ガルヴォルスZEROrevenge 第6話「魔を狩る正義」

 

 

 度重なる奇怪な事件に、警察は日々悩まされていた。人間離れした破壊や犯行に、警察は対応を見出せずにいた。

 その警察で、一部に事件の詳細について知っている人間が何人かいた。ジョージもその1人である。

 ダイゴたちと関わりのあるジョージは、ガルヴォルスの存在と犯行を認知していた。だが自分を含めた警察に対応できるだけの力がないとも悟っていた。

(警察の誰もが、ガルヴォルスの存在を知らない・・だからその恐ろしさすら分かっていないのが実態だ・・・)

 警察として手も足も出ない現状に、ジョージは危機感を募らせていた。

「おい、小林、聞いたか?」

 そこへジョージと同期の警部が声をかけてきた。

「聞いたって何をだ?」

「こっちに例の事件の調査にために捜査官が来るそうだ。かなりの切れ者で指揮官としても卓越していて、解決した事件は数知れず。オレたちにとっても雲の上の存在だ。」

「雲の上の存在ねぇ。そういうヤツほど自信過剰で、いつか手痛いしっぺ返しをされるんだよなぁ・・」

 警部の話を聞いても、ジョージはのん気な態度を見せる。

「しかもその捜査官、女だそうだ。しかも大人顔負けの美女・・」

「えっ!?美女!?

 警部が続けて口にした言葉に、ジョージが喜びの声を上げた。

 

 特別捜査官、橋本(はしもと)カンナ。数々の怪奇事件を解決に導いてきた実績の持ち主である。

 毅然とした姿勢だけでなく親切な一面もあり、部下からの信頼も厚い。

 度重なるガルヴォルスの事件の沈静化と解決のため、カンナは派遣されてきたのである。

「みなさんはじめまして。特別捜査官、橋本カンナです。」

 自己紹介をするカンナに、整列している刑事たちが敬礼を送る。

「私がこちらに来たのは、現在多発している怪奇事件の解明と解決のため。その対策チームの指揮を取らせてもらうわ。」

 カンナの言葉に刑事たちが当惑を浮かべる。怪奇事件については認知しているものの、異形の怪物の仕業であるとは全く思っていなかった。

「その前にみなさんに知っておきたいことがある。人類の進化とされている存在、ガルヴォルスよ。」

 カンナのこの言葉に、ジョージが緊迫を覚える。カンナによって、ガルヴォルスの存在が警察に知れ渡ろうとしていた。

「今までの奇怪な事件は、ガルヴォルスによるものよ。ガルヴォルスの暴走を取り締まり、犯行を撲滅しなければならない。」

「しかし橋本捜査官、人類の進化とされているそのような非現実的な存在を認めるということですか?」

 刑事の1人がカンナに疑問を投げかけてきた。

「残念ながら、ガルヴォルスの存在を認めざるを得ないわ。私はガルヴォルスの姿と能力、凶暴性を目撃しているのよ。」

 カンナは表情を変えずに説明を続ける。

「人類の進化であるはずのガルヴォルスだけど、悪魔、怪物というほうが正しいかもしれない。能力は人間を大きく上回り、自身の野心の赴くままに破壊や殺人を繰り返していく。この犯罪を阻止するためには、完全なる撲滅を行わなくてはならない。さもなければ、人々はさらなる被害を被ることになる・・」

「しかし、そんな相手にどのような対応を取ればよろしいのでしょうか?過激な防衛手段は犯罪阻止になっても、人々の不安をあおることになり、逆効果かと・・」

「連中の暴挙そのものが過激な暴力となっているのよ。もちろん市民や建物への被害は極力避けなければならないが、ガルヴォルスは徹底的に攻撃しなければならない。」

 刑事の苦言をカンナは一蹴する。

「もちろんガルヴォルスに対する手段は用意してあるわ。ガルヴォルスは人間を大きく超えた力を備えてはいるが、肉体構造は人間とほぼ同じ。対応策はいくらでも考案できる・・」

「それでは、捜査官立案の作戦通りに行動すれば、活路を開けるのですね・・」

「もちろん任務遂行のためにあなたたちもが犠牲になることもよくないわ。危機と判断した場合、ガルヴォルスの射殺も許可します・・」

 防衛のためにガルヴォルス抹殺も厭わない考えのカンナ。しかしジョージは納得できなかった。

「待ってください、橋本捜査官!」

「あなたは・・・?」

「小林ジョージ警部です・・橋本捜査官、ガルヴォルスの殺害は中止すべきです!」

 ジョージの呼びかけにカンナが眉をひそめる。

「ガルヴォルスは人類の進化、つまりは元は人間ということではないですか!そのガルヴォルスを殺害することは、殺人行為と同じではないですか!?

