ガルヴォルスZEROrevenge 第8話「血塗られた牙」
ヒルガルヴォルスに向かって飛びかかるアテナ。彼女の接近に気付いたヒルガルヴォルスが、突き出された爪をかわしていく。
「同じガルヴォルスなのに、いきなり襲いかかってくるなんてね・・」
「あなたと私を一緒にしないで!あなたが、あなたが私の家族を!」
妖しい笑みを浮かべてくるヒルガルヴォルスに、アテナが怒号を上げる。
「家族?・・思い出したわ。あなた、あのときの娘ね・・」
ヒルガルヴォルスが思い出して、さらに笑みをこぼしてきた。
「それなりにおいしい血をいただかせてもらったわ・・あなたの家族には感謝しておくわね・・」
「ふざけないで!あなたのせいで、私は・・私は!」
「そのおかげでガルヴォルスになれたのも同じじゃない。感謝してもいいのよ・・」
「許さない・・私の前に2度と現れないようにしてやる!」
笑みを強めるヒルガルヴォルスに、アテナが激昂してつかみかかる。だがヒルガルヴォルスの体は軟体に近く、打撃のダメージが半減していた。
「けっこう強いみたいね・・でも私の体には通じないようね・・」
笑みをこぼすヒルガルヴォルスが、尻尾を振りかざしてアテナを叩きつける。
「くっ!」
ヒルガルヴォルスの攻撃が重くのしかかり、アテナが顔を歪める。それでも彼女は攻撃をやめず、爪を振りかざす。
「斬りつけてしまえば、たとえやわらかくても!」
「甘いわね・・やわらかいからこそ、傷がつきにくいんじゃない・・」
言い放つアテナにさらに笑みをこぼすヒルガルヴォルス。アテナの爪はヒルガルヴォルスの体に食い込むも、斬りつけることができない。
「私のほうが上・・そろそろ諦めたほうがいいんじゃないかしら?」
「絶対に諦めない・・・あなただけは、絶対に許さない!」
嘲笑してくるヒルガルヴォルスに、アテナがさらに怒りを募らせる。彼女は左手でヒルガルヴォルスの顔面をつかんで、地面に押しつける。
「このまま押しつぶしてやる!」
激怒を放つアテナだが、ヒルガルヴォルスが伸ばしてきた尻尾に首を絞められる。
「楽しめる勝負だからね・・まだ血は吸わないわよ・・」
淡々と言いかけるヒルガルヴォルスが、アテナの首を締めつけたまま持ち上げる。尻尾から逃れようとするアテナだが、尻尾の力に抗うことができない。
ヒルガルヴォルスが尻尾を振りかざして、アテナを地面に叩きつける。痛烈なダメージを追ったアテナは、人間の姿へと戻る。
「今日はこのくらいにしておくわ・・でも次に会ったときは、今度こそあなたの血をいただかせてもらうわ・・・」
ヒルガルヴォルスはアテナに言いかけると、人間の女性へと姿を変えた。
「自己紹介をしておくわ。私は平野ラン。覚えておいてね・・・」
女性、ランは声をかけると、アテナの前から去っていった。
「ま、待ちなさい・・・私は・・まだ・・・!」
声を振り絞るアテナだが、意識が遠のいて倒れた。気絶した彼女のそばに、車で駆けつけたカンナがやってきた。
兵士たちの包囲に追い込まれていくダイゴとマリ。マリを庇って兵士からの銃撃を受けて、ダイゴは激痛に打ちひしがれていた。
「1体は弱ってきている!このまま射殺するのだ!」
兵士たちがダイゴたちに銃口を向ける。
「くそっ!・・こうなったら強行突破するしか・・・!」
「ダイゴ、少しだけ我慢して・・・!」
打開の糸口を探っていたダイゴに、マリが低く声をかけてきた。
「マリ、おめぇ何を・・・!?」
声を荒げるダイゴを抱き寄せると、マリが背中の翼を広げた。その翼からまばゆい光が放射される。
「何っ!?」
「ぐっ!」
その光で目をくらまされ、兵士たちが怯む。同時にマリはダイゴを連れて飛翔し、兵士たちから逃げ出していった。
光が消えたときには、既にダイゴとマリの姿は兵士たちの前から消えていた。
「こんなことまでできるとは・・・!」
「探すのだ!まだ遠くへは行っていない!」
兵士たちが2人を追って、公園の中と周辺をくまなく探した。だがダイゴとマリを発見することはできなかった。
