ガルヴォルスX 第19話「掌握」
寮の自分の部屋で、窓越しに外を眺めていたユキ。ため息をつく彼女は、健太とひとみが帰ってきたのを目にした。
「健太、ひとみちゃん・・おかえりー♪」
ユキが声をかけると、健太とひとみが振り向いて笑みを見せてきた。
(健太、ひとみちゃん・・すっかり仲よしだね・・)
2人の仲と自分の思いを照らし合わせて、ユキが表情を曇らせる。彼女はその自分の表情を健太とひとみに見られなかった。
(あたしは2人が幸せになるのを願うだけだよ・・もう2人はしっかり結ばれてるんだから・・・)
部屋の中を歩き回って、ユキは胸に手を当てて自分に言い聞かせていく。
(今はあたしがサポートしてあげないと、まだまだ大変だからね・・)
健太とひとみを助けたいという気持ちを膨らませていくユキ。彼女は気分を切り替えようとして、体を動かしながら部屋を出た。
その翌日、大学の講義を終えたひとみ。彼女は健太のことを考えながら大学を出る。
「ひとみちゃーん♪こっち、こっちー♪」
大学の門を通ったところで、ひとみが声をかけられる。彼女が振り向いた先で、ユキが大きく手を振ってきていた。
「ユキちゃん・・・」
笑顔を見せるユキに、ひとみが戸惑いを覚える。ユキが軽い足取りで彼女に駆け寄ってきた。
「エヘヘ・・待っててよかったよ〜♪」
「ユキちゃん・・僕を待っててどうしたの?」
「一緒に帰ろうと思ってね。それと、ひとみちゃんと一緒にお買い物とか♪」
「お買い物かぁ・・女だけの買い物はしばらくやってないね・・」
ユキから誘いを受けてひとみが呟く。
「いったん寮に帰ろう。着替えてからお出かけしよう。」
「ありがとうね、ひとみちゃん♪うん、そうしよう♪」
ひとみが笑みを見せて答えると、ユキが笑顔で頷いた。2人は1度寮に戻って、着替えてから買い物に繰り出した。
「でも、急にどうしたの?買い物自体は僕も嬉しいけど・・」
「うん。急だけど、ひとみちゃんと一緒に行きたくなっちゃって・・たまにはいいかなって・・エヘヘ・・」
ひとみが疑問を投げかけると、ユキが照れ笑いを見せて答える。
「まぁ、いいか・・それじゃ、街に行くとしますか。」
ひとみがユキと一緒に頷き合う。2人はにぎやかな街に足を踏み入れた。
「街は何度来てもいいね。ワクワクドキドキだよ♪」
「この街の中で、健太は女の子を追いかけ回してるんだよね・・」
喜びを見せるユキの隣で、ひとみが健太のことを思い出してため息をつく。
「それが健太なんだよね。エヘヘ・・」
「もう、ユキちゃん、そんな悠長な・・」
笑顔を絶やさない前向きなユキに、ひとみがさらに呆れる。
「でも、僕はそんな健太とつながってるんだよね・・」
「ひとみちゃん・・・」
ひとみの言葉を聞いて、ユキも戸惑いを感じていく。
「でも、僕は健太に何をしてやればいいんだろう・・・」
ひとみが健太への思いと自分の無力さを痛感して、表情を曇らせる
「健太にもユキちゃんにも力があるけど、僕にはそこまでの力はない・・怪物と出くわしても、僕にはどうしようもない・・・」
「ひとみちゃん・・・」
「僕にできることは、何もないのかも・・・」
落ち込んでいくひとみの気持ちを察するユキ。彼女がひとみの両手を優しく握ってきた。
「ユ、ユキちゃん・・・!?」
「大丈夫だよ、ひとみちゃん。ひとみちゃんは、きちんと健太を支えてるよ。」
いきなり手を握られて動揺を見せるひとみに、ユキが切実に呼びかけていく。
「今の健太はひとみちゃんに心を寄せているよ。健太もひとみちゃんも、お互いエッチして気分がよくなってるよね・・」
「ち、ちょっと、ユキちゃん!こんなところでそんなこと、堂々と言わなくたって・・!」
