ガルヴォルスZEROrevenge 第21話「快楽への呪縛」

 

 

 激しい戦いの末、ショウとの完全な決別を果たすこととなったダイゴとマリ。だが2人はココロに連れ去られてしまった。

 ショウとの戦いでの消耗と心のもたらす恍惚にさいなまれ、ダイゴとマリは意識を失っていた。

「く・・・オレは・・・」

 意識を取り戻したダイゴが体を起こす。彼らがいたのは高価な家具が揃っている部屋だった。

「ダイゴ・・・私たちは・・・?」

 マリも目を覚ましてダイゴに声をかける。

「確か・・オレたちはココロに連れてかれて・・・」

「そうだった・・・でも、ここはいったい・・・?」

 ダイゴとマリが部屋を見回すが、自分たちのいるのがどこなのか分からなかった。

「目が覚めたようね・・戦いの疲れと私の幸せで、意識を保てなくなっていたようね・・・」

 そこへ声がかかり、ダイゴとマリが緊迫を覚える。2人のいる部屋にココロが入ってきた。

「ここは私の実家の邸宅。そして私の私室よ。あなたたちは私がここまで連れてきている間に、意識を失ってしまったのよ・・」

「ココロの実家・・何でオレたちをここに・・・!?

 事情を説明するココロに、ダイゴが警戒の眼差しを送る。

「オレたちは、アテナとミライのところに行かなくちゃなんねぇんだよ・・ここでのん気にしてる場合じゃねぇんだよ!」

「心配しなくても、2人もすぐに連れてくるから・・あのアテナというお嬢さん、あなたたち以上の不幸と、不幸から抜け出そうとする気持ちを抱えているから・・・」

「おめぇ・・マジで何を企んでんだ!?・・・オレたちに何をしようってんだ・・・!?

「言ったはずよ・・私は不幸を消し去りたいだけ・・あなたたちのも、彼女のも・・・」

 さらにココロを警戒するダイゴだが、ココロは妖しい笑みを崩さない。

「私はガルヴォルスに快楽を与えることができるのは、前にも話したわね・・でも、快楽を与える方法は他にもある。それもガルヴォルスも人間も関係なく・・・」

「何をするつもりかは知らねぇが、オレたちの邪魔をするなら容赦しねぇぞ!」

 淡々と語りかけていくココロに、ダイゴがデーモンガルヴォルスに変身する。

「少し体を休めたとはいえ、そんなに休んだとはいえないのに、ガルヴォルスになれるだけの力が残っていたとはね・・でもやめておきなさい。私に太刀打ちできるほどには回復していないはず・・」

「それがどうした!?どんな状態だろうと、オレは戦うときには戦うんだよ!」

 ココロに向けて声を張り上げるダイゴ。するとココロが笑みを消し、目つきを鋭くしてきた。

「できることなら手荒なことはしたくなかった・・ここも私の部屋だから、あまり荒々しいことはしたくない・・・」

 ココロもヴィーナスガルヴォルスに変身する。その変貌でダイゴとマリが恍惚に襲われて、その場にうずくまる。

「疲れが残っているあなたたちは、この快楽に逆らえない・・それに私と戦おうとしても、返り討ちにされるだけよ・・・」

「だから、それがどうした!?・・オレは、オレたちの落ち着きを壊そうとするヤツと戦うだけだ・・・!」

 忠告を送るココロだが、ダイゴは力を振り絞って立ち上がる。右の拳を繰り出すダイゴだが、ココロに軽々と防がれる。

「それでも、今のあなたたちの力は回復していない・・・」

 ココロは低く告げると、ダイゴの体に手を当てて衝撃を与える。苦痛を覚えたダイゴが後ずさって倒れる。

「ダイゴ・・・!」

 マリが恍惚に苦悶を見せながら、ダイゴに駆け寄っていく。

「ちくしょう・・力が戻ってねぇのか・・・!」

「ショウさんと戦ったときに、力を使いすぎたみたい・・私たちの融合は、力を高いけど体力の消耗も激しいから・・・」

 毒づくダイゴと、危機感を募らせるマリ。窮地に追い込まれた2人に、ココロが近づいてくる。

「心配しなくていいわ・・大人しくしていれば、これ以上は手荒なことはしないわ・・・」

 ココロが思うように動けずにいるダイゴとマリを捕まえる。

「私のもたらす幸せはこれだけじゃない・・2人一緒の・・終わりのない幸せを感じるといいわ・・・」

 2人をつかむココロの両手から光があふれる。光は一気に広がって、ダイゴとマリを包み込んでいった。

 ガルヴォルスへの変身が解かれ、2人は閃光に力を奪われていった。

 

