ガルヴォルスX 第15話「真の強さ」
決意を強めた健太の体に変化が起きた。体から棘が生えて、力がこもっていた。
「健太の力が強くなった・・それでいて、健太らしさが変わっていない・・・」
ユキが健太の変化を目の当たりにして、戸惑いを感じていく。
「健太・・力をコントロールしてる・・・!」
健太が力を高めても自分を見失っていないと、ユキは確信していた。
「これ以上、おめぇを好きに暴れさせねぇぞ・・・!」
「どこまでも勝手を・・それがオレたちを苦しめる!」
目つきを鋭くする健太に、シャークガルヴォルスが憎悪をむき出しにする。彼が繰り出した拳を、健太も拳を出してぶつけ合う。
「ここまで押し付けがましくされたら、もうおめぇの考えとかなんか知ったことじゃねぇ!」
健太が言い放ち、シャークガルヴォルスの拳を押し込んでいく。
「オレはオレの道をひたすら進む!かわい子ちゃんやきれいなお姉さんを傷付けようとするヤツを、オレは許しはしねぇ!」
「そう言ってオレたちを陥れるのか・・お前たちはどこまでも!」
「いつまでもそう言ってろ!もうおめぇの言うことには耳を貸さねぇよ!」
怒号を放つシャークガルヴォルスに、健太が力を込める。シャークガルヴォルスが押し切られて、大きく突き飛ばされる。
「そんなに自分を押し付けてぇなら、力ずくにでもやってみせろ!」
「許さない・・この世界から消す!」
高らかに言い放つ健太に、シャークガルヴォルスの怒りが爆発する。彼が飛びかかり、健太に力任せに殴り掛かっていく。
「倒す!絶対に倒す!」
「この程度じゃオレは倒せねぇよ!さっきまでのほうが強くて痛くて、おっかなかったぐらいだぜ!」
怒号を放つシャークガルヴォルスに健太が不敵な笑みを見せる。彼が右手を握りしめて、シャークガルヴォルスの体に拳を叩き込む。
「ぐっ!」
体に衝撃が駆け巡り、シャークガルヴォルスが激痛に襲われる。強引に体を突き動かそうとした彼だが、思うように動けずに地面に膝をつく。
「おいおい、もう音を上げんのかよ!さっきのとんでもねぇ力と勢いを見せてみろよ!」
「コイツ・・コイツ!」
挑発してくる健太に、シャークガルヴォルスが怒りのままに飛びかかる。
健太はシャークガルヴォルスを見下しているのではない。彼に全力を出させようと、思い残すことのないようにしようとしていた。
(コイツには自分の力を最大限まで引き出させてブッ倒さねぇと意味がねぇ・・どうしても納得しやがらねぇからな・・・!)
健太がシャークガルヴォルスの力と心境を察して、本当の意味での勝利を考えていた。
「許さない・・絶対に許してはおかない!」
シャークガルヴォルスが絶叫を上げながら、健太に飛びかかっていった。
シャークガルヴォルスとの交戦での負傷の回復を図っていた士蓮。ほぼ回復したと感じた彼に向けて、通信が入った。
「私だ。攻撃を受けたが問題はない。もうすぐ完全回復するだろう。」
“無事でしたか・・よかったです・・・”
士蓮が説明して、通信相手の黒ずくめが安堵を口にする。
「それでどうした?何か動きがあったか?」
“あのサメのガルヴォルスが金城健太と交戦しています。”
問いかける士蓮に黒ずくめが状況を報告する。
“金城健太が強化を果たしています。サメのガルヴォルスを圧倒しています。”
「何?」
黒ずくめのさらなる報告に、士蓮が眉をひそめる。
「ヤツもさらなる強化に至ったか・・そちらへ向かう。監視を続けろ。」
“了解。”
黒ずくめに指示を出して、士蓮は通信を終えた。
(金城健太・・我々が思っていた以上に、常軌を逸した力を発揮しているようだ・・)
士蓮が健太の強さと成長に驚きを感じていく。
(まさか、ヤツも暴走をしているのではないのか・・それならばその報告がなされるはずだ・・)
