ガルヴォルスZEROrevenge 第11話「黒い悪魔」
「消してやる・・お前が、この世界にいることを認めない・・・!」
低い声音を発すると、アテナがランに向かって駆け出していった。その動きが格段に速くなっており、虚を突かれたランは回避が遅れた。
アテナの突進を受けて、ランが上空に跳ね上げられる。すぐに体勢を立て直して着地したところで、彼女は再びアテナの突進を受ける。
「ちょっと・・力上がりすぎじゃない・・・」
苦笑を浮かべるランが尻尾を振りかざす。だがアテナは尻尾を左手で払い、右の拳をランの体に叩き込んできた。
「うっ!」
体に痛みを覚えてランが怯む。ヒルガルヴォルスの軟体でも、アテナの攻撃のダメージを弱めきれなかった。
「私の体はダメージを和らげるはず・・それでもダメージを抑えきれなかったっていうの・・・!?」
驚愕の声を上げるランに、アテナがさらに襲いかかってくる。彼女の血を吸い取ろうと、ランが再び尻尾を伸ばす。
だがアテナにかわされ、さらに打撃を受けるラン。一気に劣勢に追い込まれたことに、彼女は苛立ちを覚える。
「私がこんな不様をさらすとは・・・このままでは済まさないわよ!」
ランは捨て台詞を吐くと、大きく飛び上がってアテナから離れる。
「逃げるな!」
叫ぶアテナがランを追って、背中の翼をはばたかせて飛翔する。全速力で逃げていくランを、アテナが飛行して追跡する。
「しつこいわね!」
不満を口にして、ランが林の中に逃げ込む。アテナが追いかけるが、倒れていく木々に行く手を阻まれる。
「邪魔!」
アテナが爪で木々をなぎ払うが、その先にランの姿はなくなっていた。
「どこに逃げたのよ・・・どこよ・・どこ!?」
怒りの叫びを上げるアテナからエネルギーが放出され、倒れていた木々を吹き飛ばす。その直後、力を過剰に消耗していた彼女が突然人間の姿に戻り、この場に倒れた。
兵士の包囲にも退くことなく、ダイゴはアテナの捜索を続けていた。彼は林のほうで爆発が起こったことに気付き、その場所に向かっていた。
ダイゴが到着したときには、林だった場所の木々のほとんどは吹き飛ばされていた。
「ひでぇ・・何があったっていうんだ・・・!?」
この惨状に緊迫を募らせるダイゴ。人間の姿に戻ってから、彼は周囲を見回していった。
しばらく歩きまわったところで、ダイゴは倒れているアテナを発見する。
「アテナ!」
ダイゴがアテナに駆け寄り支える。彼は傷ついたアテナを見つめて、憤りを感じていた。
「アテナ・・・こんなボロボロに・・・!」
満身創痍のアテナを目の当たりにして、ダイゴが歯がゆさを浮かべる。その彼の耳に、近づいてくる足音が入ってきた。
(アイツらか・・アテナがいるそばでアイツらと出くわすのはやべぇ・・・!)
危機感を覚えたダイゴが、アテナを抱えたままこの場から離れた。カンナや兵士たちが駆け付けたときには、既に2人の姿はなかった。
「2人の姿がありません・・・!」
周囲を見回す兵士からの報告に、カンナが憤りを感じていた。
「2人を追いなさい!まだ遠くには行っていないはずよ!」
「了解!」
カンナの指示を受けて、兵士たちが散開する。
(まさか私たちの弾丸が通じなくなるなんて・・しかもアテナがあのような姿と力を見せてくるとは・・・!)
ランとアテナの力を噛みしめるカンナ。
(でも2人は敵同士・・潰し合わせて疲弊したところで、2人まとめて始末してやるわ・・・!)