「小林警部、もはや事態は一刻の猶予もないのですよ。攻撃の手を緩めれば、自分も、他の人々も傷つくことになるのですよ。市民や街を守るためには、ガルヴォルス撲滅はやむを得ないことよ。」

「しかし・・・!」

「それともあなたは、ガルヴォルスを擁護しようというのですか?ガルヴォルスの暴挙を許すということは、犯罪を見過ごすことと同義・・いいえ、それ以上の大罪よ。あなたはその大罪を許すというのですか?」

 カンナに言いとがめられて、ジョージは反論できなくなってしまう。押し黙った彼を確かめてから、カンナは刑事たちに呼びかける。

「みなさん、これからは今まで以上に厳重な警備に臨むように。」

 刑事たちに指示を送るカンナ。ジョージは腑に落ちず、苛立ちを押し殺していた。

 

 マーロンでの仕事にも慣れ、気持ちに余裕が生まれていたアテナ。彼女の様子を見て、ミソラとユリは喜びを感じていた。

「頑張っているようですね、アテナさん・・」

「マリさんのようにしっかりしていて・・本当に助かります・・・」

 安堵を浮かべるミソラだが、唐突に笑みを消した。

「でも、気持ちに不安定なところもあるんですよね・・何もなければいいのですが・・・」

「信じましょう、ミソラさん・・アテナさんなら大丈夫です・・」

 アテナへの信頼と笑顔を絶やさないユリ。ミソラもアテナへの信頼を改めて感じて、微笑んで頷いた。

「それと違い、ダイゴは相変わらず性格が悪いですから・・・」

「でも心優しいということも確かです。ミソラさんも分かっているはずです・・」

「それは、そうなんですけど・・・」

 ユリに返す言葉がなくなり、ミソラが口ごもる。戸惑いを見せる彼女を見て、ユリはさらに笑みをこぼした。

 そのとき、ジョージがマーロンを訪れてきた。

「ミソラちゃん・・ここに来るのは久しぶりだな・・」

「ジョージさん、今日はお茶ですか?」

 気さくに声をかけてくるジョージに、ミソラが歩み寄る。するとジョージが深刻な面持ちを浮かべてきた。

「ダイゴとマリに話があるんだ・・構わないか・・?」

 ジョージがミソラに言いかけると、厨房から顔を見せていたダイゴとマリに目を向けた。3人は裏口前に回り、ジョージは話を切り出した。

「警察が、ガルヴォルス討伐に・・・!?

「それ、本当なんですか、ジョージさん・・・!?

 ジョージが語ったガルヴォルス討伐の話に、ダイゴとマリが声を荒げる。

「立て続けに起こっているガルヴォルスの事件の対策のために手を打つことになった・・お偉いさん方も本腰入れてきたってことだ・・」

「けど、それならいいことじゃねぇのか?身勝手なガルヴォルスも好き勝手にできなくなるってことじゃねぇのか?」

「そんな気楽なこと言ってられねぇんだよ、ダイゴ。これからの警察の攻撃対象は、ガルヴォルス全部。お前さんたちの言う人間らしいガルヴォルスも加害者として討伐されるんだよ。もちろん、お前さんたちもガルヴォルスだと知られれば、問答無用で攻撃されるぞ・・」

「おい、マジかよ、そりゃ・・・!?

