ガルヴォルスZEROrevenge 第20話「2つの決着」

 

 

 飛びついたまま離れないミライに敵意を向けるアテナ。だが彼女は伸ばした爪をミライに突き付けることができずにいた。

「アテナちゃんの・・ホントの気持ちは、何なの・・・!?

「やめて・・これ以上私に何も言わないで・・でないと、私は不幸になってしまう・・・!」

 問い詰めてくるミライに、アテナは困惑するばかりになっていた。

「不幸なんかじゃないよ・・もしも不幸になっちゃったら、あたしたちと一緒に幸せに変えようよ・・・」

「一緒に・・不幸を幸せに変える・・・!?

 笑顔を見せるミライに、アテナが戸惑いを覚える。彼女の心は大きく揺れ動いていた。

(どうして・・どうしてそこまで私の辛さを背負おうとするの・・・!?

 心の中で疑問を投げかけるアテナだが、答えは返ってこない。

「どうしたらいいの?・・・何を信じていけばいいの・・・?」

 困惑が膨らみ、アテナは思わず声を上げていた。

「アテナちゃんが願ってる、ホントの幸せを信じればいいと思うよ・・・」

「信じていいの?・・・信じても、裏切られることはないの・・・?」

「裏切らない・・裏切りたくないよ・・・」

 感じ始めていた信頼を確かめようとするアテナに、ミライが頷く。笑顔を見せる彼女の目からは、大粒の涙がこぼれてきていた。

「もうどこへ行っても、あたしはアテナちゃんから離れないから・・たとえアテナちゃんに殺されたとしても・・・!」

「・・・バカよ・・本当に馬鹿げてる・・・殺されるかもしれないのに、私を受け入れようとして・・・!」

「エヘヘ・・よく言われるよ、みんなに・・お姉ちゃんにも・・・」

 呆れ出しているアテナに、ミライが照れ笑いを見せる。気持ちを落ちつけてから、ミライが再びアテナに寄り添ってきた。

「もう1度確かめて・・アテナちゃんが信じている人の気持ちを・・・」

 優しく声をかけるミライに、アテナがさらに戸惑いを膨らませる。彼女は家族との思い出を思い返していた。

 

 公園の中央で、ショウの前に立ちはだかるルシファーガルヴォルス。ダイゴとマリの決意と信念は、これ以上にないほどに強まっていた。

「こっちは落ち着ける場所にいるために戦う・・もしもこの場所を壊そうとするなら、敵として倒す・・・!」

「敵として倒す・・私を敵と見なして倒す・・傲慢もそこまで言えると笑えるな・・」

 低く告げるルシファーガルヴォルスを、ショウがあざ笑ってくる。

「自分の弱さと無能さを棚に上げて、自分が偉いと思い込んでいる愚か者たち・・ヤツらを断罪するのは、強さも知能もある私だ・・」

「そうやって、何もしていないヤツまで手にかけるのか・・・そこまでやって、しっぺ返しをされる覚悟はあるんだろうな・・・!?

