ガルヴォルスZEROrevenge 第14話「迷走」
晴天が間もなくして大雨へと変わっていった。太陽のきらめきがウソだったかのように、激しい雨が降り注いでいた。
草原に佇むダイゴを、雨がぬらしていた。彼が手にかけたカンナの血も、雨に流されていた。
その草原に、アテナを追いかけていたマリが駆け付けてきた。
「ダイゴ・・・」
マリが声をかけたところで、うつむいていたダイゴがゆっくりと振り返ってきた。
「マリ・・・結局、こうするしかなかった・・・」
「ダイゴ・・・ダイゴは悪くない・・ダイゴはダイゴなりに考えて、覚悟を決めたんだから・・・」
歯がゆさを浮かべるダイゴを、マリが微笑んで励ましていく。しかしダイゴは憤りを抑えることができずにいる。
「何で・・こんなヤツがいつまでものさばってるんだよ・・・!?」
「ダイゴ・・あまり深く思いつめないで・・アテナさんまで心配かけてしまうよ・・・」
怒りの言葉を言い放つダイゴに駆け寄り、マリが寄り添ってくる。彼女に支えられて、ダイゴが徐々に気持ちを落ちつけていく。
「そうだった・・・アテナを探しださなきゃいけねぇんだった・・・」
「アテナさんを見つけたけど、止めることができなかった・・彼女、力が強くなっている・・・」
「あぁ・・オレでもやり合えるかどうかも分かんねぇ・・・」
「怒りがアテナさん自身を強くしているように・・・ガルヴォルスだけじゃなく、人間まで憎むようになってしまった・・・」
右手を強く握りしめるダイゴと、沈痛さを募らせていくマリ。
「人間もガルヴォルスも関係なく、敵は徹底的に叩きのめそうとする・・アニキみてぇに・・・」
ダイゴが口にした言葉に、マリが困惑を覚える。
佐々木ショウ。ダイゴの兄で、頭脳明晰、成績優秀と評価され続けてきた。だが世界の愚かさを実感した彼は、本当の世界のあり方を求めていった。
最終的にショウはダイゴと対立し、崖下に落ちて生死不明となった。
「アニキも、自分のことしか考えてなかった・・けど、そうさせちまったのも、思い上がった連中なんだよな・・・」
「・・・アテナさんまで、そんな道を進ませるわけにいかない・・・ダイゴも、そう思っているんでしょう・・・?」
ショウのことを思い返すダイゴに、マリが深刻さを込めて言葉を投げかける。するとダイゴが小さく頷いた。
「この辺りを探そう・・けど少し探したらマーロンに戻るぞ・・」
「うん・・ガルヴォルスだからって、元が人間であることは確か・・雨の中にずっといたら、さすがに体を悪くするし・・・」
ダイゴの言葉にマリが頷く。
「アテナさん、雨で震えていないかな・・・?」
不安を膨らませながら、マリはダイゴとともにアテナを捜し歩いた。
家族の仇であるランを手にかけたアテナ。喜びの哄笑を上げる彼女の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「やった・・・これでやっと・・お父さんとお母さんが、ゆっくりと眠れる・・・」
自分の最大の目的を果たしたアテナ。だが彼女は完全に喜びに浸ることができないでいた。
「どうして?・・・ランは倒したのに、どうしてこんなに胸が苦しくなるの・・・?」
自分の胸を押さえて自問自答するアテナ。だが彼女に求めている答えが返ってくるはずもなかった。
「ランを倒しただけじゃ、今の私が満足することはない・・・やっぱり、全部を叩き潰さないといけないのかな・・・?」
安息への渇望のあまりに、アテナは和らげていた憎悪を再び膨らませた。
「私はこれからも戦っていく・・ガルヴォルスだけじゃなく、人間も私の敵だったんだから・・・!」
敵意をむき出しにしたアテナから、再び禍々しいオーラがあふれ出してきた。膨らんでいく憎悪が衝撃波となり、彼女をぬらしていた雨を一気に吹き飛ばした。
「敵は全て滅ぼす・・そうすれば、私もお父さんもお母さんも、安らぎを取り戻すことができる!」
敵と認識した相手を倒すため、アテナは憎悪を宿したまま歩き出していった。
雨が降りしきる中、ダイゴとマリはアテナを必死に探した。だがアテナを見つけることができず、2人はマーロンに戻ることとなった。
「ダイゴ、マリちゃん、無事だったか・・・」
ジョージがダイゴとマリに声をかけてきた。ジョージも雨のため、ミライとともに雨宿りのためにマーロンに来ていたのである。
「早く体を拭きなさい!風邪ひくわよ!」
