ガルヴォルスZEROrevenge 第24話「乱舞のメロディ」
石化されて全裸の石像にされ、ココロによってさらに意識を弄ばれ、アテナは押し寄せる快楽に絶望を感じていた。心身ともに追い込まれた彼女の心は、ただただ涙を流すことしかできなかった。
「心配しなくていい・・あなたが楽になれるまで・・あなたが幸せになれたって実感するまで・・私がそばについているから・・・」
ココロがアテナに向けて囁きかける。しかし快楽と絶望に打ちひしがれたアテナの精神は崩壊に向かっていた。
「辛いことを考えず、辛いことを忘れて、気持ちを楽にして・・・」
「やめて・・・離れて・・・ダメ・・・」
「大丈夫・・私が不幸にさせない・・私があなたと、あなたの幸せを守っていくから・・・」
拒絶し続けるアテナに顔を近づけ、ココロが口づけをしてくる。心身に流れ込んでくる快感が頂点に達し、アテナはついに自制心を失った。
アテナから唇を離して、ココロが彼女の顔を見つめて笑みをこぼす。
「そう、そのまま・・そのまま楽に、幸せになって・・・」
アテナが自分のもたらした幸福に完全に身を委ねようとしていると確信して、ココロは彼女を再び優しく抱きしめた。
「誰も不幸にしない・・私があなたを不幸にしない・・絶対に・・・」
ココロに抱かれるアテナは、脱力し呆然となっていた。
アテナの意識はダイゴとマリの心にも流れ込んできていた。だが快楽に突き動かされるダイゴとマリに、アテナは抱擁されて弄ばれていた。
「やめて、ダイゴ、マリさん・・目を覚まして・・・」
声を振り絞るアテナだが、ダイゴもマリも抱擁をやめない。
「私はずっと、あなたたちを憎んできた・・ううん、ガルヴォルスも人間も、何もかも敵と見ていた・・それなのに、ダイゴもマリさんもミライさんも、ずっと私を信じていた・・・」
アテナが自分の気持ちを2人に向けて口にする。
「私がどんなに信じなくても、ダイゴもマリさんもみんな、私を信じ続けてきた・・・だから、私もやっと信じてみようと、思えるようになった・・・」
2人に弄ばれながらも、それでもアテナはひたすら語り続けていく。
「裏切られたと思って憎んできた人・・・倒さないと幸せを取り戻せないと思っていた・・・でも、そんなみんなが、私が信じるべき人たちだった・・・」
アテナの中で、次第にダイゴたちへの信頼が強まっていく。
「信じないといけなかった・・信じるべきだった・・・それなのに・・私は・・・」
気持ちの高まりにつれて、アテナが物悲しい笑みを浮かべる。
「信じたい・・・信じてるから・・・ダイゴたちが、この不幸を消してくれることを・・・」
徐々に力を入れようとするアテナが、抱きついてくるダイゴとマリに両手を伸ばす。彼女も2人を優しく抱擁する。
「みんなのところに帰るんでしょう?・・ならこんなところで止まっている場合じゃないよね?・・・幸せを、取り戻そう・・・」
呼びかけるアテナの目から涙が流れていく。彼女の涙と思いで、快楽に駆られていたダイゴとマリに揺らぎが起こった。
「あなたたちの居場所が、私の幸せになっているから・・・」
満面の笑顔を見せるアテナ。ダイゴたちへの思いから無意識に出たものだった。
その笑顔が、ダイゴとマリに、心の奥に追いやられていた安らぎを呼び起こさせた。
「アテナ・・・」
自我を取り戻したダイゴとマリが、そばにいるアテナを目の当たりにして当惑を覚える。
「・・・ここは・・オレたちの心の中か・・・」
「ダイゴ・・自分を取り戻せたのね・・・」
快楽から自分を取り戻したダイゴに、アテナが安堵を浮かべる。だがアテナがすぐに苦悶の表情を浮かべてきた。
「ま・・また・・おかしな気分になってきた・・・」
