ガルヴォルスZEROrevenge 第15話「光のフィルメント」
家を飛び出したところで、ダイゴとマリはアテナと対面した。敵意をむき出しにしたアテナが、サキュバスガルヴォルスに変身する。
「私はお前たちを倒す・・私たちの幸せを取り戻すために・・・!」
「ちょっと待って!アテナさん、そんなことをしても、幸せは返ってこない!」
怒りをあらわにするアテナに、マリが悲痛さを込めて言い返す。
「私も自分に振りかかった辛さを呪ったこともあった・・でも壊して辛さから逃げるよりも、辛さに立ち向かって乗り越えていくことのほうが・・・!」
「どうすれば幸せを取り戻せるかは私が見つける!他のヤツに答えを求めても、騙されるだけだから!」
マリの言葉を聞こうとしないアテナ。マリが言い返そうとするが、ダイゴに止められる。
「まずは場所を変えるぞ・・ここだとオレたちもおめぇも、いい感じがしねぇだろ・・・?」
「・・いいよ・・でも場所は私が決める・・人がいなければ文句はないでしょう・・・?」
ダイゴの申し出にアテナが同意する。3人は家から離れ、人のいない場所を目指した。
その間に、マリはアテナの目を盗んで、携帯電話でミライにメールを送っていた。
「アテナさんと会えた・・・!?」
マリからのメールを見て、ミライが驚きの声を上げる。彼女の声を聞いて、ミソラも緊張を覚える。
「ダイゴとマリちゃん、大丈夫かな・・・?」
「私も心配だけど、私たちが行ってもどうにもならないわ・・・」
不安を口にするミライに、ミソラが声をかける。しかしミライは不安を拭えない。
「あたし、やっぱりダイゴたちのところに行ってくる!」
「あっ!ちょっとミライ、待ちなさい!」
マーロンを飛び出していくミライ。ミソラの呼びとめも聞かずに、ミライはダイゴたちを追いかけていった。
アテナに導かれる形で、ダイゴとマリは人気のない草原に来た。草原の静寂が、嵐の前の静けさを物語っているようだった。
「ここなら文句ないでしょう・・?」
「あぁ・・これでおめぇを止めることだけに集中できる・・・」
アテナが声をかけると、ダイゴが真剣な面持ちで頷く。
「私は止まらない・・私たちの幸せを取り戻すために・・・」
「そうやって自分の幸せのために、自分だけで決めつけて、敵対してきてねぇヤツまで手にかけるのかよ・・・どんなに違うと言っても、結局ランやカンナと変わんねぇじゃねぇかよ・・・!」
「一緒にしないで!私の幸せを壊そうとする人には、絶対に心を許さない!」
ダイゴの言葉を聞き入れようとしないアテナ。
「私は私たちの幸せを取り戻したいだけだった・・この小さな願い、どれだけ願っていたことか・・・」
「アテナ・・・」
「私の願いを聞き入れてくれる人もいない・・みんな自分が満足するために、他の人を平気で犠牲にする・・・!」
困惑を見せるダイゴを見据えて、アテナが身構える。
「そんな腐った人に心を許すつもりはない・・私が全員倒す・・・!」
「オレだって、性根の腐ってるヤツとなんか、馴れ馴れしくするつもりもねぇよ・・・」
敵意をむき出しにしてくるアテナに、ダイゴが憮然とした態度で言葉を返す。
「オレは気に入らねぇヤツにいつも突っかかってた・・そんなヤツが何のおとがめもされずにのうのうとしてるのが我慢ならなかったからだ・・そんなオレが幸せに暮らせてるのは、マリやみんながいてくれたからなんだ・・・」
「ダイゴ・・・」
ダイゴが告げた心境に、マリが戸惑いを見せる。
「おめぇには家族がいた・・今もオレやマリがそばにいる・・自分を支えようとしてくれるヤツらまで敵に回して、おめぇが手に入れようとしてるのは何なんだよ!?」
「うるさい!私の幸せは私が取り戻す!何度も言わせないで!」
ダイゴの心境さえも一蹴するアテナ。
「幸せを取り戻すために私は敵を倒す・・・戦って滅ぼす以外に、私の幸せを取り戻す方法はない・・・!」
「そうかよ・・そんな考えでオレたちを倒そうっていうなら、自分が倒されることも覚悟してるんだろうな・・・!?」
言い放つアテナに対して憤りを募らせるダイゴ。彼の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「オレたちはおめぇを止める・・たとえおめぇを殺すことになっても・・・!」
