ガルヴォルスX 第13話「破壊者たち」
タイタンガルヴォルスとなって、士蓮が健太に向かって飛びかかる。
「ひとみちゃん!」
ユキもローズガルヴォルスとなり、ひとみを抱えて離れる。士蓮が繰り出してきた拳を、健太は横に動いてかわす。
健太が反撃に出て、士蓮の体に拳を叩き込む。彼の一撃は命中したが、士蓮の体はびくともしない。
「なっ!?」
「その程度の力で私は屈することはない。」
攻撃が通じなかったことに驚愕する健太に、士蓮が落ち着いたまま言いかける。士蓮が右足を振り上げ、膝蹴りを健太に叩き込む。
「うっ!」
重みのある衝撃が体を駆け巡り、健太がうめいて悶絶する。
「健太!」
倒れている健太にひとみが悲鳴を上げる。健太が痛みに耐えて、力を振り絞って立ち上がる。
「どのような逆境にも逆らい、己を貫こうとする意思は称賛する。だがこの力の差は埋めようがない。」
士蓮は健太に告げると、再び足を振り上げてきた。健太がとっさに転がって蹴りをかわす。
だが士蓮はすぐに詰め寄り、健太の体に蹴りを叩き込んできた。
「ぐふっ!」
さらに体に激痛が駆け巡り、健太がうめく。
「ひとみちゃんは離れてて・・危ないから・・・!」
「ユキちゃん・・・」
ユキが呼びかけて、ひとみが戸惑いを浮かべる。ユキが士蓮に向けて、白いバラの花びらを放つ。
「健太、今のうちに離れて!」
「甘い。」
ユキが健太に呼びかけたとき、士蓮が全身に力を入れた。彼の体から衝撃が放たれて、周りを待っていた花びらを吹き飛ばした。
「そんな!?」
驚愕の声を上げるユキに向けて、士蓮が体から針を飛ばす。ユキがとっさに花びらを放って、針を防ごうとする。
「うっ!」
しかし針の勢いを止められず、ユキが左肩を針に刺される。
「ユキちゃん!」
ひとみが悲鳴を上げて、倒れたユキに駆け寄る。針を抜いたユキが痛みを感じて顔を歪める。
「その程度で苦しみ動けなくなるとは、実に生半可だな。」
士蓮が表情を変えずに、ユキと健太を嘲る。
「私は力に奢ることなく、常に鍛錬を続け、過酷な環境に身を置き続けてきた。もっとも、ガルヴォルスを敵視し、己がガルヴォルスであることを恥と思っているのが大きいが・・」
士蓮が自信と力を健太たちに示す。
「そんなことで強くなったっていうのかよ・・オレだってガルヴォルスになってから、もっともーっと修羅場を潜り抜けてきてんだ!」
「それで修羅場か。片腹痛い。」
声を振り絞る健太を士蓮は再び嘲笑する。
「お前たちと我々では、くぐった死線が圧倒的に違う。感情や意思で埋められるような差などではない。」
「勝手なことぬかしやがって・・オレの力を勝手に決めんな!」
「お前は口で言っても理解しない馬鹿者だったな。だがこの力の差、身を以て理解する他はない。」
抵抗の意思を見せる健太に肩を落とすと、士蓮が飛びかかり拳を振りかざす。
「ぐっ!」
健太が顔面を殴られて、大きく突き飛ばされる。さらなる激痛に健太が思わずうずくまる。
「最後に1度だけ問う。我々の指示に従え。そうすればお前とお前の隣人の安全は保障しよう。」
士蓮が健太に歩み寄り、忠告を投げかけた。健太は痛みに咳き込んでから、士蓮に目を向けて声を張り上げる。
「どこまでもバカなことぬかしてんじゃねぇよ・・おめぇみてぇなヤツに何もかも思い通りにされるぐらいなら、バラバラになっちまったほうがマシなんだよ・・・!」
「やはり強情だな・・だがその強情が命取りとなる。」
起き上がろうとする健太に肩を落とすと、士蓮が針を飛ばした。針は健太の体に鋭く突き刺さった。
「健太!」
針に刺されて突っ伏した健太に、ひとみとユキが叫ぶ。
「これで、金城健太の道は完全に閉ざされた・・」
「健太・・・健太!」
士蓮が呟いて振り返り、ひとみが健太に悲痛の叫びをあげた。
警察への憎悪を抱えたシャークガルヴォルス。彼はついに警視庁にまで足を踏み入れた。