 ジョージの話の重大さを痛感して、ダイゴが緊迫を覚える。

「お前さんたちはガルヴォルスでありながら人間として生きている・・しかし全員がオレみたいにそれを認めてるわけじゃないってことだ・・」

「そんなの関係ねぇ。人間もガルヴォルスも関係ねぇ・・オレはオレたちの平穏を壊そうとするヤツを許さねぇ・・・」

 忠告するジョージだが、ダイゴは考えを変えない。

「相手が誰だろうと、世界を敵に回そうとも、オレは戦う・・オレたちの平穏を壊そうとする敵と・・・!」

「私もダイゴと同じ気持ちです・・できることなら、心のある人と分かり合えるなら分かり合うほうが1番なんですけど、それが叶わなくて、戦わないといけなくなったら、私も迷いません・・・」

 マリも自分の考えを変えようとしない。頑なな2人に、ジョージは気まずくなって肩を落とした。

「ったく、どうなっても助けてやれないぞ。お前さんたちは面倒見切れない・・」

「すみません、ジョージさん・・私たちのためを思って話してくれたのに・・・」

「気にすんな。ダイゴのそんな性格を分かった上で話したのもあったからな・・」

 謝るマリにジョージが笑みをこぼす。

「だができるだけガルヴォルスにはなるな。格好の標的にされるぞ・・」

「忠告感謝するぜ、おっちゃん・・オレもあんまりバケモンの姿になって戦いたくはねぇからな・・・」

 ジョージに向けてダイゴが笑みを見せる。

「強すぎる力で見境を失くすのはつれぇからよ・・・」

 ダイゴが唐突に歯がゆさを込めた言葉を口にしてきた。彼はガルヴォルスの凶暴性に囚われることの苦しさを実感していた。

「そろそろオレは戻るぞ。しばらくはオレとは会わないほうがいいかもな。警察のオレと話してたら、怪しまれても文句は言えないぞ・・」

「言うさ。オレはずっとそうやってきたんだからな・・・」

 ジョージのさらなる忠告にも、ダイゴは憮然とした態度を見せるばかりだった。

 

 ジョージと別れたダイゴとマリは、ミソラとミライにだけ事情を話した。

「なるほど・・これは厄介ね・・・」

「ガルヴォルスみんなが悪いってわけじゃないのに・・・」

 深刻さを覚えるミソラと、歯がゆさを浮かべるミライ。

「そういうことですので、あまりガルヴォルスのことは話さないようにお願いします。訊ねられてもごまかしてほしいんです・・」

「そうだね・・ダイゴとマリちゃんを危険にさらすようなことにはしたくないからね・・」

 マリの頼みにミライが頷いた。ミソラもマリの言葉を受け入れていた。

「ところでアテナはどうしたんだ?姿が見えねぇぞ・・」

 ダイゴがミソラに問いかけてきた。

「アテナさんだったら休憩時間で、近くのコンビニに寄るって言っていたわよ・・」

 ミソラの答えを聞いて、ダイゴとマリが緊迫を覚える。

「もしかしたら、ガルヴォルスと警察のいざこざに巻き込まれてるかもしれねぇぞ・・アイツ、ガルヴォルスのこととなるといてもたってもいられなくなるからな・・」

「ちょっと探してきます・・イヤな予感がしているんです・・・」

 言いかけるダイゴと、アテナを探そうとするマリ。2人はアテナを追い求めて、マーロンを飛び出していった。

 

