ガルヴォルスZERO 第6話「揺れる想い」
突然のミライの登場に、ダイゴとミソラが驚き、マリも困惑を覚えていた。
「ミライ、あなた、旅に出てたんじゃないの!?」
「そうだけど・・どこもそりが合わなくて、辞めて帰ってきちゃった・・」
詰め寄ってくるミソラに、ミライが肩を落として答える。
「だからお姉ちゃん、またここで働かせてくれる?あたし、一生懸命やるから・・」
「図々しいこと言わないで。自分のわがままでここの仕事を辞めたんだから・・」
「お願いだから〜♪今までの倍頑張るから〜♪」
呆れるミソラにミライがおねだりをしてくる。彼女にせがまれて、ミソラは肩を落とす。
「おい、いい加減にしろ!いつまで抱きついてるつもりだ!?」
そこでダイゴがミライを突き放す。抱きついていたところを引き離されて、ミライがふくれっ面を見せる。
「ひどいよ、ダイゴ!このあたしというものがありながらー!」
「何言ってやがんだ!?オレは知らん!おめぇが勝手に付きまとってきてんだろうが!」
ミライの言葉に怒鳴り返すダイゴ。ミライの言葉を聞いて、マリがさらに困惑する。
「私たちは仕事中なのよ!仕事するなら制服に着替えて!」
「はーい♪」
呼びかけてくるミソラに、ミライが上機嫌に答える。彼女の後ろ姿を見て、ダイゴとミソラがため息をつく。
「厄介なことになったな・・・」
「その意見には私も賛成だわ・・・」
意気消沈してしまった2人。その一方で、マリはダイゴに寄り添っていたミライに、困惑を隠せなくなっていた。
わずかな明かりにしか照らされていない地下道。その道を足音が反響していた。
ひたすら走り抜けていく1人の女子高生。だが彼女の前に1人の女性が立ちはだかる。
「私から逃げられると思ったら、大間違いよ・・・」
「イヤ!来ないで!」
妖しく微笑む女性から、女子が逆方向に逃げようとする。だが直後、女子の両足が突然凍りついた。
「えっ!?」
「大丈夫よ・・一瞬冷たくなるだけ・・後は楽だから・・・」
驚愕の声を上げる女子に、女性が淡々と言いかける。女子の体を徐々に氷が包み込んでいく。
「イヤ・・やめて・・・助け・・て・・・」
助けを請う女子が、完全に氷に閉じ込められる。氷塊の中の女子を見つめて、女性は感嘆の笑みをこぼしていた。
「またいい感じで凍ってくれたわね・・この調子・・・みんな凍りつかせてあげるわ・・・」
女性は喜びを膨らませながら、地下道を立ち去っていく。女子は凍らされたまま、この場に取り残されてしまった。
改めてマーロンで働くことになったミライ。仕事の最中に上機嫌に手を振ってくるミライに、ダイゴは滅入り、ミソラは注意を促す。
その調子で仕事と接客が行われていく中、マリがミソラに声をかけた。
「あの、ミソラさん・・・この後、ミライさんと話をさせてもらいたいのですが・・」
「ミライと?」
マリが切り出した言葉に、ミソラが一瞬疑問符を浮かべる。だがミソラはすぐにミライに目を向ける。
「それなら本人に直接言ってみたら?あの子、誘われたら滅多に断らないから・・」
ミソラの返答を受けて、マリがミライに目を向ける。ミライもマリに目を向けると、一瞬きょとんとなった。
その日のお互いの仕事が終わった後、マリはミライに声をかけた。2人はマーロンから少し離れたハンバーガーショップにやってきた。
「ありがとうね、声をかけてくれて・・あたしが前に働いてたときにはいなかったよね?」
ミライが笑顔でマリに答えると、注文したハンバーガーを口にする。
「はい・・私、清水マリといいます・・あなたは・・?」
「佐藤ミライ、よろしくね♪」