目を見開いたダイゴがデーモンガルヴォルスに変身する。彼はアテナを鋭く見据えて、拳を強く握りしめる。
「私を殺す・・・やはりお前もそういう考えなのね・・・!」
いきり立ったアテナが、ダイゴに向かって飛びかかる。右手を繰り出して爪を突き出す彼女だが、ダイゴに右腕をつかまれる。
ダイゴは左手でアテナの右腕を押さえたまま、右手で彼女の体を殴る。
「ぐっ!」
痛烈な攻撃を受けて、アテナが顔を歪める。ダイゴは立て続けに打撃を繰り出し、アテナを押していく。
(ダイゴも本気になっている・・手加減なしでアテナさんを止めようとしている・・・)
戦いを見守るマリが、ダイゴの覚悟を痛感していた。彼女もいつでも戦えるようにしていた。
ダイゴの猛攻に押され気味のアテナ。その劣勢が、彼女の怒りを膨らませていた。
「負けられない・・負けたくない!」
憤慨したアテナの姿が刺々しいものへと変化する。
「ぐっ!」
彼女の突然の反撃を受けて、ダイゴが突き飛ばされる。両足を地面に押しつけて踏みとどまろうとするが、ふらついて地面に膝を付けた。
「やっぱすげぇ力だ・・しかもまだ上がってるみてぇだ・・・!」
体を起こしたダイゴが、アテナの驚異の力に毒づく。
「私はお前を倒す・・絶対に生かしたままにしない・・・!」
冷徹に告げるアテナが、ダイゴに迫る。素早く飛び込んできた彼女から、ダイゴは背中から翼を広げて飛翔した。
「逃がさない!」
アテナも背中から翼を広げて飛び上がる。彼女の素早い動きと攻撃が、飛翔するダイゴを捉える。
抉るように叩き込まれてくるアテナの打撃に、ダイゴは苦痛を覚えて顔を歪める。
(どんどん力を上げてきてる・・アニキに迫る勢いだぞ・・・!)
アテナの力を目の当たりにして、ダイゴは焦りを覚えていく。
「ダイゴ!」
ダイゴの劣勢を見かねたマリがエンジェルガルヴォルスに変身する。彼女は飛翔して、落下しようとしているダイゴに近づこうとする。
「お前もここで倒す・・ガルヴォルスも、私の敵!」
そこへアテナが飛び込み、マリの行く手をさえぎった。
「アテナさん!」
アテナをかいくぐって、マリがダイゴのところに向かおうとする。そこへアテナに首をつかまれ、そのまま下に押されていく。
「うっ!」
地面に叩きつけられ、マリがうめく。その直後に、落下したダイゴも地面に叩きつけられた。
「マリ・・アテナ・・・!」
声と力を振り絞って、ダイゴが立ち上がる。マリから手を離して、アテナがダイゴに振り返る。
「2人がかりでも私は負けない・・敵わない相手でも、私は倒す・・・!」
「それはオレも同じだ・・勝てねぇからって、諦めるオレじゃねぇよ・・・!」
冷徹に告げるアテナも、ダイゴも鋭く言い返す。
「オレは諦めねぇ・・今までだってそうだった・・そしてこれからもそれは変わんねぇ・・それが変わっちまったら、もうオレでなくなる・・・」
「そんなヤツを私は認めない・・そんなのが、幸せを壊していくのだから・・・!」
「おめぇだって、自分らしさだけは何が何でも変えようとしてねぇじゃねぇかよ・・それが幸せを壊すことなら、おめぇもその幸せを壊していることになるじゃねぇかよ・・・!」
「うるさい!ガルヴォルスの言葉に耳を貸さない!幸せは私が取り戻す!それだけよ!」
アテナが激昂してダイゴに飛びかかる。彼女が突き出した爪が、ダイゴの体に突き刺さった。
「うぐっ!」
激痛を覚えてうめくダイゴ。彼の体から鮮血があふれ出す。
「どうした・・こんなもんじゃ、オレは倒れねぇよ・・・!」
「倒す・・倒れるまで何度でも・・・!」
声を振り絞るダイゴから、アテナが爪を引き抜く。血をまき散らしながらも、ダイゴは倒れずに踏みとどまる。
「今度こそ・・今度こそお前を・・・!」
「やめなさい、アテナさん!」
ダイゴに迫るアテナに向けて、マリが呼びかける。彼女の背中の翼に光が発せられる。
アテナが素早く動いてマリの光をかわす。さらにアテナは飛び込んで、マリの体を切り裂く。
血を散らして怯むマリをつかんで、アテナがダイゴに向けて投げつける。ダイゴはマリと衝突して、2人そろって倒れ込む。
「ダイゴ・・大丈夫・・・?」
「オレは大丈夫だ・・・マリもしっかりしろって・・・」
