ガルヴォルスX 第23話「欲情と野心」
政治家は屈服し、自衛隊は全滅を被った。こうしてシュウは日本を掌握するに至った。
シュウの存在は全世界に知れ渡ることになった。彼の脅威の力は、人間だけでなくガルヴォルスをも畏怖させることになった。
日本を救おうと各国が討議を重ねた。だがシュウの力を痛感して、行動を起こすことができないでいた。
シュウの支配が世界や人々を脅かしていた。
国会議事堂を自分の新しい玉座にして、シュウは満足げに振る舞っていた。政治家たちは完全に彼の言いなりになっていた。
「ついに・・ついにオレの支配が達成されたぞ・・・!」
シュウが支配欲をむき出しにして、笑みをこぼしていく。
「世界の全てがオレを恐れ、ひざまずいている・・全てがオレの思い通りとなっている・・・!」
自分が世界を支配していることを実感して、シュウが喜びを募らせていく。
「全てはオレのために存在しているのだ・・逆らうものは排除されるのみ・・・」
シュウは立ち上がり、議事堂の外へと向かう。
「ネット管理は徹底しておけ。顔も名前も知られないのをいいことに勝手なことをする者がいるからな。」
「分かりました。」
シュウの命令に議員の1人が答える。シュウは外に出て、人々の様子をうかがっていく。
人々はシュウを目にすると、怯えて後ずさりしていく。何かすれば自分の命にかかわると、誰もが思っていた。
「そうだ・・これが支配・・支配者というものだ・・・」
世界も人間も全て自分が支配していることを実感していくシュウ。これ以上ないほどの優越感に浸りながら、彼は堂々と通りの道を進んでいった。
シュウの屋敷の中に取り残された健太、ひとみ、ユキ、そしてたくさんの女性たち。健太たちは静寂の中、じっと立ち尽くしていた。
心身ともにシュウに掌握されてしまった健太とひとみ。2人の心は絶望感で満ちたまま、互いとの抱擁を続けていた。
抱擁を交わし、触れ合ってぬくもりを感じていくことで、健太もひとみも自分を保とうとしていた。
「オ・・・オレ・・・オレは・・・」
健太が弱々しく声を上げる。彼は無意識に自分の意思を見せようとしていた。
ひとみに抱き着かれて、健太が小さく息をついていく。
「ひとみ・・・おめぇも・・・ホントは・・・」
ひとみの想いを感じ取り、健太が呟いていく。
「このままじゃいたくねぇってことか・・・おめぇも・・・」
シュウの支配の中にいたくないと、健太もひとみも心の底で思っていた。
「絶対に出てやる・・いつまでも、こんなことをやるつもりはねぇからな・・・」
健太の心の中には諦めない思いが残っていた。しかし彼も自我を失わないようにするので精一杯だった。
世界支配を達成させたシュウは、堂々と女性を自分の屋敷に連れ込めるようになっていた。
今までのように女性を石化して、恐怖する様を楽しみ、さらに石化後の心の中に入って、精神的にも弄び追い込んで喜んでいた。
「いいぞ・・またオレの支配が強まったぞ・・・!」
シュウが喜びを募らせて笑みをこぼしていく。
「もっと・・もっとオレの存在を思い知らせる・・オレに刃向かうものは、オレが支配者であることを思い知らせる・・・」
支配欲を募らせて、期待に胸を躍らせていくシュウ。
「オレの脅威となるものも存在しない・・オレの支配はもはや揺るぎないものとなっている・・・!」
健太を石化して屈服させたことを思い出し、シュウはさらに笑みをこぼす。
「仮にガルヴォルスがオレに刃向かおうとしても、同様に思い知らせればいいだけのこと・・・」
ガルヴォルスが反旗を翻してくることも想定しても、シュウは笑みを消さない。
そのとき、シュウは屋敷の中に誰かがいることに気付いた。
「うじ虫が屋敷に忍び込んできたか・・」
