ガルヴォルスZEROrevenge 第18話「至福をもたらす女神」
「私は渡部ココロ・・不幸を消し去り、幸せをもたらすガルヴォルスとなった・・・」
「幸せをもたらすガルヴォルス・・・!?」
ココロが口にした言葉に、ダイゴが息をのむ。彼女の言葉の意味が分からず、マリは困惑するばかりになっていた。
「いろいろなガルヴォルスがいるのは、あなたも分かっているよね?単純に力が強いだけでなく、特殊な能力を備えている人も・・」
「はい・・私も、天使の力を使えますし・・」
「私も特殊能力を持つガルヴォルス・・その中でも本当に特殊なの・・」
ココロの話にマリが答えていく。
「私がガルヴォルスになると、周りにいるガルヴォルスに快感を与えることになる・・」
「快感・・だからあのときおかしくなったのか・・・」
ココロの話にダイゴも頷いていく。
「快感を与える・・つまりは性欲を暴走させる・・でも快感を感じていれば、辛いことを忘れることができる・・これも一種の幸せではないかと、私は思うようになっていった・・」
「それはちょっと違うぞ・・そういうのは気分はよくなるかもしれねぇが、幸せとは言い切れねぇ・・」
悠然と語っていくココロに、ダイゴが苦言を呈する。
「確かに気分がよくなるのはいいのかもしれねぇけどさ・・」
「何が幸せなのかは人それぞれです・・快楽ばかりが幸せとは限りません・・・」
ダイゴに続いてマリも意見を口にする。2人の言葉を聞いて、ココロが当惑を見せる。
「そうかもしれない・・でも私が知る限り、快楽を感じていった人たちは、みんな幸せになっていったわ・・私のこの力が、全然間違ったものとは言い切れないわね・・」
「アンタ・・・」
「私は誰もが幸せでいられる世界になってほしいと思っている・・この力なら、それを実現できると信じている・・・」
困惑を深めていくダイゴたちに、ココロが自分の心境を打ち明けていく。
「私が変身すれば、ガルヴォルスは快楽を実感する・・・これを不幸だと言うなら、何が幸せだというの・・・?」
「ココロさん・・・」
沈痛さを浮かべるココロに、マリが言葉を返せなくなる。
「どんな理由があっても、どんな過去があっても、いつまでも辛さを抱えていることはよくない・・ガルヴォルスである以上、あなたたちもそれなりの経験はしてきていると思う・・・」
「確かにイヤなもの、アンタのいう不幸はオレも気に入らねぇ・・けど、どうすれば納得するのかは自分で決める・・・ワリィが、アンタにすがるつもりはねぇよ・・」
互いに自分の気持ちを正直に告げるココロとダイゴ。ダイゴの考えを聞いて、ココロの心が揺れ動いていく。
「頑ななのね・・そういう真っ直ぐな気持ちは悪くないけど・・・」
呟くように言いかけるココロの頬に紋様が走る。彼女の変化にダイゴが緊迫を覚える。
「それがあなたたちを不幸へと突き落としてしまう・・・」
異形の姿、ヴィーナスガルヴォルスに変化するココロ。彼女からあふれ出した異質の力で、ダイゴとマリは衝動に襲われてうずくまる。
「この感じ・・また・・・!」
「これが、ココロさんの能力・・・体が・・おかしくなっていく・・・!」
湧き上がってくる恍惚に、ダイゴもマリも苦悶を隠せなくなる。起き上がることができないでいる2人を、ココロが見下ろしてくる。
「仮にあなたたちが私に敵対しようとしても、ガルヴォルスである以上、この快感から逃れることはできない・・」
「そんなことはねぇ・・オレは、このくれぇのことでぶっ倒れたりしねぇ・・・!」
力を振り絞ったダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。ガルヴォルスになったことで、ダイゴは押し寄せてくる恍惚に耐えられるようになった。
