ガルヴォルスZERO 第5話「心と想いと優しさと」
その日もいつも通りに、マーロンでの仕事に励もうとしていたミソラ。その彼女の携帯電話が突然鳴り出した。相手はダイゴだった。
「もしもし、ダイゴくん?どうしたの、いきなり・・?」
“どうしたじゃねぇよ!マリが風邪ひいて倒れたんだよ!”
電話に出た美空に向けて、ダイゴの声が飛び込んでくる。突然の大声に、ミソラはたまらず携帯電話を耳から離す。
「ちょっと、いきなり大声出さないでよ・・・すぐに総合病院に連れて行って。そこなら家から近いから・・」
“総合病院だな!?分かった、すぐに連れてく!”
「私もすぐに行くから、あまり騒ぎにしないようにね・・」
ミソラはダイゴに呼びかけると、携帯電話をしまう。
「ちょっと出てくるわ。お店のほうはお願いね。」
ミソラはウェイトレスに言いかけると、病院へと向かっていった。
ミソラの呼びかけを受けて、ダイゴはマリを総合病院に連れて行った。症状は風邪による発熱で、重い病状ではなかった。
「今日1日入院させましょう。大事を取って療養すれば、回復に向かうでしょう・・」
「そうっスか・・よかった・・・」
医者の言葉を聞いて、ダイゴが安堵を浮かべる。彼らのいる廊下に、ミソラがやってきた。
「マリさんの具合は・・・?」
「大丈夫だ・・1日病院で休むことになった・・・」
訊ねてきたミソラにダイゴが答える。安堵を覚えるミソラが、医者と話をする。
マリは入院して療養することとなった。医者の見解では1番休めば回復するとのことだった。
「そろそろマーロンに行かねぇと・・一応仕事だからな・・」
ダイゴが気を取り直して、仕事のためにマーロンに向かおうとした。
「ダイゴ、あなたは今日は仕事はいいわ・・その代わり、今日はマリのそばにいてあげて・・」
そこへマリに声をかけられ、ダイゴが足を止める。
「何でだ?オレは別に風邪じゃねぇが・・」
「そうじゃないの・・そばにいて、マリさんを支えてあげてほしいの・・・」
「は?何言ってんだよ?何でオレがアイツに・・?」
「マリさんに元気になってほしいなら、言うとおりにして・・・マリちゃんには、あなたが必要なんだから・・・」
ミソラの言葉を受けて、ダイゴが戸惑いを覚える。マリへの気持ちに、彼の心は大きく揺れていた。
「夕方になったらまた来るから・・・せめて、それまでは・・・」
ミソラの言葉にダイゴは頷く。彼はミソラが去っていくのを見送ってから、マリのいる病室に入った。
病室ではマリは目を覚ましていた。まだ顔が赤く、彼女はベットに横たわったままだった。
「ごめんなさい・・私のせいで、ダイゴに迷惑をかけてしまって・・・」
「昨日の雨にぬれたんだ・・風邪をひいて当然だ・・」
謝るマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「これでもオレはあそこで働いてんだ・・早くよくなって、オレに仕事をさせてくれ・・」
「そうですね・・少しでも早く元気にならないといけませんね・・・」
淡々と言いかけるダイゴに、マリが微笑んだまま答える。彼女はダイゴに促されるまま、ベットで眠りについた。
人気のない裏路地。人目のつかないこの場所で、1人の少女が壁に磔にされていた。
少女は手足を鎌のようなもので押さえられていた。自由を奪われた彼女を、カマキリの姿に似た怪物が見つめて不気味な笑みを浮かべていた。
「いい感じだねぇ・・もっともっと泣き叫んでくれると嬉しいんだけど・・」
怪物、マンティスガルヴォルスが言いかけるが、少女は恐怖のあまりに言葉が出なくなっていた。
「気が動転してるみたいだ・・だったら直接痛めつけたほうがいいかも・・・」
マンティスガルヴォルスが1本の鎌を少女の体に突き刺した。激痛を覚えて少女が悲鳴を上げる。
