ガルヴォルスX 第14話「強さの意味」
士蓮と交戦した後に意識を失った健太を、ひとみとユキは寮に連れて行った。健太の部屋に来た2人は、彼をベッドに寝かせた。
「ふぅ・・とりあえず落ち着いたかな・・」
ユキが危険が去ったと実感して、安堵を覚える。
「今の健太には悪いけど、目が覚めたらみんなに謝らせないと。こんなチャンス滅多にないんだから・・」
「ちょっと、ひとみちゃん・・こんなときに〜・・」
意気込みを見せるひとみに、ユキが困った顔を見せる。
「でも、ひとみちゃんらしさが戻ったかな・・」
ひとみの様子を見て、ユキは笑みをこぼした。
「ひとみちゃん・・健太のことは大丈夫?・・健太もあたしも、怪物なんだけど・・・」
ユキがひとみに心配の声をかける。するとひとみが首を横に振った。
「確かに怪物は怖いよ・・でも健太もユキちゃんも、体は怪物になるけど、心は今までと変わんない。人間のままって言うんだよね・・」
「ひとみちゃん・・・君は・・・」
「健太が健太のままなら、僕は怖がったり参ったりするわけにいかないからね。でないと健太がエッチやりたい放題になっちゃうから。」
戸惑いを募らせるユキに、ひとみが健太に対する決心を見せる。
「そうだよ。僕だって、負けてられないんだから・・」
「ひとみちゃん・・・」
頷きかけるひとみを見て、ユキも微笑んだ。
「健太はあたしたちが思ってるより早く起きそうだよ。だから見逃さないでね。」
「ユキちゃん・・・うん、そうだね・・・」
ユキの呼びかけに、ひとみが笑みを見せて頷いた。
シャークガルヴォルスの前に立ちふさがった士蓮。力を上げたシャークガルヴォルスに対し、士蓮は真っ向から立ち向かっていた。
力ではシャークガルヴォルスのほうがわずかに上回っていた。しかし士蓮は彼のその力をうまく空回りさせていた。
「単純に力を強くすれば勝てるのならば、私もそうしている。だが戦いは単純ではない。」
角を振りかざすシャークガルヴォルスに、士蓮が拳を叩き込む。
「ぐっ!」
シャークガルヴォルスが顔を歪めてうめく。
「どれほど力を強めようと、それを有効活用できなければ勝機はない。」
「オレは負けるわけにはいかない・・負ければ、オレはオレでなくなる・・・!」
言葉を投げかける士蓮に、シャークガルヴォルスが声を振り絞って言い返す。
「負ければ全てが終わることを自覚しているか。だが・・」
士蓮は言葉を返して、体から針を飛ばす。針がシャークガルヴォルスの肩に突き刺さる。
「憎悪や信念だけで倒せるほど、私は弱くはない。」
激痛に襲われて倒れるシャークガルヴォルスに、士蓮が鋭い視線を投げかける。
「観念しろ。そうすれば命を落とすことはない。」
士蓮がシャークガルヴォルスに向けて忠告を送る。しかしシャークガルヴォルスは憎悪を募らせていた。
「許しはしない・・絶対に許さない!」
シャークガルヴォルスがさらに怒りを増す。彼の体がさらに刺々しいものになった。
「もはや本物の怪物と化してしまったようだ。その怒りと憎しみは心ある人間が根源となっているが、その己の憎悪が己の心を壊してしまった・・」
シャークガルヴォルスの姿を目の当たりにして、士蓮が皮肉を口にする。
「ならばなおさら、我々が始末しなければならない。」
士蓮が両手を強く握りしめて、渾身の力を込めて拳を繰り出した。彼の打撃はシャークガルヴォルスに命中した。
だがシャークガルヴォルスは押されずに攻め込んできた。
「何っ!?」
攻撃が通じなかったことに驚愕を覚える士蓮。シャークガルヴォルスの突撃に押されて、彼が横転する。
(的確な位置への攻撃を仕掛けた・・にもかかわらず、ものともせずに押し込んできた・・・!)