互いに自己紹介をするマリとミライ。笑顔を絶やさないミライだが、マリは緊張気味だった。
「あの・・ミライさんは、ダイゴと知り合いなんですか・・・?」
「うん。元々はお姉ちゃんが先に知り合ってたんだけどね・・」
マリの問いかけにミライが頷きかける。
「もしかして、ダイゴのことが好きなんですか?・・・ダイゴに会えたことを喜んでいたようですが・・・」
「うんっ♪」
思い切って訊ねるマリに、ミライが満面の笑みを見せる。その返答にマリは一気に緊張を膨らませる。
「・・と、言いたいんだけど・・ダイゴはあたしのことを、厄介者としか見てないよ・・」
しかしミライが表情を曇らせる。心境を打ち明けてきた彼女に、マリは戸惑いを感じていた。
「昔、悪い男の人たちにナンパされて、無理矢理連れてかれそうになったことがあるの・・そのとき助けてくれたのが、ダイゴだったの・・・」
「ダイゴ、今みたいになりふり構わずにつかみかかってましたか・・?」
「それはもう、ね・・どうしても許せずに我慢できないものには、歯止めが利かずに飛びかかってた・・それは今も変わってないって分かって・・改めて安心してる・・・」
ミライの言葉を聞いて、マリが微笑みかける。
「でもね、ちょっとムッツリスケベなところもあるんだよね、ダイゴは・・」
「えっ!?ムッツリ!?・・あのダイゴが・・・!?」
ミライが言いかけた言葉に、マリが思わず声を荒げる。
「ダイゴ、あなたを見たときにボーっとしてたでしょ?きっとあなたの可愛さに見とれちゃってたんだと思う・・」
「た、確かに・・・」
ダイゴと初めて会ったときのことを思い出し、マリが頬を赤らめる。
「ダイゴ、とってもストレートな性格だから、自分を包み隠さずに接したほうが友好的だよ・・」
「すごいですね、ミライさん・・そこまでダイゴのことを思いやっている・・・」
優しく言いかけるミライに、マリが微笑みかける。
「そこまで思いやれる人はすごいと思います・・・私も、そこまでの気持ちが持てたなら・・・」
「そういうあなたも、ダイゴのことに恋焦がれちゃってるみたいだね・・ダイゴのこと呼び捨てにしちゃって・・」
「えっ!?そ、そんなこと・・ダイゴがそう呼ぶようにって言われたから・・・!」
にやけ顔を見せてくるミライに、マリが動揺をあらわにする。
「バレバレだよ♪あなたも大人しそうに見えて、けっこうストレートみたいだね♪」
上機嫌に言いかけるミライに、マリは戸惑いを隠せなくなる。するとミライがマリに手を差し伸べてきた。
「これからもよろしくね、マリちゃん♪」
「はい、ミライさん・・」
マリも笑顔を見せて、ミライの手を取って握手を交わした。マリに新しい絆が生まれたのだった。
その頃、仕事を終えたダイゴは家に向かっていた。その途中、彼はミライの登場に滅入っていた。
「まさかミライがやってきて、マーロンで働くことになるなんて・・先が思いやられるぜ、まったく・・・」
たまらず愚痴をこぼすダイゴ。ミライのことを思い出すごとに、彼は意気消沈していった。
そのとき、ダイゴは周囲から流れ込んでくる冷気を感じ取った。
「この寒さ・・季節的にありえねぇだろ・・・」
ダイゴはこの寒さがガルヴォルスがもたらしているものだと直感した。寒さが流れてきているほうに向かって、彼は駆けていく。
そしてダイゴは、薄暗い地下道に差し掛かった。そこで彼が目にしたのは、1人の女性と、氷付けにされた少女だった。
「またいい感じに凍ってくれたわね・・ウフフフ・・・」
「何やってんだ、こんなとこで・・・おめぇがやったのか!?」
