ガルヴォルスZEROrevenge 第9話「謀られる復讐」
ランに血を吸われて倒れたマリは、ダイゴに病院まで運ばれた。ガルヴォルスの治癒力もあって、彼女は大事には至らなかった。
「よかった・・マジでどうなるかと思ったぞ・・・」
「ゴメンね、ダイゴ・・1秒もムダにできないときなのに・・・」
安堵の吐息をつくダイゴに、マリが沈痛の面持ちを見せる。
「気にすんな・・おめぇが無事だったってだけで、オレは気分がよくなる・・・」
笑みをこぼすダイゴが、マリに背を向ける。
「おめぇは少し休んでろ。アテナはオレが探す・・」
「1人で大丈夫?・・まだ警察がガルヴォルスを探してるし・・・」
「オレを甘く見んな・・もう油断も容赦もしねぇ・・相手が誰だろうとな・・・」
マリの心配を背に受けて、ダイゴが意思を示す。
「マリ・・もしも警察がここに乗りこんできたら、迷わず外に出ろ・・じっとしてたら思うつぼになる・・そんな気がしてならねぇんだ・・」
ダイゴの言葉にマリは小さく頷く。ダイゴは両手を握りしめてから、病室を出ていった。
マリのことを気がかりにしたまま、ダイゴは病院を出た。その直後、彼の携帯電話が鳴りだした。
(おっちゃん・・・?)
「おっちゃん、どうした?・・アテナは見つかったのか・・・?」
相手はジョージだった。ダイゴは憮然とした態度で電話に出た。
“見つかったなんてもんじゃねぇ・・ガルヴォルスの対策本部にいる・・・”
ジョージのこの言葉を耳にして、ダイゴが息をのむ。
“詳しいことは分かんねぇ・・ヘンに勘ぐれば、オレの首が飛ぶぐらいじゃ済まなくなるかもしれねぇからな・・・”
「おい、今アイツ、警察にいるんだな!?すぐに乗りこんで・・!」
“お前、バカなことはよせ!警察全部を敵に回すつもりか!?”
声を荒げるダイゴに、ジョージが怒鳴ってくる。大声のうるささに、ダイゴはたまらず携帯電話を耳から離す。
“とにかくオレが何とかして連れてくる!それまで大人しく・・!”
ジョージが気を取り直してダイゴに呼びかけたときだった。突如彼の声が途切れた。
「ん!?おっちゃん!?どうしたんだよ、おっちゃん!?」
ダイゴが呼びかけるが応答がない。そのまま電話が切れ、ダイゴはジョージと連絡が取れなくなってしまった。
ダイゴに電話をかけていたジョージ。だが兵士の後ろからの打撃を受けて気絶させられていた。
手元から離れて地面をすべる携帯電話を拾い上げたのはカンナだった。彼女はすぐに通話中であると気付き、電話を切った。
「やはり心当たりのある人と連絡を取っていたようね・・しかも彼女のことを知られて、このまま放置するわけにもいかなくなった・・」
気絶しているジョージを見下ろして、カンナが冷徹に告げる。
「独房に入れておきなさい。脱出も口外もさせないよう、見張りも厳重に・・」
「了解。」
カンナの指示に兵士が答え、ジョージを連れていく。
ジョージの身に何かあったと思い、ダイゴは警察庁に向かった。その近くで彼は足を止め、周囲に注意を傾ける。
(あの兵士、近くにはいねぇようだ・・あの鋭い感じがしてこねぇ・・・)
周囲にいるのが警察と一般人だけであると察知するダイゴ。その彼の耳が、自分に近づいてくる足音を捉えた。
「何でおめぇがいるんだよ、ミライ・・・」
近づいてきたのがミライであると気付いて、ダイゴが肩を落とす。
「だってダイゴやマリちゃん、アテナちゃんのことが心配で心配で・・」
「ったく・・これからあぶねぇとこに行くってのに・・・」
照れ笑いを見せるミライに、ダイゴが呆れてため息をつく。
「おめぇはマーロンにでも戻ってろ・・ここにいると警察に目を付けられるぞ・・」
「それでも何とかしたいんだよ・・ダイゴもマリちゃんも一生懸命になってるのに、あたしだけ指をくわえてじっとしてるなんて・・・」
苦言を呈するダイゴだが、ミライは引き下がろうとしない。彼女の決意を前にして、ダイゴが気まずくなってため息をつく。
「勝手にしろ・・あぶねぇことになっても助けねぇからな・・」
「そんな、それはないよ、ダイゴ〜・・」
邪険にしてくるダイゴに、ミライが気落ちする。彼女を無視するように、ダイゴは警察署へと向かっていった。
兵士に気絶させられたジョージは、カンナの管轄する独房に入れられていた。固く閉ざされている扉の前には見張りの兵士がおり、ジョージは完全に外から隔離されていた。
その独房にカンナが訪れ、ジョージに声をかけてきた。
「あなたに知られるとは・・私も注意が足りなかったということね・・・」
「・・・本当なのですか・・・森アテナという少女を、ガルヴォルス討伐に参加させるというのは・・・?」