ミソラが2人にタオルを投げてきた。2人は更衣室で代えの服に着替えるのだった。
「その様子じゃ、アテナちゃんは見つかってないようだな・・こっちも手がかりなしだった・・・」
ジョージがダイゴに向けて声をかけてくる。話を聞いたダイゴが歯がゆさを浮かべる。
「オレ、カンナってヤツをやっちまった・・・どこまでいっても、自分のことしか考えてなかった・・・!」
「・・・刑事のオレがこんなことを言うのはどうかしてると思われるが・・強引な相手は、力ずくで止めるしかねぇのかもしれねぇなぁ・・」
ダイゴが打ち明けたことに、ジョージが愚痴るように答える。
「バカは死ななきゃ治らねぇと聞くけど・・最近は死んでも治りそうもなかったり、死のうとしてバカなことをするヤツも出てきてるしな・・・」
「みんな馬鹿げてるのかもな・・バカなヤツが許せねぇオレも・・・だったらイヤなバカよりも、いいバカのほうがマシだな・・・」
ジョージの言葉に、ダイゴも苛立ちを膨らませながら言いかける。
「馬鹿げた連中のせいで、アテナは苦しんでる・・アイツの苦しみが、オレの中に流れ込んでくる・・・!」
「ダイゴ・・・」
アテナのことで苦悩するダイゴに、マリが困惑を見せる。
「アテナちゃんには気の毒だが、この雨はしばらくやみそうもねぇ・・やんでも完璧に夜になる・・・」
ジョージが外を見てダイゴに言葉を投げかける。
「1度家に戻って見て、ダイゴくん、マリさん・・もしかしたら帰っているかもしれないから・・・」
「そうだな・・・可能性はかなり低いけど・・・」
ミソラの呼びかけに、ダイゴが憮然とした態度で答えた。
雨がやんだときには、既に日が暮れて夜になっていた。ダイゴとマリが家に戻っても、アテナの姿はなかった。
「期待してなかったわけじゃねぇが・・やっぱり戻ってねぇか・・・」
ため息混じりに言いかけるダイゴ。そんな彼にマリが寄り添ってきた。
「私たち、これからアテナさんのためにどうしていけばいいのかな・・・見つけられても、彼女は私たちも敵だと思っている・・・」
「マリ・・・」
「それでも、私はアテナさんを敵だと認めたくない・・仲直りしたい・・・」
戸惑いを浮かべるダイゴに、マリが涙を見せる。彼女は全てを敵と認識して、さらに深い闇に堕ちようとしているアテナが、心配でたまらなかったのである。
「あんまり深く考えるな・・オレたちのしたいこと・・しようとしてることは変わらねぇ・・・」
ダイゴに声をかけられて、マリは次第に心を落ち着けていく。
それから2人はベッドでの触れ合いをした。戻らないアテナのことを考えて荒んでいた心を、ダイゴもマリも和らげようとしていた。
「私は信じることにする・・アテナさんのことを、ずっと・・・」
「オレも信じてる・・信じてぇよ・・・けど、アイツがオレたちを信じてくれるかどうかだ・・・」
辛さを噛みしめて言葉を交わすマリとダイゴ。
「戻ってきてほしいとは思ってる・・けどアテナが無関係の何の悪さもねぇヤツまで何かするのが我慢ならねぇのも確かだ・・」
「ダイゴ・・・」
「止めなくちゃいけねぇ・・最悪殺してでも・・・!」
戸惑いを募らせるマリを、ダイゴが強く抱きしめる。あつい抱擁を受けて高揚感を覚えるマリは、言葉を口にすることもままならなくなっていた。
「アテナ・・何やってるんだよ・・・!?」
アテナへの憤りと辛さを噛みしめて、ダイゴは声を振り絞った。
この夜も、アテナは自分に近づいてくる人を情け容赦なく手にかけていった。彼女はそういった人全員が、自分を陥れようとする敵であると思い込んでいた。
敵全てを葬った先に、自分が追い求めてきた幸せがある。そう信じて、アテナは狂気に駆り立てられていった。
そんな彼女の脳裏の奥に、ダイゴとマリの姿が焼き付いていた。
(今日まで散々敵を倒してきた・・今まで追い続けてきた平野ランも倒した・・私を利用してきた橋本カンナも死んだと聞いた・・・)
アテナが思考を巡らせて、体を振るわせていく。この震えは雨にぬれて体が冷えたからではなく、煮え切らない気分ゆえだった。
(私の心を傷つける敵はいなくなった・・でも敵はアイツらだけじゃなかった・・他にも私を陥れようとする敵はいる・・この世界にたくさん・・・)
敵意を膨らませて、アテナが歯がゆさを浮かべる。しかしダイゴとマリのことを思い返し、アテナは苦悩にさいなまれていく。
(どうして・・ダイゴもマリも、私を騙していたのに・・・憎むことが辛くなってくる・・・!)
