ガルヴォルスX 第18話「狙われた2人」
寮の自分の部屋。健太はベッドに横になって、シュウのことを考えていた。
(自分の考えを押し付けてくるヤツがまた出てきたな。それも士蓮以上に、目的のためには手段を選びそうにねぇな・・)
健太がシュウのことを考えて、ため息をつく。
(アイツの好き勝手にさせるか・・オレの好きなヤツに手を出させるかよ・・・!)
シュウに対する怒りを感じていく健太。彼はシュウが世界全体を危険にさらしてくると思っていた。
(そうだ・・アイツに・・ひとみに手を出させるか・・・)
健太はいつしかひとみのことも考えるようになっていた。
次の日の朝、健太はいつものように体を動かして元気に振る舞う。
「今日もいい天気だな。いい気分になれそうだ。」
健太が背伸びをして部屋を出る。寮をこっそり抜け出そうとした彼だが、外に出た先にひとみがいた。
「こっそり抜け出そうとするのは分かってるんだからね。」
「ひとみ・・」
腕組みをして言いかけるひとみに、健太が肩を落とす。
「出かけるなら僕も一緒に行くよ。ハレンチなことをしないように見張っておかないと。」
「すっかり見抜かれてるって感じか・・参っちまうな、まったく・・」
頷いていくひとみに健太が頭を抱える。彼はひとみと一緒に外に出かけることになった。
「買い物はしねぇぞ。ホントに散歩のつもりなんだから・・」
「もう、男なのに心が狭いんだから・・」
「いつも追っかけまわしてくる上に、おごらされたんじゃたまんないって・・他のかわい子ちゃんだったら大歓迎だけどな〜♪」
「この浮気者!」
上機嫌に振る舞う健太に、ひとみがふくれっ面を見せる。それを見て健太が笑みをこぼす。
「気分がいいなぁ・・清々しいってヤツか・・」
「健太の口から清々しいなんて言葉が出るなんて・・明日は雨かな・・」
健太の呟きを受けて、ひとみがからかう。
「けど、そんな気分をぶち壊そうとしてくるヤツがまだいる・・」
健太が笑みを消して、ひとみに話を打ち明けてきた。
「またふざけたヤツが出てきたぞ・・士蓮以上に自己中心的なヤツが・・」
「もしかして、また怪物が・・・!?」
「あぁ・・アイツは体も心もバケモンだ。ブッ飛ばしてやらねぇとな・・」
ひとみが不安を覚えるそばで、健太がシュウへの憤りを見せる。
「また・・とんでもないことに巻き込まれる気がする・・あの士蓮って人も、人を思うように利用しようとしていたから・・」
自分たちの目的のためにどんな手段も使ってきた士蓮を思い出し、ひとみが不安を膨らませていく。すると健太が彼女に気さくな笑みを見せてきた。
「心配することはねぇぜ、ひとみ。今度出てきたら、必ずブッ倒してやるぜ!」
「健太・・・」
健太の意気込みを目の当たりにして、ひとみが戸惑いを見せる。
「だから心配することはねぇ!大船に乗ったつもりでいろよ!」
「健太の場合だと泥船にしか思えないけどね・・」
「甘く見るなって!オレだったら泥船でも向こう岸まで渡りついてやるぜ!」
「健太・・ホント呆れ果てるしかないよ・・」
前向きな健太にひとみは呆れてばかりだった。
人気のない地下道を駆けていく1人の少女。彼女の後を1人の少年が追いかけてきた。
「鬼ごっこは好きじゃないんだけどね・・」
少年が少女を見つめて優しく微笑む。
「これからはお人形ごっこの時間だよ・・」
少年の姿が木の人形のような怪物に変わった。
「イ、イヤアッ!」
悲鳴を上げる少女に詰め寄って、怪物、ドールガルヴォルスが両手でつかんできた。その両手から黒い光が出て、少女の体を包み込んだ。
少女の体がだんだんと小さくなっていく。動かなくなった彼女は、体が人形と化してしまった。