「アテナさん・・・!?」
呼吸を荒くするアテナに、マリが困惑を浮かべる。
「アテナ・・・まさか、おめぇも・・・!?」
「うん・・・ココロに石にされて・・さらに心の中にまで入り込んできてる・・私を完全におかしくさせるために・・・」
目を見開くダイゴに、アテナが自分が置かれている状況を説明する。
「どうしてダイゴとマリさんの心の中に入り込んだのか、私にも分からない・・もしかしたら、心のどこかでみんなに助けを求めてたのかもしれない・・・」
「アテナさん・・・」
「もう私にはどうすることもできない・・どんなに抵抗しても、アイツには、ココロには逆らい切れない・・・」
戸惑いを見せるマリの前で、アテナが沈痛さを見せる。
「本当は、私自身で何とかしたい・・でももう、あなたたちに頼ることしかできない・・わがままになってしまうのも分かってる・・・」
涙を流すアテナが、ダイゴにすがりついてきた。
「お願い・・不幸を消して・・・幸せを守って・・・」
「アテナ・・・お前の言う幸せってのが、オレたちの落ち着ける場所と同じなら・・・」
アテナの願いを受けて、ダイゴが目つきを鋭くする。
「オレは戦ってやる・・オレたちの居場所をぶち壊そうとするヤツらと・・・!」
決意を見せるダイゴに淡い光が宿る。マリにも同様の光があふれてきていた。
「私も戻りたい・・ダイゴ、アテナさん、ミライさん・・みんなのいる日常に・・・」
「こんなおかしいのは、幸せとは違う・・気分がよくなるだけじゃなく、心から落ち着けるのが、幸せってもんなんだろうな・・・」
マリも自分の気持ちを告げると、ダイゴが小さく頷く。
「もう少しだけ辛抱しろ、アテナ・・もうアイツの、ココロの思い通りにはさせてたまるか・・・!」
ダイゴはアテナに言いかけると、マリを抱きしめて意識を集中する。2人から発するヒカルが強まり、心をひとつにした。
アテナの心に快楽と幸福をもたらしたココロは、意識を現実へと引き戻した。一糸まとわぬ石像となっているアテナから、ココロは体を離す。
「これであなたも、不幸を忘れて幸せを感じることができるわね・・・」
アテナに幸せが訪れたと感じて、ココロが妖しく微笑む。
「みんなも終わることのない最高の幸せを感じていくことになる・・あなたにもこのすばらしさを、ゆっくりと覚えていけばいいわ・・」
周囲に満ちあふれている幸せを実感して、ココロは喜びを膨らませていく。彼女は自分がみんなを幸せにしていることに満足していた。
そのとき、ココロは周囲の中で起こり始めた異変を感じ取り、笑みを消した。
「この感じ・・アテナさんのときと同じ・・・」
呟きかけるココロが周囲を見回す。彼女の視線が、ダイゴとマリで止まった。
「ダイゴくん・・マリさん・・・!?」
石になっている2人に対して、ココロが緊張感をお覚える。
「どういうこと・・2人から、私が与えた幸せがあふれ出してくる・・2人とも、幸せで満ちあふれていたはず・・・!?」
ダイゴとマリの石の裸身に刻まれているひび割れが広がっていき、ココロが目を疑う。
「もしかして・・2人が私の幸せから抜け出そうとしているの・・・体も心も幸せで満たされているのに・・そんなこと・・・!?」
愕然となるココロが、ダイゴとマリに近づいていく。
「2人も止めないと・・この幸せから抜け出してしまったら、2人はまた不幸になってしまう・・・!」
冷静さを失って焦りをあらわにするココロ。彼女はダイゴとマリに駆け寄り、2人の心の中に入り込もうとした。
だがココロがのぞいたダイゴとマリの心の中には、2人の意識ではなく、2人が融合したルシファーガルヴォルスの姿があった。
(その姿・・融合している・・・!?)