「それこそ愚かなことだ。私は正しいことをしている。その私に恨みを抱くことは、愚か者と同じ過ちを犯すことに等しい・・」

「それじゃ、まるで自分が神みてぇじゃねぇか・・・!」

 自分自身を変えないショウに、ルシファーガルヴォルスが怒りを見せる。

「自分を貫くために、無関係なヤツまで苦しめちゃいけねぇ・・自分を貫くことは、逆に打ちのめされる覚悟がなくちゃいけねぇ・・」

「それが滑稽なことだと、お前たちには言っても理解しないようだな・・」

「馬鹿げちゃいねぇ・・オレたちはオレたちらしさを保つことと、貫くことへの覚悟を決めている・・・!」

 自分たちの信念を強めていくルシファーガルヴォルス。堕天使の体の中で、ダイゴとマリの心が入り混じっていく。

「オレたちはずっと、この覚悟を決めていく!」

「それが愚かであることを、死を受け入れることで自覚しろ・・・!」

 飛び出していくルシファーガルヴォルスを、ショウが迎え撃つ。2人が繰り出した右の拳がぶつかり、巨大な衝撃をもたらした。

「世界は正されなければならない!私が倒されれば、世界は崩壊する!」

 さらに力を込めるショウだが、ルシファーガルヴォルスの高まる力に押され始めていく。

「バカな!?・・私はあのときよりも力を上げているのに・・・違う・・ヤツらの力が上がっているのだ・・・!」

 ルシファーガルヴォルスの底力を痛感して、ショウが緊迫を募らせる。

「これが2人の、覚悟の力だと言うのか!?・・・この覚悟が、世界の本当の在り方を目指す私を超えるというのか・・・!?

 ルシファーガルヴォルスの拳が、ショウの拳をついに弾き返した。次の瞬間、ルシファーガルヴォルスの拳がショウの体に叩き込まれた。

「ぐっ!」

 骨をも揺さぶる衝撃に襲われて、ショウが吐血する。体の中を荒々しい衝撃が突き抜け、彼は一気に力を失っていった。

「まさか・・私がお前たちに、またも敗れることになるとは・・・」

 愕然となるショウが力なく倒れていく。彼の姿を見つめて、ダイゴは兄との思い出を振り返っていた。

 

 周囲の理不尽な態度や仕打ちに、常に反抗していったダイゴ。だがこの考えと行動が彼自身を追い込むばかりの結果を生み出していた。

 その結果さえも納得できず、ダイゴは常に憤りを感じていた。なぜ分かってくれない、分かろうともしないのか、彼は悔しさも膨らませていた。

「またここで泣いていたのか・・」

 部屋で悔し泣きしていたダイゴに声をかけたのがショウだった。誰もが不快に感じていたダイゴの反抗的な態度。その真意をショウだけが理解していた。

「アニキ・・・!」

 流れてくる涙を拭って、ダイゴがショウに目を向ける。

「また父さんたちや先生たちに叱られたのか・・だが、ダイゴはみんなのしたことのほうが間違っている、というところか・・」

「だって、意地悪してきたのはアイツらなのに・・オレが悪いって決めてかかって・・こんな一方的なことが許されていいのかって・・・!」

 ダイゴがショウに自分の怒りを伝える。兄であり唯一の理解者であるショウになら、話してもいいと思ったのである。

「どんな親だって、自分の子供に何かあったら腹を立てるのは当然だ。たとえ自分の子供が悪いとしても・・」

 ダイゴの心境を察して、ショウが語りかけていく。

「だが結局は、何かが正しくて何が間違いなのかを見失った、馬鹿げたやり方だよ・・行動はともかく、ちゃんと状況を理解しているダイゴのほうが利口だよ・・」

「行動はともかくって・・こうでもしないと向こうは分かってくれないじゃないか・・・!」

「許せない相手に怒りのままにつかみかかる・・勇気のあることだが、短絡的でもある・・・」

 不満げに言うダイゴに、ショウは淡々と言いかけていく。

「それでもお前らしくある・・僕はそのお前らしさが好きだ・・・」

「アニキ・・・」

 ショウが投げかけた言葉にダイゴが戸惑いを覚える。自分のしている行為を快く思ってくれている兄に、ダイゴは心を開くようになっていた。

「何かあったら突っかかるだけでなく、僕を頼ってほしい・・兄として、友としてお前の力になりたい・・・」

「アニキ・・・ありがとう・・ホントにありがとう・・・」

 ショウが差し伸べてきた手を取り、ダイゴが立ち上がる。

 この兄弟の絆がいつまでも途切れることがないと、このときのダイゴは思いもよらなかった。

 

