ガルヴォルスZERO 第4話「本当の正しさ」
エイジを逃したダイゴは、マーロンに戻った。彼の行動に遺憾を感じたミソラに、彼は叩かれることとなった。
「何しやがんだ、おい!?」
「あなた、自分がしたことが分かってるの!?自分だけじゃなく、私たちみんなに迷惑をかけたのよ!」
声を荒げるダイゴに、ミソラが怒鳴りかかる。
「これでもう取り返しがつかなくなってしまった・・あの人は、本気で私たちを・・・!」
「何で諦めちまうんだよ!?あんなヤツのいいなりになることが、正しいことだって言いたいのかよ!?」
ミソラの言葉に反発するダイゴ。だがウェイトレスからは不安と軽蔑の眼差しを送られる。
「そんなんでいいのかよ・・そんなんでホントにいいのかよ!?」
ダイゴは声を張り上げると、たまらずマーロンを飛び出してしまった。
「ダイゴさん!」
マリもダイゴを追って駆け出していく。
「マリちゃん!・・・2人とも仕方がないんだから・・・」
ダイゴとマリの行動に肩を落とすミソラ。気持ちを切り替えて、彼女はウェイトレスたちに声をかける。
「あの2人は私に任せて。みんなは仕事に戻って。お客様に迷惑をかけるのはご法度だからね。」
ダイゴとマリを気にしながらも、仕事に戻るウェイトレスたち。2人を追いかけて、ミソラも店を出た。
周囲からの迫害を感じて、ダイゴは憤りを抑えきれなくなっていた。
許せないものに対して、純粋に挑んでいるだけ。それ自体があってはならないことになっている。ダイゴはそれすらも許せなくて仕方がなくなっていた。
「何でだよ・・何でみんな分かろうともしないんだ・・・!?」
感情をあらわにして、ダイゴが近くの壁を殴りつける。その彼を追いかけて、マリが駆け込んできた。
「ダイゴさん・・・」
戸惑いを浮かべるマリの声を聞いて、ダイゴが振り返る。
「お前か・・お前もオレのしたことが間違ってるって・・あのクソヤローが正しいって、そう思ってるのか・・・?」
「違います・・逆です・・・私も、ダイゴさんのしていることが間違っているとは思いません・・でも私には、その正しさを口にする勇気がないだけなんです・・・」
ダイゴの言葉に、マリが物悲しい笑みを浮かべて答える。その笑みを見て、ダイゴが眉をひそめる。
「私も、世の中のムチャクチャが許せない人間の1人なんです・・どうしてこんな差別ができているんだろうって、何度も思いました・・でも私は、それを訴えることが怖いんです・・どうしてか、自分でもよく分からないのですが・・」
「お前・・・」
「私、ダイゴさんがうらやましいです・・私も、ダイゴさんのような勇気が持てたなら・・・」
「そんな立派なもんじゃねぇよ・・これしか、オレは方法を知らねぇからな・・・」
憧れを見せるマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「分からせるつもりじゃねぇんだ・・ただ、言わねぇと我慢がならねぇんだ・・」
「その点が、ダイゴさんにあって私にないものなんですね・・・私、不安や不満を抱え込んでしまいますから・・」
あくまで物悲しい笑みを浮かべるマリに、ダイゴが肩を落とす。
「だったらうじうじしてねぇで、思い切ってやってみりゃいいじゃねぇか・・怖がってても何も変わらねぇ・・動き出さねぇことには、何も・・・」
ダイゴはマリにそう告げると、マーロンに戻っていった。
「思い切って・・・私にもできるでしょうか・・・?」
戸惑いをさらに膨らませてから、マリもマーロンに戻っていった。
ガルヴォルスの捜索と根絶に躍起になっているアオイの部隊。だがアオイはダイゴに対して考えを巡らせていた。
エイジとの戦いの最中、ダイゴは我を忘れかけていた。ガルヴォルスとしての本能と凶暴性に駆り立てられている兆しだった。
