ガルヴォルスZEROrevenge 第17話「本当の幸せ」

 

 

 ショウの攻撃で追い詰められ、崖下に落とされたダイゴ。崖下の木々の上で気絶したものの、彼は大きな負傷をしていなかった。

 気の上で倒れているダイゴを、1人の女性が発見した。彼女はダイゴを木から下ろして、抱えたままこの場を離れていった。

 

 アテナを追い求めて草原を駆けまわるマリとミライ。だがアテナの姿は草原にはいなかった。

「アテナさん、どこに行ったのでしょう・・・!?

「あれだけダイゴたちの攻撃を受けて、そう遠くに行けるわけないと思うんだけど・・」

 声を荒げるマリと、不安を浮かべるミライ。

「ここはダイゴと合流して、また探しなおしたほうが・・」

「残念だが、お前たちがダイゴと合流することはできない。」

 マリが言いかけたところで、突然声がかかった。マリもミライも一気に緊張を膨らませた。

 2人の前にデッドガルヴォルスとなっているショウが現れた。

「あなた・・・ダイゴはどうしたの!?

「安心しろ。まだダイゴは始末していない。運のいいヤツだ。まだ長らえるとは・・」

 声を張り上げるマリに、ショウが淡々と言葉を返す。

「ヤツの前にお前たちから始末させてもらう。大きな絶望を与えてからダイゴを葬るのも悪くないかもしれない・・」

「ダイゴはあなたには負けない!私もダイゴのために死ぬわけにはいかない!」

 目つきを鋭くするショウに対し、マリが感情のままに言い放つ。彼女もエンジェルガルヴォルスとなって、ショウを見据える。

「ミライさんはアテナさんを探して・・ショウさんの狙いは私だから・・」

「ダメだって、マリちゃん!マリちゃんを狙ってるなら、なおさら置いていけないよ!」

 呼びかけるマリだが、ミライは首を横に振る。

「今はアテナさんを探すのが大事です!今アテナさんを探せるのは、ミライさんだけです!」

「マリちゃん・・・」

 それでも呼びかけてくるマリに、ミライが戸惑いを覚える。するとショウが嘲笑を浮かべてきた。

「少し会話をしただけだが、彼女も頑なのようだった。他の者の声を聞くとは思えないがな・・」

 ショウが鎌を振り上げた瞬間、マリが素早く飛び込んでその鎌の柄をつかんできた。

「急いで・・ミライさん・・!」

「マリちゃん・・・ゴメン!」

 マリに後押しされて、ミライはこの場から走り出していった。

「お前だけでは私に勝つどころか、食い止めることもできないぞ。」

 ショウが繰り出した右の膝蹴りが、マリに叩き込まれる。

「うっ!」

 痛烈な一撃を受けて一瞬怯むマリ。だがショウが鎌を構えるのを目にして、彼女はとっさに翼を広げて上昇する。

「空に逃げたか・・だが私の前では小細工にすぎない。」

 ショウは不敵な笑みを見せたまま、上空に向けて鎌を振りかざす。刀身から光の刃が放たれ、回転を帯びて飛んでいく。

「キャッ!」

 左翼を切り裂かれて、マリが森のほうに落下していった。

「ダイゴといい清水マリといい、運のいいことだ・・・」

 ショウはため息混じりに人間の姿に戻る。

「さて、アテナという少女の様子をみるとしよう。彼女がこの世界において重要な役割を担っていることは確かなのだから・・」

 アテナの動向を探るべく、ショウも草原を後にするのだった。

 

 自分の敵を葬ろうと考えるアテナ。街を歩いていく彼女は、マーロンの前へと行きついた。

(ここよ・・ここを壊せば、ダイゴたちは、幸せの大切さと不幸を思い知ることになる・・・)

 マーロンにも敵意を向けるアテナ。彼女は怒りのままにゆっくりと歩を進めていく。

「ア、アテナさん・・!」

 そこへ声をかけられ、アテナが足を止める。マーロンからミソラが姿を見せてきた。

「アテナさん、帰ってきたのね・・心配したのよ・・・!」

 ミソラが悲痛さを噛みしめながら、アテナに駆け寄ってきた。

「ダイゴくんたちは大丈夫なの!?みんながあなたを助けてくれたのよね!?

「あなたも私を騙そうとする・・お前も、私の敵だった・・・!」

 必死に呼びかけてくるミソラにも敵意を見せるアテナ。彼女の頬に紋様が走り、ミソラが困惑して思わず後ずさりする。

「アテナさん・・・!?