「思っていた通り、高いレベルのガルヴォルスのようね・・でも戦闘力も私は高いと自負できる・・慢心ではない・・現にさっきのガルヴォルスを倒したのだから・・・」
ココロがダイゴの力の高さを感じ取っていく。
「ワリィが、やっぱここで時間をつぶしてる場合じゃねぇんでな・・じゃあな!」
ダイゴはうめいているマリを抱えると、背中から翼を広げて飛翔していった。ココロは飛び去っていく2人を追わず、見送っていった。
ダイゴたちとココロの対面を、ショウも崖の上から見下ろしていた。ココロがもたらす恍惚にさいなまれそうになったショウは、デッドガルヴォルスに変身して恍惚を抑えていた。
「私が死の淵にいた間に、こんなガルヴォルスが出てきていたとは・・私でもガルヴォルスにならなければ、おかしくなるとは・・・」
ココロの特異な能力を実感するも、ショウは悠然さを崩していなかった。
「だが私が世界を正すことに何の変わりもない。たとえ彼女が私の行く手をさえぎろうとも・・」
ココロの動向を念頭に置きながら、ショウはダイゴたちを倒すために、再び行動を起こすのだった。
ココロから離れて、ダイゴとマリは街の近くの通りに降りた。ダイゴは人間の姿に戻り、マリも落ち着きを取り戻しつつあった。
「マリ・・大丈夫か・・・?」
「うん・・ココロさんが言っていた通り、おかしな気分になった・・まるで、ダイゴと触れ合っているときみたいに・・・」
心配の声をかけるダイゴに、マリが弱々しく答える。
「それにしても、とんでもねぇ能力を持ってやがるな・・しかも、不幸を消してみんなを幸せにするとか・・・アイツ、何をしようとしてるんだ・・・」
「分からない・・・ショウさんみたいに、とんでもないことをしなければいいけど・・・」
ココロの動向にダイゴとマリは不安を募らせていた。もしもココロと対峙することになれば、厄介な相手になることは明白だった。
「って、ココロのことばかり考えてる場合じゃねぇ・・アテナを探さねぇと・・」
「うん・・ミライさんのことも心配だし・・・」
ダイゴの言葉を受けて、マリが携帯電話を取り出す。彼女はミライに連絡を取ろうとした。
「ミライさん・・・?」
“マリちゃん、見つけた!アテナちゃんがマーロンに来たの!”
電話がつながった途端、マリの耳にミライの声が飛び込んできた。
「アテナさんがマーロンに!?・・・す、すぐに行きます!」
“もう行ってしまったよ・・あたしやお姉ちゃんでも止められなかった・・・ゴメン・・・”
「ううん、ありがとう、知らせてくれて・・・私たちもすぐに戻るから・・・」
謝るミライにマリが弁解を入れる。電話を切り、彼女はダイゴに目を向ける。
「マーロンに戻ろう・・ミライさんが戻っている・・・」
「そうだな・・他に手がかりがねぇし・・・」
マリの言葉にダイゴが頷く。2人はひとまずマーロンに向かっていく。
マーロンの前ではミライとミソラが、ダイゴとマリの帰りを待っていた。
「ダイゴ・・マリちゃん・・・」
「ミライさん・・ミソラさん・・・」
マリとミライが互いに戸惑いを見せる。そしてミライが涙を浮かべてうつむいた。
「ゴメン・・アテナちゃんを見つけたのに、連れ戻せなかった・・・」
「ううん・・ミライさんも、アテナさんに呼びかけてくれたんですから・・・」
謝りながらすがりついてくるミライに、マリが優しく言葉を返していく。
「まだ近くにいるかもしれねぇ・・オレが探しに行ってくる・・」
「私も行く・・今度こそアテナさんを連れて帰らないと・・」
アテナを探しに行くダイゴに、マリもついていく。
「ならまたあたしも行く!アテナちゃんを止めることもできなくて・・あたし、辛い・・とっても辛いよ・・・!」
そこへミライが声をかけてきた。足を止めたダイゴとマリが、ミライに対して当惑を見せる。