「バ、バケモノ!?」
「ここまで乗り込んできたっていうのか・・!?」
「各省庁、各部隊に連絡を!我々はすぐに迎撃態勢を!」
警察がシャークガルヴォルスに対して慌ただしく行動していく。前進するシャークガルヴォルスに、警察が銃を構える。
「止まれ!すぐに外へ出るんだ!」
「破壊行為に出るなら、即座に撃つ!」
警察が忠告を送るが、それはシャークガルヴォルスの憎悪の逆撫でにしかならなかった。
「害虫はどこまでも害虫だ・・自分のしていることが正しいのだと思い込んで疑わない・・・!」
シャークガルヴォルスが目つきを鋭くして飛びかかる。
「う、撃て!」
刑事たちがとっさに銃を手にして発砲するが、シャークガルヴォルスには通じない。
「なっ!?ぐあっ!」
驚愕する刑事たちが、シャークガルヴォルスの爪に切り裂かれる。
「下がれ!ヤツを外に出すんだ!」
警察が警視庁から出て、シャークガルヴォルスを外におびき出そうとする。その途中でも刑事の数人が、シャークガルヴォルスに追いつかれて切りつけられる。
「部隊、所定位置にて迎撃準備完了とのことです!」
刑事たちが声を掛け合って、迎撃態勢が敷かれた場所に向かう。シャークガルヴォルスが彼らを追って、人気のない通りに行き着いた。
そこには自衛隊が射撃の体勢を整えて待ち構えていた。
「目標を捉えました!」
「怪物撃破のため、一斉射撃を開始する!」
隊員が声をかけて、部隊の隊長が命令を下す。隊員たちがシャークガルヴォルスに向けて、銃を発砲する。
警察が扱う銃よりも威力の高い射撃が、シャークガルヴォルスに命中する。それでもシャークガルヴォルスは怯まない。
「バカな・・これでも平気だというのか・・・!?」
「あの勢いと強靭さ・・戦車や核弾頭を用いなければ・・・!」
「何を言う!?この国を戦場にするつもりか!?」
シャークガルヴォルスの強大な力を目の当たりにして、隊員たちが愕然となる。
「怯むな!攻撃を続けろ!」
隊長が指示を出し、隊員たちが再び銃撃を仕掛ける。だがシャークガルヴォルスに突撃されて、隊員たちが爪と角で切りつけられていく。
「おのれ・・このようなバケモノに、我々が負けるわけにいかん!」
隊員たちをも次々に手にかけるシャークガルヴォルスに、隊長が憤りをあらわにする。
「叩きつぶす・・みんな叩きつぶす!」
怒号を放つシャークガルヴォルスに、自衛隊も歯が立たずに撤退を余儀なくされた。
士蓮の攻撃で負傷し、動かなくなった健太。倒れた彼から、士蓮はひとみとユキに振り返る。
「金城健太はその強情さゆえに倒れた。それを考慮しても、お前たちは逆らうべきでないことは理解できたはずだが・・」
士蓮がひとみたちに忠告を送る。ひとみは倒れている健太を見て、困惑を募らせる。
「健太はそんなことでやられたりしないよ!だって健太なんだから!」
ユキが前に出てきて、士蓮に言い放つ。彼女の言葉に士蓮が肩を落とす。
「根拠のない理屈だな。私の攻撃はヤツに命中している。それでまだ生きていたとしても、戦える状態でないのは確実。」
「あなたは健太のことを全然分かってない!健太はどんなことがあっても、絶対に諦めたり言いなりになったりしないんだよ!」
「そう思い込もうとしてもムダだ。これが現実だ。現実は否定しようがない。」
「だったら、思い込んでるのはあなたのほうだよ!」
士蓮が投げかける言葉をユキが否定したときだった。
突然、士蓮が背中に衝撃を覚えて、顔を歪める。倒れていた健太が、士蓮を後ろから殴りつけてきた。
「何っ!?」
驚愕を覚える士蓮がとっさに健太から離れる。息を乱していたが、健太は立っていた。
「バカな!?お前は私の攻撃で・・!?」
「攻撃って、この針のことか!?・・それならギリギリで受け止めてやったぜ・・・!」
