ガルヴォルスZEROrevenge 第26話「ZERO

 

 

 ココロの死によって、彼女に石化された女性は元に戻った。アテナも石化と快楽から解放できたが、すぐに意識を失ってしまった。

 ミライとマリが呼びかけても、アテナは目を覚まさなかった。

 石化が解かれてからしばらくして、ダイゴたちや女性たちは保護された。今回の出来事はココロの誘拐事件として処理された。

 だがアテナは特別保護扱いとなった。

 アテナは罪のない人間を手にかけてしまった。その事実を知っているジョージは、療養できる場を設けつつ自分が監視できる環境に置くことにしたのである。

「何でだよ・・何でアテナだけが・・・!?

 アテナへの処置に対して、ダイゴがジョージに不満を口にする。

「普通ではこう手を打つもんだ。いくら意識がないと言っても、あのお譲ちゃんは殺人を犯している。悠長に保護するわけにはいかねぇんだよ・・」

「そんな・・アテナさんは、不幸から抜け出したいだけなのに・・・」

 事情を説明するジョージだが、マリも納得していなかった。

「どんな理由があっても、殺人は犯罪だ・・と言いたいとこだがな・・・」

 ダイゴたちに言いかけて、ジョージがため息をつく。

「現状では証拠不十分。オレたちの力で立証することは不可能だろう・・回復したら日常生活に戻れるだろうな・・」

「おっちゃん・・ホントなのか・・アテナはもう・・・!」

「このことはあんまり外で言うなよ・・機密事項なんだから・・」

 ジョージからの言葉を聞いて、ダイゴが喜びを見せる。マリとミライも笑顔を見せるようになった。

「というわけだ。ここは大人しく帰ってくれ。何かあったら、すぐにそっちに知らせるから・・」

 ジョージの計らいを聞き入れて、ダイゴたちは渋々帰ることにした。アテナをジョージに任せて、ダイゴたちは日常へと戻っていった。

 

 アテナの療養と管理については、ミソラにも伝わっていた。彼女もアテナに向けて不安と心配を感じていた。

 アテナはいつ戻れるのか。または戻ってこれるのか。答えを見いだせず、ダイゴたちは気持ちを日常に傾けることができないでいた。

「アテナさん、本当に戻ってこれるのでしょうか・・・?」

 マーロンでの仕事中、マリが唐突に不安を口にする。

「戻ってくるかどうかはアイツ次第だ・・オレたちが分かる限りじゃ、アイツは戻ってきたいって考えてるんじゃねぇのか・・・」

 ダイゴが憮然とした態度のまま答える。悪ぶった振る舞いを見せている彼だが、内心アテナを心配していた。

「戻ってくる・・そう思ってねぇと、とても信じられねぇだろ・・・」

「ダイゴ・・・そうね・・信じてあげないと、アテナさんに悪いね・・・ごめんなさい・・つまらないことを聞いて・・」

 ダイゴの返事を聞いて、マリが微笑みかける。

「さっさと仕事を進ませねぇとな・・ミソラに怒られたら、さらに気分が悪くなるからな・・」

「そういうことを言うのもいけないよ、ダイゴ・・」

 憮然としたままのダイゴに、マリが笑顔で答える。

(アテナちゃん・・早く帰ってきて・・あたしたち、みんな待ってるから・・・)

 ダイゴとマリの会話を耳にして、ミライはアテナへの心配を膨らませていった。

 彼らの誰もがアテナの帰りを待っていた。彼女の帰りを信じて、彼らは気持ちを日常に戻していった。

 