「ミライ・・・だったら3人一緒に行くぞ・・ゼッテーに離れんじゃねぇぞ・・・」
ダイゴがミライを連れていくことに頷いた。
「ちょっと待って、ミライ・・もうこれ以上は、あなたに止められることじゃ・・・!」
ミソラが呼び止めてくるが、ミライは気持ちを変えようとしない。
「ゴメン、お姉ちゃん・・でも、アテナちゃんを放っておくなんて、やっぱりあたしにはできないよ!」
悲痛さを込めて言い返すミライに、ミソラは肩を落とすしかなかった。
「みんなで無事に帰ってこなかったら、承知しないからね・・・」
「分かってる・・必ず帰ってくるよ・・4人全員で・・」
ミソラの注意を受けて、ミライが笑顔を見せる。
「のんびりしてる暇はねぇぞ、ミライ・・グズグズしてると置いてくぞ・・」
「あっ!待ってよ、ダイゴー!」
歩き出していくダイゴを、ミライが慌てて追いかけていく。3人はアテナを探しに、改めて街に繰り出していくのだった。
マーロンを完全に敵視することができず、逃げるように街の中に飛び込んでいったアテナ。そのビルのひとつの屋上で、彼女は気分を落ち着かせようとしていた。
「どうして・・どうして私はマーロンを憎みきれないの・・・!?」
必死に問いを口にするアテナ。しかしこの問いに答えてくれる者はいなかった。
「どうしたらいいの?・・・どうしたら、この気分がよくなるの・・・!?」
「もしかして、あなたも不幸を抱えているの・・・?」
そこへ声がかかり、アテナはうつむいていた顔を上げて振り返る。その先にいたのはココロだった。
「お前は誰だ・・・お前も私を陥れようと・・・!?」
「初対面の相手にも、有無を言わさず敵視する・・そこまであなたを追い詰めているものは何・・・?」
鋭い視線を送るアテナに、ココロは落ち着いた様子で声をかけてくる。
「あなたも不幸を抱えている・・それも、人並み外れている・・・」
「お前に何が分かる・・何も分からないくせに!」
ココロが投げかけた言葉を、アテナが一蹴していく。彼女は怒りをあらわにして、サキュバスガルヴォルスに変身する。
「ガルヴォルス・・ガルヴォルスに転化したことで、あなたは自分の不幸を加速させてしまった・・そんなあなたに、是非幸せになってほしい・・・」
「勝手なことばかり・・敵は全て倒す!それが私が幸せを取り戻す唯一の方法!」
沈痛の面持ちを見せるココロに、アテナが飛びかかって爪を振りかざそうとする。
「傷つけることが、あなたの幸せなの・・・!?」
だがその瞬間、ココロもヴィーナスガルヴォルスに変身した。直後、アテナは奇妙な気分を感じて倒れ込む。
「何、この感じ!?・・今まで感じたことのない、とてもおかしな感じ・・・!」
「あなたはこの種の気分を感じるのは初めてのようね・・どういう感じかは把握できないまでも、何かを求めてしまうような感じになっているのは確かでしょう?」
呼吸を荒くするアテナに、ココロが淡々と言葉を投げかけていく。押し寄せてくる衝動に耐えられなくなり、アテナが人間の姿に戻る。
「これが幸せの形・・満たされていく気分と、満たそうとする欲求。それらが抑えきれないほどに強まっていく衝動となって、興奮と喜びを膨らませていく・・・」
「あなたは、いったい・・・!?」
「私は不幸を消し去り、幸せをもたらす・・あなたの不幸も、私なら取り除ける・・・」
声を振り絞るアテナに、ココロが微笑みかけて手を差し伸べる。だがアテナはココロの手を払いのける。
「ガルヴォルスも人間も、与えてくるものは不幸だけ!お前たちの誘惑に、私は騙されない!」
「口と頭では拒絶しようとしても、体は私の幸福に酔いしれている・・無意識に思い知らされているのでしょう・・・?」
「黙れ!お前も私が!」
ココロの言葉を一蹴して、アテナが押し寄せてくる恍惚に耐えながら飛びかかる。だが恍惚に耐えようとするため、彼女は力を発揮することができなかった。