声を荒げる士蓮に健太が不敵な笑みを見せる。彼の左手には、士蓮が飛ばした針が握られていた。
「それでも圧力がすごかったから、起き上がるのに時間がかかっちまった・・・!」
「健太・・無事だったんだね・・・!」
笑みをこぼす健太に、ひとみが安心を覚える。
「私はまだ、お前のことを侮っていたようだ・・だが次はそうはいかない。」
針を捨てた健太に、士蓮が鋭い視線を向ける。
「今度は確実に息を止めて、それを確かめる。」
「今度はやられるなんてこともねぇ!オレがアンタにもっと重い一撃を叩き込んでやるよ!」
平静を取り戻した士蓮に、健太が強気に言い放つ。彼は士蓮に向かって真正面から飛びかかる。
「猪突猛進で私をどうにかできると思うとは、単純な・・」
士蓮が健太の動きを見据えて、足を振り上げようとした。すると健太がジャンプして、士蓮の膝蹴りをかわした。
「ぐっ!」
その勢いで繰り出した健太の蹴りを、士蓮は顔面に受ける。押された士蓮が後ずさりして踏みとどまる。
「本能の赴くまま・・野性的だ。それだけのこと。」
「まだまだこれからだぜ!油断してるとあっという間におしまいになるぞ!」
呆れる素振りを見せる士蓮に、健太が強気に言い放つ。しかし士蓮は動じない。
「なかなか感情を見せてこねぇ・・つーか、オレたちを完璧に見下してきてる・・」
健太が士蓮への不満を口にしていく。
「オレやかわい子ちゃんを弄ぶ、その態度の考え方が気に入らねぇ!」
彼はいきり立ち、士蓮に向かって拳を繰り出す。
「やはりお前は猪突猛進だな・・」
士蓮が健太を迎え撃とうと、右手を握りしめる。
そのとき、士蓮の周りを、ユキの放ったバラの吹雪が舞ってきた。
「健太をこれ以上傷つけさせないよ!」
「オレは正々堂々をするつもりなんてねぇよ!」
言い放つユキと、不敵な笑みを見せる健太。一瞬の怯みを見せた士蓮の体に、健太が拳を叩き込んだ。
「ぐっ!」
重みのある一撃を受けて、士蓮が吹き飛ばされる。空中で体勢を整えて着地した彼だが、ふらついてその場に膝をつく。
「くっ・・思った以上にダメージが大きかったか・・・!」
殴られた体を押さえて、士蓮がうめく。
「春日野ユキの助力もあるが、この間もない時間に力を上げたというのか・・金城健太・・何度も驚かされる・・・」
体勢を立て直した士蓮に、健太が歩を近づける。
「もうこれ以上、好き勝手なマネができねぇように、思い知らせてやるよ!」
健太が士蓮に向けて再び拳を振りかざす。士蓮がとっさに後ろに飛んで、健太との距離を取る。
「お前たちも野放しにするわけにはいかないが、ここで命を失うのは愚かしい。引く以外にないようだ・・」
「おい、コラ!ここまでやっておいて逃げるのかよ!?」
健太の文句も聞かず、士蓮は彼らの前から姿を消した。
「くっ・・逃げられたか・・・」
士蓮の逃亡に健太が愚痴をこぼした。そのとき、彼は突然ふらついて倒れていく。
「健太!?」
ひとみとユキが慌てて健太に駆け寄る。健太は意識を失い、ガルヴォルスから人の姿に戻っていた。
「健太、しっかりして!健太!」
ユキが呼びかけるが、健太は意識を取り戻さない。
(健太・・本当に人間らしくしてたのは、健太のほう・・・)
健太の戦う姿を目の当たりにして、ひとみは戸惑いを感じていた。
「健太、しっかりしなさい!ちゃんとみんなに謝ってもらうんだから!」
ひとみが健太につかみかかり、ゆすって怒鳴りかかる。
「わわわわ・・ひ、ひとみちゃん、そんなにしたら逆に健太が〜・・!」
「大丈夫!健太ならこのぐらいで参ることはないよ!だっていつもハレンチなことをして逃げ回ってる健太なんだから!」
動揺を見せるユキに答えて、ひとみがさらに健太を揺する。
「と、とりあえず寮に戻ろう!こんな外の真ん中じゃ騒ぎになっちゃうって・・!」
「あっ・・そ、そうだったね・・アハハ・・・」