 それから3日が過ぎた。願いと不安を抱えたまま、ダイゴたちは普段と変わらない時間を過ごしていた。

「まだ戻ってこないね、アテナさん・・」

 マリが心配の声を切り出すが、ダイゴは憮然とした態度を崩さない。

「何かあったらおっちゃんが知らせてくれる・・勝手なマネをするようなら、最初からあんな約束しねぇって・・」

「でももう3日よ・・目を覚ましてもいいと思うのだけど・・・」

 ダイゴが言葉をかけても、マリの不安が和らぐことはなかった。

「アテナさんとは、出会った頃から噛み合っていませんでしたね、ダイゴとは・・」

「オレは他のヤツと最初からかみ合ったことなんてほとんどねぇよ・・」

 マリが話を切り替えると、ダイゴが悪ぶった態度のまま答える。

「オレは身勝手なヤツを目にすると、黙ってられなかった・・認めちまうのが、受け入れちまうのが我慢できなかった・・それでよくおっちゃんに文句言われたもんだ・・」

 ダイゴが今までの自分を思い返していく。

「もしもここに、マーロンに来てなかったら、オレはマジで暴走してただろうな・・アニキやマリア、ココロみてぇに・・・」

 ショウ、マリア、ココロ、自分の意思を貫こうとしてぶつかり合った相手を思い出していくダイゴ。無関係な人まで弄びながらも、身勝手な人間の犠牲者でもある彼ら。

 そのことを理解しながらも、ダイゴは同情はしていなかった。同情すればショウたちの考えを受け入れることになりかねない。ダイゴはそう思っていた。

「アテナさんも、そうなりかけましたね・・・」

「けど最後に戻ってきた・・そんな気がしてる・・・」

 呟くように言いかけるマリに、ダイゴが頷く。

 不幸から抜け出そうとして暴走の道に踏み入ってしまったアテナ。しかしダイゴとの対立、マリとミライの呼びかけと優しさで、アテナは人としての心を取り戻すことができた。

 暴走しかけても、暴走してしまっても戻ることができる。償うことができる。ダイゴとマリは改めてそのことを感じ取っていた。

「アテナさんの本当の幸せはこれから・・そうでしょう・・?」

「それはアイツが決めることだ・・まずアイツが納得しねぇと・・・」

 アテナへの信頼を寄せるマリと、淡々と答えるだけのダイゴ。彼らはアテナの帰りを待ちながら、マーロンでの仕事を続けていった。

 そのとき、マーロンの玄関のドアが開く音がした。

「いらっしゃいま・・アテナさん!」

 挨拶に出たミソラが驚きの声を上げる。その声を耳にして、マリとミライも顔を出す。

「アテナちゃん・・アテナちゃんだよね・・・」

 ミライが喜びの笑顔を見せると、アテナが微笑んで頷いた。

「アテナちゃんが・・やっと戻ってこれたよ・・・」

「ミライさん・・みなさん・・・」

 喜びのあまりに目に涙を浮かべるミライとアテナ。2人は抱き合って、再会を分かり合っていた。

「やれやれ。無事に感動の再会になったな・・」

 2人の抱擁を見て、付き添いで来ていたジョージがため息混じりに呟きかける。

「世話になったな、おっちゃん・・」

 ダイゴが声をかけてくると、ジョージも笑みをこぼしてきた。

「けど特別扱いは今回限りだ。今度もし何か起こしたら、オレでも庇い切れねぇぞ・・」

「それはアイツ次第だ。アイツは何が幸せなのかを分かり始めてきてる・・」

 忠告を送るジョージだが、ダイゴは落ち着いて答えていた。この場にいる誰もが、アテナが人としての時間を送れることを信じていた。

(戻ってきた・・戻ってこれた・・・)

 マーロンに戻ってこれたこと、ダイゴたちのいる場所に戻ってこれたことを実感するアテナ。

(幸せを求めるために罪を犯した私を、みんなは許して受け入れてくれた・・本当の幸せはここにあった・・・)

 改めて幸せを実感していくアテナ。彼女が流した涙が床にこぼれ落ちていく。

(信じられる・・信じることができる・・・みんなと一緒なら・・・)

 心からの信頼を寄せるアテナ。彼女は涙を拭って、ダイゴとマリに振り向く。

「お客さんが待ってるよ・・きちんと仕事しないとダメよ・・・」

「・・・そうよ、みんな・・仕事に戻りなさい・・」

 アテナに続いてミソラが声をかける。ダイゴたちは仕事に戻り、アテナとの再会の喜びを先送りにすることとなった。

 

 その日の夜を、アテナはミライの部屋で過ごすこととなった。ミライの部屋の中で、アテナは気持ちを落ち着かせていた。

(やっと帰ってきた・・そうなのね・・・)