ふらつくアテナを、ココロが優しく抱きとめてきた。
「や、やめろ・・放せ・・放せ!」
ココロの腕を振り払おうとするアテナだが、さらに力を入れることができなくなる。
「もう辛くならなくていいのよ・・私が幸せにしてあげるから・・・」
「辛くしているのはお前のほうだ!」
ココロの言葉にアテナが怒りを膨らませる。
次の瞬間、アテナの姿が刺々しい姿へと変貌した。そしてココロの体をアテナの爪が貫いた。
「私は・・私はここでおかしくなっているわけにいかないのよ・・・!」
アテナが鋭く言いかけて、ココロを引き離そうとする。だがココロの腕には力が残っていた。
「まさかこんな力と攻撃があったとは・・すぐに気付かなかったら危なかったわ・・」
ココロは小さく呟くと、アテナの爪を引き抜いた。彼女の傷口がまたたく間に消えていった。
「どういうことなの!?・・急所を狙ったはずなのに・・・!」
「確かにあなたの攻撃は急所を狙っていた。外しても重傷になった・・その私が平然としている理由は2つ・・」
驚愕するアテナに、ココロは何事もなかったかのように語り出した。
「ひとつは私がとっさに動いて急所から攻撃をずらしたこと。もうひとつは私が高い治癒力を備えていることよ。この治癒力は力がある限り復活することができる・・」
「だから、刺しても平気でいるというの・・・!?」
「もう辛さを抱え込まなくていいの・・私があなたの不幸を消してあげるから・・・」
緊迫を募らせるアテナに向けて、ココロが右手をかざして光を放つ。光は小さな輪となって、アテナの手足を拘束した。
「しまった・・・!」
うめくアテナが倒れてしまい、手足の不自由で立ち上がれなくなる。必死にもがく彼女を、ココロが見下ろしてくる。
「肩の力を抜いて、楽になって・・・」
再び手を差し伸べてくるココロに、アテナが焦りを感じていくのだった。
アテナを追い求めて、街中に繰り出していたダイゴ、マリ、ミライ。しかし人ごみの多い街でアテナを見つけ出すことは、極めて困難なことだった。
「アテナちゃん、どこなの・・・!?」
「マーロンに来て何もしなかったってことは、まだ心が残っているということですよね・・・?」
不安を口にするミライとマリ。ダイゴも緊張を抱えたまま、アテナの行方を捜すこととなった。
「アテナ・・いい加減にしろよな・・どこに行っちまったんだよ・・・!?」
「まだ彼女を探しているのか?」
ダイゴが愚痴をこぼしたところで、声がかかった。彼らの前にショウが現れた。
「アニキ・・またこんなときに・・・!」
「実に強情なことだ・・呆れてものも言えない・・呆れ果てて吐き気がするくらいだ・・」
苛立ちを見せるダイゴを嘲笑するショウ。
「願っても祈ってもムダだ。私はそんな愚策では何も変わらないことを幾度となく思い知らされている・・」
「勝手に決めんな!オレのしてることがムダかどうかは、オレが決めることだ!」
ショウの言葉に反発するダイゴ。しかしショウは不敵な態度を崩さない。
「愚かだ・・愚か者が動かしている世界の中で落ち着いてしまって・・・同調させてやるメリットなど何もないというのに・・・」
さらにあざ笑ってくるショウが、デッドガルヴォルスに変身する。彼の異形の姿を目の当たりにして、周りの人々が恐怖を覚え悲鳴を上げる。
「アニキ、何を・・・!?」
「もはや、暗躍する意味もメリットもない・・・」
目を見開くダイゴの前で、ショウが冷徹に告げる。彼が高らかに具現化した鎌を振り上げた。
次回
「愚か者は、死を受け入れることで愚かさを痛感しなければならない・・」
「私こそが、断罪の存在となるのだ・・・」
「オレは身勝手なヤツには左右されねぇ!」
「オレの進む道を決めるのは、オレと、オレが心を寄せるヤツだけだ!」