語りかけるユキにひとみがさらに動揺する。
「だから、ひとみちゃんがそばにいるだけで、健太の力になるんだよ。」
「そういうものなのかな・・でもやっぱり、僕にできることは・・・」
ユキが励ましても、ひとみは悩みを深めていく。
「健太を守ることなんて、僕にはとても・・・」
「ひとみちゃん・・・だったら、健太の支えになってるひとみちゃんを、あたしが守るよ。」
「えっ・・・?」
ユキが笑みを見せて口にした言葉に、ひとみは戸惑いを見せる。
「あたしが健太だけじゃなくて、ひとみちゃんも守る。そのためにあたしはこの力を使うよ。」
「ユキちゃん・・そこまで僕のために・・・」
支えてくれるユキに、ひとみの心は揺れる。
「ひとみちゃんはあたしが守るから、ひとみちゃんは健太のことをよろしくお願いね♪」
「ユキちゃん・・・ありがとう・・ありがとうね・・・」
笑顔で思いを口にするユキに、ひとみも笑みを見せて感謝した。
「さーて、いろいろ見て回っちゃうよー♪」
「その後にどこかで軽く食べていこう。僕がおごるから。」
「いいの?エヘヘ、ありがとうね、ひとみちゃん♪」
「ユキちゃんへの感謝の気持ちだよ。でもその前に、何か掘り出し物はあるかな?」
ユキとひとみが買い物へと乗り出して、街の中を駆けていった。
買い物に繰り出したひとみとユキだが、いいものを見つけられず、結局軽く食事をして帰ることになった。街から離れたところで、ユキが声をかけた。
「今度はいいものが見つかるよね・・今度は必ず見つけ出してみせるよー♪」
「ユキちゃん、元気が有り余ってるね。それが健太みたいに、みんなに迷惑かけない形で出ればいいけどね。」
明るく振る舞うユキに、ひとみが苦笑いを見せる。
「エヘヘ。いつものひとみちゃんにすっかり戻ったね。」
「えっ?いつものって・・・」
笑みを見せるユキに、ひとみが戸惑いを見せる。
「健太のことを考えて躍起になってる。ひとみちゃんはそうでないとね♪」
「もう、ユキちゃんったら・・」
励ますユキだが、ひとみは励まされているのかよく分からない気分を感じて苦笑いを見せる。
「健太はどうしてるかな。ちゃんと戻ってきて、おとなしくしてればいいけど・・」
「健太相手じゃ敵わない願いだね。アハハ・・」
健太について屈託のない会話を交わすひとみとユキ。健太との絆で、2人は互いの友情も深めていた。
人気のない通りに来たところで、ユキが突然足を止めた。
「ユキちゃん?・・どうしたの・・・?」
ひとみが声をかけるが、ユキは周りに注意を向けていく。
「強い気配を感じる・・あの士蓮って人ぐらいの・・・!」
ユキが口にした言葉を聞いて、ひとみも緊張を覚える。
「オレの気配を感じ取るとは、なかなかのようだな。」
ひとみとユキの前に現れたのはシュウだった。彼は2人に不敵な笑みを見せていた。
「あなたは誰!?ガルヴォルスなの!?」
「そうだ。オレは鳥尾シュウ。全てを支配する男だ。」
問いかけるユキに、シュウが名乗りを上げる。
「全てを支配する!?あまりにふざけすぎだって!」
「威勢のいい小娘だ。だがこれは真実だ。オレ自身の力がそうさせるのだ。」
声を荒げるひとみに、シュウは強気に言いかける。
「オレと一緒に来てもらうぞ。オレが金城健太を倒すためにな。」
「健太を!?冗談じゃないって!あなたの思い通りにならないよ!」
手を差し伸べてくるシュウにユキが言い返す。するとシュウが顔から笑みを消す。
「オレの思い通りにならないものはない。貴様たちに拒否する権利はない。」
シュウは言いかけて、ひとみとユキを狙って迫る。
「ひとみちゃん、健太のところへ行って・・あたしが食い止めるから・・・!」
