ガルヴォルスZEROrevenge 第5話「失われているもの」
アテナがマーロンで働き始めてから数日が経過した。この日の仕事を終えて、ダイゴ、マリ、アテナは帰路についていた。
「アテナさん、ずい分仕事に慣れてきましたね・・」
「そんなことないですよ・・それに、ヘンに慣れ過ぎると失敗したりするんですよね・・・」
褒めてくるマリに、アテナが微笑みかける。
「・・で、何でおめぇがついてきてんだよ・・・」
ダイゴが肩を落としてため息をついてきた。彼らの後ろでミライが笑顔を浮かべていた。
「だってアテナちゃんともっと絆を深めたいんだもん♪」
「ったく・・そういう馴れ馴れしいことは、どっちのためにもなんねぇってのに・・・」
上機嫌に答えるミライに、ダイゴがさらに呆れる。
「ねぇねぇ、アテナちゃんはここに来る前はどんな時間を過ごしていたの?」
「やめろ、ミライ・・あんまり人を詮索するもんじゃねぇよ・・」
アテナに声をかけてくるミライを、ダイゴが呼び止める。
「そうですよ、ミライさん・・誰だって、無闇に聞かれたくないことはあるものですよ。」
マリも続いてミライに声をかけてきた。
「う〜、何だかあたしが悪者になってるよ〜・・・」
責められたミライがふくれっ面を見せる。3人のやり取りを見て、アテナが笑みをこぼす。
「時期が来たらミライさんにも話します・・ミライさんも、私に親切にしてくれましたから・・・」
「あ〜、ムリしなくていいよ、アテナちゃん。話したくないことをムリに話さなくたって・・」
切実に言いかけるアテナに、ミライが弁解を入れる。4人は屈託のない会話をしていくうち、公園の前に差し掛かった。
そこでアテナはとある親子を目にする。甘えてくる子供を優しく迎える両親。その親子の光景が、アテナにとっては辛く感じられた。
同時にアテナはガルヴォルスへの怒りを感じた。家族の時間を奪ったガルヴォルスを、彼女は許すことができなかった。
「あ、そういえば夜ごはんの買い物がまだでしたね。私、買ってきますから、ダイゴたちは先に帰っていてください・・」
そこへマリが声をかけてきた。苦い思いをしているアテナを気遣ってのとっさのことだった。
「そうだな・・マリ、頼んだ・・ミライ、仕方ねぇから家まで付き合え。」
「分かった♪アテナちゃんといろいろとお話したいし♪」
マリに買い物を任せて、ダイゴはアテナとミライを呼びつける。さらに上機嫌を見せるミライに、ダイゴは逆に不機嫌を浮かべていた。
アテナとミライと連れて、家に帰ってきたダイゴ。アテナとすっかり話しこんでいたミライをよそに、ダイゴは自分の部屋に戻ってベットでふて寝してしまった。
「相変わらずですね、ダイゴさんは・・不機嫌になりませんか、ミライさんは・・?」
「心の底から許せない相手に最後まで立ち向かっていく・・あたしはそんなダイゴを好きになったの・・」
呆れるアテナに、ミライが笑顔を見せて答える。
「確かにダイゴは、性格がいいかどうかって聞かれたら悪いって答えるしかないね・・でもマリちゃんの言うとおり、ダイゴはホントは優しくて勇気があるんだから・・」
「勇気があるのは分かりますが・・やはりあの性格は・・・」
「アハハ・・・でもここ最近、性格のいい人より悪い人のほうが増えてきてる・・性格っていうより、性根なんだろうね・・・」
深刻さを浮かべるアテナに、ミライが淡々と答えていく。
「何でもかんでも自分優先にしようとする人が多くなってるけど、ダイゴは違う・・ダイゴはそんな自分勝手な人を憎んでいる・・今は自分の平穏が破られるのが我慢ならないからなんだけどね・・」
「それもそれで自分勝手なんですけど・・・私も人のことを言えませんが・・・」
ミライの口にする言葉を聞いて、アテナが苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい・・遅くなってしまいました・・・」
そこでマリが帰宅して、ダイゴたちに声をかけてきた。