 ルシファーガルヴォルスの渾身の一撃を受けて、鮮血にまみれたショウが倒れる。動けなくなる彼を、ルシファーガルヴォルスがじっと見下ろしていた。

「アニキ・・これで・・これで終わりだ・・今度こそ・・・」

 言いかけるルシファーガルヴォルスの融合が解け、ダイゴとマリに分かれる。力を消耗したことで、2人も疲弊していた。

「私の力は・・堕天使となったお前たちにも劣らぬほどに力を上げた・・それなのに、私はまた・・・」

「おめぇはずっと1人だった・・1人で何もかもできると思ってた・・・けど、オレは1人じゃなかった・・マリがいてくれた・・・」

 疑念を傾けるショウに答えて、ダイゴがマリを抱き寄せる。

「私も、ダイゴとこうして分かり合うことができてよかった・・・そうでなかったら、私は勇気が持てなかった・・もしかしたらショウさん、あなたのように世界を憎むようになっていたかもしれない・・・」

「オレたちにとっちゃ、周りも世界も関係ねぇ・・ただ、落ち着ける場所を壊す敵に立ち向かうだけだ・・・」

 自分の気持ちを口にするマリとダイゴ。揺るがない2人に向けて、ショウが弱々しく笑みをこぼす。

「力を合わせただけで・・心を通わせただけで・・私を完全に上回るなど・・・」

「心があるから・・何か支えがあるから・・オレたちは自分らしくいられるんだ・・・」

 嘲笑してくるショウに、ダイゴが真剣な面持ちで答える。

「支えがあるから、か・・・支えてもらうなど弱さでしかないというのに・・・せいぜい後悔することだな・・愚か者を断罪せずに放置すれば、世界は悪化の一途をたどる・・お前たちのいう落ち着ける場所も、簡単に失われることになる・・・」

「何度も言わせんな・・オレは、オレたちは落ち着ける場所を壊そうとするヤツらと戦っていくだけだ・・たとえその相手が誰だろうと、何だろうと・・・」

 世界を愚かと見なすショウに対し、ダイゴは自分の考えを曲げようとしない。マリも揺るがない信念を胸に秘めていた。

「その浅はかさがどこまで続くか・・・ハハハハハハ・・・」

 哄笑を上げるショウの体が固くなり、崩れて霧散していった。

「アニキ・・・」

 兄の最期を目の当たりにして、ダイゴが歯がゆさを浮かべる。

「バカだ・・ホントにバカだよ、アニキは・・・オレ以上のバカだ・・・」

「ダイゴ・・・」

 憤りを見せるダイゴに、マリが戸惑いを覚える。彼女も辛さを抱えたまま、ダイゴに寄り添う。

「ダイゴもショウさんも、自分らしさを貫いていた・・ただ、ショウさんは悪い方向に向かってしまっただけ・・・」

「いい、悪い・・いったい何だってんだ・・・」

 マリが投げかけた言葉に対し、ダイゴが皮肉を口にする。何が正しくて何が間違っているのか。ショウの行動でその答えが分からなくなる。

 ダイゴもマリも、ショウが求めていた答えを見出すことができずにいた。

 緊張が解けたのか、この後ダイゴとマリは一気に疲弊を痛感してふらついた。

「大丈夫か、マリ・・・?」

「うん・・少し疲れただけ・・ダイゴも疲れているみたい・・・私たち、少しムリをしたみたい・・・」

 互いに心配の声をかけ合うダイゴとマリ。2人は気分を落ちつけて、体力を回復しようとする。

「アテナのところに行かねぇと・・・」

「ミライさんが説得に行っている・・大丈夫だとは思っているけど、私たちも行かないと・・・」

 ダイゴの言葉にマリが答える。

「そうだな・・・2人を迎えに行くとするか・・・」

 ダイゴはマリとともに、アテナとミライのところに向かおうとした。

 そのとき、ダイゴとマリが奇妙な感覚に襲われる。この感覚に耐えられず、2人はその場に膝をつく。

「こ、この感じ・・・まさか・・・!?

 押し寄せる刺激に顔を歪めながら、ダイゴが視線を移す。ヴィーナスガルヴォルスに変身したココロが、ダイゴとマリの前に現れた。

「戦いのほうは見させてもらったわ・・あなたたちもあなたのお兄さんも、人並み外れた辛さを噛みしめてきていたのね・・・」

「ココロ・・ここに来てたのか・・・!?

