ガルヴォルスZEROrevenge 第1話「復讐の幕開け」

 

 

 平穏無事な日常を過ごしていた1人の少女。

 もしもあの悲劇がなければ、今も幸せに満ちあふれていたかもしれない。

 

 突如家を襲った怪物。

 その毒牙で父を手にかけ、逃げようとした母の命も奪った。

 少女が家に帰ってきたのは、その怪物が家から去っていく瞬間だった。

 無残に横たわる両親の姿に驚愕する少女。彼女が恐る恐る手を伸ばすと、2人の体が砂のように崩れていった。

 少女は絶望に打ちひしがれた。怪物が襲ってこなければ、父も母も死なずに済んだのに。

 少女は涙ながらに叫んだ。彼女の中に、怪物への憎悪が湧き上がってきていた。

 その激しい憎悪が、少女を自身が憎んでいる怪物へと変貌させた。

 

 にぎわいの絶えない街。平和までも絶えないものと思われていた。

 だがその平和の裏で犯罪が起こっている。また罪として扱われていない不条理も潜んでいる。

 その日常の中、街中の銀行にて事件が起きた。2人の男が銀行を襲い、客や銀行員を人質にしてお金を強奪しようとしていた。

「さっさと金を詰めろ!さもねぇと他のヤツらの命がなくなるぞ!」

 強盗が銀行員に呼びかけ、銃を客に向ける。撃たれることを恐れて、客も銀行員も震えて動けなくなっていた。

 そこへ1人の青年が姿を見せてきた。トイレに立ち寄っていたときに、強盗がやってきたのである。

「あっ?何だ、お前は?」

「どうやらどっかに隠れてたみたいだが、姿を見せたのは迂闊だったな。」

 強盗たちが青年に向けて銃を向ける。だが青年は強盗に鋭い視線を向けるばかりだった。

「何だ、その目は?コイツが見えてないのか?」

「コイツを食らったらひとたまりもないぞ!死にたくなかったら大人しくしてろ!」

「偉そうにしやがって・・それでみんなを脅して、金を巻き上げようってヤツか・・」

 脅してくる強盗に対し、青年が憮然とした態度を見せる。その反応が強盗たちの感情を逆なでした。

「コイツ、調子のいいこと言いやがって!」

「そんな態度取ってたらな、お前がぶち抜かれるだけじゃ済まないぞ!他のヤツまで血祭りになるぞ!」

「やってみろよ・・・!」

 さらに脅しをかける強盗に、青年が鋭く言いかける。

「もし誰か殺したら、覚悟を決めとけよ・・ただじゃ置かねぇ・・たっぷりと苦しませて、地獄に叩き落とすから・・・!」

 青年から鋭い殺気が放たれる。彼の敵意に、強盗が緊迫を覚える。

「お、大人しくしてろ!死んだらそんなマネもできないぞ!」

 強盗が恐怖のあまりに青年に銃口を向ける。それでも青年は引き下がろうとしない。

「く、来るな!」

 強盗がたまらず銃の引き金を引こうとする。だが青年は発砲する前に強盗を殴り飛ばした。

「い、今だ!」」

 それを見た銀行員や客たちが強盗たちに飛びかかる。突然の人質の反撃にあい、強盗は撃退されることとなった。

 

 警官隊の強行突入が不要となり、銀行には平穏が戻った。だが1人の警部が、強盗撃退の立役者となった青年に対し、腑に落ちない心境を見せていた。

「おめぇ、相変わらず危なっかしいな・・こっちの寿命まで縮まりそうだぞ・・」

 青年の行動に警部、小林(こばやし)ジョージが苦言を呈する。

 青年の名は佐々木(ささき)ダイゴ。非常に感情的な性格で、理不尽、不条理、身勝手、自己中心的など、自分にとって許せない人物にはつかみかかったりと、反抗的な態度を見せる。一方で優しさ、弱さも持ち合わせており、素直になれない不器用な一面もある。

