ガルヴォルスZEROrevenge 第2話「孤独の少女」

 

 

 突如ダイゴに襲いかかってきたサキュバスガルヴォルス。ダイゴはマリを抱えたまま後ろに飛び、サキュバスガルヴォルスが振りかざしてきた爪をかわす。

 ダイゴはマリを下ろしてから、サキュバスガルヴォルスに振り返る。

「おめぇは何だ!?オレをどうしようってんだ!?

「ガルヴォルスは許さない・・何もかも無茶苦茶にするバケモノは、私が根絶やしにする!」

 言い放つダイゴに、サキュバスガルヴォルスが怒りを返す。再び飛びかかって爪を突き出してきた彼女に対し、ダイゴが腕をつかんで動きを止める。

「根絶やしにする!?おめぇもガルヴォルスだろ!?

「そう!だからガルヴォルスになってしまった、自分も許せない!」

 呼びかけるダイゴにサキュバスガルヴォルスが言い返す。彼女はダイゴを突き飛ばして、攻撃を再開する。

「オレはおめぇに何もしてねぇ!オレに何か恨みでもあるのか!?

「あなたもガルヴォルス!それだけであなたを恨む理由は十分!」

「いくらなんでもただでやられてやるつもりはねぇ!これ以上攻撃してくるなら、オレも容赦しねぇぞ!」

「そんなことは関係ない!私はあなたを倒す!それだけ!」

 忠告を送るダイゴだが、サキュバスガルヴォルスは聞き入れようとしない。

「そうかよ・・そこまで言うなら!」

 いきり立ったダイゴが、向かってきたサキュバスガルヴォルスの体に拳を叩き込んだ。

「うっ!」

 痛烈な一撃を受けて、サキュバスガルヴォルスが怯む。ダイゴは続けて左手を突き出して、彼女を殴り飛ばした。

 ダイゴの力を痛感して、サキュバスガルヴォルスが危機感を覚える。ガルヴォルスを憎む気持ちを抱えたまま、彼女は背中から翼を広げて飛翔する。

「このまま・・このままじゃ済まさないから・・・!」

 サキュバスガルヴォルスは言い放つと、ダイゴの前から去っていった。戦いが終わったと思って、ダイゴは人間の姿に戻る。

「何だったんだ、アイツは・・・」

 ひとつの疑問を抱えたまま、ダイゴがマリに振り返る。

「そうだ・・マリを病院に連れてかねぇと・・・!」

 ダイゴがマリを改めて病院に連れて行こうとした。だがマリは意識を取り戻し、ゆっくりと立ち上がってきていた。

「マリ・・平気なのか・・・!?

「うん・・ゴメン・・ダイゴにばかり負担をかけて・・・」

 心配の声をかけるダイゴに、マリが微笑みかける。

「大丈夫・・体のほうは何ともないから・・・」

「けど一応病院に行ったほうがいいって・・オレも一緒に行ってやる・・・」

 心配かけまいとするマリを、ダイゴが駆け寄って支える。

「ありがとう、ダイゴ・・・本当に、ゴメン・・・」

「今は黙ってろ・・文句は後で聞いてやる・・・」

 感謝の意を示すマリに憮然とした態度を取りながら、ダイゴは病院へと向かっていった。

 

 ダイゴの攻撃を受けて疲弊しながらも、辛くも脱出することができたサキュバスガルヴォルス。息を絶え絶えにしながらも、彼女はガルヴォルス、ダイゴへの怒りを膨らませていた。

「あのガルヴォルス・・すごく強かった・・・でも許さない・・ガルヴォルスは、絶対に・・・!」

 ガルヴォルスへの怒りを膨らませていくサキュバスガルヴォルス。強まる感情を抱えたまま、彼女は歩き出していった。

 

 スライムガルヴォルスの被害にあったマリは、病院にて手当てを受けた。体に異常がなかった彼女は、帰宅を許可された。

「だから大丈夫と言ったんだよ・・これで安心して帰れる・・・」

「悪かったな、余計なお世話をして・・・」

 微笑みかけるマリに、ダイゴが憮然とした態度を見せる。

「これもガルヴォルスの力ということだね・・普通の人間ではなかなか治らないケガが、短く治ってしまう・・・自分をこんな言い方をするのはいい気分がしないけど・・・」

「そうかもな・・オレとしちゃ、人間もガルヴォルスも関係ねぇと思ってる・・人間なのに人間らしくねぇヤツもいるし、人間以上に人間らしいガルヴォルスもいるからな・・・」

