ガルヴォルスZERO 第2話「獣の宿命」
「お、おい・・コレが・・ホントにオレなのか・・こんなバケモンになっちまったのかよ・・・!?」
突如異形の姿へ変貌を遂げたダイゴ。変わり果てた自分の姿に錯乱に陥った彼が、獣のような絶叫を上げる。
頭の中が真っ白になったダイゴが意識を失い、その場に倒れる。同時に彼の姿も人間へと戻る。
横たわり動かなくなるダイゴ。その彼の前に、1人の女性がやってきていた。
その日の営業時間を終えたマーロン。店内にいたミソラとマリは、ダイゴのことを気にかけていた。
「ダイゴくん、どこで寝ているんだろう・・まさか野宿ってことはないわよね・・・」
「どういうことですか、ミソラさん?・・ダイゴさん、何があったのですか・・・!?」
心配の声を上げるミソラに、マリが不安を浮かべる。するとミソラが深刻な面持ちを浮かべてきた。
「誰にも言わないでね・・みんなが不安がるから・・」
ミソラの言葉にマリは小さく頷く。
「ダイゴくんは家出している身なの・・両親とケンカしてね・・」
「ダイゴさんに、そんなことが・・・」
「いつも自分に真っ直ぐだった・・自分が許せないものにはいつも突っかかっていた・・それ自体も悪いことだけど、ダイゴらしかった・・・」
マリに語りかけるミソラが、物悲しい笑みを浮かべる。
「そのうちにとんでもないことに巻き込まれてしまうんじゃないかって、不安を感じることがあるの・・止められたらって思うけど、素直に言うことを聞くような性格じゃないし・・」
「正直なんですね、ダイゴさん・・・」
「よく言えばそうなのよね・・それをもっといい方向に向いてくれたら・・・」
ミソラが言いかけて肩を落としたとき、マリが微笑みかけているのを見て当惑する。
「マリちゃん、もしかしてダイゴくんのこと・・・」
「あれだけ真っ直ぐに自分の気持ちを伝えようとする姿勢は、勇気があっていいと思います・・私も、ダイゴさんのような勇気のある人を目指したいです・・・」
「・・・あれは勇気があるというより闇雲、無謀といったところだけど・・・」
ダイゴの姿を賞賛するマリに、ミソラは再び肩を落としていた。
異形の怪物へと変貌したことに驚愕し、そのまま意識を失ったダイゴ。彼が目を覚ましたのは、建物の中の、医務室と思しき場所にあるベットの上だった。
「くっ・・・オレは・・・」
体を起こしたダイゴが、自分に何が起こったのか思い返していく。その中で、彼は自分が今いる場所に疑問を抱く。
「ここは?・・・オレは、何でこんなところに・・・!?」
ダイゴは呟きながら周囲を見回す。この部屋は彼に全く覚えのない場所だった。
「どういうことなんだ・・それよりもオレの体・・どうなっちまったんだ・・・!?」
「ここは私たちの施設の特別医務室よ。私の指示でここに運んでもらったの・・」
緊迫を募らせるダイゴに向けて、女性の声がかかった。彼が振り返った部屋の入り口には、長い黒髪の女性が歩いてきた。
「佐々木ダイゴくんね?あなたはガルヴォルスに転化して、別のガルヴォルスを撃退したのよ。」
「ガルヴォルス・・・?」
女性の口にした言葉に、ダイゴが眉をひそめる。
「ガルヴォルスは、簡単にいうと人間の進化。何らかのきっかけで動植物の能力を得た怪物への変身を可能とするのよ。」
「怪物!?・・バカなこというな!人間があんなバケモンになるなんて、現実にあるわけねぇだろうが!」
「これは紛れもない事実であることは、あなたも十分理解しているはずよ。現にガルヴォルスを目撃していて、あなた自身もガルヴォルスへの変身を遂げている。」
女性の言葉に反論できなくなり、ダイゴが歯がゆさを見せる。彼の脳裏に、異形の怪物へと変貌を遂げた自分の姿がよぎる。
「ウソだろ・・・オレはもう・・人間じゃねぇってのかよ・・・」
「信じたくないのは分かる。でもそれが現実なの・・それはあなたにも、私にも覆せない・・」
愕然となるダイゴに、女性が淡々と言いかける。