 目を見開くミソラの前で、アテナがサキュバスガルヴォルスに変身する。異形の怪物に変貌した彼女に、ミソラは困惑を膨らませる。

「ここを壊せば、ダイゴを追い詰めることになる・・幸せを取り戻すことができる・・・!」

「やめなさい、アテナさん!何をしようとしているの!?

 アテナが右手を握りしめたとき、ミソラが気持ちを引き締めて声を張り上げてきた。

「ここはあなたの大切な場所のひとつよ!その場所を壊そうとするなんて!」

「大切な場所?・・違う!ここは本当は、不幸の象徴だったのよ!」

 ミソラの呼びかけに反発して、アテナがマーロンに踏み入ろうとする。だが彼女の前にミソラが立ちはだかる。

「行かせない!その姿でマーロンに入ってこないで!」

「邪魔する人は、全員私の敵・・敵は絶対に野放しにしない!」

 アテナがミソラに向けて右手を突き出そうとする。

「アテナさん!」

 だが、アテナが突き出した爪は、叫ぶミソラの眼前で止まった。力を込めようとするアテナだが、それ以上先に爪を突き立てることができずにいた。

「・・これ以上、前に出せない・・・敵なのに・・不幸のある場所なのに・・・!」

「アテナさん・・・」

「どうして・・どうして!?

 ミソラが困惑を見せる前で、アテナが頭を押さえて後ずさりする。苦しみのあまり、彼女の姿が人間に戻る。

「私の幸せは、本当は何だっていうの・・・!?

「アテナさん・・何が幸せなのか、本当は分かっているのよね・・・?」

 苦悩していくアテナに、ミソラが優しく声をかけてくる。

「アテナちゃん!」

 そこへミライが駆け込んできた。街を探し回ってマーロンに立ち寄ろうとしていた彼女が、アテナを見つけたのである。

 ミライがアテナに飛びかかり、抱きついたままミソラから遠ざけようとする。

「アテナちゃん、ダメだよ!お姉ちゃんを傷つけるなんて絶対にダメ!」

「ミライ、やめなさい!アテナさんは悪いことはしていない!私もみんな無事よ!」

 アテナにつかみかかるミライを、ミソラが呼び止める。

「ホントにどうしちゃったの、アテナちゃん!?ダイゴやマリちゃん、お姉ちゃんが何をしたっていうの!?何もしてないのに、敵だって決めつけないで!」

「決めつけていない・・本当に私の敵に回っているのだから・・・!」

 涙ながらに怒鳴るミライに、アテナが鋭く言葉を返す。だが彼女は苦悩を払拭できずにいる。

「なのに・・どうして憎みきれないの・・・!?

「アテナちゃん・・・憎まなくたっていいよ・・誰も憎んでいいなんて、願っていない・・・」

「願っている・・もしも敵を倒さなかったら、お父さんもお母さんも不幸なまま・・・」

 微笑みかけるミライに困惑しながら、アテナはたまらず駆け出していった。

「アテナちゃん!待って!」

 ミライが呼び止めるが、アテナはサキュバスガルヴォルスに変身して飛び去ってしまった。

 