「それで、私たちは人間なのかな?・・ガルヴォルスなのかな・・・?」

「さぁな・・どっちつかず、中途半端なんだろうな・・・けど、そのほうが気が楽だ・・・」

 屈託のない会話を交わしていくマリとダイゴ。

 ガルヴォルスは五感も治癒力も常人を大きく上回っている。マリもガルヴォルスであったため、大きな負担にならずに済んだのである。

 平穏な日常を過ごそうと、ダイゴとマリは気持ちの整理をしていった。

「もうちょいで家だぞ。着いたら今度こそ休め・・」

「でも、それだと夕食の支度が・・」

「オレがやっとく。オレだってやるときはやるんだ・・」

 ダイゴがマリに休むように呼びかける。2人が家の前の通りに差し掛かったときだった。

 その道をふらふらしながら歩いている1人の少女がいた。長い黒髪を先のほうで結んでいる、少し小柄な少女だった。

「あの子、少し様子がおかしくない・・・?」

「疲れてるだけだろ・・関わって、こっちがおかしなことに巻き込まれるのは・・・」

 心配するマリに危機感のない態度を見せるダイゴ。だが2人の目の前で、少女が倒れ込んだ。

「おい、マジかよ・・・!?

 ダイゴが声を荒げ、マリが少女に駆け寄っていった。

「大丈夫!?しっかりして、あなた!」

 マリが呼びかけるが、少女は意識を失い、反応がない。

「チェッ・・また病院に行かなくちゃなんねぇとはな・・・」

 憮然とした態度を見せるダイゴ。彼は少女を抱えて、マリとともに病院に向かっていった。

 