(ガルヴォルスの力は強大・・自分で気付かないのがほとんどだけど、その力に飲まれて暴走するケースがある・・ダイゴくんも、暴走に陥ろうとしている・・)
ダイゴの異変に深刻さを募らせていくアオイ。
(できることなら殺したくない・・でも人の心を失えば、凶暴な獣と変わらない。そのときは、迷わずに始末するしかない・・・)
迷いを振り切って席を立つアオイ。
(もしもあなたが暴走してしまったときは、私があなたの罪を背負うわ・・ダイゴくん・・・)
ガルヴォルスへの憎悪と防衛の使命感を胸に秘めて、アオイはガルヴォルスの追跡を続けるのだった。
暴動の翌日。マーロンはこの日も緊張感が漂っていた。またいつエイジがやってくるか、ウェイトレスたちは不安になっていた。
その中でダイゴは黙々と食器洗いと掃除をしていた。不安を感じていないように見える彼だが、別のことを気にしていた。
ガルヴォルスになったときに湧き上がる衝動。破壊、攻撃といった負の感情や渇望に取り込まれた自分。ダイゴは自分が自分でなくなる恐怖を、無意識のうちに感じ始めていた。
「大丈夫ですか、ダイゴさん・・?」
そこへマリに声をかけられ、ダイゴは掃除の手を止める。マリはダイゴに沈痛の面持ちを見せていた。
「オレがアイツがやってくるのをビビってるって思ってんのか?そんな理由はオレにはねぇ・・」
「分かっています・・ダイゴさんが気にしているのは、エイジさんのことではないですよね・・・?」
憮然とした態度で言いかけるダイゴに、マリが弱々しく問いかける。一瞬口ごもるダイゴだが、すぐにため息をつく。
「分かったようなこと言うなっての・・オレはいつも、嫌なヤツのことで頭が痛くなるんだよ・・」
「・・私が言っても気休めにもならないと思いますが・・あまり気にしないほうがいいと思いますよ・・・」
「・・・マジで気休めになんねぇな・・・」
マリの言葉を聞いても、ダイゴは憮然とした態度を見せるばかりだった。そんな彼に対して、マリは戸惑いを感じていた。
そのとき、ダイゴはただならぬ気配を感じ取り、息を呑む。妙な感覚に駆り立てられながら、彼は気配のするほうに振り返る。
「どうしたのですか、ダイゴさん・・?」
マリが疑問を投げかけるが、ダイゴは気にすることなく、裏口からマーロンを飛び出していった。
(この感じ・・これがガルヴォルスだってのかよ・・・!)
気配に誘われて街外れに出てきたダイゴが、その正体がガルヴォルスであることを悟る。彼は周囲を見回して、その姿を探す。
「わざわざオレのところに来てくれるとはな・・」
ダイゴの前に姿を現したエイジが、不敵な笑みを浮かべてきていた。
「オレの言うことを聞かないヤツは邪魔にしかなんないんだよ・・だからお前も木っ端微塵になってしまえばいいんだよ・・・!」
言い放つエイジがビーストガルヴォルスに変貌する。
「そんな思い上がったヤツに好き勝手にされると、気分が悪くなるだけなんだよ!」
叫ぶダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。感情のままに飛びかかるダイゴが、エイジが振りかざした豪腕を受け止める。
「思い上がりだと?だったらお前が正しいって言いたいのか?・・お前1人が逆らったって、何も変わりはしないんだよ!」
「オレは自分が正しいなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇ・・けどな・・間違ってるのを正しいことにされてて黙ってるほど、オレは大人しくはねぇんだよ!」
あざ笑うエイジに怒りの言葉をぶつけるダイゴ。彼が両手に力を込めて、エイジの両腕を押し返す。
「何だとっ!?」
押し切られて突き飛ばされるエイジ。彼を見据えて、ダイゴが具現化した剣を手にする。
「オレはおめぇをつぶす・・でないともう、オレの気がすまねぇんだよ!」