重く口を閉ざしていたジョージが、カンナに問いかけてくる。
「彼女はガルヴォルスに必死に立ち向かおうとしている・・その気持ちを邪険にするわけにはいかないわ・・」
「彼女は民間人ですよ!あのような子を危険にさらしてまで果たすべきことなのですか!?」
「そうしなければ何もかもが終わることになる・・ガルヴォルスをせん滅しなければ、世界は破滅に追い込まれる・・・」
「そのためなら、どのようなことをしても構わないというのですか!?」
カンナの考えに憤慨し、ジョージが独房の扉に駆け寄る。
「すぐに思いとどまれ!アンタのやっていることは、人のすることではない!」
激昂したジョージ。彼の口から出た言葉が、カンナの逆鱗に触れた。
「人でないのはガルヴォルス!あなたにも分かっているはずよ!」
同じく激昂してきたカンナに、ジョージが思わず息をのむ。
「ガルヴォルスは滅ぼさなければならない!ヤツらが人間の進化であるなど認めない!」
「だが元は人間だ!ガルヴォルスを殺すことは、人殺しと同じことだ!」
ジョージが言い返すが、カンナに銃を向けられて再び息をのむ。
「これは世界のためよ・・ガルヴォルスという世界の敵を根絶やしにすることで、平和と安全がもたらされる・・それを弊害することは、世界の敵になることと同義・・」
「そんなもので脅しても、オレは考えを変えるつもりはない!屈すれば、それこそ平和と安全がぶち壊されることになる!」
「なるほど・・刑事の鏡としては合格よ・・でもそれで、私の決意を変えることはできない・・」
ジョージの言葉を聞いて苦笑を浮かべるカンナ。
次の瞬間、カンナが発砲してジョージの左肩を撃った。激痛を覚えて、ジョージが昏倒する。
「私はガルヴォルスの存在を認めない!1人たりとも生かしてはおかない!たとえ人間であっても、邪魔をする者も容赦はしない!」
「それが人として恥ずべきことだと、あなたは分からないのですか・・・!?」
「分かっていないのはそっちよ・・ガルヴォルスになることこそが、最も恥ずべきことだと・・!」
声を振り絞るジョージに、カンナがさらに冷徹に告げる。
「次は心臓を狙うわよ・・こんなことで、私が果たすべきことを邪魔されるわけにはいかない・・・!」
低く告げるカンナに対し、ジョージはこれ以上反論することができなかった。彼が痛みのあまりに言葉を口にすることもできないと判断し、カンナが銃をしまう。
「手当てをしなさい・・私はガルヴォルス討伐を続ける・・」
「了解しました。」
カンナの声を受けて、兵士が敬礼を送る。
「まだ死なせるのは面倒になる・・応急措置程度の治療をしておくように・・」
カンナは続けて言いかけると、独房を立ち去った。独房の中、痛みに打ちひしがれたジョージは、立ち上がれずに意識を失った。
ジョージとの面会を終えて、アテナが助手席で待つ車に乗り込んだカンナ。
「待たせたわね・・新しいガルヴォルスが現れたという情報が入ったわ・・お願いしてもいいわね、アテナさん・・?」
「・・・私の仇の・・あのガルヴォルスは見つかりましたか・・・?」
信頼の言葉を投げかけるカンナに、アテナが聞き返してくる。
「血を吸うガルヴォルスのことね?まだ情報が入っていないわ・・焦ることはないわ。戦っていけば、時期に向こうから姿を見せることになる・・・」
カンナのこの言葉で、アテナはようやく頷いた。
「ガルヴォルスは世界に混乱をもたらしている・・その中で、ガルヴォルスでありながらガルヴォルスを倒そうとしている人は、私たちにとって本当に心強い・・人間である私たちは、ガルヴォルスと比べて本当に無力だから・・・」
「私も無力でした・・ガルヴォルスに対して何もできなかった・・ガルヴォルスとなったことで力を手に入れたことは嬉しかったけど、自分が心から恨んだ敵と同じになってしまったことは、今でも我慢がならない・・・」
「その因果を断ち切るためにも、ガルヴォルスを倒さないといけない・・それであなたの心が救われるなら、私のこの戦いも報われるというもの・・・」
「カンナさんには感謝しています・・・あなたと出会えたことで、私はガルヴォルスの運命から抜け出せるのですから・・・」
カンナの励ましの言葉を聞いて、アテナは自分が救われていくような気分を感じていた。カンナが自分を利用していることにも気付かずに。
兵士たちの動きを見計らって、ダイゴはガルヴォルス対策本部に乗り込んだ。カンナや兵士たちは全員出動してしまっており、本部には誰もいなかった。
(おっちゃんに何があったっていうんだ・・・アイツら、マジで何を企んでんだ・・・!?)
