ガルヴォルスZERO 第3話「偽善への反抗」
マリの誘いを受けて、彼女の家で一晩寝ることとなったダイゴ。しばらく落ち着いて寝ていなかったため、彼が目を覚ましたのは正午過ぎだった。
「おはようございます、ダイゴさん・・よほど疲れていたみたいですね・・」
リビングにやってきたダイゴに、マリが挨拶をしてきた。
「すぐにダイゴさんの朝ごはんも作りますね・・すみません、先に食べてしまって・・・」
「いや、そのことは別にいいんだけど・・・オレはメシ食ったら出てくからな・・あんまり長居はできねぇからな・・」
言いかけるマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「そんなこと言わないでください・・私は気にしません。ここを自分の家だと思ってください、ダイゴさん・・」
「マジで何を考えてんだ?オレに何をしようってんだ?」
「どうもしませんよ・・ただ、放っておけないだけ・・助けたいだけ・・・わがままだというならそれでもいい・・それでも・・・」
「分かったよ・・どうなっても知らねぇからな・・・」
笑顔を見せるマリの言葉を、ダイゴは呆れ果てながら受け入れるのだった。
「えっ!?マリさんの家に住むことになった!?」
ダイゴからの話を聞いて、ミソラが驚きの声を上げる。
「オレもそんなつもりはなかったんだけど、アイツがどうしてもっていうから・・・」
「ハァ・・マリさんも意外と頑固なところがあるからね・・1度思い込んだら聞かなくなるから・・・」
憮然と言いかけるダイゴと、肩を落とすミソラ。2人が参っている間も、マリは接客に尽力していた。
「そこまで来たら、もうお言葉に甘えるしかないわね・・」
「ったく。やってらんねぇぜ・・」
ミソラに言いとがめられて、ダイゴは呆れ果てた。
その頃、マーロン内にあるTVでは、ある人物に関するニュースが流れていた。
小松エイジ。様々なTV番組で司会を務め、そのリーダシップで人気を博した人物である。
しかしエイジの言動の中には自己中心的な立ち振る舞いもあり、賛否両論となっている。
「すごいですね、小松エイジは・・」
「あれだけ笑いを取れるのも驚きです・・」
「でも私は嫌いです。自分勝手すぎるし・・」
「そうよね・・度が過ぎてるってところも多いですよね・・」
マーロンのウェイトレスたちの間だけでも、エイジへの評価は割れていた。
「ダイゴくんはどう思う?小松エイジ・・」
ミソラが話を切り出すと、ダイゴが苛立ちを浮かべてきた。
「思い上がった身の程知らずだ・・もしもオレの前に現れやがったら、つかみかかってるところだ・・」
「・・ダイゴくんらしい答えね・・でも早まったことだけはしないでよね・・」
正直な気持ちを口にするダイゴに、ミソラが注意を促す。
そのとき、マーロン内が騒然となった。なんとあのエイジが店を訪れたのだ。
「ちょっとコーヒーもらえるか?ホットコーヒー。」
エイジが注文すると、ウェイトレスの1人が応対する。彼女はカップに入れたコーヒーを持っていく。
だがウェイトレスはつまずき、エイジにコーヒーをこぼしてしまう。
「も、申し訳ございません!」
「あっ!?申し訳ございませんで済むと思ってるのか!?」
とっさに謝るウェイトレスに、エイジが血相を変えて怒鳴りかかってきた。
「オレのオーダーメイドだぞ!それをこんなに汚しやがって・・!」
「すみません!すみません!すみません!」
怒鳴り散らすエイジにひたすら謝るウェイトレス。他のウェイトレスは怖さを覚えて近づくことができずにいた。
(いけない・・こんなところ、ダイゴくんが来たら・・)
控え室から顔を出していたミソラが、不安を覚えたときだった。
「何だよ・・どうしたってんだよ・・・?」
そこへダイゴが顔を出そうとしていた。ミソラはとっさに彼の体を押さえて、控え室に引き戻す。