頭に手を当てて、顔を歪めて膝をつくアテナ。ダイゴとマリを憎みきることができなくなっていた。
(あの2人がいるから、私はまだ幸せを取り戻すことができない・・・)
必死に自分に言い聞かせようとするアテナ。彼女は震えを押さえてゆっくりと立ち上がる。
「ダイゴとは、決着をつけないといけないかもしれない・・・私の手で、この苦しみを終わらせないといけない・・・!」
低い声音で呟いて、アテナは歩き出していった。2人の生活の場、清水家に向かって。
朝日の光が窓から差し込んできた。この日光で、ダイゴは目を覚ました。
ベッドから起きたダイゴは、家の中を見て回った。しかしアテナが帰ってきた様子はなかった。
そのとき、ダイゴは持っていた携帯電話のバイブが働いていることに気付く。電話の相手はミライからだった。
「ミライ・・・まだアテナは帰ってきてねぇ・・・」
“おはよう、ダイゴ・・・あたしたちのところにも来てないよ・・ジョージさんもまだ見つけられてないみたい・・・”
ダイゴが電話に出ると、ミライの声がかかってきた。彼女もジョージもアテナの行方をつかめずにいた。
「今日もマリと一緒にアテナを探してみる・・・もしかしたらアイツ、オレを狙ってくるかもしれねぇ・・そんな気がするんだ・・・」
“そういうのが、いいのか悪いのか・・あたしも分かんなくなりそう・・・”
「オレもだ・・まずはアイツを見つけるのが先だ・・ミライも見かけたら知らせてくれ・・・」
“うん・・マリちゃんにもよろしくね・・・”
こうしてダイゴはミライとの連絡を終えた。
「ミライさんから・・?」
そこへ目を覚ましたマリが、ダイゴに声をかけてきた。
「あぁ・・また、アテナを探しにいかねぇとな・・・」
ダイゴが言いかけた言葉に、マリが小さく頷いた。
ダイゴとの連絡を終えたミライは、困惑を隠せなくなっていた。ダイゴやマリが必死になって探しているのに、アテナが戻ってこない。この現実に彼女は辛さを感じていた。
「あんまり思い詰めないの、ミライ・・」
そこへミソラが声をかけてきた。
「お姉ちゃん・・・分かってはいるけど・・それでも胸が痛くなってくるよ・・・」
「それは私も同じよ・・でもこういうときこそ、しっかり気を引き締めないと・・」
沈痛の面持ちを浮かべるミライに、ミソラが発破をかける。それでもミライは気持ちを落ち着けることができないでいた。
「でもアテナちゃん、あんなに真面目でいい子だったじゃない・・ガルヴォルスであっても、そのいいところは変わってなかった・・それなのに、全然戻ってこないなんて・・・」
「・・誰だって、イヤなこと、辛いことを経験して生きているのよ・・ダイゴくんもマリさんも・・・」
ミソラのこの言葉に、ミライが戸惑いを覚える。
彼女はダイゴとマリの因果を思い返していく。ミライ自身もこの因果に巻き込まれて、石化されたことがある。
絶望に打ちひしがれても、ダイゴとマリはこの因果を乗り越えた。ミライの励ましがあったから立ち直れたと、2人は思っていた。
「ダイゴたちと比べると、あたしは甘えん坊だなぁって思えてくるよ・・・」
「ミライだって一生懸命になってたじゃない・・ダイゴくんとマリさんが経験してきたことがすごすぎるのよ・・」
ため息をつくミライに、ミソラが呼びかけてくる。
「本当にしっかりしないといけないわよ。アテナさんにそんな情けない顔を見せるつもり?」
「そうは言うけど・・・」
元気を取り戻せないでいるミライに、ミソラも段々気まずくなっていった。
そのとき、2人の耳にTVからのニュースが聞こえてきた。それは立て続けに起こっている殺人事件だった。