「これでまた増えたね・・僕のお人形さん・・・」
ドールガルヴォルスが少年に戻って、少女を拾って見つめる。
「これで仲良く、いつまでも一緒にいられるね・・・」
少年がもう1つの人形を取り出す。今人形にした少女の友達で、彼女が逃げ出す前に人形にしていた。
「みんな僕のお友達になる・・みんなが楽しくなって、僕も嬉しくなる・・・」
少年は人形になった少女たちを抱えて、楽しそうに歩いていく。
「次は誰が僕のお友達になるかな・・・」
次の標的を求めて、少年は胸を躍らせていた。
再び街に繰り出した健太。ひとみも彼についてきて、楽しげに振る舞っていた。
「ゲーセンにでも寄ってみるかな。何かあるかもな。」
「もしかしてまた、女の子を狙って行こうとしてるんじゃ・・?」
「かわい子ちゃんを狙って何が悪い!」
「自信満々に言っても最低だよ・・」
意気込みを見せる健太に、ひとみが呆れて肩を落とす。2人は街中のゲームセンターに入った。
「せっかく来たんだから、クレーンゲームでもやってみるかな。」
ひとみがゲームセンターの中にあるクレーンゲームに目を向ける。
「男っぽい口調のひとみも、女の子ってことか。」
「それってどういう意味だよ、けんたー・・!」
気さくな笑みを見せる健太に、ひとみがふくれっ面を見せる。
「こうなったら、しっかりゲットしてやるんだから。」
ひとみが息巻いて、クレーンゲームに挑戦する。集中してクレーンを動かして、ぬいぐるみを狙っていく。
クレーンは狙ったぬいぐるみをつかんだ。が、穴まで運んでいく途中でぬいぐるみがクレーンから落ちてしまう。
「あっ!・・もう1回・・!」
ひとみが躍起になってクレーンゲームを続ける。しかしぬいぐるみを運びきることができない。
「う〜・・全然取れない〜・・・」
ひとみが落ち込んで、ついにクレーンゲームを諦めた。
「ムキになっちまって・・オレもやってみるか!」
彼女に触発されるように、健太もクレーンゲームをプレイする。しかし同じようにつかみあげては途中で落としてしまう、その繰り返しになってしまった。
「オレでもキャッチできないとは・・手ごわいゲームだな、こりゃ・・・」
健太がうまくいかなくて肩を落とす。
「健太でもダメか・・これはホントに手ごわいね・・」
ひとみも肩を落とすと、2人は顔を見合わせて笑みをこぼした。
「行くとするか。今日は日が悪い・・」
「そうだね・・エヘヘ・・」
健太とひとみは笑みをこぼして、ゲームセンターを後にした。
街中を歩いて気分転換をしていく健太とひとみ。ひとみが付いてきていることに、健太が半ば呆れていた。
「おいおい、まだついてくるのかよ・・これじゃ落ち着かないぜ・・」
「当然。健太が突っ走りすぎないように、僕がしっかり目を光らせとかないとね。」
肩を落とす健太に、ひとみが笑顔を見せて答える。
「もう僕と健太は、離れたくても離れられなくなってるから・・」
「ひとみ・・・」
自分の胸に手を当てるひとみに、健太が戸惑いを覚える。2人は自分たちが抱擁を交わしたことを思い出していた。
「これからもオレたちは一緒ってことだな・・それも、今まで以上に・・・」
「うん・・そうだね・・・」
健太が投げかけた言葉に、ひとみは微笑んで頷いた。
「今度はこの2人にしようかな・・」
道を歩いている途中で、健太とひとみが声をかけられた。足を止めた2人の前に1人の少年が現れた。
「何だ、坊主?迷子か?」
健太が少年に気さくに声をかける。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん・・僕とお友達になってよ・・・」
