣を突き出す。

 だがドラゴンガルヴォルスはこの突きを簡単にかわしてしまう。

「やはり真っ直ぐだな、お前は・・・」

 ドラゴンガルヴォルスは嘆息をつくと、ダイゴの体に再び拳を叩き込む。激痛にさいなまれて、ダイゴがこの場に昏倒する。

「諦めろ。今のお前の行為は、勇気ではなく無謀・・自殺志願に等しいことだ・・」

 ドラゴンガルヴォルスがダイゴに冷徹に告げる。もはや力の差は歴然となっていた。

「許すもんか・・こんなの、許せるわけがねぇ・・・!」

 だがダイゴは諦めていなかった。込み上げてくる激情に駆られて、彼は体を震わせていた。

「倒してやる・・絶対にこの手で、叩き潰してやる!」

 そのとき、ダイゴの体からオーラのようなエネルギーが発せられてきた。そのオーラは炎のように紅くあふれてきていた。

「何だ、この力は・・・まさか・・・!?

 この変貌にドラゴンガルヴォルスが緊迫を覚える。立ち上がったダイゴの目には、鋭い殺気が満ちていた。

 

 

次回

第8話「紅い戦慄」

 

「間違いない・・暴走している・・・」

「オレ、マジでどうなっちまうんだ・・・」

「力を封じて自分を抑えるか、ガルヴォルスの本能に従うか・・」

「どちらを選ぶか、その本能で決めろ・・・」

「ダイゴくん、あなた・・・!?

 

 

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