シュウが笑みを消して、部屋から出て廊下を進んでいく。彼は音を立てずに前進し、侵入者へと近づく。
そして屋敷の前で、シュウは侵入者、ラットガルヴォルスの前に回り込んできた。
「見た目も行動もまさにネズミだな。だが気付かないオレではないぞ。」
シュウがラットガルヴォルスに不敵な笑みを見せる。
「くっ・・ようやくお前のエゴを暴いたんだ・・既に送信は済ませた・・これでお前はおしまい・・・!」
「それがどうした?」
自分の目的を果たしたことを口にするラットガルヴォルスだが、シュウは強気な態度を崩さない。
「たとえ知られたところで、オレの支配は揺るがない。反発しようものなら、オレは処罰してやるのみだ。貴様のようにな・・」
シュウが目を見開くと、地面から影が伸びてラットガルヴォルスを貫いた。
「がはっ!」
ラットガルヴォルスが鮮血をあふれさせて倒れる。血にまみれた彼は、体を崩壊させて消滅していった。
「勝手なマネをすれば死ぬしかない。たとえ世界の全ての生き物が全てそれを起こしてもだ。」
自分の支配が絶対であると確信しているシュウ。彼は状況を把握するため、屋敷から離れていった。
シュウが女性たちを石化していたことは、人々には知られていた。しかし人々はそれを利用してシュウを追い込もうとは思わなかった。
刃向かえば全員死ぬだけだということを、誰もが思っていたのである。
「フン。どいつもこいつも命が惜しいということだな。これを機にオレに刃向かおうとしても、それは勇気ではなく無謀、自殺志願にしかならないからな。」
人々が自分の支配を受けていること自覚していると思い、シュウが笑みをこぼす。
「これが支配・・オレが支配者である証明だ・・オレの思い通りにならないことは何もない・・・」
また支配者となっていることを自覚して、シュウが喜びを募らせる。
「世界もオレに対して何もしてこない。何か企んでいるとしても、それは全てムダに終わることになる。」
世界の各国さえも自分に逆らおうとはしない。逆らっても返り討ちにするだけ。シュウはその考えを変えない。
「このまま・・このままオレの支配が続いていく・・すばらしい・・実にすばらしいことだ・・・!」
支配欲をむき出しにして、シュウは堂々と道を歩いていく。人も車も彼を完全に避けていた。
心の中でのひとみとの抱擁を続けていた健太。彼は心の奥で、支配に抗おうとする意思を募らせていた。
「オレは・・・オレは・・こんなところで・・・」
ひとみとの触れ合いを続けながら、健太は声を振り絞っていた。彼はシュウに逆らおうとする意思を強めようと、必死になっていた。
「ここから抜け出る・・オレは・・・アイツなんかに・・・!」
健太は自分に言い聞かせて、徐々に自我を取り戻していく。彼は自分の意思で、すがりついてきているひとみを抱きしめる。
「ひとみ・・しっかりしろ、ひとみ・・・!」
健太が呼びかけるが、ひとみは自我を取り戻さない。
「ひとみ、おめぇはこんなとこでおとなしくしてていいのかよ!?おめぇだって、こんなの納得してねぇはずだろ!」
健太が声を張り上げて、ひとみに呼びかける。彼に強く抱きしめられたことで、ひとみはようやく我に返った。
「ぼ・・僕・・・健太・・・」
記憶を思い返しながら、ひとみが健太と目を合わせる。
「ひとみ・・やっと気が付いたか・・・」
「僕・・僕たち・・・あの人に、無理やり・・・」
健太が安堵を見せて、ひとみがシュウにされたことを思い出して、体を震わせる。
「僕たち・・アイツの前じゃ何もできなかった・・アイツの好きなようにされて・・・僕・・僕・・・!」
「バカなことぬかすな。あんなムチャクチャなので気に病むことはねぇよ・・」
声も震わせるひとみに、健太が歯がゆさを見せて言いかける。