 少女が目を覚ましたのは、病院の病室。外は暗くなり、既に夜を迎えていた。

「気がついたみたいですね・・・よかった・・・」

 そこへ安堵の声がかかってきた。少女のそばにはマリとダイゴの姿があった。

「ここは病院?・・・どうして病院に・・・?」

「いきなり倒れたんです・・だから病院に連れてきたんです・・診断は過労だそうです。大事にならなかったのが幸いです・・・」

 少女が投げかけた疑問に、マリが答えて笑みを見せる。ダイゴは突っ張った態度を保っていた。

「そうだったのですか・・・ありがとうございます・・助けてくれて・・・」

「気にしなくていいです・・助け合いが大事ですから・・・」

 感謝の言葉をかける少女に、マリが笑顔で弁解する。

「ところであなたのお名前は?・・私は清水マリ・・」

「私はアテナ・・(もり)アテナ・・・」

 互いに自己紹介をするマリと少女、アテナ。

「オレは佐々木ダイゴだ・・・」

 ダイゴもアテナに向けて名前を告げる。

「オレは先に帰るぞ、マリ・・晩飯を作んなきゃなんねぇし・・」

 ダイゴはマリに告げると、先に病室を後にした。

「何だか感じが悪い・・印象を悪くしますよ・・・」

 アテナがダイゴの態度に懸念を抱く。

「それがダイゴなんです・・わざと悪ぶってはいますけど・・ダイゴは本当は優しい人なんです・・・単に不器用なだけで、本当は誰よりも優しいんです・・・」

 するとマリがアテナに微笑みかけてきた。しかしアテナのダイゴへの疑念は残っていた。

「誰も優しければ、あんなことが起きるはずもなかったのに・・・」

「えっ?何か言った・・?」

 低く呟いたところでマリに声をかけられ、アテナが我に返る。

「う、ううん、何でもないです・・・」

 たまらず首を横に振るアテナ。だが彼女はすぐに沈痛さをあらわにしていた。

「・・・家はどこですか?もう少し休んだら、送りますから・・・」

「ううん・・私、家も家族もないの・・・」

 励まそうとするマリだが、アテナが口にした言葉に当惑を覚える。

「ご、ごめんなさい・・そうとは知らず・・・」

「気にしないでください・・知らなかっただけですから・・・」

 謝るマリにアテナが弁解する。マリは続けてアテナに心配の言葉を投げかける。

「それで、行くあてなどはあるんですか?疲れているのに野宿はムチャかと・・」

「放っておいてください・・私は今まで、1人でやってきましたから・・・」

 冷たく返事をするアテナに、マリが困惑を浮かべる。

「あなたが信じられないという意味ではないです・・ただ、本当に1人でやっていましたから・・・」

 逆に戸惑いを感じてしまうアテナ。彼女が辛い境遇の中にいると察して、マリはある決心をした。

「よかったら、私と一緒に働いてみない・・?」

「あなたと一緒に働く・・・?」

 マリが投げかけた言葉に、アテナが眉をひそめる。

「みんな親切で楽しく仕事していますよ。まず1度話をする必要がありますが・・」

「でも・・それだとその人たちに迷惑じゃ・・・」

「辛そうにしたり苦しんだりしている人を放っておけない・・あなたのように優しそうな人は特に・・・」

 困惑するアテナに、マリが微笑みかける。優しさを見せる彼女の言葉を、アテナは渋々受け入れた。

 

「はっ!?アイツをマーロンで働かせる!?

 マリからの話にダイゴが驚きの声を上げる。マリはアテナをマーロンに働かせてあげようということを、ダイゴに打ち明けた。

「マジかよ!?どこのどいつかも分かんねぇってのに・・・!」

「だからだよ・・家も身内もないアテナさんを、このまま1人であんな生活をさせるわけにいかないよ・・」

「やれやれ・・そういうのをおせっかいってんだよ・・」

 マリの考えにダイゴが肩を落とす。

「それに、マーロンは今、人手が足りないですから・・」

「本音はそれかよ・・」

 笑顔を見せるマリに、ダイゴがさらに気落ちする。

「ま・・そっちはマリやミソラに任せるが、オレは知らねぇからな。先輩ヅラすんのはオレには似合わねぇし・・」

「そろそろダイゴも人に教える側になってみたら?ダイゴ、優しいから・・」

「やめてくれって・・ガラじゃねぇって言ってんだよ・・・」

「・・・本当に不器用だね、ダイゴは・・・私も人のこと言えないんだけど・・・」

 悪ぶった態度を見せるダイゴに、マリが微笑みかける。

「そういうおめぇも、ちょっと変わったな・・いや、抱えていたものが和らいで、落ち着いてるって感じだ・・」

「ダイゴもだよ・・かなり落ち着いてきた・・・」

「そうか・・・そうかもな・・・」

 マリが投げかけた言葉に、ダイゴが思わず笑みをこぼす。

「オレも自分が落ち着いてきてるって思えるようになった・・過去を終わらせたからかもな・・・」

「・・・だから、辛そうにしている人を放っておけなくなっている・・昔の自分を見ているような気がして・・・」

 マリの心境を察して、ダイゴは小さく頷いた。

「あんまり乗り気にはなれねぇけどな、オレとしちゃ・・・」

「それでもいいよ・・私のわがままのようなものだから・・・」

 ため息をつくダイゴに、マリは微笑みかけた。

 

 その翌日、1晩休養したアテナが退院してきた。病院を出たところで、彼女はマリを目にした。

「私が働いているお店、マーロンに案内しますよ・・・」

 声をかけてきたマリに、アテナは小さく頷いた。彼女はマーロンへと案内され、その前へとたどり着いた。

「ミソラさん、連れてきましたよ・・」

 マリが声をかけると、2人にミソラが顔を見せてきた。

「あなたが森アテナさんね?私は店長代理の佐藤ミソラです。」

「店長、代理・・?」

 自己紹介をするミソラに、アテナが疑問符を浮かべる。

「店長は子供のサクラちゃんの世話にかかりっきりだから、私がみんなをまとめているのよ。」

「そうだったのですか・・・でも私にこなせるでしょうか・・・?」

 事情を説明したミソラに、アテナが不安を口にする。

「経験のないことをするのは、誰でも不安になるものよ。こなせるかどうかは、私たちが見るから・・」

「はい・・・」

「それよりも大事なこと。ちゃんと体を洗わないと・・」

 ミソラがアテナに向けて注意を促した。

「接客に大事なことは清潔とコミュニケーション、それとスマイルよ。」

 注意を促したミソラが、アテナに笑顔を見せる。

「やる気があるならいらっしゃい。まずはきちんと体を洗わないと。これでも私は鼻がいいから、汗などのにおいはすぐに分かるんだから・・」

「すみません・・私、身寄りや知り合いがいなくて・・ずっと野宿ばかりで・・・」

「えっ!?・・ちょっとちょっと、ずい分とわけありじゃないのよ・・・!」

 アテナから事情を聞いて、ミソラが声を荒げる。そしてミソラは険しい表情のまま、マリに詰め寄ってきた。

「本当に、なんて人を連れてきたのよ・・・!?