改めて野心を感じて、カンナは笑みを浮かべていた。
ダイゴたちの心配を続けながら、マーロンでの仕事をこなしていたミソラ。夜の書き入れ時を超えて落ち着きを取り戻していたマーロンに、ダイゴがアテナを連れて駆け込んできた。
「ダ、ダイゴくん、アテナさん!?」
ミソラがたまらず声を荒げ、ダイゴとアテナに駆け寄る。
「ダイゴくん、アテナさん!2人とも大丈夫!?」
「オレは平気だ・・けどアテナが疲れ切ってる・・・!」
心配の声を上げるミソラに、ダイゴが声を振り絞る。
「ガルヴォルスを追ってる兵士に見つかるとやべぇ・・だからここで何とか休ませねぇと・・・!」
「分かった・・でもミライたちには連絡するからね・・・」
「連絡はオレがやる・・だからアテナを頼む・・・」
ダイゴに促されて、ミソラはアテナを休憩室に連れ込んだ。ダイゴがおもむろにユリの前に顔を出すと、彼女が口元に伸ばした人差し指を当てて静かにするように促す。サクラが寝ていたためだった。
「すまねぇ・・・マジで、いろいろあったから・・・」
「分かっています・・・でも、こういうときこそ、気持ちを落ち着けたほうがいいですよ・・・」
詫びを入れるダイゴに、ユリが笑顔を見せて言いかける。
「勇気を出して向かっていくのはいいですが、ときには気持ちを楽にして考えをまとめるのもいいのでは・・・?」
「・・そうかもしれねぇ・・・けどじっとしてるのはオレには似合わねぇんだよ・・・」
優しく声をかけるユリに、ダイゴは憮然とした態度を見せるばかりだった。
「オレは病院に行く・・マリたちのことも気になるからな・・・」
「ところでさっき電話がありましたよ。マリさんたち、退院するそうですよ・・」
「マリたちが・・・!?」
ユリが投げかけた言葉を聞いて、ダイゴが戸惑いを浮かべた。彼はすぐさまマーロンを飛び出し、病院に向かった。
マーロンの休憩室にある仮眠用のベットにアテナを寝かせたミソラ。複雑な心境のまま、ミソラはユリに顔を見せる。
「ゆっくりと眠っていますよ、アテナさん・・・本当に、何があったのか・・・」
ミソラがユリと一緒に、アテナの身を案じて沈痛さを募らせていく。
「ダイゴくんは・・・?」
「病院に行きましたよ。マリさんたちのことを知らせました・・」
ミソラが投げかけた質問に、ユリが笑顔で答える。
「しっかりアテナさんを見てあげないと・・マリさんたちにも、アテナさんの元気なところを見せてあげないと・・」
「お手数をおかけしますね、ミソラさん・・」
「いいんですよ。ユリさんはサクラちゃんのことを見ていて上げてください・・」
謝意を見せるユリに、ミソラが弁解を入れる。彼女は改めてアテナの様子を見に向かった。
「大変です、ユリさん!」
休憩室をのぞいたミソラが大声を上げる。
「アテナさんが・・アテナさんがいません!」
ミソラが口にした言葉に、ユリも笑みを消す。眠りについていたはずのアテナが、目を覚まして忽然と姿を消していた。
目を覚ましたアテナは、すぐにマーロンを飛び出し、ランを追い求めて外を駆けまわっていた。
(まだ・・まだアイツは生きている・・・まだ寝ているわけにはいかない・・・絶対に倒す・・倒さないと、父さんと母さんが浮かばれない・・・!)
ランへの怒りと両親への思いに突き動かされるアテナ。満身創痍でありながら、彼女は信念のままに足を進めていた。
(私はまだ戦える・・戦わなくちゃいけない・・・!)
膨らんでいく怒りのまま、アテナがサキュバスガルヴォルスに変身し、翼を広げて飛翔する。上空で停滞した彼女は五感を研ぎ澄まし、ランの行方を追っていった。
病院へと全速力で向かっていったダイゴ。その正面入り口には、退院したマリがミライ、ジョージと一緒にいた。
「マリ・・・もういいのかよ・・・!?」
「うん・・ジョージさんはまだ休んだほうがいいと言ったんだけど、聞かなくて・・・」
問いかけるダイゴに、マリが微笑んで答える。
「マリちゃんが退院するって聞かないのに、オレが病院でじっとしてるわけにいかねぇだろ・・」
「おっちゃん、相変わらず突っ張ってんな・・・」
ため息混じりに言いかけるジョージに、ダイゴが屈託のない言葉をかける。
「そうだ、マリ・・アテナを見つけた・・!」
「アテナさんを!?・・よかった・・これで安心ね・・・」
ダイゴが告げた言葉に、マリが安堵の笑みをこぼした。
「戻ってくるっていうなら急いで戻ろうぜ・・アテナを待たせるのも悪いからな・・」
「そうね・・急ごう、ダイゴ・・」
「おいおい、まだ退院したばっかなんだから、ムリすんなって・・」
「そういうジョージさんが1番危なっかしいよ♪」
ダイゴの呼びかけにマリが答え、ジョージとミライが口を挟んでくる。次第に明るさを取り戻そうとしていたところで、ダイゴの携帯電話が鳴りだした。ミソラからだった。
「どうした?慌てなくてもマリたちと一緒に戻ってくるって・・・」
“ダイゴくん、大変!アテナちゃんがいなくなったのよ!”