 ダイゴとマリとの連絡が取れず、ミライは不安を募らせていた。何度電話をかけてもつながらないため、彼女はひとまずミソラに連絡を入れた。

“ダイゴくんとマリさんからはまだ連絡は来ていないわ・・2人に何か・・・”

「アテナちゃんを説得できたんだけど・・・2人のことだから大丈夫だとは思うんだけど・・・」

“分かったわ・・私のほうでも連絡してみる・・ミライは少し探したら、1度アテナさんと一緒に戻ってきなさい。アテナさん、疲れているから・・・”

「うん・・そうするよ・・・」

 ミソラとの連絡を終えて、ミライが携帯電話をしまう。

「ちょっとだけダイゴとマリちゃんを探してみよう・・ダメなら1回マーロンに出直そう・・」

「ミライさん・・はい・・・」

 ミライの呼びかけにアテナが頷く。2人はダイゴとマリを追い求めて、心身ともに参っている中歩き出していった。

 ダイゴとマリがココロに連れて行かれたことを、ミライもアテナも気付いていなかった。

 

 ココロの放った閃光を浴びたダイゴとマリ。2人は抱擁をしたまま、着ていた服がほとんど引き裂かれていた。

 さらにあらわになった2人の体に異変が起きていた。石への変質を引き起こし、ところどころにヒビが入っていた。

「な・・・何が、起こったんだ・・・!?

