ガルヴォルスZEROrevenge 第25話「Song for...

 

 

 女神の姿から赤みを帯びた姿に変化するココロ。体の一部分が刺々しいものとなっており、殺気が満ちあふれていた。

「できればこの姿になりたくなかった・・この力は確実に破壊と滅びをもたらしてしまう・・・」

 ココロが低い声音で、呟くように言いかける。

「でもこうでもしないと、みんなの幸せが壊れてしまう・・・だからあなたたちを、不幸をもたらす堕天使として、完全に消滅させる・・・!」

 ココロは言い放つと、ルシファーガルヴォルスに向けて両手を突き出す。するとルシファーガルヴォルスが金縛りに襲われる。

「私の力は闇や不幸を抑えつけることができる・・ダイゴくん、マリさん、堕天使となったあなたたちも例外ではないのよ!」

 ココロが力を込めて、ルシファーガルヴォルスを上空に跳ね上げる。束縛されているルシファーガルヴォルスは、身動きが取れずに空の中を振り回される。

 ココロが念力を発したまま、ルシファーガルヴォルスを地上に叩き落とす。無防備ともいえる体勢で叩きつけたため、ココロはルシファーガルヴォルスにダメージを与えられたと思った。

「目を覚ましなさい。ダメージは受けても、このくらいで終わる程度の力ではないはずよ・・」

 ココロが低い声音で呼びかけ、念力を使ってルシファーガルヴォルスを持ち上げる。彼女は左手で念力を保ち、右手から紅い光の刃を出現させる。

「私があなたたちに向けているのは、救いの手ではなく退魔の剣・・ここであなたたちを消滅させるわ・・・」

 ココロが光の刃を握りしめて、ルシファーガルヴォルスに狙いを定める。ルシファーガルヴォルスは念力から抜け出すことができず、身動きが取れない。

「こんなことはしたくなかった・・あなたたちも、幸せを願っていただけなのだから・・・」

 一途の悲しみを噛みしめながら、ココロが光の刃を投げつける。刃はルシファーガルヴォルスに命中するはずだった。

 だが光の刃はルシファーガルヴォルスに命中する直前で、突然かき消されてしまった。

「えっ・・・!?

 ルシファーガルヴォルスを突き刺せなかったことに、ココロが目を疑う。

「オレたちは、ここで倒れるわけにはいかねぇんだよ!」

 さらにルシファーガルヴォルスが力を振り絞り、念力を打ち破って自由を取り戻す。

「攻撃に意識を傾けた、私の力までも・・・!?

 再び高めていた自信を打ち砕かれて、ココロが愕然となる。堕天使への融合を果たしたダイゴとマリは、力も心も揺るぎないものとなっていた。

「もう終わりにしようぜ、ココロ・・アンタの思ってる幸せじゃ、オレたちは納得しねぇよ・・」

「どうして!?・・私は、みんなを幸せにしたいだけなのに!」

「アンタの幸せ、誰も最初から望んでたわけじゃねぇだろ!」

 悲痛の叫びを上げるココロに、ルシファーガルヴォルスが怒号を上げる。

「もう何を言ってもムダだったな・・・オレたちの力と考えを、この一撃に込める・・・!」

 ルシファーガルヴォルスは言い放ち、右手を強く握りしめる。その右手から稲妻のような衝撃がほとばしる。

「確かにおめぇの言うとおり、幸せになれるのが1番いいのかもしれねぇ・・辛いことも何も考えずにいられたら、どんなに楽だったか・・・」

 ルシファーガルヴォルスがココロに向けて自分たちの心境を語っていく。

「けどな、そんなのはただの逃げ口上だ・・・辛いことやイヤなことを怖がるための逃げ道にしかならねぇ・・・!」

 右手を握りしめたまま、ルシファーガルヴォルスが構える。

「オレたちはどこまでも立ち向かっていく・・」

「私たちが納得のいくところまで・・・!」

 ルシファーガルヴォルスの口から、ダイゴだけでなく、マリの声も発せられた。2人はココロの急所を探ろうと、神経を研ぎ澄ませていく。

(マジで速く動かせるのかよ・・・!)