それから夕食の支度をするマリ。ダイゴも手伝っていたが、途中でミライとアテナが手伝いに加わってきたため、彼はすっかり蚊帳の外に追いやられてしまっていた。
「ったく、すっかり女の仕事になっちまったじゃねぇかよ・・・」
「そうね・・ダイゴは休んでいて・・私たちだけで何とかなってしまいそうだから・・・」
不満を口にするダイゴに、マリが苦笑いを浮かべる。するとアテナが深刻な面持ちを浮かべてきた。
「こういう家族の形も悪くないと思う・・でもやはり、私には辛い・・・」
「アテナちゃん・・・?」
アテナが口にした言葉に、ミライが疑問符を浮かべる。我に返ったアテナが困惑を浮かべてきた。
「あの・・ミライさんも、ガルヴォルスについて知っているんですか・・・?」
「え、う、うん、まぁ・・だってマリちゃ・・んん!」
アテナが投げかけた質問に答えようとしたミライの口を、マリが慌てて手で押さえる。
「ダメですよ、ミライさん・・そのことは無闇に話さないでください・・」
アテナから離れたところで、マリが小声でミライに注意する。
「それにアテナさん、ガルヴォルスのことを憎んでいるんです・・」
「えっ・・・?」
マリが続けて投げかけた言葉を聞いて、ミライも表情を曇らせる。
「アテナちゃんは・・・ガルヴォルスを憎んでるの・・・?」
ミライが訊ねると、アテナが沈痛の面持ちを浮かべて頷く。
「私の両親は、ガルヴォルスに殺されたんです・・・」
アテナがダイゴとミライにも、自分の過去を打ち明けた。
「私は、父さんと母さんを殺したガルヴォルスを許さない・・・ガルヴォルスは、私から全てを奪った・・・あんなことがなければ、私は・・・」
「だから、ガルヴォルスが許せねぇってのか・・・」
怒りを浮かべるアテナに、ダイゴが口を挟んできた。
「オレたちも、ガルヴォルスのために人生を狂わされてる・・けどそれはガルヴォルスだからじゃなく、“そいつだったから”って分かったんだよ・・・」
「でも、ガルヴォルスが家族を殺したのは間違いないのよ・・・」
「そうだな・・けどアテナ、おめぇがホントに復讐してぇのは、ガルヴォルスそのものじゃなくて、家族を殺したガルヴォルスじゃねぇのか・・・?」
歯がゆさを見せるアテナに、ダイゴが淡々と言いかける。
「ま、オレにはまだ悪いことが起こってねぇみてぇだし、ガルヴォルスをしらみつぶしに探していけば、家族の仇に行きつくかもしれねぇな・・・」
「だったらほっといてください・・これは、私の戦いなんです・・・」
憮然とした態度を見せるダイゴに、アテナが不満を見せる。
(そう・・私はガルヴォルスを倒す・・仇だけじゃなく、全員・・・!)
ガルヴォルスに対する怒りをさらに強めるアテナ。マリやダイゴの言葉でも、彼女の心を止めるには至らなかった。
サキュバスガルヴォルス、アテナの攻撃で負傷していたドッグガルヴォルス。人間の姿である少年となっていたドッグガルヴォルスは、アテナへの逆襲を企てていた。
「ストレス発散のために暴れてたのに、逆にストレスをためてたら話にならないじゃないか・・」
少年は歩きながら不満を口にしていく。
「しかもよりによって同じ怪物に・・このまま引き下がってたまるか・・・!」
苛立ちを膨らませる少年が、ドッグガルヴォルスへ変身する。彼は怒りのままに、周囲の壁を破壊していった。
その日はアテナのマーロンでの仕事がない日だった。彼女は先日通りがかった公園を訪れていた。
公園にて時折見かける親子の光景。アテナはその光景を目の当たりにして、辛さを感じていた。
(うらやましくも思う・・でもそれだけ大切していることでもあるのよね・・・)
辛さを紛らわせようとするあまり、物悲しい笑みを浮かべるアテナ。
(みんなからも、家族の時間や幸せが奪われることも、私には我慢ならないのかもしれない・・・)
アテナの中に、新たなる怒りと決意が湧き上がってきた。
(やはりガルヴォルスは許せない・・この手で全員倒してやる・・・!)