「そうだ・・オレが求めてたのは、こんな形の愛じゃねぇ・・・」
「健太・・・」
さらに抱きしめてくる健太に、ひとみが戸惑いを募らせる。
「オレはアイツとは違う・・相手のことをまるっきり無視して、オレのことを見せつけるようなことはしねぇ・・・」
自分の意思を噛みしめていく健太が、シュウへの反発を募らせていく。
「このままでいるつもりは全くねぇ・・必ず元に戻って、今度こそアイツを・・・!」
「でもどうやって・・健太も力が使えないのに・・・」
「だからってこのままでいるなんてまっぴらゴメンだ・・何が何でも元に戻ってやる・・それに力が必要なら、無理やりにでも引き出してやる・・・!」
困惑しているひとみに、健太が自分の意思を貫こうとする。
「オレは金城健太!世界中のかわい子ちゃんやきれいなお姉さんのハートをつかむ男だ!」
健太が自分の意思を見せつけて、全身に力を込める。彼は無理やりにでも力を出して、石化を打ち破ろうとしていた。
「さっさとオレたちを解放しやがれってんだ!」
ひたすら声を張り上げて力を込める健太。だが石化が解かれることも力が出ることもない。
「健太・・やっぱり僕も、健太みたいな力を・・・」
ひとみが健太を助けたいと思い、力を求める。
「そんなことをしなくていいって・・オレの力で、アイツをブッ倒さねぇと、意味がねぇんだ・・・!」
「そんな意地張ってる場合じゃ・・・!」
「その意地が大事なんだよ・・アイツの場合は、思いっきり思い知らせてやらねぇと、全然効果がねぇ・・・!」
さらに困惑するひとみに対して、健太は意固地になっていた。その意固地が彼らしくさせていると、ひとみは思っていた。
「だったらなおさら、健太が何とかしないとね・・」
「あぁ。もちろんだ・・!」
ひとみが念を押すと、健太が笑みを見えて頷いた。
「健太・・ユキちゃん・・・」
そこへ声がかかり、健太とひとみが振り向く。2人の前に現れたのはユキだった。
「ユキちゃん・・!?」
「ユキ・・大丈夫なのか・・・!?」
ひとみと健太がユキに対して驚きを見せる。
「うん・・アイツにムチャクチャにされちゃって辛いけど・・今は何とか自分を保ってる・・・」
「ユキちゃん・・・僕のために・・・」
自分の心境を口にするユキに、ひとみが辛さを見せる。
「気にしなくていいって。あたしはひとみちゃんを助けられてよかったって思ってるんだから・・」
ユキが照れ笑いを見せて、ひとみを励ます。
「あたしだって、健太とひとみちゃんに思いを届けることができた・・健太なら、必ずこの状況から抜け出せるよ・・」
「ユキ・・ありがとうな。オレを信じてくれて・・」
ユキが続けて励ましの言葉を投げかけて、健太が笑みを見せた。
「アイツでもオレは止められねぇ!今のでさらにオレを止められなくなったぜ!」
健太が意気込みを見せて、再び全身に力を込める。ひとみとユキが彼の背中に手を当てる。
「オレたちはこっから出てやるんだよー!」
自身の感情を一気に吐き出す健太。ひとみもユキも彼に思いを込めていた。
そのとき、健太は心の中に一筋の光がきらめいたのを目撃した。
「あれは・・・!」
健太は手を伸ばすように、光に向かって意識を傾けた。すると光は徐々に強まっていく。
「この光・・これがオレたちの、希望の光ってヤツか・・・!」
健太はさらに意識を傾ける。ついに光が健太たちの心全体に広がった。
石化して立ち尽くしたままの健太とひとみ。彼らの石の体のひび割れが再び広がった。
さらに2人の体から石の殻が剥がれ落ちていく。中から白い光があふれ出てくる。
石の殻が完全に剥がれ落ちて、健太とひとみが石化から解放された。
「あっ・・・!」
「やった・・元に戻れたぞ・・・!」