哄笑をもらす女性に、ダイゴが鋭く言い放つ。その声を聞いて、女性がゆっくりと振り返る。
「見られたわね・・男に見られても凍らせる価値がないんだけどね・・・」
言いかける女性の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の姿が氷塊を思わせる怪物、スノーガルヴォルスに変化する。
「やっぱりガルヴォルスの仕業だったか・・・!」
いきり立つダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。
「あなたもガルヴォルスだったなんてね・・でも私に敵うかどうか・・」
スノーガルヴォルスが妖しく微笑むと、ダイゴに向けて冷気を放出する。その吹雪に煽られて、ダイゴが怯む。
「あなたもこのまま凍りつかせてあげる・・・」
スノーガルヴォルスがさらに冷気を放出していく。ダイゴの体が徐々に氷に包まれていく。
「こんなことで・・オレがやられてたまるかっての・・・!」
ダイゴは力を振り絞り、まとわりついていた氷を吹き飛ばす。その衝動にスノーガルヴォルスが目を見開く。
「私の氷を破るなんて・・とんでもない力・・・!」
「ガルヴォルスになったヤツは、みんなこうなのかよ・・・!?」
驚愕するスノーガルヴォルスに、苛立ちをあらわにするダイゴ。彼は飛び出し、彼女に向けて拳を叩き込む。
「ぐっ!」
氷の壁を張って防ごうとしたスノーガルヴォルスだが、ダイゴの一撃は凄まじく、壁を破られて突き飛ばされる。ダイゴの力をさらに痛感して、彼女は恐怖を覚える。
「そんな!?・・こんなの、とても勝てない・・・!」
恐怖に耐えられなくなったスノーガルヴォルスが逃げ出そうとする。だが距離を詰めてきたダイゴに、彼女は腕をつかまれる。
「こんなマネをして、逃げられると思ってんのか・・・!?」
「や、やめて・・助け・・・!」
鋭く言いかけるダイゴに、スノーガルヴォルスが助けを請う。その彼女の腕を、ダイゴは力を込めてへし折る。
「うぎゃあっ!」
腕を折られた激痛で、スノーガルヴォルスが絶叫を上げる。悶え苦しむ彼女に、ダイゴが殺気をむき出しにする。
「苦しいか?・・だがおめぇが襲ってきたヤツらの苦しみは、こんなもんじゃねぇんだよ!」
怒号を上げるダイゴが、具現化した剣をスノーガルヴォルスに突きつける。その刃に体を貫かれて、スノーガルヴォルスが鮮血を噴き出す。
肉体が崩壊して消滅するスノーガルヴォルス。その断末魔を見て、ダイゴが笑みをこぼす。
「お前、ガルヴォルスの破壊衝動に駆り立てられているようだな?」
そこへ声がかかり、我に返ったダイゴが振り返る。そこには1人の長身の男が立っていた。
「何だ、おめぇは?・・おめぇもガルヴォルスなのか・・?」
「そういうことになるな・・しかも、お前と違い、人間そのものを憎悪している・・・」
ダイゴの問いかけに答える男の頬に紋様が走る。その変化にダイゴが緊迫を覚える。
男の姿が龍の姿に似た怪物に変化する。その体から炎のようなオーラが湧き上がってきていた。
「私は人間に憎悪している・・人間に味方するガルヴォルスも含めて・・・!」
「おいっ!」
声を荒げるダイゴに、ドラゴンガルヴォルスが飛びかかる。その奇襲の突進を受けて、ダイゴが大きく突き飛ばされた。
ガルヴォルス出現の知らせを聞いたアオイが、車で現場で向かっていた。走行中、彼女はダイゴの安否を心配していた。
(ダイゴくんも必ず来ている・・でもダイゴくんが、ガルヴォルスの衝動に駆り立てられてるかもしれない・・・!)