ガルヴォルス対策本部に対する疑念を募らせていくダイゴ。不信感を抱えたまま、彼はジョージの行方を追った。
そのとき、ダイゴの耳にジョージの声が入ってきた。普通の人間では聞き取れないほどか細いものだったが、ダイゴのガルヴォルスとしての聴覚は聞き逃さなかった。
(おっちゃんがこの近くにいる・・・どこにいるってんだ・・・!?)
かすかに聞こえてくる声を頼りに、ダイゴはジョージを探す。彼は徐々にジョージのいる独房へと近づいていく。
だがそのそばには見張りの兵士たちがいた。隠れて進むことができないと見極めて、ダイゴは兵士たちに姿を見せた。
「何だ、お前は!?・・どうやってここまで来た!?」
「動くな!お前を拘束する!」
兵士たちがダイゴに向けて銃を構える。しかしダイゴは全く恐れる様子を見せない。
「ここにおっちゃんがいるんだろ?そんなもん向けてねぇですぐに会わせろ・・」
「これ以上進むな!止まらなければ発砲するぞ!」
低い声音で呼びかけるダイゴに、兵士たちが忠告を送る。しかしダイゴはそれでも足を止めない。
「貴様!」
憤慨した兵士の1人がついに発砲する。その瞬間、ダイゴがデーモンガルヴォルスへと変身し、強靭な体で弾丸を弾いた。
「ガ、ガルヴォルス・・・!」
「す、すぐに別部隊に連絡を!」
声を荒げる兵士たち。するとダイゴが2人に詰め寄り、手にしている銃をつかんで捻じ曲げた。
「ぐっ・・・!」
武器を壊されたことに驚愕する兵士たち。
「ここから消え失せろ・・さもねぇと、今度こそ命はねぇぞ・・・!」
ダイゴに鋭く言われて、兵士たちが打つ手を失くしてやむなく撤退する。ダイゴは2人を追わず、ジョージのいる独房に駆け付けた。
「おっちゃん・・・すぐに出してやるぞ・・・!」
ダイゴが独房の扉を引き剥がし、意識を失っているジョージに駆け寄る。人間の姿に戻ってから、ダイゴはジョージを引っ張りだした。
「おっちゃん!しっかりしろ、おっちゃん!」
ダイゴに呼びかけられて、ジョージが意識を取り戻した。
「んん・・・ダイゴ!?おめぇ、何でここにいるんだ!?」
「何でって聞きねぇのはこっちのほうだ・・何でこんなところに閉じ込められてんだよ・・・!?」
大声を上げるジョージに、ダイゴが憮然とした態度で聞き返す。
「アイツ・・・橋本カンナがあの子を・・アテナを利用しようとしてる・・・!」
ジョージが打ち明けたことを聞いて、ダイゴが緊迫を覚える。
「ガルヴォルスへの敵対心を付け込まれた・・カンナに、ガルヴォルス討伐のために利用されている・・・!」
「やべぇぞ・・ガルヴォルスのいる真っ只中に飛びこむことになるぞ・・・!」
ジョージの言葉を聞いて、ダイゴが焦りを膨らませていく。
「とにかくここから出るぞ!おっちゃん、ケガしてるみてぇだし・・!」
ダイゴがジョージを連れて独房から脱出していった。警察署から出たところで、ミライが2人に姿を見せてきた。
「ダイゴ・・・ジョージさん、ケガしてるよ・・・!」
ジョージの容体を目の当たりにして、ミライが困惑する。
「おっちゃんをマーロンにでも連れてってやってくれ・・オレがアテナを連れ戻してくる・・・!」
「でも、ダイゴだけで大丈夫なの!?・・・ダイゴだって辛そうだったじゃない・・・!」
「オレがそう簡単にやられねぇよ・・マジでおっちゃんを頼んだぞ、ミライ・・・!」