「お、おいっ!何だってんだよ!?」
「ダメ・・あなたは出てったらダメ・・・!」
声を荒げて暴れるダイゴを、ミソラが必死に止める。
「もう時間がないから・・けど後でこの店を訴えさせてもらうからな!」
エイジが苛立ちを募らせて言い放つ。
「オレに全部任せていればいい・・私の言うとおりにすれば全てうまくいくんだよ・・」
エイジをそう言い残すと、マーロンを出て行ってしまった。騒然さが治まって、ウェイトレスたちが肩を落とす。
「おい、いい加減に放せって!」
ダイゴがミソラの腕を振り払い、睨みつけてくる。
「何だってんだよ、マジで・・何かあったのか・・?」
「・・あの人が来たのよ・・あなたの嫌いなタイプの、小松エイジさんが・・」
ダイゴの問いかけに、ミソラが憮然とした態度で答える。それを聞いてダイゴが憤慨し、控え室から飛び出そうとする。
「もう店を出たわよ。今さら追いかけても見つからない・・」
「何で止めたんだ!?あんなヤツはすぐにでも痛い目を見ないと、マジで理解しねぇんだよ!」
呼び止めるミソラにダイゴが怒鳴り散らす。
「そんな突っかかるようなことばかりしても、何もかも解決するとは限らないのよ・・時には引くことも大事なことなのよ・・」
「引いてどうすんだ!?引けばアイツが大人しくなっていい人になるのかよ!?」
注意を促すミソラだが、ダイゴは聞き入れず怒りを治めようとしない。
「祈ったり願ったりしたところで、ただ言葉をかけたところで、そいつは何も変わらない・・あんなヤツに従ったところで、状況が悪くなるだけだ・・分からせないと、そいつはホントに何も変わらないんだ・・・!」
「自分の勝手のために、みんなに迷惑をかけるの!?これはあなた1人の問題じゃないのよ!」
「アイツは今、みんなの迷惑かけてんだろうが!それをほっとくほうがいいってことなのかよ!?」
ミソラの激昂に反発すると、ダイゴは感情をむき出しにしたままマーロンを飛び出していった。
「ダイゴさん!」
マリが声を上げると、彼を追いかけて続けて店を飛び出していった。
「ダイゴくん・・マリさん・・・」
2人の後ろ姿を見つめて、ミソラは困惑の色を隠せなくなっていた。
ウェイトレスに私服を汚されたことに、エイジは苛立っていた。彼は裏路地に差し掛かると、そばの壁を殴りつけていた。
「イライラするなぁ!・・まぁ、あんな店、オレにかかればいつでもつぶせるんだけどな・・」
苛立ちを浮かべながらも不敵な笑みを浮かべるエイジ。そこへ2人の不良が通りがかってきた。
「ここはオレらの縄張りなんだよ・・勝手に入ってんじゃねぇよ・・」
「お、コイツ小松エイジだぜ・・こんなところで会えるとはな・・」
不良たちが笑みを浮かべて淡々と言いかける。するとエイジも不敵な笑みを浮かべてきた。
「丁度ムカムカしてたんだ・・お前らで憂さ晴らしさせてくれよ・・・!」
鋭く言いかけたエイジの頬に紋様が走る。彼の姿が野獣の怪物へと変貌を遂げる。
「うわっ!バケモノ!」
慌てて逃げ出す不良たちだが、ビーストガルヴォルスとなったエイジにすぐに捕まってしまうのだった。
エイジを追って街中を駆け回っていたダイゴ。彼を追っていたマリも追いついていた。
「もうムリですよ・・この中から人1人探すなんて・・・」
「くそっ!・・アイツ、今度会ったらゼッテーぶっ飛ばしてやる・・・!」
困惑するマリと、苛立ちが治まらないでいるダイゴ。
そのとき、通りをパトカーが走ってきた。通り抜ける数台のパトカーに、ダイゴが眼つきを鋭くする。
「何か、あったのでしょうか・・・?」
不安の面持ちを浮かべるマリ。気になったダイゴが、彼女とともにパトカーに進むほうに向かっていく。
パトカーは裏路地前で停まっていた。刑事や警官たちが、裏路地で起きた殺人事件を調べていた。
「すごい有様だ・・これじゃ元が誰なのか分かりゃしねぇ・・」