危機感を募らせていくアオイ。彼女が到着したときには、既に部隊の隊員たちが数人駆けつけていた。
「状況は?」
「氷のガルヴォルスは撃破しました。ですが、また新たなガルヴォルスが・・」
アオイの問いかけに隊員の1人が答える。その直後、遠くのほうで爆発が巻き起こった。
「もしかして、ダイゴくんが戦っているのでは・・!?」
アオイは危機感を秘めて、爆発のしたほうに走り出す。しばらく駆け抜けたところで、彼女の前にダイゴが吹き飛ばされてきた。
「ダイゴくん!」
声を上げるアオイだが、ダイゴに駆け寄ろうとしたところでドラゴンガルヴォルスが現れる。その姿を見たとき、アオイが目を見開く。
「あのガルヴォルス・・まさか・・・!?」
息を呑むアオイに気付いて、ドラゴンガルヴォルスが振り向いてきた。
「お前・・アオイか・・・こんなところで会うとは・・・」
「私の家族を殺したガルヴォルス・・お前だけは、私が!」
淡々と言いかけるドラゴンガルヴォルスに向けて、アオイが激情のままに発砲する。しかし通常兵器がガルヴォルスに通用するはずもなかった。
「おい、邪魔すんな!そんなんで勝てると思ってんのか!?」
立ち上がったダイゴがアオイに怒鳴り、ドラゴンガルヴォルスに飛びかかる。だがドラゴンガルヴォルスが繰り出す拳を受けて、返り討ちにされてしまう。
「お前に私を倒すことはできない・・人間であり、愚かな人間に味方するお前には・・」
「何が愚かだ!?私の家族を殺した、お前のほうが愚か者だ!」
言いかけるドラゴンガルヴォルスにさらに発砲するアオイ。しかしその弾丸の全てがドラゴンガルヴォルスの体に跳ね返される。
「そんなに死に急ぎたいなら、望みどおりにしてやろうか・・」
いきり立ったドラゴンガルヴォルスが、アオイに迫り来る。そのとき、彼の体をダイゴの剣が貫いた。
「おめぇの相手はオレだ・・よそ見してんじゃねぇぞ・・・」
声を振り絞るダイゴだが、ドラゴンガルヴォルスは彼の剣をつかみ、その刀身を握りつぶしてしまった。
「その程度の攻撃では、私を倒すことは不可能だぞ・・」
「刺されてんのに平然としている・・・なんてヤツだよ・・・!」
淡々と言いかけるドラゴンガルヴォルスに、ダイゴが緊迫を覚える。ドラゴンガルヴォルスが繰り出した拳を受けて、ダイゴが吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「私を倒すつもりでいるなら、お前の全てを出し切って挑んで来い!」
ドラゴンガルヴォルスがダイゴに向けて、鋭く言い放つ。
「今日はここまでにしておこう・・何者にも恐れず立ち向かうその精神は惜しい・・」
ドラゴンガルヴォルスは言いかけると、きびすを返して立ち去ろうとする。そこでアオイがドラゴンガルヴォルスに向けて銃を向ける。
「お前は逃がさない・・何度も言わせないで!」
「今は銃を収めろ・・次に会うときまで、私を脅かす力をつけてくることだ・・」
鋭く言いかけるアオイに呼びかけると、ドラゴンガルヴォルスは飛び上がり、姿を消していった。
「また、逃がしてしまった・・・ダイゴくん!」
歯がゆさを抱えたまま、アオイがダイゴに駆け寄っていく。傷だらけになっていたダイゴは、既に人間の姿に戻っていた。
「ダイゴくん!ダイゴくん、しっかりしなさい!」
アオイが呼びかけるが、ダイゴは目を覚まさない。
「救護班、急いで!意識が戻らないわ!」
彼女の呼びかけを受けて、救護班の医師たちが駆けつけ、ダイゴを担架に乗せて運んでいった。
「ダイゴくん・・・あのガルヴォルス、絶対に許してはおけない・・・!」
ドラゴンガルヴォルスに対する憎悪を膨らませるアオイ。彼女は自分の家族を思い返していた。
アオイたちの前から姿を消したドラゴンガルヴォルス。人気のない草原の真ん中で、彼は人間の姿に戻っていた。
「ここまで成長したか、アオイ・・だが人間に味方しているようでは、結局未来はない・・」
男がアオイの姿を思い返して、深刻な面持ちを浮かべる。
「もっとも、ガルヴォルスへの憎悪をアオイに植えつけたのはこの私だが・・・」
呟きかける男が、アオイのいたほうに振り返る。彼はダイゴについて思考を巡らせていた。
「できることなら、彼も同胞に加えたい・・・」
ダイゴに対する強い概念を胸に秘めて、男は再び歩き出していった。
次回
「あのガルヴォルスなのよ・・私の家族を殺したのは・・・」
「私はあなたのことも理解しているわ・・」
「私と手を組む気はないか?」
「あなたの心に一切の偽りがない・・それがあなたの真実なのよ・・・」