とっさの機転により、辛くも兵士たちから逃げ延びたダイゴとマリ。心身を落ちつけたところで、2人は人間の姿に戻る。
「ふぅ・・マリ、助かったぜ・・・けどムチャするな、おめぇ・・・」
「ダイゴだったらこのくらいやりそうな感じだったし、人殺しをするつもりはなかったから・・・」
肩を落とすダイゴにマリが微笑みかける。だがすぐに2人の表情が曇る。
「アイツら・・問答無用でガルヴォルスを撃ってきやがる・・・関係ねぇヤツまで巻き添えにする勢いだったぞ・・・」
「これじゃますますアテナさんが危ない・・すぐにでも探しに行きたいけど・・・」
兵士の行動に毒づくダイゴに答えるマリ。だが彼女はアテナだけでなく、ダイゴの体も心配していた。
「オレのことは平気だ・・このくれぇのことで音を上げてたまるかよ・・・」
「ムリしないで、ダイゴ・・アテナさんを探すだけなら、私だけでも大丈夫だから・・・」
「だったら1人より2人で探すほうが見つけやすいだろ・・オレはホントに平気だ・・・」
「ダイゴ・・・本当にムリしないで・・・」
傷ついた体に鞭を入れるダイゴの考えを、マリがやむなく受け入れる。2人は改めてアテナの捜索を行った。
ランに敗れたアテナは、見知らぬ部屋の中で目を覚ました。もうろうとした意識の中、彼女は周囲を見回す。
「ここは・・・?」
「目が覚めたようね、森アテナさん・・・」
突然声をかけられて、アテナが振り向く。そこには笑みを見せているカンナがいた。
「道の真ん中で倒れていたのよ・・あなたに用があったので、ここまで連れてきたのよ・・」
「そうだったんですか・・・でも、私に何か・・・?」
事情を説明するカンナに、アテナが疑問符を浮かべる。
「自己紹介がまだだったわね。私は橋本カンナ。特別捜査官で、現在はガルヴォルス対策本部を取り仕切っている・・」
「捜査官・・・あなたも、ガルヴォルスを追っているんですか・・・!?」
「これも任務だからね・・ガルヴォルスは世界を狂わせる存在・・でも私がわざわざ言わなくても、あなたには十分分かっているわね・・」
淡々と語りかけるカンナに、アテナが戸惑いを見せる。
「あなたのことは調べさせてもらったわ。家族を殺したガルヴォルスを倒すため、今まで転々としてきた・・」
「私のことを知っておきながら、なぜ私を・・・」
「見過ごしたつもりはない・・見つけ出すことができなかった・・といっても、言い訳にしかならないわね、あなたには・・・」
歯がゆさを浮かべるアテナに、カンナが深刻さを見せる。
「本当は民間人に助力を請うのは滑稽なことだけども、ガルヴォルスに立ち向かおうとするあなたの決心は、私たちにとっても強力な武器となる・・ガルヴォルスを滅ぼすためのね・・・」
「私が・・・」
戸惑いを見せるアテナに、カンナが手を差し伸べてきた。
「是非とも力を貸してほしい・・・あなたの怒りと勇気が、希望を導くのよ・・・」
「希望・・・私に、希望をつかむことはできるのでしょうか・・・?」
しかしアテナはカンナの手を取ることができずにいる。
「私も、その憎むべき敵・・ガルヴォルスになってしまったんです・・・」
アテナはカンナに言いかけると、サキュバスガルヴォルスに変身してみせた。彼女の異形の姿に、カンナは目を見開いていた。
「あなた、本当に・・・!?」
「この私に、希望をつかむことができるのですか・・・?」
自分の境遇を呪うアテナ。だがカンナは改めて手を差し伸べてきた。
「これでも力になってくれるというなら・・・ガルヴォルスを憎むなら・・・」
カンナが投げかけた言葉に戸惑いを感じ、アテナが人間の姿に戻る。
「ありがとうございます・・こんな私を受け入れてくれて・・・」
喜びを感じるアテナの目から涙が浮かべた。彼女はカンナの手を取り、握手を交わした。
(ガルヴォルスは滅ぼさないといけない・・・ガルヴォルスが、みんなの心をも傷つけていく・・・)
改めてガルヴォルスへの憎悪を募らせていくアテナ。
(私は戦う・・・ガルヴォルスを倒すためなら、私は手段を選ばない・・・!)