その現場に来ていたジョージが、滅入った様子を見せる。被害者は粉々になっており、身元の特定を困難にさせていた。
「おい、おっちゃん・・何かあったのか・・?」
集まっている野次馬をかき分けて、ダイゴが声をかけてきた。
「お、おい、ダイゴ・・何やってんだ、こんなところで・・・!?」
驚きを覚えたジョージが声を荒げる。
「いろいろあってな・・それより何があったんだ・・?」
「部外者には関係ないことだ。何にしても、見ても気分が悪くなるだけだ・・」
ダイゴが訊ねると、ジョージはため息をつく。
「粉砕殺人。バラバラなんてもんじゃない。原型を留めないくらいに粉々になっちまってる・・もう血と骨肉だけって感じだ・・」
「そんなことが・・ひでぇことしやがる・・・」
ジョージの説明を聞いて、ダイゴが苛立ちを浮かべる。マリもさらに不安を膨らませていた。
(人間の仕業とは考えにくい・・もしかして、ガルヴォルスってバケモンの仕業か・・・)
胸中で呟くダイゴが、ガルヴォルスの犯罪を予感していた。
「気が萎えちまった・・戻ることにする・・・」
憮然とした態度を見せながら、ダイゴがこの場から離れていく。拭えない不安を抱えながら、ジョージと別れるのだった。
それから1日がたち、マーロン内は平穏な日常が送られていると思われていた。だがウェイトレスたちは、エイジに対する不安を抱えていた。
いつエイジが再びやってくるか。それがどういうことになるのか。彼らはいてもたってもいられない心境だった。
そんな中で、ダイゴはエイジに対して不満いっぱいだった。自己中心的で身勝手なエイジを、彼はどうしても許せなかった。
そしてついに、みんなが恐れていた事態が始まった。
「この前言ったとおり、訴えさせてもらうぞ・・」
エイジが尊大な態度でマーロンにやってきた。その声を耳にして、ダイゴの怒りに火が付く。
「アンタらはオレの言うとおりにしてれば何の問題も・・」
エイジが言いかけているところへ、ダイゴが迫って詰め寄ってきた。
「何だ、お前?お前もこの店の店員か?」
眉をひそめて言いかけるエイジ。その直後、眼を見開いたダイゴがエイジを殴り飛ばした。
この事態にミソラやマリ、ウェイトレスや客たちが緊迫を覚える。
「お、おい!いきなり何するんだ!?」
「おい・・テメェ、あんま調子のんなよ・・自分なら何をやっても許されると、本気で思ってんのか・・・!?」
怒鳴りかけるエイジに、ダイゴが鋭く言い放つ。
「オレは今までいろんなことをして、みんなをまとめてきたんだ!それでたくさん成功してきている!だからオレの言うとおりにしてれば・・!」
「アンタの思い通りになれば、周りがどうなろうと知ったことじゃねぇってのかよ・・・何様のつもりだ、おい!」
「オレはオレの手腕で人気を博してきたんだ!オレがいなかったら、何もかも盛り上がらないんだよ!」
「思い上がるな、このクズヤローが!」
怒鳴りかけてくるエイジに、ダイゴが激昂してつかみかかろうとする。だがウェイトレスたちに止められる。
「放せ!放しやがれ!オレはコイツをぶっ飛ばさねぇと・・!」
「いい加減にしなさい、ダイゴくん!何もかもムチャクチャにするつもりなの!?」
声を荒げるダイゴに、ミソラが呼びかける。危機感を覚えたエイジが、捨て台詞を口にすることなくマーロンを飛び出した。
「くそっ!」
ダイゴはウェイトレスたちを振り払うと、エイジを追って飛び出していった。
逃げていくエイジを必死に追いかけるダイゴ。裏路地に入り込んだところで、エイジが足を止める。
「しつこいヤツだ・・そんなにオレに叩き潰されたいみたいだな!」
怒りを爆発させたエイジがビーストガルヴォルスに変身する。異形の姿となった彼を目の当たりにして、ダイゴが緊迫を覚える。
「おめぇ・・ガルヴォルスだったのか・・・!」