士蓮が健太について考えを巡らせる。
(私も向かおう。事態を直接確かめる。)
士蓮は自分に言い聞かせてから、健太のところへ向かった。
憎悪のままに力を振るうシャークガルヴォルスの攻撃を、健太は力を込めて防いでいく。
「その調子だ・・もっとオレを押してみろよ!」
「いつまでもいい気になるな!おとなしく倒れろ!」
手招きしてくる健太に、シャークガルヴォルスがさらに殴り掛かる。健太が拳を腕で防いで、すかさず拳を繰り出す。
健太の打撃を受けたシャークガルヴォルスが押されて、足に力を入れて踏みとどまる。
「オレは・・オレはまだ倒れない・・世界の害虫を全て駆除するまでは・・・!」
シャークガルヴォルスは血反吐を噛みしめて、健太に向かっていく。体が悲鳴を上げていることも、シャークガルヴォルスははねのけていた。
「おめぇの勝手な考えの押し付けのために、かわい子ちゃんは傷つけさせない!」
健太が強気に言い放ち、シャークガルヴォルスに拳を叩き込んでいく。立て続けに攻撃を受けても、シャークガルヴォルスは踏みとどまっていく。
「健太はものすっごく強くなったけど・・・!」
「あの怪物もさらに強くなってる・・というより、健太がそうさせてる・・・!」
ユキとひとみが健太とシャークガルヴォルスを目の当たりにして息をのむ。
「全力を出し切ってぶつかり合ったほうがスッキリする・・それは分かるけど・・・!」
ひとみが健太の心境を察して、困惑を感じていく。
「このままじゃ、健太が無事じゃ・・・!」
「大丈夫だよ・・強くなってさらに無敵になった健太に、できないことなんてないよ・・!」
不安を口にするひとみに、ユキが健太への信頼を口にする。
「健太は勝つ・・そしてあたしたちの前に戻ってくる・・・」
「ユキちゃん・・・うん・・そうだね・・・!」
ユキの思いを聞いて戸惑いを感じて、ひとみは小さく頷いた。健太とシャークガルヴォルスが激しく拳をぶつけ合う。
攻撃のぶつけ合いで、健太もシャークガルヴォルスも体力を消耗していた。
「思った以上にしぶといな・・アイツの体力は底なしか・・・!?」
健太が呼吸を乱しながら毒づく。
「けど、それでもオレは倒れねぇぞ・・これからもかわい子ちゃんとの出会いが待ってるんだからなー!」
健太が独自の意気込みを見せて、シャークガルヴォルスに立ち向かっていった。
黒ずくめたちが監視する中、士蓮が健太とシャークガルヴォルスの交戦している場所に来た。
「隊長、両者は互角の戦いを続けています。それもお互い、高い戦闘力を発揮しています。」
黒ずくめの報告を聞いて、士蓮が健太とシャークガルヴォルスの動きを見据える。
「あのガルヴォルスは自らの怒りと憎しみに完全に振り回されているが、金城健太は自我を失ってはいない。」
士蓮が2人の様子をうかがっていく。
「では金城健太は、ガルヴォルスの中でも上位の力を発揮しながら、それを自分でコントロールしているというのですか・・・?」
「そうだ。ヤツはあのガルヴォルス以上の脅威となっている・・」
黒ずくめが投げかけた疑問に、士蓮が答える。
「ただ力が強ければいいというものではない。強い力とそれを制御する精神・・」
士蓮が健太を見て呟いていく。
「それが本当の強さというもの・・」
健太の戦いと意思を見据えて、士蓮は強さを実感していた。
「この調子ならば、あのガルヴォルスを倒すことも・・」
「その希望はある。だが、問題はその後だ・・」
黒ずくめが言いかけると、士蓮が危機感を見せる。
「単に力を見せつけるだけならやりやすかった・・ヤツは本物の強敵と化してしまったということか・・・」
力があり自我もある健太が1番の脅威になると、士蓮は痛感していた。
(ますます野放しにはできない。早く始末しなければならないようだ・・)