ガルヴォルスと戦っていくことを、彼女は改めて誓うのだった。
アテナの力を借りることに成功したカンナ。だがカンナは胸中で野心を抱いていた。
(やはりガルヴォルスだったわね・・しかもガルヴォルスでありながら、ガルヴォルスを強く憎んでいる・・うまく使える・・・)
アテナを利用することを画策するカンナ。
(どれほどの力を持っているかはまだ分からないが、ガルヴォルスを潰す戦力となる・・ガルヴォルスを潰させ、用が済んだら始末する・・相打ちになってくれれば好都合だけどね・・・)
喜びを抑えきれず笑みをこぼしそうになるのを、カンナはこらえていた。
(ガルヴォルスなどという醜い怪物を、人の進化とは絶対認めない・・人の進化はあくまで人として行われなくてはならない・・それをヤツらに思い知らせてやる・・・!)
ガルヴォルスへの憎悪を募らせて、カンナはガルヴォルス討伐にさらに力を入れるのだった。
ガルヴォルスの捜索に駆りだされていたジョージ。だが彼はガルヴォルス討伐に乗り気ではなかった。
(ガルヴォルスは敵ばかりじゃねぇってのに・・お偉いさん方はこれがまるで分かっちゃいねぇんだから・・・)
心の中で不満を口にするジョージ。
「頑張ってるじゃねぇか、おっちゃん・・」
そんな彼の耳に聞き覚えのある声が入ってきた。彼の前にダイゴとマリがやってきた。
「お、お前ら!?オレには会うなって・・!」
驚きのあまりに声を荒げるジョージ。
「そうじゃねぇよ・・今は人探しの真っ最中だ・・」
「何っ・・・!?」
ダイゴが投げかけた言葉に、ジョージが眉をひそめる。
「探してほしいんです・・アテナさんを・・・」
マリが思いつめた心境を浮かべてジョージに頭を下げてきた。
「アテナって、新しくマーロンに働き始めた子か・・」
「詳しくは言えませんが、ジョージさんなら心強いと思いまして・・お願いできませんか・・・?」
「分かった・・見つけたらすぐに知らせてやる・・だから早くオレから離れろ・・」
マリの頼みを受け入れるジョージ。彼は危険から遠ざけようと、ダイゴとマリを突き放した。
「すまねぇ、おっちゃん・・けど警察の中じゃ、おっちゃんが1番頼りにしてんだから・・・」
ダイゴは呟きながら、マリと一緒に去っていった。2人はアテナの捜索を続けるのだった。
アテナとの再会に、ランは胸を躍らせていた。彼女はアテナを自分の力のものさしにしようとしていた。
「アテナには、もっと強くなってほしいわね・・強くすばらしい力の持ち主は、血の味もすばらしく、力も一気に強まっていく・・・」
期待を募らせて、ランが足取りを軽くしていく。
「でも私より強くなってしまうのは我慢がならない・・私も強くならないと・・・」
強さのための獲物を求めていくラン。街に差し掛かった彼女の視界に、ダイゴとマリの姿が入ってきた。
「あの2人もガルヴォルスね・・人間の姿でいても感覚で見分けられるわ・・」
ランは2人がガルヴォルスであることを見抜いて、さらに歩を進めた。彼女の頬に異様な紋様が浮かび、姿もヒルガルヴォルスに変貌する。
「か、怪物!?」
異形の怪物の出現に、街の人々が逃げ惑う。その中でダイゴとマリが、ランに視線を向け続けた。
「ガルヴォルス・・また出てきやがったか・・・!」
いきり立つダイゴもデーモンガルヴォルスに変身する。彼がランに向けて右の拳を繰り出す。
(速い!)