さらに増したシャークガルヴォルスの力に、士蓮も驚きを隠せなくなっていた。
(このままヤツとの戦いを続けるのは周囲の被害を広げることになる。河川と地下に叩き落とすしかない。)
思考を巡らせた士蓮が近くの川に向かって走り出した。
「逃げるな!」
シャークガルヴォルスが士蓮を追って駆け出す。川の上に飛び出したところで、士蓮がシャークガルヴォルスに追いつかれる。
シャークガルヴォルスが振り下ろした拳が、士蓮の右腕に命中する。士蓮が下の川に叩きつけられ、シャークガルヴォルスもすぐに川に落ちた。
殴られた腕を押さえて、士蓮は横の水道に入る。シャークガルヴォルスも彼を追って水道に入るが、そこで見失ってしまう。
「どこだ・・出てこい!」
水から出て地下水道に来たシャークガルヴォルスが怒号を放つ。彼は地下水道の壁や天井を、見境なしに殴りつけていった。
シャークガルヴォルスの暴走で揺れる地下水道。その振動を感じて、士蓮は毒づいていた。
(負傷を負傷だと認識したのは久しぶりだな・・それほどの力とダメージということか・・・)
シャークガルヴォルスの高まる強さに、士蓮は危機感を感じるようになっていた。
(今のヤツの言動は単純だ・・単純故に力の伸びが強いということか・・・)
皮肉も感じていく士蓮が、肩の力を抜いて人の姿に戻る。
「少し回復しなければ戦えないか・・すぐに出れば気付かれる。遠くの出口を使うしかない。」
士蓮はシャークガルヴォルスから離れて、地下からの脱出を行った。
健太の目が覚めるのを待っていたひとみとユキだったが、突然健太が姿を消していた。
「あ、あれ!?健太、どこに行ったの!?」
ユキがベッドの中や周りだけでなく、部屋の中全体も探し回っていく。しかし健太の影も形も見当たらなかった。
「忘れてた・・健太、派手に動き回ることが多いけど、こっそり移動するのも得意だった・・」
ひとみが健太のことを思い出して頭を抱えている。
「もう絶対に外に出てるよ・・またハレンチなことをしてるか・・・」
「あの士蓮って人か、あの凶暴なガルヴォルスと戦っているか・・・」
ひとみとユキが健太の行動について口にしていく。
「あの怪物・・ますます強く怖くなっているあの怪物・・いくら健太でも勝てる見込みも方法も・・・」
「そんなものがないと思い知らされても、健太は諦めることはしない・・それが健太だから・・」
不安を浮かべるひとみに、ユキが健太への信頼を寄せていく。
「健太だから・・健太らしく・・健太らしいのは、ハレンチな健太・・・」
ひとみが健太に対して違う不安を感じていく。
「健太がまたおかしなことをしないうちに・・・」
「ひ、ひとみちゃん・・・!?」
健太への警戒を見せるひとみに、ユキが苦笑いを見せる。
「アイツのエッチな行動がみんなの迷惑になってる・・だから僕はアンタを追いかける・・・!」
「ひとみちゃんってば〜・・・」
「どんなことになったって、健太が何かやらかしたら、すぐに捕まえに行くからね・・!」
健太を諦めずに追いかけようとするひとみに、ユキはただただ苦笑いを見せるだけだった。
「ここでしゃべってる場合じゃないよ!健太を連れ戻さないと・・・!」
「ち、ちょっと、ひとみちゃん!待って〜!」
部屋を飛び出したひとみと、彼女を追って駆け出したユキ。2人は健太を探しに外へ出たのだった。
ひとみとユキの目を盗んで、健太は外に出ていた。彼は自由を感じて、深呼吸して両腕を空に向けて伸ばす。
「これでまた自由の身だな。ひとみには油断ならねぇからなぁ・・」
健太が安堵して肩を落とす。気のない態度を見せていた彼だが、落ち着いて真剣な面持ちを浮かべた。
(さてと・・オレも何とかして強くなんねぇとな・・このままじゃ士蓮にもあのサメヤローにも勝ち目がねぇ・・)
士蓮やシャークガルヴォルスを思い出して、健太が危機感を感じていく。彼自身、彼らの脅威と力の差を痛感していた。
(だからって、サメヤローみたいに怒りや感情に任せて力を暴走されるのもよくねぇ・・強い力のコントロールも、できるようにならねぇと・・)
本当の意味で強くなろうと、健太は思考を巡らせていく。
(オレはここまでガルヴォルスや士蓮たちと戦ってきて、それでも見境を失くすようなことはなかった・・この調子で力を上げていきゃいいだけなんじゃないのか・・・!?)