「紹介がまだだったわね・・私はアオイ。大野アオイ。これでも警視よ。」
「警視?警察がオレをとっ捕まえて、何のマネだ?」
自己紹介をしてきた女性、アオイにダイゴが眉をひそめる。
「オレは自分でも野暮な性分だと思ってる。今まで捕まってきた数も、捕まる理由も、数え切れねぇくらいだ・・けどアンタがオレを捕まえたのは、オレの思い当たる理由じゃないってことは分かる・・」
「そうね。あなたがここに運ばれて今意識を取り戻すまでに、私たちはあなたの素性を大まか調べさせてもらったわ。当然あなたがここにいるのは、あなたが行ってきた素行のためじゃない。あなたがガルヴォルスに転化したため。そして・・」
声を振り絞るように言いかけるダイゴに、アオイは淡々と語りかける。
「暗躍しているガルヴォルスたちを根絶やしにするため・・」
「ガルヴォルスたちを、根絶やしに・・・?」
「あなたたちの知らないところで、ガルヴォルスたちは暗躍し、本能や欲望の赴くままに行動している。このままではいずれ、私たちが気付かないうちにガルヴォルスによって人間が滅ぼされる可能性も否定できないのよ・・」
困惑を募らせていくダイゴに、アオイが深刻さを込めて語りかけていく。
「でもガルヴォルスを前に、私たちはあまりにも無力・・だからガルヴォルスに転化してしまいながらも、まだ人の心を残している者へ協力を求めているのよ。」
「それでオレを狙ったのか?・・オレを利用しようって魂胆か・・・!?」
アオイの考えを聞いて、ダイゴが苛立ちを浮かべる。
「ふざけんな!危なっかしいことは他人にやらせて、おめぇらは高みの見物かよ!」
「そんなつもりはないわ。私たちは常に命を賭けている。すぐにでも殺されるくらいの状況下に、私たちは置かれているのよ・・」
怒号を上げるダイゴに、アオイが真剣な面持ちのまま言葉を返す。
「私はガルヴォルスを倒すために戦っているの・・もしも私の手に負えることなら、他の誰にもこの打倒は譲らない・・・!」
「けど手に負えねぇからオレを使おうってんだろ!?・・虫のいいこと言ってんじゃねぇよ・・どんな理由だろうと、オレはアンタらに従うつもりはねぇ!」
意思を示すアオイだが、ダイゴは全く聞き入れようとしない。
「ハッキリ言っといてやる・・オレはオレの思うようにやる・・たとえオレが何になろうとな!」
ダイゴはアオイに言い放つと、医務室から飛び出そうとする。
「だったらこれだけは忠告しておくわ!あなたが望むと望まざるとに関わらず、あなたがガルヴォルスの本能の赴くまま暴走を働くことになれば、私は容赦なくあなたを殺すわ・・人ではなく、ガルヴォルスと認識して・・・!」
アオイがダイゴに向けて鋭く言い放つ。ガルヴォルスに対する強い憎悪を込めて。
「オレはバケモンじゃねぇ・・何だろうとオレに手を上げようっていうなら、オレは容赦しねぇぞ・・・!」
ダイゴもアオイに鋭く言い返すと、改めて医務室を飛び出した。
「直情的な人ね・・まるで手の付けられない狂犬・・・もっとも、姿や行為が獣になっていない今はまだ華というところね・・・」
ダイゴの言動に呆れながら、アオイは真剣な面持ちに戻る。
「引き続き監視を続けなさい。まだ危険レベルではないけど、用心に越したことはないからね・・」
アオイは医務室にある無線で部下に呼びかける。彼女たちはダイゴの行動に目を向けていた。
様々なことを見聞きしたため、ダイゴは半ば混乱したままだった。彼は今でもこれまでのことが夢だったかもしれないとも考えていた。
「何だってんだよ・・バケモンが現れるし、ヘンな女にワケ分かんねぇこと聞かされたり・・・!」
混乱の答えを見出せず、ダイゴが苛立ちをあらわにする。
「ったく!どいつもこいつも!そうまでしてオレを怒らせたいってのかよ!」
混乱のあまり、ダイゴは怒りを膨らませていた。
何もかもが自分を追い込む。誰もが傍若無人に振る舞い、自分を絶対的にして理不尽、不条理を押し付ける。その態度がダイゴの感情を逆撫でしていた。