ユキが真剣な面持ちでひとみに呼びかけてきた。
「ユキちゃん・・でも、それじゃユキちゃんが・・・!」
「ひとみちゃんに何かあったら、それこそ健太は気が気でなくなるよ!だから早く逃げて!」
当惑するひとみにユキが呼びかける。彼女はひとみと健太を守ろうと必死になっていた。
「オレがそんなことを許すつもりはない。貴様たちはオレに利用されるのだ。」
シュウが目を見開いて手を伸ばす。ユキがローズガルヴォルスになって、白いバラの花びらを舞い上がらせて、シュウの視界をさえぎる。
「今だよ、ひとみちゃん!行って!」
「ユキちゃん!」
叫ぶユキに突き動かされて、ひとみは駆け出していった。
「逃がしはしないぞ。」
シュウがひとみを追おうとするが、ユキが行く手を阻む。
「ここから先へは行かせない!健太とひとみちゃんは、あたしが守る!」
「小娘・・こんなマネをして、ただでは済まないぞ・・・!」
言い放つユキにシュウがいら立ちを見せる。
「思い知らせてやるぞ・・このオレの、闇の支配を・・!」
笑みを見せるシュウがダークガルヴォルスへと変貌を遂げる。彼は影を伸ばしてユキを狙う。
「影を使って・・!?」
ユキが慌てて動いて、シュウの影をかわしていく。彼女はシュウに詰め寄り、右手を出して彼の体を叩いた。
「どうした?この程度か?」
シュウはユキに不敵な笑みを見せて、平然とする。彼が伸ばした影の触手が、ユキの手足を縛って捕まえる。
「し、しまった!」
声を荒げるユキがもがくが、影を振り切ることができない。
「こうなったら・・!」
ユキがバラの花びらを放ち、シュウを切りつけようとした。しかしシュウは体から衝撃波を出して、花びらを吹き飛ばす。
「えっ・・!?」
「こんな小賢しいマネ、オレに通じると思っていたか!」
驚愕の声を上げるユキに、シュウが高らかに言い放つ。
「最初は連れ込んでからにするつもりだったが、今やらなければ気が治まらなくなった・・思い知らせてやるぞ・・オレの支配というものをな!」
シュウが言い放ち、影から黒い球を放った。球はユキに当たって、彼女の体に入り込んだ。
次の瞬間、ユキの姿がガルヴォルスから人へと戻った。
「何、コレ!?・・ちょっとあなた、あたしに何をしたの!?」
「フフフフフ。これで貴様はオレのもの。貴様はオレの思い通りとなるのだ。」
驚愕を募らせる声を荒げるユキに、シュウが勝ち誇り笑い声を上げる。
ピキッ ピキッ ピキッ
そのとき、ユキが来ていた服が突然破れだした。あらわになった彼女の体が白く固くなり、ところどころにヒビが入っていた。
「な・・何、コレ!?」
自分の体の異変にユキが驚愕する。固まった左腕、左胸、お尻、下腹部は彼女の思うように動かなくなっていた。
「オレのものになった貴様は、オレに全てをさらけ出さなければならない。体も心もな。」
「ちょっと・・あたしに何をしたの!?」
「貴様の体は石になっている。この形で、貴様たちを支配していくということだ。」
声を荒げるユキにシュウが語りかける。
「屈服していく貴様たちを眺めていられる。弄べる。そして美しくなった貴様たちを堪能できる。これがオレが貴様たちを支配していることになる。」
「冗談じゃない!こんなのであたしも健太たちも、あなたの思い通りになんてならない!」
あざ笑ってくるシュウに、ユキが感情をあらわにして言い放つ。
ピキッ パキッ パキッ
ユキにかけられた石化が進行する。石化は彼女の右胸や膝の先まで及ぶ。
「石化の進行はオレの思うがままだ。一気にオブジェにすることも、石化と支配をじっくりと味わわせることもできるのだ。」
シュウが石化して身動きが取れないユキを見て、高らかに笑う。