「どんな理由があったって、言いなりになった時点で、そいつはいつ殺されてもおかしくねぇことになる・・そんなの、オレは我慢ならねぇ・・」

「あそこにいたのはおめぇだけじゃなかったんだぞ。おめぇのその考えひとつで、人質が皆殺しにされたかもしれなかったんだぞ・・」

「そんな考えをしていて、後々皆殺しにされるほうがたまったもんじゃねぇだろ・・だったら逆らってでも、オレはオレの道を決める・・・」

 あくまで自分の考えを変えないダイゴ。彼は身勝手や理不尽に絶対に屈せず、従おうとしない人物だった。

「ダイゴ!」

 そこへ1人の少女が駆け込んできた。

 清水(しみず)マリ。穏和で優しい性格をしており、ダイゴを家に招き入れている。2人は互いに心の支えとなっている。

「ダイゴ・・銀行に強盗が入ったってニュースを聞いて・・・!」

「マリ・・オレがそう簡単にやられてたまるか・・あんな連中のいいようになんねぇよ・・」

 息を絶え絶えにしているマリに、ダイゴが突っ張った態度を見せる。彼の態度にジョージがため息をつく。

「お前さんよ、いい加減にじっとするってことを覚えろよ・・許せないものに立ち向かうのは聞こえはいいが、いつもいつも突っかかってばっかりじゃ・・」

「じっとしてれば、思い上がってるヤツらがいいことをしてくれるのか?そんなためしが全然ねぇから、こうするしかねぇんじゃねぇかよ・・」

 苦言を呈するジョージだが、ダイゴは不満を返すだけだった。

「ここにずっといてもしょうがねぇ・・いい加減に帰らねぇと、ミソラがうるせぇからな・・」

 ダイゴは肩を落としながら言いかけて、歩き出していった。マリもジョージに一礼すると、彼を追って駆け出していった。

「ホントにしょうがねぇんだから・・この分じゃ死ぬまで・・いや、死んでも直んないんだろうな・・・」

 ダイゴに対してため息混じりに呟くと、ジョージは職務に戻っていった。

 

 街中の通りの一角にあるレストラン「マーロン」。ケーキなどのデザートの種類が豊富なこのレストランは、老若男女様々な客が訪れていた。

 その店内にて店員たちをまとめていたのは、店長代理、佐藤(さとう)ミソラだった。

 マーロンの休憩室にて赤ちゃんの世話をしていたのは、店長、井上(いのうえ)ユリである。

 ユリは先月まで出産のために入院していた。出産を終えて帰宅許可が出たので、ユリは子供とともにマーロンに帰ってきたのである。

 だがユリはしばらく赤ちゃんの世話にかかりっきりになってしまうため、ミソラが引き続き店長代理を務めることとなった。

「ごめんなさいね、ミソラさん・・店のことを任せきりにしてしまって・・」

 休憩室に来たミソラに、ユリが謝ってきた。

「いいんですよ、店長・・店長はサクラちゃんのお守に集中してください。」

 するとミソラが笑顔で返事をしてきた。

「ではお言葉に甘えることにしますね。改めてよろしくお願いします、ミソラさん、みなさん・・」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。」

 ミソラも笑顔を見せて、さらに仕事に力を入れた。そのとき、ダイゴとマリがマーロンに帰ってきた。

「ダイゴくん、無事だったの!?向かった銀行に強盗が入ったってニュースが流れたから、何かあったんじゃないかって心配したんだよ・・!」

 心配の声を上げるミソラだが、ダイゴは憮然さを変えない。

「オレがそんなことでやられてたまるか。オレは身勝手なヤツには絶対に従わねぇ・・」

「もう、相変わらずの考えなんだから・・少しは心配しているこっちの身にもなってよね・・」

 肩を落とすミソラだが、ダイゴは気を遣うことなく仕事に取り掛かっていった。

「これじゃとても接客なんてさせられないわ・・」

「でも他の仕事はきちんとこなしているのですよね・・?」

 気まずくなるミソラに、マリが微笑みかける。しかしミソラはため息をつくばかりである。

「それでもう少し愛想がないと・・・気分が悪くならない、マリちゃんは・・?」

「大丈夫です・・むしろ気持ちが楽になります・・ダイゴが本当はどういう人なのかを、私は分かっていますから・・・」

 疑問を投げかけてきたミソラに、マリが自分の気持ちを口にする。

「お互い、支え合っているということね・・多分、私が注意するよりは、マリちゃんが何か言ったほうが効果的なのかもね・・」

「そんなことないですよ、ミソラさん・・ダイゴはちゃんと受け止めてくれますよ・・いつも感情的で悪ぶった態度を見せていますけど、本当はとても優しいんですから・・・」

「分かってる・・それもいいことと悪いことなのよね・・・」

 ダイゴの心境について語っていくマリとミソラ。2人の見つめる先で、ダイゴは皿洗いを行っていた。

 