ユキに呼びかけられて、ひとみが我に返って照れ笑いを見せる。2人は健太を抱えて寮に戻っていった。
健太とユキの攻撃からやむなく撤退した士蓮。人の姿に戻った彼は、呼吸を整えていた。
「2人がかりとはいえ、まさか私を脅かすほどにまで力を上げてくるとは・・・」
健太に脅威を感じて、士蓮が毒づく。そこへ黒ずくめからの連絡が入った。
「どうした?」
“サメのガルヴォルスが警視庁に突入。殺害を繰り返し、自衛隊をも殲滅させました。”
応答する士蓮に黒ずくめが報告する。
「ヤツがここまで公に行動を起こしてきたか・・報道規制を徹底させろ。余計な混乱を呼び込むわけにはいかない。」
“それは既に行っていますが、大きく動き回っている以上、どこまで持たせられるか・・”
「すぐに私が行く。私がヤツを仕留める。それまでヤツの行動を監視。細大漏らさず情報を集めろ。ただし深追いするな。いつでも引けるようにしなければ、命はない。」
“了解。”
黒ずくめへの指示を出して、連絡を終える士蓮。
(見過ごすわけにはいかない。ガルヴォルスの暴挙を。ヤツらを全て葬るために、私は同じ力を使っているのだ。)
自分の決心を思い返す士蓮。束の間の休息を終えた彼は、シャークガルヴォルスを追って動き出した。
自衛隊を退けたシャークガルヴォルスは、憎悪をさらにふくらませて移動していた。
「これで、害虫どもの中枢は叩いた・・残りも必ず・・・!」
次の敵を求めて歩き続けるシャークガルヴォルス。その最中、彼は気配を感じて足を止める。
「誰かいる・・あの男とは違う・・・」
シャークガルヴォルスが辺りに視線を巡らせる。
「派手に暴れ回ったようだな。さすがに隠ぺいに手を焼かされたぞ。」
シャークガルヴォルスの前に士蓮が現れた。
「お前もオレの邪魔をするのか・・・!?」
「お前のように独自の考えで暴挙を働く者は見過ごすわけにはいかない。世界を狂わせることになる。」
鋭い視線を向けるシャークガルヴォルスに、士蓮は表情を変えることなく言いかける。
「世界を狂わせているのは、好き勝手にルールを押し付けている害虫ども・・・お前もその1人なのか・・・!?」
シャークガルヴォルスが士蓮に向かって飛びかかる。彼が繰り出した拳を、士蓮は横に動いてかわす。
「押し付けているのは、お前としか思えないが・・」
シャークガルヴォルスに苦言を呈すると、士蓮はタイタンガルヴォルスとなる。
「これ以上貴様を暴走させるわけにはいかない。ここで排除する。」
「お前も・・オレたちを陥れる害虫なのか!?」
目つきを鋭くする士蓮に、シャークガルヴォルスが怒号を放つ。彼が士蓮に向けて爪を振りかざす。
爪が届く直前で、士蓮がシャークガルヴォルスの腕をつかんだ。
「金城健太以上に猪突猛進だな。力押しで勝てるほど、私は甘くない。」
士蓮は低く告げると、シャークガルヴォルスに拳を叩き込む。シャークガルヴォルスが衝撃に襲われて、大きく押される。
「おとなしくしてこちらの指示に従え。そうすれば命は保障する。それだけの力、ムダに消すのは惜しい。」
「そうやってオレたちを思い通りにする・・それが世界を狂わせる!」
警告を促す士蓮に対して、シャークガルヴォルスの怒りが頂点に達する。彼の体が刺々しいものへと変貌していく。
「これが、ガルヴォルスのさらなる進化というものか・・」
激高するシャークガルヴォルスを目の当たりにして、士蓮が構えを取る。
「それでも我々は、ガルヴォルスを野放しにするわけにはいかない・・・」
揺るぎない意思を胸に秘めて、士蓮はシャークガルヴォルスに挑んだ。
次回
「どんなことになったって、健太が何かやらかしたら、すぐに捕まえに行くからね・・!」
「憎悪や信念だけで倒せるほど、私は弱くはない。」
「許しはしない・・絶対に許さない!」
「オレはオレの思うようにやる・・・!」
「これがオレのやり方だ!」