ひとみが戸惑いを見せて、健太が石から戻れたことを実感する。
「力が戻ってる・・しっかり感じ取れるぞ・・・!」
健太が自分の手を見て、握ったり開いたりしてみせる。
「健太、ユキちゃんも・・!」
ひとみの声を聞いて、健太が振り向く。ユキも同様に石化が解けていた。
「健太・・ひとみちゃん・・・よかった〜・・元に戻ったよ〜・・」
ユキが健太とひとみに笑顔を見せるが、直後にふらついて倒れそうになる。
「ユキちゃん!」
ひとみが慌てて駆け寄って、ユキを支える。
「ユキちゃん、大丈夫!?」
「う、うん、大丈夫・・ちょっと疲れちゃったかな・・アハハハ・・」
心配の声をかけるひとみに、ユキが答えて照れ笑いを見せる。
「ユキ、おめぇも力を貸してくれたんだな・・・」
健太もユキに声をかけて、笑みをこぼしてきた。
「あたしは何も・・健太がいなかったら、何もできなかったよ・・・」
するとユキが照れ隠しな素振りを見せて答える。健太は頷いてから、部屋の扉に目を向ける。
「ここからが反撃だ・・シュウのヤローをブッ飛ばしてやる・・・!」
健太がシュウへの怒りを募らせて、手を握りしめる。
「ひとみとユキはここを出たら寮にでも隠れてろ。オレは1人でアイツをブッ倒す・・!」
彼はひとみとユキに真剣に呼びかける。
「健太・・僕も一緒に行く・・健太が勝つのを見守るよ・・・!」
するとひとみが健太と一緒に行こうとする。が、健太が首を横に振る。
「2人は来るな。アイツのことだから、また人質とかの卑怯なことをしてくるぞ。」
「それは、分かってるけど・・・」
健太から言われて、ひとみは言葉を詰まらせる。
「心配すんな。もうフラッとどっかに行ったりしねぇ。終わらせたらすぐにそっちへ戻ってくるって。」
「健太・・・」
気さくな笑みを見せる健太に、ひとみは戸惑いを感じていく。
「ユキ、ひとみを頼むぜ・・」
「うん!任せて!」
健太が声をかけて、ユキが意気込みを見せて答えた。
頷く健太の頬に紋様が走る。彼がシャドーガルヴォルスとなって、部屋を飛び出した。
「健太・・・ひとみちゃん、あたしたちも行こう・・」
「ユキちゃん・・・うん・・・」
ユキに呼びかけられて、ひとみが小さく頷いた。
(健太・・必ず戻ってきてよね・・・)
健太が無事に戻ることを祈って、ひとみもユキと一緒に部屋を後にした。
街をひと回りしてきたシュウは、国会議事堂に戻ってきた。彼は改めて、国や世界が自分の支配下にあることを実感した。
「全てがオレのもの・・オレは全ての支配者となったのだ・・・!」
シュウが喜びを膨らませて、高らかに笑い声を上げる。
「オレに従わないもの、逆らうものは何であろうと始末する・・それだけのこと・・・!」
全てが自分の思い通りであると確信しているシュウが、両手を強く握りしめる。
「人間もガルヴォルスも、何であろうとオレに逆らうことはできないのだ!」
「そいつはどうかな!」
さらに笑い声をあげていたところで声をかけられ、シュウが笑みを消す。聞き覚えのある声に、彼は耳を疑った。
シュウの前に健太が現れた。
「貴様!?金城健太!?」
健太の出現にシュウが驚愕をあらわにする。
「なぜだ!?なぜ貴様がここにいる!?貴様たちはオレが・・!」
「オレたちはおめぇなんかの思い通りにならねぇ・・どんなことにも屈したりはしねぇ・・!」
声を荒げるシュウに、健太が不敵な笑みを見せる。
「オレはひとみのためなら、どんなことだってやり通す男だ!だからおめぇには絶対に負けねぇよ!」
健太が言い放ち、シュウに立ち向かっていった。
次回
「2度と逆らえないように、徹底的に屈服させてやる!」
「おめぇのようなヤツには、何も思い通りにはできねぇ!」
「健太・・・」
「ひとみがいる限り、オレは絶対無敵なんだよ!」