成長の糸口を見出しつつある健太が、笑みを浮かべていく。
(オレはアイツらとは違う・・オレはオレなんだからな!)
心の中で意気込みを見せてから、健太は軽い足取りで歩いていく。なるようになるのが彼の出した結論だった。
健太を探しにひとみとユキも外に出ていた。シャークガルヴォルスの暴動により、周辺は騒然となっていた。
「すっかり騒ぎになっちゃってるね、どこも・・」
「これじゃもう隠し通すなんてムチャだよ・・あたしはあたしらしくするから、そんなに気にしたりはしないけど・・」
ひとみとユキが周りの様子を見て声を上げる。
「ひとみちゃんが信じてくれたのはすっごく嬉しいよ。健太だって感謝してる・・でもみんながひとみちゃんみたいに信じてくれる人ばかりじゃない・・」
真剣な面持ちで言いかけるユキの言葉に、ひとみが戸惑いを感じていく。
「ガルヴォルスのことを知って、みんなはどう思うんだろう・・・」
「ユキちゃん・・・健太・・・」
ユキのつぶやきを聞いて、ひとみも不安を膨らませていく。
「とにかく今は健太を探さないとね。連れ戻さないといけないんだよね♪」
「ユキちゃん・・うん・・」
ユキに呼びかけられて、ひとみは小さく頷いた。
そのとき、ユキが突然緊張を覚えて顔をこわばらせる。
「ユキちゃん・・もしかして、近くに怪物が・・・!?」
ひとみが声をかけて、ユキが小さく頷く。
「この感じは・・あのサメのガルヴォルス・・・!」
ユキが呟いて振り返ったときだった。その先のマンホールのふたが上に跳ね上げられた。
「危ない!」
ユキが慌ててひとみに飛びついて離れる。2人がいた場所にマンホールのふたが落ちてきた。
その直後、マンホールからシャークガルヴォルスから飛び出してきた。
「あ、あのガルヴォルス・・・!」
「こんなときに出てくるなんて・・・!」
ユキとひとみがシャークガルヴォルスを目の当たりにして、緊迫を募らせる。
「お前はあのときの・・・」
シャークガルヴォルスがユキを見て記憶を思い起こす。
「お前もオレの邪魔をする敵・・敵は、倒す!」
激高したシャークガルヴォルスが、ユキを狙って飛びかかる。
「ひとみちゃん!」
ユキがとっさにローズガルヴォルスとなり、白いバラの花びらを放ちながら、ひとみを抱えてシャークガルヴォルスから離れる。
「逃げるな!」
シャークガルヴォルスが怒号を放ち、体から衝撃波を放って花びらを吹き飛ばす。彼は一気にスピードを上げて、ユキに飛びかかる。
「うっ!」
シャークガルヴォルスが繰り出した拳が、ユキの左腕に命中した。激痛を覚えたユキが体勢を崩して、ひとみを抱えたまま落下する。
「ユキちゃん!」
悲鳴を上げるひとみの前で、ユキが殴られた腕を押さえて、痛みにうめく。
「ユキちゃん、しっかりして!ユキちゃん!」
「ひとみちゃん・・あたしは大丈夫だよ・・またつかまってて・・ここから逃げるから・・・!」
呼びかけるひとみにユキが微笑みかける。
「でもユキちゃん、その体じゃ・・・!」
「このままじゃひとみちゃんまでやられちゃう・・そんなの絶対ダメだから・・・!」
心配するひとみにユキがさらに言いかける。
「逃げるな・・ここで叩き潰す!」
シャークガルヴォルスが怒号を放ち、ひとみとユキに迫る。
「ひとみちゃん、逃げるよ!」
ユキが声と力を振り絞り、ひとみを抱えて逃げ出す。だが負傷していたユキは、すぐにシャークガルヴォルスに回り込まれてしまう。