 ショウとの対決で崖下から落ちて意識を失っていたダイゴ。彼が目を覚ましたのは、見知らぬ部屋のベッドだった。

「ここは・・・?」

「気がついたようね・・よかったわ・・」

 意識を覚醒させていくダイゴの前に、1人の女性が現れた。

「目が覚めなかったらどうしようと思った・・大事に至らなくてよかったわ・・・」

「おめぇ、誰だ?・・ここはどこなんだ・・・?」

「ここは私の別荘。といっても、本当の家が近くにあるのだけどね・・」

 ダイゴが問いかけると、女性が笑顔を絶やさずに答える。

「私は渡部(わたべ)ココロ。森を散歩していたら、気の上で眠っていたあなたを見つけて、ここまで連れてきたのよ。」

「オレを?・・何で、オレを・・・?」

「大きな理由はないわ・・傷ついたり辛くなっている人を放っておけないだけよ・・」

 続けて投げかけるダイゴの問いかけに、女性、ココロが優しく答える。

「・・やべぇ・・マリのところに戻らねぇと・・・!」

 ダイゴがマリたちを心配して、ベッドから起き上がろうとするが、ココロに止められる。

「まだムリをしてはならないわ・・まだ目が覚めたばかりなのだから・・」

「こんなの平気だ・・マリたちが危ないってときに、オレがのん気に寝てるわけにはいかねぇんだよ・・・!」

 しかしダイゴはベッドから飛び上がろうとする。彼の姿勢が真っ直ぐなものであると感じて、ココロは気持ちを固めた。

「分かったわ・・でも私も一緒に行くから・・・」

「ちょっと待て!オレが行くのはとっても危ねぇとこだぞ!」

 ついていこうとするココロを、ダイゴが抗議の声を上げる。

「助けてくれたことは感謝してる・・けど危ねぇとこに行かせるわけにいかねぇ!」

「危ないと分かっているのに、あなたを行かせることのほうが納得いかない・・私を行かせたくないなら、あなたもここで大人しくして・・」

 ダイゴに呼びかけられても引き下がらないココロ。マリが気がかりになっていたダイゴは、やむなくココロと一緒に行くことにした。

「勝手にしろ、もう・・どうなっても知らねぇぞ・・・」

 

 ショウの攻撃を受けて、森の中に落下したマリ。地上に落ちた彼女は人間の姿に戻っていた。

「何とかショウさんから逃げられたけど・・アテナさんを追いかけないと・・・」

 マリが体を起して、ダイゴと合流してアテナを探そうとする。

「おやおやぁ?こんな森の中にかわいい子がいるなんてぇ・・」

 そこへ1人の男が現れ、マリに声をかけてきた。緊張を抱えたまま、マリが振り返らずに男に注意を向ける。

「せっかくだからキラキラカチカチに凍らせてやりたいよぅ・・・」

 笑みを強めた男の姿が、白い体毛で覆われた雪男のような怪物へと変貌した。

「ガルヴォルス・・こんなときに・・・!」

 スノーガルヴォルスの出現に、マリが焦りを覚える。

「たまらねぇ・・すぐにでも凍らせてやりたいよぅ!」

 興奮を抑えきれなくなって、スノーガルヴォルスが口から吹雪を吐き出す。とっさに身構えるマリの体が、一気に氷に包まれてしまった。

「やったぁ・・またかわいい子を凍らせてやったぞ・・」

 凍りついたマリの姿を見て、スノーガルヴォルスが笑みをこぼす。力を消耗していたため、マリは氷を自力で破ることができないでいた。

「ホントにカチカチになったなぁ・・カチカチになってると、壊したくなるんだよねぇ・・」

 目つきを鋭くしたスノーガルヴォルスが、両腕に力を込めてマリを打ち砕こうとする。

「マリ!」

 そこへダイゴが駆け込み、マリの変わり果てた姿を目の当たりにして驚愕する。遅れてココロも駆け付けてきた。

「マリ・・・おめぇか・・マリをこんなにしたのは!?