 仕事の間の休憩時間で、コンビニエンスストアに立ち寄っていたアテナ。だがお目当ての食べ物が決まらず、彼女は店の中で迷っていた。

「どれにしたらいいのかな・・早くしないと休憩時間が終わってしまう・・・」

 何とか割り切って選ぼうとするアテナ。

「キャアッ!」

 そのとき、外から悲鳴が響き、アテナの耳に入ってきた。緊張感を覚えたアテナは、すぐにコンビニエンスストアを飛び出した。

 外ではろうそくの姿に似たキャンドルガルヴォルスが暴れていた。キャンドルガルヴォルスは口や手から白い蝋を噴き出して、周囲の人々に浴びせて固めていた。

「ゲッヘッヘッヘ!どんどん蝋人形にしてやるぞ!」

 キャンドルガルヴォルスが不気味に笑いながら、さらに人々に蝋を吹きかけていく。

「またガルヴォルス・・また関係ない人を襲って!」

 怒りを覚えたアテナが、サキュバスガルヴォルスに変身する。彼女は右手を突き出してキャンドルガルヴォルスを突き飛ばした。

「ガルヴォルスは許さない!あなたも私が倒す!」

「おいおい、せっかく楽しんでいたのに邪魔して・・」

 怒りの言葉を発するアテナに、キャンドルガルヴォルスが不満を浮かべる。

「お前から蝋人形にしてやるぞ!」

 キャンドルガルヴォルスがアテナに向けて蝋を吹きかける。アテナは素早く動いて蝋をかわしていく。

「よけないでほしいな!すぐに固めてやるんだから!」

「私は、あなたたちガルヴォルスの思い通りにはならない!」

 さらに不満を口にするキャンドルガルヴォルスが出すを蝋をすり抜けて、アテナが右手を突き出す。痛烈な一撃を受けて、キャンドルガルヴォルスが突き飛ばされた。

「逃がさない・・絶対にここで倒す・・・!」

 アテナがキャンドルガルヴォルスに追撃しようとしたときだった。

 突如数台の車が駆け付け、降りてきた刑事や兵士たちがアテナの周囲を取り囲んできた。

「これって・・・!?

 思わぬ出来事にアテナが驚きを覚える。

「ガルヴォルス発見!攻撃を開始します!」

 刑事と兵士たちがアテナに銃を向けてきた。自分が標的にされていることに、アテナはさらなる驚愕を覚える。

「ちょっと待って!私はガルヴォルスを・・!」

「撃て!」

 アテナの言葉を聞かずに刑事、兵士たちが発砲する。アテナはとっさに飛び上がって、弾丸をかわし、爪で弾いていく。また命中してもガルヴォルスとしての体の硬さに弾丸が跳ね返されていく。

「さすがに強度があるわね。普通の弾では、動きを鈍らせることもできない・・」

 車から降りてきたカンナが、アテナを見て呟く。

「アレを使いなさい。アレならガルヴォルスでも十分効果がある。」

「了解。」

 カンナの指示を受けて、兵士たちが別の銃に持ち替える。次に放たれた弾は、速さも威力も普通の弾を上回っていた。

 その弾丸を必死にかわそうとするアテナ。だが弾丸の1発が彼女の左腕に当たった。

「うっ!」

 撃たれた左腕に激痛を覚え、アテナが体勢を崩す。だが彼女は痛みをこらえて、この場から離れていく。

「命中したはずなのに・・効いていないのか・・・!?

「効いていないわけではない・・痛みを耐えていたように見えた・・・!」

 逃走していったアテナに、兵士たちが驚きを覚える。

「うろたえないで!まだ遠くへは逃げていない!すぐに追撃しなさい!」

「了解!」

 そこへカンナが指示を出し、兵士たちがアテナを探しに駆けだしていった。

(ガルヴォルスは1人たりとも逃がさない・・必ず根絶やしにしてやる・・・!)

 胸中でガルヴォルスへの憎悪を膨らませていくカンナ。彼女はアテナを追って行動を続けるのだった。

 

 突然の警察からの銃撃で負傷し、アテナは逃走を余儀なくされた。人目のつかないところで、彼女は人間の姿に戻る。

「どういうことなの!?・・・警察が、私を狙うなんて・・・!?

 混乱している気持ちを徐々に落ち着かせていくアテナ。

「私がガルヴォルスだったから・・警察は単に、ガルヴォルスを狙っていただけ・・・」

 自分自身が異形の存在となっていることを改めて思い知らされ、アテナが歯がゆさを覚える。

「私も許せない・・私も、ガルヴォルスだから・・・」

 自分の境遇を呪うアテナ。ガルヴォルスへの憎しみを抱えながらも、彼女は戦うことへ揺らぎだしていた。

 

 

次回

第7話「非情の銃弾」

 

「街に隠れているガルヴォルスは大勢いる・・」

「本性を現す前に、速やかに処分すること・・・」

「やべぇ・・逃げろ、マリ!」

「あの、ガルヴォルス・・・」

「間違いない・・・父さんと母さんを殺した・・・!」

 

 

作品集

 

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