 自分が自分にとっての平穏にいることを、アテナは改めて実感していった。

「アテナちゃん、ホントに大丈夫・・・?」

 部屋に入ってきたミライが、アテナに声をかけてきた。

「ミライさん・・・大丈夫・・と言いたいんですが・・まだ落ち着かなくて・・・」

 微笑みかけるアテナのそばに、ミライが座って寄り添ってきた。

「不安になってきちゃうんだね・・もしあたしがアテナちゃんの立場になっても、すぐに安心できないかも・・」

「ミライさん・・・」

 自分の心境を口にするミライに、アテナが戸惑いを覚える。

「あたしはアテナちゃんやダイゴみたいなガルヴォルスじゃないから、どんなに辛いかは完璧に分かんないかもしれない・・でももしあたしがガルヴォルスになったら、みんなみたいに自分を保てるか、自信がない・・・」

「そんなことないですよ、ミライさん・・私は、ずっと自分のことばかり考えていましたから・・・」

 自分に無力感を感じているミライに、アテナが弁解を入れる。

「ミライさんやダイゴたちがいなかったら、今の私はない・・それは確かです・・・」

「アテナちゃん・・・そう言ってもらえると、ホントに嬉しいよ・・・」

 笑顔を見せるアテナに、喜びをあふれさせたミライが抱きついてきた。

「ちょっと、ミライさん!?

「今夜はアテナちゃんと離れたくない!一緒にいさせて!」

 動揺を見せるアテナに、ミライが涙ながらに呼びかける。再会を心から喜ぶ彼女を、アテナは優しく受け止めた。

「本当・・大人げないですよ、ミライさん・・・ダイゴほどではないですけど・・・」

「ダイゴは大人げなくないよ・・だからあたしも、ダイゴに惚れたんだよね・・・」

 笑みをこぼすアテナに、ミライが言葉を返した。

(ダイゴ、マリちゃん、信じてるよ・・2人がこれからも一緒でいられるって・・・アテナちゃんも信じてるからね・・・)

 ダイゴとマリへの信頼を心の中で寄せるミライ。2人の安息がこれからも続いていくことを、その安息をアテナも信じていることを、彼女は願っていた。

 

 その頃、ダイゴとマリは家にいた。2人はベッドの中で寄り添い合っていた。

「やっと戻ってきたね、アテナさん・・・」

「あぁ・・そうだな・・・」

 マリが声をかけると、ダイゴが低い声音で答える。

「人の心を取り戻し、みんなに受け入れられている・・自分のしてきたことの償いもしようとしている・・・これで、アテナさんは幸せになれたのかな・・・?」

「それはアイツ自身が決めることだ・・オレが見た限りじゃ、満足してたって感じはしてた・・」

 マリが投げかけた疑問に、ダイゴが真剣な面持ちで答える。

「アイツはずっと苦しんで、やっと自分が求めてた幸せをつかんだ・・アイツもやっと、落ち着くことができたんだな・・・」

「私たちも、こうして落ち着いている・・これが私たちにとって1番いい形だって、私は信じたい・・・」

 アテナの平穏を実感していくダイゴとマリ。2人は互いへの気持ちに突き動かされるまま、口づけを交わした。

 ダイゴとマリはそのまま互いを抱きしめていった。ダイゴに胸や腰を撫でまわされて、マリが心地よさを感じていく。

 自分たちが望む安息。自分たちが求める幸せは、自分たちで手にして分かち合うこと。他から与えられても本当の幸せになれない。

 ダイゴとマリは今、心から安息を感じて満足していた。

「ダイゴ・・もっとやって・・もっと・・・」

「マリ・・この時間のほうが、納得できるってことだな・・・」

 恍惚を募らせてさらに触れ合っていくマリとダイゴ。互いの体に触れ合うことが、今の2人の安らぎになっていた。

 今回体感してきた悲しみや辛さが体から抜け出ていくような感覚を、ダイゴとマリは自分たちの快楽として堪能していた。

「オレたちは、オレたちが心から落ち着ける場所にいるんだ・・・」

「うん・・ダイゴやみんなのいる場所に、私の安らぎがある・・・」

 改めて自分たちの安息を実感していくダイゴとマリ。2人は互いを強く抱きしめたまま、この日の夜を過ごしていった。

 