憮然とした態度で電話に出たダイゴに、ミソラが慌ただしく声をかけてきた。彼女の言葉を聞いて、ダイゴだけでなく、そばで聞いていたマリも緊迫を感じていた。
そこへ現れたひとつの影。ダイゴたちの前にランがやってきた。
「フフフフ、久しぶりね、あなた・・」
「おめぇ・・こんなときだってのに・・・!」
笑みを見せるランに、ダイゴが苛立ちを浮かべる。
「アテナを倒すためにも、あなたたちの血が必要なのよ・・あなたたちの血を吸えば、私はもっともっと強くなれる・・・!」
笑みを強めたランがヒルガルヴォルスに変身する。
「ガルヴォルス・・・!?」
「マリたちは下がってろ!アイツはオレがやる!」
驚愕の声を上げるミライの前で、ダイゴが呼びかけてくる。
「アテナのことを頼んだぞ!」
ダイゴがマリたちに呼びかけると、デーモンガルヴォルスになってランに飛びかかる。だが戦闘力が増しているランは、ダイゴが繰り出した拳を軽々とかわしてみせる。
「私はどんどん強くなっているのよ。甘く見てるとあっという間にやられるわよ・・」
ランがあざ笑いながら反撃に転じる。彼女に顔面をつかまれ、ダイゴがそのまま地面に叩きつけられる。
「ぐっ!」
頭を打ちつけられてうめくダイゴ。だが彼は右手に力を振り絞って、ランの体に叩き込む。
顔を歪めたランが大きく跳ね飛ばされる。彼女はすぐに体勢を整えて着地し、ダイゴもその間に立ち上がる。
「あなたもやるじゃない・・でもそんなあなたの血をもらえば、私の強さはまさに無敵・・」
体に痛みを感じながらも、ランはダイゴの強さに喜びを膨らませて笑みをこぼす。
「あんまり時間が取れねぇんだ・・さっさと叩きのめさせてやるぞ・・・!」
ダイゴが具現化させた剣を手にして、ランに向かっていく。
「言ってくれるじゃないの・・・やれるものならなってごらん!」
ランも笑みを強めてダイゴを迎え撃つ。ダイゴが剣を振りかざすが、ランの軟体の前に威力が鈍っていた。
「そんなんじゃ私は斬れないわよ・・」
「斬れねぇってんなら突き刺して・・!」
ダイゴが剣を構えて、ランに向けて突き出す。だがランは軽い身のこなしで突きをかわした。
「だからって、わざわざ刺されてあげる私じゃないのよ・・」
ランが尻尾を振りかざして、ダイゴの両手を締めつける。その弾みで、彼は持っていた剣を落としてしまう。
ランによってダイゴが振り回される。壁や地面に叩きつけられ、彼は苦痛に打ちひしがれる。
「フフフフ、手も足も出ないとはこのことね・・・」
あざ笑ってくるランだが、ダイゴが踏みとどまって彼女に両足を叩き込んできた。
「バカが!手は出なくても足は出るぞ!」
「くっ!・・ふざけたマネを・・・!」
両手が自由になって身構えるダイゴに、ランが苛立ちを見せる。
「そこにいたのね、平野ラン・・・!」
そのとき声がかかり、ダイゴとランが振り向く。その先にはサキュバスガルヴォルスとなったアテナがいた。
「おめぇ・・また・・・!」
「そっちからやってくるなんてね・・ますます都合がよくなってきた・・・」
アテナの登場にダイゴが毒づき、ランが妖しく微笑む。
「もう逃がさない・・たとえどこにいても、私は必ず見つけ出して、お前を八つ裂きにしてやる!」
ランへの怒りを爆発させるアテナ。彼女の姿が刺々しいものへと変わり、黒い翼が広がる。
「アイツ、強くなりやがった・・・!」
変貌したアテナの姿を目の当たりにして、ダイゴが緊迫を浮かべる。アテナがランに向かって飛びかかり、突進を仕掛けて突き飛ばす。