心配の声をかけるマリに、ダイゴが呼びかける。ゆっくりと立ち上がる2人に、アテナが鋭い視線を向ける。
「今度こそ終わりよ・・お前たちを倒して、私は幸せを取り戻す・・・!」
「あなたがこんな戦いを続けても、幸せは手にできないし、家族も喜ばない・・・必死に伸ばしてきている手を拒まないで・・・」
マリが悲痛さを込めて、アテナに呼びかける。
「幸せなら、私たちが与えればいい・・・私たちにできることだったら、アテナさんにしてあげられるから・・・」
「私は何にも頼らない・・お前たちのことなど、簡単に切り捨てられる・・・」
「甘えることが全然悪いことじゃない・・誰だって弱い部分はある・・私たちにも、アテナさんにも・・・」
さらに冷徹に告げるアテナに、マリが微笑みかける。彼女は唐突に人間の姿に戻る。
「どういうつもり!?・・・そうやって同情を誘おうとしても・・・!」
「そういうのじゃない・・ガルヴォルスの姿のままだと、敵対しているということになる・・・」
警戒するアテナに、マリが声を振り絞る。ダイゴもマリの意思に同意して、人間の姿に戻る。
「オレも、できることならおめぇと戦いたくねぇ・・だからいったんガルヴォルスから元に戻ったんだ・・・」
「そうやって、私が気を許すとでも・・・!」
「1人だけで抱え過ぎるな・・辛くなったら、誰かに甘えてもいいじゃねぇかよ・・・!」
敵意を消さないアテナに、ダイゴが必死に呼びかける。
「マジで辛くなったときぐれぇ、甘えたっていいじゃねぇかよ・・・」
「甘えたら・・そこを付け込まれて、利用される・・・!」
ダイゴの言葉を頑なに拒絶するアテナ。
「アテナちゃん!」
そこへミライが駆け込み、アテナに声をかけてきた。
「ハァ・・ハァ・・・もうやめよう、アテナちゃん・・マーロンに帰ろう・・・」
「帰る?・・私には帰る場所なんてない・・ガルヴォルスや人間のせいで、私は全てを失った・・・」
「そんなことない!アテナちゃんには、あたしたちがいる!あたしたちがついてる!」
「またそうやって私を騙そうとして・・・!」
ミライの言葉にも耳を貸そうとしないアテナ。
「帰ろう、アテナちゃん・・あなたに不幸を与えようって人がいたら、あたしたちが守ってあげるから・・だからみんなで、たくさん幸せを作ろう・・・」
「そんな言葉に騙されないって言っているでしょ!」
両手を広げて迎えようとするミライに、アテナが怒りのままに飛びかかる。
「ミライ!」
ダイゴがアテナに飛びついて、ミライを守ろうとする。だが人間の姿のままのダイゴは、アテナに簡単に投げ飛ばされる。
「ダイゴ!」
悲鳴を上げるマリとミライ。激しく横転して倒れ込むダイゴに、マリが駆け込んでいく。
「ダイゴ!しっかりして、ダイゴ!」
「マリ・・オレは、このくれぇのことで・・・!」
マリが呼びかけると、ダイゴが力を込めて立ち上がる。彼はアテナに鋭い視線を送る。
「もうおめぇには、誰の言葉も伝わらねぇのかよ・・・!?」
ダイゴは声を振り絞ると、マリを強く抱きしめる。
「だったらオレは、オレたちは戦う・・どんなにおめぇに憎まれても、おめぇのためにおめぇを倒す!」
「ダイゴ・・・私ももう、迷っている場合じゃないってこと・・・」
言い放つダイゴのそばで、マリも迷いを振り切り、アテナと全力でぶつかることを心に決めた。
「これ以上独りよがりな戦いを続けて、みんなを苦しめるっていうなら・・私はあなたと戦う!」
言い放つマリの胸元から光が発せられた。光は一気に広がり、ダイゴさえも包んでいく。
「何、この光・・・!?」
「ダイゴ・・マリちゃん・・・!?」
アテナとミライが2人の変化に驚きを見せる。この変化を目の当たりにするのはアテナもミライも初めてだった。
球状となった光はエネルギーを収束させていく。やがて弾け飛んだ光の中から現れたのは、1人の異形の怪物だった。
顔立ちは中性的で、ダイゴともマリとも似ていた。背中には白と黒の翼がそれぞれ広がっていた。
「ダイゴ・・マリちゃん・・・どうなっちゃったの・・・!?」
困惑を膨らませるミライの見つめる先で、怪物、ルシファーガルヴォルスが閉ざしていた目を開いてきた。
「できればこの姿になりたくなかった・・滅多にこの姿になれないから、うまく力の加減ができない・・・」