(しかも動きが不規則・・簡単に狙えるものじゃ・・・!)

 狙いを定めることができず、ダイゴとマリが焦りを感じていく。

(けどやってやる・・オレたちは帰るんだ・・落ち着ける場所に・・・!)

(うん・・私たちがいるべき場所に・・アテナさんも一緒に・・・!)

 貫こうとする信念が、ダイゴとマリから迷いをかき消した。ルシファーガルヴォルスが飛び出し、ココロに向かって拳を繰り出す。

「そう簡単にやらせるつもりはないわ・・・!」

 ココロも負けじと力を放出し、光の壁を出現させてルシファーガルヴォルスの打撃を防ぐ。それでもルシファーガルヴォルスは諦めず、光の壁を強引に破ろうとする。

「オレは・・オレたちは・・帰るんだ・・・!」

 ルシファーガルヴォルスが振り絞るように決意を口にしていく。

「何が幸せなのか、理屈じゃ分かんねぇことかもしれねぇ・・けど心から落ち着けるのが1番だって思えてくるんだ・・・」

 ルシファーガルヴォルスが一瞬、安らぎを込めた笑みを浮かべた。

「落ち着けるあの場所が、オレたちのホントの幸せの場所なんだ・・・」

「アテナさんも・・きっと幸せを取り戻せる・・・」

 ルシファーガルヴォルスの口から、ダイゴだけでなくマリの声も発せられる。2人の思いが、ルシファーガルヴォルスの拳に込められていく。

 そのとき、ルシファーガルヴォルスはココロの後ろにショウの姿があったように見えた。

(アニキ・・・!?

 ショウが見えることに、ダイゴは一瞬戸惑いを覚える。だがショウの姿はすぐに霧のように消えていった。

(アニキ・・・)

 ショウとの束の間の邂逅を経て、ダイゴは自分を貫く決心をさらに強めていった。

 ルシファーガルヴォルスの拳が、ココロが発する光の壁を打ち破った。さらにこの一撃は、ココロの体に勢いが留まらないまま叩き込まれた。

 ダイゴとマリの信念が込められたルシファーガルヴォルスの一撃の衝撃は、当てた部分だけでなく、ココロの体全体に広がった。結果、素早く不規則に動いていた彼女の急所も破壊されることとなった。

(やられる・・私が、やられる・・・!?

 絶望に襲われながら、ココロがそれを拒絶しようとする。

(消えたくない・・私がいなくなったら、幸せがなくなってしまう・・・!)