「体に、力が入らない・・・疲れたのを差し引いても・・・」

 自分たちに起きている異変に、ダイゴもマリも困惑を覚える。動かそうとしても力を入れられず、2人は立ち尽くすだけとなっていた。

「あなたたちは体が石に変わっていっているのよ。目で見て簡単に分かる変化というよりも、人から石に徐々に質が変わっていくというものよ・・」

 力を入れられなくなっているダイゴとマリに、ココロが妖しい笑みを浮かべて声をかけてきた。

「石化途中のあなたたちは、まだ自分の思うように体を動かせるけど、その体は石のように固くなっている・・完全にその変化が終われば、あなたたちは完全に石になる・・・」

「何だと・・・やべぇ・・このままじゃオレたち・・・」

「あのときのように、また石に・・・」

 ココロの説明を聞いて、ダイゴとマリが危機感を募らせる。

「私のもたらす石化は、単に石に変えるだけではないの・・」

 ココロが言いかけたとき、ダイゴとマリにかけられた石化が進行を起こす。すると2人の体を恍惚が押し寄せてきた。

「くっ・・また、この感じ・・・」

「おかしくなっていく・・しかも、どんどん強まって・・我慢・・できない・・・」

 恍惚にさいなまれてあえいでいくダイゴとマリ。耐えようとしても体が言うことを聞かず、2人は本能的に体を寄せ合わせようとする。

「感じてきたでしょう?私がかける石化には、快楽を呼び起こす効果もあるのよ・・」

 ココロがダイゴとマリに向けて、淡々と語りかけてくる。

「人から石に変わっていく変化が、強い快楽をもたらしているの・・完全に石になったとき、あなたたちは快楽に包まれて、それを堪能することしか考えられなくなる・・」

「何だと・・それじゃ、オレたちは石になっている間、おかしな気分になったままなのかよ・・・」

「幸せだけを感じることができれば、不幸を感じることもなくなる・・・これでガルヴォルスだけではなく、人間も不幸から解放できる・・・」

 ココロが投げかけていく言葉に、ダイゴは思わず息をのむ。

「くそっ・・このままおかしな感じになって・・・」

 ダイゴが抗おうとするが、体が思うように動かせず、さらに押し寄せてくる快感のために冷静でいられなくなっていた。

「ダメだ・・全然力が入らねぇ・・・マリを抱きしめるだけで精一杯だ・・・」

「ダメ・・・自分を・・保てない・・・」

 石化の進行とともに膨らんでいく快楽に襲われて、ダイゴもマリも脱力していた。ダイゴがマリを右腕で抱き寄せたまま、2人は立ち尽くすばかりとなっていた。

 ダイゴとマリの体の抑制が石化の快楽を抑えきれず、愛液があふれ、足を伝って床に流れていく。

「まだ・・まだアテナちゃんを連れ戻せていないのに・・・気持ちが・・抑えきれない・・・」

 弱々しく呟くマリが、快楽に後押しされるがままにダイゴとの口づけを交わす。ダイゴもマリとの口づけに喜びを感じていた。

(気分がよくなってる・・マリに触れてぇっていう気持ちが抑えきれない・・・)

(・・もう・・ダイゴのことしか考えられない・・ダイゴと一緒でいたくなっている・・・)

 抱擁の喜びに包まれていくダイゴとマリ。2人は欲情を抑えられなくなり、自我も理性も保てなくなっていた。

(マリ・・・)

(ダイゴ・・・)

 ココロのもたらした石化に完全に包まれたダイゴとマリ。体が人のぬくもりを失い、あふれていた涙と愛液が途切れた。

「これであなたたちも、幸せで満たされた・・・」

 物言わぬ石像と化したダイゴとマリを見つめて、ココロが笑みをこぼしていく。

「あなたたちの心の中は、湧き上がってくる快感でいっぱいになっている・・快感の喜び以外には何も感じられなくなっている・・・」

 ココロがダイゴとマリの頬に手を添えて撫でていく。

「私には分かる・・今のあなたたちは、心の中でお互いに触れ合いたくなっている・・・」

 ココロはダイゴとマリの心の中を感じていた。

「私がもたらした幸せを受け入れると、この幸せ以外のことを考えられなくなる。結果辛いことを考えることもなく、辛さを感じることもなくなる・・これが私が見つけた幸せの形・・・」

 悩ましい笑みを浮かべながら、ココロが2人から手を離す。

「もう辛くならなくていい・・・あなたたちに、終わりのない最高の幸せを・・・」

 ダイゴとマリに囁きかけると、ココロは部屋を出た。

 抱き寄せたまま、ダイゴとマリは立ち尽くしたまま動かなくなっていた。意識は残っていたが、石化がもたらす恍惚に満たされて、2人とも互いに触れ合うことしか考えられなくなっていた。

 

 ダイゴとマリと合流しようと、ミライとアテナは街に来ていた。しかし街の人ごみの中から2人を見つけることはとても難しいことだった。

「ダイゴ・・マリちゃん・・ホントにどこに行っちゃったのよ・・・」

 不安と困惑を膨らませていくミライ。そのそばで、アテナが周囲を気にして不安を浮かべていた。

「どうしたの、アテナちゃん・・・?」

 ミライが訊ねるが、アテナは答えようとしない。

「もしかして、周りの人たちが怖いの・・・?」

 ミライが切り出すと、アテナが小さく頷いた。

「大丈夫・・もしも悪い人が近づいてきたら、あたしがそばにいるから・・・」

「ミライさん・・・」

 笑顔を見せるミライに、アテナが戸惑いを覚える。

「あたしはダイゴやマリちゃん、アテナちゃんみたいなすごい力はないよ・・でもあたしにだって、やれることがあるんだから・・・」

「ダイゴや、マリさんのために・・・?」

「2人のためだけじゃない・・アテナちゃんのためになるなら・・・」

 戸惑いを募らせるアテナに、ミライが自分の気持ちを伝えていく。

「ガルヴォルスみたいなすごい力の持ち主に、ただの人間のあたしに何ができるんだろうって、思うことがあった・・でもダイゴとマリちゃんは、そんなあたしを信じてくれた・・だからあたしもやらないといけないなって・・・」