 ダイゴたちに平穏な日常が戻ってから数週間がたった。この日もマーロンでの平穏な日常が送られるはずだった。

「えっ?マーロンを出て旅に・・?」

 アテナが切り出した話に、ミソラが当惑を見せる。

「はい・・人間として、自分でどこまでやれるのか、私たちの周りにある幸せがどういうものなのか、確かめたいんです・・」

「1人で大丈夫なの?・・1人で旅をさせるのは、私としてはできないと言いたいところなんだけど・・・」

 自分の決意を口にするアテナに、ミソラが心配を見せる。そのマーロンにジョージも顔を出してきた。

「オレも正直認めることができねぇな・・お嬢さんは保護観察の扱いだ。そんな勝手、警察として許せるわけねぇって・・」

「もし私が何かやったら、そのときは今度こそ死刑にしていい・・この旅では・・ううん、これからももうガルヴォルスの力は使わない・・・」

 ジョージが忠告を送るが、アテナの決意は変わらない。

「あのなぁ・・そういう問題じゃ・・」

「アテナが自分で決めたことなら、やらせてやったらどうだ・・?」

 肩を落とすジョージに、ダイゴが声をかけてきた。

「アテナ、おめぇとオレの安らぎは、正確には全く同じというわけじゃねぇ。もしもおめぇのすることが、またオレの落ち着ける場所を壊すことになるなら、オレはおめぇを倒さなきゃならなくなる・・」

「構わないわ。もしも間違いを犯したときにあなたに止めてもらえるなら、私は後悔はしない・・」

 ダイゴが忠告を送るが、それでもアテナの決意は変わらない。彼女の言葉を聞いて、ダイゴが笑みを見せた。

「だったら気が変わらねぇうちに行っちまえ・・それともここに残るのか・・?」

「残るつもりなら最初からこんなこと言わないわ・・・」

 憮然とした態度を見せるダイゴに、アテナも頑なな態度を見せた。

「アテナさん・・・本当に行ってしまうんですね・・・」

 マリが沈痛の面持ちを浮かべて、アテナに声をかけてきた。

「また、ここに戻ってきますよね?・・また、私たちと一緒に過ごせますよね・・・?」

「必ずとは言い切れませんが・・いつかまたここに、みんなに会いに行きたいと思います・・・」

 マリが問いかけると、アテナが微笑みかける。アテナもダイゴたちへの絆を大切にしたいと思っていた。

「では、本当に気持ちが変わらないうちに、行くことにします・・・」

 アテナが改めて決意を胸に秘めて、ダイゴたちに声をかけていく。

「絶対に・・絶対に帰ってきてね、アテナちゃん・・・」

 ミライがアテナに声をかけて、大粒の涙をこぼす。するとアテナが笑顔を見せてきた。

「帰ってきますよ、ミライさん・・だから、泣くことなんてないですよ・・・」

「アテナちゃん・・・でも・・やっぱりさびしいよ・・・」

 アテナが声をかけるが、ミライからあふれる涙は止まらない。

「必ず帰ってきます・・みなさんが、私の心の支えですから・・・」

 ミライ、ジョージ、ミソラ、マリへの視線を移していくアテナ。彼女はその視線をダイゴで止める。

「私が帰るまでに、その悪い性格を直してよね・・」

「いい性格になって、気分がよくなるわけじゃねぇよ・・・」

 あえて覚めた態度を見せるアテナに、ダイゴも憮然とした態度を見せた。

「それではみなさん・・・行ってきます・・・」

 アテナは深々と頭を下げてから、マーロンから歩き出していった。涙ではなく笑顔を見せて、彼女はダイゴたちと別れた。

(ホントに待ってるからな・・自分を強くして、いつか必ず帰ってこいよ・・・)

 遠ざかっていくアテナに向けて、ダイゴが心の中で呼びかけた。

(オレはこの落ち着ける場所にいる・・この場所を守るために、オレは戦い続ける・・・)

 さらに自分の決意を改めて固めるダイゴ。

 心が落ち着ける場所が、自分の居場所であり、守るべき場所。ダイゴの日常と戦いは、これからも続いていく。

 

 

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