 妖しく微笑むココロに、ダイゴが息を荒くしながら声を上げる。ココロのもたらす恍惚にさいなまれて、ダイゴとマリは苦悶を隠せなくなっていた。

「あなたたちの不幸、私が取り除いてあげる・・2人一緒なら、心から信頼できる人に支え合えるなら、あなたたちは幸せでいられる・・・」

「前にも言ったはずだ・・こんな気分になるのが幸せだとは限んねぇって・・・!」

 手を差し伸べてくるココロに対し、ダイゴが声を振り絞る。しかしココロは首を横に振る。

「もうこうすることでしか、不幸から解放することはできない・・・」

 ココロが沈痛の面持ちを浮かべながら、ダイゴとマリをつかんでくる。疲労と恍惚で思うように力を入れられくなっていた2人は、ココロの手を振り払うことができなくなっていた。

「行きましょう・・あなたたちの不幸・・ううん・・みんなの不幸を私は取り払うから・・・」

 ココロに導かれるままに引き込まれていくダイゴとマリ。ココロを中心に風と霧が吹きすさんできた。

(ダメ・・力を使いすぎた・・・ココロさんから逃げられない・・・)

 絶望を痛感しながら、マリがダイゴとともにココロに連れて行かれた。霧が晴れたときには、その場には誰もいなかった。

 

 敵と見なした相手を徹底的に手にかけてきたアテナと、彼女を連れ戻そうと必死になっていたミライ。断ち切れていた絆を再び紡がせた2人は、緊張から解き放たれたためか、疲れきっていつしか眠ってしまっていた。

 2人が目を覚ましたときには、既に外は日が暮れていた。

「も、もうこんな時間・・・!?

「疲れて・・眠ってしまったみたい・・・」

 驚きの声を上げるミライと、当惑を見せるアテナ。

「と、とりあえずダイゴとマリに連絡しないと・・アテナちゃんのこと、知らせないと・・・」

「ダイゴ・・・私・・ダイゴと一緒にいて、不幸にならないのかな・・・?」

 起き上がるミライのそばで、アテナが募らせていく。するとミライがアテナに手を差し伸べてきた。

「ダイゴもマリちゃんも、アテナちゃんの言う不幸と戦ってるんだよ・・一緒に戦っていけばいいと思うよ・・ダイゴたちと・・・」

「ミライさん・・・」

「でもホントは、アテナちゃんが幸せになって、それからみんなも幸せになってほしいな・・・」

 戸惑いを見せるアテナに、ミライが笑顔を見せる。彼女が普段見せている無邪気な笑顔だった。

(この笑顔・・・ミライさんと知り合ってから、ずっと見てきたはずなのに・・その笑顔やマリさんの優しさ、ダイゴの信念を見てきて感じてきて、不幸が和らいだはずだったのに・・・)

 アテナが心の中で自分の思いを確かめていく。

(何かもみんな・・笑顔や心まで敵と見なして・・私は自分が求めていた幸せがどういうものなのかも分からなくなったのも気付かずに・・・)

 気持ちを確かめていくうちに、アテナが無意識に涙を流していた。

「私・・・信じてみてもいいのかもしれない・・・信じていいのか、確かめないといけない気がする・・・」

 今の自分の率直な気持ちを呟くアテナ。彼女は気分を落ち着かせてから、ミライの手を取った。

「それじゃ、ダイゴとマリちゃんに連絡を・・」

 ミライが改めてダイゴたちと連絡を取るため、携帯電話を取り出した。

「あれ?・・・出ない・・・」

 ダイゴたちが電話に出ないことに、ミライが当惑を覚える。

「もしかして・・ショウさんにやられたんじゃ・・・!?

 次第に不安を募らせていくミライ。ダイゴとマリがココロに連れ去られたことを、このときの彼女たちは知らなかった。

 

 

次回

第21話「快楽への呪縛」

 

「私のもたらす幸せはこれだけじゃない・・」

「幸せだけを感じることができれば、不幸を感じることもなくなる・・・」

「ダメ・・・自分を・・保てない・・・」

「あなたたちに、終わりのない最高の幸せを・・・」

 

 

作品集

 

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