ココロはルシファーガルヴォルスの姿の正体にすぐに気付いた。強大になった2人の力に押され、ココロは心の中に入ることができない。
「すごい力・・すごいことは予測できていたけど、ここまでとは・・・!」
自分の力と意識が拒絶され、ココロが愕然となる。ダイゴとマリの石の裸身が、さらなるひび割れの広がりを見せる。
「私の力が及ばない・・私の幸せが・・壊れていく・・・」
絶望感を膨らませていくココロ。石の裸身が殻を破るように吹き飛んだ。
まばゆいばかりの光が部屋を満たしていた。ココロの前に立っていたのは、ダイゴとマリが融合を果たしたルシファーガルヴォルスだった。
「私の幸せを破るなんて・・まさに堕天使といったところね・・・」
驚愕にさいなまれながら、ココロがおもむろに笑みをこぼしていく。ルシファーガルヴォルスが閉ざしていた目をゆっくりと開いた。
「アテナが、このおかしな気分から救い出してくれた・・・」
ルシファーガルヴォルスが呟くように低く告げる。
「もうこれ以上、おめぇの勝手な考えのために、みんなをおかしな気分にさせるのは我慢がならねぇ・・・」
「そうはいかない・・私が大人しくしてしまったら、不幸を抱えている人たちが幸せになれなくなる・・・!」
ココロがルシファーガルヴォルスに言い返し、ヴィーナスガルヴォルスに変身する。
「ガルヴォルスとなった私のそばでは、ガルヴォルスは快楽を感じずにはいられなくなる・・・」
妖しく微笑むココロが、ルシファーガルヴォルスに近づこうとする。だがルシファーガルヴォルスは快感にさいなまれる様子を見せず、平然としていた。
「快楽を感じていないの!?・・・それほどまでに、2人が融合した堕天使の力は・・・!」
ダイゴとマリの融合したルシファーガルヴォルスの力に、ココロはさらなる驚愕を覚える。
「アンタの考えてる幸せは、オレたちの安らぎとは全然違うもんだ・・アンタの幸せを押しつけられたって、幸せになれるわけじゃねぇんだよ・・・」
「そんなこと・・幸せになれて、イヤだという人なんて・・・!」
「誰かに幸せを与えられたって、必ず幸せになれるってわけじゃねぇ・・自分で追い求めて、自分でつかんで初めて、ホントの幸せになるんじゃねぇのかよ・・・!?」
困惑を隠せないでいるココロに、ルシファーガルヴォルスが自分の考えを告げる。
「頼り過ぎたり甘えすぎたりするのはいけねぇ・・かといって、自分だけでしょいこむのもいけねぇ・・丁度いい具合にやっていくのが1番いい・・それが幸せってもんじゃねぇのか・・・?」
「それでみんなが幸せになれるの?・・全員が幸せを自分でつかめるわけじゃない・・だから私が、みんなに幸せを・・・!」
ルシファーガルヴォルスに言い返すココロ。彼女の体から淡い光があふれ出てくる。
「やっぱおめぇも、簡単に自分を曲げねぇんだな・・・」
憤りを噛みしめるように呟くと、ルシファーガルヴォルスが背中から翼を広げる。左右それぞれが白と黒で分けられた翼だった。
「ここまで来たら、もう言葉をかけるのに意味はねぇよな・・・!」
「そうまでして・・そうまでして自分を不幸にしたいの!?」
目を見開いて飛び出していくルシファーガルヴォルスを、ココロが力を振り絞って迎え撃つ。だが彼女はあえて防御を取ってルシファーガルヴォルスの攻撃を受けた。
私室から廊下を横切って、さらに窓を破って邸宅の外に飛び出すココロ。石化した女性たちを気遣い、彼女は邸宅の中での戦いを避けたのである。
「外でやるか・・こっちもやりやすくなった・・・!」
「せっかくみんなが幸せになっているのに、邪魔するわけにはいかないからね・・・」
不敵な笑みを見せるルシファーガルヴォルスに、ココロも微笑みかける。彼女は意識を集中して、力を解放する。
「そしてあなたたちにも、改めて幸せを・・・!」
ココロがルシファーガルヴォルスに飛びかかり、抱きしめるように捕まえる。
「これだけ密着していたら、感じずにはいられないでしょう・・?」
最高の形で快楽を与えられると確信し、ココロが笑みをこぼしていく。
「感じるが・・この気分におかしくされてる場合じゃねぇんでな!」
だがルシファーガルヴォルスは心からの快楽をものともせず、力を放出する。堕天使の拳を体に受けて、ココロが目を見開いてうめく。
「お、重い・・このパワー・・・!」
ルシファーガルヴォルスの力を痛感し、ココロが怯んで後ずさりする。
「あのときの堕天使の力をも超えている・・ここまで力を上げてくるなんて・・・!」
「早く終わらせるぞ・・コイツは負担が大きいからな・・・」
うめくココロと低く告げるルシファーガルヴォルス。融合の持続に限界があるため、ルシファーガルヴォルスが間を置かずにココロに向かっていく。
(もう1度・・もう1度ダイゴくんとマリさんに、終わりのない最高の幸せを・・・!)