社長、役員、政治家、軍人。役職は様々であったが、いずれも被害者は高いポストの人間ばかりだった。
「もしかして、アテナちゃんが・・・!?」
「そんなバカなことをするわけがないじゃない!・・って、言いきれないのが辛い・・・」
ミライに注意しかけるも、同じく不安を口にするミソラ。
「このこと、ダイゴたちに知らせたほうがいいかもしれない・・」
ミライが心配になって、再びダイゴに連絡を入れるのだった。
「・・・そうか・・・そんなことはねぇと思うけど・・・わざわざ知らせてくれてありがとうな・・・」
ミライからの知らせに、ダイゴは感謝の言葉を返した。この知らせを聞いて、マリは不安を浮かべる。
「でも、まさかアテナさんが、そこまで・・・」
「そう決まったわけじゃねぇ・・けど、これが有力な手がかりだってことは間違いねぇ・・・」
マリに答えるダイゴは、必死に自分の気分を落ち着かせようとしていた。
「とにかくその辺りを探ってみるか・・おっちゃんにも、その線を調べてくれてるだろうから・・」
「うん・・アテナさんの仕業じゃないってことを確かめるためにも・・・」
ダイゴが投げかけた言葉に、マリが渋々頷く。2人はアテナを探すために家を出た。
そのとき、ダイゴは自分に向けられた殺気を感じ取り、緊迫を覚える。
「ダイゴ・・・!?」
「この感じ・・・もしかして、アイツが・・・!?」
マリも不安を見せたとき、ダイゴは気配を感じるほうに振り返る。その先にいたのはアテナだった。
「アテナ・・・!」
「アテナさん・・・帰ってきたのね・・・」
息をのむダイゴと、安堵の笑みを見せるマリ。アテナはその2人に鋭い視線を向けていた。
「お前たちが、今の私の最大の障害になっている・・お前たちがいると、私たちに幸せが戻らない・・・」
低く告げるアテナの頬に紋様が浮かび上がる。
「だから私は、お前たちをここで倒す・・・!」
敵意をむき出しにしたアテナがサキュバスガルヴォルスに変身する。恐れていた事態を痛感し、ダイゴとマリは緊張の色を隠せなくなっていた。
とある邸宅の1室。高いポストについている人間が主人となっているこの邸宅の中は、多くの使用人や警備員が倒れて動かなくなっていた。
部屋の中で主人である男が震えていた。彼の前には1人の青年が立ちはだかっていた。
「私の・・私のしていることの何が悪い!?・・私のしていることのどこに間違いがあるという・・・!?」
「実に愚かしい答えだ・・そういう考えをしている時点で、お前は愚かなのだ・・」
声を荒げる男に、青年は冷徹に告げる。
「お前のように無知で愚かな存在は、もはや言葉をかけること自体滑稽なこと・・その過ちを正すには、死をもって償わせるしかない・・」
「やめろ・・私に何かあれば、この国は悪い方向に・・!」
青年に反論しようとしたときだった。男の体が切り裂かれ、鮮血をまき散らしながら倒れていった。
「逆だ・・お前たちがいるから、この世界は荒廃の一途を辿るのだ・・・」
冷徹に告げる青年。彼の姿は死神のような異形の怪物に変わっており、その手には死神が持っているような鎌が握られていた。
「この世界は、全てを導くにふさわしい器を持つ者が動かすべきなのだ・・・」
人間の姿に戻った青年。彼は音もなく、殺害の証拠も残さずに姿を消した。
ダイゴの兄、ショウは生きていた。世界への制裁のため、彼は再び行動を起こしていた。
次回
「私の願いを聞き入れてくれる人もいない・・」
「戦って滅ぼす以外に、私の幸せを取り戻す方法はない・・・!」
「幸せなら、私たちが与えればいい・・・」
「オレたちはおめぇを止める・・たとえおめぇを殺すことになっても・・・!」