 憤慨したダイゴがデーモンガルヴォルスに変身する。

「ガルヴォルスかぁ・・でも凍らせてしまえば問題はない・・・!」

 スノーガルヴォルスも目を見開いてダイゴを迎え撃つ。ダイゴが繰り出した右手と、スノーガルヴォルスが振り下ろした両腕がぶつかり合い、威力が相殺される。

「強いなぁ・・でもこのくらいじゃ・・・!」

 スノーガルヴォルスがダイゴに向けて吹雪を放つ。力のぶつかり合いをしていたところで冷気を浴びせられて、ダイゴが怯む。

「くそっ・・こんなもんでオレが参るとでも・・・!」

 ダイゴが踏みとどまって、吹雪に耐えようとする。だがそこへ飛び込んできたのは、数本の氷の刃だった。

「何っ!?ぐっ!」

 氷の刃が体に刺さり、ダイゴが顔を歪める。激痛のあまり、彼は踏みとどまれずに仰向けに倒れる。

「甘い、甘い・・男だからズタズタにしちゃっても気にしないよ・・」

 不気味な笑みを浮かべながら、スノーガルヴォルスがダイゴに近づいてくる。ダイゴは刺さっている氷の刃を弾き飛ばして、力を振り絞って立ち上がる。

「まだ・・体力が回復してなかったのか・・・こりゃ、やべぇぞ・・・!」

 呼吸を荒くするダイゴが危機感を募らせる。彼にはアテナ、ショウとの戦いの疲れがまだ残っていた。

「さてさて、久しぶりにいたぶっていくとするかなぁ・・」

 スノーガルヴォルスが笑みを浮かべながら、大きく息を吸いこむ。今のダイゴには吹雪をかわす力が残っていない。

「やめなさい!」

 そのとき、叫び声とともに威圧感のある衝撃が飛び込んできた。この衝撃にダイゴもスノーガルヴォルスも緊迫を膨らませた。

「これ以上この人を苦しめるつもりなら、容赦はしない・・・!」

 ダイゴの前に出てきたのはココロだった。衝撃は彼女から放たれたものだった。

「お前もかわいいなぁ・・凍らせてやりたいなぁ・・」

 スノーガルヴォルスがココロを見つめて、不気味に微笑みかける。

「あなたもガルヴォルスだったとはね・・あなたが疲れていたので気付くことができなかったようね・・」

「おめぇ・・ガルヴォルスのこと、知ってたのか・・・!?

 声をかけてくるココロに、ダイゴが当惑を見せる。

「おかしな気分を感じさせてしまうけど・・すぐに終わらせるから我慢していて・・・」

「おめぇ・・何をする気なんだ・・・!?

 戦おうとするココロに、ダイゴが息をのむ。

「ダメだって、すぐに終わらせるのは・・じっくり楽しませてよ・・」

「その身も心も醜くなってしまったあなたは、もう不幸しかもたらさない・・」

 不気味に笑うスノーガルヴォルスに向けて、ココロが低く告げる。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がり、ダイゴがさらに緊迫を覚える。

「その不幸、私が消し去る・・・!」

 ココロの姿が異形のものへと変化した。怪物というよりは、天使のような白い翼と神々しい雰囲気など、女神のような風貌だった。

「うっ!」

 次の瞬間、ダイゴが奇妙な感覚を覚えて、その場にうずくまる。人間の姿に戻った彼は、押し寄せてくる衝動に耐えられずに昏倒する。

「何だ、こりゃ!?・・これって、マリと一緒にいるときに感じる・・・!」

 苦悶を浮かべるダイゴが、うずくまったまま動けなくなる。同じくスノーガルヴォルスも、奇妙な感覚に襲われてその場にうずくまる。

「何なんだ、これは!?・・・何だか、おかしくなってくるよ〜・・・!」

「全ての不幸を消し去るために、私は存在している・・・不幸しか与えない天敵は、私の手で葬る・・・!」

 うめくスノーガルヴォルスに低く告げると、ココロが右手を伸ばす。その指先から一条の光線が放たれ、スノーガルヴォルスの体を貫いた。

「おわっ!」

 吐血したスノーガルヴォルスが昏倒する。光線に貫かれた体から湧き上がった青白い炎に包まれて、スノーガルヴォルスが燃え尽きて消滅していった。

 スノーガルヴォルスの最期を見届けてから、ココロが人間の姿に戻る。押し寄せてくる衝動が和らぎ、ダイゴが気分を落ち着かせていく。

「何だったんだ、今のは・・・おめぇがガルヴォルスだったのも驚きだけど・・・!」

 ココロに対して困惑を募らせていくダイゴ。スノーガルヴォルスに氷付けにされていたマリも、氷の中から解放された。

「マリ!・・大丈夫か、マリ・・・!?

「ダイゴ・・ゴメン・・またダイゴに助けられたね・・・」

 駆け寄って呼びかけるダイゴに、マリが微笑みかける。立ち上がった彼女を見て、ダイゴが安堵の笑みをこぼす。

「彼女も無事だったようね・・」

 ココロもダイゴとマリの無事を確かめて、微笑みかける。見知らぬ人との出会いに、マリは戸惑いを浮かべる。

「あの、あなたは・・・?」

「そうだ・・おめぇはホントに何なんだ?・・ただのガルヴォルスでもねぇ・・・」

 マリとともにダイゴが訊ねてくる。ココロが微笑を絶やさずに、2人に答えてきた。

「私は渡部ココロ・・不幸を消し去り、幸せをもたらすガルヴォルスとなった・・・」

「幸せをもたらすガルヴォルス・・・!?

 ココロが口にした言葉に、ダイゴは緊張を膨らませる一方になっていた。

 

 

次回

第18話「至福をもたらす女神」

 

「私が変身すれば、ガルヴォルスは快楽を実感する・・・」

「私が死の淵にいた間に、こんなガルヴォルスが出てきていたとは・・」

「アイツ、何をしようとしてるんだ・・・」

「あなたは、いったい・・・!?

 

 

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