「ほう?ガルヴォルスのことを知ってるとは・・ただのガキじゃねぇが、オレに反抗的なヤツは何だろうが容赦しない!」
エイジが哄笑を上げながらダイゴに飛びかかる。振りかざしてきた彼の巨大な右腕を、ダイゴがとっさにかわす。
「あの殺人もおめぇの仕業だったのか・・そうまでして自分の思い通りにならねぇと気が治まらねぇってのかよ、おめぇは!」
エイジに対する敵意と怒りを膨らませるダイゴ。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「お前もガルヴォルスか・・だが、オレがお前をつぶすことに何の変わりもない!」
「どこまでも勝手なこと言ってんじゃねぇ!」
両腕を振り下ろしてくるエイジを、ダイゴが迎え撃つ。だがエイジの豪腕に押されて、ダイゴが激しく突き飛ばされる。
「ぐっ!・・やっぱすげぇバカ力だ・・・!」
「今さら後悔しても遅い・・お前はオレの殺気を呼び起こしちまったんだからな!」
うめくダイゴにエイジが高らかに言い放つ。
「お前も木っ端微塵にしてやる・・オレに刃向かうヤツは、いい人生を送ることはできないんだよ!」
「どこまで・・・死ななきゃ分かんねぇとでも言いたいのかよ!?」
エイジの態度にさらなる怒りを覚えるダイゴ。彼の体から漆黒のオーラがあふれ出してくる。
これはダイゴの怒りに呼応していた。彼の激しい怒りが、力となって放出してきていた。
「治まらねぇ・・叩き潰さねぇと気が治まらねぇ・・・!」
膨らんでくる怒りを抑えきれなくなり、荒々しく吐息をもらすダイゴ。その姿はまさに悪魔が獣と呼べるものだった。
「ぶっ潰す・・・コイツが目に付くだけで、生きた心地がしねぇ!」
「それはこっちのセリフだ!いい加減にくたばりやがれ!」
互いに憎悪をたぎらせて、ダイゴとエイジが飛びかかる。
「そこまでよ!」
そのとき、声とともに銃声が響き渡った。その轟音を耳にして、ダイゴとエイジが足を止める。
発砲したのはアオイだった。2人の戦いを発見した彼女は、暴走するダイゴを止めるべく空砲を撃ったのである。
「目を覚ましなさい、ダイゴくん!心までガルヴォルスになる気!?」
アオイの声を耳にして、ダイゴが我に返る。その弾みで彼に姿が人間に戻る。
「何だ、お前は?オレの憂さ晴らしの邪魔をするのか?」
エイジがアオイに鋭い視線を向ける。するとアオイはエイジに銃口を向ける。
「いくらガルヴォルスであっても、無敵ではない・・どこまで耐えられるかしら・・・?」
「人間風情が、オレに太刀打ちできると思っているのか?・・邪魔をしてくれた礼は、たっぷりしてもらうからな!」
淡々と言いかけるアオイと、高らかに言い放つエイジ。エイジが敵意をむき出しにして、アオイに飛びかかる。
「おい、そんなんで1人で勝てるわけが・・!」
ダイゴがアオイに呼びかけたときだった。彼女の後ろから兵士たちが次々と現れ、エイジに向けて発砲する。
乱れ飛ぶ弾丸を受けて、エイジが怯む。この奇襲に彼は毒づいていた。
「こ、こんなのありなのかよ・・・!」
うめくエイジがとっさに地面を殴りつける。その亀裂から彼は地下にもぐりこんでいった。
「ダメです!追跡は不可能です!」
兵士の言葉を聞いて、アオイが毒づく。彼女は困惑の色を浮かべているダイゴに歩み寄る。
「ダイゴくん、しっかりしなさい・・・ダイゴくん!」
アオイに呼びかけられて、ダイゴは我に返る。同時に彼は、自分の中にある奇妙な感覚を覚えて、歯がゆさを浮かべていた。
「オレは・・・オレは・・・!」
渦巻く困惑に、ダイゴは体を震わせ、拳を強く握り締めていた。
次回
「私も、ダイゴさんのような勇気が持てたなら・・・」
「これしか、オレは方法をしらないからな・・・」
「お前1人が逆らったって、何も変わりはしないんだよ!」
「間違ってるのを正しいことにされてて黙ってるほど、オレは大人しくはねぇんだよ!」