「逃がさない・・世界を狂わせる害虫も、それに味方するヤツも、オレが叩き潰す・・・!」
ユキに向けて鋭く睨みつけてくる。するとひとみが前に出てきて、不満をあらわにしてきた。
「いい加減にして・・僕とユキちゃんがあなたに何をしたっていうんだよ・・・!?」
ひとみがシャークガルヴォルスに向けて叫ぶ。ガルヴォルスを怖がっていたひとみがガルヴォルスと対峙していたことに、ユキは戸惑いを感じていた。
「僕はただ健太を連れ戻したいだけ・・あなたには何もしてないし、何も悪いことをしようとも思ってない・・だからもう、僕たちに何もしないで!」
「ひとみちゃん、ダメ!刺激したらダメだよ!」
自分の気持ちを呼びかけるひとみを、ユキが慌てて呼び止める。しかしひとみは引き下がらない。
「あなたや世の中や世界に何を不満になっているのが、僕には分かんない・・でもそれで関係ない人を巻き込んだら、ただの悪いことになるよ!」
「自分たちの罪を棚に上げて、そんなふざけたことを・・・!」
ひとみの言葉にいら立ちを感じていくシャークガルヴォルス。
「やはり敵は叩きつぶさなければならない!」
「そんなに・・そんなに人殺しになりたいわけ!?」
拳を振りかざすシャークガルヴォルスに、ひとみは引かずに言い放つ。それでもシャークガルヴォルスは拳を止めない。
そのとき、シャークガルヴォルスが横から突き飛ばされる。ひとみはシャークガルヴォルスの打撃を受けることなく、後ろに動いてしりもちをつく。
「コイツとユキの気配を感じて・・心配になって正解だったみてぇだ・・」
ひとみの前にあらわれたのは、シャドーガルヴォルスとなった健太だった。彼が奇襲を仕掛けて、シャークガルヴォルスを突き飛ばしてひとみを助けたのである。
「健太・・来てくれたんだね・・・」
ユキが健太に安堵の笑みをこぼすと、脱力してその場に座り込む。
「また出てきて、オレの邪魔をしに来たのか・・・!?」
「何にもしてねぇひとみにまで手を挙げようとして・・すっかり見境を失くしやがって・・・」
鋭く睨みつけてくるシャークガルヴォルスに、健太も鋭い視線を向ける。
「敵を滅ぼす・・そうしなければ世界は正しくならない・・・!」
「敵って、誰だよ・・ホントの敵ってヤツ以外にも、勝手に敵を作ってんじゃねぇ!逆に迷惑だ!」
声を振り絞るシャークガルヴォルスに、健太が不満の声を上げる。
「自分のしていることを棚に上げて・・!」
「上げてるのはお前だ!」
シャークガルヴォルスに健太が言い返す。
「オレは意味なく傷つけるようなマネはしねぇ・・ムチャクチャなことをしてくるヤツにも容赦しねぇ・・・!」
「どこまでも・・どこまでも勝手な・・・!」
自分の意思を口にする健太に、シャークガルヴォルスがいら立ちを募らせる。
「周りがどうしようと、オレをどう思おうが関係ねぇ・・オレはオレの思うようにやる・・・!」
健太が感情を高ぶらせて、声と力を振り絞る。
「そうだ・・これがオレのやり方だ!」
シャークガルヴォルスに向けて、揺るぎない意思を叫ぶ健太。
そのとき、健太の体に力が込められた。肘、肩、背中からそれぞれ棘が生えてきた。
「さぁ、おめぇの暴挙を止めてやるぜ!」
健太が不敵な笑みを見せて、シャークガルヴォルスに向かって飛びかかった。
次回予告
「強い力とそれを制御する精神・・」
「それが本当の強さというもの・・」
「ヤツは本物の強敵と化してしまったということか・・・」
「これで、終わらせる・・・!」