「そうそう、そんな感じ・・女が苦しんで怖がって、絶望する・・それがたまらなく楽しいんだ・・・」
マンティスガルヴォルスが興奮を膨らませて、少女の体にさらに鎌を突き刺す。女の苦痛と絶望が、マンティスガルヴォルスの喜びとなっていた。
「本当はもっともっと楽しみたいけど、長引くと厄介なことになるから・・・」
マンティスガルヴォルスは言いかけると、手にした鎌を少女に向けて振りかざす。その刃が、少女の体を切り裂いて鮮血をまき散らす。
壮絶な惨殺をされた少女に、マンティスガルヴォルスが哄笑を上げる。彼はそのまま路地の闇の中に消えていった。
体をバラバラに切り裂かれて命を落とした少女。こうした事件が多発しており、街を恐怖に陥れていた。
夕方近くになったときだった。目を覚ましたマリが、ダイゴに声をかけた。
「ダイゴ・・・ひとつ、聞いてもいいですか・・・?」
「答えられることだったらな・・・」
「ダイゴは、両親とケンカして家出してきたと聞きました・・なぜ、ケンカを・・・?」
「ミソラから聞いたのか・・アイツ、余計なマネを・・・」
マリが切り出した話に、ダイゴが不満を口にする。
「いけないこと、でしたか・・・?」
マリが気まずくなるが、ダイゴは何も答えない。聞いてはいけないことだと感じて、マリは言葉が出なくなる。
その2人のいる病室にミソラがやってきた。
「どう、マリさん?調子はいかが?」
「ミソラさん・・・大分よくなりました・・ダイゴさんがいてくれたから・・・」
ミソラが声をかけると、マリが微笑んで答える。
「オレは何もしてねぇ・・ただ退屈なだけだ・・」
ダイゴは憮然とした態度を見せるだけだった。
「オレはもう行くぜ・・少しぐらいやらねぇと気分が悪い・・」
ダイゴは言いかけると病室から出て行った。彼の態度にミソラが肩を落とす。
「もう・・相変わらずなんだから、ダイゴくんは・・・」
「あの、ミソラさん・・・ダイゴに、何かあったのですか・・・?」
マリに唐突に問いかけられて、ミソラが眉をひそめる。
「さっき、ダイゴに親のことを聞いたのですが、何も答えてくれなくて・・・気まずいところがあったのでしょうか・・・?」
「・・・みんなには言わないって、約束してくれる?・・もちろんダイゴくんにも・・」
「えっ?・・あ、はい・・」
念を押してくるミソラに、マリは当惑を見せながら頷く。
「彼は、親殺しの疑いをかけられたことがあるの・・・」
「えっ・・・!?」
ミソラが口にした言葉に、マリが息を呑む。
「ダイゴくんが感情的で、許せないものにはなりふり構わずに突っかかることは知ってるでしょう?・・それは親に対しても同じで、いつも叱って怒鳴ってくる親に我慢ができなくなって、ダイゴくんは逆につかみかかったの・・・」
「ダイゴに、そんなことが・・・」
「ダイゴくんも嫌な記憶なんでしょうね・・多分、私にしか話していないかもしれない・・・」
ダイゴの過去をミソラから聞かされて、マリは困惑を隠せなくなる。
「ダイゴくんの両親は、家の中で殺害されていた・・それがダイゴくんが家を飛び出して少し後のことだったの・・疑いをかけられたけど、証拠不十分になった・・それでも納得できなかったらしくて、ダイゴくんはよく刑事や警官につかみかかってた・・」
「ダイゴらしいですね・・大変だったでしょうに・・・」
「ダイゴくんをなだめてくれたのが、ジョージさんだった・・ジョージさんは、ダイゴくんが騒動を起こすたびになだめてくれてるの・・・」
ミソラの口から語られたダイゴの過去に、マリは戸惑いを募らせる。彼女はダイゴが苦労と苦悩を重ねてきたと痛感していた。
「あんまり物騒なことをしてほしくないのが、私の願いなんだけどね・・・」
「難しいことでしょうね、ダイゴには・・」
肩を落とすミソラに、マリが笑みをこぼす。その直後、ミソラがおもむろににやけ顔を見せてきた。