「こんなところをウロウロしていたとはな・・」
そこへ声をかけられて、ダイゴが足を止めて振り返る。薄汚れた風貌の男が、ダイゴを見つめて不気味な笑みを浮かべていた。
「何だ、おめぇは!?・・オレは今イライラしてんだよ・・気安く声をかけんな・・・!」
「そうはいかない・・オレはお前をつぶしたくてウズウズしているんだから・・・!」
不満を口にするダイゴに、男がさらに不気味に笑う。彼の頬に異様な紋様が浮かび、ダイゴは緊迫を覚える。
そして男の姿がスネイクガルヴォルスへと変貌する。
「おめぇ・・この前のバケモンかよ!」
「この前やられた屈辱、ここで晴らさせてもらう・・・!」
毒づくダイゴに向けて、スネイクガルヴォルスが咆哮を上げる。不気味な吐息をもらしながら、スネイクガルヴォルスがゆっくりと接近していく。
「さぁ、早くお前もガルヴォルスになれよ・・あの悪魔のようなガルヴォルスに・・・!」
「悪魔・・オレがあのときなったヤツか・・・!」
挑発してくるスネイクガルヴォルスに、ダイゴがさらに毒づく。
「ふざけんな!オレとおめぇみてぇなバケモンと一緒にするな!」
「とぼけていろ。痛い目にあえば、イヤでも素直になるはずだ・・・!」
鋭く言い放つダイゴを、スネイクガルヴォルスがあざ笑う。彼は鋭い爪を持つ右手をダイゴに向けて振りかざす。
「ぐっ!」
その攻撃をかわすダイゴだが、体勢を崩してその場に倒れ込む。起き上がろうとする彼の体を、スネイクガルヴォルスが踏みつける。
「ここまで来てとぼけるのはなしだぜ!でないと本当に死んでしまうぞ!」
「くそっ!・・どいつもこいつも、自分の好き勝手ばかりしやがって・・・!」
怒鳴りかけるスネイクガルヴォルスと、理不尽に憤りを膨らませていくダイゴ。
「いつから他人の生き死にを決められるほど、おめぇらは偉くなったんだよ!?」
絶叫を上げたダイゴの姿に変化が起こる。その変動の衝撃で、スネイクガルヴォルスが突き飛ばされる。
「ぐっ!・・とうとうその姿になったか・・・!」
変身したダイゴを見据えて、スネイクガルヴォルスが哄笑を上げる。一方、ダイゴはスネイクガルヴォルスに鋭い視線を向けていた。
「テメェ、あんま調子に乗るなよ・・何でもかんでも、自分の思い通りになると思ったら、大間違いだぞ!」
「大口を叩くほどになったか・・その姿のお前を、この爪でズタズタにしてやるぞ!」
怒りの言葉をぶつけるダイゴに、スネイクガルヴォルスが鋭く言い放つ。飛びかかるスネイクガルヴォルスを、ダイゴが迎え撃つ。
「この前のようにはいかないぞ!」
スネイクガルヴォルスが高らかに言い放つ。その攻撃をかわそうとするダイゴだが、スネイクガルヴォルスの執拗な攻撃は、ダイゴの体を捉えた。
「やった・・オレが受けた苦痛と屈辱、そっくりそのまま・・・!」
歓喜の声を上げるスネイクガルヴォルスだが、突如ダイゴに突き出している腕をつかまれる。
「何っ!?」
「そんなにいい気分なのかよ・・他人を弄んで、そいつが悲しんだりイラついたりしてんのがそんなに嬉しいのかよ!?」
驚愕の声を上げるスネイクガルヴォルスに、ダイゴが怒号を浴びせる。同時にダイゴはつかむ手に力を込めて、スネイクガルヴォルスの腕を締め付ける。
「ぐああっ!」
腕を折られて絶叫を上げるスネイクガルヴォルス。激痛のあまりに動けずにいる彼に眼前に、怒りをあらわにしているダイゴが立ちはだかる。
「どうしても理解できねぇっていうなら、体で覚えさせてやるよ!」
激昂したダイゴが剣を具現化する。彼は手にしたその剣を、スネイクガルヴォルスの体に付き立てた。
「ぎゃああっ!」
断末魔の叫びを上げるスネイクガルヴォルス。息の根を止められた彼の体が石のように固まる。
ダイゴが剣を引き抜いた瞬間、スネイクガルヴォルスは砂のように崩れて崩壊を引き起こした。その亡骸は風に吹かれて霧散していった。
(これが、バケモンの最後・・・オレも、そうなるっていうのかよ・・・!?)