「本当に真っ直ぐですね・・無鉄砲に見られてもおかしくないっていうのに・・・」

「エヘヘヘ・・よくバカみたいだって言われるよ・・・」

 物悲しい笑みを浮かべるアテナに、ミライが苦笑いを見せる。

「でもダイゴもそういうところがありますよ・・むしろミライさんよりも・・・」

「アテナちゃんだって負けてないよ・・ホントに、手に負えないっていうか・・・」

「ミライさん、意地悪言わないでください・・・」

 屈託のない会話をしていき、気持ちを落ち着かせていくミライとアテナ。

「さて、急いでダイゴとマリちゃんを探さないと・・もう1度連絡してみよう・・」

 ミライはアテナに声をかけてから、ダイゴとマリへの連絡を試みようとした。

「うっ・・・!」

 そのとき、アテナが突然苦悶を覚えてうずくまった。押し寄せてきた感覚に耐えられず、彼女は立ち上がることができなくなっていた。

「どうしたの、アテナちゃん!?

「くっ・・おかしな感じが・・・この感じは・・・!」

 ミライが呼びかけるそばで、アテナが声を振り絞る。

「ここにいたのね、お嬢さん・・・」

 アテナとミライの前に現れたのは、ヴィーナスガルヴォルスとなっているココロだった。彼女のヴィーナスガルヴォルスがもたらす恍惚がアテナに伝わってきていたが、人間であるミライには伝わっていなかった。

「お前・・この前のガルヴォルス・・・!」

「私がもたらしている幸せを、あなたはきちんと感じ取っているようね・・」

 恍惚のために顔を歪めているアテナに微笑みかけるココロ。ココロはミライに目を向けると、人間の姿に戻る。

「あなたとは初めて顔を合わせるわね。あなたは人間だから、私のもたらす幸せを直に感じなかったようね・・」

「あなた、誰なの・・アテナちゃんに何をしたの!?

 淡々と声をかけていくココロに、ミライが語気を強めて問い詰めてくる。

「私は渡部ココロ。幸せをもたらす存在よ・・」

「幸せを・・アテナちゃんが辛くなっているのに、これが幸せだっていうの!?

「その通りよ。この気分が、辛さを忘れさせて幸せへと昇華させていくのよ・・」

「おかしなこと言わないでよ!・・アテナちゃん、ここは逃げたほうが・・!」

 微笑みかけるココロに言い返して、ミライがアテナを連れて離れようとする。

「ダイゴくんとマリさんも、幸せで満たされたわ・・」

 ココロが投げかけたこの言葉に、ミライとアテナが緊迫を覚える。

「ダイゴ・・マリちゃん・・・2人に何かしたの!?

「言ったでしょう?2人とも幸せで満たされたって・・」

 声を上げるミライに対し、ココロは笑みを絶やさない。彼女は2人に向けて手を差し伸べてきた。

「2人に会わせてあげる。あなたたちも幸せにしてあげる・・」

「ふざけるな!お前たちの口車には乗らない!」

 誘惑してくるココロだが、アテナが声を張り上げて拒絶する。

「あなたたちが抱えている不幸を、私は消し去りたいのよ・・あなたたちは、ずっと不幸に悩まされてきたじゃない・・・」

 再びヴィーナスガルヴォルスに変身するココロ。アテナが恍惚にさいなまれて膝をつく。

「アテナちゃん!・・・来ないで!近寄らないでよ!」

 アテナを支えるミライが、ココロに言い放つ。しかしココロは手を伸ばし、アテナとミライをつかんできた。

「私が、あなたたちに幸せを与えてあげる・・・」

 妖しく微笑むココロの手を振り払うことができず、アテナとミライは彼女に連れ去られてしまった。

 

 

次回

第22話「魔性の幸福」

 

「私の力があれば、誰もが幸せになれる・・・」

「私はお前の思い通りにはならない!」

「もう・・我慢・・できない・・・」

「全てを解放しなさい・・そうすればあなたは、本当の意味で幸せになれる・・・」

 

 

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