「そういえばマリちゃん、ダイゴくんのこと呼び捨てにしてるわね・・もしかして、ダイゴくんのこと・・・」
「な、何を言っているんですか、ミソラさん!?・・そんな、悪いことは何も・・・」
「ウソが言えない性格だからね、マリちゃんは・・」
頬を赤らめてそわそわするマリに、ミソラが笑みをこぼす。
「その様子なら元気になるまであと一息ね・・さぁ、病人はベットでしっかり寝ないとね・・」
ミソラに促されて、マリは横になって目を閉じた。その寝顔を見て微笑むが、ミソラは表情を曇らせた。
(あんまり暴走しないでよね・・アンタの勝手で、辛い思いをする人が現れたんだから・・・)
ダイゴの心配を胸に秘めて、ミソラは窓から外を見つめていた。
ミソラが来たことでようやく病院から出ることができたダイゴ。滅入る気持ちから解放されて、彼は大きく背伸びをする。
「やっと出れたぜ・・ったく、厄介事に付き合わせやがって・・」
ミソラへの不満を口にしながら、ダイゴはさらに歩いていく。
「今から行ってもやることないしな・・帰るとするか・・」
ダイゴはため息混じりに、帰宅することを決めた。
そのとき、ダイゴの耳に刃物がこすれるような音が入ってきた。あまりにも微弱だったため、周囲の人々は気付いていない。
(オレしか聞こえてねぇみてぇだ・・オレが行くしかねぇか・・・)
ダイゴは乗り気を見せないながらも、その音のしたほうに向かう。彼は日の光が薄い裏路地に差し掛かっていた。
「ビルの壁に跳ね返ったのか?・・それにしちゃおかしい・・・」
ダイゴは呟きながら、路地をさらに進んでいく。その先の光景に彼は驚愕した。
磔にされた女性が血まみれになっており、その姿を見てマンティスガルヴォルスがあざ笑っていた。
「何やってんだよ・・・おいっ!」
たまらず激昂して怒鳴りかけるダイゴ。その声を耳にして、マンティスガルヴォルスが振り返る。
「おいおい・・邪魔しないでほしいな・・せっかく楽しんでるところだったのに・・・」
「楽しんでる、だと!?・・ふざけてんのか!?」
冷淡に声をかけてくるマンティスガルヴォルスに、ダイゴが言い放つ。
「全然ふざけてないさ・・女を切り刻んでいたぶって・・フフフ、快感だ・・・」
「腐ってやがる・・思い上がるな、クソヤローが!」
哄笑を上げるマンティスガルヴォルスに怒りを爆発させるダイゴ。彼の姿がデーモンガルヴォルスに変身する。
「ほう?お前もガルヴォルスだったのか?・・それなりに強いのか・・?」
マンティスガルヴォルスが感嘆の声を上げるが、ダイゴは鋭く睨みつけるだけだった。
「そうだ。オレと手を組まないか?お前と一緒ならもっと楽しくなると思うから・・」
マンティスガルヴォルスが誘いを申し出る。だがそんな男に、ダイゴが素早く飛び込んで打撃を叩き込む。
「楽しいわけねぇだろ・・他人を弄んで、それをあざ笑うなんてよ・・・!」
「す・・すごい力・・・こんな力を持ってるなんて・・・」
苛立ちを口にするダイゴの力に、マンティスガルヴォルスが笑みをこぼす。彼はダイゴの一撃で一気に疲弊していた。
「それだけの力があるなら、好きなことをすればいいんだ、オレみたいに・・」
マンティスガルヴォルスがさらに呼びかけてくる。
「それだけの力があるなら、邪魔が入ってもやっつけられる・・テメェも素直になって楽しめばいいんだよ・・」
「言いたいことはそれしかねぇのかよ・・・!?」
笑みをこぼすマンティスガルヴォルスに、ダイゴが歯がゆさを浮かべる。
「やっぱクズは、死んでもその物分かりのなさは治らねぇみてぇだな!」
いきり立ったダイゴが剣を手にして振りかざす。だがマンティスガルヴォルスも2本の鎌でダイゴの剣を受け止める。
「物分かりが悪いのはお前のほうだ・・理解力があるなら、大人しく言うことを聞けるはずだ・・」