「お友達に?ねぇ・・僕たちじゃなくても、他のお友達がいると思うんだけど・・」
手を差し伸べてくる少年に、ひとみが苦笑いを見せて言葉を返す。
「ううん・・もっとお友達がほしいの・・・」
すると少年が首を横に振ってから、改めて手を差し伸べてきた。
「アハハ・・そういうことだったら、僕も・・・」
ひとみが照れ笑いを見せて、少年の手を取った。すると少年が妖しい笑みを浮かべてきた。
「これでお姉ちゃんも、僕のお友達・・・」
少年の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼の変化にひとみが緊迫を覚える。
少年がドールガルヴォルスに変化する。
「か、怪物!?」
ひとみがこの場を離れようとするが、ドールガルヴォルスの手を振り払うことができない。
「ひとみ!」
健太が駆け寄ろうとするが、ドールガルヴォルスの手から黒い光が出て、ひとみの体を包み込んだ。彼女の体が徐々に小さくなって動かなくなる。
「ひとみ・・!?」
健太が目を見開いて、人形にされたひとみを抱える。
「人形に・・おめぇ、ガルヴォルスかよ・・!」
「ガルヴォルス?何それ?・・でも、僕にはすごい力があるのは間違いないよ・・・」
鋭い視線を向ける健太に、ドールガルヴォルスが笑みをこぼしていく。
「お兄ちゃんもお友達になって、みんなと一緒に遊ぼうよ・・」
「悪いけどな、そういう悪い遊びに付き合ってやるつもりはねぇよ・・・!」
手招きしてくるドールガルヴォルスに言い返す健太。彼の頬にも紋様が走る。
「お兄ちゃんも、もしかして・・・!?」
シャドーガルヴォルスとなった健太に、ドールガルヴォルスが驚く。
「ひとみを元に戻せ!そうすりゃ許してやらねぇこともねぇ!」
「イヤだよ、そんなの・・せっかくお友達ができたんだから・・・」
怒鳴りかかる健太にドールガルヴォルスが不満を見せる。
「おめぇの作ってるのは友達じゃねぇ!人をおもちゃにして、友達だと思い込んでるだけだ!」
「いじわるなこと言わないで、お友達になってよ・・・!」
言い放つ健太に怒って、ドールガルヴォルスが飛びかかる。彼に捕まらないように、健太は後ろに動いて距離を取る。
「逃げないでよ・・お友達になってよ・・・!」
「つかんでこなきゃ人形にできねぇか・・だったら近づいてやるわけにいくかよ!」
文句を言ってくるドールガルヴォルスに、健太が言い返す。
「鬼ごっこは好きなじゃないんだけど・・・!」
ドールガルヴォルスが不満を膨らませて、速度を上げて健太に迫る。
「おっ!」
健太が不意を突かれて、ドールガルヴォルスの突撃を体に受ける。突き飛ばされた健太が、痛みを覚えて顔を歪める。
「コイツ・・スピードだけじゃなく、パワーもある・・・!」
後ろに下がっていく健太が、ドールガルヴォルスの強さに脅威を覚える。
「いじめるのも好きじゃないから、ちょっとじっとしててほしいよ・・・」
ドールガルヴォルスが言いかけて、健太に近づいていく。
「このままいいようにされてたまっかよ・・いくらガキでも、かわい子ちゃんに手を出すなら、容赦はしねぇぞ!」
いきり立った健太の体に変化が起こる。彼の体が刺々しいものとなり、力を増していく。
「すごい力・・怖くなってくる・・・!」
ドールガルヴォルスが健太の力を感じて、恐怖を覚えて後ずさりする。健太が両手を握りしめて、ドールガルヴォルスに近づいていく。
「もうオレは、手加減してる余裕はねぇ・・悪く思うなよ・・・!」
健太が鋭く言うと、ドールガルヴォルスに向かって駆け出す。
「そ、そんな感じで、僕に近づいてこないで・・・!」
ドールガルヴォルスが呼びかけるが、健太は歩みを止めない。
「う、うわあっ!」