込み上げてくる感情を心の中に押し留めて、アテナは公園を去ろうとした。
その瞬間、公園に突如爆発が起こった。振り向いたアテナの視界に、舞い上がる砂煙が入ってきた。
「こうなったら憂さ晴らしだ!徹底的に叩き潰してやる!」
悲鳴と衝撃の飛び交う公園の中央には、ドッグガルヴォルスがいた。彼の姿を目撃したアテナが、怒りをあらわにする。
「ガルヴォルス・・みんなの幸せまで、奪おうというの・・・!?」
怒りを覚えたアテナがサキュバスガルヴォルスへと変身する。飛び出した彼女が、暴れまわるドッグガルヴォルスに向けて爪を振り下ろす。
だが寸でのところでドッグガルヴォルスに気付かれ、攻撃をかわされる。
「こんなすぐに出てくるとは・・お前を叩き潰さないと、気が済まないところだったんだよ!」
「そのために関係のない人に危害を加えるなんて・・ガルヴォルスは・・ガルヴォルスは!」
狙っていた相手を見つけて喜ぶドッグガルヴォルスと、ガルヴォルスへの怒りをあらわにするアテナ。
「何言ってるの!?お前もガルヴォルスじゃないか!」
「そう!だからこんな私自身も許せないのよ!」
あざ笑ってくるドッグガルヴォルスに言い返すアテナ。彼女が敵に向けて爪を振りかざした。
彼女の一閃がドッグガルヴォルスの右腕を切りつけた。攻め立てようとするドッグガルヴォルスだが、アテナの猛攻に押される一方だった。
「コイツ・・前よりも力が上がっている・・オレもさらに力を上げてるっていうのに・・・!」
アテナの力に毒づくドッグガルヴォルス。彼の感情の揺さぶりは、徐々に怒りと苛立ちに変わっていく。
「こんなヤツにやられるのは我慢ならないんだよ!」
「そんなこと、私の知ったことではない!」
互いに叫ぶドッグガルヴォルスとアテナ。だがアテナが突き出した両手を受けて、ドッグガルヴォルスが吹き飛ばされた。
激突の際に舞い上がった砂煙で視界を遮られ、アテナがドッグガルヴォルスを見失った。
「くっ・・どこよ・・どこよ!?」
声を上げるアテナ。だがドッグガルヴォルスは公園からいなくなっていた。
マーロンでの仕事を終えたダイゴとマリは、街に買い物に向かっていた。
「今夜はアテナさんのリクエストにお応えして、クリームシチューにしますね・・」
「クリームシチューか・・オレはミネストローネが好きなんだけどな・・」
夜ごはんのメニューを告げるマリに、ダイゴが淡々と言葉を返した。
そのとき、道を歩いていた2人の前に、ドッグガルヴォルスが飛び出してきた。
「ガルヴォルス!」
「あのときの・・また出てきやがったのか・・・!」
声を荒げるダイゴとマリに気付き、ドッグガルヴォルスが立ち上がる。
「こうなったら誰でもいい・・ストレス発散させてもらうぞ!」
不満を爆発させたドッグガルヴォルスが、ダイゴたちに飛びかかる。
「マリ、離れてろ!」
「ダイゴ!」
ダイゴはマリに呼びかけると、デーモンガルヴォルスに変身してドッグガルヴォルスを迎え撃つ。
「お前があの悪魔のヤツだったか!せっかくの獲物を横取りされるわけにいかないからな!」
「わけの分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ!そんな自分勝手な考え、オレは認めねぇぞ!」
目を見開くドッグガルヴォルスに、ダイゴが言い放つ。2人が繰り出した拳がぶつかり合い、ドッグガルヴォルスが弾き飛ばされる。
「オレの気の済むようにして何が悪い!?オレが満足すれば、他のヤツがどうなろうと知ったことか!」