「自分の思い通りになればそれでいいのかよ・・おめぇも!」
あざ笑ってくるマンティスガルヴォルスに怒号をぶつけるダイゴ。彼は剣に力を込めて、鎌を跳ね飛ばす。
「ま、待て・・!」
声を荒げるマンティスガルヴォルスだが、ダイゴは怒りのままに剣を振りかざす。その一閃を受けて、マンティスガルヴォルスの体が切り裂かれる。
絶命したマンティスガルヴォルスの体が崩壊して霧散する。その血飛沫を浴びたところで、ダイゴは我に返る。
「また、オレは人殺しをしちまったのか・・・」
愕然となるダイゴが、何とか気持ちを落ち着けようとする。
「もしかしてこれが、オレの望んでることなのか・・気に入らないヤツだったら、片っ端から殺して回るバケモンだってのか・・・!?」
恐怖を感じるあまり、ダイゴは人間の姿に戻っていた。愕然となっていたとき、彼の脳裏にマリの顔が蘇ってきた。
マリの優しさを思い返して、ダイゴが戸惑いを感じていく。
「オレは、アイツを大切にしてるのか・・守りたいと思ってるのか・・・こんなオレに、自分以外に守れることができるのか・・・!?」
困惑を抱えたまま、ダイゴは歩き出す。彼は夢遊病者のように覚束ない足取りで、家に戻っていった。
その翌日、1人での一夜を過ごして目を覚ましたダイゴ。しかし1人での時間に慣れていた彼は、マリがいなかったことに違和感は感じていなかった。
頭と心の中に渦巻いているもやもやを振り払いながら、ダイゴは仕事のためにマーロンに向かう。
「遅いじゃないの、ダイゴくん・・みんな準備に入ってるわよ・・」
マーロンに入ってきたダイゴに、ミソラが声をかけてくる。
「何だよ・・昨日は昨日で勝手なことぬかしたくせに・・」
ダイゴが憮然とした態度を見せる。そのとき彼はマリが働いている姿を目にする。
「おい・・もう大丈夫なのか・・・!?」
「はい・・朝に診察を受けて、すぐに退院になりました・・みなさんにはご迷惑をおかけしました・・」
声を荒げるダイゴに、マリが頭を下げる。反論する気にならず、ダイゴは肩を落とすしかなかった。
この日の仕事を淡々とこなしていくダイゴ。仕事を一区切りしたところで、ダイゴはミソラに声をかける。
「ところで、アイツはどうしてるんだ?」
「アイツ?」
ダイゴの問いかけにミソラが疑問符を浮かべる。だがすぐに思い当たる節を見つけて、彼女は頷く。
「少し前に仕事探しの旅といって、マーロンを飛び出しちゃったのよ・・出てってから全然連絡をしてこないし、何かあったんじゃないかって不安に感じることはあるんだけど・・・」
「そうか・・ま、アイツがいないほうが、オレとしては気が楽だけどな・・」
ミソラの言葉を聞いて、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「そういえばダイゴは苦手にしてたわね・・」
ミソラが笑みをこぼすが、ダイゴは不満げな様子だった。
「ダイゴ!ダイゴじゃなーい♪」
そこへ少女の声がかかり、ダイゴとミソラが振り返る。すると、1人の少女がダイゴに飛びついてきた。
少しはねっけのある黒のショートヘアと、天真爛漫な雰囲気が特徴の少女だった。
「まさかダイゴがマーロンに来てたなんてー♪あたし、うれしかったよー♪」
「お、おい!おめぇ、いつの間に!?」
「ミ、ミライ!?帰ってきてたの!?」
ダイゴとミソラが驚き、その騒ぎを聞いてやってきたマリも困惑を覚えていた。
少女の名は佐藤ミライ。ミソラの妹で、ダイゴの幼馴染みである。
次回
「ひどいよ、ダイゴ!このあたしというものがありながらー!」
「そこまで思いやれる人はすごいと思います・・・」
「みんな凍りつかせてあげるわ・・・」
「先が思いやられるぜ、まったく・・・」
「佐藤ミライ、よろしくね♪」