 幸せへの渇望が、ココロを死の淵に落とされるのを踏みとどまらせた。急所を破壊されても、彼女は死なずに生き延びていた。

 次の瞬間、ルシファーガルヴォルスの融合が解除され、ダイゴとマリに別れてしまう。2人とも力を使い果たしてしまったのである。

「しまった・・もう、力が・・・」

「ここまでやったのに・・・ココロさんは、そこまで強いの・・・」

 全ての力を出し尽くしてもココロの力を完全に打ち破れなかったことに、ダイゴとマリが愕然となる。

 だが力を使い果たしていたのはココロも同じだった。ガルヴォルスの姿を維持できず、彼女は人間の姿に戻る。

「まさかここまでやるなんて・・そこまであなたたちの気持ちは固いということね・・・」

 ココロが弱々しく微笑んで、ダイゴとマリに声をかける。

「でも私はまだ、消えるわけにはいかない・・まだ、たくさんの人が不幸になっているから・・・」

 ココロが言いかけながら、ゆっくりと前進していく。ダイゴにもマリにも、ガルヴォルスになることもできず、思うように動く力も残っていなかった。

「第一・・あなたたちは不幸になろうとしている・・そのあなたたちを放っておくことは・・私にはできない・・・」

「アンタ・・そこまで・・・!」

 幸せを追い求めていこうとするココロに対し、ダイゴが声を振り絞る。だが気持ちと裏腹に、彼もマリも戦う力が残っていなかった。

「お願い・・もう不幸にならないで・・・幸せの中にいて・・・」

「オレたちは・・・おめぇの幸せに付き合うつもりは・・・」

「待って、ダイゴ・・・」

 呼びかけていくココロに抗おうとするダイゴに、マリが声をかけた。

「ココロさん・・意識がなくなっている・・・」

「えっ・・・?」

 マリが口にした言葉に、ダイゴが驚きを覚える。ココロの瞳には輝きが宿っていなかった。

「大丈夫・・・私が幸せにするから・・・」

「ココロ・・完全に自分のことしか考えられなくなってるのか・・・」

 微笑を絶やさないココロに、ダイゴが困惑を募らせていく。

 次の瞬間、ココロの動きが突然止まった。彼女の体が石のように固くなっていた。

「これって・・まさか・・・」

 マリが愕然となったとき、ココロの体が砂のように崩れ出していった。命を終えた彼女は、ダイゴとマリの前から消滅していった。

「結局・・ココロは自分の考えてた幸せに執着したままだった・・・」

 ココロを救えなかったことに憤り、ダイゴが地面に両手を叩きつける。

「ココロはオレたちと同じだった・・自分を貫こうとしてたってのに・・・」

「自分を貫こうとする人同士だから、ここまでぶつかり合うことになってしまったのかもしれない・・ショウさんとも、そうだったし・・・」

 歯がゆさを見せるダイゴに、マリが沈痛さを込めて言葉を投げかける。

「・・そういえば、アニキの姿を見たような気がしたんだ・・・」

 彼女の言葉を聞いて、ダイゴがショウの姿を見た一瞬を思い出した。

「ショウさんが・・・?」

「見間違いかもしれねぇ・・けどアニキが、ココロの後ろにいたように見えた・・だからオレは、迷うことなく最後の1発を、ココロに叩き込むことができた・・そんな気がする・・・」

 当惑を見せるマリに、ダイゴが自分の心境を口にする。ショウが自分に共感してくれたとは思っていなかったが、自分たちを見届けようとしてくれていると、ダイゴは思っていた。

「・・だとしたら、ショウさんにも感謝しないとね・・ショウさんに助けられた・・そう感じるから・・・」

「そうだな・・・結果的に、アニキに救われたな・・・」

 互いに微笑みかけるマリとダイゴ。わずかに体力が回復したことで、2人はゆっくりと立ち上がる。

「これで、アテナさんやミライさん、みんなが元に戻ったのかな・・・?」

「そうだろうな・・戻って確かめねぇとな・・・」

 マリが投げかけた問いかけに答え、ダイゴが邸宅に戻ろうとする。だがまだ完全に回復しておらず、ダイゴがふらつく。

「慌てなくても、みんなのところに行けるから・・・」

「けど気になってくるんだからしょうがねぇだろ・・・」

 支えるマリにダイゴが憮然とした態度を見せる。2人はゆっくりと邸宅へと向かっていった。

 

 ココロの死によって、石化されていた女性たちが、石の殻が剥がれ落ちるように元に戻った。快楽で満たされていた彼女たちは、自分の身に何が起こったのか、すぐに思い出せなかった。