「身勝手なことをすれば、自分の首を絞めることになる・・そんなことも分かんねぇのかよ・・・!」
叫ぶドッグガルヴォルスに、ダイゴが怒りを募らせる。
「オレもオレの気の済むようにしてる・・けど関係ねぇヤツまで巻き込もうとは思っちゃいねぇ!」
「そんなきれいごと、通じると思っているのか!?」
言い放つダイゴに再び向かうドッグガルヴォルス。
「叩き潰してやる!それからオレはどんどんストレスを発散させていくんだよ!」
苛立ちを見せつけるドッグガルヴォルス。彼が放った拳が、ダイゴの体に叩き込まれた。
「やった・・これは効いただろう・・・!」
「自分さえよければ、他のヤツはどうなってもいいっていうのかよ・・・!?」
勝ち誇ったドッグガルヴォルスに、ダイゴが怒りの言葉を投げかける。攻撃が通じていないことに、ドッグガルヴォルスが目を疑う。
「おめぇのようなヤツに、オレたちの平穏を壊されてたまるか!」
激昂したダイゴがドッグガルヴォルスを攻め立てる。ダイゴが放つ拳が、ドッグガルヴォルスの体に立て続けに叩き込まれる。
「ぐはっ!・・な、何て力・・・!」
ダイゴの力に押されて、ドッグガルヴォルスが吐血する。だが枯れ葉ダイゴへの苛立ちを消してはいなかった。
「だが、オレがお前を倒すことは決まっているんだよ!」
力を振り絞って飛びかかっていくドッグガルヴォルス。ダイゴが剣を手にして、ドッグガルヴォルスに向けて振り下ろす。
真っ二つにされたドッグガルヴォルスが、鮮血をまき散らしながら倒れた。返り血を振り払って、ダイゴが人間の姿に戻る。
「ダイゴ、大丈夫・・・!?」
「マリ・・オレは大丈夫だ・・このくらいじゃ全然へっちゃらだ・・」
心配して駆け寄ってくるマリに、ダイゴが笑みを見せる。
「・・こんなふざけたヤツのせいで、誰かが平穏を壊されちまってるんだ・・アテナみてぇに・・・」
「うん・・できることなら、何も起きないうちに止めたいけど・・こんな悲しい出来事が、いつどこで起きているのか分からない・・・」
ダイゴが口にした言葉にマリが頷く。2人はガルヴォルスのために悲劇を経験したアテナを気にかけていた。
ドッグガルヴォルスを探して、アテナは公園の周囲を探っていた。そこで彼女はダイゴとマリを見つめる。
「マリさん・・ダイゴも・・・」
人間の姿に戻ったアテナが、ダイゴとマリの前に現れた。
「アテナさん・・ここに来ていたんですね・・・」
「はい・・2人もここを歩いていたなんて・・・」
微笑みかけるマリに、アテナも答える。
「それより、ガルヴォルスがこっちに来ませんでしたか?まだ遠くには逃げていないはずなんですが・・・」
「さぁな・・バケモンが出てきたら、イヤでも覚えちまうもんだが・・・」
アテナが声をかけると、ダイゴが憮然とした態度を見せる。
「あんまり物騒なことに首突っ込むな・・ちょっとは女らしい時間を過ごしたらどうなんだ?」
ダイゴが投げかけた言葉に、アテナが戸惑いを覚える。だが彼女はすぐに不満の表情を見せた。
「ダイゴに言われなくても、私は十分女らしくしているんだから・・・」
突っ張った態度を見せるアテナだが、ダイゴに対して動揺を感じていた。2人のやり取りを見て、マリはアテナがダイゴと打ち解けていると思い、喜びを感じていた。
次回
「今までの奇怪な事件は、ガルヴォルスによるものよ。」
「警察が、ガルヴォルス討伐に・・・!?」
「お偉いさん方も本腰入れてきたってことだ・・」
「これって・・・!?」
「ガルヴォルス発見!攻撃を開始します!」