 その日のマーロンでの仕事が終わり、ダイゴとマリは家に帰ろうとしていた。マリの口からミソラの考えを聞かされて、ダイゴは憮然としていた。

「ったく、ミソラったらまた説教くせぇことを・・」

「ミソラさんもミソラさんなりに心配しているんだよ・・ダイゴもそのところは分かっているはずだよ・・」

 ため息をつくダイゴに、マリが微笑みかける。

「けど、こういう落ち着いた時間っていうのは気分がよくなる・・まだ世界には、思い上がった身勝手なヤツがたくさんいるっていうのに・・・」

「そういう世界でも、そんな人が世界のどこかにいても、私たちは平穏を手にすることができる・・そういうことなのですね・・・」

「そういうのに気分をよくしてる自分が、どこかおかしいと思えるけどな・・・」

 平穏を実感して、ダイゴとマリが安堵を感じていた。

 ダイゴとマリはかつて追う側、追われる側という対立関係にあった。だが記憶喪失に陥って新たな人格を得たことにより、2人は和解し、互いに心の支えになった。

「このまま平穏を過ごしてぇ・・ふざけたことに悩まされることなく、この時間を過ごしていきてぇ・・・」

「私もこの時間を過ごしていたい・・・ダイゴと一緒の時間を・・・」

 互いに願いを口にしていくダイゴとマリ。平穏こそが2人の願いとなっていた。

 そのとき、ダイゴとマリの耳に声が入ってきた。

「この声・・・!?

「またアイツらが現れたのでは・・・!?

 緊迫を覚えて駆け出すダイゴとマリ。2人は世界の中で暗躍する不気味な影の存在を知っていた。

 ガルヴォルス。異形の姿と力を兼ね備えた人間の進化である。ダイゴもマリもガルヴォルスであり、普通の人間には聞こえない小声を捉えることができるのである。

 その声のするほうへと駆けていくダイゴとマリ。2人は街中にある裏路地に足を踏み入れた。

 そこには1人の女性がいた。だが彼女はスライム状のものに包まれて動かなくなっていた。

「これって・・・やはりガルヴォルスの仕業・・・!」

 不安を浮かべるマリ。ダイゴは周囲に注意を傾けて、犯人の行方を探る。

「今日はついてる・・獲物がこっちにやってくるなんてな・・・」

 そこへ不気味な声が響いてきた。ダイゴとマリの前に、1人の男が降り立った。

「コレをやったのはおめぇか・・・!?

 ダイゴが男に鋭い視線を向ける。

「こうして固めて封じてしまえば、きれいなままでいられる・・彼女も喜んでいるだろうな・・・」

「ふざけんな!おめぇみてぇなヤツの勝手で喜ぶヤツがいるか!」

 笑みを見せる男にダイゴが怒号を放つ。しかし男は嘲笑するばかりだった。

「男には興味ないんだよ・・せっかくだからバラバラにしてやるよ・・・」

 言いかける男の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「虐殺っていうのも面白くなるんだよね・・・!」

 目を見開く男の姿が、異形の怪物へと変化する。彼の体から黄緑のスライムがあふれてきていた。

「オレのスライムで包み込んだ後、凝縮してやればバラバラになる・・そういう感覚を味わうのもいい!」

 怪物、スライムガルヴォルスが体からスライムを放つ。ダイゴは横に飛んで、スライムをかわす。

「ダイゴ!・・キャッ!」

 ダイゴに駆け寄ろうとしたマリが、スライムガルヴォルスが放ったスライムに捕まる。息苦しさを感じながらも脱出しようとするマリだが、すぐにスライムが固まり、彼女も動けなくなってしまった。