意を決したココロが、ルシファーガルヴォルスが繰り出した突きを受ける。堕天使の右手はココロの体に突き刺さっていたが、急所は外していた。
「攻撃を急いだようね・・私は急所は体内で自由に動かせるし、再生能力もガルヴォルスの中でも高い・・」
目を見開いたココロが、ルシファーガルヴォルスの両腕をつかむ。
「あなたたちにもう1度・・幸せを与える・・・!」
思い立ったココロがつかんでいる両手から光をあふれさせる。彼女はダイゴとマリをもう1度石化し、快楽の海に沈めようとしていた。
「もうおめぇの考える幸せには付き合い切れねぇ・・・!」
ルシファーガルヴォルスが全身から閃光を放出する。堕天使の力がココロの石化の光をかき消したのである。
「そんな!?・・私の力が、私の幸せが・・破られるなんて・・・!?」
快楽の石化さえも破られ、ココロは絶望にさいなまれる。気分を落ちつけてから、ルシファーガルヴォルスが閉ざしていた口を開く。
「おめぇの象徴となってるその能力も、オレたちには通用しねぇ・・諦めてみんなを元に戻せ・・・できることなら、おめぇを殺したくねぇ・・こんなおめぇも、自分以外のみんなのために戦ってるんだからな・・・」
「そうはいかない・・私が諦めたら、みんなの幸せも壊れてしまう・・・!」
「その幸せが偽物で幻だってことに、おめぇも気付いてるんじゃねぇのか!?」
声を振り絞るココロに向けて、ルシファーガルヴォルスが声を張り上げる。
「もう偽物の幸せはおしめぇだ・・みんなを元に戻してくれ・・・!」
「ダメよ・・終わらせてしまったら、幸せが壊れてしまう・・また不幸になってしまう・・・!」
呼びかけるルシファーガルヴォルスだが、ココロは聞き入れようとしない。
「私の幸せをここまではねつける・・そんなあなたたちはもう、不幸を与える堕天使でしかない・・・!」
振り絞るように言いかけるココロが、全身に力を入れていく。
「女神は不幸を消して幸せを与える癒しだけではない・・悪魔や堕天使を浄化するための攻撃の手段も持っているのよ・・・」
目つきを鋭くするココロの姿が、徐々に変化を引き起こしていく。この変貌にルシファーガルヴォルスが緊迫を覚える。
白い輝きを宿していたはずの女神が、紅い覇気を放つ聖戦士の風貌を見せてきた。体の一部分が刺々しいものとなっており、殺気が満ちあふれていた。
「その破壊の力で・・あなたたちを消滅させる・・・!」
ダイゴとマリを完全に滅ぼそうと、ココロは敵意をむき出しにしてきた。
次回
「辛いことも何も考えずにいられたら、どんなに楽だったか・・・」
「けどな、そんなのはただの逃げ口上だ・・・」
「オレたちはどこまでも立ち向かっていく・・」
「落ち着けるあの場所が、オレたちのホントの幸せの場所なんだ・・・」