自分の末路を想像して、歯がゆさを募らせるダイゴ。人の姿に戻った彼は、その激情のため拳を強く握り締めていた。
夜の寝床を求めて、ダイゴは公園に向かっていた。そこならばほとんど邪魔をされず、ベンチで眠れるからである。
だがその公園の入り口で、ダイゴは足を止めた。彼の前にマリが現れた。
「おめぇ・・・」
彼女の登場にダイゴが眉をひそめる。駆け込んだマリは息を絶え絶えにしていた。必死になってダイゴを探し回った証だった。
「探しました・・家出して、寝るところも決まっていないって聞きました・・・」
「ミソラか・・ったく、余計なことを・・・」
優しく言いかけるマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「ミソラさんからいろいろ聞きました・・ダイゴさん、どんなときでも真っ直ぐなんですね・・・」
「ウソをつきたくねぇってだけだ・・それと、勝手なマネしてるヤツらが許せねぇってのもあるが・・」
「ううん・・それができる人は、本当にすごいと私は思います・・・」
「そんなことねぇよ・・やったところで悪者扱い・・どいつもこいつも、なめたマネしやがって・・・」
褒め称えるマリだが、ダイゴは憮然とした態度を崩さなかった。
いつも直情的になって、許せないものに突っかかるダイゴ。周囲から悪者にされて、それが彼に疑心暗鬼を植え付けていた。
「あの・・よかったら、私の家に来ませんか?・・一軒家なんですけど、住んでいるのは私だけなんです・・・」
「おめぇ・・家族はいねぇのか・・・?」
家に誘ってくるマリに、ダイゴが眉をひそめる。彼の問いかけにマリが小さく頷く。
「1人暮らしには広すぎるくらいだから・・ダイゴさんも気兼ねなく・・・」
「何を企んでいる?・・オレをどうかしたいのか・・・!?」
「どうもしないよ・・ただ、あなたを助けたいだけ・・・これが、私の素直な気持ちだから・・・」
懸念を抱くダイゴに、マリが自分の正直な気持ちを口にする。その率直な姿勢に、ダイゴは心を揺さぶられていた。
「・・・分かったよ・・今回だけ厄介になるよ・・」
渋々誘いを受けることにしたダイゴに、マリは笑顔を見せた。
彼女に案内されてダイゴが行き着いたのは、大きな家。一家が住む大きさで、1人暮らしをするには大きすぎるものだった。
「マジっすか!?・・マジで一軒家じゃねぇかよ・・・!」
その広さにダイゴは驚きを隠せなくなる。
「さぁ、入ってください。仕事を終えてからあなたを探していましたから、夜ご飯がまだなんです・・ダイゴさんの分も作りますから・・」
マリは笑顔を見せると、家へと入っていった。
「アイツ、何気に意固地だな・・・」
憮然とした態度を見せるダイゴも、マリの家に足を踏み入れるのだった。
先ほどのダイゴとスネイクガルヴォルスの交戦は、アオイの率いる部隊によって情報収集が行われていた。アオイはその交戦を映したモニターを見ていた。
(彼の力、ガルヴォルスの中でも高いレベルね・・敵に回したら、厄介な存在になるのは間違いないわね・・)
ダイゴのガルヴォルスの力を確認して、アオイは警戒心を強めていた。彼女の後ろにいる、部隊の隊員の1人が声をかけてきた。
「いかがいたしますか?変身される前に始末することも可能ですが・・」
「今はまだ監視に留めておきなさい・・下手に藪をつついて、蛇を出す必要はないわ・・・」
隊員の言葉にアオイが答える。彼女はダイゴに対して様子見を決め込むのだった。
次回
「私の言うとおりにすれば全てうまくいくんだよ・・」
「何様のつもりだ、おい!」
「時には引くことも大事なことなのよ・・」
「自分の勝手のために、みんなに迷惑をかけるの!?」
「あんなヤツに従ったところで、状況が悪くなるだけだ・・」