今の姿と力を見据えて、士蓮は健太を危険視するのだった。
消耗戦の中、意地を見せて立ち向かっていく健太。シャークガルヴォルスのほうが先に力を消耗させていた。
「いい加減に限界みてぇだな・・・!」
健太がシャークガルヴォルスを見据えて、不敵な笑みを見せる。
「オレは倒れない・・害虫を全て駆除するまでは・・・!」
「そうはいかねぇ・・これで、終わらせる・・・!」
立ち上がるシャークガルヴォルスに健太が言い放つ。彼は右手に力を込める。シャークガルヴォルスが飛びかかり、爪を振りかざす。
健太が力を込めて拳を繰り出す。シャークガルヴォルスの爪が、健太の頬をかすめた。
健太が出した拳はシャークガルヴォルスの体に命中し、その衝撃は彼の心臓に向けて駆け抜けていた。
打撃の衝撃が決定打となり、シャークガルヴォルスが吐血する。意識が揺さぶられた彼は、脱力して前のめりに倒れ込む。
「まだだ・・・オレは・・オレはまだ・・・!」
「もういいだろ・・全部を敵にして、それで何かいいことあるのかよ・・そこまで自分を押し付けたって、スッキリしねぇよ・・・」
諦めずに抗おうとするシャークガルヴォルスに、健太が歯がゆさを浮かべる。
「いい加減に休んでろ・・これだけやれば、イヤでもおめぇの気持ちは伝わってるから・・・」
「オレは・・・まだ・・倒れは・・しない・・・」
呼びかける健太に、シャークガルヴォルスが憎悪を口にする。
「おめぇの気持ちを理解しない・・理解しようとしないヤツは・・それこそ、人間じゃねぇよ・・・!」
悲しい目つきをした健太が呟いた直後、シャークガルヴォルスの体が崩壊を引き起こした。それが健太に致命傷を受けたからなのか、怒りと憎しみに突き動かされて限界以上に力を上げ過ぎたからなのかは、健太もシャークガルヴォルス自身も分からなかった。
「おめえぇがもうちっと自分を保ってたら、こんなことにはならなかったかもな・・・」
悲痛さと皮肉を口にして、健太が体を震わせる。
「健太・・・」
その場にたたずんでいる健太に、ユキが戸惑いを覚える。ひとみが困惑しながら、健太に近づいていく。
「健太、大丈夫!?・・体は、どこも悪くない・・・!?」
「ひとみ・・あぁ・・オレは平気だ・・」
ひとみが心配の声をかけてきて、健太が我に返って答える。
「健太、すごい力だったけど・・ホントに体のほうは・・・?」
「あぁ、平気だ。ここまで力を出せて、平気でいられるなんてな・・オレもすげぇってことだなー!」
ユキからも心配されて、健太が自信を覚えて上機嫌になる。
「もう、健太ってば・・心配したんだからねー!」
ひとみが健太に向かって文句を言い放つ。彼女の様子を見て、健太が気さくな笑みを見せる。
「ひとみはその調子でなくちゃな。ハハハ・・」
笑ってみせる健太に、ひとみはふくれっ面を浮かべていた。
そのとき、突然銃声が響き渡り、健太が体に激痛を覚える。飛び込んできた大量の弾丸に撃たれたのである。
「健太!」
体から血をあふれさせる健太に、ひとみとユキが悲鳴を上げる。強化されていた体によって弾丸の数発が弾かれたことで、健太は負傷を弱めることができた。
「健太、大丈夫!?健太!」
「オレは大丈夫だ・・ひとみとユキは危ねぇ・・離れてろ・・・!」
心配するひとみに呼びかける健太。
「一気に仕留めるつもりだったが、やはり予想を上回る力を手に入れていたか・・」
健太たちの前に、黒ずくめたちを引き連れた士蓮が現れた。
「おめぇら・・またこんなマネを・・・!」
健太が士蓮に振り向いて、鋭い視線を向ける。
「お前はガルヴォルスの中でも抜きに出る強さを得た。だがお前は我々に敵対の意思を示し、かつその強大な力を得ても自我を失わず、己の意思での行動を続けている。」