ダイゴの速さが思っていたよりも速く、ランは打撃をまともに受ける。軟体のような体をしていた彼女だが、攻撃の衝撃を抑えきるには至らなかった。
(獲物にしようとした相手が、これほどの力を持ったガルヴォルスとは・・・!)
ダイゴの力に毒づくラン。
(しかも人間に味方しようって感じ・・・余計にたちが悪いわ・・・!)
同時に苛立ちを覚えるラン。だが彼女はすぐに笑みを取り戻す。
「強さを試す敵がいないのはつまらないからね・・アイツの血を吸わない・・徹底的に八つ裂きにしてやる!」
目を見開いたランが、ダイゴに向かっていく。彼女が突き出してきた両手を、ダイゴも両手で受け止める。
そこでランが尻尾を伸ばして、ダイゴの首を絞めつけてきた。
「ぐっ!」
首を絞められてうめくダイゴ。だが彼は尻尾をつかんで、ランを力強く放り投げる。
空中で体勢を整えて着地するラン。焦りを募らせていく彼女に向かって、ダイゴが徐々に距離を詰めてくる。
そのとき、ランの視界にマリの姿が飛び込んできた。
(こうなればアイツの血をいただくとしようかしらね・・そうなればかなり強くなれるかもしれない・・)
次の狙いを定めたランが、マリに向かって駆け出していく。
「マリを狙うつもりかよ!?」
ダイゴが飛び出し、同時にマリもエンジェルガルヴォルスとなってランの突撃をかわす。だがランの尻尾が伸び、マリの胸に突き刺さった。
「キャッ!」
「マリ!」
悲鳴を上げて地上に落ちるマリと、声を荒げるダイゴ。ランがマリから生き血を吸い取っていく。
「おいしい・・今まで味わったことのない味よ・・・」
「テメェ!」
歓喜の声を上げるランに、ダイゴが怒りを見せて飛びかかる。彼が突き出した剣が、ランの右のわき腹をかすめた。
「くっ!・・せっかく味わっていたのに!」
不満を口にしながら、ランが後退していく。尻尾が引き抜かれて倒れるマリを、ダイゴが駆け寄って支える。
「マリ!しっかりしろ、マリ!」
ダイゴがマリに声を張り上げて呼びかける。血を吸いとられて力が抜けていたマリは、人間の姿に戻っていた。
「ダイゴ・・ゴメン・・こんなことになって・・・」
「しゃべるな!すぐに病院に・・!」
「私のことより・・アテナさんを探さないと・・・」
「オレが後ですぐに探しに行ってやる!・・今もおっちゃんが探してくれてるし・・・」
アテナの心配をするマリに言いとがめると、ダイゴは彼女を連れて病院へと向かった。
ダイゴとマリからアテナの捜索を頼まれたジョージ。しかし彼女の手がかりもガルヴォルスに関する情報も得られず、彼は警察署に戻ってきていた。
(どっちも手ぶらか・・これじゃ不様としか言いようがねぇな・・)
完全に滅入っていたジョージ。彼がガルヴォルス対策本部の前を通り過ぎようとしたときだった。
「またガルヴォルスが現れたわ・・」
本部の中からカンナの声が聞こえてきた。
「あなたの力を頼ることになるわ・・お願いするわね、アテナさん・・」
彼女が口にした言葉に、ジョージは息をのんだ。彼が本部の中をのぞくと、そこにはアテナの姿があった。
(おい、マジかよ・・・!)
探していた人物を意外な場所で見つけたことに驚くジョージ。迂闊に声をかけることができず、彼はやむなく本部を離れることにした。
次回
「警察はマジで何を考えているんだ・・・!?」
「あのような子を危険にさらしてまで果たすべきことなのですか!?」
「ガルヴォルスをせん滅しなければ、世界は破滅に追い込まれる・・・」
「もう逃がしはしない・・絶対に!」
「せいぜい頑張ることね・・利用されていることを知らないまま・・・」