悲鳴を上げたドールガルヴォルスがまた健太に突っ込んだ。しかし健太は前進が止まっただけで全く押されていない。
「そ、そんな・・・!?」
自分の力が通じなくて、ドールガルヴォルスが後ずさりする。健太が彼に鋭い視線を向ける。
「お仕置きの時間・・と言っとくとこだな・・・!」
健太が低く言うと拳を構える。ドールガルヴォルスの体に拳が強く叩きこまれる。
「うっ!」
ドールガルヴォルスが突き飛ばされて、転がって倒れる。殴られた痛みが全身を駆け巡り、ドールガルヴォルスが悶絶する。
「痛い・・痛いよ・・痛いよー・・・!」
ドールガルヴォルスが泣いて悲鳴を上げる。
「泣いて許してやれるほど、おめぇの悪さは浅くねぇんだよ・・!」
健太が近づいてきて、ドールガルヴォルスに拳を叩き込む。地面がめり込んで、ドールガルヴォルスが昏倒して事切れた。
崩壊を引き起こしたドールガルヴォルスを見て、健太が呼吸を整える。
「さっさと言うこと聞いときゃ、長生きできたってのに・・・」
力と欲望に溺れた少年に対し、健太は歯がゆさを感じていた。少年が命を閉ざしたことで、人形にされていたひとみが元に戻った。
「あ、あれ?・・僕、何が・・・?」
何があったのか分からず、ひとみが辺りを見回す。
「ひとみ・・元に戻ったか・・」
「健太・・そういえば、あの子がいきなり怪物に・・・」
人の姿に戻った健太が声をかけると、ひとみが状況を思い出す。
「心配すんな。オレがブッ飛ばしてやったぞ。」
「健太が・・・」
自信を見せて言いかける健太に、ひとみが戸惑いを見せる。
(結果的に、健太は僕を助けてくれたんだね・・・)
健太への感謝を感じて、ひとみは喜びと安らぎを募らせていた。
「まだガルヴォルスはどっかに潜んでる・・物騒な世の中が終わらねぇな・・・」
健太がガルヴォルスの暗躍が増していることを実感する。士蓮の部隊がガルヴォルスの犯行を抑制していたのだと、彼は考えていた。
「けど、オレは負けねぇ!どんなヤツが出てきても、オレがブッ飛ばしてやるぜ!」
「健太・・もう、すっかり調子乗っちゃってるんだから・・」
意気込みを見せる健太に、ひとみが思わず笑みをこぼした。
ドールガルヴォルスを倒した健太と、彼のそばにいるひとみ。2人の様子にシュウが目を向けていた。
(オレを追い詰めようとするヤツの力、ますます上がっているようだ。)
シュウが健太の実力を確かめて、警戒を抱く。
(ヤツを葬るためにヤツの弱みを突くべきだろう。真正面から挑んでやることはない。)
健太を倒すために策を弄するシュウ。彼は健太のそばにいるひとみに視線を移す。
(あの小娘・・金城健太の知り合い・・・)
シュウがひとみを見つめて考えを巡らせる。
(金城健太にはあの娘の他にもう1人、ガルヴォルスの娘がそばにいたな・・)
シュウはさらにユキのことも思い出す。すると彼は不敵な笑みを浮かべた。
(2人がヤツの身近な人間なら、それがヤツの弱点か、それにつながる存在となる・・使えるぞ・・)
シュウが喜びを募らせて、きびすを返して歩き出す。
(アイツらを使えば・・思い知らせることができるかもしれないな・・・)
自分の野心を達成する流れを見出して、笑みを強めるシュウ。
(そのときこそ、オレの支配の大きな一歩となる!待ち遠しい・・待ち遠しいぞ!)
期待に胸を躍らせ、シュウが心の中で高笑いを上げる。健太を打倒するため、彼はひとみとユキに狙いを定めていた。
次回
「僕にできることは、何もないのかも・・・」
「オレと一緒に来てもらうぞ。」
「誰も、オレに逆らうことはできないのだ!」
「健太の支えになってるひとみちゃんを、あたしが守るよ。」
「ユキちゃん!」