「ほ、本気か!?オレは人気を不動のものとしているんだぞ!そのオレがいなくなれば、この先どうなると思ってんだ!?」
「それがどうした!?そんなくだらねぇこと、オレの知ったことじゃねぇ!」
「オレの言うとおりにしてれば、何もかもうまく行く!全部穏便に話が進むってこと、いい加減理解しろ!」
「分かってねぇようだから教えてやるよ・・オレは頭にきてんだよ!」
エイジの言葉を一蹴して、ダイゴがいきり立って飛びかかる。エイジが両腕を振りかざして、ダイゴを迎撃する。
だが、ダイゴが振りかざした剣は、エイジの両腕を切り飛ばした。
「何っ!?ぐああっ!」
両腕を切り裂かれたことに、エイジが絶叫を上げる。鮮血をまき散らす彼を、ダイゴが鋭い眼つきで見据える。
「バカは死ななきゃ治らねぇとはよくいったもんだ・・・!」
ダイゴは低い声音で言いかけると、剣を振り上げる。その一閃を受けて、エイジの体が真っ二つにされる。
声にならない絶叫を上げるエイジが、体の崩壊を引き起こして消滅した。その末路を、ダイゴは息を荒げながら見つめていた。
直後、ダイゴは疲労感を覚えてその場にひざを付く。激情に駆り立てられるあまり、彼は考えや制御なしに体力を消耗していた。
「オレはいつの間に、こんなに力を使ってたっていうのかよ・・・」
呼吸を整えながら呟きかけるダイゴ。そのとき、彼は自分の両手についた紅い血を目の当たりにして、緊迫を膨らませる。
「何だよ、こりゃ・・オレは、人殺しをしちまったのか・・・!?」
自分のしたことを思い返して、ダイゴが愕然となる。
「アイツはガルヴォルスだった・・気に入らねぇヤツだが、すごい力を持ってたってことは確かだ・・そんなオレじゃ、ただの人間を殺すことなんて・・・!」
絶望感を膨らませるあまり、ダイゴが獣のような絶叫を上げる。その声に誘われるように雨が降り出し、彼をぬらしていた。
突然飛び出したダイゴが気がかりになり、マリは街中を駆け回っていた。途中で雨が降ってきたが、彼女は気にせずに探し続けた。
(ダイゴさん・・どこに行ってしまったのですか・・ダイゴさん・・・)
ダイゴのことを強く思うマリ。その思いに駆り立てられるまま、彼女はひたすら街を走り抜けた。
そしてついに、マリは通りの真ん中で佇むダイゴを見つけた。
「ダイゴさん!・・・ダイゴさん・・・」
雨にぬれているダイゴに、マリは戸惑いを見せる。彼女は恐る恐る彼に近づき、再び声をかけた。
「こんな雨の中にいると風邪をひきますよ・・一緒に帰りましょう・・・」
マリが寄り添ってきたところで、ダイゴは我に返る。彼はゆっくりとマリに視線を向ける。
「おめぇ・・いつからそこにいた・・・?」
「今来たばかりです・・ずっと、ダイゴさんを探していたんです・・・」
ダイゴが訊ねると、マリがか細く答える。彼女が自分の人でない姿を見ていないと分かり、彼は内心安堵していた。
「ダイゴさん・・ダイゴさんに何があったのかは私には分かりません・・今はマーロンに戻ることを優先しましょう・・」
「マリ・・・そうだな・・とりあえず戻って、気持ちを落ち着かせねぇとな・・」
マリに促されて、ダイゴは弱々しく答える。2人はひとまずマーロンに戻ることにした。
(考えるのはやめたほうがいい・・あのまま戻れなくなりそうだ・・・)
その帰路の中、ダイゴは必死に自分を抑え込んでいた。
降りしきる雨の中、ミソラはダイゴとマリの帰りを待っていた。裏口で待っていると、2人はマーロンに帰ってきた。
「よかった・・・もう、2人とも心配したのよ・・・!」
安堵を感じてから、ミソラが2人を叱り付けてくる。
「すみません、ミソラさん・・ダイゴさんを放っておけなくて・・・」
雨を拭ったマリが深々と頭を下げる。するとミソラが肩を落としてため息をつく。
「サボった分給料は差っ引くからね・・急いで体を拭いて着替えなさい。風邪をひくわよ・・」