「あたし・・元に戻れた・・・」

 ミライも石化と快楽から解放され、脱力してその場に座り込む。

「石にされている間、とっても気持ちよくなってた・・おかしくなってもどうでもよくなってた・・・」

 記憶を呼び起こしていくミライが、押し寄せてきていた快感を思い返して気まずくなる。

「ダイゴもマリちゃんも、こんな気分を感じてるのかな・・・」

 自分の胸に手を当てて、ダイゴとマリのことを思うミライ。

「いけない・・アテナちゃん・・・!」

 アテナのことを思い出して、ミライが周囲を見回す。彼女が向けた視線の先に、膝を突いて座っているアテナの姿があった。

「アテナちゃん・・・アテナちゃんも石にされちゃったみたいだね・・・」

 全裸になっているアテナを見て、ミライが微笑みかける。

「ダイゴとマリちゃんは外なのかな・・・アテナちゃん、探しに行こう・・・」

「ミ・・・ミライさん・・・」

 呼びかけてくるミライに、アテナが弱々しく返事をする。

「私・・元に戻れたんですね・・・あのおかしな気分から解放されたんですよね・・・?」

「エヘヘ・・丸裸のままなんだけどね・・」

 問いかけてくるアテナに、ミライが照れ笑いを見せる。

「もう、大丈夫ってことだよね・・あたしたちがこうして元に戻れたんだから・・・」

 ミライはアテナを優しく抱き寄せ、互いの無事を改めて感じていく。

「もうすぐダイゴとマリちゃんが戻ってくる・・みんなと一緒に、マーロンに帰ろう・・・」

「ミライさん・・私、帰ってもいいのですか?・・みんなと一緒にいてもいいのですか?・・裏切られたりしませんか・・・?」

「裏切らない・・裏切りたくない・・あたし、ダイゴやマリちゃんだけじゃない・・アテナちゃんとも一緒にいたい・・・」

 戸惑いを見せるアテナを、ミライがさらに強く抱きしめる。彼女のぬくもりを感じて、アテナはさらにあたたかさを感じるようになっていた。

(やっと・・やっと終われるかもしれない・・・長かった不幸が・・・)

 アテナが心の中で不幸の終わりと幸せの始まりを実感していた。

(抜け出せないのかもしれないと思っていた不幸・・自分で何とかしようと思っても、終わりが見えてこなかった・・・)

 自分が体感してきた苦しみ、辛さを思い返していくアテナ。

(でもダイゴが、マリさんが、ミライさんが支えてくれた・・私の怒りや憎しみを、真正面から受け止めてくれた・・・)

 ダイゴたちとの衝突と信念を感じて、アテナは次第に喜びと安らぎを感じられるようになっていった。

(だから私も真正面からぶつかっていくことができた・・ココロに石にされて、おかしな気分に襲われても、諦めることはなかった・・・)

 自分がつかんだ本当の強さを感じて、アテナは徐々に安心していった。

(これで幸せになれる・・・幸せに・・・)

 心身ともに疲れ果てていたアテナは、ミライに抱かれたまま目を閉ざした。

「アテナちゃん・・・?」

 もたれかかってきたアテナに、ミライが当惑を覚える。

「どうしたの、アテナちゃん?・・もうすぐダイゴとマリちゃんが戻ってくるよ・・・」

 ミライが声をかけるが、アテナは答えない。

「もうちょっと頑張ろうよ、アテナちゃん・・目を開けて・・・」

 呼び続けても反応がないアテナに、ミライが笑みを消す。

「起きてよ、アテナちゃん!みんなと一緒に帰るんだから!」

 ミライが体をゆすっても、アテナは目を覚まさない。ミライの目から涙があふれ、アテナの頬にこぼれていく。

 そこへダイゴとマリがミライたちの前に戻ってきた。

「おめぇらも元に戻ったのか・・・アテナ、どうしたんだ・・・!?

 目を閉じているアテナを目の当たりにして、ダイゴが血相を変える。

「石から元に戻れたんですよね?・・どういうことなんですか・・・!?

 マリが不安を浮かべて、アテナに近寄る。

「起きて、アテナさん!何もかも終わりましたよ!」

 マリも呼びかけるが、それでもアテナは目を覚まさない。

「アテナ・・・」

 意識を失ったアテナを見下ろして、ダイゴが両手を強く握りしめる。

 ガルヴォルスがもたらした不幸に打ちひしがれて、絶望のどん底に落とされてきたアテナ。不幸から抜け出し、幸せを取り戻したはずの彼女は、ダイゴたちの前で眠りについていた。

 

 

次回

第26話「ZERO

 

「やっと戻ってこれたよ・・・」

「これで、アテナさんは幸せになれたのかな・・・?」

「信じられる・・信じることができる・・・」

「アイツもやっと、落ち着くことができたんだな・・・」

 

 

作品集

 

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