ミライの心配を背にして、ダイゴはアテナのところに急ぐのだった。
「ダイゴ・・・行こう、ジョージさん・・・」
ミライはジョージを連れて、マリのいる病院に向かうのだった。
兵士たちに狙われ、必死に逃げるガルヴォルス。ネズミの姿をしたラットガルヴォルスである。
「逃がすな!前に回り込め!」
「取り囲んでハチの巣にしてやる!」
兵士がラットガルヴォルスに向けて発砲する。
「何で・・僕は普通に暮らしていただけなのに・・・!」
兵士たちに追われる恐怖に駆られるラットガルヴォルス。彼は人間としての日常を送っていたが、ガルヴォルスであることを兵士たちに知られ、追われる身となってしまった。
必死に逃げてきたラットガルヴォルスだが、彼の前に1台の車が走り込んできた。その車から、助手席にいたアテナが降りてきた。
「どこまで逃げるつもりなの、ガルヴォルス・・・!?」
ラットガルヴォルスに声をかけるアテナ。彼女の頬に異様な紋様か浮かび上がる。
「もう逃がしはしない・・絶対に!」
言い放つアテナがサキュバスガルヴォルスに変身する。敵対してくるガルヴォルスの登場に、ラットガルヴォルスが緊迫を浮かべる。
「ガルヴォルス・・もう1人現れたのか・・・!」
「よしなさい!彼女は私たちの味方よ!」
銃を構える兵士たちを、カンナが呼び止める。
「別命あるまで全員待機。包囲を崩さないように。」
「了解、橋本捜査官。」
カンナの指示を受けて、アテナとラットガルヴォルスの戦いを見守る兵士たち。
(ガルヴォルスを倒そうと必死になっているわね・・・せいぜい頑張ることね・・利用されていることを知らないまま・・・)
アテナのガルヴォルスを憎む気持ちを利用しているカンナ。アテナを徹底的に戦わせて、疲れ果てたところでお払い箱にして、敵対していたガルヴォルスとともに葬り去ろうとする。それがカンナの野心だった。
「やめてくれ!僕は普通の生活をしたいだけなんだ!」
「ガルヴォルスに普通の生活なんて送らせない!私が徹底的に叩き潰してやる!」
助けを請うラットガルヴォルスの言葉を聞かず、アテナが攻撃を続ける。やがて彼女が突き出した爪が、ラットガルヴォルスの体に突き刺さった。
「うあっ!」
激痛を覚えてうめくラットガルヴォルス。アテナは怒りのままに突き刺している爪を振り上げて、ラットガルヴォルスを切り裂いた。
「助けて・・・助けてよ・・・」
涙ながらに助けを求めるラットガルヴォルスが事切れて固まり、倒れた瞬間に霧散して消滅していった。
「そんな言葉をかけてもダメ・・私はもう騙されない・・ガルヴォルスの言葉には、絶対に耳を貸したりしない・・・」
アテナが低い声音で、ガルヴォルスへの冷淡な言葉を呟きかけるアテナ。彼女はガルヴォルス打倒を本格化させようとしていた。
「全員、処理を済ませてから撤収。情報整理も怠ることなく・・」
カンナからの指示を受けて、兵士たちが敬礼を送る。
「感謝するわ、アテナさん・・その調子でお願い・・・」
人間の姿に戻ったアテナに、カンナが感謝の言葉をかける。だがそれはうわべだけのものにすぎなかった。
次回
「平野ランの居場所が分かったわよ・・」
「ガルヴォルスを片っ端から始末しているのはあなたたちね?」
「あなたを倒すまで、どこまでも追いかけてやるわ・・・!」
「オレはオレのために戦う!」
「相手が誰だろうが、攻撃してくるなら容赦しねぇぞ!」