「マリ・・・!」

 スライムに凝固されてしまったマリに、ダイゴが愕然となる。彼女を見つめて、スライムガルヴォルスが哄笑を上げる。

「いい感じに固まったぞ・・1日に2人を固めるなんてな・・・!」

「ふざけたマネ、しやがって・・・!」

 あざ笑ってくるスライムガルヴォルスに、ダイゴが怒りをあらわにしてきた。彼の頬にも紋様が走る。

「マリを元に戻せ・・その塊から出せ!」

 怒号を放つダイゴが変貌を遂げる。悪魔を思わせる姿のデーモンガルヴォルスへと、彼は変化したのである。

「お、お前もガルヴォルスだったのか!?

 変身したダイゴに、スライムガルヴォルスが驚愕する。ダイゴが1本の剣を具現化させ、握りしめる。

「おめぇのようにふざけたヤツを、オレは許しちゃおかねぇ!」

 怒りをむき出しにして、ダイゴがスライムガルヴォルスに飛びかかって剣を振りかざす。だが切り裂かれたはずのスライムガルヴォルスが平然としている。

「何っ!?

「オレの体はスライムだからな!斬られてもすぐに元通りなんだよ!」

 声を荒げるダイゴに、スライムガルヴォルスが高らかに言い放つ。だがダイゴはすぐに落ち着きを取り戻し、再びスライムガルヴォルスに剣を振りかざす。

 だがスライムガルヴォルスはすぐに再生し、上空に飛び上がった。

「何度やろうと、すぐに元通りに・・!」

 スライムガルヴォルスが高らかに言い放つ。彼の視線の先で、ダイゴが手にしている剣に力を注いでいた。

「斬ってもくっつくっていうなら、戻れねぇようにバラバラにしてやる・・・!」

「マジかよ・・そんなこと、マジで・・・!?

 鋭く言いかけるダイゴに、スライムガルヴォルスが声を荒げる。

 ダイゴが剣を振りかざすと、エネルギーの刃が解き放たれた。その刃をぶつけられた瞬間、スライムガルヴォルスが爆発したような衝撃に襲われて、粉々に吹き飛んだ。

「やった、のか・・・!?

 緊張を消さないまま、ダイゴが振り返る。スライムが蒸発するように消失し、閉じ込められていたマリが解放された。

「マリ!」

 ダイゴがマリに駆け寄り、倒れそうになった彼女を受け止める。

「マリ!しっかりしろ、マリ!」

「ん・・・ダイゴ・・・」

 ダイゴが呼びかけると、マリが弱々しく声をもらす。彼女が無事であると分かり、ダイゴが安堵の笑みを浮かべる。

「よかった・・・けど一応、病院に連れて行って・・・」

 ダイゴがマリを病院に運ぼうとしたときだった。彼の耳に粗い物音が飛び込んできた。

(この音・・・まさかまたガルヴォルスが・・・!?

 ダイゴが再び緊迫を募らせて、周囲に注意を傾ける。物音は足音に変わり、ダイゴたちに向かって徐々に近づいてくる。

(間違いねぇ・・オレたちのことに気付いてる・・オレたちを狙ってきてる・・・!)

「オレはここだ!堂々と姿を見せろ!」

 いきり立ったダイゴが声を張り上げる。なかなか姿を見せない相手に、彼は苛立ちを感じていた。

 そこへ1人のガルヴォルスが飛び込んできた。ダイゴと同じく悪魔に似た姿のガルヴォルスだった。

「ガルヴォルスは、絶対に許してはおかない!」

 敵意をむき出しにするサキュバスガルヴォルスが、ダイゴに襲いかかってきた。

 

 

次回

第2話「孤独の少女」

 

「そうやって悪い態度を見せていると、女性に嫌われますよ。」

「そういう解釈は、今の世の中じゃ受け入れられねぇよ・・」

「ダイゴは本当は優しい人なんです・・・」

「ガルヴォルス・・・!」

「私はガルヴォルスを許さない・・・全員仕留める・・・!」

 

 

作品集

 

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