「はい・・ミソラさん・・・」
言いかけるミソラに微笑みかけるマリ。ダイゴは憮然としたまま、裏口から入るのだった。
その日のダイゴとマリの仕事が終わった頃には、雨はすっかりやんでいた。嘆息混じりに帰路に着くダイゴに、マリが追いついてきた。
「よかったですね・・帰りは雨がやんでいて・・・」
「そうだな・・・オレもぬれるのはあんま好きじゃねぇから・・・」
微笑みかけるマリに、ダイゴは淡々と答える。彼はその間も、凶暴化していた自分を思い返していた。
攻撃本能の赴くままに、敵である者を力を振るって葬る。それを渇望している自分が、自分の中に存在している。
そのもう1人の自分に、ダイゴは恐怖を抱いていた。
「どうしたのですか、ダイゴさん?・・さっきから考え込んでばかりですよ・・・?」
「別に何もねぇよ・・あんまりオレに干渉してくんな。鬱陶しくなるから・・」
心配の声をかけるマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せるばかりだった。
「もし、私にできることでしたら言ってください・・力になりたいと思っていますので・・・」
「・・・気が向いたらな・・・」
優しく声をかけるマリに、ダイゴは低く言葉を返した。家に戻ったとき、マリが唐突にくしゃみをした。
「大丈夫か?」
「やっぱり風邪をひいてしまいましたね・・今日は早めに休むことにします・・」
ダイゴが声をかけると、マリが笑顔を作って答える。
「この際だからひとつ言っとく・・偉そうにされるんのはイヤだが、いつもかしこまられるのもいい気分がしねぇ・・オレのことは“ダイゴ”でいいよ・・」
「では私も“マリ”と呼んで・・よろしく、ダイゴ・・・」
ダイゴの言葉を受け入れて、マリは笑顔で答えた。
「それじゃ、今夜はいつもより頑張ってご飯を作るね・・」
「おいおい、病人は大人しくしとけって・・」
喜びを見せるマリに、ダイゴが苦笑を浮かべる。そのとき、彼は奇妙な感覚を覚えていることを実感する。
(どうしたってんだ・・アイツと一緒にいると、気分がよくなってくる・・)
マリに対する気持ちに、ダイゴは動揺を覚えていく。
(今日のオレはとことんヘンだな・・ガルヴォルスになった自分に喜んだり、アイツに喜びを感じたり・・何がホントのオレなんだろうか・・・)
自分に対して苦笑を浮かべるダイゴ。次第に悩むのが馬鹿馬鹿しくなり、ダイゴは考えるのをやめて休むことを優先した。
その翌日、ダイゴはいつもより早めに目が覚めた。昨日起きたことや悩まされたことを気にせず眠れたことに、彼自身驚いていた。
「よほど疲れてたってことか・・いつもガムシャラだけど、今回はいろいろ違ったってのに・・」
自分に対して苦笑を浮かべるダイゴ。彼は眠気を振り払うため、顔を洗いに洗面所に向かう。
その途中の廊下で、ダイゴはマリが部屋から出てくるのを目にする。
「おはようございます、ダイゴ・・・」
「おはよう・・ワリィな、ちゃんと名前で言ってもらって・・」
挨拶をするマリにダイゴが笑みをこぼす。だがダイゴは、マリの様子がおかしいことに気付く。
「どうした?顔が赤いぞ?」
「大丈夫です・・今日も仕事ですから、しっかりしないと・・・」
ダイゴが再び声をかけると、マリが笑顔を見せる。だが直後、マリがふらついてその場に倒れ込んだ。
「お、おいっ!」
ダイゴが慌ててマリに駆け寄る。彼女の体温は平熱より高くなっていた。
「しっかりしろ、マリ!おいっ!」
必死に呼びかけるダイゴに支えられて、マリは呼吸を荒くしていた。
次回
「マリちゃんには、あなたが必要なんだから・・・」
「こんなオレに、自分以外に守れることができるのか・・・!?」
「テメェも素直になって楽しめばいいんだよ・・」
「彼は、親殺しの疑いをかけられたことがあるの・・・」