「オレに今ここでひざまずけ!そうすれば元に戻してやらないこともないぞ?」
シュウがユキに近づいて見下してくる。するとユキが鋭い視線を向けてきた。
「言ったはずだよ・・あたしたちは、あなたの思い通りにはならないって!」
曲がらない周年を見せつけるユキに、シュウが憤りを募らせる。
パキッ ピキッ
石化がユキの右手と両足の先まで及んで、頬や髪も固めていく。体の自由が利かなくなり、彼女は力も入れられなくなる。
「健太・・ひとみちゃん・・・無事で・・無事でいて・・・」
ユキが声を振り絞って、健太とひとみへの思いを口にする。
ピキッ パキッ
唇さえも石に変わり、声を出すこともできなくなるユキ。ただただシュウが嘲笑するのを見つめることしかできなくなる。
フッ
瞳も石に変わり、目にあふれていた涙が流れ落ちる。ユキは完全に石化に包まれた。
「いいぞ、いいぞ・・また1人、オレの支配に屈したぞ!」
一糸まとわぬ姿で微動だにしなくなったユキを見て、シュウが高らかに笑い声を上げる。
「さて、さらに屈辱を与えるためにここに置き去りにしてもいいのだが・・」
シュウがユキをじっと見つめてあざ笑っていく。彼は彼女の心の内にも探りを入れていく。
しかしそのとき、シュウの顔から突然笑みが消えた。
「コイツ・・まだ諦めていない・・・!?」
ユキの心境を悟り、シュウが憤りを覚える。ユキの心にはまだ、健太とひとみへの思いが残っていた。
「あの2人のことばかり・・オブジェにされても、アイツらのことばかりを考え続けているとは・・・!」
ユキが完全に自分に支配されていないことに、シュウがいら立ちを募らせていく。
「ここで置き去りにしても、無意味どころか逆効果だろう。ならばオレの元へ連れ込み、徹底的に思い知らせるまでだ。」
シュウは笑みを取り戻すと、ユキを抱える。足元の影が濃く広がり、彼がユキとともに影の中に入っていく。
全裸の石像にされたユキは、シュウに連れていかれてしまった。
ユキに助けられてシュウから逃げ延びたひとみ。ユキを心配しながら、ひとみは寮まで戻ってきた。
寮の入り口の前で呼吸を整えていたところで、ひとみは帰ってきた健太を目にした。
「健太!」
ひとみは声を張り上げて、健太に駆け寄った。
「何だよ、ひとみ?えらく血相変えて・・」
健太がひとみの様子を見て、緊張を覚える。呼吸が整わず、ひとみはすぐに答えられないでいる。
「おい・・ユキは?・・ユキはどうしたんだ・・・!?」
健太が問い詰めると、ひとみが目から涙をあふれさせてきた。
「ユキちゃんが・・・僕を逃がそうとして、1人残って・・・!」
ひとみが声を振り絞って事情を話す。彼女の話を聞いて、健太はユキに何かあったことを察する。
「それで、ユキはどこに・・・!?」
「街外れの通り・・その真ん中で、自信過剰な男の人に・・・きっと、怪物だと思う・・・!」
「行ってくる・・ひとみはここにいろ・・・!」
状況を理解した健太が、ひとみに呼びかけて寮から飛び出そうとした。
「ううん・・僕も行く・・・!」
するとひとみが健太を呼び止めてきた。
「けどひとみ、おめぇが危ないことに・・・!」
「ユキちゃんを僕を守ろうとした!このままおとなしくしてるなんてできない!」
言いかける健太だが、ユキは引き下がろうとしない。
「ひとみ・・・オレから絶対に離れるなよ!」
「健太・・・ありがとう・・・!」
聞き入れた健太にひとみが微笑んだ。2人はユキを助けに寮を飛び出した。
次回
「思い知らせてやるぞ・・オレに逆らうことはできないと・・」
「これが、支配というものだ!」
「ユキちゃんが・・僕のために・・・!」
「おめぇなんかに絶対に屈しねぇ・・!」
「オレが徹底的にブッ倒してやる!」