士蓮が健太たちに向けて、淡々と語りかけてくる。
「今のお前は我々にとっては危険極まりない存在となっている。早々に排除しなければならない。」
「相変わらず自分たちの思い通りにしようとする連中だぜ・・!」
排除を狙う士蓮に健太が毒づく。
「おとなしく金城健太の処分に協力しろ、と言っても、お前たちも聞き入れはしないだろう。お前たちもともに始末することになる。」
ひとみとユキにも矛先を向ける士蓮。
「冗談じゃないよ!あたしたちはあなたたちなんかにやられたりしないよ!」
「僕たちはもう、アンタたちの思い通りにはならないよ!」
ユキとひとみが士蓮に言い放つ。逆らおうとする彼女たちにも、士蓮はため息をつく。
「やはりガルヴォルスは討伐し、殲滅しなければならない。力を得たために感情のままに行動し、世界に混乱を起こす。それは我々が阻止しなければならない。」
「どこまでも寝ぼけたことぬかしやがって・・おめぇらのやり口のほうだろうが、みんなをムチャクチャにしてんのは!」
自分たちの意思を示す士蓮に、健太が声を張り上げる。
「オレはおめぇらの言いなりにはならねぇ!早く始末しなきゃなんねぇのはおめぇらのほうだ!」
「やはりお前も、己の赴くままに行動し、混乱を引き起こすガルヴォルスでしかなかったということか・・」
「オレたち以上に、おめぇらは人間じゃねぇ・・心のないただのバケモンだ!」
「もはや問答も言葉も無意味・・3人全員始末しろ。」
憤りを叫ぶ健太を軽蔑し、士蓮が黒ずくめたちに命令を下す。黒ずくめたちが一斉に銃を構える。
「どこまでも思い通りにしようとして・・・!」
健太が両手を握りしめて、力を振り絞って立ち上がる。
「お前があのガルヴォルスと戦い、体力を消耗しているのは分かっている。いくら格段に強化したと言えど、我々の攻撃をかいくぐるだけの力は残っていない。」
「だから勝手に決めんな・・オレの力も辿る位置も、オレが決める!」
冷淡に言いかける士蓮に健太が言い返す。
「もういい。全員始末だ。」
士蓮が命令を下し、黒ずくめたちが一斉に射撃を仕掛ける。
「健太!」
ユキが白いバラの花びらを舞い上がらせ、放たれた弾丸を遮断する。
「健太、今のうちに健太を・・!」
「ユキ・・・!」
ユキが健太に寄り添って、意識を集中する。彼女が触れている手から光があふれて、健太の体に伝わっていく。
「体が、楽になっていく・・痛みが消えていく・・・ユキ、これは・・・!」
健太はユキがかけているのが回復であることに気付いた。ユキの力によって、健太が全快した。
「力が戻った・・体力が・・・!」
「健太・・よかった・・・」
回復したことを実感する健太を見て、ユキが安堵を見せる。その直後、力を使った彼女がガルヴォルスから人の姿に戻る。
「ユキちゃん!」
ひとみが声を上げて、ユキに駆け寄って支える。
「ユキちゃん、大丈夫!?しっかりして!」
「大丈夫・・この回復の力は、あたしの体力を大きく消耗するから、何度もホイホイ使えなくてね・・・」
呼びかけるひとみにユキが微笑んで答える。
「いいぜ、ユキ・・1回やってもらえば十分だ・・・!」
健太が不敵な笑みを浮かべて、士蓮たちに振り返る。
「ひとみ、ユキを連れてここから離れろ・・ちょっと大暴れするからよ・・・!」
「健太・・・絶対に戻ってきてよね・・僕たちのところへ・・・!」
健太が呼びかけて、ひとみがユキを連れて離れていく。
「さぁ、かかってこいよ!お互い遠慮はなしだぜ!」
健太が言い放ち、士蓮たちに立ち向かっていった。
次回
「ガルヴォルスという存在は、いるだけで全てを狂わせる・・」
「オレはオレの生き方をする・・」
「おめぇのような生き方は絶対にしねぇ・・・!」
「どうあっても、オレを思い通りにはできねぇよ!」