「辛そうに見えましたし、困っているように見えましたし・・・」

 困惑気味に答えるマリに、ミソラは呆れて肩を落とす。

「あっ!お姉ちゃんとマリちゃんだよ!」

 そこへ1人の少女が声をかけてきた。少しはねっけのある黒のショートヘアと、天真爛漫な雰囲気が特徴の少女。

 佐藤ミライ。ミソラの妹で、ダイゴとも旧知の仲である。

「もうミライったら、買い物にどれだけ時間がかかっているの?」

「ミライさんのことだから、どこかに寄り道でもしていたのではないでしょうか?」

 注意を促すミソラと、からかってくるマリ。

「も〜、マリちゃんまで〜・・・」

 するとミライが気落ちして頭が上がらなくなる。

「ミライ、ちょっとこの子の入浴に付き添ってほしいんだけど・・」

「えっ・・?」

 ミソラにアテナを任せられて、ミライが一瞬当惑した。

 

 それからアテナはミライに手伝ってもらい、入浴を進めた。そして彼女はウェイトレス服を試着する。

「うんうん。似合ってるよ〜♪かわいい、かわいい♪」

「そ、そうでしょうか・・少し動きづらいです・・・」

 喜びを見せるミライに、アテナが頬を赤らめる。そこへマリとミソラが顔を見せてきた。

「へぇ。すっかりきれいになったね・・」

 ミソラが褒めると、アテナがようやく笑みをこぼした。ダイゴも彼女たちの前に顔を出してきた。

「ちゃんと着られたみてぇだな。何か引っ張られてる感があったから、気になってたんだけどな・・」

「ちょっと・・私を子供扱いしないでください・・」

 ダイゴが悪ぶった態度を見せると、アテナが不満を見せてきた。

「そうやって悪い態度を見せていると、女性に嫌われますよ。男は親切でないと・・」

「それはひと昔前の話だろうが・・そういう解釈は、今の世の中じゃ受け入れられねぇよ・・」

 注意を投げかけるアテナだが、ダイゴが態度を変えずに言葉を返す。彼はすぐさま彼女たちの前から去っていった。

「もうダイゴくんったら、相変わらず・・・」

 ダイゴの態度にミソラが肩を落とす。一方でマリとミライは苦笑いを見せていた。

 

 その日の仕事が終わり、ダイゴは1人通りを歩いていた。彼はアテナの言動が頭から離れなくなっていた。

(今はマジで受け入れられねぇんだよ・・逆らわねぇと何も変わらねぇ・・・)

 アテナの言葉を必死に否定しようとするダイゴ。

 そのとき、ダイゴは奇妙な感覚を感じて足を止める。

「この感じ・・まさか・・・!」

 ダイゴが気配の感じたほうに向かって駆け出していく。疾走していく中、彼は別の気配を感じ取っていた。

「2つ・・もしかして同士討ちか・・・!?

 意識を集中したダイゴの頬に紋様が走る。彼はデーモンガルヴォルスに変身して、さらに加速する。

 人のいない廃工場にやってきたダイゴ。中で響く物音を耳にして、彼は周囲を見回していく。

 そのとき、ダイゴの眼前の壁から、犬の姿に似たドッグガルヴォルスが飛び出してきた。

「ガルヴォルス・・!」

 ドッグガルヴォルスの出現に、ダイゴが目を見開く。続けて姿を見せたのはサキュバスガルヴォルスだった。

「おめぇは・・・!」

「あのガルヴォルス・・また現れたのか・・・!」

 緊迫を覚えるダイゴに、サキュバスガルヴォルスが目つきを鋭くする。

「私はガルヴォルスを許さない・・・全員仕留める・・・!」

 狙いをダイゴに変えて、サキュバスガルヴォルスが飛びかかっていった。

 

 

次回

第3話「揺るがぬ決心」

 

「私を・・女として見ていないんですね・・・」

「女だからって優遇されてるのが気に入らねぇんだよ・・・」

「全然筋があるわよ。誰かさんと違って・・」

「お前を金に変えてやるよ・・・!」

「私の両親は、ガルヴォルスに殺されたの・・・」

 

 

作品集

 

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