ルシファーガルヴォルスの口からダイゴの声が発せられた。だが人格はマリと共有、共存していた。
「合体して力を上げたというの!?・・・そんなことでも、私は止まるわけにはいかない!」
アテナがルシファーガルヴォルスに向かって飛びかかる。素早い動きで飛び込んで爪を突き出す彼女だが、ルシファーガルヴォルスの動きは彼女の上を行っていた。
アテナが伸ばしていた右腕が、ルシファーガルヴォルスに簡単につかまれた。
「えっ!?」
思わず驚愕の声を上げるアテナ。ルシファーガルヴォルスの手を振り払おうとする彼女だが、その手から逃れることができない。
「こ、こんなに力が上がっているなんて・・・!?」
ルシファーガルヴォルスの手から逃れることができず、アテナが思わず地面に膝をつく。
「このくらいで、私が諦めるとでも!」
アテナが左手の爪を振りかざす。その瞬間、ルシファーガルヴォルスがアテナを上空に投げ飛ばした。
「うわっ!」
高く放り投げられたアテナが、上空で体勢を整える。だがルシファーガルヴォルスが飛び上がり、アテナの眼前にまで迫っていた。
とっさに反撃して、アテナが爪を突き出す。だがルシファーガルヴォルスの残像を帯びた動きに、彼女の攻撃はことごとくかわされていく。
「私の攻撃が、全然当たらない・・・!?」
ルシファーガルヴォルスの力に愕然となるアテナ。攻撃を当てられないことへの苛立ちが、彼女の力をさらに上げていく。
「負けられない・・負けたらお父さんとお母さんが、ずっと不幸になる!」
悲痛さを噛みしめて、アテナがさらに爪を突き出す。ルシファーガルヴォルスが拳を繰り出し、アテナを殴り飛ばした。
「ぐっ!」
重みのある攻撃を受けてうめき、アテナが地上に叩きつけられる。その爆風にあおられて、ミライがしりもちをつく。
体中を駆け巡る激痛にさいなまれながらも、アテナは何とか立ち上がる。彼女の眼前にルシファーガルヴォルスが着地する。
「もうやめろ・・オレはおめぇを殺したくねぇ・・・!」
「何度も同じことを言わせないで・・・幸せを取り戻すために、私は!」
ルシファーガルヴォルスの言葉を一蹴して、アテナが飛びかかる。憤りを噛みしめながら、ルシファーガルヴォルスが拳を繰り出す。
立て続けに打撃を叩き込まれて、アテナが苦痛を膨らませていく。ルシファーガルヴォルスの猛攻で、彼女は大木に叩きつけられる。
(つ・・強い・・私の力が、全然通じない・・・!)
大木にもたれかかるアテナに、ルシファーガルヴォルスが立ちはだかる。
「私は幸せを取り戻す・・お前たちのいいようには絶対にさせない!」
激昂したアテナが全身からエネルギーを放出しながら、ルシファーガルヴォルスに飛びかかる。
「これだけ言っても分かんねぇのかよ・・・!」
歯がゆさを噛みしめるルシファーガルヴォルス。繰り出された拳が、アテナを大きく突き飛ばした。
大きく吹き飛ばされ、アテナの姿が見えなくなった。
「ホント・・バカだ・・・おめぇも・・オレたちも・・・」
拭いきれない憤りを感じて、ルシファーガルヴォルスが声を振り絞る。その目からは涙があふれて流れ落ちていった。
ルシファーガルヴォルスの攻撃で吹き飛ばされたアテナは、草原からかなり離れた森の中に落ちた。その後に人間の姿に戻ったものの、彼女は一命を取り留めていた。
「勝てなかった・・あの力に、全然・・・!」
ダイゴたちに完膚なきまでに打ちのめされたことに、アテナは怒りと悔しさを募らせていた。
「あんなのが・・あんな堕天使がいるから・・・!」
「堕天使?もしやそれはダイゴのことか?」
憤りで体を震わせていたところで、アテナは突然声をかけられた。身構える彼女の視線の先に、1人の青年がいた。
「誰・・お前も私の敵・・・!?」
「敵か味方かは、君の行動次第と言っておく・・・」
警戒の眼差しを送るアテナに、青年が悠然と答える。
「私は佐々木ショウ・・この愚かしき世界を憎む者だ・・・」
青年、ショウが名乗ると、アテナは驚愕して目を見開いた。生きていたショウがアテナとの接触を果たしていた。
次回
「私はお前に従うつもりはない・・・!」
「君は君の志のままに戦えばいい・・」
「私は、まだ戦える・・・!」
「アニキ・・・!?」
「久しいな、ショウ・・・」