だがアテナは街路樹の1本のてっぺんに立ったランを追撃せず、そばにいたダイゴに振り向く。
「お前もガルヴォルス・・お前も私の敵!」
アテナが怒りのままに右手を振りかざし、ダイゴをなぎ払う。踏みとどまったダイゴが、すぐに反撃を仕掛ける。
「おめぇも邪魔すんな!オレは行かなくちゃなんねぇんだ!」
「ガルヴォルスの好きにはさせない!見つけたら絶対に叩き潰す!」
声を上げるダイゴにアテナが憤慨をあらわにする。力を増しているアテナだが、ダイゴも負けていなかった。
「許さない・・ガルヴォルスは絶対に許さない!」
アテナがさらに怒りと力を膨らませる。彼女の脅威に押されて、ダイゴが引き倒されて、続けて踏みつけられる。
「このまま潰してやる・・今度こそ倒してやる!」
アテナが怒りを込めて、ダイゴを踏みつけている足に力を込める。
「こんなところで・・倒れている場合じゃねぇんだ!」
だがダイゴは力を振り絞り、アテナの足から逃れる。ダイゴはアテナとの距離を取り、鋭く見据える。
「もうここまでね・・・」
そのとき、ダイゴとアテナのいる場所に向けて、大量の弾丸が飛び込んできた。互いに意識を傾けていた2人は、弾丸の回避が遅れた。
「ぐあっ!」
「うわっ!」
弾丸を体に受けてうめくダイゴとアテナ。押し寄せてくる激痛にさいなまれて、2人は倒れそうになる。
負傷した2人の前に現れたのは、カンナと兵士たちだった。
「おめぇ・・・おめぇがカンナってヤツか・・・!」
「やっとチャンスが巡ってきた・・お前たちを一網打尽にする、最高のチャンスがね・・・」
声を振り絞るダイゴに、カンナが不敵な笑みを見せてきた。
「同士討ちしてくれて感謝するわ・・おかげでこうしてまとめて始末することができるのだから!」
カンナが言い放ち、手にしている銃の銃口をダイゴとアテナに向ける。
「カンナさん、どういうつもりなんです!?なぜこんなことを!?」
カンナの行動が信じられず、アテナが驚愕の声を上げる。しかしカンナはあざ笑ってくるばかりだった。
「ガルヴォルスは根絶やしにしなければならない・・それはあなたも例外ではない・・・!」
「それじゃ・・私を利用して・・・!?」
「当然よ・・ガルヴォルスと手を組むなんて虫唾が走る・・・ガルヴォルスの存在を、私は絶対に認めない・・・!」
愕然となるアテナに、カンナが発砲しようとする。
「ガルヴォルスは1人も生かしてはおかない!必ず全滅に追いこんでやる!」
カンナがアテナに向けて発砲してきた。アテナはとっさによけるが、受けた弾丸の毒で思うように動くことができなかった。
「疲れ切ったお前たちには、この弾の効果を払拭することはできない!ここでおまえたちの息の根を止めてやる!」
カンナが高らかに言い放ち、兵士たちが立て続けに発砲する。弾丸をよけることができず、次々に撃たれていく。
一気に体力を消耗させたダイゴとアテナは、ガルヴォルスとしての姿を維持できず、人間の姿に戻ってしまった。
「くっ!・・・なっ・・・!?」
「えっ・・・!?」
互いの正体を目の当たりにして、ダイゴとアテナが目を疑う。ガルヴォルスであったことに、2人は愕然となった。
次回
「まさかあなたも、ガルヴォルスだったなんて・・・」
「私は、これから何を信じていけばいいの・・・!?」
「何とかしてアテナさんを連れ戻さないと・・・」
「ガルヴォルスだけじゃない・・全てが、私の敵・・・」